説明

液体噴射記録方法及び記録装置

【課題】光硬化性のある液体を噴射して記録する方法において、良質な金属光沢を得る。
【解決手段】光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成することと、ドットに電場を作用させることと、電場を作用させたドットに光を照射することを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射記録方法及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属光沢を有する記録物の作成が可能であり、記録安定性や、記録媒体への定着性に優れたインク組成物が知られている。このようなインクでは、粒径・粒度分布等が所定の大きさとなる金属箔片を顔料として含有させることにより、金属光沢を有する記録を可能としている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
また、金属顔料としてアルミニウムに着目した、金属光沢を有するインク組成物を用いたインクジェット記録方法や(特許文献4参照)、任意の色調の金属光沢を有する塗膜を形成することが可能なインクセット(特許文献5参照)が知られている。さらに、金属顔料を含有するメタリックインク組成物と光硬化型インクを備えたインクセットを用いて画像を形成するインクジェット記録方式が知られている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−46034
【特許文献2】特開2007−131741
【特許文献3】特開2007−169451
【特許文献4】特開2008−174712
【特許文献5】特開2008−208330
【特許文献6】特開2008−239951
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光硬化性液体を用いた噴射記録方法において、液体に金属箔片を顔料として含有させ、その金属顔料が光を反射することによって記録面の金属光沢を得る方法が考えられる。
【0006】
しかし、この方法では、媒体に着弾した液体中の金属顔料が光を乱反射させることにより、十分な質感の金属光沢を得ることができなかった。
本発明は、光硬化性のある液体を噴射して記録する方法において、良質な金属光沢を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成することと、前記ドットに電場を作用させることと、前記電場を作用させたドットに光を照射することと、を有する液体噴射記録方法である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ドット内における金属顔料の分布を示す図である。
【図2】電場を作用させた場合のドット内における金属顔料の分布を示す図である。
【図3】金属顔料に対する電場の作用を示す図である。
【図4】プリンターの構成を示すブロック図である。
【図5】図5A及び図5Bは第1実施形態の印刷領域周辺を示す概略図である。
【図6】第1実施形態の電極配置を示す概略図である。
【図7】図7A及び図7Bは第1実施形態の電場の作用を示す概略図である。
【図8】第1実施形態の印加電圧の波形を示す図である。
【図9】図9A及び図9Bは第2実施形態の電場の作用を示す概略図である。
【図10】第2実施形態の印加電圧の波形を示す図である。
【図11】第3実施形態の電極配置を示す概略図である。
【図12】第3実施形態の電場の作用を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0011】
光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成することと、前記ドットに電場を作用させることと、前記電場を作用させたドットに光を照射することと、を有する液体噴射記録方法が明らかとなる。
このような液体噴射記録方法によれば、良好な金属光沢を有する記録を行うことができる。
【0012】
かかる液体噴射記録方法であって、前記ドットに作用する電場の向きが、前記媒体と平行な成分を有することが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、ドット内の金属顔料は媒体と平行な面上で整列し、反射光の方向が一定になりやすいため、より良好な金属光沢を得ることができる。
【0013】
かかる液体噴射記録方法であって、媒体の搬送方向と垂直な複数の電極を用いて媒体の搬送方向と平行な向きの電場を形成し、前記電極に印加する電圧の正負を切り替えることで、前記電場の向きを変化させることが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、インクノズルの配置によらず、電極に印加する電圧の正負により、ドットに作用する電場の向きをコントロールすることが可能となる。
【0014】
かかる液体噴射記録方法であって、前記電極が媒体の搬送方向のドットピッチと等しい間隔であり、前記液体噴射の周期にあわせて、印加する電圧の正負を切り替えることが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、ドットに作用する電場の向きを1ドット単位でコントロールすることができ、ドット搬送中も常に一定方向の電場を作用させることができる。
【0015】
かかる液体噴射記録方法であって、前記電極が媒体の搬送方向のドットピッチのn倍の間隔であり、nドット分の噴射周期ごとに、前記電極にパルス状の波形の電圧を印加することが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、nドットごとに同じ向きの電場を作用させることが可能となる。
【0016】
かかる液体噴射記録方法であって、媒体の搬送方向と平行でドットと重ならない位置にある複数の電極を用いて、媒体の搬送方向と垂直な向きの電場を形成することが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、噴射ノズルの媒体幅方向ピッチが決まっている場合に、電極の正負を変えることなく、各ドットに対して紙幅方向に一定の電場を作用し続けることができる。
【0017】
かかる液体噴射記録方法であって、前記電極に印加する電圧の大きさを変化させることで、前記電場の強さを変化させることが望ましい。
このような液体噴射記録方法によれば、ドット内の金属顔料に作用する力を変えることで、金属光沢の質感を変えることができる。
【0018】
また、光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成するヘッド部と、前記ドットに電場を作用させる電極部と、前記電場を作用させたドットに光を照射する照射部と、を備える液体噴射記録装置が明らかとなる。
【0019】
<金属光沢を有する記録方法>
インクジェット式プリンター等で行われている、光硬化性インクを用いた金属光沢を有する記録方法の概念について説明する。
【0020】
ノズルから媒体に噴射された光硬化性の液体は、媒体に着弾することによりドットを形成する。この液体は、アルミフレークなどの微小な金属箔片を顔料として含有している。該液体を噴射することで形成された記録面では、その金属顔料で光が反射されることにより、記録面に金属光沢を表現することができる。
比較例では、金属顔料は図1のように、媒体上に形成されたドット内で不規則な位置・方向に散乱して分布する。この状態で光を照射してドットを硬化させると、金属顔料もドット内に散乱した状態で固定される。
【0021】
しかし、金属顔料はドット内において不規則な向きで分布していることから、反射光も不規則な方向に反射することとなり、比較例より得られる金属光沢の質感は十分なものとはいえない。
これに対して、実施形態では金属光沢の質感の問題を解消するために、ドットに電場を作用させる。
図2のように、ドットを挟むような配置で正電極と負電極を媒体下部に設置すると、正電極から負電極に向かって形成される電場がドット内の金属顔料にも作用する。すなわち、静電誘導(帯電した物体を導体に近づけると、帯電体に近い部分には異種の電荷が集まり、遠い部分には同種の電荷が集まる)が起こり、金属顔料の正電極側に負電荷が、負電極側に正電荷が集まる。その結果、金属顔料内の電荷には、電場(特に媒体と平行な成分)によるクーロン力が働く。そして、図3のように電場を形成する電気力線に沿って、金属顔料の長手方向が、媒体と平行となるような向きになる。
【0022】
これにより、ドット内で散乱していた金属顔料は、長手方向を電気力線の方向に向けて整列することとなる(図2)。記録面全体の金属顔料が一定の方向を向いて整列するため、金属顔料からの反射光も一定の方向へ進むことになる。したがって、良好な金属光沢を表現することが可能となる。
【0023】
===第1実施形態===
第1実施形態では、記録装置としてラインプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0024】
<プリンターの構成>
図4は、プリンター1の全体構造のブロック図である。
プリンター1は、紙・布・フィルム等の媒体に文字や画像を記録(印刷)する記録装置であり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0025】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(不図示)にユーザーインターフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。または、このプリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
そして、コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0026】
なお、「記録装置」とは、媒体に文字や画像を記録する装置を意味し、例えばプリンター1が該当する。
【0027】
本実施形態のプリンター1は、紫外線(以下、UV)を照射することによって硬化する紫外線硬化型インク(以下、UVインク)を吐出することにより、媒体に画像を印刷する。UVインクは、紫外線硬化樹脂を含むインクであり、UVの照射を受けると紫外線硬化樹脂において光重合反応が起こることにより硬化する。なお、本実施形態のプリンター1は、KCMYの4色のUVインク(カラーインク)及び金属箔片を顔料として含有したUVインク(金属色インク)を用いて印刷を行う。
【0028】
本実施形態で用いる金属色インクに含有される金属顔料は、電場による作用を受けるべく電気伝導率が高く、かつ、高い金属光沢を確保できるものが好ましい。一例として、アルミニウム合金からなるアルミフレークが挙げられる。
【0029】
本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット30、照射ユニット40、電極ユニット50、検出器群60、及びコントローラー70を有する。コントローラー70は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群60によって監視されており、検出器群60は検出結果をコントローラー70に出力する。コントローラー70は検出器群60から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0030】
<搬送ユニット>
搬送ユニット20は、媒体(例えば紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bと、ベルト24とを有する(図5A、図5B)。不図示の搬送モータが回転すると、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bが回転し、ベルト24が回転する。給紙ローラー(不図示)によって給紙された媒体は、ベルト24によって印刷可能な領域(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。印刷可能な領域を通過した紙Sはベルト24によって外部へ排紙される。なお、搬送中の紙Sはベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。
【0031】
<ヘッドユニット>
ヘッドユニット30は、媒体にUVインクを吐出するためのものである。なお、本実施形態ではUVインクとして、画像を形成するためのカラーインクと金属顔料を含む金属色インクを吐出する。
【0032】
ヘッドユニット30は搬送中の媒体に対して各インクを吐出することによって媒体にドットを形成し、画像を媒体に印刷する。本実施形態のプリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは媒体幅分のドットを一度に形成することができる。なお、図5Aでは、搬送方向の上流側から順に、ブラックのUVインクを吐出するブラックインクヘッドK、シアンのUVインクを吐出するシアンインクヘッドC、マゼンダのUVインクを吐出するマゼンダインクヘッドM、イエローのUVインクを吐出するイエローインクヘッドY、金属顔料を含んだ透明なUVインクを吐出する金属色インクヘッドMTLの各ヘッドが設けられている。以下、カラーインクを吐出するヘッドのことをカラーインク用ヘッドといい、金属色インクを吐出するヘッドのことを金属色インク用ヘッドともいう。
【0033】
なお、KCMY各色に金属顔料を含有させることで、独立した金属色インク用ヘッドを設けず、カラーインク用ヘッドのみとする構成も可能である(図5B)。
【0034】
<照射ユニット>
照射ユニット40は、媒体に着弾したUVインクのドット(インクドット)に向けてUVを照射するものである。ヘッドユニット30の各ヘッドにより媒体上に形成されたドットは、照射ユニット40からUVの照射を受けることにより硬化する。
照射ユニット40は仮硬化用照射部41、及び本硬化用照射部42を備えている。
【0035】
仮硬化用照射部41は、媒体上に形成されたドットを仮硬化させるためのUVを照射する。なお、本実施形態において仮硬化とは、ドット内の金属顔料を整列した状態で固定し、また、ドット間のにじみを防止するために行う硬化のことである。
【0036】
本実施形態において、仮硬化用照射部41は、UV照射の光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を備える。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。
【0037】
仮硬化用照射部41は、ヘッドユニット30のKCMY各ヘッドの搬送方向の下流側にそれぞれ設けられる。媒体上に形成されたインクドット同士のにじみを防止するためである。
【0038】
また、金属色ヘッド及び後述の電極ユニット50の搬送方向下流側にも設けられる。電極ユニット50によりインクドットに電場を作用させ、金属色インク内部の金属顔料を整列させた後にドットを硬化させる必要があるためである。
【0039】
仮硬化用照射部41の媒体幅方向の長さは媒体幅以上である。
本硬化用照射部42は、媒体上に形成されたドットを本硬化させるためのUVを照射する。なお、本実施形態において本硬化とは、ドットを完全に固化させるために行う硬化のことである。
本硬化用照射部42は、UV照射の光源として、ランプ(メタルハライドランプ、水銀ランプなど)を備えている。
本硬化用照射部42は、搬送方向の最も下流側に位置する仮硬化用照射部41よりもさらに下流側に設けられる(図5A、図5B)。そして、本硬化用照射部42は、仮硬化用照射部41によって仮硬化されたドットにUVを照射し、媒体上に形成される全てのドットを完全に固化させる。
また、本硬化用照射部42の媒体幅方向の長さは媒体幅以上である。
【0040】
<電極ユニット>
電極ユニット50は、媒体上に形成された金属色インクのドットに対して、電場を作用させるものである。金属色インクに含有される金属顔料に電場を作用させると、クーロン力の働きにより、金属顔料は電場を形成する電気力線の向きに長手方向を向けて整列する。
【0041】
電極ユニット50は、媒体と平行な面上で搬送方向と垂直に設置される複数対の電極51A及び51Bと、電極51A及び51Bと接続し、媒体の搬送方向と平行に媒体を挟むように設置される導電部52A及び52Bとから構成される(図6)。
【0042】
電極51A及び51Bは等間隔で交互に配置され、その間隔は媒体上に形成されるドットの搬送方向の間隔と等しい。例えば、本実施形態において搬送方向に0.5mmの間隔でドットが形成される場合、電極51Aと51Bとの間隔も0.5mmとなる。また、電極51A及び51Bの長さはそれぞれ媒体幅以上である。
【0043】
導電部52A及び52Bにそれぞれ正負の電圧を印加すると、52A及び52Bを介して電極51Aと51Bの間に電位差が生じ、媒体の搬送方向と平行な向きに電場が形成される。これにより、媒体全体に電場を作用させることが可能となる。
電圧の印加方法については後で説明する。
【0044】
<検出器群>
検出器群60には、ロータリー式エンコーダー(不図示)や、紙検出センサー(不図示)などが含まれる。ロータリー式エンコーダーは上流側搬送ローラー23Aや下流側搬送ローラー23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダーの検出結果に基づいて媒体の搬送量を検出することができる。紙検出センサーは給紙中の媒体の先端の位置を検出する。
【0045】
<コントローラー>
コントローラー70は、プリンター制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー70はインターフェース部71と、CPU72と、メモリー73と、ユニット制御回路74とを有する。インターフェース部71は外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU72はプリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー73はCPU72のプログラムを格納する領域や作業領域を確保するためのものであり、RAM・EEPROM等の記憶素子を有する。
CPU72はメモリー73に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路74を介して各ユニットを制御する。
【0046】
<印刷動作について>
プリンター1がコンピューター110から印刷データを受信すると、コントローラー70は、まず、搬送ユニット20によって給紙ローラー(不図示)を回転させ、印刷すべき媒体をベルト24上に送る。媒体はベルト24上を一定速度で停まることなく搬送され、ヘッドユニット30、電極ユニット50、照射ユニット40の各ユニットを通過する。
【0047】
例えば、図5Aの場合、まず、ヘッドユニット30の各カラーインク用ヘッドのノズルからカラーインクを吐出させることにより媒体上にドットを形成し、照射ユニット40の照射部41からUVを照射してカラーインクドットを仮硬化させる。仮硬化を行うのは、異なる色からなるインクドット同士のにじみを防止するためである。
【0048】
次に、金属色用ヘッドから金属色インクを吐出させることにより媒体上に金属色インクのドットを形成する。続いて電極ユニット50により、形成されたドットに電場を作用させた後、照射ユニット40の照射部41からUVを照射して金属色インクドットを仮硬化させる。これにより、ドット内部の金属顔料を整列させた状態で固定する。そして、照射部42からUVを照射してドット全体を本硬化させる。
【0049】
こうして媒体に画像が印刷される。最後にコントローラー70は、画像の印刷が終了した媒体を排紙する。
【0050】
なお、図5Bの場合についても基本的な動作は同様である。金属顔料を含むカラーインクのドットを形成後、電極ユニット50により電場を作用させ、照射部41からUVを照射してドットを仮硬化させる。これをKCMYの各色について繰り返し、最後に照射部42からUVを照射してドット全体を本硬化させる。
【0051】
<搬送中における電極の電位変化について>
ヘッドから吐出されたインクは媒体に着弾することでドットを形成する(インクドット)。インクは所定の周波数F(Hz)で断続的にヘッドユニット30から吐出される。また、媒体は搬送ユニット20により一定の速度V(mm/s)で搬送上流側から下流側へと搬送される。これにより、ドットは搬送方向に等間隔で形成され、搬送方向のドット間隔はV/F(mm)となる。したがって、本実施形態では、電極51Aと51Bとの間隔もV/F(mm)である。例えば、本実施形態において、インクの吐出周波数が4.8kHz、媒体の搬送速度が500mm/secであるとすると、搬送方向のドット間隔及び電極51Aと51Bとの間隔は、共に0.104mm(240dpi相当)となる。
【0052】
図7Aは、ある任意の時点において、電極ユニット50により形成される電場と、電場の作用を受けるドットとの関係を示した概略図である。この時、ハッチングされたドットの搬送上流側電極51Aには導電部52Aを通して正電圧が、搬送下流側電極51Bには導電部52Bを通して負電圧が印加されている。したがって、該ドットには搬送上流側から下流側へ向かう電場が作用し(図7A)、ドット内に散乱していた金属顔料は同じ向きに整列する。
【0053】
次に、搬送ユニット20により、該ドットが1ドット分(V/Fmm)下流に搬送された状態を図7Bに示す。この場合、該ドットの搬送上流側となる電極51Bには正電圧を、搬送下流側となる電極51Aには負電圧が印加される。したがって、該ドットには搬送上流側から下流側へ向かう電場が作用する。
【0054】
該ドットに作用する電場の向きは図7Aと図7Bの場合で同じ方向となり、この動作を繰り返すことで、ドット内の金属顔料に働く力は媒体の搬送過程を通じて常に同じ方向に保たれる。
【0055】
このように、ドットの搬送速度に合わせて電極ユニットに印加する電圧の正負を順次切り替えることで、媒体搬送中も、ドットに対して一定の連続的な力を作用させることが可能である。印加電圧の切り替えのタイミングは、ヘッドユニットがインクを吐出する周波数Fを基準とすることができる。本実施形態では、搬送されるドットが電極の位置を通過する瞬間に印加電圧の正負を切り替えている。印加電圧の波形の一例を図8に示す。
【0056】
電極ユニットに印加される電圧は、前記電極51Aと51Bとの間隔(本実施形態においてはV/Fmm)と、媒体の厚さ及び搬送ベルト24の厚さを考慮して、媒体の裏側から、ドットに十分電場を作用させることができるような値に決定される。例えば、本実施形態において、電極間隔が0.1388mm、媒体の厚さが0.5mm程度である場合、2kV程度の電圧を印加することで、ドットに対して電場を作用させることが可能である。さらに印加電圧の大きさを変えることにより、電場の強さを変えることができる。これにより、金属顔料に加わる力も変化し、電場が強いほど、より金属顔料は整列しやすくなる。したがって、印加する電圧の大小により、金属光沢の質感を変化させることも可能である。
【0057】
なお、電極ユニットに印加される電圧は、必ずしも連続的である必要はなく、媒体搬送中の一定時間のみ周期的に電圧を印加するものであってもよい。
【0058】
電極ユニット50に印加される電圧の波形は、コントローラー70によって制御される。本実施形態において、コントローラー70のユニット制御回路74は、ヘッドユニットの各ヘッドにインク吐出のタイミングを指示し、その吐出タイミングにあわせて電極51A及び51Bに印加する電圧の大きさ、周期を指示する。
【0059】
===第2実施形態===
第2実施形態の基本的構成は第1実施形態と同様である。しかし、第1実施形態と第2実施形態では電極ユニット50の構成が異なる。
図9A及び図9Bは、第2実施形態において、電極ユニット50により形成される電場と、電場の作用を受けるドットとの関係を示した概略図である。
第1実施形態では、電極51Aと51Bとの間隔は、媒体の搬送方向に形成されるドットピッチと等しいものであった。これに対して、第2実施形態では電極51Aと51Bとの間隔は、媒体の搬送方向ドットピッチのn倍の大きさに等しい。ここで、nは自然数であり、図9A及び図9Bはn=3の場合を示している。
【0060】
例えば、実施形態2において、インクの吐出周波数が14.4kHz、媒体の搬送速度が500mm/secであるとき、搬送方向のドット間隔は0.0347mm(720dpi相当)である。この場合、n=3であれば、電極51Aと51Bとの間隔は、ドット間隔の3倍の0.104mmとすることができる。
【0061】
このように、実施形態2では、実施形態1と同程度の電極間隔(0.104mm程度)とした場合でも、より細かいドット間隔で記録することができ、解像度を高めた印刷をする場合等に適している。
【0062】
<搬送中における電極の電位変化について>
第2実施形態では、電極ユニットに印加される電圧の波形が図10に示すようにパルス状である。これは、nドット分を1グループとして考え、このnドット単位で同一の方向に電場を作用させるためである。
【0063】
図9Aでは、ハッチングされた3つのドット(以下ドット群という)について、媒体の搬送方向の上流側の電極51Aに正電圧、搬送方向の下流側の電極51Bに負電圧が印加されている。したがって、該ドット群には搬送方向の上流側から下流側へと向かう電場が作用することになり、ドット内の金属顔料は媒体の搬送方向を向いて整列する。
【0064】
媒体は搬送ユニット20により一定の速度で下流側へと搬送されているが、この間、電極ユニット51A及び51Bに印加される電圧はゼロである(図10)。したがって、該ドット群が搬送されている間は電場は形成されず、金属顔料も作用を受けない。
【0065】
そして、図9Bにおいて、該ドット群が図9Aの状態から3ドット分搬送されたときには、該ドット群の搬送方向上流側の電極51Bに正電圧が、搬送方向下流側の電極51Aに負電圧が印加される(図10)。これにより、該ドット群には再び、搬送方向の上流側から下流側に向けた電場が作用することになる。
【0066】
この動作を繰り返すことにより、媒体が搬送される間、該ドット群に一定方向の電場を断続的に作用させることが可能となる。電圧印加のタイミングは、ヘッドユニットがインクを吐出する周波数Fを基準とする。本実施形態では、該ドット群のうち、搬送方向の最下流側ドット(図9Aのドット群においては右端のドット)が任意の電極を通過する瞬間に、印加する電圧をゼロにする。そして、搬送方向の最上流側ドット(図9Aのドット群においては左端のドット)が同じ電極を通過する瞬間に正負を入れ替えた電圧を印加する。
【0067】
===第3実施形態===
第3実施形態では、電極51A及び51Bを媒体の搬送方向と平行に配置する。これにより、電場は媒体の搬送方向と垂直に形成される。電極ユニット50の構成と、電圧の印加方法以外の基本的構成については第1実施形態と同様である。
図11に、第3実施形態で設置される電極ユニットの配置の概略を示す。
【0068】
<電極ユニット>
第3実施形態において、電極ユニット50は、媒体と平行な面上で搬送方向と平行に設置される複数対の電極51A及び52Bと、電極51A及び51Bと接続し、媒体の搬送方向と垂直に設置される導電部52A及び52Bとから構成される(図11)。
【0069】
電極51A及び51Bは等間隔で交互に配置される。その間隔は媒体上に形成されるドットの媒体幅方向の間隔以上であればよいが、ドット間隔のm倍に等しければなお好ましい。ここでmは自然数とする。
ただし、電極51A及び51Bの位置はドットの直下であってはならない。ドットが電極51Aと51Bとの間になければ、電場を作用させることができず、金属顔料も整列しないため、発明の課題を解決することができないからである。つまり、電極51A及び51Bは、ドットが形成される位置と重ならないよう配置する必要がある。
導電部52A及び52Bにそれぞれ正負の電圧を印加すると、52A及び52Bを介して電極51Aと51Bの間に電位差が生じ、媒体の搬送方向と垂直な向きに電場が形成される。
【0070】
<搬送中における電極の電位について>
第3実施形態においては、第1実施形態又は第2実施形態のように電極に印加する電圧の正負を途中で切り替える動作はない。媒体の搬送途中でドットに作用する電場の方向を変化させる必要がないからである。
【0071】
本実施形態では、インクドットは必ず電極51Aと51Bとの間(電極の真上ではない)に形成される。そして、該電極は媒体の搬送方向と平行に設置されている。そのため、媒体が搬送される間、インクドットは常に、形成された時と同じ電極の間にある。したがって、電極に印加される電圧が変化しなければ、搬送過程を通して、インクドットには必ず同一方向の電場が作用することになる。
【0072】
例えば、媒体幅方向のインクドットの間隔が0.0347mm(720dpi相当)であるとき、その3倍の0.104mmの間隔で、隣り合うインクドットの中央の位置を通るよう電極51Aと51Bを配置する(図12)。そして、電極51Aには正電圧を、電極51Bには負電圧を印加する。
【0073】
この場合、図12の電極51A−1と電極51B−1との間には、媒体の搬送方向と垂直に、51A−1から51B−1へと向かう電場が発生する。電極51A−1と電極51B−1との間に形成されたドットはこの電場の作用を受け、搬送過程を通じて、同一の電場による作用を受け続ける。
同様に、電極51A−2と電極51B−1との間に形成されるドットは、搬送過程を通じて、51A−2から51B−1へと向かう電場による作用を受け続けることになる。
【0074】
このように、第3実施形態では電圧印加の切り替え制御が不要である。したがって、媒体幅方向に形成されるドットの位置があらかじめ明確であれば、最初に電極の配置を決めるだけで、良好な質感を有する金属光沢を簡単に得ることができる。
【0075】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0076】
<記録装置について>
前述の実施形態では、良好な金属光沢を有する記録方法を実現する装置の一例としてプリンターが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造型機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体噴射記録装置に、本実施形態と同様の技術を適用してもよい。
【0077】
<インクについて>
前述の実施形態では、紫外線(UV)の照射を受けることによって硬化するインク(UVインク)をノズルから吐出していた。しかし、噴射する液体は、このようなインクに限られるものではなく、UV以外の他の電磁波(例えば赤外線や可視光線など)の照射を受けることによって硬化するものであってもよい。この場合、仮硬化用照射部及び本硬化用照射部から、その液体を硬化させるための電磁波(赤外線や可視光線など)を照射するようにすればよい。
【0078】
<カラーインクについて>
前述の実施形態では、カラーインクドット形成後に金属色インクドットを形成していたが(図5A)、インクドット形成の順序はこれに限られない。例えば、金属色インクドットを形成した後にカラーインクドットを形成してもよいし、カラーインクドットと金属色インクドットの形成が同時であってもよい。
また、カラーインクの色数、カラーインク用ヘッドの配置の順番等も前述の実施形態のものには限られない。
【0079】
<金属顔料について>
前述の実施形態では、インクに含有させる金属顔料の一例としてアルミフレークが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、金、銀、銅、亜鉛などの金属箔粉や、ガラスフレークを金属でコーティングしたものなど、光を反射して、電場の作用を受け得る粒子であればよい。
【0080】
<電極について>
前述の実施形態では、複数対の電極を用いて電場を発生させていたが、電極は必ずしも複数でなくてもよい。例えば、電極が一対のみの場合であっても、その電極間に生じる電場によって、前述の実施形態と同様の効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 プリンター、20 搬送ユニット、
23A 上流側搬送ローラー、 23B下流側搬送ローラー、
24 ベルト、 30 ヘッドユニット、40 照射ユニット、
41 仮硬化用照射部、 42 本硬化用照射部、
50 電極ユニット、 51A 電極、 51B 電極、
52A 導電部、 52B 導電部、60 検出器群、
70 コントローラー、 71 インターフェース部、
72 CPU、 73 メモリー、 74 ユニット制御回路、
110 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成することと、
前記ドットに電場を作用させることと、
前記電場を作用させたドットに光を照射することと、
を有する液体噴射記録方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射記録方法であって、
前記ドットに作用する電場の向きが、前記媒体と平行な成分を有する液体噴射記録方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射記録方法であって、
媒体の搬送方向と垂直な複数の電極を用いて媒体の搬送方向と平行な向きの電場を形成し、
前記電極に印加する電圧の正負を切り替えることで、前記電場の向きを変化させる液体噴射記録方法。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射記録方法であって、
前記電極が媒体の搬送方向のドットピッチと等しい間隔であり、
前記液体噴射の周期にあわせて、印加する電圧の正負を切り替える液体噴射記録方法。
【請求項5】
請求項3に記載の液体噴射記録方法であって、
前記電極が媒体の搬送方向のドットピッチのn倍の間隔であり、
nドット分の噴射周期ごとに、前記電極にパルス状の波形の電圧を印加する液体噴射記録方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の液体噴射記録方法であって、
媒体の搬送方向と平行でドットと重ならない位置にある複数の電極を用いて、媒体の搬送方向と垂直な向きの電場を形成する液体噴射記録方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の液体噴射記録方法であって、
前記電極に印加する電圧の大きさを変化させることで、前記電場の強さを変化させる液体噴射記録方法。
【請求項8】
光が照射されると硬化する液体であって、金属顔料を含む液体を媒体に噴射することでドットを形成するヘッドと、
前記ドットに電場を作用させる電極と、
前記電場を作用させたドットに光を照射する照射部と、
を備える液体噴射記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−214804(P2010−214804A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64883(P2009−64883)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】