説明

液体噴射ヘッドユニットの製造方法、液体噴射ヘッドユニットおよび液体噴射装置

【課題】記録ヘッドを仲介部材を介して固定する場合に、仲介部材とヘッド固定部材との固定状態を長期に維持することができる液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【解決手段】記録ヘッド18と、記録ヘッド18がスペーサー32を介して固定されるサブキャリッジ26とを備えたヘッドユニットの製造方法であって、ボルト締結によりスペーサー32を記録ヘッド18に固定する工程と、スペーサー32の第1の領域85とサブキャリッジ26との間に接着剤87を塗布してサブキャリッジ26に仮固定する工程と、仮固定されたスペーサー32をサブキャリッジ26にボルト締結により固定する工程と、第2の領域86とサブキャリッジ26との間に接着剤88を塗布してスペーサー32をサブキャリッジ26に接着固定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッドユニットの製造方法、液体噴射ヘッドユニットおよび液体噴射
装置に関し、特にヘッド固定部材に対して液体噴射ヘッドを仲介部材を介して取り付ける
場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘ
ッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例
えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッド
のノズルから液体状のインクをインク滴として噴射させて記録を行うインクジェット式記
録装置(プリンター)等の画像記録装置を挙げることができる。
【0003】
近年、上記プリンターには、ノズルを複数列設してなるノズル列を有する記録ヘッドを
サブキャリッジなどのヘッド固定部材に複数並べて固定したものを1つのヘッドユニット
とする構成(マルチヘッド型)を採用するものがある。そして、サブキャリッジに対して
各記録ヘッドが位置決めされた状態でネジ留めされる構成においては、位置決めの後、ネ
ジ留めの前に、記録ヘッドをサブキャリッジに対して接着剤(例えば、瞬間接着剤)によ
って仮留めすることが行われている。これにより、ネジ留めにより本固定するときにネジ
留め時の回転モーメントにより記録ヘッドの位置がずれることが防止される。このような
接着剤による仮留めを採用する場合、一旦サブキャリッジに固定された記録ヘッドを修理
或いは交換するために取り外すことが困難となる。
【0004】
このような問題に対し、記録ヘッドとサブキャリッジの間にスペーサーと呼ばれる仲介
部材を介在させる構成も提案されている(例えば、特許文献1)。この構成によれば、記
録ヘッドにスペーサーをネジ留めにより予め固定しておき、スペーサーとサブキャリッジ
との間を接着剤で仮留めしてからスペーサーとサブキャリッジとをネジ留めにより本固定
することで、サブキャリッジに一旦固定された記録ヘッドは、スペーサーとの間のネジの
締結を解除することにより、スペーサー及びサブキャリッジから取り外すことができる。
これにより、記録ヘッドの交換や修理等による記録ヘッドの着脱が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−90327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、記録ヘッドをスペーサーを介してサブキャリッジに取り付ける上述の如
き従来技術においては、スペーサーのサブキャリッジに対する固定は、最終的にねじ締結
に依っているので、強い振動が長期に亘り作用する等、過酷な環境によってはねじ締結部
分が緩み、位置ずれを生起する可能性がある。かかる位置ずれを生起した場合、記録ヘッ
ドから吐出されるインク滴の着弾ズレを生起し、印刷品質の劣化の原因となる。
【0007】
なお、このような問題は、インクを噴射する記録ヘッドを搭載したインクジェット式記
録装置だけではなく、上記サブキャリッジのようなヘッド固定部材に対してスペーサー等
の仲介部材を介在させて液体噴射ヘッドを固定する構成を採用する、他の液体噴射ヘッド
ユニット、及びこれを備える液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、記録ヘッドを仲介部材を介してヘッド固定部材する場合
において、仲介部材とヘッド固定部材との所定の固定状態を長期に亘り安定的に維持する
ことができる液体噴射ヘッドユニットの製造方法、液体噴射ヘッドユニットおよび液体噴
射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の態様は、液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと
、前記液体噴射ヘッドが仲介部材を介して固定されるヘッド固定部材とを備えた液体噴射
ヘッドユニットの製造方法であって、前記液体噴射ヘッド側からボルト締結により前記仲
介部材を前記液体噴射ヘッドに固定する工程と、前記ヘッド固定部材に当接される前記仲
介部材の面の一部である第1の領域と前記ヘッド固定部材との間に第1の接着剤を塗布し
て前記ボルト締結により一体となった前記液体噴射ヘッドを仲介部材を介して前記ヘッド
固定部材に仮固定する工程と、仮固定された前記仲介部材を前記ヘッド固定部材側から前
記ヘッド固定部材にボルト締結により固定する工程と、前記仲介部材の前記面の他の一部
である第2の領域と前記ヘッド固定部材との間に第2の接着剤を塗布して前記仲介部材を
前記ヘッド固定部材に接着固定する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドユニ
ットの製造方法にある。
本態様によれば、仲介部材をヘッド固定部材に第1の接着剤で仮接着させた後にヘッド
固定部材側からのボルト締結を行っているので、液体噴射ヘッドのヘッド固定部材に対す
る位置を高精度に調節した状態を保持させたまま所定の固定を行うことができる。さらに
、ボルト締結後に第2の接着剤で接着させているので、振動等の外力が作用してもボルト
締結の状態を長期に亘り安定的に維持することができる。すなわち、仮接着により液体噴
射ヘッドのアライメントを良好に調整した状態でボルト締結による高精度で強固な固定を
行うことができるばかりでなく、さらにボルト締結を第2の接着剤による固定により補強
することができるので、振動等が作用する過酷な環境にあっても、長期に亘り安定した固
定状態を維持し得る。なお、この場合の第1の接着剤は、液体噴射ヘッドのアライメント
位置への位置決めという観点から、衝撃等に弱く、長期間の安定的な固着には向かないが
、速乾性があり工程の短縮化に寄与し得る瞬間接着剤が好適であり、第2の接着剤は長期
に亘り安定した強固な接着力を維持し得る、例えば熱硬化性の接着剤が好適である。
【0010】
ここで、前記第1の領域は、前記ヘッド固定部材側から前記仲介部材をボルト締結する
ボルトが挿通される挿通穴よりも前記仲介部材の先端側の領域であり、前記第2の領域は
、前記挿通穴よりも前記仲介部材の基端側の領域であり、しかも前記第1および第2の領
域の間は溝で区画されているのが望ましい。仲介部材をボルト締結する際に接着面に作用
する締結トルクは仲介部材の先端部ほど大きくなるので、ボルト締結に先立つ仮接着を先
端部で行うほどアライメントされた液体噴射ヘッドの位置をより確実且つ容易に保持する
ことができるからである。また、仮接着の部位はボルトの近傍が望ましいが、かかる要件
も備えることができる。さらに、前記第1および第2の領域を溝で区画しているので、両
領域に塗布する接着剤が混じり合うことなく、それぞれの機能を十分発揮させることがで
きる。
【0011】
また、前記第1および第2の接着剤は、前記仲介部材の前記面の周縁部に形成された面
取り部を介して注入することができる。すなわち、面取り部を介して接着剤を注入するこ
とができるので、当該接着作業が容易になるばかりでなく、注入した接着剤の接着面への
回り込みも良好に行わせることができる。
【0012】
本発明の他の態様は、液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射
ヘッドが仲介部材を介して固定されるヘッド固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニット
であって、前記液体噴射ヘッドには、前記液体噴射ヘッド側からのボルト締結により前記
仲介部材が固定されており、前記仲介部材は、前記ヘッド固定部材に当接される面の一部
である第1の領域が前記ヘッド固定部材に第1の接着剤で固着されるとともに、前記面の
他の一部である第2の領域が前記ヘッド固定部材に第2の接着剤で固着され、さらに前記
ヘッド固定部材側からのボルト締結により前記ヘッド固定部材に固定されていることを特
徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
本態様によれば、仮接着により液体噴射ヘッドのアライメントを良好に調整した状態で
ボルト締結による高精度で強固な固定が行われており、さらにボルト締結を第2の接着剤
による固定により補強しているので、振動等が作用する過酷な環境にあっても、長期に亘
り安定した固定状態を維持し得る。
【0013】
ここで、前記第1の領域は、前記ヘッド固定部材側から前記仲介部材をボルト締結する
ボルトが挿通される挿通穴よりも前記仲介部材の先端側の領域であり、前記第2の領域は
、前記挿通穴よりも前記仲介部材の基端側の領域であり、しかも前記第1および第2の領
域の間は溝で区画されているのが望ましい。前述の如く、ボルト締結に先立つ仮接着を先
端部で行うほどアライメントされた液体噴射ヘッドの位置をより確実且つ容易に保持する
ことができ、またボルト締結時の仮接着の部位はボルトの近傍が望ましいが、かかる要件
も備えることができるからである。さらに、前記第1および第2の領域を溝で区画してい
るので、両領域に塗布する接着剤が混合されることもなく、それぞれの機能、すなわち速
乾性と長期に亘る安定的な接着性能を十分発揮させることができる。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドユニットを搭載したことを特徴とする
液体噴射装置にある。
本態様によれば、液体噴射ヘッドの仲介部材を介してのヘッド固定部材の所定位置への
固定を長期に安定的に維持させることができる。この結果、液体噴射ヘッドの所定位置へ
のアラインメント状態が長期に亘り良好に維持されることで、液体の着弾ばらつきを除去
し得る。この結果印刷品質の向上等に有効に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの内部構成の一部を示す斜視図である。
【図2】プリンターの内部構成の一部を示す平面図である。
【図3】ヘッドユニットの斜視図である。
【図4】ヘッドユニットの上面図である。
【図5】ヘッドユニットの正面図である。
【図6】ヘッドユニットの下面図である。
【図7】ヘッドユニットの下面側の斜視図である。
【図8】記録ヘッドの構成を説明する斜視図である。
【図9】記録ヘッドの構成を説明する上面図である。
【図10】記録ヘッドの構成を説明する下面図である。
【図11】記録ヘッドの構成を説明する正面図である。
【図12】記録ヘッドの構成を説明する右側面図である。
【図13】図9における領域Aの拡大図および図9における領域Bの拡大図である。
【図14】図11における領域Cの拡大図である。
【図15】図12における領域Dの拡大図である。
【図16】図12における領域Eの拡大図である。
【図17】スペーサーの構成を説明する図である。
【図18】記録ヘッドに対するスペーサーの位置決め工程を説明する模式図である。
【図19】スペーサーを固定した記録ヘッドをサブキャリッジに固定する場合の工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述
べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の
範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に
限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジ
ェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1はプリンター1の内部構成の一部を示す斜視図、図2はプリンター1の平面図であ
る。例示したプリンター1は、記録用紙、布、フィルム等の記録媒体(着弾対象)に向け
て、液体の一種であるインクを噴射する。このプリンター1は、フレーム2の内部にキャ
リッジ3(ヘッドユニット保持部材の一種)を、記録媒体の送り方向に交差する方向であ
る主走査方向に往復移動可能に搭載している。プリンター1の背面側のフレーム2の内壁
には、当該フレーム2の長手方向に沿って長尺な上下一対のガイドロッド4a,4bが互
いに間隔を空けて平行に取り付けられている。キャリッジ3は、その背面側に設けられた
軸受け部(図示せず)等にガイドロッド4a,4bが嵌合することで、これらのガイドロ
ッド4a,4bに対して摺動可能に支持されている。
【0018】
フレーム2の背面側であって主走査方向の一端側(図2における右端部)には、キャリ
ッジ3を移動させるための駆動源としてのキャリッジモーター8が配設されている。この
キャリッジモーター8の駆動軸は、フレーム2の背面側から内面側に突出しており、その
先端部分には、駆動プーリー(図示せず)が接続されている。この駆動プーリーは、キャ
リッジモーター8の駆動により回転される。また、この駆動プーリーに対して主走査方向
における反対側(図2における左端部)の位置には、遊転プーリー(図示せず)が設けら
れている。これらのプーリーには、タイミングベルト9が架け渡されている。このタイミ
ングベルト9には、キャリッジ3が接続されている。そして、キャリッジモーター8が駆
動されると、駆動プーリーの回転に伴ってタイミングベルト9が回動し、キャリッジ3が
ガイドロッド4a,4bに沿って主走査方向に移動する。ここで、ガイドロッド4a,4
bに平行にリニアスケール10が設けてあり、このリニアスケール10に一定ピッチで形
成されたストライプを光学的に読み取ることにより、エンコーダー(図示せず)がキャリ
ッジ3の走査位置に応じたエンコーダーパルスを主走査方向における位置情報として出力
するようになっている。これにより、プリンターの制御部(図示せず)は、エンコーダー
パルスに基づいてキャリッジ3の走査位置を認識しながら、ヘッドユニット17による記
録媒体に対する記録動作を制御することができる。そして、プリンター1は、主走査方向
の一端側のホームポジションから反対側の端部(フルポジション)へ向けてキャリッジ3
が移動する往動時と、フルポジションからホームポジション側にキャリッジ3が戻る復動
時との双方向で記録紙上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録処理が可能に構成され
ている。
【0019】
キャリッジ3には、後に詳述するヘッドユニット(図1および図2には図示せず)の各
記録ヘッドに各色のインクを供給するためのインク供給チューブ14と、駆動信号等の信
号を供給するための信号ケーブル15が接続されている。その他、プリンター1には、図
示しないが、インクを貯留したインクカートリッジ(液体供給源)が着脱可能に取り付け
られるカートリッジ装着部、記録紙を搬送する搬送部、待機状態の記録ヘッドのノズル形
成面をキャッピングするキャッピング部等が設けられている。
【0020】
図3はヘッドユニット17の斜視図であり、(a)は流路部材24が取り付けられた状
態、(b)は流路部材24が外された状態をそれぞれ示している。また、図4はヘッドユ
ニット17の上面図、図5はヘッドユニット17の正面図(流路部材24が外された状態
)、図6はヘッドユニット17の下面図、図7はヘッドユニット17の下面側の斜視図で
ある。なお、本発明におけるヘッドユニット17とは、記録ヘッド18が仲介部材である
スペーサー32を介してヘッド固定部材であるサブキャリッジ26に固定されたものをい
う。
【0021】
本形態におけるヘッドユニット17は、図3〜図7に示すように、それぞれスペーサー
32が固定された複数の記録ヘッド18をユニット化したものであり、これらの記録ヘッ
ド18およびスペーサー32が取り付けられるサブキャリッジ26と、流路部材24と、
を備えている。サブキャリッジ26は、記録ヘッド18が固定される板状のベース部26
aと、このベース部26aの四方の外周縁からそれぞれ上方に起立した起立壁部26bと
、から上面が開口した中空箱体状に形成されている。これらのベース部26aと四方の起
立壁部26bとから囲まれた空間が、記録ヘッド18の少なくとも一部(主にサブタンク
37)を収容する収容部として機能する。本実施形態のサブキャリッジ26は、金属、例
えばアルミニウムにより作製されている。
【0022】
サブキャリッジ26のベース部26aの略中央部分には、複数の記録ヘッド18を挿通
可能な(即ち、各記録ヘッド18に共通な1つの)ヘッド挿通開口28(図6参照)が開
設されている。
【0023】
本実施形態においては、図6に示すように、第1の記録ヘッド18a、第2の記録ヘッ
ド18b、第3の記録ヘッド18c、第4の記録ヘッド18d、及び第5の記録ヘッド1
8eの合計5つの記録ヘッド18が、後述するサブタンク37をヘッド挿通開口28の下
方から挿通させて収容部内に収容し、且つ、ベース部26aとの間にそれぞれスペーサー
32を介在させた状態で、ノズル列に直交する方向に横並びで、ベース部26aにそれぞ
れ固定される。
【0024】
サブキャリッジ26の四方の起立壁部26bのうちの3つには、側方に向けてフランジ
部30が突設されており、このフランジ部30を介してキャリッジ3に取り付けてある。
【0025】
流路部材24は、上下方向が薄い箱体状の部材であり、例えば、合成樹脂により作製さ
れる。この流路部材24の内部には、各記録ヘッド18の各色のインク分配流路(図示せ
ず)が区画形成されている。この流路部材24の上面(サブキャリッジ26に固定される
側の面とは反対側の面)には、チューブ接続部34が設けられており、図4に示すように
、このチューブ接続部34の内部には、各色のインクに対応した導入口39が複数設けら
れている。各導入口39は、それぞれ対応する色のインク分配流路に連通している。そし
て、チューブ接続部34に上記のインク供給チューブ14が接続されると、インク供給チ
ューブ14内の各色のインク供給路と、それぞれ対応する導入口39とが液密状態で連通
する。これにより、インクカートリッジ側からインク供給チューブ14を通じて送られて
きた各色のインクが、導入口39を通じて流路部材24内のインク分配流路にそれぞれ導
入される。
【0026】
図8は記録ヘッド18(液体噴射ヘッドの一種)の構成を説明する斜視図である。図9
は記録ヘッド18の上面図であり、(a)はスペーサー32が取り付けられていない状態
、(b)はスペーサー32が取り付けられた状態を示している。図10は記録ヘッド18
の下面図であり、(a)はスペーサー32が取り付けられていない状態、(b)はスペー
サー32が取り付けられた状態を示している。図11は記録ヘッド18の正面図であり、
(a)はスペーサー32が取り付けられていない状態、(b)はスペーサー32が取り付
けられた状態を示している。図12は記録ヘッド18の右側面図であり、(a)はスペー
サー32が取り付けられていない状態、(b)はスペーサー32が取り付けられた状態を
示している。また、図13(a)は図9における領域Aの拡大図、図13(b)は図9に
おける領域Bの拡大図である。図14は図11における領域Cの拡大図であり、図15は
図12における領域Dの拡大図である。そして、図16は図12における領域Eの拡大図
である。
【0027】
ここで、基本的な構造等は各記録ヘッド18で共通であるため、サブキャリッジ26に
取り付けられる5つの記録ヘッド18のうちの1つを代表として示している。
【0028】
図8〜図16に示すように、記録ヘッド18は、ノズル51に連通する圧力室を含むイ
ンク流路を形成する流路ユニットや、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせる圧電振動
子或いは発熱素子などの圧力発生手段(何れも図示せず)をヘッドケース52に備えてい
る。本実施形態における記録ヘッド18は、平面視においてノズル列方向に長尺である一
方、ノズル列に直交する幅方向に短尺な形状に形成されている。そして、この記録ヘッド
18は、プリンター1の制御部側からの駆動信号を圧力発生手段に印加して圧力発生手段
を駆動することにより、ノズル51からインクを噴射して記録紙等の記録媒体に着弾させ
る記録動作を行うように構成されている。各記録ヘッド18のノズル形成面53には、イ
ンクを噴射するノズル51が複数列設されてノズル列56(ノズル群)が構成され、この
ノズル列56がノズル列に直交する方向に2列並べて形成されている。1つのノズル列5
6は、例えば360dpiのピッチで開設された360個のノズルから成る。
【0029】
ヘッドケース52は、中空箱体状部材であり本発明におけるヘッド本体の一部である。
このヘッドケース52の先端側には、ノズル形成面53を露出させた状態で流路ユニット
が固定されている。また、ヘッドケース52の内部に形成された収容空部内には圧力発生
手段などを収容し、先端面とは反対側の基端面側(上面側)には、流路ユニット側にイン
クを供給するためのサブタンク37が装着されている。また、ヘッドケース52の上面側
におけるノズル列方向の両側には、側方に向けて突出した仲介部材固定部であるフランジ
部57がそれぞれ形成されている。このフランジ部57には、図13に示すように、スペ
ーサー32のヘッド用挿通穴68(図17参照)に対応して、スペーサー取付穴54がそれ
ぞれ開設されている。両側のフランジ部57にスペーサー32をそれぞれ取り付ける際に
、このスペーサー取付穴54にスペーサー固定ボルト27aの軸部が挿通される。
【0030】
スペーサー取付穴54は、フランジ部57において、両側のフランジ部57の並び方向
に直交する方向(スペーサー32との締結箇所同士の並び方向またはノズル列に直交する
方向)であるフランジ幅方向の中央部に、フランジ部57の厚さ方向を貫通した状態で形
成されている。両側のフランジ部57のスペーサー取付穴54のうちの一方(図9(a)
における左側)のスペーサー取付穴54は、図13(a)に示すように平面視において丸
穴形状の貫通穴であり、その内径はスペーサー固定ボルト27aの軸部の外径よりも僅か
に大きく設定されている。これにより、この一方のスペーサー取付穴54は、スペーサー
固定ボルト27aの軸部を円滑に挿通することが可能であり、かつ両者の間にガタツキが
生じ難いように構成されている。これに対し、他方(図9(a)における右側)のスペー
サー取付穴54は、図13(b)に示すように平面視において各スペーサー取付穴54の
並び方向(ノズル列方向)に長尺な長穴となっている。この他方のスペーサー取付穴54
の取付穴並び方向の内径(長径)はスペーサー固定ボルト27aの軸部の外径よりも大き
く設定されており、取付穴並び方向に直交するフランジ幅方向の内径(短径)は一方のス
ペーサー取付穴54の内径に揃えられている。
【0031】
このように、両側のフランジ部57のスペーサー取付穴54のうちの一方を丸穴とし、
他方を長穴とすることにより、両フランジ部57にそれぞれ固定された各スペーサー32
をサブキャリッジ26のヘッド取付部に対してネジ留めする際に、サブキャリッジ26側
の止着穴(図示せず)の間隔とスペーサー取付穴54の間隔との誤差が、長穴の長径の範
囲内で許容される。
【0032】
各スペーサー取付穴54の開口周縁部61は、フランジ部57のスペーサー固定面63
よりも、取り付け状態におけるスペーサー32側に突出している。この開口周縁部61は
、スペーサー取付穴54の開口周囲を囲繞する状態で形成された土手状の突起である。ま
た、フランジ部57のスペーサー固定面63において、スペーサー取付穴54よりもフラ
ンジ幅方向の両外側には、平面視円形状の当接凸部62がそれぞれ形成されている。本実
施形態においては、両側のフランジ部57の外側の隅角部にそれぞれ当接凸部62が設け
られている。この当接凸部62は、フランジ部57のスペーサー固定面63よりも、取り
付け状態におけるスペーサー32側に突出している。
【0033】
さらに、両側のフランジ部57のスペーサー固定面63のうちの一方のフランジ部57
a(図9(a)における左側)には、後述するスペーサー32の位置決め穴77aに対応
して、スペーサー32に対する位置決めの基準となる丸穴76aが開設されている。同様
に、他方のフランジ部57b(図9(a)における右側)には、スペーサー32の位置決
め穴77bに対応して、スペーサー32に対する位置決めの基準となる長穴76bが開設
されている。
【0034】
丸穴76aは、図13(a)に示すように、フランジ部57aにおいて、スペーサー取
付穴54、開口周縁部61、および当接凸部62に干渉しない位置であって、フランジ幅
方向の中心線(図中に符号Oで示す)よりも一方側(図中下側)に外れた位置に、フラン
ジ部57aの厚さ方向を貫通した状態で設けられている。この丸穴76aは、平面視にお
いて丸穴形状の開口を持つ貫通穴であり、その内径は後述する位置決め治具79の位置決
めピン80の外径よりも僅かに大きく設定されている。また、長穴76bは、図13(b
)に示すように、スペーサー取付穴54、開口周縁部61、および当接凸部62に干渉し
ない位置であって、フランジ幅方向の中心線(図中に符号Oで示す)よりも一方側(図中
下側)に外れた位置に、フランジ部57aの厚さ方向を貫通した状態で設けられている。
この長穴76bは、平面視において位置決め穴並設方向に長尺な長円形状の開口を持つ貫
通穴である。この長穴76bの位置決め穴並設方向の内径(長径)は、位置決め治具79
の位置決めピン80の外径よりも十分に大きく設定されており、フランジ幅方向の内径(
短径)は丸穴76aの内径に揃えられている。なお、位置決め治具79によるフランジ部
57に対するスペーサー32の位置決めについては後述する。
【0035】
本実施形態においては、これらの丸穴76aと長穴76bとは、フランジ幅方向の中心
線Oに対してフランジの幅方向の一方側(図中下側)にそれぞれ同じ距離(図中に符号x
で示す)だけ外れた位置に設けられている。即ち、丸穴76aのフランジ幅方向の中心線
Oからの距離と、長穴76bのフランジ幅方向の中心線Oからの距離とが、等しくなるよ
うに設定されている。
【0036】
ヘッドケース52の先端面側には、流路ユニットやノズル形成面53の周縁部を記録紙
等の接触から保護するカバー部材58が取り付けられる。このカバー部材58は、ステン
レス鋼などの導電性を有する薄手の金属板で作製されている。本実施形態におけるカバー
部材58は、中央部分に開口窓部59が開設された額縁状のフレーム部58aと、ヘッド
ケース52への取付け状態でフレーム部58aのノズル列方向両側の縁部からヘッドケー
ス52の側面に沿ってそれぞれ延出した側板部58bと、により概略構成されている。各
側板部58bの先端部は、フランジ部57に沿う形となるように外側に向けて屈曲されて
おり、カバー止着ネジ60によってフランジ部57にネジ留めされている。このカバー部
材58は、流路ユニットやノズル形成面53の周縁部を保護する機能以外に、ノズル形成
面53を接地電位に調整する機能も有している。
【0037】
上記サブタンク37は、流路部材24からのインクを記録ヘッド18の圧力室側に導入
する部材である。サブタンク37は、内部の圧力変動に応じてバルブを開閉し、圧力室側
へのインクの導入を制御する自己封止機能を有している。このサブタンク37の後端面(
上面)におけるノズル列方向の両端部に、上記流路部材24の接続流路が接続される流路
接続部38が設けられている。この流路接続部38には図示しないリング状のパッキンが
嵌め込まれており、このパッキンにより流路部材24との液密性が確保される。また、サ
ブタンク37の内部には、圧力発生手段に駆動信号を供給するための駆動基板が設けられ
ている(図示せず)。サブタンク37の後端面の中央部の開口内には、当該駆動基板にフ
レキシブルケーブル(配線部材の一種。図示せず)を電気的に接続するコネクター49が
配設されている。
【0038】
図17は、スペーサー32(仲介部材の一種)の構成を説明する図であり、(a)は上
方から見た斜視図、(b)は上面図、(c)は正面図、(d)は右側面図、(e)は下方
から見た斜視図、(f)は下面図である。
【0039】
本実施形態におけるスペーサー32は、合成樹脂から成る部材、すなわち樹脂成型によ
り形成される部材であり、1つの記録ヘッド18に対して両側のフランジ部57のスペー
サー固定面63(サブタンク37側の面)にそれぞれ1つずつ、合計2つ取り付けられる
。これらのスペーサー32は、同一形状となっている。そして、記録ヘッド18は、スペ
ーサー32を介してサブキャリッジ26のベース部26aに取り付けられる。このため、
スペーサー32は、サブキャリッジ26のベース部26aに対して高さ方向(ノズル形成
面に垂直な方向)の位置を規定する。ここで、スペーサー32のベース面65から、後述
する基準面突起部74の表面(先端面)までの寸法に関してより高い精度が要求される。
【0040】
これらのスペーサー32は、サブキャリッジ26のベース部26aに当接されるベース
面65を有するスペーサー本体部64と、後端側突起部67および基準面突起部74を有
している。ここで、後端側突起部67および基準面突起部74は、サブキャリッジ26側
からフランジ部57に向けて前記スペーサー本体部64から立ち上がる凸部であり、記録
ヘッド18の幅(短手)方向の両端部に、フランジ部57の先端部に向けてそれぞれ形成
されている。
【0041】
さらに、基準面突起部74は、その表面が、フランジ部57が当接されてサブキャリッ
ジ26に対する記録ヘッド18の高さ位置を規定する基準面となっている。後端側突起部
67は、その表面の高さ位置が基準面突起部74の基準面以下となるように基準面突起部
74に対し記録ヘッド18の長手方向に関する基端部側で隣接されて一体的に形成されて
いる。
【0042】
スペーサー32のベース面65の周縁部には面取り部78a,78b,78c(以下、
C面ともいう)が形成してある。後に詳述するベース面65を介してのスペーサー32の
サブキャリッジ26に対する接着剤による固定の際には、面取り部78a,78b,78
cを介してベース面65に所定の接着剤を注入するようになっている。また、ベース面6
5は、溝90を境として第1の領域85と第2の領域86とに分けられている。ここで、
第1の領域85は、サブキャリッジ26側からスペーサー32をサブキャリッジ26にボ
ルト締結する際のボルトが挿通されるサブキャリッジ用挿通穴69よりも先端側の領域と
してベース面65に形成されている。一方、第2の領域86は、サブキャリッジ用挿通穴
69よりも基端側の領域としてベース面65に形成されている。すなわち、スペーサー3
2は、そのベース面65が、記録ヘッド18とスペーサー32とをボルト締結するための
ボルトが挿通される貫通穴であるサブキャリッジ用挿通穴69の先端側の領域85と基端
側の領域86とに溝90により区画されている。
【0043】
さらに、本実施形態におけるスペーサー32は、そのスペーサー本体部64の幅方向(
フランジ部57に取り付けられた状態におけるフランジ幅方向に相当)の中央部に形成さ
れた中央隆起部66を有しており、後端側突起部67は中央隆起部66に対して幅方向の
両側に離隔して形成されている。平面視において、このスペーサー32の幅方向の寸法は
フランジ部57の幅方向の寸法に概ね揃えられている。また、このスペーサー32がフラ
ンジ部57に正しく取り付けられた状態では、中央隆起部66の一部が、フランジ部57
の突出端面よりも少し側方に突出する。
【0044】
中央隆起部66は、取り付け状態におけるフランジ部57側となる方向に向けてスペー
サー本体部64から隆起している。この中央隆起部66の幅方向両側の側面には、平面視
においてヘッド固定ナット43b(図19参照;以下同じ)の各辺の形状に倣った切欠が
設けられている。この切欠は、後端側突起部67および基準面突起部74の内壁面と共に
ヘッド固定ナット43bの平面方向の姿勢(即ち、締結時の回転)を規制するヘッド固定
ナット用切欠70である。即ち、スペーサー本体部64と、ヘッド固定ナット用切欠70
と、後端側突起部67および基準面突起部74とによって、ヘッド固定ナット43bを収
容する凹部であるヘッド固定ナット収容部72が区画されている。そして、スペーサー3
2がフランジ部57に固定される前の段階で、各ヘッド固定ナット収容部72にヘッド固
定ナット43bがそれぞれ嵌め込まれる。ここで、先端側突起部78の先端側においてフ
ランジ部57側からベース面65側に向かう切欠部84が形成されている。
【0045】
中央隆起部66の奥行き方向の一方(フランジ部57に取り付けた状態においてサブタ
ンク37側とは反対側)の部分は、スペーサー本体部64から側方に突出している。この
突出した部分には、奥行き方向の一方から他方に向けて次第に幅狭となる平面視略三角形
状の治具用切欠71が形成されている。この治具用切欠71には、記録ヘッド18をサブ
キャリッジ26のヘッド取付部に位置決めする際において、ヘッド保持用の治具が嵌合さ
れる。
【0046】
中央隆起部66の幅方向の中央部分には、記録ヘッド18におけるフランジ部57のス
ペーサー取付穴54に対応してヘッド用挿通穴68が設けられている。このヘッド用挿通
穴68は、図17(b)に示すように平面視において丸穴形状の貫通穴である。このヘッ
ド用挿通穴68の内径は、スペーサー固定ボルト27a(図19参照;以下同じ)の軸部
の外径よりも僅かに大きく設定されており、スペーサー取付穴54の内径に揃えられてい
る。ヘッド用挿通穴68の挿通穴周縁部73は、中央隆起部66の突出端面よりも、取り
付け状態におけるフランジ部57側に突出している。この挿通穴周縁部73は、平面視に
おいてヘッド用挿通穴68の開口周囲を囲繞する土手状の突起であり、フランジ部57の
開口周縁部61に対応する位置に設けられている。
【0047】
中央隆起部66の両側に設けられたヘッド固定ナット収容部72には、サブキャリッジ
26のベース部26aに設けられた止着穴に対応して、サブキャリッジ用挿通穴69がそ
れぞれ設けられている。これらのサブキャリッジ用挿通穴69は、図17(b)に示すよ
うに平面視において丸穴形状の貫通穴であり、その内径はヘッド固定ボルト43a(図1
9参照;以下同じ)の軸部の外径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、サブ
キャリッジ用挿通穴69は、ヘッド固定ボルト43aの軸部を円滑に挿通することが可能
であり、尚かつ、両者の間にガタツキが生じ難いように構成されている。このように、1
つのスペーサー32には、1つのヘッド用挿通穴68と2つのサブキャリッジ用挿通穴6
9が各々設けられている。即ち、スペーサー32とサブキャリッジ26とのヘッド固定ボ
ルト43aおよびヘッド固定ナット43bによる締結箇所は、スペーサー32とフランジ
部57との締結箇所よりも幅方向の外側となる。
【0048】
スペーサー32のベース面65側において、幅方向の中央部には、スペーサー固定ナッ
ト収容部75が形成されている。このスペーサー固定ナット収容部75は、平面視におい
てスペーサー固定ナット27bの一部の形状に倣った窪みであり、ベース面65からスペ
ーサー32の厚さ方向の途中まで窪んでいる。スペーサー固定ナット収容部75にスペー
サー固定ナット27bが嵌め込まれて窪みの底部に着座した状態では、このスペーサー固
定ナット収容部75の内壁面によってスペーサー固定ナット27bの平面方向の姿勢が規
制される。即ち、スペーサー固定ボルト27aとの締結時のスペーサー固定ナット27b
の回転が防止される。また、このスペーサー固定ナット収容部75の窪みの底部には、ヘ
ッド用挿通穴68が開口している。
【0049】
本実施形態における位置決め穴77は、平面視円形の貫通穴である。一対の位置決め穴
77のうちの一方の位置決め穴77a(図17(b)における左側)は、スペーサー32
において、当該スペーサー32がフランジ部57aに取り付けられた状態における丸穴7
6aに対応する位置に設けられている。これに対して、他方の位置決め穴77b(図17
(b)における右側)は、スペーサー32において、当該スペーサー32がフランジ部5
7bに取り付けられた状態における長穴76bに対応する位置に設けられている。即ち、
各スペーサー32には、フランジ部57aの丸穴76aに対応する位置決め穴77aと、
フランジ部75bの長穴76bに対応する位置決め穴77bと、がそれぞれ開設されてい
る。
【0050】
次に、図18の模式図を参照して、記録ヘッド18の両側のフランジ部57a,57b
にそれぞれスペーサー32を位置決めする工程について説明する。このスペーサー位置決
め工程では、まず、位置決め治具79に記録ヘッド18がセットされる。位置決め治具7
9には、一対の位置決めピン80a,80bが立設されており、一方の位置決めピン80
aをフランジ部57aの丸穴76aに挿通すると共に、他方の位置決めピン80bをフラ
ンジ部57bの長穴76bに挿通することで、位置決め治具79に対する記録ヘッド18
の平面方向(ノズル形成面に平行な面方向)の位置が規定される。ここで、長穴76bの
位置決め穴並設方向の内径は、位置決めピン80の外径よりも大きく設定されているので
、丸穴76aと長穴76bとの間隔と、位置決めピン80a,80bの間隔との間の誤差
が、位置決めピン80bと長穴76bとの間に生じる間隙の範囲内で許容される。
【0051】
記録ヘッド18を位置決め治具79にセットした後、当該記録ヘッド18の両側のフラ
ンジ部57a,57bに、それぞれスペーサー32が配置される。各スペーサー32は、
挿通穴周縁部73をフランジ部57の開口周縁部61に対向させると共に、治具用切欠7
1を互いに反対側(外側)に向けて、ヘッド本体を中心として対称な姿勢(即ち、180
°回転した姿勢)でフランジ部57にそれぞれ配置される。
【0052】
このとき、一方のフランジ部57aに配置されるスペーサー32は、フランジ部57a
の丸穴76aから突出した一方の位置決めピン80aが位置決め穴77aに挿入されるこ
とで、当該フランジ部57aに対して位置決めされる。なお、位置決め穴77aを中心と
したスペーサー32の回転については、図示しない他の治具によって規制される。同様に
、他方のフランジ部57bに配置されるスペーサー32は、フランジ部57bの長穴76
bから突出した他方の位置決めピン80bが位置決め穴77bに挿入されることで、当該
フランジ部57bに対して位置決めされる。そして、各スペーサー32は、位置決めされ
た状態でスペーサー固定ボルト27aおよびスペーサー固定ナット27bによってフラン
ジ部57に締結される。このようにして、各フランジ部57a,57bに対してスペーサ
ー32が互いに対称となる向きで位置決めされて固定される。
【0053】
上述の工程により、記録ヘッド18の両側のフランジ部57にそれぞれスペーサー32
が固定された後、サブキャリッジ26のヘッド取付部に対する記録ヘッド18の位置決め
固定を行う。
【0054】
図19はスペーサーを固定した記録ヘッドをサブキャリッジに固定する場合の工程を説
明する模式図である。
【0055】
図18に示すスペーサー32を記録ヘッド18に対して位置決め固定する工程で、記録
ヘッド18とスペーサー32とが一体化されて図19(a)に示す状態となっている。か
かる状態で、スペーサー32のヘッド固定ナット収容部72にはヘッド固定ナット43b
が収納されてその開口部がフランジ部57a,57bで閉塞されている。そこで、スペー
サー32のベース面65の第1の領域85と第2の領域86をサブキャリッジ26のベー
ス部26aに当接させて載置する。その後、例えばサブキャリッジ26のベース部26a
におけるヘッド取付部にセットされた記録ヘッド18のノズル形成面53をCCDカメラ
等の撮像手段を用いて観察しながら、当該ノズル形成面53の予め定められた複数(少な
くとも2箇所)の特定のノズル51が規定位置にアライメントされるように、ベース部2
6a上における記録ヘッド18の位置を調整する。
【0056】
かかる位置決めが終了した後、図19(b)に示すように、記録ヘッド18と一体化さ
れているスペーサー32をベース部26aに対して第1の接着剤87によって仮接着する
。この仮接着は、第1の接着剤87をベース面65の第1の領域85に塗布することによ
り行う。かかる塗布は、第1の領域85の周囲に形成された面取り部78a,78bを介
して第1の領域85とベース部26aとの間に第1の接着剤87を注入することにより良
好に行うことができる。ここで、第1の領域85と第2の領域86とは溝90で区画され
ているので、第1の接着剤87が第2の領域86に回り込むのを好適に防止し得る。また
、かかる仮接着に用いられる接着剤としては、シアノアクリレートを主成分とした所謂瞬
間接着剤が好適である。ただ、完全に硬化した状態でサブキャリッジ26に対して記録ヘ
ッド18がガタつくことなく固定される程度の剛性を発揮するものであれば、任意の接着
剤を用いることができる。例えば、紫外線硬化型の接着剤を採用することも可能である。
この場合、スペーサー32又はサブキャリッジ26を、透光性を有する素材で作製するこ
とが望ましい。
【0057】
そして、接着剤が硬化した後、図19(c)に示すように、ヘッド固定ボルト43aお
よびヘッド固定ナット43bによってスペーサー32とベース部26aとをボルト締結に
より強固に固定する。かくして記録ヘッド18がベース部26aの所定位置に本固定され
る。
【0058】
本形態では、図19(d)に示すように、さらに本固定された記録ヘッド18を第2の
接着剤88を用いてボルト締結を補強するための2次接着を行う。具体的には、スペーサ
ー32とともにベース部26aにボルト締結により本固定されているスペーサー32の第
2の領域86とベース部26aとの間に第2の接着剤88を塗布する。かかる塗布は、第
2の領域86の周囲に形成された面取り部78cを介して第2の領域86とベース部26
aとの間に第2の接着剤88を注入することにより良好に行うことができる。ここで、第
1の領域85と第2の領域86とは溝90で区画されているので、第2の接着剤88が第
1の領域85に回り込むのを好適に防止し得る。また、かかる補強に用いられる接着剤と
しては、次の工程に製品を流す必要はないので、接着に時間をかけることができる。した
がって、熱硬化性の接着剤を好適に適用し得る。
【0059】
このような手順でサブキャリッジ26に対して各記録ヘッド18が取り付けられる。そ
の後、図示はしないが、流路部材24が、サブキャリッジ26に固定される。この際、流
路部材24の接続流路40が各記録ヘッド18のサブタンク37の流路接続部38にそれ
ぞれ挿入されて液密状態で連結される。なお、流路部材24は、各記録ヘッド18がサブ
キャリッジ26に取り付けられる前の段階で、サブキャリッジ26に固定されるようにし
ても良い。
【0060】
以上の工程を経てヘッドユニット17が完成する。このヘッドユニット17は、上述し
たように、キャリッジ本体12の底板部12aの底部開口19から各記録ヘッド18のノ
ズル形成面53を露出させた状態で、キャリッジ本体12の内部に収容され、キャリッジ
本体12に対するヘッドユニット17の位置や傾きなどの姿勢が調整された後、ヘッドユ
ニット固定ネジ22によりネジ留めされて固定される。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のヘッドユニット17では、仮接着により各記録ヘッ
ド18のアライメントを良好に調整した状態でヘッド固定ボルト43aおよびヘッド固定
ナット43bによるボルト締結を行っているので、高精度で強固な固定が行われる。本形
態では、さらにボルト締結を第2の接着剤88による固定により補強しているので、振動
等が作用する過酷な環境にあっても、長期に亘り安定した固定状態を維持し得る。
【0062】
ここで、第1の領域85は、サブキャリッジ26側からスペーサー32をボルト締結す
るためのヘッド固定ボルト43aが挿通される位置よりもスペーサー32の先端側の領域
であり、第2の領域86は、スペーサー32の基端側の領域であり、しかも第1および第
2の領域85,86の間は溝90で区画されている。
【0063】
この結果、スペーサー32をヘッド固定ボルト43aでボルト締結する際に接着面に作
用する締結トルクはスペーサー32の先端部ほど大きくなるのに対し、ボルト締結に先立
つ仮接着を先端部で行っているので、アライメントされた記録ヘッド18の位置をより確
実且つ容易に保持することができる。また、仮接着の部位はヘッド固定ボルト43aの近
傍が望ましいが、かかる要件も備えることができる。さらに、前記第1および第2の領域
85,86を溝90で区画しているので、両領域85,86に塗布する接着剤87,88
が混じり合うことなく、それぞれの機能を十分発揮させることができる。すなわち、仮接
着を行う第1の接着剤87には工程の迅速化の観点から速乾性が求められ、補強接着を行
う第2の接着剤88には接着力の長期安定性が求められるが、それぞれの仕様を考慮した
適切な接着剤87,88を使い分けることができる。ちなみに、この場合の第1の接着剤
87は、記録ヘッド18のアライメント位置への位置決めという観点から、衝撃等に弱く
、長期間の安定的な固着には向かないが、速乾性があり工程の短縮化に寄与し得る瞬間接
着剤が好適であり、第2の接着剤88は長期に亘り安定した強固な接着力を維持し得る、
例えば熱硬化性の接着剤が好適である。
【0064】
また、前記第1および第2の接着剤87,88は、スペーサー32のベース面65の周
縁部に形成された面取り部78a,78b,78cを介して注入することができるので、
当該接着作業が容易になるばかりでなく、注入した接着剤87,88の接着面への回り込
みも良好に行わせることができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、記録ヘッド18におけるスペーサー32が固定される
フランジ部57を、ヘッドケース52を間に挟んで両側にそれぞれ有し、各フランジ部5
7a,57bには、記録ヘッド18におけるノズル列56に直交する幅方向の中心部に、
スペーサー32を取り付けるスペーサー取付穴54がそれぞれ設けられると共に、幅方向
の中心線O上から外れた位置に、スペーサー32に対する位置決めの基準となる丸穴76
aと長穴76bとがそれぞれ設けられ、各スペーサー32には、各フランジ部57a,5
7bの丸穴76aと長穴76bに対応する位置に、フランジ部57a,57bに対する位
置決めの基準となる位置決め穴77a,77bがそれぞれ設けられ、両側のフランジ部5
7a,57bには、丸穴76aと長穴76bに対して位置決め穴77a,77bの位置を
合わせて位置決めされた状態でスペーサー32が、互いに対称となる向きでそれぞれ固定
される構成を採用しているので、記録ヘッド18の両側のフランジ部57a,57bに固
定されるスペーサー32の部品の共通化、形状・寸法管理の共通化が可能となる。これに
より、スペーサー32の形状・寸法のばらつきが低減される。この結果、スペーサー32
の形状・寸法のばらつきに起因するサブキャリッジ26に対する記録ヘッド18の傾きを
可及的に抑制することができる。特に、各スペーサー32には、それぞれ、各フランジ部
57a,57bの丸穴76aと長穴76bに対応して合計2箇所に位置決め穴77a,7
7bが設けられるので、スペーサー32を可及的に小型化した上でスペーサー取付穴54
をフランジ部57の中心部に設ける関係から、やむを得ず、フランジ部57において幅方
向の中心線上から外れた位置に丸穴76aと長穴76bを設ける構成においても、各スペ
ーサー32の共通化が可能となる。これにより、各スペーサー32の形状・寸法のばらつ
きが低減される。
【0066】
また、スペーサー32におけるノズル列56に直交する方向の幅は、記録ヘッド18に
おけるノズル列に直交する方向の幅よりも幅狭に形成されるので、複数の記録ヘッド18
を並べて配置する場合に、隣り合う液体噴射ヘッド間で仲介部材が干渉することが防止さ
れる。これにより、サブキャリッジ26における各記録ヘッド18間のピッチを狭めるこ
とができる。その結果、ヘッドユニット17の小型化が可能となる。
【0067】
なお、少なくとも、同一の記録ヘッド18の両側のフランジ部57に固定される各スペ
ーサー32は、同一の金型によって作製されたものを使用することが望ましい。これによ
り、同一の記録ヘッド18の両側のフランジ部57に固定される各スペーサー32の寸法
・形状を可及的に揃えることができる。これにより、サブキャリッジ26に対する記録ヘ
ッド18の傾きをより確実に防止することができる。
【0068】
なお、本発明は、上記した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記
載に基づいて種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、上記各実施形態では、記録媒体に対して記録ヘッド18を往復移動させながら
インクの噴射を行う構成を例示したが、これには限られない。例えば、記録ヘッド18の
位置を固定した状態で、当該記録ヘッド18に対して記録媒体を移動させながらインクの
噴射を行う構成を採用することもできる。
【0070】
そして、以上では、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター1を例に挙
げて説明したが、本発明は、ヘッド固定部材に対して仲介部材を介在させた状態で液体噴
射ヘッドが固定される構成を採用する他の液体噴射装置にも適用することができる。例え
ば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL
(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成
する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,ごく少量
の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…プリンター,17…ヘッドユニット,18…記録ヘッド,26…サブキャリッジ,
27a スペーサー固定ボルト、 27b スペーサー固定ナット、 32…スペーサー
,43a ヘッド固定ボルト、 43b ヘッド固定ナット、 51…ノズル,52…ヘ
ッドケース,53…ノズル形成面,54…スペーサー取付穴,56…ノズル列,57…フ
ランジ部,65…ベース面,78a,78b,78c…面取り部、 85,86…領域,
87,88…接着剤、90…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが仲介部材を介
して固定されるヘッド固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットの製造方法であって、
前記液体噴射ヘッド側からボルト締結により前記仲介部材を前記液体噴射ヘッドに固定
する工程と、
前記ヘッド固定部材に当接される前記仲介部材の面の一部である第1の領域と前記ヘッ
ド固定部材との間に第1の接着剤を塗布して前記ボルト締結により一体となった前記液体
噴射ヘッドを仲介部材を介して前記ヘッド固定部材に仮固定する工程と、
仮固定された前記仲介部材を前記ヘッド固定部材側から前記ヘッド固定部材にボルト締
結により固定する工程と、
前記仲介部材の前記面の他の一部である第2の領域と前記ヘッド固定部材との間に第2
の接着剤を塗布して前記仲介部材を前記ヘッド固定部材に接着固定する工程とを有するこ
とを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドユニットの製造方法において、
前記第1の領域は、前記ヘッド固定部材側から前記仲介部材をボルト締結するボルトが
挿通される挿通穴よりも前記仲介部材の先端側の領域であり、前記第2の領域は、前記挿
通穴よりも前記仲介部材の基端側の領域であり、しかも前記第1および第2の領域の間は
溝で区画されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する液体噴射ヘッドユニットの製造方法において、
前記第1および第2の接着剤は、前記仲介部材の前記面の周縁部に形成された面取り部
を介して注入することを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項4】
液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが仲介部材を介
して固定されるヘッド固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットであって、
前記液体噴射ヘッドには、前記液体噴射ヘッド側からのボルト締結により前記仲介部材
が固定されており、
前記仲介部材は、前記ヘッド固定部材に当接される面の一部である第1の領域が前記ヘ
ッド固定部材に第1の接着剤で固着されるとともに、前記面の他の一部である第2の領域
が前記ヘッド固定部材に第2の接着剤で固着され、さらに前記ヘッド固定部材側からのボ
ルト締結により前記ヘッド固定部材に固定されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユ
ニット。
【請求項5】
請求項4に記載する液体噴射ヘッドユニットにおいて、
前記第1の領域は、前記ヘッド固定部材側から前記仲介部材をボルト締結するボルトが
挿通される挿通穴よりも前記仲介部材の先端側の領域であり、前記第2の領域は、前記挿
通穴よりも前記仲介部材の基端側の領域であり、しかも前記第1および第2の領域の間は
溝で区画されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載する液体噴射ヘッドユニットを搭載したことを特徴とす
る液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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