説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】ノズル開口を高密度化すると共に、液体吐出特性のばらつき及び低下を抑制した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】流路形成基板10の圧力発生室12の幅方向における隔壁11は、圧力発生手段300側に設けられた幅狭部18と、圧力発生手段300とは反対側に設けられて幅狭部18よりも大きな幅を有する幅広部19とを有し、幅狭部18の幅が、幅広部19の幅の1/10以上の大きさで且つ幅狭部18が5μm〜15μmの幅を有し、幅狭部18の圧力発生室12の深さ方向の長さが、圧力発生室12の深さよりも短く、且つ圧力発生室12の深さの1/10以上の長さを有し、幅狭部18の長さが2μm〜20μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表的な例としては、ノズルからインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、インク滴を噴射するノズルと連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものがある。また、インクジェット式記録ヘッドに採用される圧電素子としては、例えば、一対の電極とこれらの電極間に挟持される圧電体層とからなるものが知られている。
【0003】
また、圧力発生室の振動板側を幅広にしたインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3882936号公報
【特許文献2】特開平11−227190号公報
【特許文献3】特開2004−209874号公報
【特許文献4】特許第3713921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル開口の高密度化に伴い、圧力発生室を画成する隔壁が薄くなって剛性が低下してしまうという問題がある。そして、隔壁の剛性が低下すると、あるノズル開口からインクを吐出した際に圧力発生手段の動作による圧力発生室のインクの圧力変動に伴い、隔壁が隣の圧力発生室側にたわみ変形して、圧力損失(クロストーク)が発生し、インクの飛翔速度の低下や、インク吐出量の減少等の吐出特性が変化してしまう虞がある。また、隔壁の剛性を向上するために、隔壁の厚さ(圧力発生室の並設方向における幅)を厚くすると、圧力発生室の容積の減少や、圧力発生手段が変位を行う領域が減少し、所望のインク吐出特性を得ることができない。
【0006】
ちなみに、特許文献1〜4の構成では、幅広部が設けられているものが開示されているものの、クロストークを抑制する隔壁の厚さの規定が行われていない。
【0007】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに限定されず、他の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、ノズル開口を高密度化すると共に、液体吐出特性のばらつき及び低下を抑制した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室がその幅方向に隔壁によって区画されて複数設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、を具備し、前記流路形成基板の前記圧力発生室の幅方向における前記隔壁は、前記圧力発生手段側に設けられた幅狭部と、前記圧力発生手段とは反対側に設けられて前記幅狭部よりも大きな幅を有する幅広部とを有し、前記幅狭部の幅が、前記幅広部の幅の1/10以上の大きさを有すると共に、前記幅狭部が5μm〜15μmの幅を有し、前記圧力発生室の前記圧力発生手段が設けられた一方面から他方面に向かう方向において、前記幅狭部の長さが、前記圧力発生室の深さよりも短く、且つ前記圧力発生室の深さの1/10以上の長さを有し、前記幅狭部の長さが2μm〜20μmであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0010】
かかる態様では、隔壁を圧力発生手段側に設けた幅狭部と、幅広部とで構成するようにしたため、幅狭部のみで構成した隔壁に比べて、幅広部によって隔壁の剛性を高めることができる。これにより、圧力発生室を従来と同様に高密度に配設しても、隔壁による圧力発生室間の圧力損失(クロストーク)の発生を低減して、液体吐出特性を向上することができる。また、隔壁の剛性を高めて隔壁を変形し難くすることで、隔壁を挟んで隣り合うノズル開口から液体を同時に吐出した場合と、隔壁を挟んで隣り合うノズル開口の何れか一方からのみ液体を吐出した場合とで、液体吐出特性を揃えることができる。さらに、隔壁の圧力発生手段側に幅狭部を形成することによって、圧力発生室の幅を拡幅した拡幅部を設けることができる。この拡幅部によって、圧力発生手段の変位に利用できる振動可能領域を広げることができ、圧力発生手段の変位特性を向上することができ、液体吐出特性を向上することができる。
【0011】
また、前記隔壁の前記幅広部によって画成される凹部の内面が、曲面状に形成されていることが好ましい。これによれば、凹部内の角部に気泡が滞留するなどの不具合の発生を抑制することができる。
【0012】
また、前記流路形成基板の前記圧力発生手段側には、振動板が形成されていることが好ましく、前記振動板に前記幅狭部の少なくとも一部が形成されていてもよい。これによれば、振動板の振動領域を広げて液体吐出特性を向上することができる。
【0013】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0014】
かかる態様では、高密度印刷及び印刷品質を向上することができる液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図及びA−A′断面図であり、図3は、図2(b)のB−B′断面図である。
【0017】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIを構成する流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化シリコンを主成分とする弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12が、その幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられており、隔壁11によって圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15が画成されている。
【0019】
また、各圧力発生室12の弾性膜50側(後述する圧力発生手段である圧電素子300側)には、圧力発生室12の幅(圧力発生室12の並設方向である短手方向の幅)方向に広がった拡幅部16が長手方向に沿って設けられている。この拡幅部16は、圧力発生室12を画成する隔壁11の弾性膜50側に圧力発生室12の長手方向に亘って設けられた凹部17によって画成されている。
【0020】
このように隔壁11に凹部17を形成することで、隣り合う圧力発生室12の間の隔壁11には、弾性膜50側の凹部17が形成された領域に幅(厚さ)が狭い幅狭部18と、凹部17が形成されておらず、幅狭部18よりも幅(厚さ)が大きな幅広部19とが設けられている。
【0021】
ここで、幅狭部18の幅Wは、隔壁11の幅広部19の幅Wに対して、1.0<(W/W)≦10を満たす条件で形成されている。言い換えると、幅狭部18の幅Wは、幅広部19の幅Wよりも狭く、且つ1/10以上の大きさを有するものである。また、幅狭部18の幅Wは、5μm〜15μmで形成されている。
【0022】
また、流路形成基板10の厚さ方向、すなわち、弾性膜50(詳しくは後述する圧力発生手段である圧電素子300)が設けられた一方面から他方面(圧力発生室12が開口する面)に向かう幅狭部18の長さDは、圧力発生室12の深さDに対して、1.0<(D/D)≦10を満たす条件で形成されている。ちなみに、幅狭部18の長さDは、凹部17の深さのことである。また、幅狭部18の長さDは、2μm〜20μmで形成されている。
【0023】
また、凹部17の内面は、曲面状に形成されている。凹部17の内面が曲面状とは、凹部17に内面に角部が存在しないことを言う。このように凹部17の内面を曲面状とすることで、凹部17の内面の角部に気泡が付着するなどを不具合を抑制することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、凹部17を隔壁11の圧力発生室12を画成する領域のみに形成したが、凹部17を圧力発生室12、インク供給路14、連通路15を画成する領域に亘って連続して設けるようにしてもよい。もちろん、圧力発生室12の幅方向を画成する隔壁11のみに限定されず、圧力発生室12の短手方向の端部を画成する壁部にも、凹部17を形成するようにしてもよい。
【0025】
このような圧力発生室12、連通部13、インク供給路14、連通路15及び凹部17は、流路形成基板10をエッチングすることで形成することができる。これらの製造方法については、詳しくは後述する。
【0026】
また、流路形成基板10の弾性膜50が形成された一方面とは反対側の他方面である開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0027】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウムを主成分とする絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、が積層形成されて圧電素子300(本実施形態の圧力発生手段)を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、駆動により変位が生じる圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0028】
圧電体層70は、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABOで示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。
【0029】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を0.5〜5μm前後の厚さで形成した。
【0030】
圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0031】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0032】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0033】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0034】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0035】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0036】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0037】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、インクカートリッジやインクタンクなどのインク貯留手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0038】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、圧力発生室12を画成する隔壁11を圧力発生手段である圧電素子300側に設けた幅狭部18と、圧電素子300とは反対側に設けた幅広部19とで構成するようにした。このため、幅狭部18のみで構成した隔壁に比べて、幅広部19によって隔壁11の剛性を高めることができる。これにより、圧力発生室12を従来と同様に高密度に配設しても、隔壁11による圧力発生室12間の圧力損失(クロストーク)の発生を低減して、インク吐出特性を向上することができる。
【0039】
また、隔壁11の剛性を高めて隔壁11を変形し難くすることで、隔壁11を挟んで隣り合うノズル開口21からインクを吐出した場合と、隔壁11を挟んで隣り合うノズル開口21の一方からインクを吐出し、他方からインクを吐出させない場合とで、インク吐出特性を揃えることができる。ちなみに、吐出条件(インクを吐出するノズル開口21の数など)が異なる場合に隔壁11の変形量に変化が生じると、圧力損失(圧力発生室12間のクロストーク)が発生してインク吐出特性を揃えることができない。
【0040】
さらに、隔壁11の圧電素子300側に幅狭部18を形成することによって、圧力発生室12の圧電素子300側に圧力発生室12の幅を拡幅した拡幅部16を設けることができる。この拡幅部16によって、圧電素子300の変位に利用できる振動可能領域を広げることができ、圧電素子300の変位特性を向上することができる。ちなみに、幅広部19のみで隔壁を形成すると、圧力発生室12の圧電素子300側の開口面積が狭くなり、振動可能領域が減少して圧電素子300に所望の変位を行わせることができなくなる。
【0041】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドIを製造する製造方法の一例について図4〜図7を参照して説明する。なお、図4〜図7は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の並設方向の断面図である。
【0042】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300が形成される面側に不純物をドーピングして、ドープ層111を形成する。
【0043】
ここで、ドープ層111にドーピングする不純物としては、例えば、ボロンが挙げられる。このようにボロンがドーピングされたドープ層111は、後の工程でアルカリ溶液を用いた異方性エッチングを行った際に、シリコン単結晶基板である流路形成基板用ウェハー110の他の領域に比べてエッチングレートが早い。そして、後の工程で、不純物がドーピングされたドープ層111と他の領域とのエッチングレートの違いを利用して、ドープ層111に凹部17を形成する。したがって、不純物がドーピングされたドープ層111の厚さは、凹部17の深さ(D)に基づいて規定すればよい。
【0044】
次に、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の一方面(ドープ層111側)に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。二酸化シリコン膜51は、例えば、スパッタリング法又は化学蒸着法(CVD法)によって形成することができる。また、二酸化シリコン膜51は、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することで形成することもできる。二酸化シリコン膜51を熱酸化により形成した場合には、流路形成基板用ウェハー110の一方面にはドープ層111が形成されているため、二酸化シリコン膜51は、二酸化シリコンを主成分として不純物がドーピングされたものとなる。すなわち、二酸化シリコン膜51は、ボロンがドープされた酸化シリコンで形成される。
【0045】
次に、図4(c)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。本実施形態では、弾性膜50上に、ジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウムを主成分とする絶縁体膜55を形成した。
【0046】
次に、図4(d)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0047】
次に、図5(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる第2電極80とを流路形成基板用ウェハー110の全面に形成する。なお、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0048】
次に、図5(b)に示すように、第2電極80及び圧電体層70を同時にエッチングすることにより各圧力発生室12に対応する領域に圧電素子300を形成する。ここで、第2電極80及び圧電体層70のエッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0049】
次に、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0050】
次に、図6(a)に示すように、保護基板用ウェハー130を、流路形成基板用ウェハー110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハー130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハー130には、リザーバー部31及び圧電素子保持部32が予め形成されている。保護基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。
【0051】
次いで、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
【0052】
次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0053】
このとき、上述のように流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側には、不純物がドープされたドープ層111が形成されており、このドープ層111は、他の領域(不純物がドーピングされていないシリコン領域)に比べてエッチングレートが早いため、ドープ層111に圧力発生室12の幅が拡幅された拡幅部16(凹部17)が形成される。これにより、隔壁11には、圧電素子300側に幅狭部18が形成されると共に、圧電素子300とは反対側に幅狭部18よりも幅(厚さ)が大きな幅広部19が形成される。
【0054】
また、幅狭部18を形成する凹部17は、ドープ層111をエッチングすることにより形成されるため、その内面が曲面状に形成される。
【0055】
その後は、流路形成基板用ウェハー110表面のマスク膜52を除去し、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0056】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の並設方向の要部断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
図8に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、圧力発生室12Aが、弾性膜50の厚さ方向の途中まで延設されているものである。具体的には、圧力発生室12Aの圧電素子300側には、拡幅部16Aが形成されており、この拡幅部16Aが、流路形成基板10と弾性膜50とに跨って設けられている。すなわち、圧力発生室12Aの並設方向(幅方向)を画成する隔壁11Aは、流路形成基板10と弾性膜50の厚さ方向の一部とで構成されており、隔壁11Aの凹部17Aが流路形成基板10と弾性膜50との境界部分に形成されることで、隔壁11Aの幅狭部18Aは流路形成基板10と弾性膜50の厚さ方向の一部で形成されている。一方、隔壁11Aの幅広部19は、流路形成基板10のみで形成されている。
このような構成としても、上述した実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の並設方向の要部断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0059】
図9に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、圧力発生室12Bが弾性膜50を厚さ方向に貫通して設けられている。具体的には、圧力発生室12Bの圧電素子300側には、拡幅部16Bが形成されており、この拡幅部16Bが、弾性膜50を厚さ方向に貫通して設けられている。すなわち、隔壁11Bは、流路形成基板10と弾性膜50とで構成されており、隔壁11Bの凹部17Bが弾性膜50に形成されることで、隔壁11Bの幅狭部18Bは弾性膜50のみで形成されている。一方、隔壁11Bの幅広部19は、流路形成基板10のみで形成されている。
このような構成としても、上述した実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0060】
ちなみに、上述した実施形態2及び3の凹部17A、17Bの製造方法は、特に限定されず、例えば、圧力発生室12A、12Bの流路形成基板10を貫通する一部のみを異方性エッチングで形成後、圧力発生室12A、12Bの弾性膜50側をさらにドライエッチングや等方性エッチングすることによって拡幅部16A、16B(凹部17A、17B)を形成するようにしてもよい。なお、異方性エッチングであっても、横方向(幅方向)にオーバーエッチングされるため、拡幅部16A、16B(凹部17A、17B)を形成することができる。
【0061】
また、他の方法としては、例えば、圧力発生室12A、12Bの流路形成基板10を貫通する一部を異方性エッチングで形成後、流路形成基板10のみで形成された隔壁11A、11B上に耐エッチング性を有する保護膜を形成し、その後、さらにエッチングすることによって、拡幅部16A、16B(凹部17A、17B)を形成するようにしてもよい。もちろん、これらの方法は、上述した実施形態2及び3に限定されるものではなく、上述した実施形態1の拡幅部16(凹部17)も同様の方法で形成することができる。
【0062】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0063】
また、上述した実施形態1では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエーター装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエーター装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエーター装置などを使用することができる。また、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0064】
また、これら上述したインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0065】
図10に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0066】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0067】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0068】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【0069】
また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置IIを挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 11、11A、11B 隔壁、 12、12A、12B 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 16、16A、16B 拡幅部、 17、17A、17B 凹部、 18、18A、18B 幅狭部、 19 幅広部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 121 接続配線、 300 圧電素子(圧力発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室がその幅方向に隔壁によって区画されて複数設けられた流路形成基板と、
前記流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、を具備し、
前記流路形成基板の前記圧力発生室の幅方向における前記隔壁は、前記圧力発生手段側に設けられた幅狭部と、前記圧力発生手段とは反対側に設けられて前記幅狭部よりも大きな幅を有する幅広部とを有し、
前記幅狭部の幅が、前記幅広部の幅の1/10以上の大きさを有すると共に、前記幅狭部が5μm〜15μmの幅を有し、
前記圧力発生室の前記圧力発生手段が設けられた一方面から他方面に向かう方向において、前記幅狭部の長さが、前記圧力発生室の深さよりも短く、且つ前記圧力発生室の深さの1/10以上の長さを有し、前記幅狭部の長さが2μm〜20μmであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記隔壁の前記幅広部によって画成される凹部の内面が、曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記流路形成基板の前記圧力発生手段側には、振動板が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記振動板に前記幅狭部の少なくとも一部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−228274(P2010−228274A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77849(P2009−77849)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】