説明

液体噴射装置

【課題】容量性負荷の駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避する液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体噴射装置は、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路230と、変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器240と、パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって駆動信号を生成する平滑フィルター250と、平滑フィルター250と容量性負荷116とを接続し、平滑フィルター250と容量性負荷116との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブル150と、配線ケーブル150に関連付けられた配線情報を取得する配線情報取得手段270と、変調回路230が駆動波形信号をパルス変調する際のキャリア周波数を、配線情報に基づいて変更するキャリア周波数変更手段280と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの容量性負荷に駆動信号を用いて駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体をパルス状に噴射して対象物の切断又は切除等を行う技術が知られている。例えば、医療分野では、生体組織を切開又は切除する手術具としての流体噴射装置として、容積変更手段の駆動によって容積が変化される流体室と、この流体室に連通されたノズルとを備え、流体室に流体を供給すると共に容積変更手段を駆動することによって、流体を脈流に変換してノズルから流体をパルス状に高速噴射させるものが知られている。前述した容積変更手段の例として、圧電素子などの容量性負荷によって構成されて、駆動信号が印加されることによって動作するアクチュエーターが挙げられる。
【0003】
その他にも、インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドのように、圧電素子などの容量性負荷によって構成されて、駆動信号が印加されることによって動作するアクチュエーターは数多く存在する。この駆動信号を、アナログ増幅回路を用いて生成しようとすると、アナログ増幅回路内を大きな電流が流れるために大きな電力が消費される。その結果、電力効率が低下するだけでなく、回路基板が大きくなり、更には、消費された電力が熱に変わるので大きな放熱版が必要になって、ますます基板が大型化する。
【0004】
そこで、アナログの駆動信号を直接増幅するのではなく、駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス変調して変調信号に一旦変換し、得られた変調信号を増幅した後に平滑フィルターを通すことによって、増幅された駆動信号を得るようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。変調信号の増幅は、スイッチのON/OFFを切り換えるだけで実現することが可能である。更に、平滑フィルターは、コイルとコンデンサーとを組み合わせたLC回路を用いて実現できるので、原理的には電力を消費することがない。このため提案の技術によれば、大きな電力を消費することなく駆動信号を生成することが可能であり、回路基板を小型化することが可能である。
【0005】
この提案の技術は、LC回路で平滑フィルターを構成しているため、LC回路の共振周波数でゲインにピークが現れる。通常は、電気負荷が有する抵抗値によって、あるいは別途にダンピング抵抗を挿入することによって出力ピークを抑制するが、この方法では抵抗によって電力消費が発生する。そこで、出力段からのフィードバックを行って、出力ピークを抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、平滑フィルターを通った信号は位相が最大で180度まで遅れるので、出力段の信号でそのままフィードバックをかけると出力が発振する恐れがある。そこで、出力段の信号に位相進み補償をかけてからフィードバックすることが行われる。
【0006】
また、出力段からの信号をフィードバックする際に、平滑フィルターから容量性負荷までの配線が有する抵抗の影響で駆動回路の動作が不安定になることを抑制するために、配線抵抗を考慮してフィードバックをかける技術(例えば、特許文献3参照)や、消費電力を抑制する目的で、パルス変調する際のキャリア周波数を駆動信号の波形に応じて切り換える技術(例えば、特許文献4参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−168172号公報
【特許文献2】特開2009−153272号公報
【特許文献3】特開2005−329710号公報
【特許文献4】特開2007−190708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した特許文献1〜特許文献4を初めとする従来の技術では、平滑フィルターで除去している筈のキャリア周波数のリップル(キャリアリップル)が駆動信号に重畳する場合があるという問題があった。そのため、容量性負荷であるアクチュエーターを適切に駆動できなくなり、特に医療分野においては切開の深さや方向の調節が非常に要求されるため、キャリア周波数の微小なリップル(キャリアリップル)が駆動信号に重畳することも許されない。
【0009】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、平滑フィルター後の駆動信号にキャリア周波数のリップルが重畳することを回避可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例に係る液体噴射装置は、ノズルと、前記ノズルに接続され容積が変更可能な液体室と、前記ノズルと前記液体室とを連通する液体通路管と、を有する噴射ユニットと、駆動信号が容量性負荷に印加されることによって、前記容量性負荷が伸張して前記液体室の容積を変更する容量性負荷と、前記容量性負荷に前記駆動信号を印加することによって、前記容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路と、を備え、前記液体室の容積を変更することによって、前記液体室に流入された液体を前記ノズルより噴射する液体噴射装置であって、前記容量性負荷駆動回路は、前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、前記変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、前記平滑フィルターと前記容量性負荷とを接続し、前記平滑フィルターと前記容量性負荷との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブルと、前記配線ケーブルに関連付けられた配線情報を取得する配線情報取得手段と、前記変調回路が前記駆動波形信号をパルス変調する際のキャリア周波数を、前記配線情報に基づいて変更するキャリア周波数変更手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
本適用例によれば、容量性負荷に印加すべき駆動信号の基準となる駆動波形信号を、パルス変調することによって変調信号を生成し、得られた変調信号を電力増幅した後に平滑化することによって、駆動信号を生成する。こうして容量性負荷に印加された駆動信号に対して位相進み補償を行って帰還信号を生成し、駆動波形信号に負帰還させる。平滑フィルターと容量性負荷とは配線ケーブルによって接続されており、平滑フィルターから出力された駆動信号は、配線ケーブルを経由して容量性負荷に印加される。また、配線ケーブルは取替え可能となっており、平滑フィルターと容量性負荷とを配線ケーブルによって接続すると、その配線ケーブルに関する配線情報が取得され、そして、配線情報に応じたキャリア周波数でパルス変調が行われるようになっている。
【0013】
また、駆動信号の基準となる駆動波形信号に対して、容量性負荷に印加された駆動信号を負帰還させるので、平滑フィルターの共振の影響で駆動信号が歪んでしまうことを抑制することができる。また、駆動信号を負帰還させるに際しては、位相を進ませる補償(位相進み補償)を行ってから負帰還させているので、平滑フィルターによって位相が遅れた駆動信号を負帰還させることが原因で駆動信号の出力が不安定になってしまうこともない。更に、詳細には後述するが、キャリアリップルが重畳し易い周波数は配線ケーブルによって決まっている。したがって、キャリアリップルが重畳し易い周波数に関連する情報を配線情報として記憶しておけば、接続された配線ケーブルの配線情報を取得して、キャリアリップルの重畳し易い周波数を避けたキャリア周波数でパルス変調することがきる。その結果、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となり、安全性が高く、高い切除能力の医療機器を提供することができる。
【0014】
[適用例2]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線情報は、前記配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に関連付けられた情報であることを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、キャリアリップルが重畳し易い周波数は、配線ケーブルが有するインダクタンス成分の大きさ又はインピーダンスに強く影響される。したがって、配線ケーブルが有するインダクタンス成分の大きさ又はインピーダンスに関連付けられた情報を配線情報として取得すれば、キャリアリップルの重畳し易い周波数を避けたキャリア周波数でパルス変調することができるので、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0016】
[適用例3]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線情報は、前記配線ケーブルの長さに関連付けられた情報であることを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、配線ケーブルが有するインダクタンス成分の大きさは、配線ケーブルの長さに大きく依存する。したがって、配線ケーブルの長さに関連付けられた情報を配線情報として記憶しておけば、キャリアリップルの重畳し易い周波数を避けたキャリア周波数でパルス変調して、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0018】
[適用例4]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルの少なくとも前記平滑フィルター側のコネクターには、該平滑フィルターからの前記駆動信号が伝達される端子が突設されており、前記配線情報取得手段は、前記駆動信号が伝達されない端子が前記コネクターに突設されているか否かを検出することによって、前記配線情報を取得する手段であることを特徴とする。
【0019】
言い換えると、配線ケーブルの少なくとも平滑フィルター側のコネクターには端子が突設されており、配線ケーブルを接続すると、平滑フィルターからの駆動信号が端子を介して伝達されるようにしておく。そして、コネクターには、駆動信号の伝達に拘わらない端子も突設可能としておき、配線情報取得手段は、駆動信号の伝達に拘わらない端子がコネクターに突設されているか否かを検出することによって、配線情報を取得するようにしてもよい。
【0020】
本適用例によれば、配線ケーブルが接続された時に、駆動信号の伝達に拘わらない端子がコネクターに突設されているか否かに応じて、適切なキャリア周波数を選択してパルス変調することができる。その結果、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0021】
[適用例5]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記駆動信号が伝達されない端子は、光ファイバーが結合された光プラグで構成されていることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、接触式の端子に比べて耐久性が良好となる。
【0023】
[適用例6]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記駆動信号が伝達されない端子は、磁石を有することを特徴とする。
【0024】
本適用例によれば、接触式の端子に比べて耐久性が良好となる。
【0025】
[適用例7]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルには、前記配線情報を読み出し可能に記憶した記憶媒体が搭載されており、前記配線情報取得手段は、前記記憶媒体から前記配線情報を読み出す手段であることを特徴とする。
【0026】
本適用例によれば、配線ケーブルを接続するだけで配線情報が読み出されて、キャリアリップルの重畳し易い周波数を避けたキャリア周波数でパルス変調することができる。その結果、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0027】
[適用例8]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルには、前記配線情報が記載されたIDタグが設けられていることを特徴とする。
【0028】
本適用例によれば、容量性負荷駆動回路の操作者がIDタグに記載された配線情報を読み取って、配線情報を取得することで、キャリアリップルの重畳し易い周波数を避けたキャリア周波数でパルス変調することが可能となり、その結果、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図。
【図2】本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図。
【図3】伝達関数Hについての説明図。配線ケーブルが有するインダクタンス成分(及び抵抗成分)の影響でキャリアリップルが発生するメカニズムを示した説明図。
【図4】配線ケーブルが有するインダクタンス成分(及び抵抗成分)の影響でキャリアリップルが発生するメカニズムを示した説明図。
【図5】配線ケーブルが有するインダクタンス成分(及び抵抗成分)の影響でキャリアリップルが発生するメカニズムを示した説明図。
【図6】第1実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した回路図。
【図7】配線情報に対応してキャリア周波数が変更される様子をまとめた説明図。
【図8】配線情報に応じてキャリア周波数を変更することで、キャリアリップルが重畳することを回避可能な理由を示した説明図。
【図9】第1実施例の他の態様を例示した説明図。
【図10】第2実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した回路図。
【図11】第3実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した回路図。
【図12】容量性負荷駆動回路を用いた液体噴射型印刷装置の一実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施形態を説明する。
A.装置構成:
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
C.キャリアリップルが発生するメカニズム:
D.第1実施例の容量性負荷駆動回路:
E.第2実施例の容量性負荷駆動回路:
F.第3実施例の容量性負荷駆動回路:
G.液体噴射型印刷装置(プリンター):
【0031】
A.装置構成:
図1は、本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図である。図示されているように液体噴射装置100は、大きく分けると、液体を噴射する噴射ユニット110と、噴射ユニット110から噴射される液体を噴射ユニット110に向けて供給する供給ポンプ120と、噴射ユニット110及び供給ポンプ120の動作を制御する制御ユニット130などから構成されている。液体噴射装置100は、パルス状の液体を噴射ユニット110から噴射することによって、生体組織を切除又は切開することに使用する手術具としてのウォータージェットメスの一例である。
【0032】
噴射ユニット110は、金属製のフロントブロック113に、同じく金属製のリアブロック114を重ねてネジ止めした構造となっており、フロントブロック113の前面には円管形状の液体通路管112が立設され、液体通路管112の先端には噴射ノズル111が挿着されている。フロントブロック113とリアブロック114との合わせ面には、薄い円板形状の液体室115が形成されており、液体室115は、液体通路管112を介して噴射ノズル111に接続されている。また、リアブロック114の内部には、積層型の圧電素子によって構成されたアクチュエーター116が設けられている。噴射ユニット110と制御ユニット130とは配線ケーブル150によって接続されており、制御ユニット130内の容量性負荷駆動回路200からは、配線ケーブル150を介して駆動信号がアクチュエーター116に供給される。また、配線ケーブル150の一端側はコネクター152によって噴射ユニット110に取り付けられ、配線ケーブル150の他端側はコネクター154によって制御ユニット130に取り付けられている。このため、配線ケーブル150は、長さや特性の異なる種々の配線ケーブル150に取り替えることが可能となっている。尚、このアクチュエーター116が、本発明における「容量性負荷」に対応する。
【0033】
供給ポンプ120は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が貯められた液体タンク123から、チューブ121を介して液体を吸い上げた後、チューブ122を介して噴射ユニット110の液体室115内に供給する。このため、液体室115は液体で満たされた状態となっている。
【0034】
そして、制御ユニット130から駆動信号をアクチュエーター116に印加すると、アクチュエーター116が伸張して液体室115が押し縮められ、その結果、液体室115内に充満していた液体が、噴射ノズル111からパルス状に噴射される。アクチュエーター116の伸張量は、駆動信号として印加される電圧に依存する。したがって、所望の特性のパルス状の液体を噴射するためには、精度の良い駆動信号をアクチュエーター116に印加する必要がある。そこで、このような駆動信号を生成するために、制御ユニット130内には、以下に説明するような容量性負荷駆動回路200が搭載されている。
【0035】
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
図2は、本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明図である。図示されているように容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号発生回路210からのWCOMをパルス変調して変調信号(以下、MCOM)に変換する変調回路230と、変調回路230からのMCOMをデジタル的に電力増幅して電力増幅変調信号(以下、ACOM)を生成するデジタル電力増幅器240と、デジタル電力増幅器240からACOMを受け取って変調成分を取り除いた後、駆動信号(以下、COM)として噴射ユニット110のアクチュエーター116に供給する平滑フィルター250とを備えている。
【0036】
このうち、駆動波形信号発生回路210は、WCOMのデータを記憶した波形メモリーや、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出したデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形信号)を生成する。また逆に、変調回路230を信号処理回路を用いてデジタル回路で構成することで、駆動波形信号発生回路210の波形メモリーから読み出したWCOM(駆動波形信号)をデジタルデータのまま取り扱うようにしてもよい。
【0037】
変調回路230では、WCOMを一定周期の三角波と比較することによって、パルス波状のMCOM(変調信号)を生成(パルス変調)する。ここで、パルス変調に用いる三角波の基底周波数(キャリア周波数)は、キャリア周波数変更手段280からの制御によって変更可能となっている。そして、キャリア周波数変更手段280は、配線情報取得手段270によって取得した配線情報(噴射ユニット110と制御ユニット130とを接続している配線ケーブル150に関する情報)に基づいてキャリア周波数を変更する。詳細には後述するが、こうして配線情報に基づいて、パルス変調する際のキャリア周波数を変更することによって、COMにキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0038】
変調回路230によって得られたMCOMは、デジタル電力増幅器240に入力される。デジタル電力増幅器240は、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子(MOSFETなど)と、電源と、これらスイッチ素子を駆動するゲートドライバーとを備えている。本実施例では、上述した電源の電圧はVdd[V]であるとする。MCOMがHigh状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がON状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がOFF状態になって、電源の電圧VddがACOMとして出力される。また、MCOMがLow状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がOFF状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がON状態になってグランドの電圧がACOMとして出力される。その結果、変調回路230の動作電圧とグランドとの間でパルス波状に変化するMCOMが、電源の電圧Vddとグランドとの間でパルス波状に変化するACOMに電力増幅される。この増幅では、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えているだけなので、アナログ波形を増幅する場合に比べて電力損失を大幅に抑制することが可能である。その結果、電力効率を向上させることが可能となるだけでなく、放熱のために大きなヒートシンクを設ける必要もなくなるので、回路を小型化することも可能となる。
【0039】
こうして電力増幅されたACOM(電力増幅変調信号)は、LC回路によって構成される平滑フィルター250を通すことによってCOM(駆動信号)に変換され、配線ケーブル150を介してアクチュエーター116に印加される。配線情報取得手段270の詳細な構成については後述する。
【0040】
ここで、図2に示されるように、前述した配線ケーブル150もインダクタンス成分及び抵抗成分を有している。したがって、この影響で、平滑フィルター250から出力されたCOMと、実際にアクチュエーター116に印加される信号(以下、RCOM)との間には、何某かのズレが生じているものと思われる。実際に検討してみると、接続される配線ケーブル150の長さや種類、あるいはそれらによって決る配線ケーブル150のインダクタンス成分(及び抵抗成分)の大きさによっては、実際にアクチュエーター116に印加されるRCOMにキャリアリップルが重畳し得ることが見いだされた。ここでキャリアリップルとは、アクチュエーター116に印加されるRCOMに含まれる、パルス変調に用いるキャリア信号(三角波信号)の信号成分を意味する。以下、この点について詳しく説明する。
【0041】
C.キャリアリップルが発生するメカニズム:
上述したキャリアリップルが重畳し得る理由を説明するにあたり、先ず、ACOMを入力信号、RCOMを出力信号とした場合の伝達関数(以後、Hと表記する)について説明する必要がある。伝達関数Hの構成要素として平滑フィルター250、配線ケーブル150、容量性負荷であるアクチュエーター116が挙げられる。配線ケーブル150に関しては種々の回路モデルが考えられるが、本実施例では、図2に示すように、インダクタンス成分と抵抗成分とを含む回路モデルを例に説明を行う。図3は、上述した伝達関数Hについての説明図である。図3(a)には、ACOMからRCOMまでの回路構成が示されている。平滑フィルター250のコイルのインダクタンスをLlpf[H]とし、平滑フィルター250の容量成分のキャパシタンスをClpf[F]とする。同様に、片側の配線が有する抵抗値及びインダクタンスを、Rc[Ω]、Lc[H]とする。更に、容量性負荷のキャパシタンスをCload[F]とする。
【0042】
また便宜上、図3に示すように、平滑フィルター250のコイルのインピーダンスをZ1とおき、配線ケーブル150の往き側(平滑フィルター250からアクチュエーター116へ送る側)のインピーダンスをZaとおき、アクチュエーター116に配線ケーブル150の戻り側(アクチュエーター116から容量性負荷駆動回路200のグランドへ戻す側)を加えた部分のインピーダンスをZbとおくと、Z1、Za、Zbはそれぞれ以下の式で与えられる。
Z1=jω・Llpf
Za=Rc+jω・Lc
Zb=1/(jω・Cload)+(Rc+jω・Lc)
また、図3(a)に示した回路構成の中で、平滑フィルター250のコイルに直列に接続された伝達要素(配線ケーブル150の往復部分とアクチュエーター116と平滑フィルター250の容量成分)のインピーダンスZ2は、次式で与えられる。
Z2={1/(jω・Clpf)}//{2(Rc+jω・Lc)+1/(jω・Cload)}
ただし、ωは角周波数で、周波数fに2倍の円周率πをかけたものである。jは虚数単位である。また//は、並列接続の合成インピーダンスを表す並列合成記号である。すると、ACOMとRCOMとの間の伝達関数Hは、図3(b)の式(1)で与えられる。
【0043】
図3(b)の式(1)では、式の表記が複雑になることを避けるため、伝達関数HをインピーダンスZ1、Z2、及びZa、Zbで表している。ただし前述したように、インピーダンスZ1、Z2、及びZa、Zbは、角周波数ω(又は周波数f)や、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc等で表される。したがって、式(1)に示す伝達関数Hを展開していくと、最終的には角周波数ω(又は周波数f)や、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc、抵抗成分Rc等が含まれた式A、Bによって、図3(b)の式(2)の形で表すことができる。
また伝達関数Hのゲイン|H|[dB]は、図3(b)の式(3)で表される。式(2)と同様に、式(3)には角周波数ω(又は周波数f)が含まれるため、伝達関数Hのゲイン|H|は周波数に依存して変化するパラメーターである。
【0044】
以上に、伝達関数Hに関する説明を行った。次に、上述したキャリアリップルが重畳し得る理由を説明するために、伝達関数Hのゲイン|H|−周波数特性とキャリアリップルとの関係について説明を行う。
図4に配線ケーブル150がない場合(ケーブル長が0mの場合)の伝達関数Hのゲイン−周波数特性の例を示す。前述したように、キャリア周波数fcは固定された一定の周波数である。図4において、配線ケーブル150がない場合は、キャリア周波数fcにおけるゲインはy[dB]であるとする。前述したデジタル電力増幅器240の電源電圧をVdd[V]とすると、RCOMに重畳されるキャリアリップルVrpp[Vpp]は、図4の式(4)で表される。ただし、式(4)は前述したパルス変調信号のデューティー比が50%の場合のキャリアリップルである。
式(4)より、例えば、デジタル電力増幅器240の電源電圧を100Vとし、図4に示すゲインyが−40[dB]であったとすると、RCOMに重畳されるキャリアリップルは1Vppと算出される。
【0045】
一方、配線ケーブル150がある場合について考える。
前述した式(2)と同様に、式(3)には配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc、抵抗成分Rc等が含まれる。したがって、配線ケーブル150がある場合で、長さや種類が異なる配線ケーブル150に取り替えられた場合、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc及び抵抗成分Rcが変化するため、伝達係数Hのゲイン|H|−周波数特性が変化してしまう。図5に伝達関数Hのゲイン|H|−周波数特性の一例を示す。尚、図5では、配線ケーブル150の単位長あたりの抵抗成分Rcを数百ミリΩ程度とし、単位長あたりのインダクタンス成分Lcを数μH程度と想定して、種々の配線長で得られるゲイン−周波数特性を例示している。
【0046】
図5中に示した破線は、配線ケーブル150の長さが2[m(メートル)]の場合のゲイン−周波数特性であり、一点鎖線は長さが1[m]の場合のゲイン−周波数特性であり、二点鎖線は0.5[m]の場合のゲイン−周波数特性である。また、実線は、配線ケーブル150なしの場合のゲイン−周波数特性を表している。図示されるように、配線ケーブル150を介してアクチュエーター116(容量性負荷)を接続すると、式(3)(伝達関数のゲイン|H|)の関係から、平滑フィルター250の共振周波数f0よりも高周波数側に、周波数fxの共振が発生する。また、配線ケーブル150がより長いものに取り替えられると、配線ケーブル150のインダクタンス値がより大きくなるため、式(3)の関係から、前述した共振周波数fxはより低くなる。したがって、図5中に示した配線ケーブル150の長さが1mの場合のように、接続する配線ケーブル150の長さ(あるいは長さによって決るインダクタンス)によっては、周波数fxの共振ピークがキャリア周波数fcに接近あるいは一致してしまう。その結果、キャリア周波数fcにおけるゲインが大きくなり、式(3)に示した関係から、アクチュエーター116に印加する駆動信号に非常に大きなキャリアリップルが残ってしまう場合が起こり得る。
【0047】
図5を用いて、配線ケーブル150の有無及び接続される配線ケーブル150の長さによって、キャリアリップルの大きさがどの程度変化するかを説明する。ここで、デジタル電力増幅器240の電源電圧Vddは100Vとする。また、平滑フィルター250とアクチュエーター116とを繋ぐ配線ケーブル150は、0.5[m]〜2[m]までの間で種々の長さのものが接続されるものとする。図5から、配線ケーブル150がない場合(0[m])と、配線ケーブル150のケーブル長が0.5[m]の場合、1[m]の場合、2[m]の場合について、キャリア周波数fcにおけるゲインはそれぞれ−40db、−38db、−20db、−45dbとなる。式(4)から駆動信号に残るキャリアリップルは、それぞれ1Vpp、1.25Vpp、10Vpp、0.56Vppとなる。したがって、本実施例の場合には1[m]の長さの配線ケーブル150に取り替えられた場合に、キャリア周波数fcにおけるゲインが大きくなり、アクチュエーター116に印加する駆動信号に10Vppもの非常に大きなキャリアリップルが残ってしまう場合が起こり得る。デジタル電力増幅器240によって増幅されたACOMを、平滑フィルター250を通して平滑化しているにも拘わらず、駆動信号にキャリアリップルが重畳することがあるのは、以上のようなメカニズムによるものと考えられる。
【0048】
キャリアリップルが重畳していたのではアクチュエーター116を適切に駆動することができない。特に医療分野においては切開の深さや方向の調節が難しいことに直結するためこのような現象は許されない。しかし、配線中にダンピング抵抗を挿入したのでは、抵抗で電力を消費してしまうので電力効率が低下する。また、キャリアリップルの周波数成分が更に抑制されるように平滑フィルター250の特性を変更すると、平滑フィルター250の共振周波数f0が低くなるので信号周波数の帯域が確保できなくなる。逆に、パルス変調時のキャリア周波数を十分に高くすればキャリアリップルを抑制することができるが、パルス変調時あるいは変調信号の増幅時のスイッチング損失の増加を招くことになる。そこで、こうした問題を伴うことなく、キャリアリップルの無い駆動信号をアクチュエーター116に印加するために、以下のような方法を採用する。
【0049】
D.第1実施例の容量性負荷駆動回路:
図6は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した回路図である。具体的には、配線ケーブル150を接続することで配線情報に応じたキャリア周波数が設定される。本実施例では、配線ケーブル150の制御ユニット130側(容量性負荷駆動回路200側)に接続されるコネクター154が雄コネクターとなっており、制御ユニット130側(容量性負荷駆動回路200側)のコネクターが雌コネクターとなっている。配線ケーブル150側のコネクター154には、端子274a及び端子274bが立設されており、配線ケーブル150を制御ユニット130(容量性負荷駆動回路200)に接続すると、端子274aは平滑フィルター250から出力されるCOMのラインに接続され、端子274bはグランドラインに接続される。
【0050】
また、図6に示すように、本実施例では、配線ケーブル150の制御ユニット130(容量性負荷駆動回路200)側のコネクター154に、もう1本の端子274cも設けられている。この端子274cは、配線ケーブル150を制御ユニット130(容量性負荷駆動回路200)に接続すると、容量性負荷駆動回路200側に設けられた配線情報取得手段としての接点を短絡させるようになっている。すなわち、コネクター154に端子274cが設けられていれば、容量性負荷駆動回路200の接点が短絡し、端子274cが設けられていなければ容量性負荷駆動回路200の接点が切断された状態となる。したがって、配線ケーブル150のコネクター154に端子274cを設けるか否かによって、配線情報を記憶しておくことができる。本実施例では、コネクター154における端子274cが本発明における「配線情報取得手段」に対応する。
【0051】
キャリア周波数変更手段280では、配線ケーブル150が接続されたときの接点の状態によって配線情報を検出して、キャリア周波数を設定する。図7は、上述した配線情報に対応してキャリア周波数が変更される様子をまとめた説明図である。図7において、コネクター154に端子274cを設けずに、接点が切断される場合は、配線情報が「1」の状態であると称する。また、コネクター154に端子274cを設け、接点が短絡される場合は、配線情報が「0」の状態であると称する。
【0052】
尚、図7では配線情報として、配線ケーブル150の長さが記載されているものとする。例えば、配線情報であるケーブル長がx[m(メートル)]であった場合は、配線ケーブル150のコネクター154に端子274cを設ける(配線情報=「0」)。すると、キャリア周波数変更手段280によってキャリア周波数fcx1が選択される。また、配線情報であるケーブル長が2x[m]あるいは4x[m]であった場合には、コネクター154に端子274cを設けないようにすることで(配線情報=「1」)、キャリア周波数fcx2が選択される。こうすることで、以下の理由から、アクチュエーター116への駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。尚、図7では、配線情報としてケーブル長が記載されているものとして説明しているが、配線情報としては、単なる数字や記号であってもよい。また前述したように、配線ケーブル150を取り付けた際に発生する共振の周波数fxは、取り付けられる配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に応じて変化する。したがって、配線ケーブル150のケーブル長の代わりに、配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に対してキャリア周波数を設定しておくことでも対応することが可能である。
【0053】
図8は、配線情報に応じてキャリア周波数を変更することで、キャリアリップルが重畳することを回避可能な理由を示した説明図である。ここでは、接続される可能性のある配線ケーブル150は、x[m]、2x[m]、4x[m]の3種類であるとする。すると、それぞれの配線ケーブル150を用いたときに、配線ケーブル150とアクチュエーター116との間で生じる共振の周波数fxは、式(3)を用いて予め調べておくことができる。ただし、それぞれの配線ケーブルのインダクタンス成分と、抵抗成分の値を計測しておく必要がある。
【0054】
図8には、x[m]の配線ケーブル150を接続したときのゲイン−周波数特性が二点鎖線で示されている。また、2x[m]の配線ケーブル150を接続したときのゲイン−周波数特性が一点鎖線で示されており、4x[m]の配線ケーブル150を接続したときのゲイン−周波数特性が破線で示されている。ここで、平滑フィルター250の共振周波数は、必要な信号周波数帯域から決定されており、それ以上には低くできない。すなわち高周波領域における減衰量をそれ以上大きくは設計できないものとする。そのように決定された平滑フィルター250の特性において、配線ケーブル150が接続されていない理想状態の場合に、アプリケーションのキャリアリップルの仕様値を最低限満足できる周波数(最低周波数)が、図8において「fcmin」と表示されている。また、スイッチング損失を抑制する観点、すなわちスイッチ素子の発熱による破壊防止の観点から、キャリア周波数をこれ以上には高くできない周波数が存在する。図8では、このような周波数(最高周波数)が「fcmax」と表示されている。
【0055】
パルス変調時のキャリア周波数は、最低周波数fcmin〜最高周波数fcmaxとの間で設計する必要がある。そこで、最低周波数fcmin〜最高周波数fcmaxとの間に、互いの間隔を離して2種類のキャリア周波数fcx1,fcx2を設定しておく。また、本実施例ではキャリア周波数におけるゲインが−40db以下であれば、キャリアリップルが目立たないものとする。一例として、前述したようにデジタル電力増幅器240の電源電圧を100Vとした場合を考える。この場合は、式(4)よりRCOMに重畳されるキャリアリップルは1Vppと算出される。したがって、本実施例では1Vpp程度のキャリアリップルであれば問題のないレベルであるとする。上述したように、接続される配線ケーブル150の長さやインダクタンス値、又はインピーダンス値から、式(3)及び式(4)を用いて、ゲイン−周波数特性を算出することが可能である。よって、fcx1は長さx[m]の配線ケーブルが取り付けられた際に、ゲインが目標値(本実施例では−40db)以内となる周波数として設定しておく。またfcx2は長さ2x[m]又は4x[m]の配線ケーブルが取り付けられた際に、ゲインが目標値(本実施例では−40db)以内となる周波数として設定しておく。
【0056】
図8に示すように、本実施例では、長さx[m]、2x[m]、4x[m]の配線ケーブル150を取り付けた際に発生する共振周波数fxにおけるゲインが、それぞれ−25dB、−22dB、−20dbであったとする。この場合、仮に共振周波数fxがキャリア周波数と一致してしまうような長さ(若しくはインダクタンス)の配線ケーブルであった場合には、式(4)より、それぞれのキャリアリップルは5.6Vpp、7.9Vpp、10Vppとなってしまう。図8から明らかなように、ケーブル長がx[m]の配線ケーブル150を接続した場合は、キャリア周波数をfcx1に設定すれば、ゲインを−40dbに抑えることが可能である。また、ケーブル長が2x[m]や4x[m]の配線ケーブル150を接続した場合は、キャリア周波数をfcx2に設定することで、キャリア周波数におけるゲインを−40db以下に抑えることが可能である。そこで、図7に示すように、配線ケーブル150のケーブル長(すなわち、配線情報)に応じてキャリア周波数fcx1又はfcx2を設定しておく。こうすれば、x「m」〜4x「m」のいずれの配線ケーブル150が接続された場合でも、アクチュエーター116への駆動信号にキャリアリップルが重畳してしまうことを回避することが可能となる。
【0057】
尚、予め設定しておく2種類のキャリア周波数fcx1、fcx2としては、最低周波数fcmin、及び最高周波数fcmaxを設定しておいても良い。また、以上の説明では、1本の端子274cの有無によって配線情報を記憶するものとしているから、配線情報は1ビットの情報となり、2種類のキャリア周波数fcx1、fcx2の中から何れかを選択することができる。これに対して複数本の端子274cの有無によって配線情報を記憶すれば、配線情報のビット数が多くなるので、より他種類のキャリア周波数の中から適切なキャリア周波数を設定することが可能となる。したがって、最低周波数fcmin〜最高周波数fcmaxとの間に、より多種類(3種類以上)のキャリア周波数を設定しておき、端子274cの配線情報に応じてキャリア周波数を設定するようにしても良い。
【0058】
図9は、本実施例の他の態様を例示した説明図である。具体的には、3種類以上のキャリア周波数の中から配線情報に応じたキャリア周波数を選択する。図9(a)には、最低周波数fcmin〜最高周波数fcmaxとの間に、3種類のキャリア周波数fcx1、fcx2、fcx3が設定されている様子が示されている。ここでは2本の端子274c(第一端子、第二端子と称する)の有無によって配線情報を記憶する。また、図9(b)に示す「配線情報の下位ビット」は、第一端子の有無によって決定され、「配線情報の上位ビット」は、第二端子の有無によって決定される。端子274cの有無の状態と、配線情報の「0」、「1」の対応関係は前述した通りである。図9(b)では、ケーブル長(配線情報)に応じて、第一端子と第二端子の有無によって決定される配線情報により、いずれかのキャリア周波数が選択される様子が示されている。このようにキャリア周波数の種類を増やせば、接続される配線ケーブル150に応じて、より適切なキャリア周波数を選択することが可能となる。なお、スイッチング損失を抑制する観点から、ゲインが−40db以下となる周波数が複数ある場合には、なるべく低い周波数をキャリア周波数として設定することが望ましい。また、以上に述べた端子274cは、光ファイバーが結合された光プラグで構成されていてもよいし、磁石を有して磁力により接点を短絡/切断してもよい。
【0059】
E.第2実施例の容量性負荷駆動回路:
以上に説明した第1実施例では、配線情報取得手段270の構成例として、配線ケーブル150のコネクター154に設けられた端子274cの有無によって配線情報を記憶するものとして説明した。これに対して、配線ケーブル150の制御ユニット130(容量性負荷駆動回路200)側のコネクター154に、配線情報を記憶したROM(記憶媒体)を予め搭載しておいてもよい。尚、以下に説明する第2実施例及び第3実施例において、第1実施例と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
図10は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した回路図である。具体的には、配線ケーブル150のコネクター154内に配線情報を記憶したROMを搭載した。本実施例においては、配線ケーブル150の容量性負荷駆動回路200側のコネクター154にROM162が搭載されており、また、容量性負荷駆動回路200にはROM162のデータを読み取る配線情報取得手段としてのROMデータリード回路276が設けられている。
【0061】
配線ケーブル150を制御ユニット130の容量性負荷駆動回路200に接続して、制御ユニット130を起動すると、容量性負荷駆動回路200に設けられたROMデータリード回路276によって、ROM162内に記憶されている配線情報が読み出されてキャリア周波数変更手段280に入力される。そして、前述した図7又は図9(b)に示すような対応関係に基づいて、配線情報に対応したキャリア周波数が選択されて、そのキャリア周波数でパルス変調が行われる。こうすれば、配線ケーブル150に応じたキャリア周波数でパルス変調を行うことができるので、アクチュエーター116に印加する駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0062】
F.第3実施例の容量性負荷駆動回路:
上述した第2実施例では、配線情報取得手段270の構成例として配線ケーブル150の制御ユニット130(容量性負荷駆動回路200)側のコネクター154に、配線情報を記憶したROM(記憶媒体)を予め搭載するものとして説明した。これに対して、配線ケーブル150のケーブル長(あるいはケーブルの特性)に対応するIDタグ160を、配線ケーブル150に設けおいてもよい。本実施例では、スイッチ272が「配線情報取得手段」に対応する。
【0063】
図11は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した回路図である。本実施例では、配線ケーブル150のケーブル長(あるいはケーブルの特性)に対応するIDタグ160が配線ケーブル150に設けられている。制御ユニット130の起動時に、IDタグ160に記載された配線情報(ケーブル長やケーブルの特性など)を液体噴射装置100の操作者が読み取って、スイッチ272のON/OFFを設定することでキャリア周波数変更手段280に配線情報を入力する。すると、キャリア周波数変更手段280は、入力された配線情報に基づいてキャリア周波数を変更する。変調回路230は、変更されたキャリア周波数を用いてWCOMをパルス変調する。そして、前述した図7又は図9(b)に示すような対応関係に基づいて、配線情報に対応したキャリア周波数が選択されて、そのキャリア周波数でパルス変調が行われる。ただし、本実施例では、スイッチ272がOFFの状態であれば、配線情報が「0」であり、スイッチ272がONの状態であれば、配線情報が「1」であるものとする。こうすれば、配線ケーブル150に応じたキャリア周波数でパルス変調を行うことができるので、アクチュエーター116に印加する駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0064】
G.液体噴射型印刷装置(プリンター):
図12は、本実施例の容量性負荷駆動回路を用いた液体噴射型印刷装置の一実施形態を示す概略図である。図12(a)は概略構成正面図である。図12(b)は液体噴射ヘッド近傍の平面図である。
【0065】
本実施例の液体噴射型印刷装置は、上記実施例に記載の容量性負荷駆動回路(図示せず)と、液体供給チューブを介して液体を供給する液体タンク(図示せず)と、液体タンクから供給された液体が流入する液体室(図示せず)と、容量性負荷であるアクチュエーター(図示せず)と、液体室に流入された液体を噴射する噴射ノズルとを有する複数の液体噴射ヘッド(噴射ユニット)2と、を備えている。液体噴射型印刷装置は、駆動信号がアクチュエーターに印加されることによって、液体室に流入された液体を噴射ノズルから噴射する。
【0066】
液体噴射型印刷装置のうち、液体噴射ノズルの形成された液体噴射ヘッド2をキャリッジと呼ばれる移動体に載せて印刷媒体の搬送方向と交差する方向に移動させるものを一般に「マルチパス型印刷装置」と呼んでいる。これに対し、印刷媒体の搬送方向と交差する方向に長尺な液体噴射ヘッドを配置して、所謂1パスでの印刷が可能なものを一般に「ラインヘッド型印刷装置」と呼んでいる。
【0067】
図12(a)中の符号2は、印刷媒体1の搬送ライン上方に設けられた複数の液体噴射ヘッドであり、印刷媒体搬送方向に2列になるようにかつ印刷媒体搬送方向と交差する方向に並べて配設されて、夫々、ヘッド固定プレート11に固定されている。各液体噴射ヘッド2の最下面には、多数のノズルが形成されており、この面がノズル面と呼ばれている。ノズルは、図12(b)に示すように、噴射する液体の色毎に、印刷媒体搬送方向と交差する方向に列状に配設されており、その列をノズル列とし、その列方向をノズル列方向とする。そして、印刷媒体搬送方向と交差する方向に配設された全ての液体噴射ヘッド2のノズル列によって、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向の幅全長に及ぶラインヘッドが形成されている。印刷媒体1は、これらの液体噴射ヘッド2のノズル面の下方を通過するときに、ノズル面に形成されている多数のノズルから液体が噴射され、印刷が行われる。
【0068】
液体噴射ヘッド2には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクなどの液体が、図示しない各色の液体タンクから液体供給チューブを介して供給される。そして、各液体噴射ヘッド2に形成されているノズルから同時に必要箇所に必要量の液体を噴射することにより、印刷媒体1上に微小なドットを出力する。これを色毎に行うことにより、搬送部で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、所謂1パスによる印刷を行うことができる。
【0069】
液体噴射ヘッドの各ノズルから液体を噴射する方法としては、静電方式、ピエゾ方式、膜沸騰液体噴射方式などがあり、本実施形態ではピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、ノズルアクチュエーターである圧電素子に駆動信号を与えると、キャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化によって液滴がノズルから噴射されるというものである。そして、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することで液滴の噴射量を調整することが可能となる。
【0070】
図12(b)に示したように、ラインヘッド型印刷装置には複数の液体噴射ヘッドが用意されている。また、本実施例では、複数の液体噴射ヘッド毎にそれぞれ容量性負荷駆動回路が用意されているものとする。各容量性負荷駆動回路と液体噴射ヘッドは、それぞれ前述した配線ケーブル150で接続される。ただし、複数の液体噴射ヘッドは印刷媒体の搬送方向と交差する方向に長尺に配置されている為、各容量性負荷駆動回路と液体噴射ヘッドとを接続する各々の配線ケーブル150は、液体噴射ヘッドと容量性負荷駆動回路との位置関係によって、それぞれ適した長さのものが用意される。
【0071】
すると、前述した理由から、複数の液体噴射ヘッドのうちの少なくとも一部は、ケーブルの長さによっては大きなキャリアリップルが重畳する可能性が生じる。その結果、液体噴射型印刷装置において、適切な液滴吐出制御が困難になり、印刷物の画質が低下する虞が発生する。
【0072】
このような場合においても、本実施例によれば、配線ケーブル150に応じたキャリア周波数でパルス変調を行うことができるので、アクチュエーター116に印加する駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。その結果、印刷物の画質の低下を回避することが可能となる。尚、本実施例は、ピエゾ方式以外の液体噴射方法にも、同様に適用可能である。
【0073】
以上、各種実施例の容量性負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器に本実施例の容量性負荷駆動回路を適用することで、電力効率が良く小型化の電子機器を提供することができる。また、インクジェットプリンターに搭載されて、インクを噴射する噴射ノズルを駆動するための容量性負荷駆動回路に対しても、本発明を好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
100…液体噴射装置 110…噴射ユニット 111…噴射ノズル 112…液体通路管 113…フロントブロック 114…リアブロック 115…液体室 116…アクチュエーター(容量性負荷) 120…供給ポンプ 121…チューブ 122…チューブ 123…液体タンク 130…制御ユニット 150…配線ケーブル 152…コネクター 154…コネクター 160…IDタグ 162…ROM 200…容量性負荷駆動回路 210…駆動波形信号発生回路 230…変調回路 240…デジタル電力増幅器 250…平滑フィルター 270…配線情報取得手段 272…スイッチ(配線情報取得手段) 274a〜274c…端子 276…ROMデータリード回路 280…キャリア周波数変更手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、前記ノズルに接続され容積が変更可能な液体室と、前記ノズルと前記液体室とを連通する液体通路管と、を有する噴射ユニットと、
駆動信号が容量性負荷に印加されることによって、前記容量性負荷が伸張して前記液体室の容積を変更する容量性負荷と、
前記容量性負荷に前記駆動信号を印加することによって、前記容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路と、を備え、
前記液体室の容積を変更することによって、前記液体室に流入された液体を前記ノズルより噴射する液体噴射装置であって、
前記容量性負荷駆動回路は、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、
前記平滑フィルターと前記容量性負荷とを接続し、前記平滑フィルターと前記容量性負荷との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブルと、
前記配線ケーブルに関連付けられた配線情報を取得する配線情報取得手段と、
前記変調回路が前記駆動波形信号をパルス変調する際のキャリア周波数を、前記配線情報に基づいて変更するキャリア周波数変更手段と、
を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記配線情報は、前記配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に関連付けられた情報であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記配線情報は、前記配線ケーブルの長さに関連付けられた情報であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルの少なくとも前記平滑フィルター側のコネクターには、該平滑フィルターからの前記駆動信号が伝達される端子が突設されており、
前記配線情報取得手段は、前記駆動信号が伝達されない端子が前記コネクターに突設されているか否かを検出することによって、前記配線情報を取得する手段であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記駆動信号が伝達されない端子は、光ファイバーが結合された光プラグで構成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記駆動信号が伝達されない端子は、磁石を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルには、前記配線情報を読み出し可能に記憶した記憶媒体が搭載されており、
前記配線情報取得手段は、前記記憶媒体から前記配線情報を読み出す手段であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルには、前記配線情報が記載されたIDタグが設けられていることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−39172(P2013−39172A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176576(P2011−176576)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】