説明

液体容器

【課題】包装時にインクカートリッジ内部を大気と連通させず、使用時にインクカートリッジ内部を大気と連通させる技術の提供。
【解決手段】包装部材から取り出された後に液体噴射装置に装着されて使用される液体容器は、液体を液体噴射装置に供給するための液体供給部と、液体を収容し、液体供給部の上流に接続された液体収容部と、気体を収容し、液体収容部の上流に接続された気体収容部と、を備える。包装されている状態において、気体収容部に収容された気体は大気圧より減圧されており、かつ、包装部材の内部であって気体収容部の外部の気体は、気体収容部に収容された気体より減圧されており、気体収容部は、液体容器が包装部材から取り出されたときに、大気圧を受けて気体収容部を収縮させる収縮部と、該収縮のときに、気体収容部と大気とを連通する連通孔を、気体収容部に形成する連通孔形成部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体容器に関し、特に、液体噴射装置に装着されて使用される液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置としては、例えば、インクジェットプリンタが知られている。インクジェットプリンタでは、インクカートリッジからインクが供給される。従来から、下流側にインクジェットプリンタと接続可能なインク供給部を有し、上流側に大気をカートリッジ内部に導入するための大気開放口を有するインクカートリッジが知られている(例えば、特許文献1〜4)。このようなインクカートリッジでは、内部のインクの消費に伴って、大気開放口を介してカートリッジ内部に大気が導入される。
【0003】
【特許文献1】特開2003−300330号公報
【特許文献2】特開平11−129492号公報
【特許文献3】特開2004−90624号公報
【特許文献4】特開2004−249707号公報
【0004】
このような大気連通型のインクカートリッジでは、使用時には、大気開放口を開いてカートリッジ内部のインク収容部を大気と連通させる。一方、使用される前の輸送時や販売時などには、インクの変質などをさけるため、大気開放口をシール部材や弁によって封止することで閉じておくことが好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、使用される前の輸送時や販売時などに、インクカートリッジ内部を大気と連通させず、使用時にインクカートリッジ内部を大気と連通させる新たの技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]包装部材により包装され、前記包装部材から取り出された後に液体噴射装置に装着されて使用される液体容器であって、
使用時に前記液体噴射装置に接続され、液体を前記液体噴射装置に供給するための液体供給部と、
前記液体を収容し、前記液体供給部の上流に接続された液体収容部と、
気体を収容し、前記液体収容部の上流に接続された気体収容部と、
を備え、
前記包装されている状態において、前記気体収容部に収容された気体は大気圧より減圧されており、かつ、前記包装部材の内部であって前記気体収容部の外部の気体は、前記気体収容部に収容された気体より減圧されており、
前記気体収容部は、
前記液体容器が前記包装部材から取り出されることにより、減圧下から大気圧下へ移されたときに、前記大気圧を受けて前記気体収容部を収縮させる収縮部と、
前記気体収容部が収縮したときに、前記気体収容部と大気とを連通する連通孔を、前記気体収容部に形成する連通孔形成部と、
を有する、液体容器。
【0008】
適用例1における液体容器によれば、包装されている状態では、液体収容部および気体収容部を減圧した状態に保ち、包装から取り出されたときに、液体収容部に大気連通孔を形成することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の液体容器であって、
前記収縮部は、前記気体収容部の外壁を構成し、前記包装されている状態において、前記包装部材の内部の大気圧より減圧された空間に外面が面するフィルムを含み、
前記フィルムは、前記気体収容部の内部の気圧と前記外面に付与される気圧との圧力差に応じて変形するダイヤフラム部を有する、液体容器。
こうすれば、ダイヤフラム部の変形により気体収容部を容易に収縮させることができる。
【0010】
[適用例3]適用例2に記載の液体容器であって、
前記連通孔形成部は、
前記気体収容部が収縮したときに、前記気体収容部の外壁に向かって相対的に移動して、前記気体収容部の外壁に前記連通孔を形成する針体と、
を含む、液体容器。
こうすれば、気体収容部が収縮したときに、針体がフィルムを貫通することにより、容易に大気連通孔を形成することができる。
【0011】
[適用例4]適用例3に記載の液体容器であって、
前記気体収容部が収縮したときに、前記ダイヤフラム部が変形することにより、前記第1のフィルムが前記針体に向かって移動し、前記第1のフィルムに前記連通孔が形成される、液体容器。
こうすれば、気体収容部が収縮したときに、針体が第1のフィルムを貫通することにより、容易に大気連通孔を形成することができる。
【0012】
[適用例5]適用例3に記載の液体容器は、さらに、
前記気体収容部の外壁を構成する第2のフィルムを備え、
前記針体は、前記ダイヤフラム部に固定され、
前記気体収容部が収縮したときに、前記ダイヤフラム部が変形することにより、前記針体が前記第2のフィルムに向かって移動し、前記第2のフィルムに前記連通孔が形成される、液体容器。
こうすれば、気体収容部が収縮したときに、針体が第2のフィルムを貫通することにより、容易に大気連通孔を形成することができる。
【0013】
[適用例6]適用例2ないし5のいずれかに記載の液体容器は、さらに、
前記ダイヤフラム部と前記包装部材との接触を抑制する接触抑制部を備える、液体容器。
こうすれば、包装部材とダイヤフラム部と接触による不都合、例えば、包装状体におけるダイヤフラム部の破れなどの発生を抑制できる。
【0014】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の液体容器であって、
前記気体収容部は、前記液体が前記液体収容部から前記気体収容部に逆流することを抑制する逆流抑制部を備える、液体容器。
こうすれば、液体が液体収容部から気体収容部に逆流する不具合を防止できる。
【0015】
[適用例8]適用例7に記載の液体容器であって、
前記逆流抑制部は、前記逆流した液体をトラップするトラップ室である、液体容器。
こうすれば、トラップ室で液体をトラップすることにより、液体が液体収容部から気体収容部に逆流する不具合を抑制できる。
【0016】
[適用例9]適用例7に記載の液体容器であって、
前記逆流抑制部は、気体を透過すると共に液体を透過しない気液分離膜である、液体容器。
こうすれば、気液分離膜により、液体が液体収容部から気体収容部に逆流する不具合を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施態様について図面を参照して実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
・プリンタおよびインクカートリッジの構成:
図1および図2を参照して、第1実施例におけるプリンタの構成について説明する。図1は、第1実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。図2は、インクカートリッジが印刷ヘッドユニットに取り付けられた状態を示す図である。
【0018】
印刷システムは、プリンタ1000と、コンピュータ2000と、を備えている。プリンタ1000は、コネクタCNを介して、コンピュータ2000と接続されている。
【0019】
プリンタ1000は、副走査送り機構と、主走査送り機構と、ヘッド駆動機構と、各機構を制御するための主制御部2と、を備えている。副走査送り機構は、紙送りモータ3とプラテン4とを備えており、紙送りモータの回転をプラテンに伝達することによって用紙Pを副走査方向に搬送する。主走査送り機構は、キャリッジモータ5と、プーリ7と、キャリッジモータ5とプーリ7との間に張設された駆動ベルト8と、プラテン4の軸と並行に設けられた摺動軸9と、を備えている。摺動軸9は、駆動ベルト8に固定されたキャリッジ6を摺動可能に保持している。キャリッジモータ5の回転は、駆動ベルト8を介してキャリッジ6に伝達され、キャリッジ6は、摺動軸9に沿ってプラテン4の軸方向(主走査方向)に往復動する。ヘッド駆動機構は、キャリッジ6に搭載された印刷ヘッドユニット60を備えており、印刷ヘッドを駆動して用紙P上にインクを吐出させる。印刷ヘッドユニット60の上方には、後述するようにホルダ(図1では省略)が配置され、複数のインクカートリッジを脱着自在に装着可能である。プリンタ1000は、さらに、ユーザがプリンタの各種の設定を行ったり、プリンタのステータスを確認したりするための操作部などを備えているが、詳しい説明は省略する。
【0020】
図2に示すように、印刷ヘッドユニット60は、印刷ヘッド61と、印刷ヘッド61の上面に配置されたホルダ62を備えている。ホルダ62は、複数のインクカートリッジ1を装着可能に構成されている。ホルダ62には、インクカートリッジ1を固定するための凹部64が形成されている。また、印刷ヘッド61の上面には、インク供給針が配置されている。インクカートリッジ1がホルダ62に装着されると、インク供給針がインクカートリッジ1のインク供給部(後述)に挿入され、インク供給針を介して、インクカートリッジ1に収容されたインクが印刷ヘッド61に供給される。
【0021】
図3は、インクカートリッジの外観斜視図である。図3に示すようにインクカートリッジ1は、略直方体形状を有し、Z軸正方向側の面1aと、Z軸負方向側の面1bと、X軸正方向側の面1cと、X軸負方向側の面1dと、Y軸正方向側の面1eと、Y軸負方向側の面1fとを有している。以下では、説明の便宜上、面1aを上面、面1bを底面、面1cを右側面、面1dを左側面、面1eを正面、面1fを背面とも呼ぶ。インクカートリッジ1の底面の左側面側には、インク供給部50が設けられている。インクカートリッジ1がホルダ62に装着されると、このインク供給部50に上述したインク供給針が挿入される。
【0022】
さらに、使用前の輸送時や販売時におけるインクカートリッジ1について説明する。以下では、煩雑を避け、理解を容易にするため、詳細を省略した簡略図を用いて説明する。図4は、輸送時や販売時におけるインクカートリッジ1の簡略断面図である。輸送時や販売時において、インクカートリッジ1は、包装部材PCに気密に包装された状態となっている。包装部材PCの内部の空間、すなわち、包装部材PCとインクカートリッジ1の外壁との間の空間の気体は、0.7気圧に減圧されている。包装部材PCの外部の空間の気圧は、当然、大気圧(1気圧)であるので、包装部材PCは、大気圧によって、インクカートリッジ1の外壁に押しつけられている。
【0023】
インクカートリッジ1は、容器本体110とフィルム120とを含んでいる。容器本体110は、剛性を有する材料、例えば、剛性を有するプラスチックなどの樹脂材料で形成されている。インクカートリッジ1の内部には、インク収容室RM1と気体収容室RM2とが形成されている。インク収容室RM1は、容器本体110に形成され、インクIKが収容されている。インク収容室RM1は、インク供給部50の上流側に位置し、インク供給部50に形成されたインク供給孔51と連通している。気体収容室RM2は、インク収容室RM1の上流側に位置している。インク収容室RM1と気体収容室RM2は、連通部140により連通されている。気体収容室RM2には、気体(例えば、空気)ARが収容されている。気体収容室RM2に収容されている気体ARは、包装部材PCの内部の空間の気圧(本実施例では、上述のように0.7気圧)より高く、大気圧(1気圧)より低い気圧に保持されている。本実施例では、気体収容室RM2に収容されている気体ARは、0.8気圧にされている。気体収容室RM2の外壁の一部は、フィルム120によって形成され、他の部分は容器本体110に形成されている。フィルム120の内面は、気体収容室RM2に収容されている気体ARの圧力(本実施例では、0.8気圧)を受けている。フィルム120の外面は、包装部材PCとインクカートリッジ1の外壁との間の空間の気体の圧力(本実施例では、0.7気圧)を受けている。
【0024】
図5は、フィルム120の構成を示す概略斜視図である。フィルム120は、縁部121とダイヤフラム部122とを有している。ダイヤフラム部122は、例えば、可撓性を有する膜状の材料、例えば、ゴム、エラストマー、可撓性樹脂で形成されており、一方の面に付与される圧力と他方の面に付与される圧力との差によって変形する。図5は、右側面に付与される圧力が左側面に付与される圧力より高い状態を示しており、ダイヤフラム部122は、左側にふくらみを持って突出するように変形している。ダイヤフラム部122は、右側面に付与される圧力が左側面に付与される圧力より低い状態では、図5とは逆に、右側にふくらみを持って突出するように変形する。縁部121は、ダイヤフラム部122の周囲に備えられている。縁部121が気体収容室RM2の他の外壁に気密に貼り付けられることにより、フィルム120は、気体収容室RM2の外壁の一部を形成する。
【0025】
図4に戻って説明を続ける。インクカートリッジ1は、フィルム120の外面より外側に突出した突出外壁111を有している。突出外壁111は、フィルム120のダイヤフラム部122が、インクカートリッジ1の外側にふくらみを持って突出しているときに、ダイヤフラム部122の外面が包装部材PCに接触しないように、空間RM3を形成している。空間RM3は、包装部材PCとインクカートリッジ1の外壁との間の空間の一部であるから、空間RM3内の気体の圧力は、上述のとおり、0.7気圧である。インクカートリッジ1が包装部材PCに包装された状態で、フィルム120のダイヤフラム部122は、内面(気体収容室RM2側)に受ける圧力が、外面(空間RM3側)に受ける圧力より高いから、外面側にふくらみを持って突出した状態になっている(図4)。以上の説明から解るように、本実施例における突出外壁111は、請求の範囲における接触抑制部に対応する。
【0026】
気体収容室RM2のフィルム120に対向する外壁には、針状部130が形成されている。針状部130は、先端がフィルム120に向かって突出している。針状部130は、フィルム120のダイヤフラム部122が外面側にふくらみを持って突出した状態にあるとき、先端がダイヤフラム部122に触れない、かつ、ダイヤフラム部122が内面側にふくらみを持って突出した状態にあるとき、ダイヤフラム部122に突き刺さる程度の長さを有している。
【0027】
・インクカートリッジの製造工程および使用工程:
図6は、インクカートリッジの製造工程および使用工程のステップを示すフローチャートである。図7は、包装前の包装部材PCとインクカートリッジ1を示す図である。まず、空のインクカートリッジ1が準備される(ステップS10)。そして、包装部材PCが準備される(ステップS20)。包装部材PCは、空気を透過させない気密なシートで形成され、インクカートリッジ1を搬入するための開口部分以外は、気密に構成されている(図7)。
【0028】
準備されたインクカートリッジ1には、大気圧下でインクが注入される(ステップS30)。インクの注入の詳細は省略するが、インク収容室RM1の上流側に大気と連通する孔を設けて、インク供給部50からインクを注入することが可能である。インクの注入後に大気と連通する孔は、例えば、フィルムや樹脂を熱溶着することによって気密に封止される。
【0029】
図8は、インクカートリッジ1の製造工程を説明する図である。図8(A)は、大気圧下でインクが注入されたインクカートリッジ1を示している。この状態では、空間RM3内の空気は、大気と連通しているため、空間RM3内の空気は大気圧(1気圧)である。また、大気圧下でインクが注入されたため、気体収容室RM2内の気体も大気圧(1気圧)である。この状態では、空間RM3内の気圧と気体収容室RM2内の気圧が同じであるため、フィルム120に対して、外側から働く力と内側から働く力が釣り合う。この結果、フィルム120のダイヤフラム部122は、内側にも外側にもふくらんでいない状態になっている図8(A)。
【0030】
大気圧下でインクが注入されると、減圧下で包装部材PCによってパッキング(包装)される(ステップS40)。例えば、真空引きされたチャンバー内で、インクカートリッジ1は、包装部材PCの内部に搬入され(図7)、その後、包装部材PCの開口部が気密に封止される。インクカートリッジ1が包装されると、インクカートリッジ1は、減圧下から大気下に取り出される(ステップS50)。
【0031】
図8(B)は、包装され、減圧下から大気下に取り出された直後のインクカートリッジ1を示している。この状態では、空間RM3は、0.5気圧に減圧された状態になる。一方、気密になっている気体収容室RM2内の気体は、インク注入後と同じく大気圧である。この状態では、空間RM3内の気圧より気体収容室RM2内の気圧より高いため、フィルム120に対して、図8(B)において矢印で示すように、気体収容室RM2側から働く力が空間RM3側から働く力より強くなる。この結果、フィルム120のダイヤフラム部122は、外面側にふくらみを持って突出した状態になっている図8(B)。図8(B)に示す状態で、インクカートリッジ1の製造工程は、終了である。インクカートリッジ1は、この後、輸送・販売され、利用者の手に渡る。
【0032】
図9は、インクカートリッジ1の製造工程の終了直後、すなわち、包装され、減圧下から大気下に取り出された直後からの経過時間と、気体収容室RM2および空間RM3内部の気体の圧力の関係を示すグラフである。インクカートリッジ1を構成する容器本体110やフィルム120は、気密な樹脂等で形成されているとはいえ、気体収容室RM2を完全に気密にすることは困難である。試験の結果、気体収容室RM2内の気体の一部が、時間の経過と共に、包装部材PCとインクカートリッジ1の外壁との間の空間(空間RM3を含む)に漏れ出す。その結果、空間RM3内の気圧は、時間の経過と共に上昇する。また、気体収容室RM2内の気圧は、時間の経過と共に下降する。そして、約2〜3週間程度経過した状態で、気体収容室RM2内の気圧、および、空間RM3内の気圧は、ほぼ一定になることが解っている。本実施例では、気体収容室RM2内の気圧が0.8気圧、空間RM3内の気圧が0.7気圧で、ほぼ一定となる。すなわち、製造工程の終了から約2〜3週間が経過した後は、包装されたインクカートリッジ1は、ほぼ、図4に示す状態で安定する。通常、包装されたインクカートリッジ1が利用者の手に渡るまでには、少なくとも約2〜3週間が経過しているため、利用者は図4に示す状態のインクカートリッジ1を入手することになる。
【0033】
図6に戻って、利用者によるインクカートリッジ1の使用工程について説明する。利用者は、包装された状態で入手したインクカートリッジ1の包装部材PCを開封し、包装部材PCの中からインクカートリッジ1を大気圧下に取り出す(ステップS60)。
【0034】
図10は、インクカートリッジ1を包装部材PCの中から大気圧下に移したときに生じる現象を説明する図である。インクカートリッジ1が、包装部材PCに包装された状態(図10(A):図4と同一)から、大気圧下に移されると、空間RM3が大気と連通するので、空間RM3内の気圧が大気圧となる(図10(B))。一方、気体収容室RM2内の気圧は、0.8気圧のままである。そうすると、フィルム120のダイヤフラム部122の内面(気体収容室RM2側)に受ける圧力より、外面(空間RM3側)に受ける圧力が高くなり、ダイヤフラム部122は、外面側にふくらみを持って突出した状態から、内側にふくらみを持って突出した状態に遷移しようとする。その結果、図10(B)に示すように、ダイヤフラム部122は、インクカートリッジ1の外側から内側に向かって移動して、針状部130の先端に突き刺さる。すると、図10(C)に示すように、ダイヤフラム部122には、気体収容室RM2を大気に連通させる大気開放孔HLが形成される。
【0035】
この結果、インクカートリッジ1の気体収容室RM2およびインク収容室RM1には、インクの消費に伴って、大気開放孔HLから大気を導入可能な状態になり、プリンタ1000に装着して使用可能な状態になる。この後、利用者は、インクカートリッジ1を、プリンタ1000に装着して使用する(ステップS70)。
【0036】
以上説明したインクカートリッジ1によれば、インクカートリッジ1が包装部材PCに包装された状態では、気体収容室RM2およびインク収容室RM1は気密に保たれ、内部のインクから水分が放出されることを抑制することが可能である。
【0037】
また、従来のように、大気開放孔が予め設けられていないため、インクカートリッジ1が包装部材PCに包装された状態では、確実に気体収容室RM2およびインク収容室RM1を気密に保つことができる。
【0038】
また、利用者が包装部材PCを開封してインクカートリッジ1を取り出すと、それだけで大気開放孔HLが形成されて、インクカートリッジ1が使用できる状態になる。このため、利用者が従来のようにフィルムなどのシール部材を外して、大気開放孔を開放する作業が必要なくなり、利便性が向上する。利用者がシール部材を外し忘れてしまうことも無くなる。
【0039】
また、大気開放弁を備える従来のインクカートリッジと比較して、部品点数や製造コストの低減が可能である。さらに、大気開放弁が配置されていないことによって、プリンタ側に、インクカートリッジを装着した際に弁を開くための構造を設ける必要が無い。よって、インクカートリッジの部品点数や製造コストのみならず、プリンタの部品点数や製造コストをも低減することが可能である。
【0040】
また、包装部材PCからインクカートリッジ1を取り出した直後に、大気開放孔HLが形成されるため、インクカートリッジ1内部が大気と連通されてから、プリンタ1000に装着されるまでに十分な時間を稼ぐことができる。この結果、インクカートリッジ1の内部の負圧が十分に解除される。この結果、インクカートリッジ1をプリンタ1000に装着したときに、プリンタ1000の印刷ヘッドユニット60のインク供給針を介して、印刷ヘッドユニット60からインクを吸い込んでしまう不具合を抑制することができる。
【0041】
B.第2実施例:
図11は、第2実施例におけるインクカートリッジ1Aの構成を説明する図である。第2実施例におけるインクカートリッジ1Aは、第1実施例におけるインクカートリッジ1と異なり、気体収容室RM2の外壁を形成するフィルム120のダイヤフラム部122の内側に、針状部材130Aが固定されている。また、第2実施例におけるインクカートリッジ1Aでは、気体収容室RM2の外壁のうち、フィルム120と対向する部分が固定フィルム150Aで形成されている。固定フィルム150Aは、フィルム120と異なり、ダイヤフラム部を有していない。その他の構成は、図4を参照して説明した第1実施例におけるインクカートリッジ1と同様であるので、その説明を省略する。
【0042】
インクカートリッジ1Aを包装部材PCの中から大気圧下に移したとき、図11(B)に示すように、第1実施例と同様に、フィルム120は、外面側にふくらみを持って突出した状態から、内側にふくらみを持って突出した状態に遷移しようとする。その結果、フィルム120に固定された針状部材130Aは、固定フィルム150Aに向かって移動し、固定フィルム150Aを突き破って、大気開放孔HLを形成する。
【0043】
以上の説明から解るように、第2実施例におけるインクカートリッジ1Aによっても、第1実施例と同様の作用・効果を奏する。
【0044】
C.第3実施例:
図12は、第3実施例におけるインクカートリッジ1Bの構成を説明する図である。第3実施例におけるインクカートリッジ1Bの容器本体110Bには、第1実施例におけるインクカートリッジ1の容器本体110に形成されているインク収容室RM1および気体収容室RM2に加えて、気液分離室RM4と、インクトラップ室RM5とが形成されている。
【0045】
気液分離室RM4は、気体収容室RM2の下流側に形成され、連通部180Bを介して、気体収容室RM2と連通している。気液分離室RM4の上流側と下流側の間には、気液分離膜190Bが配置されている。気液分離膜190Bは、気体の透過を許容すると共に、液体の透過を許容しない膜である。
【0046】
インクトラップ室RM5は、気液分離室RM4の下流側で、かつ、インク収容室RM1の上流側に形成されている。インクトラップ室RM5と気液分離室RM4との間は、連通部170Bによって連通されている。インクトラップ室RM5とインク収容室RM1との間は、細い連通流路160Bによって連通されている。インクトラップ室RM5は、連通流路160Bを逆流してきたインクIKが、さらに、上流に流れていかないように貯留する役割を有する。
【0047】
以上の説明から解るように、気液分離室RM4およびインクトラップ室RM5は、いずれも、インク収容室RM1に収容されたインクIKが、気体収容室RM2に逆流することを抑制する逆流抑制部として機能する。
【0048】
第3実施例におけるインクカートリッジ1Bのその他の構成は、図4を参照して説明した第1実施例におけるインクカートリッジ1と同様であるので、その説明を省略する。
【0049】
以上の説明した第3実施例におけるインクカートリッジ1Bによっても、第1実施例と同様の作用・効果を奏する。さらに、第3実施例におけるインクカートリッジ1Bは、インクIKが、気体収容室RM2に逆流することを抑制する逆流抑制部として気液分離室RM4およびインクトラップ室RM5を備えるので、例えば、インクIKが気体収容室RM2に形成された大気開放孔HLから漏れ出すことを抑制することができる。
【0050】
D.変形例:
・第1変形例:
図13は、第1変形例におけるインクカートリッジの構成を説明する図である。第1変形例におけるインクカートリッジ1では、第1実施例の構成に加えて、フィルム120の外側の面にバックアップリング300が貼り付けられている。バックアップリング300は、中央に孔301を有する部材であり、例えば、比較的剛性を有する樹脂で形成される。バックアップリング300の孔301は、針状部130により形成されるべき大気開放孔HLに対応する位置に配置される。バックアップリング300が設けられることにより、圧力に応じたフィルム120の変形が安定し、大気開放孔HLの形成される位置、大きさを安定化することができる。
【0051】
・第2変形例:
上記各実施例では、インクカートリッジが包装部材から取り出されたときに、気体収容室RM2の外壁の一部を形成するフィルム120のダイヤフラム部122が、大気圧を受けて変形している。このダイヤフラム部122の変形により、気体収容室RM2が収縮されて、その収縮が生じたときに大気開放孔HLが形成されている。これに限らず、気体収容室RM2の外壁に付与される圧力が、減圧された圧力から大気圧に上昇したときに、気体収容室RM2を収縮させる様々な態様をとることが可能である。また、上記各実施例では、気体収容室RM2の収縮が生じたときに、気体収容室RM2の外壁を形成するフィルムに針によって大気開放孔HLが形成されているが、これに限られない。例えば、針に代えて、板状の刃状部材を用いて、大気開放孔HLを形成することとしても良い。
【0052】
・第3変形例:
上記各実施例では、インクカートリッジが有する各種の流路や収容室、連通孔を説明したが、これらの構成は、簡略図を用いた概念図として説明したものであり、現実にはさらに複雑な流路構成を有していても良い。
【0053】
・第4変形例:
上記第1実施例では、インクカートリッジ1に大気圧下でインクを注入しているが、これに代えて、インクカートリッジ1の内部を減圧しながら、インクを注入しても良い。かかる場合には、フィルム120を貼り付ける前に、フィルム120で封止される部分から空気を吸入してインクカートリッジ1の内部を減圧しながら、インクを注入し、インクの注入後に大気圧下でフィルム120をインクカートリッジ1の容器本体110に貼り付けても良い。
【0054】
・第5変形例:
上記各実施例では、インクジェットプリンタとインクジェットプリンタに使用されるインクカートリッジを説明したが、本発明は、一般に液体噴射装置(液体消費装置)と液体噴射装置に液体を供給する液体容器からなるシステムに適用可能であり、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体消費装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体消費装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体消費装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置の供給システムとして採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置に使用される液体容器に本発明を適用することができる。
【0055】
・第6変形例:
以上において、「大気圧」は標準大気圧(1気圧)を前提として説明してきたが、大気圧は変動する可能性がある。本発明において、「大気圧」とは、包装部材の外側に存在する大気の圧力を意味するものであり、液体容器が包装部材により包装されている状態における、気体収容部に収容された気体の圧力や、包装部材と液体容器との間の気体の圧力を、どのような値に設定するかは、当該液体容器が使用される可能性のある環境を考慮して、適宜適切な値に設定すれば良い。つまり、当該液体容器をかなり標高の高い地域で流通させる必要があるのであれば、「大気圧」が0.8程度まで低くなるになる可能性を考慮して、気体収容部に収容された気体の圧力や、包装部材と液体容器との間の気体の圧力を、0.8よりも低い値に設定しておけば良い。
【0056】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジが印刷ヘッドユニットに取り付けられた状態を示す図。
【図3】インクカートリッジの外観斜視図。
【図4】輸送時や販売時におけるインクカートリッジの簡略断面図。
【図5】フィルムの構成を示す概略斜視図。
【図6】インクカートリッジの製造工程および使用工程のステップを示すフローチャート。
【図7】包装前の包装部材PCとインクカートリッジを示す図。
【図8】インクカートリッジの製造工程を説明する図。
【図9】インクカートリッジの製造工程の終了直後すなわち包装され減圧下から大気下に取り出された直後からの経過時間と気体収容室および空間内部の気体の圧力の関係を示すグラフ。
【図10】インクカートリッジを包装部材の中から大気圧下に移したときに生じる現象を説明する図。
【図11】第2実施例におけるインクカートリッジの構成を説明する図。
【図12】第3実施例におけるインクカートリッジの構成を説明する図。
【図13】第1変形例におけるインクカートリッジの構成を説明する図。
【符号の説明】
【0058】
1、1A、1B…インクカートリッジ
2…主制御部
3…モータ
4…プラテン
5…キャリッジモータ
6…キャリッジ
7…プーリ
8…駆動ベルト
9…摺動軸
50…インク供給部
51…インク供給孔
60…印刷ヘッドユニット
61…印刷ヘッド
62…ホルダ
64…凹部
110、110B…容器本体
111…突出外壁
120…フィルム
121…縁部
122…ダイヤフラム部
130、130A…針状部
140、170B、180B…連通部
150A…固定フィルム
160B…連通流路
170B…連通孔
180B…連通部
190B…気液分離膜
300…バックアップリング
1000…プリンタ
2000…コンピュータ
P…用紙
PC…包装部材
IK…インク
HL…大気開放孔
CN…コネクタ
RM1…インク収容室
RM2…気体収容室
RM3…空間
RM4…気液分離室
RM5…インクトラップ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装部材により包装され、前記包装部材から取り出された後に液体噴射装置に装着されて使用される液体容器であって、
使用時に前記液体噴射装置に接続され、液体を前記液体噴射装置に供給するための液体供給部と、
前記液体を収容し、前記液体供給部の上流に接続された液体収容部と、
気体を収容し、前記液体収容部の上流に接続された気体収容部と、
を備え、
前記包装されている状態において、前記気体収容部に収容された気体は大気圧より減圧されており、かつ、前記包装部材の内部であって前記気体収容部の外部の気体は、前記気体収容部に収容された気体より減圧されており、
前記気体収容部は、
前記液体容器が前記包装部材から取り出されることにより、減圧下から大気圧下へ移されたときに、前記大気圧を受けて前記気体収容部を収縮させる収縮部と、
前記気体収容部が収縮したときに、前記気体収容部と大気とを連通する連通孔を、前記気体収容部に形成する連通孔形成部と、
を有する、液体容器。
【請求項2】
請求項1に記載の液体容器であって、
前記収縮部は、前記気体収容部の外壁を構成し、前記包装されている状態において、前記包装部材の内部の大気圧より減圧された空間に外面が面する第1のフィルムを含み、
前記第1のフィルムは、前記気体収容部の内部の気圧と前記外面に付与される気圧との圧力差に応じて変形するダイヤフラム部を有する、液体容器。
【請求項3】
請求項2に記載の液体容器であって、
前記連通孔形成部は、
前記気体収容部が収縮したときに、前記気体収容部の外壁に向かって相対的に移動して、前記気体収容部の外壁に前記連通孔を形成する針体と、
を含む、液体容器。
【請求項4】
請求項3に記載の液体容器であって、
前記気体収容部が収縮したときに、前記ダイヤフラム部が変形することにより、前記第1のフィルムが前記針体に向かって移動し、前記第1のフィルムに前記連通孔が形成される、液体容器。
【請求項5】
請求項3に記載の液体容器は、さらに、
前記気体収容部の外壁を構成する第2のフィルムを備え、
前記針体は、前記ダイヤフラム部に固定され、
前記気体収容部が収縮したときに、前記ダイヤフラム部が変形することにより、前記針体が前記第2のフィルムに向かって移動し、前記第2のフィルムに前記連通孔が形成される、液体容器。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれかに記載の液体容器は、さらに、
前記ダイヤフラム部と前記包装部材との接触を抑制する接触抑制部を備える、液体容器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の液体容器であって、
前記気体収容部は、前記液体が前記液体収容部から前記気体収容部に逆流することを抑制する逆流抑制部を備える、液体容器。
【請求項8】
請求項7に記載の液体容器であって、
前記逆流抑制部は、前記逆流した液体をトラップするトラップ室である、液体容器。
【請求項9】
請求項7に記載の液体容器であって、
前記逆流抑制部は、気体を透過すると共に液体を透過しない気液分離膜である、液体容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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