説明

液体吐出装置

【課題】流路内の液体の温度をより正確かつ追従性良く検出する。
【解決手段】液体を吐出するための吐出口を備えた液体吐出装置であって、少なくとも一部が金属からなっている、吐出口に液体を導くための流路と、上記金属の温度を非接触型のセンサーにより検出する温度検出部と、を備える構成としたことにより、従来の構成と比較して、ノイズを排除して流路内の液体温度を高い精度で且つ追従性良く検出することができる。さらに、複数の上記流路が並ぶ方向に略沿って上記センサーを移動させるセンサー移動部を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録式ヘッド(以下、ヘッド)を搭載したプリンターが知られている。近年、プリンターの分野では、より高速な印刷が求められている。ヘッドにおいては、インクの流路の吐出口からの単位時間当たりのインク吐出回数が増加するに連れて吐出口周辺やインクの温度が上昇する。そのため、高速印刷はこのような温度上昇の大きな要因となる。このような温度上昇は、インクの特性(粘度等)変化、吐出精度の低下、部品の劣化あるいは損傷等につながり、印刷品質の向上に対する妨げとなり得る。従って、高速印刷が望まれる状況においては、温度に応じたインク吐出制御の重要性がより増している。
【0003】
関連技術として、ヘッドの温度不均一を解消し、圧電材料の隔壁で隔てられた複数のインク吐出チャンネル毎にインク吐出頻度が異なる場合でも、各チャンネル内のインク温度がほぼ一定となるようにチャンネルを駆動するために、ヘッドの中央部および端部に位置する各チャンネルの温度を計測するインクジェットヘッド駆動方法が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002‐337335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記インク吐出制御を行なおうとする場合、インク温度をできるだけ正確に把握しなければ、その時点での状況(温度)に応じた最適な制御を行なうことができない。
従来は、インク温度を検出するための構成として、図7に示す構成が採用されていた。図7は、従来のヘッドの内部構成の一部断面図であって、一つの吐出口12周辺の構成を示している。図7に示すように、ヘッド内には、吐出口12に液体(インク)を導くための流路10が形成されている。流路10の壁11は樹脂製である。流路10内には、図示しないインクカートリッジから供給されるインクが充填される。また、流路10の所定箇所には、圧電素子13が設けられている。圧電素子13は、駆動電圧が印加されることにより変形する。当該変形に伴って、流路10内のインクの一部が吐出口12から吐出される。ヘッドは、ヘッド基板14を有しており、ヘッド基板14が圧電素子13に対して駆動電圧を与える。
【0006】
また、壁11の外面の所定位置とヘッド基板14との間には、接触型の温度センサーとしてのサーミスター15が取り付けられている。このようなサーミスター15を用いた温度検出では、流路10内のインクから壁11(樹脂)を介して伝わる熱を計測するため、流路10内のインクの温度変化を即座に捉えることが難しい(インクの温度変化に対する追従性が低い)。また、サーミスター15自体や壁11(樹脂)の温度がノイズとなり得るため、インク温度を正確に検出することが難しい。また、接触型の温度センサーであるため、サーミスター15が接触している箇所の温度しか検出できず、例えば、複数の流路10に対する計測など広域に対する計測には不向きである。
【0007】
本発明は上記課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、流路内の液体の温度をより正確かつ追従性良く検出することが可能な液体吐出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様の一つは、液体を吐出するための吐出口を備えた液体吐出装置であって、少なくとも一部が金属からなっている、吐出口に液体を導くための流路と、上記金属の温度を非接触型のセンサーにより検出する温度検出部と、を備える構成としてある。
【0009】
当該構成によれば、液体の流路の少なくとも一部を熱伝導性に優れた金属とし、この金属の温度を非接触型のセンサーにて計測する。そのため、流路内の液体の温度を、高い精度で且つ追従性良く検出することができる。
【0010】
本発明の態様の一つは、液体吐出装置は、複数の上記流路が並ぶ方向に略沿って上記センサーを移動させるセンサー移動部を備える構成としてある。本発明では、センサーは非接触型であるため、その位置を各流路に対して可変にすることが容易である。センサー移動部によりセンサーを移動させることで、一つのセンサーで複数の流路を対象として液体の温度検出を行なうことができる。
【0011】
本発明の態様の一つは、液体吐出装置は、上記流路の所定箇所に設けられて、駆動電圧を印加されることにより変形して流路内の液体を吐出口から吐出させる圧電素子を備え、上記流路は、上記圧電素子よりも吐出口側の所定部位を上記金属で構成する。当該構成によれば、吐出口に極めて近い位置を上記金属で構成したことで、吐出直前の液体の温度を正確に検出することができる。
【0012】
なお、上記金属は、一続きの状態で複数の流路に亘って設けられるとしてもよいし、流路毎に独立して設けられるとしてもよい。
【0013】
本発明にかかる技術的思想は、液体吐出装置というカテゴリー以外にも、種々の形式で実現される。例えば、上述したような構成の液体吐出装置の製造方法の発明や、当該装置によって温度検出を行なう方法の発明など、把握することができる。また、本明細書において「吐出」という言葉は、「噴射」という言葉に置き換えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの構成例を簡易的に示す図である。
【図2】ヘッドの構成の一部を簡易的に示す斜視図である。
【図3】本実施形態にかかるヘッドの内部構成の一部断面図である。
【図4】流路と温度センサーとの位置関係を流路上方の視点で例示す図である。
【図5】流路と温度センサーとの位置関係を流路上方の視点で例示す図である。
【図6】変形例にかかるヘッドの内部構成の一部断面図である。
【図7】従来のヘッドの内部構成の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかるプリンター20の構成例を簡易的に示している。プリンター20は、液体吐出装置の一例に該当する。あるいは、後述のヘッド29を少なくとも含むプリンター20の構成の一部を、液体吐出装置と捉えることもできる。プリンター20は、例えば、CPU21と、RAM22と、ROM23と、外部接続用のインターフェイス24と、バス25と、ASIC26等を備える。CPU21がROM23に記憶されたプログラムデータ23aをRAM22に展開してプログラムデータ23aに従った演算を行うことにより、プリンター20を制御するためのファームウェアFWが実行される。ファームウェアFWは、例えばインターフェイス24を介して接続された不図示の外部装置から入力したプリントデータに基づいて、駆動データを生成する。ASIC26は、生成された駆動データに基づき、媒体送り機構27やキャリッジモーター28やヘッド29に対する駆動信号を生成し、それらを駆動させる。プリンター20はキャリッジ30を備えており、キャリッジ30は、例えば複数のインクカートリッジ32を取り付け可能なカートリッジホルダー31を備える。キャリッジ30には、インクカートリッジ32から供給される液体(例えば、シアン(C)、マゼンダ(M)、Y(イエロー)、K(ブラック)等の各色インク)を多数の吐出口から吐出するヘッド29が搭載されている。
【0016】
図2は、ヘッド29の構成の一部を斜視図により簡易的に例示している。図2の例では、ヘッド29は、印刷媒体と相対する面(吐出面29a)に、複数の吐出口12(ノズル口とも呼ぶ)が所定のノズルピッチで第1方向に並んだノズル列12Aを、複数列(図2では8列)有している。駆動信号に基づきキャリッジモーター28がキャリッジ30を第1方向に直交する第2方向に略沿って往復移動させることに伴い、ヘッド29も第2方向に略沿って往復移動する。ヘッド29は、駆動信号に基づき、当該移動に伴って各吐出口12からインクを吐出する。吐出されたインクは、媒体送り機構27が駆動信号に基づき第1方向に略沿って送る印刷媒体に着弾する。なお、プリンター20が搭載するヘッド29は、必ずしもキャリッジ30によって往復移動をする構成である必要はなく、印刷可能な印刷媒体の最大幅に対応した長さを有するいわゆるラインヘッドであってもよい。ヘッド29がラインヘッドである場合は、各ノズル列12Aは、当該最大幅に亘って例えば第1方向へ吐出口12を並べて構成される。また、このように各ノズル列12Aが当該最大幅に亘って第1方向へ向く場合は、印刷媒体は第2方向に略沿って送られる。
【0017】
図3は、本実施形態におけるヘッド29の内部構成の一部断面図であって、一つの吐出口12周辺の構成を示している。図3では、その紙面に対して垂直な方向が、上記第1方向に該当する。図3(および図2)では、図7と同じ部位に対しては同じ符号を与えており、既に説明した部位に関しては説明を適宜省略する。ヘッド基板14は、ASIC26から与えられた駆動信号に基づきパルス波としての駆動電圧を圧電素子13に印加する。
本実施形態では、従来の構成(図1)と異なり、流路10の少なくとも一部が金属からなっている。一例として、流路10の壁11の一部に、一方の面が流路10内に露出し、他方の面が流路10外に露出した状態の金属板18を設けている。金属板18は、例えば、アルミ二ウムや銅等、熱伝導性に優れた所定の金属で形成されている。
【0018】
また、上記金属の温度を検出するための非接触型のセンサー17が設けられている。一例として、金属板18の他方の面から空気層16を挟んで離間した位置に、当該センサー17が設けられている。センサー17は、例えば赤外線センサーであり、金属板18と相対するヘッド基板14の面に実装されている。センサー17は、測定対象(金属板18)から反射する赤外線を感知することにより、測定対象の温度に応じた検出値(電圧値)をヘッド基板14へ出力する。従って、金属板18が直に接する流路10内のインクの温度に応じた検出値がヘッド基板14へ出力される。このように出力された検出値は、ヘッド基板14を介して、プリンター20の制御部(ASIC26等)へ出力され、制御部は、この検出値が示す温度(インク温度)に応じた所定のインク吐出制御(例えば、吐出口12から吐出する液体の量や吐出頻度を当該温度に応じて補正する制御処理など)を実行する。センサー17およびヘッド基板14を含む構成は、温度検出部に該当する。
【0019】
図4は、ヘッド29内における流路10とセンサー17との位置関係を流路10上方の視点から例示している。図4では、説明に必要な最小限の構成のみ示しており、本来存在する一部構成について適宜図示を省略している。図4に示すように、各吐出口12に一対一で対応する複数の流路10が第1方向に沿って並んでおり、各流路10は壁11の一部であって同じ方向を向く箇所に金属板18を個々に有している。また、各金属板18から離間して相対する位置には、センサー17が設けられている。センサー17の大きさ(第1方向における幅)は、通常、各流路10の大きさ(直径)よりも大きいため、図に示すように、複数の流路10に対して一つのセンサー17が設けられる。従って、ヘッド29内には、第1方向に沿って並ぶ所定本数(複数本)の流路10の単位毎に一つのセンサー17が設けられ、各センサー17は、対応する各流路10に設けられた各金属板18の温度を、一つの温度(インク温度)として検出する。
【0020】
ただし、金属板18は、必ずしも図4に示したように流路10毎に独立して設けられている必要はなく、複数の流路10に亘って設けられていてもよい。
図5は、ヘッド29内における流路10とセンサー17との位置関係を図4と同様に流路10上方の視点から例示している。図5の例では、一枚の金属板18(一続きの金属)が、複数本の流路10に対し第1方向と平行に取り付けられることで、各流路10の壁面の一部を形成している。このような構成においても、センサー17は、複数本の流路10の単位毎に一つ設けられ、対応する流路10に設けられた金属板18の温度(インク温度)を検出する。なお、一枚の金属板18を共有する流路10の数は特に限られない。ただし、このような図5の構成を採用する場合、一枚の金属板18が対応する複数本の流路10と、一つのセンサー17が対応する複数本の流路10とを一致させることが望ましい。
【0021】
本実施形態のように、流路10内のインクの温度を検出するために非接触型のセンサー17を利用する場合、非接触であるがゆえに当該センサー17の位置を変更させやすいというメリットが考えられる。そこで、ヘッド29は、複数の流路10が並ぶ方向(第1方向)に略沿ってセンサー17を移動させるセンサー移動部を備えるとしてもよい。センサー移動部の具体的構成は種々考えられる。センサー移動部の一例として、図4には、二点鎖線により第1方向に平行な案内バー41と、キャリッジ40と、モーター等からなりキャリッジ40を案内バー41に沿って移動せしめるセンサー移動機構42とを示している。センサー移動機構42は、例えばヘッド基板14に実装され、ASIC26等により制御される。このような構成においては、センサー17がキャリッジ40に搭載され、キャリッジ40の移動とともにセンサー17も第1方向に略沿って移動する。
【0022】
このようにセンサー17を移動可能とすれば、一つのセンサー17により多数の流路10(例えば、一つのノズル列12Aに対応する全ての流路10)におけるインク温度を順次検出することができる。従って、ヘッド29内に搭載するセンサー17の数を大幅に低減させることができる。なお、センサー17を移動可能とする構成を採用する場合、センサー17とヘッド基板14とを、移動するセンサー17とヘッド基板14との接続を維持できるだけの長さを持った折り曲げ可能なケーブルで接続する。むろん、上述したようなセンサー移動部は、図5に示した構成に対して適用してもよい。
【0023】
このように本実施形態によれば、流路10の壁11の一部を、所定以上の熱伝導性に優れた金属板18で形成し、流路10内を流れるインクに直接触れる当該金属板18の温度を非接触型のセンサー17にて計測するようにした。そのため、従来の構成と比較して、ノイズを排除して流路10内のインク温度を高い精度で、且つ、追従性良く検出することができる。そして、この検出結果を上述したようなインク吐出制御に利用することで、従来に増して正確なインク吐出制御が実現できる。
【0024】
また、非接触型のセンサー17であるため、接触型の温度センサーと比較して広い範囲を正確に計測することができ、例えば図4,5に示したように、ある程度の本数の流路10をまとめて計測対象とする場合等に有利である。特にヘッド29がラインヘッドタイプのように長いノズル列12Aを有する場合、上述したように非接触型のセンサー17をノズル列方向(第1方向)へ移動させることで、少ない数のセンサーで多くの流路10におけるインク温度を正確に検出することができ好適である。
さらには、センサー17が非接触型であるため、金属板18とセンサー17を含むヘッド29の組み立てにかかる労力が軽減され、製品(プリンター20)の製造工程における作業効率の向上につながる。
【0025】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下のような変形例も可能である。上述の実施形態における記載事項と変形例とを適宜組み合わせた内容も、本発明の開示範囲である。
【0026】
図6は、本実施形態におけるヘッド29の内部構成の一部断面図であって、図3とは異なる例(変形例)を示している。図6と図3とを比較した場合、金属板18およびセンサー17の位置が異なる。図6においては、金属板18は、流路10における圧電素子13よりも吐出口12側の位置(所定部位)に設けられている。また、金属板18の位置に合わせるように、非接触型のセンサー17は圧電素子13よりも吐出面側において金属板18と空気層を挟んで相対する位置に設けられている。適確なインク吐出制御を行なうには、インクの特性、吐出精度、部品へのダメージ度合い等に強い影響を与える吐出直前のインク温度を検出することが重要である。そこで、当該変形例のように金属板18をより吐出口12に近い位置に配置させる。その結果、吐出口12から吐出される直前のインクの温度を正確に検出することができ、適確なインク吐出制御の実現に繋がる。
【0027】
なお、本発明にかかる液体吐出装置は、インクの吐出による画像形成はもちろん、回路基板へのプリント、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造時における色材吐出、有機ELディスプレー等の製造時における液体電極材料の吐出、バイオチップの製造時における生体有機物の吐出等、様々な用途に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10…流路、11…壁、12…吐出口、13…圧電素子、14…ヘッド基板、17…センサー、18…金属板、20…プリンター、29…ヘッド、40…キャリッジ、41…案内バー、42…センサー移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口を備えた液体吐出装置であって、
少なくとも一部が金属からなっている、吐出口に液体を導くための流路と、
上記金属の温度を非接触型のセンサーにより検出する温度検出部と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
複数の上記流路が並ぶ方向に略沿って上記センサーを移動させるセンサー移動部を備えることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記流路の所定箇所に設けられて、駆動電圧を印加されることにより変形して流路内の液体を吐出口から吐出させる圧電素子を備え、
上記流路は、上記圧電素子よりも吐出口側の所定部位を上記金属で構成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
複数の上記流路に亘って一続きの金属が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記金属は、流路毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35235(P2013−35235A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174577(P2011−174577)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】