説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】駆動素子の放熱を効率よく行って、駆動素子の小型化及び低コスト化を図ると共に、駆動素子の耐久性を向上し、さらに液体の温度に対する影響を可及的に低減して液体噴射特性を向上させることができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】熱伝導部材35を有する圧電素子ユニット18と、該圧電素子ユニットが収容される収容部19を有するケースヘッド20と、前記圧電素子に接続されて当該圧電素子を駆動する駆動素子60が実装されたフレキシブルプリント基板50とを具備し、さらにペルチェ素子61の吸熱面61Aを前記駆動素子に対向させるとともに、前記ペルチェ素子の発熱面61Bの熱を端部が前記ケースヘッドの外部に臨んでいる放熱部材を介して放熱させるように前記ケースヘッドの前記収容部に配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関し、特に温度を調整することにより粘
度を調整した高粘度の液体を吐出液体として使用する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、圧電素子の変位による圧力を利用してノズ
ル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが知られている。具体的には
、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成板とその一方面側に設けられる
振動板とを有する流路ユニットと、流路ユニットに接着剤を介して接着されたノズル開口
を有するノズルプレートと、各圧力発生室に対応して設けられ支持基板に固定された圧電
素子(圧電振動子)と、この圧電素子を収容する収容室を有するケースヘッド(基台)と
を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、圧電素子を駆動するための駆動信号を供給する駆動素子は、フレキシブルプリン
ト基板に実装され、駆動素子からの駆動信号はフレキシブルプリント基板を介して圧電素
子に印加される。この駆動素子は通常ICチップで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−74740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フレキシブルプリント基板に実装される駆動素子は、当該駆動素子自体
でしか放熱できないため、放熱能力が限られており、回路損失が放熱能力を超える場合に
は駆動素子が熱により破壊されてしまうという問題がある。反面、放熱性を確保するには
放熱面積が必要となるため、駆動素子の小型化を行うことができないという問題がある。
【0006】
特に、特許文献1のようなケースヘッド内に駆動素子が設けられている場合、駆動素子
はケースヘッド内でしか放熱することができず、外気に放熱することができないため駆動
素子の温度が高くなってしまう。
【0007】
さらに、高粘度のインクを使用する場合、近年、前記インクの粘度を適切な粘度に調整
して使用することが行われている。すなわち、一般に、インクはその温度が高温になれば
粘度が低下するという特性を有しているので、インクが所望の粘度になるよう常温に対す
るインクの温度を調整している。この場合、インクの粘度は環境温度の変化に敏感に反応
する。したがって、温度調整による粘度調整を行った後のインクに駆動素子が発生する熱
が吸収された場合には、粘度調整後のインクの粘度が変化する可能性もある。粘度が変化
した場合にはノズル開口からのインク滴の吐出特性が変化し、印刷品質に悪影響を与える
原因となる虞がある。
【0008】
また、高粘度のインクを用いた場合、その分吐出負荷が大きくなるので、駆動素子にお
ける熱の発生量も増加する。したがって、高粘度インクの需要増大が考えられる最近の状
況においてはケースヘッド内で発生する駆動素子による熱の適切な処理は喫緊の課題とな
っている。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の他の
液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、駆動素子の放熱を効率よく行って、駆動素子の小型化
及び低コスト化を図ると共に、駆動素子の耐久性を向上し、さらに液体の温度に対する影
響を可及的に低減して液体噴射特性を向上させることができる液体噴射ヘッド及び液体噴
射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室
と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子及び該圧電素子の基端部が固定される
熱伝導部材を有する圧電素子ユニットと、該圧電素子ユニットが収容される収容部を有す
るケースヘッドと、前記圧電素子に接続されて当該圧電素子を駆動する駆動素子が実装さ
れたフレキシブルプリント基板とを具備し、さらにペルチェ素子の吸熱面を前記駆動素子
に対向させるとともに、前記ペルチェ素子の発熱面の熱を端部が前記ケースヘッドの外部
に臨んでいる放熱部材を介して放熱させるように前記ケースヘッドの前記収容部に配設し
たことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
本態様によれば、駆動素子が発生する熱はペルチェ素子の吸熱面から吸収され発熱面を
介して放熱部材に伝熱させることができる。ここで、放熱部材は、ケースヘッドの外部に
臨んでいるので駆動素子が発生した熱は外部環境に放熱される。すなわち、本態様によれ
ば、従来はケースヘッドの収納部にこもってしまっていた駆動素子が発生する熱をケース
ヘッドの外部へ放熱することができる。この結果、駆動素子の近傍部分の局所的な昇温を
未然に防止することが可能になる。したがって、高粘度の液体の温度調整による粘度調整
を行った場合等でも液体温度を所定の調整温度に維持したまま吐出させることができ、印
刷品質等の向上に資することができる。
【0012】
また、高負荷の高粘度液体を吐出させた場合でもケースヘッドの収容部内の温度を可及
的に抑制することができるので、その分ヘッドの小型化を図ることができる。コストの面
でも貢献し得る。
【0013】
ここで、前記ペルチェ素子はその吸熱面が前記駆動素子の表面に当接されており、その
発熱面が直接または伝熱部材を介して前記熱伝導部材に当接されており、さらに前記熱伝
導部材の端部に前記放熱部材となるヒートシンクが当接されるように構成することができ
る。この場合には駆動素子の表面から直接熱を吸収し、これを伝熱部材を介してヒートシ
ンクにより外部に放熱させることができる。
【0014】
また、前記ペルチェ素子で形成された前記熱伝導部材の表面である吸熱面が前記駆動素
子の表面に当接されており、その発熱面が前記放熱部材となるヒートシンクに当接されて
いても良い。ペルチェ素子は圧電素子ユニットの一部を形成する熱伝導部材としての機能
も有するので、その分部品点数を削減して構成を簡単にすることによりコストの低減に寄
与し得る。
【0015】
さらに、前記熱伝導部材または前記熱伝導部材を兼ねるペルチェ素子とケースヘッドの
収容部の壁面との間に断熱層を形成するのが好ましい。かかる断熱層により駆動素子の熱
が当該液体噴射ヘッドのアクチュエーター部分等に影響を及ぼすのを防止することができ
るからである。
【0016】
前記ペルチェ素子はその吸熱面が前記フレキシブルプリント基板を挟んで前記駆動素子
と対向されており、その発熱面が前記ケースヘッドの収納部の一つの壁面に当接されると
ともに、前記壁面内に収納された補強部材であり、端部が前記ケースヘッドを貫通して外
部に臨むインサート金具が前記放熱部材とされている。この場合には、ケースヘッドの剛
性向上のために壁面内に補強部材として収納されているインサート金具を放熱部材として
利用することができるので、部品点数の削減およびコストの低減に寄与し得る。
【0017】
ここで、前記インサート金具の前記圧力発生室側の端部に断熱層が形成されているのが
好ましい。かかる断熱層により駆動素子の熱が当該液体噴射ヘッドのアクチュエーター部
分等に影響を及ぼすのを防止することができるからである。
【0018】
さらに本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液
体噴射装置にある。
かかる態様では、高粘度の液体を吐出する場合でも、吐出の信頼性を向上させるととも
に、液体噴射装置のコストの低減にも寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
【図3】本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
【図4】図3のA−A′線断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録
ヘッドの断面図である。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッド10は、複数の
圧力発生室11を有する流路形成基板12と、各圧力発生室11に連通する複数のノズル
開口13が穿設されたノズルプレート14と、流路形成基板12のノズルプレート14と
は反対側の面に設けられる振動板15とを具備する流路ユニット16を有する。さらに、
振動板15上の各圧力発生室11に対応する領域に設けられる圧電素子17を有する圧電
素子ユニット18と、振動板15上に固定されて圧電素子ユニット18が収容される収容
部19を有するケースヘッド20とを具備する。
【0021】
流路形成基板12には、その一方面側の表層部分に、圧力発生室11が隔壁によって区
画されてその幅方向で複数並設されている。各圧力発生室11の列の外側には、ケースヘ
ッド20の液体導入路であるインク導入路21を介してインクが供給されるマニホールド
22が、流路形成基板12を厚さ方向に貫通して設けられている。そして、マニホールド
22と各圧力発生室11とは、インク供給路23を介して連通し、各圧力発生室11には
、インク導入路21、マニホールド22及びインク供給路23を介してインクが供給され
る。インク供給路23は、本実施形態では、圧力発生室11よりも狭い幅で形成されてお
り、マニホールド22から圧力発生室11に流入するインクの流路抵抗を一定に保持する
役割を果たしている。さらに、圧力発生室11のマニホールド22とは反対の端部側には
、流路形成基板12を貫通するノズル連通孔24が形成されている。すなわち、本実施形
態では、流路形成基板12に液体流路として、圧力発生室11、マニホールド22、イン
ク供給路23、ノズル連通孔24が設けられている。このような流路形成基板12は、本
実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、流路形成基板12に設けられる上記圧力発
生室11等は、流路形成基板12をエッチングすることによって形成されている。
【0022】
この流路形成基板12の一方面側にはノズル開口13が穿設されたノズルプレート14
が接合され、各ノズル開口13は、流路形成基板12に設けられたノズル連通孔24を介
して各圧力発生室11と連通している。
【0023】
また、流路形成基板12の他方面側、すなわち、圧力発生室11の開口面側には振動板
15が接合されて、各圧力発生室11はこの振動板15によって封止されている。
【0024】
この振動板15は、例えば樹脂フィルム等の弾性部材からなる弾性膜25と、この弾性
膜25を支持する例えば金属材料等からなる支持板26との複合板で形成されており、弾
性膜25側が流路形成基板12に接合されている。本実施形態では、弾性膜25は、厚さ
が数μm程度のPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムからなり、支持板26は
、厚さが数十μm程度のステンレス鋼板(SUS)からなる。また、振動板15の各圧力
発生室11に対向する領域内には、圧電素子17の先端部が当接する島部27が設けられ
ている。この圧電素子17の先端面は、接着剤によって島部27に接合されている。すな
わち、振動板15の各圧力発生室11の周縁部に対向する領域に他の領域よりも厚さの薄
い薄肉部28が形成されて、この薄肉部28の内側にそれぞれ島部27が設けられている
。また、本実施形態では、振動板15のマニホールド22に対向する領域に、薄肉部28
と同様に、支持板26がエッチングにより除去されて実質的に弾性膜のみで構成されるコ
ンプライアンス部29が設けられている。なお、このコンプライアンス部29は、マニホ
ールド22内の圧力変化が生じた時に、このコンプライアンス部29の弾性膜25が変形
することによって圧力変化を吸収し、マニホールド22内の圧力を常に一定に保持する役
割を果たす。
【0025】
ここで、圧力発生室11内にインク滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段で
ある圧電素子17について説明する。本実施形態では、圧電素子17は、一つの圧電素子
ユニット18において一体的に形成されている。すなわち、圧電材料31と電極形成材料
32,33とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層した圧電素子形成部材34を形成
し、この圧電素子形成部材34を各圧力発生室11に対応して櫛歯状に切り分けることに
よって各圧電素子17が形成されている。すなわち、本実施形態では、複数の圧電素子1
7が一体的に形成されている。そして、この圧電素子17(圧電素子形成部材34)の振
動に寄与しない不活性領域、すなわち、圧電素子17の基端部側が熱伝導部材35に固着
され、圧電素子17は熱伝導部材35を介してケースヘッド20に固定されている。そし
て、圧電素子17の基端部近傍には、熱伝導部材35とは反対側の面に、各圧電素子17
を駆動するための信号を供給する配線層51を有するフレキシブルプリント基板50が接
続され、本実施形態では、これら圧電素子17(圧電素子形成部材34)と熱伝導部材3
5とで圧電素子ユニット18が構成されている。
【0026】
このような圧電素子ユニット18は、圧電素子17の先端部が上述したように振動板1
5の島部27に当接された状態で固定されている。例えば、本実施形態では、上述したよ
うに振動板15上にケースヘッド20が固定されており、圧電素子ユニット18は、この
ケースヘッド20の収容部19内に収容されて、圧電素子17が固定された熱伝導部材3
5が、圧電素子17とは反対面側でケースヘッド20に固定されている。具体的には、ケ
ースヘッド20は、振動板15上に接合されて島部27に相対向する領域に収容部19が
設けられている。そして、ケースヘッド20の収容部19のインク導入路21側には、段
差部38が設けられており、段差部38で熱伝導部材35の圧電素子17と反対側の面の
位置が規制されている。かかる位置および状態で熱伝導部材35はケースヘッド20に接
合されている。さらに詳言すると、ケースヘッド20と熱伝導部材35とは、両者を接着
する接着剤からなる接着層70を介して固定されている。本実施形態では、接着層70と
して、固定用接着層と、熱伝導用接着層との2種類の接着剤を用いて接合されている。こ
こで、固定用接着層は、ケースヘッド20と熱伝導部材35との間や、熱伝導部材35の
圧力発生室11の並設方向両端面とケースヘッド20との間に設けられている。この固定
用接着層は、主にケースヘッド20と熱伝導部材35とを位置決め固定させるものであり
、例えば、比較的硬化時間の短いエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0027】
また、熱伝導用接着層は、固定用接着層以外の領域に充填されるように設けられている
。このような熱伝導用接着層は、固定用接着層よりも熱伝導率の高い接着剤、例えば、シ
リコーン材料からなる電熱フィラーが混練された接着剤が挙げられる。
【0028】
固定用接着層又は熱伝導用接着層のみで接着層70を構成したとしても、熱伝導部材3
5の熱をケースヘッド20に熱伝導させることはできる。しかし、熱伝導率の高い固定用
接着層だけで熱伝導部材35とケースヘッド20とを固着させると、圧電素子17と島部
27との位置ずれが生じ、圧電素子17の変位を振動板15に反映させることができない
。一般的に熱伝導率の高い接着剤は、熱伝導率の低い接着剤に比べて硬化時間が長いから
である。この結果、良好な変位特性及びインク吐出特性を得ることができない可能性が高
い。
【0029】
逆に、熱伝導部材35とケースヘッド20とを硬化時間の比較的短い固定用接着層のみ
で固着すると、熱伝導部材35に熱伝導可能に接続された駆動素子60の熱をケースヘッ
ド20に効率よく熱伝導させることができない。このため、駆動素子60の所望の放熱性
能を得ることができない。
【0030】
なお、熱伝導部材35とケースヘッド20とを接合する接着層70は、原則として、ケ
ースヘッド20と圧電素子ユニット18とを位置決めするための領域の全てに亘って設け
るのが好ましい。これにより、ケースヘッド20と熱伝導部材35とを強固に固定するこ
とができると共に、熱伝導部材35の熱をケースヘッド20に効率よく伝導させることが
できる。
【0031】
ケースヘッド20の収容部19内には、圧電素子17に電気的に接続されて圧電素子1
7を駆動するための駆動素子が実装されたフレキシブルプリント基板50が設けられてい
る。フレキシブルプリント基板50は、フレキシブルプリンティングサーキット(FPC
)や、テープキャリアパッケージ(TCP)などからなる。詳しくは、フレキシブルプリ
ント基板50は、例えば、ポリイミド等のベースフィルム52の表面に銅薄等で所定のパ
ターンの配線層51を形成し、配線層51の圧電素子17と接続される端子部などの他の
配線と接続される領域以外の領域をレジスト等の絶縁材料53で覆ったものである。
【0032】
このような、フレキシブルプリント基板50の配線層51は、その基端部側で、例えば
、半田、異方性導電材等によって圧電素子17を構成する電極形成材料32,33に接続
されている。一方、先端部側では、各配線層51は詳しくは後述するケースヘッド20上
に設けられた配線基板(図示せず)の導電パッドと電気的に接続されている。
【0033】
さらにフレキシブルプリント基板50の配線層51には、圧電素子17を駆動するため
の駆動素子60が実装されている。ここで、駆動素子60の実装面と反対側の面である表
面はペルチェ素子61の吸熱面61Aに固着してあり、ペルチェ素子61の発熱面61B
は熱伝導部材35の表面に固着してある。さらに熱伝導部材35の一端面(図1中の上面
)には平板状の金属板であるヒートシンク40の一端部が接続してある。ヒートシンク4
0の他端部(図1中の左端部)はケースヘッド20の外部に臨んでいる。ここで、駆動素
子60とペルチェ素子61およびペルチェ素子61と熱伝導部材35とは熱伝導可能に接
続されている。すなわち、両者が互いに接着剤等を介して接合されている。もちろん、駆
動素子60とペルチェ素子61およびペルチェ素子61と熱伝導部材35とが互いに接触
していても、また接着剤等で接合されていても何れでも構わない。
【0034】
かくして駆動素子60で発生した熱は、ペルチェ素子61の吸熱面61A、発熱面61
B、熱伝導部材35およびヒートシンク40を介してケースヘッド20の外部環境に運ば
れ、ここで放熱される。したがって、駆動素子60の発熱による収容部19の温度上昇は
可及的に抑制される。
【0035】
さらに、本実施形態においては熱伝導部材35とケースヘッド20の収容部19の壁面
19Aとの間に断熱層55が形成してある。かかる断熱層55は壁面19Aに形成した凹
部でも良いが、前記凹部に断熱部材を充填したものでも良い。前者の場合は空気層が断熱
層として機能する。このように、断熱層55を形成することにより駆動素子60の熱が当
該記録ヘッド10のインク導入路21や圧力発生室11内のインク等に影響を及ぼすのを
防止することができる。
【0036】
なお、駆動素子60とペルチェ素子61とを熱伝導可能に接触させる際には、例えば、
駆動素子60をペルチェ素子61側に向かって付勢するばねやゴム等の付勢手段や、クリ
ップなどの固定手段によって接触した状態が解除されないようにしてもよい。また、駆動
素子60とペルチェ素子61とを接着剤を介して接合する際には、接着剤として比較的熱
伝導率の高い材料を用いるのが好ましい。熱伝導率の高い接着剤としては、例えば、シリ
コーン材料からなる電熱フィラーが混練された接着剤等が挙げられる。なお、かかる接合
構造は、ペルチェ素子61と熱伝導部材35とを熱伝導可能に接触させる場合にもそのま
ま当てはまる。これにより、インクジェット式記録ヘッド10がキャリッジに搭載されて
主走査方向に移動した際に、キャリッジの移動などにより駆動素子60と熱伝導部材35
との間に隙間が生じて放熱が抑制されるのを確実に防止することができる。
【0037】
なお、駆動素子60としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)などが挙げ
られる。また、駆動素子60は、フレキシブルプリント基板50の配線層51に、例えば
、フリップ実装で搭載されている。なお、駆動素子60のフレキシブルプリント基板50
上への実装は、例えば、金(Au)−金(Au)接続、金(Au)−錫(Sn)接続など
の金属接続や、ACF(異方性導電ペースト)、ACP(異方性導電膜)、半田バンプ接
続などを用いることができる。
【0038】
また、駆動素子60が熱伝導可能に接続された熱伝導部材35としては、比較的熱伝導
率が高い材料、すなわち、放熱性が高い材料が好ましく、アルミニウム、銅、鉄及びステ
ンレス鋼などが好適である。また、ケースヘッド20も熱伝導率が高く放熱性の高い材料
を用いるのが好ましいが、金属材料を用いるとインクジェット式記録ヘッド10が重くな
ってしまうと共に製造コストが高コストになってしまうため、樹脂材料で形成するのが好
ましい。
【0039】
また、熱伝導部材35は、上述のように圧電素子17と一体的に設けられることで圧電
素子ユニット18を構成し、圧電素子ユニット18は一体化された状態でケースヘッド2
0に位置決め固定される。このとき、圧電素子ユニット18の圧電素子17の振動板15
(島部27)に対する位置合わせは、熱伝導部材35の外周面とケースヘッド20の収容
部19の内面とによって行われる。これにより、脆性材料である圧電素子17を直接把持
して位置合わせするのに比べて、圧電素子ユニット18を位置合わせすることで容易に且
つ高精度に行うことができる。すなわち、熱伝導部材35は、駆動素子60の熱をケース
ヘッド20に伝わらせると共に、圧電素子17の保持及び位置決めを行う部材としても機
能する。
【0040】
かかる本形態のインクジェット式記録ヘッド10では、インク滴を吐出する際に、圧電
素子17及び振動板15の変形によって各圧力発生室11の容積を変化させて所定のノズ
ル開口13からインク滴を吐出させる。具体的には、図示しない液体貯留手段から液体導
入路であるインク導入路を介してマニホールド22にインクが供給されると、インク供給
路23を介して各圧力発生室11にインクが分配される。そして、駆動素子60からの駆
動信号によって所定の圧電素子17に電圧を印加及び解除することによって、圧電素子1
7を収縮及び伸張させて圧力発生室11に圧力変化を生じさせて、ノズル開口13からイ
ンクを吐出させる。
【0041】
ここで、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10では、駆動素子60が発生する
熱をペルチェ素子61、熱伝導部材35およびヒートシンク40を介して外部環境に放熱
するようになっている。すなわち、従来はケースヘッド20の収容部19にこもってしま
っていた駆動素子60が発生する熱をケースヘッド20の外部まで運んで放熱することが
できる。この結果、駆動素子60の近傍部分の局所的な昇温を未然に防止することが可能
になる。したがって、高粘度のインクの温度調整による粘度調整を行った場合等でもイン
ク温度を所定の調整温度に維持したまま吐出させることができ、印刷品質等の向上に資す
ることができる。
【0042】
また、高負荷の高粘度インクを吐出させた場合でもケースヘッド20の収容部19内の
温度を可及的に抑制することができるので、その分ヘッドの小型化を図ることができる。
【0043】
ここで、前記ペルチェ素子はその吸熱面が前記駆動素子の表面に当接されており、その
発熱面が直接または伝熱部材を介して前記熱伝導部材に当接されており、さらに前記熱伝
導部材の端部に前記放熱部材となるヒートシンクが当接されるように構成することができ
る。この場合には駆動素子の表面から直接熱を吸収し、これを伝熱部材を介してヒートシ
ンクにより外部に放熱させることができる。
【0044】
このように、駆動素子60の発熱による温度上昇を抑制することができるため、駆動素
子60に与える電流を大きくしてインク吐出特性を向上することができると共に、インク
の連続吐出性能を向上することができる。すなわち、駆動素子60は、電流を大きくする
ことで発熱が大きくなると共に、連続吐出させることで放熱時間が短くなるため、駆動素
子60を流れる電流やインクの連続吐出性能が制限されてしまう。しかしながら、ペルチ
ェ素子61を利用して駆動素子60の熱を外部に放熱することにより、駆動素子60を流
れる電流を大きくすることができると共にインクの連続吐出を短い間隔で長時間行わせる
ことができる。
【0045】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録
ヘッドの断面図である。同図に示すように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッ
ド10は、ペルチェ素子61で熱伝導部材35(図1参照)の機能を代替させたものであ
る。そこで、図2中、図1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0046】
図2に示すように、本実施形態におけるペルチェ素子61は、圧電素子17の基端部が
固着されケースヘッド20の収容部19の段差部38で圧電素子17と反対側の面の位置
が規制されている。かかる位置および状態でペルチェ素子61はケースヘッド20に接合
されており、その吸熱面61Aが駆動素子60の表面に接着剤62を介して接合されてお
り、その発熱面61Bが放熱部材となるヒートシンク41に当接されている。ここで、ヒ
ートシンク41は金属板をL字状に折曲して形成してありL字の一方の面が発熱面61B
に当接されるとともにL字の他方の面はケースヘッド20の上面を経てケースヘッド20
の外部に臨んでいる。
【0047】
この結果、本実施形態でも駆動素子60で発生した熱は、吸熱面61Aを介してペルチ
ェ素子61に吸熱され、その後発熱面61Bを介してヒートシンク41によりケースヘッ
ド20の外部へ放熱される。したがって、本形態でも実施形態1と同様に駆動素子60の
発熱による収容部19等、周囲環境の温度上昇を抑制することができる。
【0048】
また、本形態ではペルチェ素子61を熱伝導部材35としても機能させているので、部
品点数の削減を図り、コストの低減に寄与させることができる。なお、本実施形態でも実
施形態1と同様の断熱層55が形成されている。この断熱層55も実施形態1のものと全
く同様の機能を有する。
【0049】
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録
ヘッドの断面図、図4は図3のA−A′線断面図である。両図に示すように、本実施形態
に係るインクジェット式記録ヘッド10は、ペルチェ素子61で吸熱したケースヘッドの
20の外部に放熱する放熱部材を工夫した。そこで、図3および図4中、図1および図2
と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図3に示すように本実施形態におけるペルチェ素子61はその吸熱面61Aがフレキシ
ブルプリント基板50を挟んで駆動素子60と対向する位置に配設されている。すなわち
、フレキシブルプリント基板50に対し駆動素子60の反対側で接着剤64を介してペル
チェ素子61の吸熱面61Aがフレキシブルプリント基板50に固着してある。したがっ
て、駆動素子60が発生した熱はフレキシブルプリント基板50を介してペルチェ素子6
1に吸熱される。一方、ペルチェ素子61の発熱面61Bはケースヘッド20の収容部1
9の一つの壁面19Bに当接されるとともに、壁面19B内に収納された補強部材であり
、図4に示すように、端部がケースヘッド20を貫通して外部に臨むインサート金具54
で放熱部材が形成されている。
【0051】
本形態によれば、駆動素子60が発熱により発生した熱は、フレキシブルプリント基板
50を介してペルチェ素子61の吸熱面61Aに吸熱され、その発熱面61Bを介して壁
面19Bに伝熱される。壁面19Bに伝熱された熱はインサート金具54に伝熱されるの
で、このインサート金具54を介して外部に放熱される。
【0052】
ここで、本実施形態においては、インサート金具54の圧力発生室11側の端部に断熱
層56が形成されている。かかる断熱層56により駆動素子60の熱が当該記録ヘッド1
0のインク導入路21や圧力発生室11のインク等に影響を及ぼすのを防止することがで
きる。すなわち、実施形態1,2の断熱層55と同様の機能を持たせることができる。
【0053】
本実施形態の場合には、上記作用・効果に加え、ケースヘッド20の剛性向上のために
壁面19B内に補強部材として収納されているインサート金具54を放熱部材として利用
することができるので、部品点数の削減およびコストの低減に寄与し得るという新たな効
果を奏する。
【0054】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定さ
れるものではない。例えば、断熱層55,56は必ずしも必要ではない。ただ、断熱層5
5,56を設けることにより駆動素子60の発熱の影響を効果的に抑制することができる
という効果は得られる。
【0055】
また、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連
通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記
録装置に搭載される。図5は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である

【0056】
図5に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び
1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、こ
の記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けら
れたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及
び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するも
のとしている。
【0057】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5
に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙
等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになって
いる。
【0058】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドとしてインクジェット式記録ヘッドを
挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以
外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘ
ッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液
晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディ
スプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッ
ド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
10 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 11 圧力発生室、 12
流路形成基板、 13 ノズル開口、 14 ノズルプレート、 15 振動板、 1
6 流路ユニット、 17 圧電素子、 18 圧電素子ユニット、 19 収容部、
20 ケースヘッド、 21 インク導入路(液体導入路)、 35 熱伝導部材、 4
0,41 ヒートシンク、 50 フレキシブルプリント基板、 54 インサート金具
、 55,56 断熱層、 60 駆動素子、 61 ペルチェ素子、 70 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室と、
該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子及び該圧電素子の基端部が固定される熱
伝導部材を有する圧電素子ユニットと、
該圧電素子ユニットが収容される収容部を有するケースヘッドと、
前記圧電素子に接続されて当該圧電素子を駆動する駆動素子が実装されたフレキシブル
プリント基板とを具備し、
さらにペルチェ素子の吸熱面を前記駆動素子に対向させるとともに、前記ペルチェ素子
の発熱面の熱を端部が前記ケースヘッドの外部に臨んでいる放熱部材を介して放熱させる
ように前記ケースヘッドの前記収容部に配設したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記ペルチェ素子はその吸熱面が前記駆動素子の表面に当接されており、その発熱面が
直接または伝熱部材を介して前記熱伝導部材に当接されており、さらに前記熱伝導部材の
端部に前記放熱部材となるヒートシンクが当接されていることを特徴とする液体噴射ヘッ
ド。
【請求項3】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記ペルチェ素子で形成された前記熱伝導部材の表面である吸熱面が前記駆動素子の表
面に当接されており、その発熱面が前記放熱部材となるヒートシンクに当接されているこ
とを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記熱伝導部材または前記熱伝導部材を兼ねるペルチェ素子とケースヘッドの収容部の
壁面との間に断熱層を形成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記ペルチェ素子はその吸熱面が前記フレキシブルプリント基板を挟んで前記駆動素子
と対向されており、その発熱面が前記ケースヘッドの収納部の一つの壁面に当接されると
ともに、前記壁面内に収納された補強部材であり、端部が前記ケースヘッドを貫通して外
部に臨むインサート金具が前記放熱部材とされていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記インサート金具の前記圧力発生室側の端部に断熱層が形成されていることを特徴と
する液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする
液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−179822(P2012−179822A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44789(P2011−44789)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】