説明

液体水銀含有デバイス及び液体水銀含有デバイスにおける液体水銀の毒性を低減する為の方法

【課題】水銀等の有害物質を含むデバイスを廃棄する際に毒性を低減する。
【解決手段】スイッチ本体402は、界面420で連通する第一のチャンバ404及び第二のチャンバ408が形成され、第一のチャンバ中に液体水銀406が、第二のチャンバ中に中和物質410が封入される。界面420は制御構造422によって封止されている。通常の動作時、液体水銀は第一のチャンバ内で作動する。廃棄時、液体水銀は毛細管424を通じて第二のチャンバに移動可能とされ、中和物質410と混合されて混合物質が形成され、毒性が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水銀等の毒性を有する物質がパッケージ中に封入されるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液体水銀は温度計、スイッチ及びリレーを含む数多くの重要な製品に使用されている。しかしながら液体水銀は強い毒性を持つものであり、この結果、環境問題に対する厳しさを増した現在の風潮においては、液体水銀を含有するデバイスには相当な関心が向けられている。特に問題となっているのは、液体水銀を含有するデバイスの廃棄である。一般に、このようなデバイスは液体水銀が液体状態で廃棄される。この結果、水銀がデバイスから漏れ出して、環境に悪影響を及ぼしたり、健康を害する可能性を生じたりする場合があるというリスクがある。
【0003】
液体水銀の利用に関する問題から、液体水銀含有デバイスの廃棄は行政介入の積極的対象となった。例えば、現在多くの自治体において施行されている条例では、1つのデバイスに含まれていてもよい液体水銀の量が規制されており、また、一部には民生用デバイスにおける液体水銀の利用を最終的には完全に禁止することになる要件を含む条例もある。ヨーロッパにおいては、0.1重量%を超える水銀を含有する類似物質に規制を課すことになる条例が現在検討されている。これらの条例が施行された場合、液体水銀を含有する全デバイス(医療機器と制御及び監視機器は例外)と共に、水銀を含有する合金等、他の状態に結合した水銀を含有するデバイスも規制対象となり得るのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、液体水銀又は他の有毒物質を含有するデバイスの利用及び廃棄を規制する現行及び将来的条例は、これらのデバイスの市場性を著しく制約するものである。本発明の課題は、このような問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、有毒物質含有デバイス及び有毒物質含有デバイスにおける有毒物質の毒性を低減する為の方法が提供される。有毒物質含有デバイスは、有毒物質を含む第一のチャンバと、有毒物質と混合された場合に有毒物質の毒性を低減することが出来る中和物質を含む第二のチャンバとを有する。制御構造により、有毒物質と中和物質の選択的混合が可能となっており、有毒物質よりも毒性が低い混合物質が作られる。本デバイス及び方法は、デバイス中に含まれる液体水銀又は他の有毒物質の毒性を許容レベルにまで低減し、デバイスの安全な廃棄を促進するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
上述したことに対して付加的な、あるいは代替の実施の形態と他の特徴及び利点を以下に示す。これらの特徴及び利点の多くは、添付図を参照しつつ以下の説明を読むことにより明らかとなる。
【0007】
本発明の実施の形態は、有毒物質含有デバイス及び有毒物質含有デバイスにおける有毒物質の毒性を低減する為の方法を提供するものである。
【0008】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液体水銀スイッチを描いた概略図である。スイッチは全体として符号100で示されており、液体水銀106を含む第一のチャンバ104及び液体水銀の毒性を低減することが出来る中和物質110を含む第二のチャンバ108を有するスイッチ本体102を含んでいる。
【0009】
第二のチャンバ108中の中和物質110は液体水銀と混合することにより水銀と中和物質の両方を含有する、液体水銀よりも毒性の低い化合物を形成することが出来るものである。本発明の一実施例によれば、中和物質110は、液体水銀の吸収及びこれとの混合の両方が可能であり、これにより金属間化合物合金を形成することが出来る金属又は金属合金である。液体水銀を吸収し、これと混合して金属間化合物合金を形成する中和物質の例としては金、スズ及びインジウムが含まれるが、本発明をいずれかの特定の中和物質に限定する意図はない。実際、多くのアプリケーションにおいて選択される特定の中和物質は、デバイスの種類及びサイズ次第であり、このように容易に中和物質をデバイスへと組み込むことができる。
【0010】
中和物質110を含む第二のチャンバ108は、液体水銀スイッチ100の本体102中に、スイッチ100の性能を劣化させる(例えば、液体水銀と中和物質の混合が不十分となってしまう、又はスイッチのRF性能に悪影響を及ぼす)ことがない状態で設けられることが望ましい。しかしながら第一のチャンバ104及び第二のチャンバ108は、その間に界面120を設けて相互配置される。界面120はチャンバ104及び108間の連通を許容するものであり、第一のチャンバ104中の液体水銀106は第二のチャンバ108へと流入して第二のチャンバ108中の中和物質110と混合することが可能であり、これにより液体水銀よりも毒性の低い混合物質が提供されるのである。
【0011】
制御構造122は界面120に配置されており、液体水銀と中和物質との混合を選択的に制御するものである。具体的には、制御構造122は、第一のチャンバ104中にある液体水銀106が第二のチャンバ108中へと流れ込み、中和物質110と混合することがないように、通常は界面120を閉鎖している構造である。本発明の一実施例によれば、制御構造122はスイッチ100の通常の使用時には液体水銀106と中和物質110との混合を阻止している。しかし、例えばスイッチ100が耐用年数を超えた等、スイッチ100の廃棄が望まれた場合、制御構造122が起動されることにより、液体水銀106は界面120を通じて第二のチャンバ108へと流れ込むことが可能となり、中和物質110と混合するのである。
【0012】
制御構造122に可能な形態は幾つかある。図1に示した本発明の実施の形態においては、制御構造122は通常は界面120を閉鎖しておく封止を含んでいる。スイッチの廃棄が望まれた場合、封止122が除去(移動)されることにより、第一のチャンバ104中にある液体水銀106は第二のチャンバ108へと流れ込むことが可能となり、中和物質110と混合するのである。
【0013】
図2は本発明の一実施の形態に基づき、図1に示した液体水銀スイッチに、その中にある有毒物質の毒性を低減する為の変化が加えられるプロセスを描いた図である。図2に示したように、封止122は除去されて所定位置には無く、液体水銀106は界面120を通って第二のチャンバ108へと流れ込み、中和物質110と混合されつつあり、第二のチャンバ108中で混合物質230が作られている。
【0014】
封止122を界面120から除去する方法は幾つかある。例えば、封止122はガラス又はプラスチックのような壊れやすい材料で作られた裂開型封止とし、スイッチ100を物理的に押し潰すことにより封止を破壊する、又は第一のチャンバ104に過剰な圧力を加えることにより第一のチャンバ104中にある液体水銀を押し出して封止を破壊することが出来る。代わりに、封止122はパラフィンのような融解性材料で作り、スイッチ100の廃棄が望まれた時に溶かすようにすることも出来る。封止の融解は、例えば封止122の近傍にあるスイッチ中に設けられた1つ以上の加熱構造を起動することにより実施することが出来る。
【0015】
界面120から封止122が除去されると、第一のチャンバ104中にある液体水銀106は第二のチャンバ108へと自由に流れ込むことが可能となり、中和物質110と混合して液体水銀よりも毒性の低い混合物質230が作られる。図3は、本発明の一実施の形態に基づき、図1の液体水銀スイッチがその中にある液体水銀の毒性を低減するように変化した後の状態を概略的に描いたものである。図3に示したように、第一のチャンバ104にあった液体水銀は、現時点(図3に示す状態)では全て第二のチャンバ108へと流れ込んで中和物質と混合しており、第二のチャンバ108中に混合物質230が出来ている。
【0016】
液体水銀を中和物質110と完全に混合して混合物質230を作る為に要する時間は、使用される特定の中和物質、混合される液体水銀と中和物質の分量及び他の要因に依存する。本発明に基づく一実施例においては、物質の完全な混合には数日から数週間以上を要する場合がある。これに関しては、液体水銀が中和物質へとより迅速に吸収及び混合されることになるように、一般には中和物質110を、その表面積が最大化されることになるような形状で設けることが望ましい。
【0017】
本発明の一実施の形態によれば、混合物質230の毒性がスイッチの安全廃棄を実現出来るレベルとなるように、第二のチャンバ108中の中和物質110の量は、混合物質230中の液体水銀のパーセンテージが十分に小さくなるように選択される。更には、混合物質230中の液体水銀のパーセンテージが、水銀含有デバイスの廃棄に関わるあらゆる政府の条例を満たすよう十分少ないことが望ましい。例えば、第二のチャンバ108中にある物質110の量(重量)を、第一のチャンバ104中にある液体水銀106の量(重量)の少なくとも1000倍とすれば、混合物質の水銀含有量は0.1重量パーセント以下となり、これは水銀の取り扱いに関する現行及び将来的に施行され得る条例を満足させるに足るものである。
【0018】
本発明の一実施例によれば、液体水銀スイッチ100は集積回路チップ等に利用される小型液体水銀スイッチである。このようなデバイスの第一のチャンバ104中にある液体水銀106の量は、代表的には約100μg未満である。従って、この中にある液体水銀の毒性を安全なレベルへ低減させる為には、約100,000μg(100mg)の中和物質が必要となる。他の液体水銀含有デバイスにおいては、第一のチャンバ104中にある液体水銀量はこれよりも相当に多い場合もあり、本発明を特定量の液体水銀を含むデバイスに限定する意図は無い。
【0019】
図4は本発明の更なる実施の形態に基づく液体水銀スイッチの概略図である。液体水銀スイッチは全体として符号400で示されており、液体水銀406を含む第一のチャンバ404と中和物質410を含む第二のチャンバ408との間の界面420を、通常は閉鎖している制御構造422を有するスイッチ本体402を含んでいる。制御構造422は、その中を複数の毛細管424が延びる毛細管構造である。スイッチ400の通常作動においては、毛細管構造422は界面420を閉鎖しており、液体水銀が第二のチャンバ408へと流入することを防いでいる。しかしながら、スイッチの廃棄が望まれた場合、毛細管機構422は、液体水銀が毛細管群424を通って第二のチャンバ408へと流入し、第二のチャンバ中にある中和物質と混合することが可能な状態となる。
【0020】
本発明に基づく一実施の形態によれば、毛細管構造422は、内部ヒーター435、又は毛細管群424を通じて液体水銀を運ぶ為にチャンバ404及び408間に圧力勾配を作り出す他の構造を含むものとすることが出来る。或いは、毛細管構造422は静電気を利用して液体水銀を第一のチャンバ404から第二のチャンバ408へと移動させる、電気的に湿潤させる毛細管構造(毛細管内における物質の移動性、流動性を電気的に制御可能な構造)を含むものであってもよい。
【0021】
図5は本発明の一実施の形態に基づく、有毒物質含有デバイスの有毒物質の毒性を低減させるための方法を説明するフローチャートである。方法は、全体的には符号500で示されており、デバイス中にある有毒物質の毒性を低減することが出来る中和物質をデバイス中に設けること(ステップ502)から開始される。有毒物質含有デバイスの廃棄が望まれた場合(例えばデバイスが耐用年数を超えた場合)、有毒物質と中和物質が混合され、その有毒物質よりも毒性の低い混合物質が作られる(ステップ504)。その後デバイスは安全かつ効率的な方法で廃棄される(ステップ506)。
【0022】
これまでに説明してきた内容は本発明の実施例を構成するものではあるが、本発明はその範囲から外れることなく、様々に異なる方法で実施することが出来るものと認識されるべきである。例えば、本明細書においては本発明の実施の形態を、液体水銀スイッチを含むものとして説明して来たが、本発明は他の液体水銀含有デバイスをも包含しており、その中には水銀温度計、水銀リードリレー、あらゆるサイズの水銀スイッチ、又はその他の液体水銀含有デバイスが含まれるものであり、本発明を特定の液体水銀含有デバイスに限定することを意図したものではないことを理解されたい。更には、本発明は例えば液体水銀合金のような液体水銀以外の有毒物質を含有するデバイスをも包含するものであり、本発明を特定の種類の有毒物質が含有される有毒物質含有デバイスに限定することを意図したものではないことは明らかである。
【0023】
本発明に基づく実施の形態は数多くの様々な態様とすることが出来る為、本発明は本願請求項の範囲によってのみ条件付けられるものに限定されるものであることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例に基づく液体水銀スイッチの概略図である。
【図2】図1に示した液体水銀スイッチが、本発明の一実施の形態に基づいてその中に含まれる液体水銀の毒性を低減する為に変化を加えられつつあるプロセスを示す概略図である。
【図3】図1に示した液体水銀スイッチが、本発明の一実施の形態に基づいてその中に含まれる液体水銀の毒性を低減する為に変化を加えられた後の状態を示す概略図である。
【図4】本発明の更なる実施の形態に基づく液体水銀スイッチの概略図である。
【図5】本発明の一実施の形態に基づき、有毒物質含有デバイス中の有毒物質の毒性を低減する為の方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
100、400 有毒物質含有デバイス(液体水銀スイッチ)
104、404 第一のチャンバ
106、406 有毒物質(液体水銀)
108、408 第二のチャンバ
110、410 中和物質
120、420 界面
122、422 制御構造
230 混合物質
424 毛細管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有毒物質を含む第一のチャンバと、
前記有毒物質の毒性を低減することが出来る中和物質を含む第二のチャンバと、
前記有毒物質と前記中和物質とを選択的に混合して前記有毒物質よりも毒性の低い混合物質を作る為の制御構造と
を具備したことを特徴とする、有毒物質を含有するデバイス。
【請求項2】
前記有毒物質が液体水銀を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記中和物質が金属を含むものであることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記混合物質が金属間化合物合金を含むものであることを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスが液体水銀スイッチを含むものであることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記制御構造が、前記第一及び第二のチャンバ間の界面に配設される封止構造を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記制御構造が、前記第一及び第二のチャンバ間の界面に配設される毛細管構造を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
有毒物質含有デバイス中の有毒物質の毒性を低減する為の方法であって、
前記デバイス中の前記有毒物質の毒性を低減することが出来る中和物質を前記デバイス中に設けることと、
前記有毒物質と前記中和物質とを混合することにより前記有毒物質よりも毒性の低い混合物質を生成することと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記有毒物質及び前記中和物質を混合する以前の期間においては、前記有毒物質及び前記中和物質が混合されるのを防止することを更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記有毒物質が液体水銀を含み、前記有毒物質含有デバイスが液体水銀含有デバイスを含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−332040(P2006−332040A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125031(P2006−125031)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】