説明

液体微粒子化ノズル及びそれを用いた装置

【課題】 nmオーダーの液滴を生成することができる、液体微粒子化ノズル及びこれを備えた装置を提供する。
【解決手段】 液体微粒子化ノズル10は、ノズル先端部1が、噴射面4から窪んで形成された衝突領域5と、衝突領域5に向けて中心軸上に形成された液体注入路6と、衝突領域5に向けて中心軸上から斜め方向に、液体注入路6と同軸に形成される気体注入路7とを備え、衝突領域5にて、液体注入路6からの液体流と気体注入路7からの気体流とを衝突させて、液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射する。この液体微粒子化ノズル10を用いたナノ粒子形成装置により、液体に含ませたナノ粒子を被加工物上に堆積させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体流と気体流とを衝突させて液滴を生成する、液体微粒子化ノズル及びそれを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴を生成する方法として、例えば、ピエゾ素子で細管や細孔を駆動し、この細管や細孔から液体を流すことで、液流を寸断する方法が知られている。また、より小さな液滴を生成するために、液流を寸断するのではなく、爆発的に微細化する方法として、例えば、液体に熱やレーザを照射し、液体の気化により微細化する方法が知られている。
【0003】
液体を微粒化する装置はアトマイザーと呼ばれ、従来、ジェットエンジンの設計など燃焼工学の分野で研究開発されている。例えば、特許文献1には、燃料ノズルと、この燃料ノズルで噴出供給された液体燃料を内部で気化し、気化ガスと燃焼用空気とを混合して燃焼部へ供給する気化器と、気化室の周囲に燃料ノズルを同軸的に挿通させかつ空気通路を有する空気ノズル部と、を備えた液体燃料燃焼装置において、燃料ノズルの先端部に空気供給用管路が設けられ、燃料ノズルの燃料通路に空気を供給して液体燃料を空気と共に噴出供給することにより、燃料ノズルから噴出する液体燃料を効率良く微粒子化して安定に燃焼させる技術が開示されている。
【0004】
液体有機金属や液体金属溶液などの液体材料をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置に供給する直前で、噴射ノズルから噴霧して気化することにより、成膜の制御が行われている。例えば、特許文献2〜4には、液体材料とキャリアガスとを混合した気液混合物を二重管の先端部から噴霧し、噴霧された液体材料を気化させて、MOCVD成膜装置に供給することが開示されている。
【0005】
液状試料を質量分析計に導入する際、容易に気化させるために、液体試料を効果的に霧化させることが行われている。例えば、特許文献5には、噴射機構として、外側管内に同軸的に内側管を配置してなる二重キャピラリチューブを用い、内側管に液体試料を通し、内側管と外側管との間の通路に噴霧ガスを通すことにより、液体試料を、二重キャピラリチューブ先端のノズルから噴出するガスのジェット気流により霧化させることができることが、開示されている。
【0006】
特許文献6〜8には、液体に対して略垂直にガスを照射することで液体を霧化するエアロゾル生成デバイスが開示されており、生成されるエアロゾルの直径が、ノズルのオリフィスの大きさ(2μm〜100μm)の約1.2倍又は2.1倍となることが、開示されている。以上のように、アトマイザーのうち液体流と気体流との衝突を利用して液滴を生成するものを、特に、Air−assit atomizerとか、Air−blast atomizerと、呼んでいる。
【0007】
ところで、非特許文献1には、放射性元素アメリシウムにより液滴をイオン化し、イオンの移動度から液滴のサイズを決定する、液滴のサイズ分布測定装置が報告されている。同装置は、二重円筒状の電極にキャリアガスを流しつつ、外筒電極の側面円周上のスリットから測定される粒子を含んだサンプリングガスを供給する。そして、内外筒間に直流電圧を印加すると、帯電粒子がクーロン力により内筒電極に引き寄せながら流下する。このとき、粒子の流れを横切る速度は、粒子が流体から受ける抵抗力とクーロン力とでつりあいにより決定される。一方、速度の電場に対する比例定数を電気移動度と定義し、電気移動度が粒子の直径に依存することから、移動度を測定することで粒径を求めることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平8−247411号公報
【特許文献2】特開2005−51006号公報
【特許文献3】特開2005−57193号公報
【特許文献4】特開2005−48228号公報
【特許文献5】米国特許第4,924,097号
【特許文献6】米国特許第4, 687, 929号
【特許文献7】米国特許第4, 629, 478号
【特許文献8】米国特許第4, 298, 795号
【非特許文献1】H.Tanaka、K.Takeuchi、Jpn.J.Appl.Phys、2002年、41巻、922頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のアトマイザーで生成される液滴の粒径はμmオーダーであって、それ以下のサブμmの微小な液滴を生成するのも困難であった。したがって、nmオーダーの液滴を生成することはできないという課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、nmオーダーの液滴を生成することができる、液体微粒子化ノズル及びこれを備えた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の液体微粒子化ノズルは、ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、衝突領域に向けて中心軸上から斜め方向に、液体注入路と同軸に形成される気体注入路と、を備え、衝突領域にて、液体注入路からの液体流と気体注入路からの気体流とを衝突させて、液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする。
【0012】
本発明の液体微粒子化ノズルは、ノズル先端部と、ノズル先端部へ液体導入のため中心軸上に形成された液体導入路と、ノズル先端部へ気体導入のため液体導入路と同軸にかつ管状に形成された気体導入路と、を含み、ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、液体導入路から衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、気体導入路から衝突領域に向けて中心軸上から斜め方向に、液体注入路と同軸に形成された気体注入路と、を備え、衝突領域にて、液体注入路からの液体流と気体注入路からの気体流とを衝突させて、液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする。
【0013】
上記構成において、好ましくは、液体注入路の断面直径が1μm〜数10μmであり、気体注入路の外径を液体注入路の断面直径よりも大きくし、かつ、その外径を100μm以下とする。液体注入路の軸方向長さは、好ましくは数百μm以下である。また、気体注入路は、好ましくは、衝突領域への出口手前にて更に絞られてなる。
【0014】
上記構成によれば、液体をnmオーダーの粒径分布を有する微粒子として噴霧することができる液体微粒子化ノズルを提供することができる。
【0015】
また、本発明のナノ粒子形成装置は、被加工物へ液体の微粒子を噴霧する液体微粒子化ノズルを備え、被加工物へナノ粒子を形成するナノ粒子形成装置であって、ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、衝突領域に向けて絞られるよう液体注入路と同軸に形成された気体注入路と、を備え、衝突領域にて、液体注入路からの液体流と気体注入路からの気体流とを衝突させて、液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、さらに、気体及び液体の注入制御部を備え、注入制御部は、衝突領域への気体及び液体の注入を制御する。また、好ましくは、さらに、被加工物を載置するステージを備え、ステージが制御部により制御される。さらに、好ましくは、被加工物を加熱する加熱手段を備えている。
上記構成によれば、液体微粒子化ノズルから、溶媒とこの溶媒に溶解する各種材料からなる溶質と、を含む液体を、被加工物へnmオーダーの液体微粒子として噴霧することができる。nmオーダーの液体微粒子が、吹き付けられる被加工物において液体微粒子が蒸発すると、被加工物上には溶質だけが付着し、nmオーダーの粒子の堆積を容易に行なうことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体微粒子化ノズルによれば、液体を気体と共に噴射し、nmオーダーの液体微粒子を精度よく噴射することができる。この液体に各種材料からなる溶質を含ませて噴霧し、液体を乾燥すれば、被加工物にnm構造物を堆積させることができる。
【0017】
本発明のナノ粒子形成装置によれば、各種材料からなるナノ粒子を被加工物上に形成することができる。このため、被加工物上に金属、半導体、絶縁物、炭素原子からなる各種のカーボンナノ材料などの各種無機材料や有機物由来の材料を容易に形成し、nmオーダーの寸法の細線などの加工を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
最初に、本発明の第1の実施の形態に係る液体微粒子化ノズルについて説明する。図1は、本発明の液体微粒子化ノズルを模式的に示した断面図で、(A)は液体微粒子化ノズルの断面図、(B)は(A)の液体微粒子化ノズルの先端部の拡大部分断面図、(C)は(B)の液体微粒子化ノズルの先端部の噴射口の拡大断面図である。
図1(A)に示すように、本発明の液体微粒子化ノズル10は、そのノズル先端部1へ液体を導入するため中心軸上に形成された液体導入路2と、ノズル先端部1へ気体を導入するため液体導入路2の外側に同軸で、かつ、管状に形成された気体導入路3と、を含んで構成されている。
ここで、図示していないが、液体導入路2に液体を所定流量で流入させるための配管とのジョイント部や、気体導入路3に気体を所定圧で流入させるための配管とのジョイント部を適宜備える。
【0019】
図1(B)及び(C)に示すように、液体微粒子化ノズルの先端部1は、噴射面4から窪んで形成された衝突領域5を有している。即ち、衝突領域5は、噴射面4において噴出口5Aとなる。そして、衝突領域5は、噴出口5Aから中心軸上で所定距離L1 だけ凹ませて形成されている。さらに、衝突領域5の中心軸から所定距離L1 だけ離れ、中心軸に対して垂直面となる面5Bの中心には液体注入路6の噴出口6Aが接続し、液体が衝突領域5に流入するようになっている。衝突領域の面5Bの外周部には、気体注入路7が接続し、衝突領域5に気体が流入するようになっている。
このように、衝突領域5を設けることにより、液体と気体が合流した後に吐出する構造となり、後述するようにnmオーダーの液体微粒子の噴霧能力を高めることができる。
【0020】
液体注入路6は、中心軸上で所定の長さL2 を有し、その直径がd1 であり、その端部6Bが液体導入路のテーパー部2Aと連通している。液体導入路のテーパー部2Aは、液体注入路6側から徐々にその径が大きくなるようにテーパー状に形成され、その端部2Bにて液体導入路2と接続する。液体導入路の入口2Bには、図示しないジョイント部が設けられ、液体を所定流量で液体注入路6に流入させるようになっている。
ここで、上記液体導入路のテーパー部2Aの内面は、双曲線状または放物線状などにすることで、液体注入路6と液体導入路2の径の変換が行われる。
【0021】
気体注入路7は、液体注入路2に同軸に管状に形成されており、衝突領域5に連通する最先端部7Aで最も径(d2 )が小さく形成され、テーバー状部7Bを介して、気体導入路3と連通している。図1に模式的に示すように、気体導入路3は気体注入路と連通し、さらに、紙面垂直方向の上方に延出されて、気体導入口3Aが形成されている。なお、気体導入口3Aには、図示しないジョイント部が設けられ、気体を所定圧力で気体導入路3に流入させるようになっている。
【0022】
図1(C)に示すように、気体注入路7は、中心軸上に配設される液体注入路6と角度θをなすように同軸上に配置されている。この角度θは、0°<θ<90°とすればよく、例えば、30°<θ<60°とすることができる。θが90°の場合は、気体が垂直入射する場合であるが、液体の微粒子化には好ましくない。逆に、θが0°近傍の場合には、気体と液体とが平行となるので、気体が液体に衝突し難くなり、液体の微粒子化には好ましくない。
【0023】
液体注入路6において、その直径d1 が小さくなる程、圧力損失が生じる。このため、液体注入路6の中心軸方向の長さL2 は、その直径d1 が小さくなる程、圧力損失が大きくなるために、短くする必要がある。L2 は、数百μm以下、特に好ましくは、200μm以下が好ましい。また、液体注入路6に液体を導入する液体導入路2の直径は、圧力損失が生じないように、所定の直径とすればよい。
このように液体注入路6及び気体注入路7の寸法を選定することにより、液体導入路2から液体注入路6に注入された液体を、その圧力を低下させることなく、衝突領域5に導入することができる。
【0024】
ところで、液体と気体の二相混合流によって液体の破断が起こる場合の流体力学的な理解は、未だ確立されていない。しかしながら、過去の研究において、液体流のレイノルズ数が高い程、また気体流の空気力学的なウェーバー数(以下、適宜Wとも呼ぶ)が大きい程、液体流裏面からの液体の破断の様相が比較的大きな液膜の剥離から非常に細いフィラメントの破断へと変化することが明らかにされている。
ウェーバー数は、下式(1)で与えられる。
W=ρa L r 2 /σL (1)
ここで、ρa は気体の密度、dL は液体の直径、ur は液体と気体の相対速度で近似的には気体の速度、σL は液体の表面張力である。気体の密度(ρa )及び液体と気体の相対速度(ur )から計算される、ρa r 2 /2は気体が液体に与えるエネルギー(熱量)にほぼ等しい。さらに、液体流表面のみならず液体流全体を破断させるためには、多数の水素結合やファンデルワールス結合を切断するためのエネルギーが必要であるが、これは液体の体積に比例する。このため必要エネルギー量は、液体流の単位長さに対してdL の2乗に比例する。
【0025】
本発明者等は、液体微粒子化ノズル10からnmオーダーの液体微粒子を得るために、ウェーバー数と破断後の粒径分布の相関関係は明らかにされていないものの、Wが高い条件でのフィラメント状の破断が液体の微粒化に有利と考えた。さらに、理論的検討及び各種の液体微粒子化ノズルによる実験を行ない、高いウェーバー数を保持しつつdL を小さくすることで、液体全体を破断させるために必要な総熱量を気体の運動エネルギーで充当することが可能となるとの知見を得た。例えば、ウェーバー数として数百以上とすればよい。
【0026】
液体注入路6及び気体注入路7の各径は、液体の微粒子化のサイズに応じて決定されるが、特に、1nm(1×10-9m)オーダーの外径寸法を有する微粒子の生成のためには、ウェーバー数を大きくするために、液体注入路6の中心軸に垂直な断面方向の直径d1 が、1μm〜数10μmであることが好ましい。nmオーダーの液体微細化には、液体注入路6の直径d1 を20μm以下とすれば、高ウェーバー数を得ることができる。そして、液体注入路6の外側に同軸で形成される気体注入路7は、その外径を、液体注入路6の断面直径d1 よりも大きくし、かつ、その外径を、100μm以下とすればよい。
【0027】
本発明の液体微粒子化ノズル10からの液体微粒子は、大気圧雰囲気または真空中へ噴霧することができる。本発明の液体微粒子化ノズル10を真空機器に接続した場合には、気体注入路7の直径d2 をできるだけ細くすることにより、流量よりもむしろ気体圧力を高くすることができる。
【0028】
本発明の液体微粒子化ノズル10において、液体流と気体流を高圧で噴出し、安定した噴霧を実現するために、特に、ガラスキャピラリーのような容易に振動や変形し易い材料ではなく、硬度の高い金属を好適に用いることができる。これにより、気体流による衝撃波が発生するような状況においても安定した噴霧を実現し、安定した動作を得ることができる。
【0029】
上記の液体としては、水や各種油、有機溶媒などの液体など何でもよい。これらの液体の組み合わせた混合液体でもよい。液体には、各種の材料が添加されてもよい。このような添加物としては、液体をインクとする場合には、染料や顔料などが挙げられる。また、液体には、種々の無機物や有機物を含有させてもよい。気体としては、窒素や乾燥空気を用いることができるが、特に制限はない。
【0030】
本発明の液体微粒子化ノズル10は以上のように構成されている。次に、液体の微粒子を生成する動作について説明する。
液体導入路2から導入される液体は、液体注入路6で圧縮され、衝突領域5に噴出する。一方、気体導入路3から導入される気体は、気体注入路7を経由し衝突領域5に噴出する。したがって、衝突領域5に噴出する液体はその圧縮から開放されて衝突領域5に広がり、その広がろうとする液体流の外周から気体が衝突する。このとき、流入する気体は、液体流の外周全周から一様に衝突すると共に、液体流の方向に対して傾斜して衝突する。この場合、液体注入路6と気体注入路7の管を同軸に配置することで、あらゆる方向から均等に気体流が液体流に衝突し、気体から液体へのエネルギー移動に空間的な不均一性が発生せず、液体の微粒子化、即ち霧化が促進される。液体注入路6と気体注入路7の同軸配置により、液体微粒子の吐出方向の安定性を実現することができる。
【0031】
また、本発明の液体微粒子化ノズル10において、液体注入路6と気体注入路7との交差角度θを、0°及び90°に近くない角度としている。このため、平行配置の0°では衝撃が液体流内部に伝搬するのに不利と考えられことや、直交配置の90°では吐出角度が広くなりすぎることを回避することができる。
【0032】
本発明の液体微粒子化ノズル10においては、ウェーバー数を大きくする目的で気体流の速度を大きくした結果、気体流は超音速流となり、液体への衝突で衝撃波を伝搬することも破断に有利に作用する。後述するが、本発明の液体微粒子化ノズル10において実現されるウェーバー数は、上記(1)式における液体の直径であるd1 に相当する液体注入路6の直径d1 が20μm以下にも関わらず、数百以上に到達しており、過去の事例から判断しても類例の無い高いウェーバー数Wを実現することができる。
これにより、後述する実施例で示すように、液体微粒子化ノズル10は、衝突領域5にて液体流と気体流とが衝突することで液体を微粒子化し、噴射口5Aから噴出する。このとき、上記のように、液体注入路6及び気体注入路7の寸法を選定することにより、nmオーダーの液体微粒子を噴射することができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る液体微粒子化ノズルを用いた装置について説明する。
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る液体微粒子化ノズルを用いたナノ粒子形成装置の構成を示す模式図である。図2に示すように、ナノ粒子形成装置15は、液体微粒子化ノズル10と、被加工物16を載置するステージ17と、液体微粒子化ノズル10に用いる気体及び液体の注入制御部18と、制御部19と、を含み構成されている。ステージ17は、図示するように被加工物16を紙面に垂直なX−Y方向に駆動する。このステージ17は、ステッピングモータや電歪効果素子を用いたX−Yステージであり、制御部19により制御される。
【0034】
液体微粒子化ノズル10は、注入制御部18により、気体の圧力や液体の流量が制御され、制御部19により液体微粒子8を所定時間噴霧する。
【0035】
液体微粒子化ノズル10を用いたナノ粒子形成装置15は、制御部19によりステージの位置を所定の位置に設定した時点で、注入制御部18に液体微粒子を噴霧する命令信号を送出して、液体微粒子化ノズルの先端部1から、液体微粒子8を被加工物16へ噴霧する。所定時間の噴霧が終了次第、さらにステージ17を移動して、液体微粒子8の噴霧を繰り返し行なうことにより、被加工物16の所望の位置へ液体微粒子8を噴霧することができる。
【0036】
本発明の液体微粒子化ノズル10は、溶媒とこの溶媒に溶解する各種材料からなる溶質と、を含む液体を、nmオーダーの液体微粒子8として噴霧することができる。このnmオーダーの液体微粒子8が吹き付けられる被加工物16において、液体微粒子の液体が蒸発すると、被加工物16上には、溶質だけが付着した状態となる。この場合、溶質の大きさが略nmオーダー、あるいは、上記液体に分散している分子である場合には、被加工物16上には、nmオーダーの溶質が堆積した状態とすることができる。
【0037】
本発明のナノ粒子形成装置15においては、被加工物16へ噴霧された液体微粒子8の乾燥や液体微粒子の熱分解などのための加熱手段を備えて構成してもよい。この場合、電熱線によるヒーターなどからなる加熱手段を、例えば、被加工物16を載置するステージ17に配設することで、被加工物16を加熱することができる。
【0038】
上記の溶質としては、nmオーダーの所謂ナノ粒子を好適に用いることができる。このようなナノ粒子としては、金属、半導体、絶縁物、炭素原子からなる各種のカーボンナノ材料などの各種無機材料や有機物由来の材料を挙げることができる。このような金属ナノ粒子としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、インジウムなどが挙げられる。ナノ材料は、さらに、その表面が保護膜などで被覆されている複合ナノ粒子でもよい。したがって、金属ナノ粒子によれば、金属配線を形成することができる。液体を有機材料を含有する溶媒とした場合には、有機物のナノ配線なども形成することができる。
【0039】
上記気体としては窒素のような不活性ガスだけではなく、液体と反応する気体でも構わない。このような気体としては、酸素が挙げられる。このような反応例としては、液体として無機物を溶液化したテトラメチルオルソシリケートを用い、酸素と共に噴霧することにより、テトラメチルオルソシリケート及び酸素を反応させて、nmオーダーのSiO2 を被加工物上に形成することができる。この場合、上記反応が促進されるように、被加工物16を、加熱手段により所定の温度に加熱してもよい。
【0040】
被加工物16の表面状態により、噴霧する液体微粒子8が広がる場合がある。この被加工物の表面エネルギーによる親水性や撥水性を制御するためには、予め、被加工物16へ、所謂、自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer、以下適宜、SAM膜と呼ぶ)を形成してもよい。このSAM膜にマスクを用い紫外線照射を行ない、親水性部分と撥水性部分とからなるなるパターンを形成してから、nmオーダーの液体微粒子8を噴霧する。液体微粒子8が水を含む場合には、液体微粒子8を上記SAM膜の親水性のパターン部へ選択的に付着させることができる。このようなSAM膜としては、FAS(1H,1H,2H,2H,−Perfluorodecyltriethoxysilane)が挙げられる。
【0041】
本発明のナノ粒子形成装置15によれば、ナノ粒子を線状にも形成できるので、ナノ寸法の直線や曲線を被加工物に形成することができる。したがって、金属ナノ粒子によれば、金属配線を形成することができる。液体を有機材料を含有する溶媒とした場合には、有機物のナノ配線なども形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基いて本発明をさらに詳細に説明する。
図3は、実施例で製造した液体微粒子化ノズル10を示した図であり、(A)は左側側面図、(B)はA−A線に沿う断面図、(C)はノズル先端部1の拡大断面図、(D)は(C)の拡大断面図である。図示するように、液体微粒子化ノズル10は、液体導入路2及び液体注入路6を軸上に形成した雄型部材20と、この雄型部材20とで気体導入路3、気体注入路7及び衝突領域5を画成する雌型部材30とを、嵌合してなる。ここで、液体微粒子化ノズル10の各構成部材は、ステンレス鋼を用いて加工した。
【0043】
雄型部材20は、その中心軸上に、基部21及び凸部22に亙って液体導入路2及び液体注入路6が連通して設けられている。また、基部21の中心軸上で液体導入路2の入口端部にはジョイント部が形成され、図示しない配管を接続するジョイント部材が嵌込される。また、雄型部材20の凸部22の外周面の先端側はその外周表面が切削され、その切削面が気体導入路3の内周面として作用する。また、凸部22の先端部22Aは略三角錐状に形成され、気体注入部7の内周面及び衝突領域の底面として作用する。
【0044】
一方、雌型部材30は、雄型部材20の凸部22を嵌入するよう凸部22に対応して凹部31が形成され、気体導入路3の外周面として作用する。また、この凹部31の先端部31Aは、雄型部材における凸部22の先端部22Aの略三角錐状に対応した形状で、気体注入路7の外周面として作用すると共に、先端部31Aの中心軸上に所定の幅を有した開口部が形成される。この開口部が衝突領域5として作用する。凹部31の外周部には、軸方向に直交するようジョイント部が形成され、図示しない配管を接続するジョイント部材が嵌入される
【0045】
液体微粒子化ノズル10のノズル先端部1では、図3(C)及び(D)に示すように、雄型部材の凸部22の先端部22Aと、雌型部材の凹部の端部31Aとは所定の距離L2 を保つことで、衝突領域5を画成する。
なお、雌型部材50において、雄型部材20の基部21との接触側には円周状の溝が形成され、雄型部材20の凸部を雌型部材30の凹部に嵌入して一体化している。雌型部材50の溝には、弾性部材を挿入して嵌入してもよい。
【0046】
図4は、実施例の液体微粒子化ノズルの先端部を示す光学顕微鏡像を示す図であり、(A)が気体注入路7に、(B)が液体注入路6に、それぞれ焦点を合わせた場合である。図4(A)から、気体注入路7の外径及び内径は、それぞれ、約50μm、約40μmであり、図4(B)から液体注入路部6の外径が約19μmであることが分かった。
【0047】
次に、実施例の液体微粒子化ノズル10を用いた水の大気圧下(1×105 Pa(760Torr))における微粒子化について、説明する。
液体として水を用い、その流量を0.1cm3 /分とした。気体として窒素を用い、その圧力を7気圧とした。実施例の液体微粒子化ノズル10から噴霧した水微粒子の粒径分布を、非特許文献1に記載されている放射性元素アメリシウムを用いたイオンの易動度測定装置(以下、適宜、粒径分布測定装置と呼ぶ)により測定した。
【0048】
ここで、水の流量0.1cm3 /分及び窒素の圧力7気圧における水と窒素との相対速度は、窒素の速度にほぼ一致する。この速度は、温度20℃における窒素分子の2乗平均速度510m/secと考えて良い。さらに、理想気体の状態方程式から見積もられる気体密度284モル/m3 を用いると、実施例の液体微粒子化ノズル10の空力的なウエーバー数は570と推定される。
【0049】
図5は、実施例の液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置との配置関係を説明する模式図であり、(A)は液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置とを直結した場合であり、(B)は液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置とを距離を置いて配置した場合である。
図5(A)に示すように、液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置40が、矢印Aで示す位置で直結している。また、図5(B)に示すように、液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置40とを距離Lmを置いて配置する場合には、粒径分布測定装置40側には、さらに、延長管41を設けた。
【0050】
図6は、実施例の液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布を示す図である。図において、横軸は水微粒子の粒径(nm)を、縦軸は1cm3 当りの水微粒子数(個/cm3 )を示す。図6から、水の流量を0.1cm3 /分、窒素圧力を7気圧とした場合の水微粒子の粒径分布において、粒径分布の極大は約4nmであり、そのときの1cm3 当たりの水微粒子の液滴量は、最大で1×108 個であることが分かった。
【0051】
図7は、実施例の液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布の窒素圧力依存性を示す図である。図において、横軸は水微粒子の粒径(nm)を示し、縦軸は1cm3 当りの水微粒子数(個/cm3 )を示す。
水の流量を0.1cm3 /分とし、窒素圧力を2気圧(図7の逆三角印(▽)参照)から、4.5気圧(図7の三角印(△)参照)、7気圧(図7の丸印(○)参照)、13気圧(図7の四角印(□)参照)と変化させた。
図7から明らかなように、窒素圧力が2気圧では水の微粒子は生成せず、約4.5気圧以上において水微粒子の生成が観測された。水微粒子の粒径分布において、粒径分布の極大は約4〜5nmであり、粒径分布形状はほぼ同じであることが分かった。この場合の水微粒子の液滴量は、最大で1×108 個であることが分かった。
【0052】
図8は、実施例の液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布の水流量圧力依存性を示す図である。図において、横軸は水微粒子の粒径(nm)を示し、縦軸は1cm3 当りの水微粒子数(個/cm3 )を示す。
窒素圧力を13気圧とし、水流量を0.025cm3 /分(図8の三角印(△)参照)、0.1cm3 /分(図8の四角印(□)参照)、0.2cm3 /分(図8の三角印(△)参照)、0.3cm3 /分(図8の丸印(○)参照)と変化させた。
図8から明らかなように、窒素圧力を13気圧とした場合には、水流量を0.025cm3 /分〜0.3cm3 /分へ増加すると共に、水微粒子の生成数が増加することが分かった。そして、粒径分布の極大は約4〜5nmであり、粒径分布形状は変化しないことが分かった。
【0053】
図9(A)〜(C)は、実施例の液体微粒子化ノズル10と粒径分布測定装置との距離を60mmとした場合の水微粒子の粒径分布を示す図である。図において、横軸は水微粒子の粒径(nm)を示し、縦軸は1cm3 当りの水微粒子数(個/cm3 )を示す。この場合、粒径分布測定装置には、図6(B)に示したように、約100mmの延長管41を設け、この先端部と実施例の液体微粒子化ノズル10との距離Lmが60mmである。図7(A)〜(C)は、3回測定した結果を示している。
【0054】
図9から明らかなように、水の流量を0.1cm3 /分、窒素圧力を7気圧とした場合の水微粒子の粒径分布において、粒径分布の極大は約15nm程度とほぼ同じであるが、そのときの1cm3 当たりの水微粒子の液滴量は、最大で1〜1.5×107 個で測定毎に多少変動していることが分かった。これから、液体微粒子化ノズル10を、粒径分布測定装置に直結した場合(図6参照)に比較すると、液滴の総量が1桁減少し、水微粒子の粒径が若干大きくなると共に、その粒径分布が広くなることが分かった。
【0055】
上記実施例から、実施例の液体微粒子化ノズル10によれば、nm程度の直径を有する液滴を、大量に発生できることが判明した。
【0056】
本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、例えば、液体微粒子化ノズル10において、液体注入路6と気体注入路7の寸法や交差角度θなどは、得ようとする液体微粒子に合わせて適宜設計すればよい。また、本発明のナノ粒子形成装置15においては、本発明の液体微粒子化ノズル10を複数備えてもよい。特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の液体微粒子化ノズルを模式的に示した断面図で、(A)は液体微粒子化ノズルの断面図、(B)は(A)の液体微粒子化ノズルの先端部の拡大部分断面図、(C)は(B)の液体微粒子化ノズルの先端部の噴射口の拡大断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る液体微粒子化ノズルを用いたナノ粒子形成装置の構成を示す模式図である。
【図3】実施例で製造した液体微粒子化ノズルを示す図で、(A)は左側側面図、(B)はA−A線に沿う断面図、(C)はノズル先端部1の拡大断面図、(D)は(C)の拡大断面図である。
【図4】実施例の液体微粒子化ノズルの先端部を示す光学顕微鏡像であり、(A)は気体注入路に、(B)は液体注入路に、それぞれ焦点を合わせた場合である。
【図5】実施例の液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置との配置関係を説明する模式図で、(A)は液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置とを直結した場合、(B)は液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置とを距離を置いて配置した場合である。
【図6】実施例の液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布を示す図である。
【図7】実施例の液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布の窒素圧力依存性を示す図である。
【図8】実施例の液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置とを直結した場合の水微粒子の粒径分布の水流量圧力依存性を示す図である。
【図9】(A)〜(C)は、実施例の液体微粒子化ノズルと粒径分布測定装置との距離を60mmとした場合の水微粒子の粒径分布を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1:液体微粒子化ノズルの先端部
2:液体導入路
2A:テーパー部
2B:端部
3:気体導入路
4:噴射面
5:衝突領域
5A:噴出口
5B:垂直面
6:液体注入路
6A:噴出口
6B:端部
7:気体注入路
8:液体微粒子
10:液体微粒子化ノズル
15:ナノ粒子形成装置
16:被加工物
17:ステージ
18:気体及び液体の注入制御部
19:制御部
20:雄型部材
21:基部
22:凸部
22A:凸部の先端部
30:雌型部材
31:凹部
31A:凸部の先端部
40:粒径分布測定装置
41:延長管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、
上記衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、
上記衝突領域に向けて中心軸上から斜め方向に、上記液体注入路と同軸に形成される気体注入路と、を備え、
上記衝突領域にて、上記液体注入路からの液体流と上記気体注入路からの気体流とを衝突させて、上記液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする、液体微粒子化ノズル。
【請求項2】
ノズル先端部と、上記ノズル先端部へ液体導入のため中心軸上に形成された液体導入路と、上記ノズル先端部へ気体導入のため上記液体導入路と同軸にかつ管状に形成された気体導入路と、を含み、
上記ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、上記液体導入路から上記衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、上記気体導入路から上記衝突領域に向けて中心軸上から斜め方向に、上記液体注入路と同軸に形成された気体注入路と、を備え、
上記衝突領域にて、上記液体注入路からの液体流と上記気体注入路からの気体流とを衝突させて、上記液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする、液体微粒子化ノズル。
【請求項3】
前記液体注入路の断面直径が1μm〜数10μmであり、前記気体注入路の外径を前記液体注入路の断面直径よりも大きくし、かつ、その外径を100μm以下とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体微粒子化ノズル。
【請求項4】
前記液体注入路の軸方向長さは、数百μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体微粒子化ノズル。
【請求項5】
前記気体注入路は、前記衝突領域への出口手前にて更に絞られてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体微粒子化ノズル。
【請求項6】
被加工物へ液体の微粒子を噴霧する液体微粒子化ノズルを備え、該被加工物へナノ粒子を形成するナノ粒子形成装置であって、
上記ノズル先端部が、噴射面から窪んで形成された衝突領域と、
上記衝突領域に向けて中心軸上に形成された液体注入路と、
上記衝突領域に向けて絞られるよう上記液体注入路と同軸に形成された気体注入路と、を備え、
上記衝突領域にて、上記液体注入路からの液体流と上記気体注入路からの気体流とを衝突させて、上記液体流をnmオーダーに微粒子化して噴射することを特徴とする、ナノ粒子形成装置。
【請求項7】
さらに、前記気体及び液体の注入制御部を備え、該注入制御部は、前記衝突領域への気体及び液体の注入を制御することを特徴とする、請求項6に記載のナノ粒子形成装置。
【請求項8】
さらに、前記被加工物を載置するステージを備え、該ステージが前記制御部により制御されることを特徴とする、請求項6に記載のナノ粒子形成装置。
【請求項9】
さらに、前記被加工物を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする、請求項6に記載のナノ粒子形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−38124(P2007−38124A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224762(P2005−224762)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】