説明

液体回収容器及び液体噴射装置

【課題】液体を十分に回収することができる液体回収容器、及び該液体回収容器を備えた液体噴射装置を提供する。
【解決手段】排出されるインクを回収可能な廃インクタンク28であって、排出されたインクを受容して吸収させる受容部41を有するインク吸収材30と、インク吸収材30内に対して吸引力を作用させる凹部33と、凹部33よりも受容部41に近い位置に配置され、インク吸収材30内に対して加圧力を作用させる凹部37とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を受容可能な液体回収容器、及び該液体回収容器を備えた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体噴射ヘッドに形成されたノズル開口からターゲットに液体を噴射する液体噴射装置として、例えば、インクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」という。)が広く知られている。こうしたプリンターでは、通常、増粘したインク(液体)によるノズル開口の目詰まり抑制、及び記録ヘッド(液体噴射ヘッド)内のインク中に混入した気泡や塵埃の排出等を目的として、記録ヘッド内から増粘したインクを廃インク(液体)として強制的に吸引して排出する、所謂クリーニングが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のプリンターには、廃インクタンクがプリンターの内部に着脱可能に設けられている。そして、クリーニングにより記録ヘッド内から強制吸引された廃インクは、液体流路として機能する可撓性チューブを介してプリンター内の所定箇所に配置された廃インクタンク(液体回収体)に排出され、その廃インクタンク内に収容された廃インク吸収材(液体吸収材)に吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−296757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のプリンターでは、廃インクタンク内に収容された廃インク吸収材が廃インクを吸収する。そして、廃インク吸収材に吸収された廃インクは、重力に従って廃インク吸収材における下方へ浸透しやすい一方で、排出された箇所から水平方向や上方へは浸透しにくい。そのため、廃インク吸収材の下方寄りの部分に廃インクが偏在し、廃インク吸収材の全域には廃インクを分散させることができず、廃インク吸収材が廃インクを十分に吸収できなくなる虞があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体を十分に回収することができる液体回収容器、及び該液体回収容器を備えた液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の液体回収容器は、排出される液体を回収可能な液体回収容器であって、排出された前記液体を受容して吸収させる受容部を有する液体吸収材と、前記液体吸収材内に対して吸引力を作用させる吸引作用部と、前記吸引作用部よりも前記受容部に近い位置に配置され、前記液体吸収材内に対して加圧力を作用させる加圧作用部とを備えた。
【0008】
上記構成によれば、加圧作用部が液体吸収材に対して加圧力を作用させると、吸引作用部による受容部での液体の拡散が補助される。その結果、液体吸収材において液体が浸透して拡散する領域が拡大されるため、液体吸収材は液体を十分に吸収することができる。
【0009】
また、本発明の液体回収容器において、前記加圧力は、前記液体が前記吸引作用部に接近する方向への浸透力を補助する。
上記構成によれば、液体吸収材内に加圧力を作用させると、液体が吸引作用部に近づく方向に拡散するため、吸引作用部による受容部での液体の拡散を補助できる。
【0010】
また、本発明の液体回収容器において、前記吸引作用部及び前記加圧作用部は、前記液体吸収材における水平方向に離れた位置に設けられる。
吸引作用部による吸引力の作用は、吸引作用部に遠い側で弱く、吸引作用部に近い側で強くなる。一方で、加圧作用部による加圧力の作用は、加圧作用部に近い側で強く、加圧作用部から遠い側で弱くなる。上記構成によれば、吸引作用部から遠く吸引力が作用しにくい液体に対して強い加圧力が働き、吸引作用部に近く吸引力が作用しやすい液体に対して弱い加圧力が作用するので、全体的に浸透することになる。
【0011】
また、本発明の液体回収容器において、鉛直方向における前記吸引作用部の高さ位置は、前記加圧作用部の高さ位置以上である。
液体は、鉛直下方や水平方向と比較して、鉛直上方には拡散しにくい。しかし、上記構成によれば、受容部に受容された液体には、吸引作用部から鉛直上方に吸引力が作用するため、液体が液体吸収材内を鉛直上方に拡散する。そのため、液体吸収材において液体が受容される領域が拡大されるため、液体吸収材は液体を十分に吸収することができる。
【0012】
また、本発明の液体回収容器において、前記吸引作用部及び前記加圧作用部は、前記液体吸収材における水平方向両側の側面に設けられる。
液体は、鉛直下方と比較して、水平方向には拡散しにくい。しかし、上記構成によれば、受容部に受容された液体には、吸引作用部から水平方向に吸引力が作用するため、液体が液体吸収材内を水平方向に拡散する。そのため、液体吸収材において液体が受容される領域が拡大されるため、液体吸収材は液体を十分に吸収することができる。
【0013】
また、本発明の液体回収容器において、前記加圧作用部は、前記受容部に対して鉛直下方から加圧力を作用させると共に、前記吸引作用部は、前記加圧作用部よりも上方となる位置で前記受容部に対して水平方向に吸引力を作用させる。
【0014】
上記構成によれば、加圧作用部から受容部に対して鉛直下方から加圧力を作用させると、受容部に受容された液体が鉛直上方に拡散する。そして、この拡散した液体に対して吸引作用部が水平方向に吸引力を作用させると、液体が水平方向に拡散する。その結果、液体吸収材において液体が浸透して拡散する領域が拡大されるため、液体吸収材は液体を十分に吸収することができる。
【0015】
また、本発明の液体回収容器において、前記加圧作用部は、前記受容部において前記吸引作用部とは反対寄りの部分に対して加圧力を作用させる。
上記構成によれば、吸引部は、加圧作用部が受容部に対して鉛直下方から加圧力を作用させると、受容部において吸引作用部とは反対寄りの部分から液体が鉛直上方に拡散する。そして、この拡散した液体に対して吸引作用部が水平方向に吸引力を作用させると、液体吸収材における加圧作用部と吸引作用部との間で広範囲に亘って液体が浸透して拡散する領域が拡大される。そのため、液体吸収材は液体を十分に吸収することができる。
【0016】
また、本発明の液体噴射装置は、ターゲットに対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、上記構成の液体回収容器と、前記液体噴射ヘッドから前記液体を吸引して前記液体回収容器に排出する排出部と、前記液体回収容器に対して吸引力を発生する吸引手段と、前記液体回収容器に対して加圧力を発生する加圧手段とを備えた。
【0017】
上記構成によれば、上記液体回収容器の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態のプリンターの部分破断断面図。
【図2】(a)は第1の実施形態のメンテナンスユニットを前方から見た模式図、(b)は第1の実施形態のメンテナンスユニットを上方から見た模式図。
【図3】(a)はインク吸収材に対して廃インクが受容された直後の状態を示す模式図、(b)は(a)に示す状態から廃インクが水平方向に拡散した状態を示す模式図、(c)は(b)に示す状態から廃インクが鉛直上方に拡散した状態を示す模式図、(d)は(c)に示す状態から廃インクが水平方向に拡散した状態を示す模式図。
【図4】第1の実施形態の変形例のメンテナンスユニットを示す模式図。
【図5】(a)は第2の実施形態のメンテナンスユニットを正面から見た模式図、(b)は第2の実施形態のメンテナンスユニットを上方から見た模式図。
【図6】(a)はインク吸収材に対して廃インクが受容された直後の状態を示す模式図、(b)は(a)に示す状態から廃インクが水平方向に拡散した状態を示す模式図、(c)は(b)に示す状態から廃インクが鉛直上方に拡散した状態を示す模式図、(d)は(c)に示す状態から廃インクが水平方向に拡散した状態を示す模式図。
【図7】第2の実施形態の変形例のメンテナンスユニットを示す模式図。
【図8】別の実施形態のメンテナンスユニットを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を液体回収容器が着脱可能とされた液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンターに具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、図1において矢印で示す「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいうものとする。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という。)11は、平面視で矩形状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内には支持台13が左右方向に延設されると共に、当該支持台13上には紙送りモーター14を有する紙送り機構により記録用紙Pが後方側から前方側に向かって給送される。また、フレーム12内における支持台13の上方には、当該支持台13の長手方向(左右方向)と平行に延びるガイド軸15が架設されている。
【0021】
ガイド軸15には、キャリッジ16が、ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能に支持されている。また、フレーム12内の後面においてガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリ17及び従動プーリ18が回転自在に支持されている。駆動プーリ17にはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター19が連結されると共に、これら一対のプーリ17,18間には、キャリッジ16を固定したタイミングベルト20が掛装されている。したがって、キャリッジ16は、キャリッジモーター19の駆動により、ガイド軸15にガイドされながらタイミングベルト20を介して左右方向に移動する。
【0022】
図1に示すように、キャリッジ16の下面には液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド21が設けられている。一方、キャリッジ16上には記録ヘッド21に対して液体としてのインクを供給するための複数(本実施形態では5つ)のインクカートリッジ23が着脱可能に搭載されている。これら各インクカートリッジ23は、記録ヘッド21の下面にて構成されるノズル形成面21a(図2参照)に形成された複数のノズル開口列(図示略)と個別に対応するものであると共に、記録ヘッド21内に形成されたインク流路(図示略)を介して対応するノズル列にインクを個別に供給する。
【0023】
さらに、フレーム12内の一端部(図1では右端部)、すなわち、記録用紙Pが至らない非印刷領域には、プリンター11の電源オフ時や記録ヘッド21をメンテナンスする場合にキャリッジ16を位置させるためのメンテナンス位置となるホームポジションHPが設けられている。そして、このホームポジションHPの下方となる位置には、記録ヘッド21からの記録用紙Pに対するインクの噴射が良好に維持されるように、各種のメンテナンス動作を行うメンテナンスユニット24が設けられている。
【0024】
メンテナンスユニット24は、記録ヘッド21のノズルから廃インクが排出される液体受け部としてのキャップ25と、当該キャップ25に対して接続される排出チューブ26と、排出チューブ26を通じてキャップ25内を吸引する吸引ポンプ27と、キャップ25を昇降させるための昇降装置(図示略)とを備えている。そして、キャリッジ16がホームポジションHPに移動した状態において昇降装置の駆動に基づきキャップ25が上昇した場合には、記録ヘッド21の下面であるノズル形成面21aに対してキャップ25が各ノズル列を囲んだ状態で当接する。また、キャップ25が記録ヘッド21のノズル形成面21aに対して当接した状態で吸引ポンプ27が駆動した場合、キャップ25内に負圧が蓄積して記録ヘッド21のノズル内からインクが吸引されて液体回収容器としての廃インクタンク28に対して回収される。本実施形態では、キャップ25、排出チューブ26、及び吸引ポンプ27を併せて、排出部と呼ぶ。
【0025】
図2(a)及び図2(b)に示すように、廃インクタンク28は、略箱体形状をなすタンク本体29を備えると共に、このタンク本体29の内部には、多孔質体からなる平板状の4つの液体吸収材としてのインク吸収材30が上下方向に積層して収容されている。これらのインク吸収材30のうち、上側から二番目に位置するインク吸収材30の側面には凹部31が形成されている。そして、インク吸収材30の凹部31には、排出チューブ26の下流端がタンク本体29の側面に形成された貫通孔32を介して挿入されている。排出チューブ26の下流端から排出されたインクは凹部31に排出される。
【0026】
なお、タンク本体29に収容されたインク吸収材30のうち、最も上方側に位置するインク吸収材30には、凹部31が形成された側面とは反対側の側面に凹部33が形成されている。凹部33は、上方から見てインク吸収材30の上面の対角線方向において凹部31に対して対向している。また、この凹部33には、減圧ポンプ34から延びる減圧チューブ35の先端部がタンク本体29の側面に形成された貫通孔36を介して挿入されている。そして、減圧ポンプ34が駆動した場合には、減圧チューブ35を通じてタンク本体29内のインク吸収材30から空気が吸引される。すなわち、本実施形態では、インク吸収材30の凹部33は、インク吸収材30内に対して吸引力を作用させる吸引作用部として機能する。なお、減圧ポンプ34と減圧チューブ35が吸引手段となり、貫通孔36は吸引手段とタンク本体29を接続する接続部となる。
【0027】
また、このインク吸収材30には、凹部33が形成された側面とは反対側の側面に凹部37が形成されている。そして、凹部37には、加圧ポンプ38から延びる加圧チューブ39の先端部がタンク本体29の側面に形成された貫通孔40を介して挿入されている。そして、加圧ポンプ38が駆動した場合には、加圧チューブ39を通じてタンク本体29内のインク吸収材30に対して空気が圧送される。すなわち、本実施形態では、インク吸収材30の凹部37が、インク吸収材30内に対して加圧力を作用させる加圧作用部として機能する。また、加圧ポンプ38と加圧チューブ39が加圧手段となり、貫通孔40が加圧手段とタンク本体29を接続する接続部となる。さらに、本実施形態では、凹部33と凹部37が、鉛直方向において同じ高さ位置で、インク吸収材30における水平方向両側の側面に形成されている。そして、インク吸収材30には、凹部37から廃インクを拡散させる方向と同一の方向となる水平方向に向けて廃インクを拡散させるように加圧力が作用する。このとき、排出チューブ26からインク吸収材30に排出されたインクは、重力とインク吸収材30の持つ浸透力と、減圧チューブ35側からの吸引力と、加圧チューブ39側からの加圧力とを受けて拡散する。また、凹部31と凹部37は、インク吸収材30における同じ側面側で上下方向に隣接した位置に形成されている。
【0028】
また、減圧チューブ35の先端部と凹部33の内面との間には若干のクリアランスが確保されている。そのため、減圧ポンプ34が減圧チューブ35を通じてインク吸収材30を吸引したとしても、廃インクが減圧チューブ35を通じて減圧ポンプ34に吸入されることが回避される。
【0029】
次に、上記のように構成されたプリンター11の作用について、特に、廃インクタンク28に排出された廃インクがインク吸収材30の全域に亘って拡散する際の作用に着目して以下説明する。なお、作用の説明の際には、排出チューブ26、凹部31、減圧チューブ35、凹部33、加圧チューブ39、凹部37は省略する。
【0030】
さて、メンテナンスユニット24が記録ヘッド21に対してメンテナンス動作を実行すると、インク吸収材30には、図3(a)に示す右上寄りとなる部分に対してキャップ25内から排出チューブ26を通じて廃インクが排出される。すると、インク吸収材30に排出された廃インクは、インク吸収材30から毛管力が作用することにより、インク吸収材30の凹部31の内面に対して拡散して吸収されて、廃インクの受容部41が形成される。なお、本実施形態では、インク吸収材30における廃インクの受容部41とは、例えば、排出チューブ26からインク吸収材30に対して廃インクが拡散し始めてから30秒程度経過した時点で、インク吸収材30が廃インクを受容する領域を示している。そして、図2(a)に示すように、受容部41は凹部33よりも下方に位置する。また、凹部37は、凹部33よりも受容部41に近い位置に配置される。
【0031】
ここで、減圧ポンプ34を駆動させない場合、この受容部41に含まれる廃インクは、図3(b)において点線で示すように、水平方向に拡散する。なお、図3(b)では、水平方向に廃インクが拡散した領域を示しているが、これは図をわかりやすくするためである。実際には、廃インクは、水平方向だけでなく鉛直下方にも拡散する。また、図3(b)では左右に廃インクが拡散していない領域を示しているが、実際にはインク吸収材30における廃インクの受容部41は、インク吸収材30の左右方向の略全域に亘って水平に細長く延びるように拡散している。そして、この拡散は、数時間から数日かけてゆっくりと行われる。この場合、インク吸収材30における廃インクの拡散した領域41aには、右方側から左方側に向かって次第に小さくなるように廃インク量の勾配が形成される。
【0032】
ちなみに、廃インクは、下方への浸透や水平方向への浸透よりも少量ではあるが、上方へも浸透する。この場合、廃インクの量が相対的に多い部分では鉛直上方に向けての廃インクの拡散が自然に起こり易い。その一方で、廃インク量が相対的に少ない部分では鉛直上方に向けての廃インクの拡散が自然に起こり難い。その結果、インク吸収材30は、受容部41に近接した図3(c)に示す右上端部に対しては十分に廃インクが浸透する一方で、受容部41に対して水平方向及び高さ方向で離れた部分となる図3(c)に示す左上端部に対しては廃インクがほとんど浸透しない。すなわち、図3(c)において点線で示すように、インク吸収材30における上端寄りの部分には、受容部41から遠ざかる方向に向けて下り勾配をなすように廃インクが鉛直上方に拡散される。
【0033】
そして次に、かかる状態で減圧ポンプ34が駆動されると、インク吸収材30には、図3(d)に示す左上端部に対して吸引力が水平に作用する。すると、インク吸収材30に対して作用する吸引力は、インク吸収材30に含まれる廃インクに対しても作用する。そのため、廃インクは、図3(d)において点線で示すように、受容部41から左端部に向けてインク吸収材30内を拡散する。特に、本実施形態では、凹部33が受容部41よりも上側に設けられているため、減圧ポンプ34は鉛直上方への廃インクの拡散を促進する。
【0034】
さらに、本実施形態では、減圧ポンプ34が駆動された後に加圧ポンプ38が駆動される。すると、インク吸収材30には、図3(d)に示す右上端部に対して加圧力が水平に作用する。そして、インク吸収材30における上端寄りの部分に浸透した廃インクは、凹部37側から凹部33側に向けて水平方向に拡散する。ここで、受容部41から離れた部分となる図3(d)に示す左上端部に浸透した廃インクには、減圧ポンプ34からの吸引力が大きく作用する。その一方で、受容部41に近接した部分となる図3(d)に示す右上端部に浸透した廃インクには、減圧ポンプ34からの吸引力が作用しにくい。しかし、受容部41に近接した部分に浸透した廃インクには、受容部41から凹部33に接近する方向に加圧ポンプ38から加圧力が作用する。そのため、加圧ポンプ38は、減圧ポンプ34がインク吸収材30の上端寄りの部分に対して廃インクを水平方向の略全域に拡散させることを補助する。なお、受容部41から凹部33に接近する方向とは、受容部41から凹部33に向けて直線的に延びる方向のみを意味するのではなく、受容部41から凹部33との距離が小さくなる位置に向けての方向を意味している。
【0035】
上記第1の実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)インク吸収材30の凹部37に対して加圧力が作用すると、減圧ポンプ34による受容部41での廃インクの拡散が補助される。その結果、インク吸収材30において廃インクが浸透して拡散する領域が拡大されるため、インク吸収材30は廃インクを十分に吸収することができる。
【0036】
(2)凹部33から遠く吸引力が作用しにくい廃インクに対して強い加圧力が働き、凹部33に近く吸引力が作用しやすい廃インクに対して弱い加圧力が作用するので、インク吸収材30の全体に廃インクを浸透させることができる。
【0037】
(3)受容部41に受容された廃インクには、加圧ポンプ38から水平方向に加圧力が作用するため、廃インクがインク吸収材30内を水平方向に拡散する。この場合、水平方向への廃インクの拡散は、インク吸収材30の凹部33からインク吸収材30内に対して水平方向に作用する吸引力に補助される。そのため、インク吸収材30において廃インクが浸透して拡散する領域が拡大されるため、インク吸収材30は廃インクを十分に吸収することができる。
【0038】
上記第1の実施形態は、以下のような変形例に変更してもよい。
・上記第1の実施形態において、図4に示すように、凹部31及び凹部33は、インク吸収材30の上面の長手方向において対向するように配置してもよい。
【0039】
・上記第1の実施形態において、インク吸収材30は、凹部33の高さ位置と凹部37の高さ位置とを互いに異ならせてもよい。
・上記第1の実施形態において、凹部31は、積層されたインク吸収材30のうち、最も上側に位置するインク吸収材30の側面に形成してもよい。この場合、凹部31及び凹部37は、平面的にずらして配置することにより同じ高さに形成してもよい。
【0040】
・上記第1の実施形態において、凹部31は、積層されたインク吸収材30の高さ方向の真ん中よりも下側に形成してもよい。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図5及び図6に従って説明する。なお、第2の実施形態は、タンク本体29に対する排出チューブ26、減圧チューブ35及び加圧チューブ39の接続態様が第1の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する構成について主に説明し、第1の実施形態と同一又は相当する構成については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0041】
さて、図5に示すように、本実施形態では、略箱体状をなすタンク本体29に収容された複数(本実施形態では4つ)のインク吸収材30のうち、上方側から3番目に位置するインク吸収材30の側面に凹部31が形成されている。そして、このインク吸収材30の凹部31には、排出チューブ26の先端部がタンク本体29の側面に形成された貫通孔32を介して挿入される。その一方で、タンク本体29に収容された複数のインク吸収材30のうち、最も下方側に位置するインク吸収材30の下面に凹部37が形成されている。そして、このインク吸収材30の凹部37には、加圧チューブ39の先端部がタンク本体29の底面に形成された貫通孔40を介して挿入されている。さらに、タンク本体29に収容された複数のインク吸収材30のうち、最も上方に位置するインク吸収材30の側面に凹部33が形成されている。そして、このインク吸収材30の凹部33には、減圧チューブ35の先端部がタンク本体29の側面に形成された貫通孔36を介して挿入されている。すなわち、本実施形態では、凹部33の方が凹部37よりも上方位置に位置している。
【0042】
そして、メンテナンスユニット24が記録ヘッド21に対してメンテナンス動作を実行すると、インク吸収材30には、図6(a)に示す右下寄りの部分に対してキャップ25内から排出チューブ26を通じて廃インクが排出される。すると、インク吸収材30に排出された廃インクは、インク吸収材30から毛管力が作用することにより、インク吸収材30に対して拡散して吸収されて廃インクの受容部41が形成される。そして、図5(a)に示すように、受容部41は凹部33よりも下方に位置する。また、凹部37は、凹部33よりも受容部41に近い位置に配置される。
【0043】
ここで、減圧ポンプ34を駆動させない場合、この受容部41に含まれる廃インクは、図6(b)において点線で示すように、インク吸収材30に対して水平方向に拡散する。なお、図6(b)では、水平方向に廃インクが拡散した領域を示しているが、これは図をわかりやすくするためである。実際には、廃インクは、水平方向だけでなく鉛直下方にも拡散する。また、図6(b)では左右に廃インクが拡散していない領域を示しているが、実際にはインク吸収材30における廃インクの受容部41は、インク吸収材30の左右方向の略全域に亘って水平に細長く延びるように拡散している。この場合、インク吸収材30における廃インクの拡散した領域41aには、図6(b)における右方側から左方側に向かって次第に小さくなるように廃インク量の勾配が形成される。
【0044】
続いて、インク吸収材30に対して廃インクが水平方向に拡散した状態で加圧ポンプ38が駆動される。そして、インク吸収材30には、図6(c)におけるインク吸収材30の右下端部に対して加圧力が作用する。すると、インク吸収材30に対して作用する加圧力は、インク吸収材30に含まれる廃インクに対しても作用する。そのため、実線で示された廃インクは、図6(c)において点線で示すように、インク吸収材30内を鉛直上方に拡散する。
【0045】
ここで、インク吸収材30における廃インクの拡散する領域41aは、受容部41に対して相対的に近接して配置される部分では、加圧ポンプ38の駆動に伴って、廃インクがインク吸収材30を通じて鉛直上方に向けて大きく拡散される。一方で、インク吸収材30における廃インクの拡散する領域41aは、受容部41に対して相対的に離間して配置される部分では、加圧ポンプ38の駆動時に加圧力が作用し難い。そのため、図6(c)において点線で示すように、インク吸収材30における上端寄りの部分には、受容部41から遠ざかる方向に向けて下り勾配をなすように廃インクが重力に抗して鉛直上方に拡散される。
【0046】
そして次に、かかる状態で減圧ポンプ34が駆動されると、インク吸収材30には、図6(d)に示す左上端部に対して吸引力が水平方向に作用する。すると、インク吸収材30に対して作用する吸引力は、インク吸収材30に含まれる廃インクに対しても作用する。そのため、実線で示された廃インクは、図6(d)において点線で示すように、受容部41から遠ざかるようにインク吸収材30内を水平方向に拡散する。
【0047】
ここで、インク吸収材30は、減圧ポンプ34からの吸引力が作用する上端寄りの部分が、受容部41から遠ざかる方向に向けて下り勾配をなすように廃インクが拡散している。そのため、この廃インクがインク吸収材30に対して凹部33側に向けて水平方向に拡散すると、インク吸収材30における上端寄りの部分には、水平方向の略全域に亘って廃インクが拡散する。その結果、インク吸収材30は、広い範囲に亘って廃インクを吸収する。したがって、インク吸収材30は、廃インクを効率よく保持することが可能となる。
【0048】
したがって、本実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)に加えて以下に示す効果を得ることができる。
(4)インク吸収材30の凹部37から受容部41に対して鉛直下方から加圧力を作用させると、受容部41に受容された廃インクが鉛直上方に拡散する。そして、この拡散した廃インクに対してインク吸収材30の凹部33から水平方向に吸引力が作用すると、廃インクが水平方向に拡散する。その結果、インク吸収材30において廃インクが浸透して拡散する領域が拡大されるため、インク吸収材30は廃インクを十分に吸収することができる。
【0049】
(5)インク吸収材30の凹部37には、加圧ポンプ38から受容部41に対して鉛直下方から加圧力が作用すると、受容部41から廃インクが鉛直上方に拡散する。そして、この拡散した廃インクに対してインク吸収材30の凹部33から水平方向に吸引力が作用すると、インク吸収材30には、凹部37と凹部33との間で広範囲に亘って廃インクが浸透して拡散する領域が拡大される。そのため、インク吸収材30は、廃インクを十分に吸収することができる。
【0050】
なお、上記第2の実施形態は、以下のような変形例に変更してもよい。
・上記第2の実施形態において、図7に示すように、凹部31及び凹部33は、インク吸収材30の上面の長手方向において対向するように配置してもよい。
【0051】
・上記第2の実施形態において、加圧チューブ39は、タンク本体29の底面における略中央となる部分に対して挿入されるようにしてもよい。加圧チューブ39は、図5においてタンク本体29の底面の中央よりも右側にあるのが望ましい。
【0052】
・上記第2の実施形態において、加圧チューブ39をタンク本体29の側面に対して挿入した上で、加圧ポンプ38から受容部41に対して鉛直上方に加圧力を作用させるようにしてもよい。
【0053】
・上記第2の実施形態において、減圧チューブ35は、インク吸収材30に対して水平方向と交差する方向に延びるように構成してもよい。
なお、上記各実施形態は、以下のような別の実施形態に変更してもよい。
【0054】
・上記各実施形態において、加圧ポンプ38の加圧動作と減圧ポンプ34の減圧動作を同時に開始するようにしてもよい。また、加圧ポンプ38は、廃インクをインク吸収材30に拡散させている最中に駆動してもよいし、廃インクがインク吸収材30に排出された直後に駆動してもよい。
【0055】
・上記各実施形態において、加圧ポンプ38は、減圧チューブ35を通じてタンク本体29内から吸引した空気をタンク本体29内に加圧供給してもよい。この場合、加圧ポンプ38を減圧ポンプとして兼用できる。
【0056】
・上記各実施形態において、凹部33は、積層されたインク吸収材30のうち、最も上側に位置するインク吸収材30以外の他のインク吸収材30の側面に形成してもよい。
・上記各実施形態において、図8に示すように、キャップ25と吸引ポンプ27とを接続する排出チューブ26の途中位置に切替弁51を設け、この切替弁51に対して減圧チューブ35を接続してもよい。この場合、切替弁51がキャップ25及び減圧チューブ35に対する吸引ポンプ27の連通状態を切り替えることにより、吸引ポンプ27を減圧ポンプ34として兼用できる。また、吸引ポンプ27は、減圧チューブ35を通じてタンク本体29内から吸引した空気をタンク本体29内に加圧供給してもよい。この場合、吸引ポンプ27を加圧ポンプ及び減圧ポンプとして兼用できる。
【0057】
・上記各実施形態において、液体噴射装置として、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体消費装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体消費装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインク等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。液体消費装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター、21…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、25…液体受け部としてのキャップ、28…液体回収容器としての廃インクタンク、30…液体吸収材としてのインク吸収材、33…吸引作用部としての凹部、37…加圧作用部としての凹部、41…受容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出される液体を回収可能な液体回収容器であって、
排出された前記液体を受容して吸収させる受容部を有する液体吸収材と、
前記液体吸収材内に対して吸引力を作用させる吸引作用部と、
前記吸引作用部よりも前記受容部に近い位置に配置され、前記液体吸収材内に対して加圧力を作用させる加圧作用部と
を備えたことを特徴とする液体回収容器。
【請求項2】
請求項1に記載の液体回収容器において、
前記加圧力は、前記液体が前記吸引作用部に接近する方向への浸透力を補助することを特徴とする液体回収容器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体回収容器において、
前記吸引作用部及び前記加圧作用部は、前記液体吸収材における水平方向に離れた位置に設けられることを特徴とする液体回収容器。
【請求項4】
請求項1〜3のうち何れか一項に記載の液体回収容器において、
鉛直方向における前記吸引作用部の高さ位置は、前記加圧作用部の高さ位置以上であることを特徴とする液体回収容器。
【請求項5】
請求項1〜4のうち何れか一項に記載の液体回収容器において、
前記吸引作用部及び前記加圧作用部は、前記液体吸収材における水平方向両側の側面に設けられることを特徴とする液体回収容器。
【請求項6】
請求項1〜4のうち何れか一項に記載の液体回収容器において、
前記加圧作用部は、前記受容部に対して鉛直下方から加圧力を作用させると共に、
前記吸引作用部は、前記加圧作用部よりも上方となる位置で前記受容部に対して水平方向に吸引力を作用させることを特徴とする液体回収容器。
【請求項7】
請求項6に記載の液体回収容器において、
前記加圧作用部は、前記受容部において前記吸引作用部とは反対寄りの部分に対して加圧力を作用させることを特徴とする液体回収容器。
【請求項8】
ターゲットに対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
請求項1〜請求項7のうち何れか一項に記載の液体回収容器と、
前記液体噴射ヘッドから前記液体を吸引して前記液体回収容器に排出する排出部と、
前記液体回収容器に対して吸引力を発生する吸引手段と、
前記液体回収容器に対して加圧力を発生する加圧手段と
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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