説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法

【課題】シェアドウォール方式の液体噴射ヘッドにおいて、圧電体のヒステリシスに基づいて液体の吐出の履歴に応じて吐出速度がばらつくのを一定にする。
【解決手段】駆動部8がチャンネルNを周期的に選択し、この選択された期間に駆動電極Dに選択信号を供給して圧電体を駆動し、チャンネルNに充填された液体をノズル7から吐出させる。この選択信号として、チャンネルNを膨張させる第一波形と、第一波形の後にチャンネルNを収縮させて液体を吐出させる第二波形と、チャンネルNから液体を吐出させない程度に隔壁Kを変形させる第三波形を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びこれを駆動する駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に縮小し溝に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドとして、従来から、分極した圧電部材により隔壁を構成し、この隔壁により隣接するチャンネルを離隔するシェアドウォール方式が知られている。シェアドウォール方式の液体噴射ヘッドは、液体が充填されるチャンネルとこれに隣接するチャンネルの間に、分極処理が施された圧電体からなる隔壁が設置されている。チャンネルの端部にはノズルプレートが接合され、ノズルプレートにはチャンネルに連通するノズルが形成されている。隔壁の全部又は一部が圧電体から構成され、この圧電体の両側面に電極が設置されている。この電極に駆動信号を与えて隔壁を変形させ、チャンネル内の容積を変形させて内部に充填されたインク等の液体を吐出させる。従って、隔壁は隣接する2つのチャンネルにより共有されている。そのため、となり合うチャンネルから同時に液体を吐出させることができず、例えば隣接する3つのチャンネルを1チャンネルごとに順次繰り返して選択し、その選択期間に吐出信号又は非吐出信号を供給して駆動する。
【0004】
図8は、この種の液体噴射ヘッドを駆動する駆動信号と隔壁の変形状態を表している(特許文献1)。図8には、隔壁51a〜51fにより仕切られた6個のインク室50a〜50fが示されている。各インク室50a〜50fにはインクが充填されている。各隔壁51a〜51fの両側面には電極a〜fが設置されている。この液体噴射ヘッドは、各インク室を、例えば1サイクル目のタイミングでインク室50a、50dを選択し、2サイクル目のタイミングでインク室50b、50eを選択し、3サイクル目のタイミングでインク室50c、50fを選択し、4サイクル目で上記1サイクル目と同じインク室を選択し、これを繰り返す(3サイクル駆動)。このように各インク室を周期的に選択することにより、すべてのインク室から独立してインクを吐出することができる。
【0005】
図8に駆動信号が示されている。この駆動信号は、インク室50bと50eが選択される選択期間に電極a〜fに供給される選択波形を表している。電極a、b、cに与えられる波形が吐出信号である。期間(A)では、電極a、b、cに電位差が無いので隔壁51a、51bは変形しない。期間(B)では、電極bに高電圧、電極a、cに低電圧が印加され(低電圧は、アース電位を含む)、インク室50bの隔壁51a、51bは外側に変形し、インク室50bの容積が増大してインク室50bに外部からインクを引き込む。期間(C)では、電極bに低電圧、電極a、cに高電圧が印加されて隔壁51a、51bが内側に変形し、インク室50bの容積が縮小してインクを吐出する。期間(D)では、電極a〜cに電位差が無いので隔壁51a、51bは変形せず、期間(A)の状態に戻る。一方、電極d、e、fに与えられる波形は非吐出信号であり、期間(A)〜期間(D)の間で電位差が無いので隔壁51d、51eは変形せず、インクは吐出されない。
【0006】
上記のとおり、3サイクルごとに選択される各インク室は、供給される選択波形に従って吐出信号が与えられたときにインクを吐出し、非吐出信号が与えられたときインクは吐出されない。また、吐出信号はインク室を囲む隔壁を一端外側に変形させてインクを取り込み、次に内側に変形させてインクを吐出させる二段階の駆動信号により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−45107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、隔壁を構成する圧電体はヒステリシスを有し、圧電体から電界を取り去った後も隔壁に歪が残留する。この残留歪は、次の隔壁を変形させてインクを吐出させるときにインクの吐出速度に影響を与える。即ち、残留歪の影響で隔壁が若干外側に変形した状態から吐出動作を行うときと、隔壁が若干内側に変形した状態から吐出動作を行うときとでは液滴の吐出速度が異なる。そのために、インクの記録品質が低下した。
【0009】
図9を用いて具体的に説明する。図9(a)は、図8に示すインク室50a〜50dのすべてから連続的にインクを吐出させる電極a〜dに与える駆動信号を表し、図9(b)は、図8に示すインク室50bのみからc2サイクルのときにのみインクを吐出させる電極a〜dに与える駆動信号を表す。横軸は時間の経過を表し、c1サイクルからc4サイクルまで示されている。c1サイクルとc4サイクルは同じインク室を選択する。各駆動信号の下部に示すグラフは、隔壁51aと51bの変形状態を表し、隔壁51aは上方がインク室50bの容積を増加させる方向、下方がインク室50bを縮小させる方向であり、隔壁51bは上方がインク室50bを縮小させる方向であり、下方がインク室50bを増加させる方向である。従って、2つのグラフの間隙はインク室50bの容積を概念的に表す。なお、図では隔壁の立ち上がり時間や立下り時間は無視している。図中onは、当該電極が対応するインク室が選択され、このインク室から液体を吐出させる吐出信号を表し、offは、当該電極が対応するインク室が選択され、このインク室からインクを吐出させない非吐出信号を表す。
【0010】
図9(a)に示されるように、c2サイクルでインクを吐出した隔壁51aは、c1サイクルでインク室50bの容積を増加させる方向に変形したので、c1サイクルの最後の時点でインク室50bの容積を増加させる外側に若干変形している。またc2サイクルでインクを吐出した隔壁51bはc3サイクルでインク室50bの容積を増加させる方向に変形した後に、c4サイクルでは隔壁51bを変形させる電圧が印加されない。従って、c4サイクルの最後の時点では、c3サイクルで変化した状態が維持され、隔壁51bはインク室50bの容積を増加させる外側に若干変形している。次の図示しないc5サイクルでインク室50bからインクを吐出させようとするときは、インク室50bを囲む隔壁51a及び51bともに外側に若干変形した状態から吐出動作を行うことになる。
【0011】
一方、図9(b)に示されるように、c2サイクルでインク室50bからインクを吐出した後にすべてのインク室からインクを吐出させないときは、c4サイクルの最後の時点で、隔壁51aと隔壁51bとはともにインク室50bの容積を縮小させる内側に若干変形している。次に図示しないc5サイクルでインク室50bからインクを吐出させようとするときは、インク室50bを囲む隔壁51a及び51bともに若干内側に変形した状態から吐出動作を行うことになる。
【0012】
図9(a)と(b)から理解できるように、前に行った吐出パターンの履歴に応じて次に吐出する際の隔壁の状態にばらつきが生じ、インク滴の吐出速度がばらついてしまう、という課題があった。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、前に行った吐出パターンの履歴に影響を受けないで、インク滴等の液体の吐出速度を安定させることができる液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による液体噴射ヘッドは、圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記チャンネルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、前記選択信号は、前記チャンネルを膨張させる第一波形と、前記第一波形の後に前記チャンネルを収縮させて液体を吐出させる第二波形と、前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を含むこととした。
【0015】
また、前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号を有し、前記吐出信号は、前記第一波形及び前記第二波形と、前記第一波形の直前に供給される前記第三波形を有することとした。
【0016】
また、前記第三波形は、前記第一波形と同方向に前記隔壁を変形させることとした。
【0017】
また、前記第三波形は、前記第一波形と逆方向に前記隔壁を変形させることとした。
【0018】
また、前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と液体を吐出させない非吐出信号を有し、前記吐出信号は、前記第一波形及び前記第二波形を有し、前記非吐出信号は、前記第三波形を有することとした。
【0019】
また、前記第三波形は、前記第二波形と同方向に前記隔壁を変形させることとした。
【0020】
また、圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記チャンネルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と液体を吐出させない非吐出信号を有し、前記選択された期間が終了する時点において当該選択されたチャンネルの隔壁が、前記吐出信号が供給されたときと前記非吐出信号が供給されたときの間で同じ方向に若干変形していることとした。
【0021】
また、選択されたチャンネルの隔壁が当該チャンネルの容積を縮小させる内側に向けて若干変形していることとした。
【0022】
本発明による液体噴射装置は、上記いずれかに記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【0023】
本発明の液体噴射ヘッドの駆動方法は、圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記ノズルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記選択信号として、前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を供給した後に、前記チャンネルを膨張させる第一波形を供給し、次に前記チャンネルを収縮させる第二波形を供給して前記ノズルから液体を吐出させることとした。
【0024】
また、圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記ノズルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、前記選択信号は、選択された期間に前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と、前記選択された期間とは異なる選択期間に前記ノズルから液体を吐出させない非吐出信号を含み、前記駆動部は、前記吐出信号として前記チャンネルを膨張させる第一波形の後に前記チャンネルを収縮させる第二波形を供給し、前記非吐出信号として前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を供給することとした。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液体噴射ヘッドは、圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、そのチャンネルに連通するノズルと、圧電体に設置された駆動電極と、チャンネルを周期的に選択し、選択された期間に駆動電極に選択信号を供給してチャンネルを構成する隔壁の圧電体を駆動し、チャンネルに充填された液体をノズルから吐出させる駆動部と、を備え、選択信号は、チャンネルを膨張させる第一波形と、第一波形の後にチャンネルを収縮させて液体を吐出させる第二波形と、チャンネルから液体を吐出させない程度に隔壁を変形させる第三波形を含む。これにより、吐出動作を行う前の隔壁の変形状態を前の吐出に影響を受けないで一定とし、吐出される液滴の速度を安定させ、記録品質を向上させた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドのチャンネルに直交する方向模式的な部分縦断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの駆動信号を表す。
【図3】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な部分分解斜視図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの駆動信号を表す。
【図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの選択信号を表す。
【図6】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの駆動信号のタイミングチャートである。
【図7】本発明の第四実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図8】従来公知の液体噴射ヘッドの駆動波形と隔壁の変形状態を表す図である。
【図9】従来公知の液体噴射ヘッドの駆動信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第一実施形態)
図1〜図3は本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1を説明するための図であり、図1は液体噴射ヘッド1のチャンネルNに直交する方向の模式的な部分縦断面図であり、図2は隔壁Kに設置した駆動電極Dに供給する駆動信号を表し、図3は液体噴射ヘッド1の模式的な部分分解斜視図である。
【0028】
図1に示すように、液体噴射ヘッド1は、圧電体を有する隔壁K1〜K5により仕切られる複数のチャンネルN1〜N6と、隔壁K1〜K5の圧電体に設置された駆動電極D1〜D6と、各チャンネルN1〜N6に連通する図示しないノズルと、各々のチャンネルN1〜N6を周期的に選択し、その選択期間に選択信号を駆動電極D1〜D6に供給する駆動部8を備えている。
【0029】
より具体的に説明する。チャンネルN2は2つの隔壁K1とK2により囲まれている。チャンネルN3は隔壁K2とK3により囲まれている。従って隔壁K2はチャンネルN2とチャンネルN3により共有されている。他の隔壁K及びチャンネルNも同様である。チャンネルNm(mは正の整数)を囲む2つの隔壁Km−1、Kmは、そのチャンネルNm側の内側面にそれぞれ駆動電極Dmを備え、この2つの駆動電極Dmは電気的に接続している。駆動部8は、チャンネルNmの駆動電極Dmに信号Smを供給する。
【0030】
駆動部8は、各チャンネルN1〜N6を周期的に選択し、その選択期間にチャンネルN1〜N6のそれぞれに選択信号を供給する。選択信号は、当該選択されたチャンネルNから液体を吐出させる吐出信号と、当該選択されたチャンネルNから液体を吐出させない非吐出信号を含む。
【0031】
図2(a)は、図1に示されるチャンネルN2が選択されたときの吐出信号を表し、図2(b)は図1に示されるチャンネルN5が選択されたときの非吐出信号を表し、図2(c)は、C2サイクルでチャンネルN2とN5から液体を吐出させ、他のチャンネルN1、N3、N4から液体を吐出させない場合の各駆動電極D1〜D5供給する各信号S1〜S5を表すタイミングチャートである。
【0032】
図2(a)に示す吐出信号を説明する。吐出信号は、チャンネルN2の容積を膨張させる第一波形と、この第一波形の後にチャンネルN2の容積を収縮させてチャンネルN2に連通するノズルから液体を吐出させる第二波形と、この第一波形の直前に、チャンネルN2から液体を吐出させない程度に隔壁K1とK2を第一波形と同じ方向に変形させる第三波形を有している。
【0033】
駆動部8は、選択された期間であるCサイクルにチャンネルN2に対して吐出信号を供給する。即ち、駆動電極D1に信号S1、駆動電極D2に信号S2、駆動電極D3に信号S3を供給する。従って、隔壁K1には信号S1と信号S2の差電圧が、隔壁K2には信号S2と信号S3の差電圧がそれぞれ印加され、各隔壁K1、K2は外側に又は内側に変形する。
【0034】
駆動部8は、Cサイクルの最初の期間t0に各信号S1〜S3を供給する。各信号S1〜S3は同じ低電圧なので隔壁K1とK2には電界が印加されず、各隔壁K1、K2は変形しない。駆動部8は、次の期間t1に第三波形を供給する。この第三波形は、信号S2が短い期間に高電圧に変化し次に低電圧に戻り、信号S1と信号S3は低電圧を維持する。その結果、隔壁K1とK2はこの短い期間に電界が印加されて外側に変形する。しかし、短期間であることと外側に向けた変形であることからチャンネルN2から液体は吐出されない。期間t1の終了時には下部の模式図に示されるように、隔壁K1、K2は外側に若干変形する。これは圧電体のヒステリシス特性に基づく。
【0035】
次に、駆動部8は期間t2に第一波形を供給する。この第一波形は直前の第三波形よりも長く、信号S2が高電圧、信号S1とS3が低電圧を維持する。その結果、期間t2の終了時までには隔壁K1とK2は電界が印加されて外側に大きく変形し、下部の模式図に示されるようにチャンネルN2の容積が大きく膨張する。この期間はチャンネルN2内に液体を吸引する。次に、駆動部8は期間t3に第二波形を供給する。この第二波形は、期間t2の概ね2倍の長さであり、信号S2が低電圧、信号S1と信号S3が高電圧を維持する。その結果、隔壁K1とK2は電界が印加されて内側に大きく変形し、下部の模式図に示されるように、チャンネルN2の容積が大きく収縮する。この期間にチャンネルN2内の液体をノズルから吐出する。次の期間t4では、信号S1〜S3が同じ低電位となるので隔壁K1とK2には電界が印加されない。しかし、圧電体はヒステリシス特性を持っているので、その残留歪に基づいて隔壁K1とK2は先ほど大きく変形した方向、即ち内側に若干変形した状態を維持する。
【0036】
このように、選択期間に第一波形と第二波形により液体の吐出動作を行うが、第一波形の前に第一波形と同極性の第三波形を挿入することにより隔壁K1及びK2を若干外側に揃えて変形させる。そのためCサイクルに入る直前の隔壁K1やK2の変形状態に影響を受けることなく吐出動作を行うことができる。その結果、当該チャンネルN2の吐出履歴や隣接するチャンネルN1やN3の吐出履歴に影響を受けることなく、一定速度で液滴を吐出させることができる。
【0037】
図2(b)に示す非吐出信号を説明する。駆動部8は、選択された期間であるCサイクルにチャンネルN5に対して非吐出信号を供給する。即ち、駆動電極D4に信号S4を、駆動電極D5に信号S5と、駆動電極D6に信号S6をそれぞれ供給する。各信号S4、S5、S6はともに期間t5で低電圧、期間t6で高電圧、期間t7で低電圧に変化する。従って、隔壁K4及びK5は電界が印加されず新たに変形しないので、Cサイクルの直前の状態を維持する。即ち、その下部の図に示すように、Cサイクルの直前において残留歪に基づく変形が無ければ、その変形が無い状態を維持し、残留歪により変形が存在する場合にはその変形が維持される。なお、非吐出信号の期間t5は吐出信号の期間t0と期間t1と期間t2の合計の期間と等しく、非吐出信号の期間t6は吐出信号の期間t3に等しく、非吐出信号の期間t7は吐出信号の期間t4に等しい。
【0038】
図2(c)はタイミングチャートを表し、横方向が経過時間であり縦方向に各信号S1〜S5を示す。駆動部8は、隣接するチャンネルを順次選択し、この選択期間に上記図2(a)に示す吐出信号や(b)に示す非吐出信号を供給する。駆動部8は、最初のC1サイクルのタイミングでチャンネルN1とN4を選択し、以下、C2サイクルでチャンネルN2とN5、C3サイクルでチャンネルN3、C4サイクルでC1サイクルと同じチャンネルN1とN4を選択する。従って、各チャンネルは3周期に1回選択される。駆動部8は、各チャンネルを選択した選択期間に当該チャンネル内の駆動電極Dに吐出(図中、onで表す。)又は非吐出(図中、offで表す。)の種類に応じた波形を与え、吐出信号又は非吐出信号を構成する。図2(c)の場合は、C2サイクルにおいてチャンネルN2とチャンネルN5に吐出信号を与え、その他のサイクル及びチャンネルには非吐出信号を与えている。
【0039】
なお、本発明は3サイクル駆動に限定されず、3サイクル以上の周期で駆動しても良い。ただし、3サイクル周期の駆動は時間当たりの吐出回数を最大にすることができる。また、チャンネルの並び順に従って順次選択する駆動方法に限定されない。また、信号S1〜信号S6の波形は、隔壁K1〜K5を構成する圧電体の分極方向に応じて高電圧と低電圧を反転させてもよい。また、吐出信号の第一波形と第三波形の電圧の大きさは同一である必要はなく、要は直前の隔壁の変形を消去し、新に一定の変形状態にすることができればよい。
【0040】
図3は、上記駆動信号により駆動する液体噴射ヘッド1の模式的な分解斜視図である。液体噴射ヘッド1は、表面に複数の溝3を形成したアクチュエータ基板2と、アクチュエータ基板2の表面に複数の溝3の開口部の一部を塞ぐように接合したカバープレート4と、アクチュエータ基板2及びカバープレート4の−y方向の端面に接合したノズルプレート6を備えている。アクチュエータ基板2として垂直方向に分極した圧電体を使用することができる。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム等の圧電体セラミックスを使用することができる。アクチュエータ基板2に形成した溝3はチャンネルNを構成する。各チャンネルNは圧電体から成る隔壁Kにより仕切られている。
【0041】
各隔壁Kはその側辺に駆動電極Dを備えている。駆動電極Dは溝3の深さの略1/2よりも上部に設置されている。隔壁Kを挟む2つの駆動電極Dに電界を印加すると、隔壁Kは厚み滑り歪によりチャンネルNの内側又は外側に変形する。カバープレート4は各チャンネルNに液体を供給するための液体供給孔9を備えている。ノズルプレート6は複数のノズル7を有し、各ノズル7はアクチュエータ基板2に形成した各チャンネルNに連通する。アクチュエータ基板2はそのy方向の端部上面に複数の端子電極を備え、各端子電極は隔壁Kの側面に形成した駆動電極Dに電気的に接続する。アクチュエータ基板2の端部上面に図示しないフレキシブル基板を設置して、駆動部8が生成した駆動信号を各駆動電極Dに伝達可能に構成されている。
【0042】
(第二実施形態)
図4は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の駆動信号を表す。図4(a)は選択信号の内の吐出信号を示し、図4(b)は、図1に示すチャンネルN1〜N5を駆動するための信号S1〜S5の一例を表すタイミングチャートである。第一実施形態と異なる点は吐出信号であり、非吐出信号は図2(b)に示す第一実施形態と同様である。従って、以下、主に第一実施形態と異なる点について説明する。
【0043】
図4(a)に示す吐出信号は、第一実施形態と同様に、チャンネルN2の容積を膨張させる第一波形と、この後にチャンネルN2の容積を収縮させてチャンネルN2に連通するノズルから液体を吐出させる第二波形と、この第一波形の直前にチャンネルN2から液体を吐出させない程度に隔壁K1とK2を第一波形と逆方向に変形させる第三波形を有している。
【0044】
具体的に説明する。駆動部8は、選択された期間であるCサイクルにチャンネルN2に対して吐出信号を供給する。即ち、駆動電極D1に信号S1、駆動電極D2に信号S2、駆動電極D3に信号S3の選択信号を供給する。駆動部8は、Cサイクルの最初の期間t0に各信号S1〜S3を供給する。各信号は同じ低電圧なので隔壁K1とK2には電界が印加されず、各隔壁K1、K2は変形しない。駆動部8は、次の期間t1に第三波形を供給する。この第三波形は、信号S1とS3は短い期間高電圧に変化し次に低電圧に戻り、信号S2は低電圧を維持する。その結果、隔壁K1と隔壁K2はこの短い期間に電界が印加されて内側に変形する。しかし短期間であることからチャンネルN2から液体は吐出されない。期間t1の終了時には下部の模式図に示されるように、チャンネルN2の隔壁K1及びK2は内側に若干変形する。つまり第一実施形態の場合と逆方向に変形する。
【0045】
次に、駆動部8は期間t2に第一波形を供給する。この第一波形は第三波形よりも長く、信号S2が高電圧、信号S1とS3が低電圧を維持する。その結果、期間t2の終了時までに隔壁K1とK2は電界が印加されて外側に大きく変形し、下部の模式図に示されるようにチャンネルN2の容積は大きく膨張し、チャンネルN2内に液体を吸引する。次に、駆動部8は期間t3に第二波形を供給する。この第二波形は、期間t2の概ね2倍の長さであり、信号S2が低電圧、信号S1と信号S3が高電圧を維持する。その結果、隔壁K1とK2は電界が印加されて内側に大きく変形し、下部の模式図に示されるように、チャンネルN2の容積が大きく収縮する。この期間にチャンネルN2内の液体をノズルから吐出する。次の期間t4では、信号S1〜S3が同じ低電位となるので隔壁K1、K2には電界が印加されない。しかし、圧電体はヒステリシス特性を持っているので、その残留歪に基づいて隔壁K1とK2は先ほど大きく変形した方向、即ち内側に若干変形した状態を維持する。
【0046】
図4(b)のタイミングチャートに示されるように、駆動部8は、各チャンネルを3サイクル周期で選択し、その選択されたチャンネルに対し、選択信号として上記吐出信号又は第一実施形態の図2(b)に示す非吐出信号を供給する。最初のC1サイクルでチャンネルN1とN4を選択し、以下、C2サイクルでチャンネルN2とN5を、C3サイクルでチャンネルN3を、C4サイクルでC1サイクルと同じチャンネルN1とN4を選択し、これを繰り返す。駆動部8は、各チャンネルを選択した選択期間に当該チャンネル内の駆動電極Dに吐出(図中、onで表す。)又は非吐出(図中、offで表す。)の種類に応じた波形を与え、吐出信号又は非吐出信号を構成する。図2(c)の場合は、C2サイクルにおいてチャンネルN2とチャンネルN5に吐出信号を与え、その他のサイクル及びチャンネルには非吐出信号を与えている。
【0047】
以上の通り、吐出信号は第一波形の前に第一波形と極性が反転する第三波形が挿入されているので、吐出動作を行う前に隔壁K1及びK2を若干内側に変形させる。そのため、C2サイクルに入る直前の隔壁K1、K2の変形状態が、内側や外側、或いは変形していな場合でもその直前の変形状態に影響を受けないで吐出動作を行うことができる。その結果、一定速度で液滴を吐出させることができる。
【0048】
(第三実施形態)
図5は本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1の選択信号を表す。上記第一及び第二実施形態と異なる点は、選択信号のうち非吐出信号に第三波形を挿入し、吐出速度を安定化させる点である。
【0049】
図5は、図1に示されるチャンネルN5及びN2が選択された場合の選択波形を表し、図5(a)がチャンネルN5に供給される非吐出信号を、図5(b)がチャンネルN2に供給される吐出信号を表す。駆動部8は、チャンネルN2及びN5を駆動するために、駆動電極Dmに信号Smを供給する。即ち隔壁Kmには信号Smと信号Sm+1の差電圧が印加され、各隔壁Kmは外側に又は内側に変形してチャンネルN2及びN5の容積を増大又は収縮させる。
【0050】
図5(a)はチャンネルN5を駆動する非吐出信号を表す。非吐出信号はチャンネルN5から液体を吐出させない程度に隔壁K4とK5を変形させる第三波形を有している。具体的に説明する。駆動部8は、Cサイクルの期間t5に各信号S4〜S6を低電圧に維持し、次の期間t6に各信号S4〜S6を高電圧に維持する。従って、期間t5及びt6では隔壁K4及びK5に電界が印加されず、同図の下部に示される模式図のように隔壁K4、K5は新たに変形しない。次に、駆動部8は期間t6よりも短い期間t7に第三波形を供給する。この第三波形は、信号S4及びS6が高電圧を維持し、信号S5が低電圧を維持する。その結果、同図の下部に示される模式図のように、期間t7の終了時までにチャンネルN5の隔壁K4及びK5は若干内側に変形する。しかし、短期間であることからチャンネルN5から液体は吐出されない。次に、駆動部8は期間t8に信号S4〜S6を低電圧に維持する。その結果、隔壁K4及びK5は新たに変形せず、チャンネルN5側の若干内側に変形した状態が維持される。これは圧電体のヒステリシス特性に基づく。
【0051】
なお、隔壁K4及びK5がチャンネルN5側に変形することは、チャンネルN4及びチャンネルN6側からみると外側に変形することになる。即ち、この非吐出信号は隣接するチャンネルの隔壁を外側に変形させる。つまり、次に選択されるチャンネルの隔壁、又はその次に選択されるチャンネルの隔壁を、直前に選択された非吐出信号、又はその直前の前に選択された非吐出信号が外側に若干変形させたことを意味する。
【0052】
図5(b)はチャンネルN2を駆動する吐出信号を表す。吐出信号は、チャンネルN2の容積を膨張させる第一波形と、この第一波形の後にチャンネルN2の容積を収縮させてチャンネルN2に連通するノズルから液体を吐出する第二波形を有している。具体的に説明する。期間t1に入る直前の隔壁K1及びK2は、上記非吐出信号を採用したことにより常に外側に若干変形している。駆動部8は、期間t1において信号S1〜S3を低電圧に維持する。その結果、隔壁K1とK2には電界が印加されないので、若干外側に変形した隔壁の状態が維持される。駆動部8は次の期間t2に第一波形を供給する。第一波形は、信号S2が高電圧を維持し、信号S1とS2が低電圧を維持する。その結果、隔壁K1とK2は電界が印加されて外側に大きく変化し、チャンネルN2内に液体を吸引する。次に、駆動部8は期間t3に第二波形を供給する。この第二波形は、期間t2の概ね2倍の長さであり、信号S1とS3が高電圧を、信号S2が低電圧を維持する。これにより、隔壁K1とK2は大きく内側に変形し、チャンネルN2の容積が大きく収縮する。この期間にチャンネルN2内の液体がノズルから吐出される。駆動部8は、次の期間t4において、信号S1〜S3を同じ低電圧に維持する。そのため隔壁K1、K2に電界が印加されず、隔壁K1、K2は内側に若干変形した状態を維持する。なお、非吐出信号の期間t5は吐出信号の期間t1と期間t2を加えた期間に等しく、非吐出信号の期間t6と期間t7を加えた期間が吐出信号の期間t3に等しい。
【0053】
なお、選択期間を終了した隔壁K1とK2がチャンネルN2側に変形することは、チャンネルN1及びチャンネルN3側からみると外側に変形することになる。即ち、吐出信号は隣接するチャンネルの隔壁を外側に変形させる。つまり、次に選択されるチャンネルの隔壁、又はその次に選択されるチャンネルの隔壁を、直前に選択された吐出信号、又はその直前の前に選択された吐出信号が外側に若干変形させることを意味する。従って、上記非吐出信号を考慮すれば、吐出信号及び非吐出信号は、次に選択されるチャンネルの隔壁を常に外側に若干変形させることになる。従って、常に一定の変形状態である隔壁から吐出動作を開始することができるので、吐出される液滴の速度を一定にすることができ、記録品質を向上させることができる。
【0054】
図6は、第三実施形態の駆動信号により各チャンネルN1〜N4を駆動するときのタイミングチャートを表す。図6(a)は全チャンネルから吐出するタイミングチャートを表し、図6(b)は、C2サイクルでチャンネルN2(信号S2に対応する位置のチャンネル)から液体を吐出し、他のすべてのチャンネルからは液体を吐出しないタイミングチャートを表す。各図の下部には、チャンネルN2を構成する両隔壁K1、K2の変形状態を模式的に表す。隔壁K1は破線よりも上側がチャンネルN2の容積を増加させる方向、即ち外側への変形を表し、隔壁K2は破線よりも下側がチャンネルN2の容積を増加させる方向、即ち外側への変形を表す。つまり、隔壁K1とK2の間の斜線で表される領域がチャンネルN2の容積を概念的に示している。なお、隔壁K1、K2の立ち上がり特性や立下り特性は無視している。
【0055】
ここで、隔壁K1、K2は、一旦外側に変形させると、これを強制的に反転させない限り圧電体のヒステリシス特性に基づいて若干外側に変形した状態を維持する。同様に、隔壁K1、K2は、一旦内側に変形させると、これを強制的に反転させない限り若干内側に変形した状態を維持する。
【0056】
そこで、例えばC5のサイクルでチャンネルN2をon動作、即ち吐出信号を与えて吐出動作を行う場合に、その直前のタイミングでの隔壁K1とK2の変形状態を調べる。すると、図6(a)の全onの場合は、隔壁K1はC4サイクルで最後に外側に変形し、隔壁K2はC3サイクルで最後に外側に変形する。従って、C5サイクルの直前では隔壁K1、隔壁K2ともに外側に若干変形している。また、図6(b)の1個on、他が全offの場合は、隔壁K1はやはりC4サイクルの最後に外側に変形し、隔壁K2はやはりC3サイクルの最後に外側に変形する。
【0057】
これは、他の吐出パターンでも同様となり、選択期間の直前のタイミングで2つの隔壁は必ず外側に若干変形している。即ち、第三波形を非吐出信号に挿入することにより、吐出信号の直前の隔壁K1、K2の変形状態を揃えることができる。その結果、吐出される液滴の速度が安定し、記録品質が向上する。また、本実施形態の場合は非吐出信号の信号S5の期間t6の時間幅を狭くする方向に設定するので、第一及び第二実施形態の場合よりも調整幅を広くとることができる。なお、3サイクル駆動に限定されず、3サイクル以上の周期で駆動するものであっても良い。
【0058】
上記第三実施形態の構成を一般化すると、チャンネルNmが選択された期間が終了する時点において、吐出信号を供給したときに隔壁Kmと隔壁Km+1が変形する方向と、非吐出信号を供給したときに隔壁Kmと隔壁Km+1が変形する方向とを同一方向とすればよい。上記第三実施形態の場合は、非吐出信号に第三波形を挿入して選択されたチャンネルの隔壁を内側に若干変形させた。そして吐出信号は第一波形の後に第二波形が供給されて選択期間の終了時には選択されたチャンネルの隔壁を内側に若干変形させた。即ち吐出信号と非吐出信号の両方の選択期間の終了時点では、同じ方向に隔壁が若干変形している。その結果、選択期間の開始直前ではチャンネルの隔壁が必ず外側に若干変形する一定の状態を形成することができた。これと同様に、吐出信号及び非吐出信号に、当該選択期間の最後に隔壁を若干外側に変形させる信号を挿入することにより、次の選択期間の直前に隔壁が常に若干内側に変形する状態を形成することができる。
【0059】
(第四実施形態)
図7は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。
液体噴射装置30は、上記本発明に係る液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構43と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管33、33’と、液体供給管33、33’に液体を供給する液体タンク31、31’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は本発明に係る液体噴射ヘッド1から構成される。即ち、基板表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁を有するアクチュエータ基板と、溝を覆い、アクチュエータ基板の基板表面に接合するカバープレートと、溝に連通するノズルを有し、アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備えている。
【0060】
具体的に説明する。液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体34を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体34に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク31、31’に貯留した液体を液体供給管33、33’に押圧して供給するポンプ32、32’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構43等を備えている。液体噴射ヘッド1、1’は図示しない駆動部から供給される駆動信号により駆動される。
【0061】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体34を主走査方向に搬送する。移動機構43は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット38と、キャリッジユニット38を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト39と、この無端ベルト39を図示しないプーリを介して周回させるモータ40を備えている。
【0062】
キャリッジユニット38は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク31、31’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ32、32’、液体供給管33、33’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット38を駆動するモータ40の回転及び被記録媒体34の搬送速度を制御することにより、被記録媒体34上に任意のパターンを記録することできる。
【0063】
ここで、駆動部は、液体を吐出するノズルを周期的に選択し、この選択された期間の選択されたチャンネルに選択信号を供給し、このチャンネルに充填された液体を吐出する。この選択信号は、チャンネルを膨張させる第一波形と、この第一波形の後にチャンネルを収縮させる第二波形と、チャンネルから液体を吐出させない程度にチャンネルを構成する隔壁を変形させる第三波形を備えている。この構成により、記録パターンに影響を受けないで各ノズルから吐出される液滴の速度を安定させ、記録品質を向上させることができる液体噴射装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 液体噴射ヘッド
2 アクチュエータ基板
3 溝
4 カバープレート
5 液体供給孔
6 ノズルプレート
7 ノズル
8 駆動部
N チャンネル
D 駆動電極
K 隔壁
S 信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、
前記チャンネルに連通するノズルと、
前記圧電体に設置された駆動電極と、
前記チャンネルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、
前記選択信号は、前記チャンネルを膨張させる第一波形と、前記第一波形の後に前記チャンネルを収縮させて液体を吐出させる第二波形と、前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を含む液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号を有し、
前記吐出信号は、前記第一波形及び前記第二波形と、前記第一波形の直前に供給される前記第三波形を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第三波形は、前記第一波形と同方向に前記隔壁を変形させる請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第三波形は、前記第一波形と逆方向に前記隔壁を変形させる請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と液体を吐出させない非吐出信号を有し、
前記吐出信号は、前記第一波形及び前記第二波形を有し、
前記非吐出信号は、前記第三波形を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第三波形は、前記第二波形と同方向に前記隔壁を変形させる請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記チャンネルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、
前記選択信号は、前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と液体を吐出させない非吐出信号を有し、
前記選択された期間が終了する時点において当該選択されたチャンネルの隔壁が、前記吐出信号が供給されたときと前記非吐出信号が供給されたときの間で同じ方向に若干変形している液体噴射ヘッド。
【請求項8】
選択されたチャンネルの隔壁が当該チャンネルの容積を縮小させる内側に向けて若干変形している請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【請求項10】
圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記ノズルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記選択信号として、前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を供給した後に、前記チャンネルを膨張させる第一波形を供給し、次に前記チャンネルを収縮させる第二波形を供給して前記ノズルから液体を吐出させる液体噴射ヘッドの駆動方法。
【請求項11】
圧電体を有する隔壁により仕切られた複数のチャンネルと、前記チャンネルに連通するノズルと、前記圧電体に設置された駆動電極と、前記ノズルを周期的に選択し、選択された期間に前記駆動電極に選択信号を供給して前記圧電体を駆動し、前記チャンネルに充填された液体を前記ノズルから吐出させる駆動部と、を備え、
前記選択信号は、選択された期間に前記ノズルから液体を吐出させる吐出信号と、前記選択された期間とは異なる選択期間に前記ノズルから液体を吐出させない非吐出信号を含み、
前記駆動部は、前記吐出信号として前記チャンネルを膨張させる第一波形の後に前記チャンネルを収縮させる第二波形を供給し、前記非吐出信号として前記チャンネルから液体を吐出させない程度に前記隔壁を変形させる第三波形を供給する液体噴射ヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135900(P2012−135900A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288404(P2010−288404)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】