説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッドの上流側で漏洩した液体が複数の部材を組み合わせた境界部分の隙間から前記部材が形成する内部の空間に浸入するのを抑制し得る構造とした液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体と、ケース部材と、流路部材と、回路基板とを有する液体噴射ヘッドであって、ケース部材の壁面部63の上端面64と、カバー部材の壁面部88の下端面65とが相対向するように構成され、しかも下端面65は、その外周側において下方に突出するとともに上端面64との間に間隙Gを介して相対向する凸部67を有する一方、上端面64は、壁面部88の内周面よりも内周面側で上方に突出するとともに外周側の凸部67の先端面67Aよりも上方に先端面66Aが位置する凸部66を有し、さらに外周側の凸部67と内周側の凸部66との間に間隙Gに連通された液体貯留部となる空間68を有し、しかも凸部66の先端面66Aにおける外周側の端部と下端面65との間はインクのメニスカスが形成される寸法となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体貯留手段から液体供給路を介してヘッド本体に供給された液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドに適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」ともいう)は、一般的に、インクが充填されたインクカートリッジ(液体貯留手段)からインク流路(液体流路)を介してヘッド本体の圧力発生室にインクが供給されるように構成されている。そして、圧電素子等の圧力発生手段によって、圧力発生室内に圧力を付与することで、圧力発生室に連通するノズルからインク滴が噴射されるようになっている。
【0003】
記録ヘッドの具体的な構成としては、例えば、ヘッド本体と、複数のヘッド本体が固定されるヘッドケースと、ヘッドケースが固定されるカートリッジケースとを備え、前記ヘッドケースとカートリッジケースとの間に、圧電素子を駆動するための信号を供給する回路基板が収納・固定されたものがある(例えば、特許文献1参照)。ここで、回路基板には、通常コネクターが配設されており、該コネクターを介して外部配線が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−11383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如くヘッドケースと、カートリッジケースとを備え、ヘッドケースとカートリッジケースとの間に、回路基板が収納・固定された記録ヘッドでは、何らかの原因で漏洩したインクがカートリッジケースの表面を伝わり、ヘッドケースとカートリッジケースとの間の隙間から内部に侵入して回路基板に回り込む事態が懸念される。
【0006】
このため、従来は、例えばヘッドケースとカートリッジケースとの間の隙間を可及的に小さくするとともに、必要な箇所には充填材を施す等の対策を採っていた。
【0007】
ところが、前記記録ヘッドを有するインクジェット式記録装置(以下、「記録装置」ともいう)では、その製造工程内での組み立て直しや、リユース等の際に分解が必要となる場合がある。かかる分解に際し、前述の如き充填材が施されていると所定の分解を行い難く、また分解後の充填剤の剥離・洗浄に工数を要する。この結果、充填材を使用すればコスト(補材費、労務費)の高騰の原因となる。
【0008】
また、前記コネクターは外部配線が接続される接続口が外部に向かって開口している。したがって、接続口を介してもインクの浸入の虞がある。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
本発明は、上述の如き従来技術の問題点に鑑み、液体噴射ヘッドの上流側で漏洩した液体が複数の部材を組み合わせた境界部分の隙間から前記部材が形成する内部の空間に浸入するのを抑制し得る構造とした液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液滴を噴射するヘッド本体と、該ヘッド本体が固定されるケース部材と、前記ケース部材側が開口する箱形状の部材であるカバー部材の内部に収納されるとともに液体が流通する液体供給路を備えて前記ケース部材に固定される流路部材と、前記ケース部材及び流路部材で形成する内部の空間に収納・固定されて前記ヘッド本体の圧力発生素子が接続される回路基板とを有する液体噴射ヘッドであって、前記流路部材側に伸びる前記ケース部材の壁面部の上端面と、前記液体供給路の周囲を囲繞して前記ケース部材側に伸びる前記カバー部材の壁面部の下端面とが相対向するように構成され、しかも前記下端面は、その外周側において前記ケース部材側に突出するとともに前記上端面との間に間隙を介して相対向する凸部を有する一方、前記上端面は、前記カバー部材の壁面部の内周面よりも内周面側で前記カバー部材側に突出するとともに前記外周側の凸部の先端面よりも前記カバー部材側に先端面が位置する凸部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
本態様によれば、壁面部を伝って落下してきた漏洩液体は上下の壁面部の境界部分で間隙を介して流路部材及びケース部材で形成する内部空間に浸入しようとするが、前記間隙を形成して空間の入口を絞ってあるので、この部分で浸入を抑制することができる。一方、間隙を介して浸入した液体は、前記先端面を乗り越えて壁面部の内周面側に流入しようとするが、前記先端面と前記下端面との間に液体のメニスカスが形成され、このメニスカスにより液体の内周面側への流入が阻止される。
この結果、インクが流路部材及びケース部材で形成する内部空間に漏洩液体が浸入するのを良好に抑制することができる。
【0012】
ここで、外周側の前記凸部と内周側の前記凸部との間には前記間隙に連通された液体貯留部となる空間が形成されているのが望ましい。この場合には、空間が浸入した液体の貯留部として機能し、このことにより空間の容積に応じた所定の浸入液体を貯留することができる。また、前記内周側の前記凸部における前記先端面の外周側の端部と前記下端面との間は液体のメニスカスが形成される寸法となっているのが望ましい。このことにより、前記先端面の外周側の端部と前記下端面との間には確実に液体のメニスカスが形成され、凸部の先端面を超えて浸入しようとする液体の浸入を確実に阻止することができる。
【0013】
さらに、前記カバー部材の上面部には漏洩した液体を前記壁面部に導く複数の溝を有するのが好ましい。このことにより、液漏れにより漏洩した液体がカバー部材の上面に付着した場合、この漏洩液は相対的な低部である溝に案内されて壁面部に導かれる。この結果、壁面部に導かれた漏洩液は自重で壁面部の表面を伝わって、カバー部材の壁面部の下端面とケース部材の壁面部の上端面とが相対向する位置に至り、上記態様と同様にこの部分に捕捉される。
【0014】
さらに、前記回路基板に配設され外部配線が接続されるコネクターに対向する領域に前記コネクターの接続口を露出させる露出開口部を前記カバー部材に形成するとともに、漏洩した液体を前記壁面部に導く溝を前記露出開口部の周囲に形成するのが望ましい。この場合には、カバー部材の上面部に付着した漏洩液のみならず、コネクターの接続口の周囲に付着した漏洩液も、同様にカバー部材の壁面部の下端面とケース部材の壁面部の上端面とが相対向する位置に捕捉することができる。この結果、漏洩液が露出開口部及び接続口を介してコネクター内に浸入するのを未然に防止し得る。
【0015】
また、本発明の他の態様は、上述の如き液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、ヘッドの耐久性を向上させることができ、信頼性を向上させた液体噴射装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの全体構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの組立断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドのヘッド本体を除く概略斜視図。
【図4】本発明の一実施形態におけるヘッド本体の分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるヘッド本体の断面図である。
【図6】図2のA部分を抽出・拡大して示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る記録装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、その組立断面図、図3はその斜視図である。
【0018】
図1〜図3に示すように、記録ヘッド10は、インク滴を噴射する複数のヘッド本体20と、ヘッド本体20が固定されるケース部材60と、ケース部材60のヘッド本体20とは反対面側に設けられた流路部材80と、ケース部材60と流路部材80との間に設けられる回路基板90と、外部配線(図示せず)が接続されるコネクター92とを有する。かくしてヘッド本体20に供給されるインクが流通する流路部材80とケース部材60とが、シール部材95を介して回路基板90をその内部空間に収納・固定している(この部分の詳細な構成に関しては後に詳述する。)。
【0019】
ここで、ヘッド本体20の構成の一例について、図4及び図5を参照して説明しておく。図4は一実施形態におけるヘッド本体の分解斜視図、図5はヘッド本体の圧力発生室の長手方向における断面図である。
【0020】
図4及び図5に示すように、ヘッド本体20を構成する流路形成基板21には、複数の圧力発生室22がその幅方向に並設された列が2列設けられている。また、各列の圧力発生室22の長手方向外側の領域には連通部23が形成され、連通部23と各圧力発生室22とが、圧力発生室22毎に設けられたインク供給路24及び連通路25を介して連通されている。
【0021】
流路形成基板21の一方の面には、各圧力発生室22のインク供給路24とは反対側の端部近傍に連通するノズル26が穿設されたノズルプレート27が接合されている。
【0022】
一方、流路形成基板21のノズルプレート27とは反対側の面には、弾性膜28及び絶縁体膜29を介して圧電素子30が形成されている。圧電素子30は、第1電極31と、圧電体層32と、第2電極33とで構成されている。各圧電素子30を構成する第2電極33には、絶縁体膜29上まで延設されたリード電極34が接続されている。リード電極34は、一端部が第2電極33に接続されていると共に、他端部側が、フレキシブル配線部材(COF基板)であり圧電素子30を駆動するための駆動IC35aが実装された駆動配線35と接続されている。このように駆動配線35の一端側にはリード電極34が接続され、駆動配線35の他端側は回路基板90(図2参照)に固定されている。
【0023】
このような圧電素子30が形成された流路形成基板21上には、圧電素子30に対向する領域に、圧電素子30を保護するための空間である圧電素子保持部36を備えた保護基板37が接着剤38によって接合されている。また保護基板37には、マニホールド部39が設けられている。このマニホールド部39は、本実施形態では、流路形成基板21の連通部23と連通されて各圧力発生室22の共通のインク室となるマニホールド40を構成している。
【0024】
また、保護基板37には、保護基板37を厚さ方向に貫通する貫通孔41が設けられている。貫通孔41は、本実施形態では、2つの圧電素子保持部36の間に設けられている。そして、各圧電素子30から引き出されたリード電極34の端部を、貫通孔41内に臨ませてある。
【0025】
さらに保護基板37上には、封止膜44及び固定板45とからなるコンプライアンス基板46が接合されている。ここで、封止膜44は、剛性が小さく可撓性を有する材料からなり、この封止膜44によってマニホールド部39の一方面が封止されている。固定板45は、金属等の硬質の材料で形成される。そして、固定板45のマニホールド40に対向する領域が、厚さ方向に完全に除去された開口部47となっているため、マニホールド40の一方面は可撓性を有する封止膜44のみで封止されている。さらにコンプライアンス基板46には、マニホールド40内にインクを導入するためのインク導入口48が設けられている。
【0026】
コンプライアンス基板46上には、ヘッドケース49が固定されている。ヘッドケース49には、インク導入口48に連通してカートリッジ等の貯留手段からのインクをマニホールド40に供給するインク導入路50が設けられている。さらに、ヘッドケース49には、保護基板37に設けられた貫通孔41と連通する配線部材保持孔51が設けられており、駆動配線35は配線部材保持孔51内に挿通された状態でその一端側がリード電極34と接続されている。
【0027】
かかる構成の各ヘッド本体20が、ケース部材60にそれぞれ固定されている。さらに詳言すると、図1及び図2に示すように、ケース部材60の底面側に、複数(本実施形態では4個)のヘッド本体20が固定されている。ケース部材60には、ケース部材60を厚さ方向に貫通した貫通孔61が、各ヘッド本体20に対応して設けられている。ケース部材60の貫通孔61の外側には、ヘッド本体20のヘッドケース49に設けられたインク導入路50に連通する供給路62が設けられている。そして、各ヘッド本体20の駆動配線35がこの貫通孔61に挿入され、インク導入路50と供給路62とが連通した状態で、各ヘッド本体20のヘッドケース49が貫通孔61の周縁部に接合されている。
【0028】
なお、ケース部材60に固定された各ヘッド本体20のノズルプレート27側の面には、ノズル26を露出する窓71を備えるカバーヘッド70が固定されている。
【0029】
流路部材80は、ケース部材60のヘッド本体20とは反対側の面に、回路基板90及びゴム材料等からなるシール部材95を介して固定されている。
【0030】
回路基板90には、上述のように圧電素子30を駆動するための電子部品や各種配線が実装されている。また回路基板90には、厚さ方向に貫通した接続孔91が設けられている。ヘッド本体20の駆動配線35は、接続孔91内に挿通され、その先端部が回路基板90の各種配線等と電気的に接続されている。
【0031】
流路部材80は、流路部材本体81と、カバー部材82とを備える。上述の回路基板90及びシール部材95は、流路部材80を構成する流路部材本体81とケース部材60との間に保持されている。
【0032】
流路部材80の一方を構成する流路部材本体81は、インクカートリッジに挿入される複数のインク供給針100が一方面側に固定される固定部83と、この固定部83の下面に突設される流路形成部84とで構成されている。流路形成部84には、一端側がインク供給針100に対向して開口するインク供給孔85がそれぞれ形成されている。そしてインク供給孔85の他端側は、シール部材95に設けられた供給連通路96を介してケース部材60の供給路62と接続されている。
【0033】
なお、インク供給孔85の一端側の開口部には、インク内の気泡や異物を除去するためのフィルター110が設けられている。すなわちインク供給針100は、このフィルター110を介して流路部材本体81の固定部83に固定されている。
【0034】
各インク供給針100は、インク供給孔85に連通する貫通路101をそれぞれ内部に備える。そしてインク供給針100がインクカートリッジ(図示せず)に挿入されることで、インクカートリッジ内のインクがインク供給針100の貫通路101、インク供給孔85、供給路62等を介してヘッド本体20のマニホールド40に供給されるようになっている。
【0035】
流路部材80の他方を構成するカバー部材82は、下面側(ヘッド本体20側)が開口する箱形状のケース部材であり、インク供給針100側から流路部材本体81に重ねられた状態で流路部材本体81と一体化されている。具体的には、カバー部材82は、インク供給針100が露出される開口部87を備えた上面部86と、流路形成部84の周囲を囲繞してケース部材60に達する高さを有する壁面部88とを備えている。かかるカバー部材82をインク供給針100側から流路部材本体81に重ね合わせ、流路部材本体81とケース部材60との間に回路基板90及びシール部材95を挟んだ状態でカバー部材82とケース部材60とを、例えばネジ等の締結部材120によって固定する。これにより、流路部材本体81とカバー部材82とが一体化されて流路部材80が形成されると共に、流路部材80とケース部材60とが一体化される。本実施形態では、流路部材80とケース部材60とが、それらの各辺にそれぞれ設けられた4つの締結部材120によって固定されている。
【0036】
かくして本実施形態に係る記録ヘッド10では、圧電素子30を駆動するための電子部品等が搭載された回路基板90の周囲が、流路部材80及びケース部材60によって覆われている。すなわち、回路基板90が、カバー部材82とケース部材60との間に形成される空間内に収容されている。これにより、ヘッド本体20のノズル26からインク滴を噴射した際等に発生するインクミストが、回路基板90に付着してしまうのを効果的に抑制することができる。ここで、回路基板90には、図示しない外部配線が接続されるコネクター92が設けられている。コネクター92は、略長方形の回路基板90の対向する角部にそれぞれ配設されており、外部配線が挿抜される接続口93が流路部材80側に向かって開口している。流路部材80を構成するカバー部材82には、コネクター92に対向する領域に、コネクター92の接続口93を露出する露出開口部89が形成されている。かくしてコネクター92の接続口93には、流路部材80の外側から露出開口部89を介して外部配線を挿抜できるようになっている。
【0037】
上述の如く、本実施形態ではカバー部材82をインク供給針100側から流路部材本体81に重ね合わせ、流路部材本体81とケース部材60との間に回路基板90及びシール部材95を挟んだ状態でカバー部材82とケース部材60とを、例えばネジ等の締結部材120によって固定している。したがって、ケース部材60には回路基板90とシール部材95が流路部材本体81を介してカバー部材82で押圧される。
【0038】
一方、流路部材80側(上方)に伸びるケース部材60の壁面部63の上端面と、ケース部材60側(下方)に伸びるカバー部材82の壁面部88の下端面65とは間隙を介して相対向させてある。この部分の構造を図6に基づきさらに詳細に説明する。図6は図2のA部分を抽出・拡大して示す断面図である。同図に示すように、壁面部88の下端面65は、その外周側において下方に突出するとともに上端面64との間に間隙を介して相対向する凸部67を有する。この凸部67の先端面67Aと上端面64との間で、壁面部88、63の外部に開口する間隙Gの寸法を規定している。一方、壁面部63の上端面64は、その内周側において上方に突出する凸部66を有する。ここで、凸部66は壁面部88の内周面よりも壁面部63の内周面側で上方に突出している。すなわち、図中の点β(壁面部88の内周面内の点)よりも点α(凸部66の最も外周面側の面内の点)が壁面部63の内周面側に位置するように形成されている。また、凸部66は上端面64からその先端面66Aまでの高さが間隙Gよりも大きく形成してある。かくして凸部67と凸部66との間に間隙Gに連通された液体貯留部となる空間68が形成されている。空間68の上下方向の位置は下端面65と上端面64で規定される。
【0039】
さらに、凸部66の先端面66Aの外周側の端部と下端面65との間の寸法、すなわち点αと点βとの間の寸法はインクのメニスカスMが形成される寸法となっている。
【0040】
上述の如き本実施形態においては、何らかの原因で漏洩し、壁面部88を伝って落下してきたインクは壁面部88,63の境界部分γで間隙Gを介して流路部材80及びケース部材60で形成する内部空間に浸入しようとする。本実施形態では間隙Gを形成して空間68の入口を絞ってあるので、この部分で浸入を抑制することができる。しかしながら間隙Gは空間68に連通されているので、漏洩インクがある程度の量になれば間隙Gを介して空間68に流入される。ここで、空間68は比較的広い空間として形成してあるので、インクの貯留部として機能し、所定量の漏洩インクを貯留する。貯留量が漸増して凸部66の先端面66Aの位置に至るとインクは先端面を乗り越えて壁面部63の内周面側に流入しようとする。しかしながら本実施形態では、先端面66Aに接触するとともに下端面65ないし壁面部88の内周面に接触しているインクでメニスカスMが形成され、このメニスカスMがインクの内周面側への流入を阻止する。この結果、インクが流路部材80及びケース部材60で形成する内部空間に浸入するのを良好に抑制することができる。したがって、浸入インクによる回路基板90上の電子部品に対する腐食等を未然に防止することが可能となる。このとき間隙Gを塞ぐための充填材等を施す必要はない。
【0041】
ここで、本実施形態では、凸部66を壁面部88の内周面よりも内周面側に形成したので点α、β間の寸法と相俟って良好に所定のメニスカスMを形成させることができる。また、例えば、間隙G>(α−β)とすることでメニスカスMの形成を容易にすることができる。
【0042】
図3に詳細に示すように、本実施形態に係る記録ヘッド10におけるカバー部材82の上面部86には漏洩したインクを壁面部88に導く複数の溝97が形成してある。本実施形態においては、インク供給針100が露出される開口部87に対応させて開口部87の端部から壁面部88に向けて形成してある。当該部分においてはインクの漏洩の可能性が高いからである。また、カバー部材82において、コネクター92(図1参照)に対向する領域にはコネクター92の接続口を露出させる露出開口部89が形成されているが、かかる露出開口部89の周囲にも漏洩したインクを壁面部88に導く溝98が形成してある。
【0043】
このように溝97,98を形成した本実施形態においては、液漏れにより漏洩したインクがカバー部材82の上面に付着した場合や露出開口部89の近傍部分に付着した場合、この漏洩インクが溝97,98に案内されて壁面部88に導かれる。この結果、壁面部88に導かれた漏洩インクは自重で壁面部88の表面を伝わって、壁面部88,63の境界部分に至り、上述と同様の態様によりこの部分に捕捉される。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0045】
例えば、上記実施形態では、カバー部材82の上面部86に漏洩したインクを壁面部88に導く複数の溝97を形成するとともに、コネクター92の接続口93を露出させる露出開口部89の周囲に漏洩したインクを壁面部88に導く溝98を形成したが、これらは必ずしも必要ではない。ただ、溝97,98を形成した場合には、漏洩インクを溝97,98に導くことにより、良好に内部に対するインクの浸入を良好に抑制し得る。
【0046】
また、上記実施形態では、流路部材が、流路部材本体と、カバー部材とで構成されたものを例示したが、流路部材の構成は、特に限定されるものではない。例えば、流路部材は、流路部材本体とカバー部材とが一体的に形成されたものであってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、圧力発生素子として、薄膜型の圧電素子を例示したが、圧力発生素子の構成は特に限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子などであってもよい。また圧力発生素子として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズルから液滴を噴射するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて静電気力によって振動板を変形させてノズルから液滴を噴射させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0048】
さらに、上記実施形態の記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備するインクジェット式記録ヘッドヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0049】
図7に示すように、記録ヘッドを備える記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を噴射する。
【0050】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0051】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及びそれを具備する液体噴射装置全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 記録ヘッド、 20 ヘッド本体、 60 ケース部材、 61 貫通孔、 62 供給路、 63 壁面部、 64 上端面、 65 下端面、 66 凸部、
66A 先端面、 67 凸部、 67A 先端面、 68 空間、 70 カバーヘッド、 71 窓、 80 流路部材、 81 流路部材本体、 82 カバー部材、 83 固定部、 84 流路形成部、 85 インク供給孔、 86 上面部、 87 開口部、 88 壁面部、 89 露出開口部、 90 回路基板、 91 接続孔、 91 接続孔、 92 コネクター、 93 接続口、 95 シール部材、 96 供給連通路、 100 インク供給針、 101 貫通路、 110 フィルター、 120 締結部材、 G 間隙、 M メニスカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するヘッド本体と、該ヘッド本体が固定されるケース部材と、前記ケース部材側が開口する箱形状の部材であるカバー部材の内部に収納されるとともに液体が流通する液体供給路を備えて前記ケース部材に固定される流路部材と、前記ケース部材及び流路部材で形成する内部の空間に収納・固定されて前記ヘッド本体の圧力発生素子が接続される回路基板とを有する液体噴射ヘッドであって、
前記流路部材側に伸びる前記ケース部材の壁面部の上端面と、前記液体供給路の周囲を囲繞して前記ケース部材側に伸びる前記カバー部材の壁面部の下端面とが相対向するように構成され、
しかも前記下端面は、その外周側において前記ケース部材側に突出するとともに前記上端面との間に間隙を介して相対向する凸部を有する一方、
前記上端面は、前記カバー部材の壁面部の内周面よりも内周面側で前記カバー部材側に突出するとともに前記外周側の凸部の先端面よりも前記カバー部材側に先端面が位置する凸部を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
外周側の前記凸部と内周側の前記凸部との間には前記間隙に連通された液体貯留部となる空間が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記内周側の前記凸部における前記先端面の外周側の端部と前記下端面との間は液体のメニスカスが形成される寸法となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記カバー部材の上面部には漏洩した液体を前記壁面部に導く複数の溝を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記回路基板に配設され外部配線が接続されるコネクターに対向する領域に前記コネクターの接続口を露出させる露出開口部を前記カバー部材に形成するとともに、漏洩した液体を前記壁面部に導く溝を前記露出開口部の周囲に形成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187731(P2012−187731A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51057(P2011−51057)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】