説明

液体噴射装置およびその制御方法

【課題】液体の噴射量の経時的な変化を有効に抑制する。
【解決手段】記録ヘッド24は、インクカートリッジ22から供給されるインクの液滴を噴射する。記憶部64は、記録ヘッド24の動作履歴Hを記憶する。動作履歴Hは、各単位噴射部Uの圧電素子54が噴射駆動または微振動駆動を実行した回数(駆動回数)である。圧力制御部74は、インクカートリッジ22の鉛直方向の位置を調整することで、記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを動作履歴Hに応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクカートリッジから供給されるインクを記録ヘッドが噴射する液体噴射装置では、インクの噴射量の誤差が問題となる。特許文献1や特許文献2には、インクカートリッジをバネで弾性的に支持した構成が開示されている。インクが消費されてインクカートリッジの重量が減少するほどインクカートリッジがバネの作用で上昇するから、記録ヘッドに対するインクの供給圧力が一定に維持される。したがって、インクの噴射量の誤差を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119969号公報
【特許文献2】特開2004−174815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧電素子や発熱素子等の圧力発生素子により各圧力室内の圧力を変化させることでインクを噴射する構成の記録ヘッドでは、圧力発生素子の経年劣化等に起因してインクの噴射量が経時的に変化する場合がある。特許文献1や特許文献2の技術では、記録ヘッドに対するインクの供給圧力をインクの重量(消費量)に応じて制御するに過ぎないから、圧力発生素子の劣化等に起因したインクの噴射量の誤差を適切に補償できないという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、液体の噴射量の経時的な変化を有効に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体容器から供給される液体(例えばインク)を噴射する液体噴射部と、液体噴射部の動作履歴を記憶する履歴記憶手段と、液体噴射部に対する液体の供給圧力を動作履歴に応じて制御する圧力制御手段とを具備する。以上の構成では、液体噴射部の動作履歴に応じて液体噴射部に対する液体の供給圧力が制御されるから、例えば経年劣化等に起因して液体噴射部の噴射能力が低下した場合でも、液体の噴射量の減少を抑制することが可能である。
【0006】
液体噴射部に対する液体の供給圧力を圧力制御手段が制御する方法は任意である。例えば、液体噴射部に対する液体容器の鉛直方向の位置を圧力制御手段が動作履歴に応じて制御する構成が採用され得る。また、液体噴射部に対する液体の供給経路に圧力調整弁が配置された構成では、動作履歴に応じて圧力調整弁を制御することが可能である。
【0007】
本発明の好適な態様において、液体噴射部は、相異なる液体容器から供給される液体を噴射する複数のノズル列を含み、履歴記憶手段は、ノズル列毎に動作履歴を記憶し、圧力制御手段は、複数のノズル列の各々に対する液体の供給圧力を当該ノズル列の動作履歴に応じて制御する。以上の態様では、例えば経年劣化等に起因した噴射能力の変化がノズル列毎に相違する場合でも、各ノズル列による液体の噴射量の変化を適切に制御することが可能である。
【0008】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置は、動作履歴と供給圧力の調整値とを対応付けて記憶する相関記憶手段を具備し、圧力制御手段は、履歴記憶手段が記憶する動作履歴に対応する調整値を相関記憶手段から特定して当該調整値に応じて液体の供給圧力を制御する。以上の態様では、動作履歴と供給圧力の調整値とが対応付けて記憶されるから、例えば動作履歴に応じた調整値を所定の演算で算定する構成と比較して、圧力制御手段の負荷が軽減されるという利点がある。
【0009】
動作履歴は、液体噴射部による液体の噴射能力に影響する動作の履歴を意味する。例えば、液体噴射部が、圧力室に連通するノズルから圧力室内の液体を噴射させる圧力変動を圧力室内に発生させる圧力発生素子を含む構成において、動作履歴は、圧力発生素子の駆動回数に応じて設定される。駆動回数は、例えば、圧力室内の液体をノズルから噴射させる噴射駆動の回数(噴射回数)と、圧力室内の液体が噴射しない程度にノズル内の液面を微振動させる微振動駆動の回数との合計である。また、液体噴射部による液体の噴射回数や液体噴射部による液体の噴射量に応じて動作履歴を設定することも可能である。また、液体噴射部による液体の噴射能力は、環境温度や環境湿度等の動作環境にも影響されるから、液体噴射部の動作環境を検知する環境検知手段を追加し、液体噴射部に対する液体の供給圧力を、動作履歴と動作環境とに応じて制御する構成が格別に好適である。
【0010】
本発明は、以上の各形態に係る液体噴射装置を制御する方法としても特定される。本発明に係る液体噴射装置の制御方法は、液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部を具備する液体噴射装置の制御方法であって、液体噴射部の動作履歴を記憶し、液体噴射部に対する液体の供給圧力を動作履歴に応じて制御する。以上の制御方法でも、本発明の液体噴射装置と同様の作用および効果が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図4】記録ヘッドの動作時間と圧電素子の変位量との関係を示すグラフである。
【図5】記録ヘッドに対するインクの供給圧力とインクの噴射量との関係を示すグラフである。
【図6】記録ヘッドの動作時間と所定の噴射量を得るための供給圧力との関係を示すグラフである。
【図7】相関テーブルの模式図である。
【図8】第2実施形態における印刷装置のブロック図である。
【図9】第3実施形態における印刷装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細なインクの液滴を記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、容器保持部(カートリッジホルダー)10とキャリッジ12と移動機構14と搬送機構16とを具備する。
【0013】
容器保持部10は、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))のインクが充填された複数のインクカートリッジ22(22K,22Y,22M,22C)を着脱可能に保持する。容器保持部10は、印刷装置100の筐体(図示略)に固定される。すなわち、第1実施形態の印刷装置100は、インクカートリッジ22をキャリッジ12に搭載しないオフキャリッジ方式を採用する。各インクカートリッジ22は、鉛直方向に個別に変位し得るように容器保持部10に支持される。
【0014】
キャリッジ12には記録ヘッド24が搭載される。複数のインクカートリッジ22の各々から記録ヘッド24に至る供給経路26(チューブ)を介して、各インクカートリッジ22内のインクが記録ヘッド24に並列に供給される。記録ヘッド24は、各インクカートリッジ22から供給されるインクを記録紙200に噴射する液体噴射部として機能する。
【0015】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面32の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面32には、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル列34(34K,34Y,34M,34C)がX方向に間隔をあけて形成される。各ノズル列34は、X方向に垂直なY方向に相互に間隔をあけて直線状に配列された複数のノズル(吐出口)Nの集合である。インクカートリッジ22Kから供給されるブラック(K)のインクはノズル列34Kの各ノズルNから噴射される。同様に、インクカートリッジ22Yのイエロー(Y)のインクはノズル列34Yの各ノズルNから噴射され、インクカートリッジ22Mのマゼンタ(M)のインクはノズル列34Mの各ノズルNから噴射され、インクカートリッジ22Cのシアン(C)のインクはノズル列34Cの各ノズルNから噴射される。なお、各ノズル列34の複数のノズルNを千鳥状に配列することも可能である。
【0016】
図1の移動機構14は、キャリッジ12をX方向(主走査方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200をY方向(副走査方向)に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0017】
図3は、印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。なお、図3では便宜的に1個のインクカートリッジ22のみが代表的に図示されている。図3に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。印刷処理部104は、記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の移動機構14と搬送機構16と記録ヘッド24とを含む。
【0018】
記録ヘッド24は、各ノズル列34の相異なるノズルNに対応する複数の単位噴射部Uと、駆動信号の供給で各単位噴射部Uを駆動する駆動回路42とを具備する。複数の単位噴射部Uの各々は、圧力室52とノズルNと圧電素子54とを有する。圧力室52は、ノズルNに連通する空間であり、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。圧電素子54は、駆動回路42から供給される駆動信号に応じて振動する。圧電素子54が圧力室52内の圧力を変動させることで圧力室52内のインクがノズルNから噴射される。
【0019】
図3の制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部62と記憶部64とを具備する。記憶部64は、例えばROMやRAM等の記憶回路で構成され、制御プログラムや各種の情報(動作履歴H,相関テーブルT)を記憶する。制御部62は、記憶部64に記憶された制御プログラムの実行で噴射制御部72および圧力制御部74として機能する。噴射制御部72は、外部装置から供給される印刷データに応じて各単位噴射部Uの動作を駆動回路42に指示する。具体的には、所定量のインクを噴射させる噴射駆動と、圧力室52内のインクがノズルNから噴射しない程度にノズルN内の液面を微振動させる微振動駆動とが選択的に指示される。駆動回路42は、噴射制御部72からの指示に応じた駆動信号を各単位噴射部Uに供給する。すなわち、各単位噴射部Uの圧電素子54は、圧力室52内のインクをノズルNから噴射させる圧力変動を圧力室52内に発生させる噴射駆動と、圧力室52内のインクを噴射させずにノズルN内の液面を微振動させる圧力変動を圧力室52内に発生させる微振動駆動とを選択的に実行する。圧力制御部74は、各インクカートリッジ22から記録ヘッド24に供給されるインクの圧力(以下「供給圧力」という)Pを制御する。記録ヘッド24のインクの供給口(供給経路26のうち記録ヘッド24側の端部)での圧力が供給圧力Pに相当する。
【0020】
図3に示すように、第1実施形態の印刷装置100は、調整部44Aを具備する。調整部44Aは、圧力制御部74から指示される調整値Aに応じて各インクカートリッジ22を記録ヘッド24に対して鉛直方向に変位させる。調整部44Aの構成は任意であるが、例えば、各インクカートリッジ22や容器保持部10の底面を押圧するモーター等で構成される。
【0021】
記録ヘッド24に対するインクカートリッジ22の鉛直方向の位置(記録ヘッド24の吐出面32とインクカートリッジ22内のインクの液面との水頭差)に応じて供給圧力Pは変化する。具体的には、調整部44Aがインクカートリッジ22を上昇させるほど記録ヘッド24に対する供給圧力Pは増加する。圧力制御部74は、調整部44Aに調整値Aを指示して各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置を個別に調整させることで、供給圧力Pをインクカートリッジ22毎に制御する。ただし、各ノズルNからのインク漏れを防止するために、インクカートリッジ22内のインクに付与される圧力が負圧となる範囲内(例えばインクカートリッジ22内のインクの液面が記録ヘッド24の吐出面32を下回る範囲内)で供給圧力Pは調整される。
【0022】
図4は、記録ヘッド24の動作時間(横軸)と圧電素子54の変位量(縦軸)との関係を示すグラフである。記録ヘッド24の動作時間は、記録ヘッド24がインクを噴射した時間の合計を意味し、記録ヘッド24における各圧電素子54の駆動回数(噴射駆動および微振動駆動の回数)と同視され得る。他方、圧電素子54の変位量は、圧電素子54に所定の電圧を印加した場合の変位量を意味する。圧電素子54の変位量が大きいほどインクの噴射量は増加するから、図4の圧電素子54の変位量は、単位噴射部Uによるインクの噴射能力と同視され得る。図4から把握されるように、圧電素子54の変位量は、圧電素子54の経年劣化等に起因して経時的に減少する。圧電素子54の変位量が減少すると、圧力室52内の圧力変動が抑制され、結果的にインクの噴射量が減少する。
【0023】
図5は、記録ヘッド24に対する供給圧力P(横軸)とインクの噴射量(縦軸)との関係を示すグラフである。図5におけるインクの噴射量は、圧電素子54に所定の電圧を印加したときに圧力室52から噴射されるインクの重量に相当する。図5から理解されるように、インクカートリッジ22から記録ヘッド24(圧力室52)に対する供給圧力Pが大きいほど単位噴射部Uからのインクの噴射量は略線形に増加する。
【0024】
図4および図5から理解されるように、供給圧力Pを経時的に増加させれば、各単位噴射部Uによるインクの噴射量の経時的な減少を補償して目標値に維持することが可能である。そこで、第1実施形態の圧力制御部74は、記録ヘッド24の動作履歴(動作時間や駆動回数)に応じて供給圧力Pを制御する。具体的には、図6に示すように、圧力制御部74は、記録ヘッド24の動作時間や駆動回数(噴射駆動または微振動駆動の回数)が増加するほど供給圧力Pが増加するように、記録ヘッド24の動作履歴に応じて調整部44A(記録ヘッド24に対する各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置)を制御する。
【0025】
図3の記憶部64は、記録ヘッド24の動作履歴Hと相関テーブルTとをノズル列34毎に記憶する。各ノズル列34の動作履歴Hは、そのノズル列34に対応する各単位噴射部Uの圧電素子54の駆動回数(噴射駆動および微振動駆動の合計回数)である。各ノズル列34の動作履歴Hは、記録ヘッド24による印刷動作に並行して随時に更新される。
【0026】
図7は、相関テーブルTの模式図である。図7に示すように、相関テーブルTは、動作履歴Hの各数値(H1,H2,……)と調整値Aの各数値(A1,A2,……)とを対応付けたルックアップテーブルである。動作履歴Hと供給圧力Pとの関係が、図6の関係(すなわち動作履歴Hの示す駆動回数が増加するほど供給圧力Pが増加する関係)となるように、相関テーブルTにおける動作履歴Hと調整値Aとの相関は統計的または実験的に事前に決定される。具体的には、圧電素子54に所定の電圧を印加したときのインクの噴射量が動作履歴Hに関わらず目標値に近似する(理想的には合致する)ように、相関テーブルT内の動作履歴Hと調整値Aとの相関が選定される。なお、図5に例示した供給圧力Pとインクの噴射量との関係は、例えば各色のインクの特性(例えば粘度等)の差異に起因して色毎に相違する。したがって、相関テーブルTで規定される動作履歴Hと調整値Aとの相関は、ノズル列34毎(すなわちインクの色毎)に相違し得る。
【0027】
圧力制御部74は、複数のノズル列34の各々に対するインクの供給圧力Pが、そのノズル列34の動作履歴Hと相関テーブルTとから特定される圧力となるように、調整部44A(そのノズル列34に対応するインクカートリッジ22の鉛直方向の位置)を制御する。具体的には、圧力制御部74は、各ノズル列34の動作履歴Hを記憶部64から読出し、そのノズル列34の相関テーブルTから動作履歴Hに対応する調整値Aを検索して調整部44Aに指示する。以上のように調整値Aはノズル列34毎に設定されるから、各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置はインクカートリッジ22毎(ノズル列34毎またはインクの色毎)に相違し得る。
【0028】
以上に説明した第1実施形態では、記録ヘッド24の動作履歴Hに応じてインクの供給圧力Pが制御されるから、例えば圧電素子54の経年劣化に起因して圧電素子54の変位量が低下した場合でも、インクの噴射量の減少を抑制する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。また、第1実施形態ではノズル列34毎(インクの色毎)に供給圧力Pが制御されるから、各インクの特性が相違する場合でも、各ノズル列34によるインクの噴射量を適切に補償できるという利点がある。
【0029】
なお、圧電素子54の変位量の低下に起因したインクの噴射量の減少を抑制する構成としては、例えば、各圧電素子54に供給される駆動信号の電圧を上昇させる構成も想定され得る。しかし、駆動信号の電圧を上昇させた場合には、消費電力が増加するという問題がある。第1実施形態によれば、供給圧力Pの制御でインクの噴射量の減少が補償されるから、駆動信号の電圧を上昇させる構成と比較して消費電力を低減することが可能である。また、駆動信号の加工を必要とせずに簡便にインクの噴射用の変化を補償できるという利点もある。
【0030】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各構成において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0031】
図8は、第2実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図8に示すように、第2実施形態の印刷装置100は、第1実施形態における調整部44Aを調整部44Bに置換するとともにインクカートリッジ22毎に圧力調整弁46を追加した構成である。各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置は固定される。
【0032】
各圧力調整弁46は、各インクカートリッジ22から記録ヘッド24に対するインクの供給経路26に配置されて記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを決定する。調整部44Bは、圧力制御部74から指示される調整値Aに応じて各圧力調整弁46を調整する。圧力制御部74は、各ノズル列34の調整値Aを調整部44Bに指示して圧力調整弁46を調整させることで、記録ヘッド24に対する供給圧力Pをインクカートリッジ22毎(ノズル列34毎)に制御する。第1実施形態と同様に、動作履歴Hと供給圧力Pとの関係が図6の関係となるように、記憶部64に記憶された動作履歴Hに応じた調整値Aが相関テーブルTを利用して決定される。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0033】
<C:第3実施形態>
図9は、第3実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図9に示すように、第3実施形態の印刷装置100は、第1実施形態に環境検知部66を追加した構成である。環境検知部66は、記録ヘッド24の動作環境Eを検知する。以下に例示する動作環境Eは、記録ヘッド24の環境温度である。すなわち、記録ヘッド24やその周囲の温度を検出する温度センサーが環境検知部66として採用される。
【0034】
圧力制御部74は、記憶部64に記憶された動作履歴Hと環境検知部66が検知した動作環境Eとに応じて調整値Aを設定する。すなわち、動作履歴Hが同等の場合でも、動作環境Eが相違する場合には調整値Aも相違する。具体的には、圧力制御部74は、動作履歴Hに応じてノズル列34毎に相関テーブルTから検索した調整値A(暫定値)について動作環境Eを適用した演算(例えば調整値Aと動作環境Eとの乗算)を実行することで、ノズル列34毎に確定的な調整値Aを算定する。例えば、環境温度が高いほどインクの粘度が低下して噴射量が増加するという傾向を前提とすれば、動作環境Eが示す環境温度が高いほど供給圧力Pが減少するように、圧力制御部74は動作履歴Hと動作環境Eとに応じた調整値Aを設定する。また、環境温度が高いほどノズルNを介した水分の蒸発が増加して噴射量が減少するという傾向を前提とすれば、動作環境Eが示す環境温度が高いほど供給圧力Pが増加するように圧力制御部74は調整値Aを設定する。
【0035】
第3実施形態でも第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、動作履歴Hに加えて動作環境Eも供給圧力Pに反映されるから、動作環境Eを供給圧力Pに反映させない構成と比較すると、動作環境Eが変化した場合でもインクの噴射量の変化を適切に低減する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。なお、以上の説明では第1実施形態を基礎とした構成を例示したが、動作環境Eを供給圧力Pに反映させる第3実施形態の構成は、第2実施形態にも同様に採用される。
【0036】
また、以上の説明では環境温度を動作環境Eとして例示したが、動作環境Eの内容は適宜に変更される。例えば、記録ヘッド24やその周辺の環境湿度を動作環境Eとして環境検知部66が検知する構成も好適である。例えば、環境湿度が低いほど各単位噴射部Uによるインクの噴射量が減少するという傾向を前提とすれば、動作環境Eが示す環境湿度が低いほど供給圧力Pが増加するように、圧力制御部74は動作履歴Hと動作環境Eとに応じた調整値Aを設定する。
【0037】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0038】
(1)変形例1
以上の各形態では、各圧電素子54の駆動回数(噴射駆動および微振動駆動の回数)を動作履歴Hとしたが、動作履歴Hの内容は適宜に変更される。例えば、各圧電素子54による噴射駆動の回数(すなわち各ノズルNからインクが噴射された回数)を動作履歴Hとした構成も好適である。また、例えば、圧電素子54に印加される電圧が高いほど圧電素子54の特性劣化は進行し易いという傾向がある。したがって、重量(体積)が相違する複数種の液滴(例えば大ドット/中ドット/小ドット)を選択的に噴射可能な構成では、圧電素子54の駆動回数が同等でも、噴射されたインクの重量が大きい(すなわち圧電素子54に印加される電圧が高い)ほど圧電素子54の特性劣化は進行する。以上の傾向を考慮すると、各単位噴射部Uによるインクの噴射量に応じて動作履歴Hを設定する構成が好適である。例えば、各単位噴射部Uによるインクの噴射量の合計を動作履歴Hとする構成や、噴射量に応じて加重値を設定した噴射回数の加重和(噴射量に応じた加重値とその噴射回数との乗算値を各噴射量について合計した数値)を動作履歴Hとする構成が採用され得る。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24の動作履歴Hとは、典型的には、各単位噴射部Uがインクを噴射する能力の劣化(例えば圧電素子54の変位量の減少)に影響する履歴情報(すなわち単位噴射部Uの噴射能力が劣化した度合の指標となり得る情報)を意味する。
【0039】
(2)変形例2
供給圧力Pを制御する方法は、インクカートリッジ22の変位(第1実施形態)や圧力調整弁46の調整(第2実施形態)に限定されない。例えば、各インクカートリッジ22に外部から作用させる圧力を動作履歴Hに応じて調整することで供給圧力Pを制御する構成や、各インクカートリッジ22に供給する空気量を動作履歴Hに応じて調整することで供給圧力Pを制御する構成も採用され得る。また、以上の各形態ではノズル列34毎(インクカートリッジ22毎)に供給圧力Pを個別に制御したが、例えばインク毎の特性の相違が無視できる場合には、複数のノズル列34について供給圧力Pを共通に調整する構成も好適である。供給圧力Pを各ノズル列34で共通に調整する構成では、動作履歴Hおよび相関テーブルTを1種類だけ記憶部64に格納すれば足りるという利点がある。もっとも、1種類のインクカートリッジ22のみが装着される構成(1個のノズル列34のみが形成される構成)にも本発明を適用することは可能である。
【0040】
(3)変形例3
以上の各形態では、動作履歴Hに応じた供給圧力Pの制御に相関テーブルTを利用したが、動作履歴Hに応じた供給圧力P(調整値A)を決定する方法は適宜に変更される。例えば、動作履歴Hと調整値Aとの関係を定義する演算式に記憶部64内の動作履歴Hを代入することで圧力制御部74が調整値Aを算定することも可能である。ただし、調整値Aを演算する構成では、制御部62(圧力制御部74)の負荷が過大となり得るから、制御部62の負荷を軽減するという観点からは、前述の各形態のように相関テーブルTを利用する構成が好適である。
【0041】
また、複数種のテーブルを利用して動作履歴Hに応じた供給圧力P(調整値A)を決定することも可能である。例えば、動作履歴Hと圧電素子54の変位量との関係(図4)を規定する第1テーブルと、供給圧力Pとインクの噴射量との関係(図5)を規定する第2テーブルとが記憶部64に格納される。圧力制御部74は、第1テーブルにて現在の動作履歴Hに対応する圧電素子54の変位量のもとで目標量のインクを噴射するために必要な供給圧力Pを第2テーブルから特定し、その供給圧力Pに応じた調整値Aを調整部44Aまたは調整部44Bに指示する。以上の構成でも前述の各形態と同様の効果が実現される。
【0042】
(4)変形例4
以上の各形態では、動作履歴Hおよび相関テーブルTの双方を記憶部64に格納したが、動作履歴Hを記憶する要素(履歴記憶手段)と相関テーブルTを記憶する要素(相関記憶手段)とを別個の記憶回路とした構成も採用され得る。
【0043】
(5)変形例5
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を往復させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数の単位噴射部U(ノズルN)が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズルNからインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24(各単位噴射部U)自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0044】
(6)変形例6
圧力室52内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)は圧電素子54に限定されない。例えば、静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。また、圧力発生素子は、圧力室52に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室52の加熱で気泡を発生させて圧力室52内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、圧力発生素子は、圧力室52内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0045】
(7)変形例7
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。そして、液体の噴射の目標となる物体(着弾対象)は液体噴射装置の用途に応じて相違する。具体的には、前述の印刷装置100の着弾対象は記録紙200であるが、液体噴射装置を表示装置の製造に使用する場合には、例えば表示装置を構成する基板が着弾対象に相当する。
【符号の説明】
【0046】
100……印刷装置、102……制御装置、104……印刷処理部、12……キャリッジ、14……移動機構、16……搬送機構、22(22K,22Y,22M,22C)……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、26……供給経路、32……吐出面、34(34K,34Y,34M,34C)……ノズル列、N……ノズル、42……駆動回路、44A,44B……調整部、46……圧力調整弁、52……圧力室、54……圧電素子、62……制御部、64……記憶部、66……環境検知部、72……噴射制御部、74……圧力制御部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部と、
前記液体噴射部の動作履歴を記憶する履歴記憶手段と、
前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を前記動作履歴に応じて制御する圧力制御手段と
を具備する液体噴射装置。
【請求項2】
前記圧力制御手段は、前記液体噴射部に対する前記液体容器の鉛直方向の位置を前記動作履歴に応じて制御する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体噴射部に対する前記液体の供給経路に配置された圧力調整弁を具備し、
前記圧力制御手段は、前記動作履歴に応じて前記圧力調整弁を制御する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体噴射部は、相異なる液体容器から供給される液体を噴射する複数のノズル列を含み、
前記履歴記憶手段は、前記ノズル列毎に前記動作履歴を記憶し、
前記圧力制御手段は、前記複数のノズル列の各々に対する前記液体の供給圧力を当該ノズル列の動作履歴に応じて制御する
請求項1から請求項3の何れかの液体噴射装置。
【請求項5】
動作履歴と供給圧力の調整値とを対応付けて記憶する相関記憶手段を具備し、
前記圧力制御手段は、前記履歴記憶手段が記憶する動作履歴に対応する調整値を前記相関記憶手段から特定して当該調整値に応じて前記液体の供給圧力を制御する
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記液体噴射部は、圧力室に連通するノズルから前記圧力室内の液体を噴射させる圧力変動を前記圧力室内に発生させる圧力発生素子を含み、
前記動作履歴は、前記圧力発生素子の駆動回数に応じて設定される
請求項1から請求項5の何れかの液体噴射装置。
【請求項7】
前記動作履歴は、前記液体噴射部による前記液体の噴射回数に応じて設定される
請求項1から請求項6の何れかの液体噴射装置。
【請求項8】
前記動作履歴は、前記液体噴射部による前記液体の噴射量に応じて設定される
請求項1から請求項7の何れかの液体噴射装置。
【請求項9】
前記液体噴射部の動作環境を検知する環境検知手段を具備し、
前記圧力制御手段は、前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を、前記動作履歴と前記動作環境とに応じて制御する
請求項1から請求項8の何れかの液体噴射装置。
【請求項10】
液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部を具備する液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射部の動作履歴を記憶し、
前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を前記動作履歴に応じて制御する
液体噴射装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−158131(P2012−158131A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20425(P2011−20425)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】