液体噴射装置
【課題】液体が噴射面に残るのを防ぐことができる液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、前記ワイピング部の内部に設けられた電極を有し、前記電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負に帯電した前記液体に対する親和性を調整する制御部とを備える。
【解決手段】液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、前記ワイピング部の内部に設けられた電極を有し、前記電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負に帯電した前記液体に対する親和性を調整する制御部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置として、記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズル(噴射口)より記録媒体にインク(液体)を噴射するインクジェット式のプリンター(液体噴射装置)が知られている。プリンターにおいては、例えばインクの増粘によりインクの噴射速度や噴射量が低下してしまい、噴射不良が生じる場合がある。そのため、インクの噴射特性を維持するために、従来から、記録ヘッドのクリーニング処理が行われている。
【0003】
下記特許文献1には、クリーニング処理として、吸引動作によってノズルからインクを強制的に排出した後、ノズル形成面(噴射面)に付着したインクをワイピング部材によって払拭するワイピング動作を行う技術が開示されている。このようなワイピング部材は、その表面にインクが付着するのを防ぐため表面が撥液性となるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−052381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面が撥液性に形成されたワイピング部材を用いてワイピング動作を行う場合、ワイピング動作後にワイピング部材にインクが付着するのを防ぐことができるものの、ワイピング時にはノズル形成面にインクが残ってしまう場合がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、液体が噴射面に残るのを防ぐことができ、かつワイピング部材表面にインクが付着するのを防ぐことができる液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体噴射装置は、液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、前記ワイピング部の内部に設けられた第一電極とを有し、前記第一電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた前記液体に対する親和性を調整する制御部とを備える。
【0008】
本発明によれば、表面に絶縁層が形成されたワイピング部の内部に設けられた第一電極の電位を調整することで、ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた液体に対する親和性を調整することができるので、ワイピング部を用いて噴射面を払拭する時にワイピング部の表面を親液性にすることができる。これにより、噴射面に液体が残ってしまうのを防ぐことができる。
【0009】
上記の液体噴射装置において、前記ワイピング部は、表面が前記液体に対して撥液性となるように形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、ワイピング部の表面が液体に対して撥液性となるように形成されているので、払拭動作後に第一電極の電位を0に近づけることによりワイピング部の表面を撥液性とすることができ、ワイピング部に液体が付着するのを防ぐことができる。
【0011】
上記の液体噴射装置において、前記制御部は、前記噴射面に第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して親液性とし、前記第一電極と前記第二電極との間の電圧を解除することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して撥液性とすることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、制御部が噴射面に第二電極を有し、第一電極と第二電極との間に電圧を印加することによりワイピング部の表面を液体に対して親液性とし、第一電極と第二電極との間の電圧を解除することによりワイピング部の表面を液体に対して撥液性とすることとしたので、第一電極と前記第二電極との間に印加する電圧を調整することにより、ワイピング部の表面の撥液性又は親液性の度合いを調整することができる。
【0013】
上記の液体噴射装置において、前記制御部は、前記ワイピング部が前記噴射面を払拭している期間に前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加すると共に、前記ワイピング部が前記噴射面から離れたときに前記第一電極と前記第二電極との間に印加された前記電圧を解除することが好ましい。
【0014】
本発明によれば、ワイピング部が噴射面を払拭している期間に第一電極と第二電極との間に電圧が印加され、ワイピング部が噴射面から離れたときに第一電極と第二電極との間に印加された電圧が解除されるので、電圧が印加される期間がワイピング部が噴射面を払拭している期間だけでよく、電圧の印加による消費電力を抑えることができる。
【0015】
上記の液体噴射装置において、前記液体噴射ヘッドは、前記噴射面に設けられ第一方向に配列された複数のノズルを有し、複数の前記ノズルの列は、前記第一方向に交差する第二方向に複数設けられており、前記ワイピング部は、前記第二方向に前記噴射面を払拭し、前記制御部は、前記ノズルの列を通過する際には前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記ノズルの列の間を移動する際には前記第一電極と前記第二電極との間の前記電圧の印加を解除することが好ましい。
【0016】
本発明によれば、ワイピング部がノズルの列の間を移動する間にワイピング部の表面が撥液性となるため、一のノズル列を払拭した後、次のノズル列を払拭する前に、ワイピング部に付着した液体を除去することができる。これにより、異なるノズル列において液体が混合されるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るプリンターの構成を示す図。
【図2】ヘッド及びワイピング機構の構成を示す図。
【図3】プリンターの電気的な構成を示すブロック図。
【図4】インク供給系の構造を示す図。
【図5】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図6】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図7】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図8】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図9】プリンターの他の構成を示す図。
【図10】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
【0019】
図1は本発明の液体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号100は液体噴射装置としてのインクジェット方式のプリンターである。このプリンター100は、例えば紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンター100は、筐体101と、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構102と、該インクジェット機構102にインクを供給するインク供給機構103と、媒体Mを搬送する搬送機構104と、インクジェット機構102の保全動作を行うメンテナンス機構105と、これら各機構を制御する制御装置(制御部)106とを備えている。
【0020】
以下、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、液体の噴射方向をZ方向とし、ヘッドの移動方向をY方向とし、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向とした。
【0021】
筐体101は、Y方向を長手とするように形成されている。筐体101には、前記のインクジェット機構102、インク供給機構103、搬送機構104、メンテナンス機構105及び制御装置106の各部が設けられている。また、筐体101には、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材であり、筐体101内のX方向中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面(図示せず)を有しており、この平坦面は、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0022】
搬送機構104は、搬送ローラーや該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有して構成されている。この搬送機構104は、筐体101の−X側から該筐体101の内部に媒体Mを搬送し、該筐体101の+X側から該筐体101の外部に排出する。また、搬送機構104は、筐体101の内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように該媒体Mを搬送する。さらに、搬送機構104は、制御装置106によって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0023】
インクジェット機構102は、インク(液体)を噴射するヘッド(噴射ヘッド)110と、該ヘッド110を保持して移動させるヘッド移動機構107とを有している。ヘッド110は、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインクを噴射する。ここで、ヘッド110から噴射されるインクは、本実施形態では電解質を含有した導電性で水性のものである。ヘッド110は、インクを噴射する噴射面(ノズル形成面)110aを有している。この噴射面110aは、−Z方向に向けられており、プラテン13の平坦面に対向するように配置されている。
【0024】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4を有しており、該キャリッジ4には前記ヘッド110が固定されている。キャリッジ4は、筐体101の長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド110及びキャリッジ4は、プラテン13の上方(+Z方向)に配置されている。
【0025】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体101の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。キャリッジ4は、タイミングベルト12に接続されており、該タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0026】
インク供給機構103は、ヘッド110にインクを供給するためのものである。インク供給機構103には、複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態のプリンター100は、インクカートリッジ6がヘッド110とは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構103は、ヘッド110とインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構103は、該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッド110に供給する、ポンプ機構(図示せず)を有している。
【0027】
メンテナンス機構105は、ヘッド110のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13のY側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えばプリンター100の電源がオフである時や長時間に亘って記録が行われない時、あるいはメンテナス作業を行う際にヘッド110が待機する場所である。
【0028】
メンテナンス機構105は、ヘッド110の噴射面110aを払拭するワイピング機構111と、該噴射面110aを覆うキャッピング機構112と、ヘッド110のノズルNzからインクを排出するフラッシング処理を行うためのフラッシング機構115と、を有している。
【0029】
ワイピング機構111は、ヘッド110の噴射面110aと対向可能なワイピング部材150(図2参照)及び支持台151を備えている。ワイピング機構111は、ワイピング部材150によって噴射面110aを拭き取ることにより、該噴射面110aに残留したインクや該噴射面110aに付着している異物を除去する。
【0030】
キャッピング機構112には、例えば吸引ポンプなどの吸引機構113が接続されている。この吸引機構113によってキャッピング機構112は、ヘッド110の噴射面110aを覆いつつ、該噴射面110a上の空間を吸引できるようになっている。このように吸引を行うと、ヘッド110内のインクがノズルNzを通って吸引される。その際、インクが噴射面110aへ向かって跳ね、付着することがある。したがって、このような吸引動作の後、前記のワイピング機構111によって噴射面110aをワイピングする。
なお、ヘッド110からメンテナンス機構105側に排出された廃インクは、例えば廃液回収機構(図示せず)において回収されるようになっている。
【0031】
フラッシング機構115は、例えばフラッシングボックス(図示せず)を備え、ヘッド110の各ノズルNzから該フラッシングボックス内に向けてインクを強制的に排出させることにより、インクが増粘することによる目詰まりを解消するよう、又は未然に防ぐようにしたものである。
【0032】
また、本実施形態に係るプリンター100は、インクカートリッジ6内に設けられたインクパックを加圧することで、供給チューブTBを介してインクをヘッド110側に供給する不図示の供給システムを有している。供給システムは、膨縮することでインクパックを加圧可能な膨縮部材と、ポンプと、当該ポンプから送られる空気を膨縮部材に搬送する搬送チューブとを備えている。なお、ポンプは制御装置106に電気的に接続されており、その駆動が制御装置106によって制御されるようになっている。
【0033】
図2は、ワイピング機構111の断面構成を示す図である。なお、図2では、ヘッド110がホームポジションに配置された状態を示している。
図2に示すように、ワイピング部材150は、表面に絶縁層50が設けられている。ワイピング部材150の内部には、第一電極51が設けられている。
【0034】
絶縁層50は、電気的に絶縁性を有していると共に、電圧を印加していない状態においては、導電性を有するインクに対して撥液性を有している。したがって、絶縁層50は、電圧を印加していない状態においては、インクの濡れ性が低く、インクの接触角が大きくなるようになっている。このような絶縁層50としては、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂膜や、化学蒸着法で形成されるパレリン膜等が用いられる。絶縁層50の厚さとしては、第一電極51によって後述の現象が十分に引き起こされるような厚さとされる。
【0035】
第一電極51は、例えば金、白金、銀、チタン等の金属によって形成されている。第一電極51は、それぞれ配線を介して電源部54に接続されている。
【0036】
一方、ヘッド110の噴射面110aには、複数のノズルNzと、第二電極52とが設けられている。ノズルNzは、図2のX方向に平行に複数並ぶように配列されていると共に、このようなノズルNzの列がY方向に複数列(図2では、例えば8列)設けられている。
【0037】
第二電極52は、噴射面110aに露出するように形成されており、ノズルNzの周囲に配置されている。第二電極52は、例えば第一電極51と同様に金、白金、銀、チタン等の金属を用いて形成されている。第二電極52は、配線等を介して電源部54に接続されている。
【0038】
電源部54は、例えば制御装置106の制御によって第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加したり、電圧値を調整したり、当該電圧の印加を解消したりすることができるようになっている。このように、制御装置106は、第一電極51と第二電極52との間の電圧を調整することができる構成となっている。
【0039】
図3は、プリンター100の電気的な構成を示すブロック図である。プリンター100は、プリンター100全体の動作を制御する制御装置106を備えている。制御装置106には、プリンター100の動作に関する各種情報を入力する入力装置IP、プリンター100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されており、前述した搬送機構104や、ヘッド移動機構107、メンテナンス機構105等が接続されている。また、制御装置106は前述したようにヘッド110の第二電極52と第一電極51との間への電圧の印加のオンオフや電圧値、メンテナンス機構105のワイピング機構111、キャッピング機構112等を制御するようになっている。
【0040】
次に、前記構成のプリンター100のヘッド110のメンテナンス動作を説明する。
本実施形態では、ヘッド110のメンテナンス動作として、ワイピング機構111を用いてヘッド110の噴射面110aを払拭し、噴射面110aに付着したインクI(図4等参照)を除去するワイピング動作について説明する。
【0041】
この動作においては、制御装置106は、まず、図4に示すように、ヘッド110をホームポジションまで移動させる。その後、制御装置106は、図5に示すように、ヘッド110をワイピング部材150側(図中−Z側)へ移動させ、噴射面110aをワイピング部材150に接触させる。
【0042】
このとき、制御装置106は、ワイピング部材150の内部の第一電極51とヘッド110の第二電極52との間に所定電圧を印加させる。この動作により、図5に示すように噴射面110a側の第二電極52と、ワイピング部材150側の第一電極51とが電位差を有する。
【0043】
また、噴射面110aに付着したインクIは、第二電極52に接触することで、正又は負の電荷を帯電する。インクIに帯電された電荷は、第一電極51と第二電極52と間の電位差により、第一電極51とクーロン力により引き合う。
【0044】
このような状態のもとで、制御装置106は、図6に示すように、ヘッド110を図中+Y方向へ移動させると、噴射面110aに付着したインクIがワイピング部材150によって掻き取られる。このとき、帯電しているインクIは、絶縁層50上に濡れ拡がろうとする。このように見かけ上絶縁層50のインクIに対する親和性が向上し、親液性に変化する。このため、インクIは、噴射面110aから絶縁層50へと移動し、噴射面110aに残留しにくくなる。
【0045】
ここで、本発明における現象について説明する。電極と接続されている絶縁膜によって、電極が導電性を有する液体から絶縁されている際に、電極と液体との間に電圧を印加すると、電極と液体との間に電位差が存在しない場合と比べて、絶縁膜表面と液体との間の接触角が小さくなる現象がある。
【0046】
つまり、電極(第一電極51)と液体(インクI)との間に電圧を印加すると、第二電極52と液体Iとの間に電位差が存在しない場合と比べて、見かけ上、絶縁膜(絶縁層50)表面の撥液性が低下し、濡れ性が高くなる。
【0047】
よって、インクIが噴射面110aに露出される第二電極52と接触して帯電すると、第一電極51との間で電位差が生じ、該絶縁層50の表面は撥液性が見かけ上低下し、濡れ性が高くなって親液性となる。これにより、インクIは、第一電極51に当接する絶縁層50側に移動し、噴射面110aには残りにくくなる。また、このとき絶縁層50の表面が親液性となっているため、図7に示すように、制御装置106がヘッド110を移動させることにより、ワイピング部材150によって掻き取られたインクIが絶縁層50に保持されることになる。
【0048】
一方、第二電極52と第一電極51との間における電圧の印加を解除すると、上記現象が起きないため、該絶縁層50は撥液性の状態に維持される。したがって、例えば図8に示すように、インクIは、重力によってワイピング部材150の絶縁層50の表面に沿って下方に垂れ、絶縁層50から除去される。これにより、ワイピング部材150の清浄性が保持される。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、表面に絶縁層50が形成されたワイピング部材150の内部に設けられた第一電極51の電位を調整することで、ワイピング部材150の表面におけるインクに対する親和性を調整することができるので、ワイピング部材150を用いて噴射面110aを払拭する時にワイピング部材150の表面を親液性にすることができる。これにより、噴射面110aにインクが残ってしまうのを防ぐことができる。
【0050】
また、噴射面110aの払拭後にワイピング部材150の表面を撥液性にすることにより、ワイピング部材150の清浄性が保持できる。
【0051】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加及び電圧の解除について、制御装置106がオンオフを制御する構成としたが、これに限られることは無い。
【0052】
例えば、第一電極51に接続された第一端子をワイピング部材150の表面に露出させ、かつ、電源に接続されたレール状の第二端子を噴射面110aの一部に配置させ、ワイピング部材150を用いたワイピング動作において第一端子がレール状の第二端子に当接するように構成されていても構わない。
【0053】
この場合、ワイピング動作においてワイピング部材150が噴射面110aに接触している間は、第一端子が第二端子に当接され、第一電極51と第二電極52との間に電圧が印加されることになる。また、ワイピング動作が終了し、ワイピング部材150が噴射面110aから離れたときには、電圧の印加が解除されることになる。このように、ワイピング動作に連動させて、第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加及び解除を切り替えることができる。
【0054】
なお、ワイピング部材150が噴射面110aから離れるときに、第一電極51と第二電極52との間の電圧が解除されないように制御装置106によって調整する構成としても構わない。これにより、ワイピング部材150が噴射面110aから離れる際にもインクをワイピング部材150の表面に保持しておくことができるので、例えばワイピング動作の勢いなどによるワイピング部材150からのインクの飛散を防ぐことができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、ワイピング動作の間は、第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加し続けた状態とし、ワイピング動作の終了後、電圧の印加を解除する態様を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、使用するインクがお互いに異なる2列のノズルNzの列をワイピング部材150が続けて通過する際に、ワイピング部材150が二列のノズルNzの列の間を通過するときに第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加を解除し、ワイピング部材150の表面に保持されたインクを除去するように制御装置106が制御を行っても構わない。または、ノズルNzの列で使用されるインクの種類や色に関わらず、ノズルNzの列を通過する毎に第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加を解除し、ワイピング部材150の表面に保持されたインクを除去するように制御装置106が制御を行っても構わない。
【0056】
ノズルNzの列ごとにインクの色や材質などが異なる場合に、上記動作により、ノズルNzの列の間でインクが除去された状態のワイピング部材150がノズルNzの列を通過することになるため、異なる色や材質のインクが混合するのを防ぐことができる。また、インクが除去された状態のワイピング部材150で払拭されるため、より噴射面110aにインクが残りにくくすることができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、第二電極52がヘッド110の噴射面110aに露出するように配置された構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、図9に示すように、第二電極52をワイピング部材150に配置させる構成であっても構わない。
【0058】
図9に示す構成において、ワイピング部材150は、柱状部材53を有している。第一電極51及び第二電極52は、当該柱状部材53に設けられている。第一電極51は、柱状部材53の根元側(支持台151側)端部、第二電極52は、柱状部材53の上側端部にそれぞれ配置されている。柱状部材53は、第一電極51と第二電極52との間を上下方向に仕切る仕切り部53aを有している。
【0059】
第一電極51及び第二電極52は、仕切り部53aによって電気的に絶縁された状態となっている。また、絶縁層50は、第一電極51を覆うように形成されており、仕切り部53aによって支持されている。このため、絶縁層50は、第二電極52から離れた位置に設けられる。この状態で第一電極51と、第二電極52とが電位差をもつように電圧を印加する。
【0060】
図10に示すように、第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加した状態でワイピング部材150を用いてワイピング動作を行うと、第二電極52の表面がインクIに当接し、インクIが帯電する。このため、帯電したインクIは、第一電極51との間に電位差を有してクーロン力により引き合い、絶縁層50側へ移動する。
【0061】
なお、第一電極51及び第二電極52を共にワイピング部材150に設ける構成として、図9及び図10に挙げた構成は一例に過ぎず、これ以外の構成であっても構わない。
【0062】
また、上記実施形態では、第一電極51より絶縁層50にはZ方向に均一な電圧が印加される構成であったが、これに限られることは無い。例えば、絶縁層50のZ方向において電圧の値を可変にする構成としても構わない。この場合、絶縁層50に印加する電圧の値をZ方向について異なるように調整することで、絶縁層50のZ方向における親液性の程度を異ならせることができる。具体的な構成の例として、第一電極51をZ方向に複数分割して配置し、複数の第一電極51に対して個別に電圧を印加可能とする構成などが挙げられる。なお、この場合、電圧値を個別に調整可能であっても構わない。
【0063】
例えば、ワイピング動作中に絶縁層50の+Z側を親液性の状態とし、かつ、絶縁層50の−Z側を撥液性の状態とすることができる。この場合、絶縁層50の+Z側は親液性の状態であるため、ワイピング部材150によって掻き取られた新たなインクを絶縁層50に保持することができる。
【0064】
また、絶縁層50の−Z側に保持されたインクが重力により−Z側へ移動すると共に、このインクの流れにより絶縁層50の+Z側に保持されたインクの一部が−Z側に流れるため、ワイピング部材150からインクを部分的に除去することができる。このように、ワイピング動作を行いながらインクの除去動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
Nz…ノズル I…インク 50…絶縁層 51…第一電極 52…第二電極 54…電源部 100…プリンター 106…制御装置 110…ヘッド 110a…噴射面 111…ワイピング機構 150…ワイピング部材 151…支持台
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置として、記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズル(噴射口)より記録媒体にインク(液体)を噴射するインクジェット式のプリンター(液体噴射装置)が知られている。プリンターにおいては、例えばインクの増粘によりインクの噴射速度や噴射量が低下してしまい、噴射不良が生じる場合がある。そのため、インクの噴射特性を維持するために、従来から、記録ヘッドのクリーニング処理が行われている。
【0003】
下記特許文献1には、クリーニング処理として、吸引動作によってノズルからインクを強制的に排出した後、ノズル形成面(噴射面)に付着したインクをワイピング部材によって払拭するワイピング動作を行う技術が開示されている。このようなワイピング部材は、その表面にインクが付着するのを防ぐため表面が撥液性となるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−052381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面が撥液性に形成されたワイピング部材を用いてワイピング動作を行う場合、ワイピング動作後にワイピング部材にインクが付着するのを防ぐことができるものの、ワイピング時にはノズル形成面にインクが残ってしまう場合がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、液体が噴射面に残るのを防ぐことができ、かつワイピング部材表面にインクが付着するのを防ぐことができる液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体噴射装置は、液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、前記ワイピング部の内部に設けられた第一電極とを有し、前記第一電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた前記液体に対する親和性を調整する制御部とを備える。
【0008】
本発明によれば、表面に絶縁層が形成されたワイピング部の内部に設けられた第一電極の電位を調整することで、ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた液体に対する親和性を調整することができるので、ワイピング部を用いて噴射面を払拭する時にワイピング部の表面を親液性にすることができる。これにより、噴射面に液体が残ってしまうのを防ぐことができる。
【0009】
上記の液体噴射装置において、前記ワイピング部は、表面が前記液体に対して撥液性となるように形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、ワイピング部の表面が液体に対して撥液性となるように形成されているので、払拭動作後に第一電極の電位を0に近づけることによりワイピング部の表面を撥液性とすることができ、ワイピング部に液体が付着するのを防ぐことができる。
【0011】
上記の液体噴射装置において、前記制御部は、前記噴射面に第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して親液性とし、前記第一電極と前記第二電極との間の電圧を解除することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して撥液性とすることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、制御部が噴射面に第二電極を有し、第一電極と第二電極との間に電圧を印加することによりワイピング部の表面を液体に対して親液性とし、第一電極と第二電極との間の電圧を解除することによりワイピング部の表面を液体に対して撥液性とすることとしたので、第一電極と前記第二電極との間に印加する電圧を調整することにより、ワイピング部の表面の撥液性又は親液性の度合いを調整することができる。
【0013】
上記の液体噴射装置において、前記制御部は、前記ワイピング部が前記噴射面を払拭している期間に前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加すると共に、前記ワイピング部が前記噴射面から離れたときに前記第一電極と前記第二電極との間に印加された前記電圧を解除することが好ましい。
【0014】
本発明によれば、ワイピング部が噴射面を払拭している期間に第一電極と第二電極との間に電圧が印加され、ワイピング部が噴射面から離れたときに第一電極と第二電極との間に印加された電圧が解除されるので、電圧が印加される期間がワイピング部が噴射面を払拭している期間だけでよく、電圧の印加による消費電力を抑えることができる。
【0015】
上記の液体噴射装置において、前記液体噴射ヘッドは、前記噴射面に設けられ第一方向に配列された複数のノズルを有し、複数の前記ノズルの列は、前記第一方向に交差する第二方向に複数設けられており、前記ワイピング部は、前記第二方向に前記噴射面を払拭し、前記制御部は、前記ノズルの列を通過する際には前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記ノズルの列の間を移動する際には前記第一電極と前記第二電極との間の前記電圧の印加を解除することが好ましい。
【0016】
本発明によれば、ワイピング部がノズルの列の間を移動する間にワイピング部の表面が撥液性となるため、一のノズル列を払拭した後、次のノズル列を払拭する前に、ワイピング部に付着した液体を除去することができる。これにより、異なるノズル列において液体が混合されるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るプリンターの構成を示す図。
【図2】ヘッド及びワイピング機構の構成を示す図。
【図3】プリンターの電気的な構成を示すブロック図。
【図4】インク供給系の構造を示す図。
【図5】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図6】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図7】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図8】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【図9】プリンターの他の構成を示す図。
【図10】プリンターのワイピング動作の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
【0019】
図1は本発明の液体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号100は液体噴射装置としてのインクジェット方式のプリンターである。このプリンター100は、例えば紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンター100は、筐体101と、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構102と、該インクジェット機構102にインクを供給するインク供給機構103と、媒体Mを搬送する搬送機構104と、インクジェット機構102の保全動作を行うメンテナンス機構105と、これら各機構を制御する制御装置(制御部)106とを備えている。
【0020】
以下、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、液体の噴射方向をZ方向とし、ヘッドの移動方向をY方向とし、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向とした。
【0021】
筐体101は、Y方向を長手とするように形成されている。筐体101には、前記のインクジェット機構102、インク供給機構103、搬送機構104、メンテナンス機構105及び制御装置106の各部が設けられている。また、筐体101には、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材であり、筐体101内のX方向中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面(図示せず)を有しており、この平坦面は、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0022】
搬送機構104は、搬送ローラーや該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有して構成されている。この搬送機構104は、筐体101の−X側から該筐体101の内部に媒体Mを搬送し、該筐体101の+X側から該筐体101の外部に排出する。また、搬送機構104は、筐体101の内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように該媒体Mを搬送する。さらに、搬送機構104は、制御装置106によって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0023】
インクジェット機構102は、インク(液体)を噴射するヘッド(噴射ヘッド)110と、該ヘッド110を保持して移動させるヘッド移動機構107とを有している。ヘッド110は、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインクを噴射する。ここで、ヘッド110から噴射されるインクは、本実施形態では電解質を含有した導電性で水性のものである。ヘッド110は、インクを噴射する噴射面(ノズル形成面)110aを有している。この噴射面110aは、−Z方向に向けられており、プラテン13の平坦面に対向するように配置されている。
【0024】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4を有しており、該キャリッジ4には前記ヘッド110が固定されている。キャリッジ4は、筐体101の長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド110及びキャリッジ4は、プラテン13の上方(+Z方向)に配置されている。
【0025】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体101の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。キャリッジ4は、タイミングベルト12に接続されており、該タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0026】
インク供給機構103は、ヘッド110にインクを供給するためのものである。インク供給機構103には、複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態のプリンター100は、インクカートリッジ6がヘッド110とは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構103は、ヘッド110とインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構103は、該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッド110に供給する、ポンプ機構(図示せず)を有している。
【0027】
メンテナンス機構105は、ヘッド110のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13のY側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えばプリンター100の電源がオフである時や長時間に亘って記録が行われない時、あるいはメンテナス作業を行う際にヘッド110が待機する場所である。
【0028】
メンテナンス機構105は、ヘッド110の噴射面110aを払拭するワイピング機構111と、該噴射面110aを覆うキャッピング機構112と、ヘッド110のノズルNzからインクを排出するフラッシング処理を行うためのフラッシング機構115と、を有している。
【0029】
ワイピング機構111は、ヘッド110の噴射面110aと対向可能なワイピング部材150(図2参照)及び支持台151を備えている。ワイピング機構111は、ワイピング部材150によって噴射面110aを拭き取ることにより、該噴射面110aに残留したインクや該噴射面110aに付着している異物を除去する。
【0030】
キャッピング機構112には、例えば吸引ポンプなどの吸引機構113が接続されている。この吸引機構113によってキャッピング機構112は、ヘッド110の噴射面110aを覆いつつ、該噴射面110a上の空間を吸引できるようになっている。このように吸引を行うと、ヘッド110内のインクがノズルNzを通って吸引される。その際、インクが噴射面110aへ向かって跳ね、付着することがある。したがって、このような吸引動作の後、前記のワイピング機構111によって噴射面110aをワイピングする。
なお、ヘッド110からメンテナンス機構105側に排出された廃インクは、例えば廃液回収機構(図示せず)において回収されるようになっている。
【0031】
フラッシング機構115は、例えばフラッシングボックス(図示せず)を備え、ヘッド110の各ノズルNzから該フラッシングボックス内に向けてインクを強制的に排出させることにより、インクが増粘することによる目詰まりを解消するよう、又は未然に防ぐようにしたものである。
【0032】
また、本実施形態に係るプリンター100は、インクカートリッジ6内に設けられたインクパックを加圧することで、供給チューブTBを介してインクをヘッド110側に供給する不図示の供給システムを有している。供給システムは、膨縮することでインクパックを加圧可能な膨縮部材と、ポンプと、当該ポンプから送られる空気を膨縮部材に搬送する搬送チューブとを備えている。なお、ポンプは制御装置106に電気的に接続されており、その駆動が制御装置106によって制御されるようになっている。
【0033】
図2は、ワイピング機構111の断面構成を示す図である。なお、図2では、ヘッド110がホームポジションに配置された状態を示している。
図2に示すように、ワイピング部材150は、表面に絶縁層50が設けられている。ワイピング部材150の内部には、第一電極51が設けられている。
【0034】
絶縁層50は、電気的に絶縁性を有していると共に、電圧を印加していない状態においては、導電性を有するインクに対して撥液性を有している。したがって、絶縁層50は、電圧を印加していない状態においては、インクの濡れ性が低く、インクの接触角が大きくなるようになっている。このような絶縁層50としては、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂膜や、化学蒸着法で形成されるパレリン膜等が用いられる。絶縁層50の厚さとしては、第一電極51によって後述の現象が十分に引き起こされるような厚さとされる。
【0035】
第一電極51は、例えば金、白金、銀、チタン等の金属によって形成されている。第一電極51は、それぞれ配線を介して電源部54に接続されている。
【0036】
一方、ヘッド110の噴射面110aには、複数のノズルNzと、第二電極52とが設けられている。ノズルNzは、図2のX方向に平行に複数並ぶように配列されていると共に、このようなノズルNzの列がY方向に複数列(図2では、例えば8列)設けられている。
【0037】
第二電極52は、噴射面110aに露出するように形成されており、ノズルNzの周囲に配置されている。第二電極52は、例えば第一電極51と同様に金、白金、銀、チタン等の金属を用いて形成されている。第二電極52は、配線等を介して電源部54に接続されている。
【0038】
電源部54は、例えば制御装置106の制御によって第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加したり、電圧値を調整したり、当該電圧の印加を解消したりすることができるようになっている。このように、制御装置106は、第一電極51と第二電極52との間の電圧を調整することができる構成となっている。
【0039】
図3は、プリンター100の電気的な構成を示すブロック図である。プリンター100は、プリンター100全体の動作を制御する制御装置106を備えている。制御装置106には、プリンター100の動作に関する各種情報を入力する入力装置IP、プリンター100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されており、前述した搬送機構104や、ヘッド移動機構107、メンテナンス機構105等が接続されている。また、制御装置106は前述したようにヘッド110の第二電極52と第一電極51との間への電圧の印加のオンオフや電圧値、メンテナンス機構105のワイピング機構111、キャッピング機構112等を制御するようになっている。
【0040】
次に、前記構成のプリンター100のヘッド110のメンテナンス動作を説明する。
本実施形態では、ヘッド110のメンテナンス動作として、ワイピング機構111を用いてヘッド110の噴射面110aを払拭し、噴射面110aに付着したインクI(図4等参照)を除去するワイピング動作について説明する。
【0041】
この動作においては、制御装置106は、まず、図4に示すように、ヘッド110をホームポジションまで移動させる。その後、制御装置106は、図5に示すように、ヘッド110をワイピング部材150側(図中−Z側)へ移動させ、噴射面110aをワイピング部材150に接触させる。
【0042】
このとき、制御装置106は、ワイピング部材150の内部の第一電極51とヘッド110の第二電極52との間に所定電圧を印加させる。この動作により、図5に示すように噴射面110a側の第二電極52と、ワイピング部材150側の第一電極51とが電位差を有する。
【0043】
また、噴射面110aに付着したインクIは、第二電極52に接触することで、正又は負の電荷を帯電する。インクIに帯電された電荷は、第一電極51と第二電極52と間の電位差により、第一電極51とクーロン力により引き合う。
【0044】
このような状態のもとで、制御装置106は、図6に示すように、ヘッド110を図中+Y方向へ移動させると、噴射面110aに付着したインクIがワイピング部材150によって掻き取られる。このとき、帯電しているインクIは、絶縁層50上に濡れ拡がろうとする。このように見かけ上絶縁層50のインクIに対する親和性が向上し、親液性に変化する。このため、インクIは、噴射面110aから絶縁層50へと移動し、噴射面110aに残留しにくくなる。
【0045】
ここで、本発明における現象について説明する。電極と接続されている絶縁膜によって、電極が導電性を有する液体から絶縁されている際に、電極と液体との間に電圧を印加すると、電極と液体との間に電位差が存在しない場合と比べて、絶縁膜表面と液体との間の接触角が小さくなる現象がある。
【0046】
つまり、電極(第一電極51)と液体(インクI)との間に電圧を印加すると、第二電極52と液体Iとの間に電位差が存在しない場合と比べて、見かけ上、絶縁膜(絶縁層50)表面の撥液性が低下し、濡れ性が高くなる。
【0047】
よって、インクIが噴射面110aに露出される第二電極52と接触して帯電すると、第一電極51との間で電位差が生じ、該絶縁層50の表面は撥液性が見かけ上低下し、濡れ性が高くなって親液性となる。これにより、インクIは、第一電極51に当接する絶縁層50側に移動し、噴射面110aには残りにくくなる。また、このとき絶縁層50の表面が親液性となっているため、図7に示すように、制御装置106がヘッド110を移動させることにより、ワイピング部材150によって掻き取られたインクIが絶縁層50に保持されることになる。
【0048】
一方、第二電極52と第一電極51との間における電圧の印加を解除すると、上記現象が起きないため、該絶縁層50は撥液性の状態に維持される。したがって、例えば図8に示すように、インクIは、重力によってワイピング部材150の絶縁層50の表面に沿って下方に垂れ、絶縁層50から除去される。これにより、ワイピング部材150の清浄性が保持される。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、表面に絶縁層50が形成されたワイピング部材150の内部に設けられた第一電極51の電位を調整することで、ワイピング部材150の表面におけるインクに対する親和性を調整することができるので、ワイピング部材150を用いて噴射面110aを払拭する時にワイピング部材150の表面を親液性にすることができる。これにより、噴射面110aにインクが残ってしまうのを防ぐことができる。
【0050】
また、噴射面110aの払拭後にワイピング部材150の表面を撥液性にすることにより、ワイピング部材150の清浄性が保持できる。
【0051】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加及び電圧の解除について、制御装置106がオンオフを制御する構成としたが、これに限られることは無い。
【0052】
例えば、第一電極51に接続された第一端子をワイピング部材150の表面に露出させ、かつ、電源に接続されたレール状の第二端子を噴射面110aの一部に配置させ、ワイピング部材150を用いたワイピング動作において第一端子がレール状の第二端子に当接するように構成されていても構わない。
【0053】
この場合、ワイピング動作においてワイピング部材150が噴射面110aに接触している間は、第一端子が第二端子に当接され、第一電極51と第二電極52との間に電圧が印加されることになる。また、ワイピング動作が終了し、ワイピング部材150が噴射面110aから離れたときには、電圧の印加が解除されることになる。このように、ワイピング動作に連動させて、第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加及び解除を切り替えることができる。
【0054】
なお、ワイピング部材150が噴射面110aから離れるときに、第一電極51と第二電極52との間の電圧が解除されないように制御装置106によって調整する構成としても構わない。これにより、ワイピング部材150が噴射面110aから離れる際にもインクをワイピング部材150の表面に保持しておくことができるので、例えばワイピング動作の勢いなどによるワイピング部材150からのインクの飛散を防ぐことができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、ワイピング動作の間は、第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加し続けた状態とし、ワイピング動作の終了後、電圧の印加を解除する態様を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、使用するインクがお互いに異なる2列のノズルNzの列をワイピング部材150が続けて通過する際に、ワイピング部材150が二列のノズルNzの列の間を通過するときに第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加を解除し、ワイピング部材150の表面に保持されたインクを除去するように制御装置106が制御を行っても構わない。または、ノズルNzの列で使用されるインクの種類や色に関わらず、ノズルNzの列を通過する毎に第一電極51と第二電極52との間の電圧の印加を解除し、ワイピング部材150の表面に保持されたインクを除去するように制御装置106が制御を行っても構わない。
【0056】
ノズルNzの列ごとにインクの色や材質などが異なる場合に、上記動作により、ノズルNzの列の間でインクが除去された状態のワイピング部材150がノズルNzの列を通過することになるため、異なる色や材質のインクが混合するのを防ぐことができる。また、インクが除去された状態のワイピング部材150で払拭されるため、より噴射面110aにインクが残りにくくすることができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、第二電極52がヘッド110の噴射面110aに露出するように配置された構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、図9に示すように、第二電極52をワイピング部材150に配置させる構成であっても構わない。
【0058】
図9に示す構成において、ワイピング部材150は、柱状部材53を有している。第一電極51及び第二電極52は、当該柱状部材53に設けられている。第一電極51は、柱状部材53の根元側(支持台151側)端部、第二電極52は、柱状部材53の上側端部にそれぞれ配置されている。柱状部材53は、第一電極51と第二電極52との間を上下方向に仕切る仕切り部53aを有している。
【0059】
第一電極51及び第二電極52は、仕切り部53aによって電気的に絶縁された状態となっている。また、絶縁層50は、第一電極51を覆うように形成されており、仕切り部53aによって支持されている。このため、絶縁層50は、第二電極52から離れた位置に設けられる。この状態で第一電極51と、第二電極52とが電位差をもつように電圧を印加する。
【0060】
図10に示すように、第一電極51と第二電極52との間に電圧を印加した状態でワイピング部材150を用いてワイピング動作を行うと、第二電極52の表面がインクIに当接し、インクIが帯電する。このため、帯電したインクIは、第一電極51との間に電位差を有してクーロン力により引き合い、絶縁層50側へ移動する。
【0061】
なお、第一電極51及び第二電極52を共にワイピング部材150に設ける構成として、図9及び図10に挙げた構成は一例に過ぎず、これ以外の構成であっても構わない。
【0062】
また、上記実施形態では、第一電極51より絶縁層50にはZ方向に均一な電圧が印加される構成であったが、これに限られることは無い。例えば、絶縁層50のZ方向において電圧の値を可変にする構成としても構わない。この場合、絶縁層50に印加する電圧の値をZ方向について異なるように調整することで、絶縁層50のZ方向における親液性の程度を異ならせることができる。具体的な構成の例として、第一電極51をZ方向に複数分割して配置し、複数の第一電極51に対して個別に電圧を印加可能とする構成などが挙げられる。なお、この場合、電圧値を個別に調整可能であっても構わない。
【0063】
例えば、ワイピング動作中に絶縁層50の+Z側を親液性の状態とし、かつ、絶縁層50の−Z側を撥液性の状態とすることができる。この場合、絶縁層50の+Z側は親液性の状態であるため、ワイピング部材150によって掻き取られた新たなインクを絶縁層50に保持することができる。
【0064】
また、絶縁層50の−Z側に保持されたインクが重力により−Z側へ移動すると共に、このインクの流れにより絶縁層50の+Z側に保持されたインクの一部が−Z側に流れるため、ワイピング部材150からインクを部分的に除去することができる。このように、ワイピング動作を行いながらインクの除去動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
Nz…ノズル I…インク 50…絶縁層 51…第一電極 52…第二電極 54…電源部 100…プリンター 106…制御装置 110…ヘッド 110a…噴射面 111…ワイピング機構 150…ワイピング部材 151…支持台
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、
表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、
前記ワイピング部の内部に設けられた第一電極とを有し、前記第一電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた前記液体に対する親和性を調整する制御部と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
前記ワイピング部は、表面が前記液体に対して撥液性となるように形成されている
請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記噴射面に第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して親液性とし、前記第一電極と前記第二電極との間の電圧を解除することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して撥液性とする
請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ワイピング部が前記噴射面を払拭している期間に前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加すると共に、前記ワイピング部が前記噴射面から離れたときに前記第一電極と前記第二電極との間に印加された前記電圧を解除する
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体噴射ヘッドは、前記噴射面に設けられ第一方向に配列された複数のノズルを有し、
複数の前記ノズルの列は、前記第一方向に交差する第二方向に複数設けられており、
前記ワイピング部は、前記第二方向に前記噴射面を払拭し、
前記制御部は、前記ノズルの列を通過する際には前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記ノズルの列の間を移動する際には前記第一電極と前記第二電極との間の前記電圧の印加を解除する
請求項3又は請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項1】
液体を噴射する噴射面を有する液体噴射ヘッドと、
表面に絶縁層が形成され、前記噴射面を払拭するワイピング部と、
前記ワイピング部の内部に設けられた第一電極とを有し、前記第一電極の電位を調整することで前記ワイピング部の表面における正又は負の電荷を帯電させた前記液体に対する親和性を調整する制御部と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
前記ワイピング部は、表面が前記液体に対して撥液性となるように形成されている
請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記噴射面に第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して親液性とし、前記第一電極と前記第二電極との間の電圧を解除することにより前記ワイピング部の表面を前記液体に対して撥液性とする
請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ワイピング部が前記噴射面を払拭している期間に前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加すると共に、前記ワイピング部が前記噴射面から離れたときに前記第一電極と前記第二電極との間に印加された前記電圧を解除する
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体噴射ヘッドは、前記噴射面に設けられ第一方向に配列された複数のノズルを有し、
複数の前記ノズルの列は、前記第一方向に交差する第二方向に複数設けられており、
前記ワイピング部は、前記第二方向に前記噴射面を払拭し、
前記制御部は、前記ノズルの列を通過する際には前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記ノズルの列の間を移動する際には前記第一電極と前記第二電極との間の前記電圧の印加を解除する
請求項3又は請求項4に記載の液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−91175(P2013−91175A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233053(P2011−233053)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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