説明

液体濃度検出装置

【課題】濃度検出誤差を低減する液体濃度検出装置を提供する。
【解決手段】静電容量検出手段8は燃料の静電容量を検出し、温度検出手段9は燃料温度を検出する。濃度検出手段67は、静電容量検出手段8の検出した検出静電容量と温度検出手段9の検出した検出温度とにより燃料に含まれるエタノール濃度を検出する。また、静電容量補正手段65、温度補正手段66の少なくとも一方は、濃度検出手段67による濃度検出に先立って、検出静電容量または検出温度を補正する。これにより、燃料温度変化時の実際の温度変化に対する検出温度の変化の遅れである応答遅れ特性によって生ずる濃度検出誤差を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量と温度に基づいて被検出液の濃度を検出する液体濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料にエタノール混合ガソリンを使用するエンジンでは、A/Fのズレから、燃料中のエタノール濃度を推定し、このエタノール濃度に応じて燃料噴射量および点火時期等を制御することで、排ガスの悪化を抑制するとともに運転性を向上している。しかし、将来的に、厳しくなる排気ガス規制に対応していくために、エタノール濃度を検出する装置が必要になる。
エタノール濃度を検出する装置として、燃料に浸漬させた2つの電極間の静電容量及び燃料温度をパラメータとして検出することで燃料中のエタノール濃度を検出する装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−093703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のエタノール濃度を検出する装置では、燃料タンクに燃料を給油すると燃料温度が瞬時に変化する場合がある。例えば、夏季に燃料タンク内の燃料温度が40℃であり、給油する燃料温度が20℃であるという場合、静電容量の変化については、実際の変化とほぼ同時に検出可能であり、他方、温度変化については、実際の変化に対し検出温度に通常数秒から十数秒の応答遅れが生じる。これは、燃料と温度センサを隔てている部材の板厚を伝熱する時間差、および、温度センサ自体の応答性によるものである。
この応答遅れの間、濃度検出装置は、誤った検出温度に基づきエタノール濃度を検出するため、濃度検出に誤差が生じ、燃料噴射量および点火時期等の制御に影響を及ぼすおそれがある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出温度の応答遅れに起因する濃度検出誤差を低減する液体濃度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明によると、静電容量検手段は被検出液の静電容量を検出静電容量として検出し、温度検出手段は被検出液の温度を検出温度として検出する。濃度検出部は、検出静電容量と検出温度とにより被検出液の濃度を繰り返し検出する。補正手段は、被検出液の実際の温度変化に対する検出温度の変化の遅れである応答遅れ特性による影響を除去するように、濃度検出手段による濃度の算出に先立って、検出静電容量と検出温度の少なくとも一方を補正する。これにより、検出温度の応答遅れ特性による影響が除去されるため、それに起因する濃度検出誤差を低減することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明によると、静電容量補正手段によって、検出静電容量は、検出温度の応答遅れ特性と同様の応答遅れ特性を有するように補正される。
【0007】
請求項3に記載の発明によると、静電容量補正手段によって、検出静電容量は、所定期間前から現在までの検出静電容量の平均値に補正される。なお、平均値は、変化時からの時間に対し直線的に変化するため、補正された静電容量を実際の静電容量に早く収束させるのに有効な手段である。
【0008】
請求項4に記載の発明によると、静電容量補正手段によって、検出静電容量は、検出静電容量と時定数とによって規定される一次遅れ曲線に基づいて算出された値に補正される。なお、一次遅れ曲線は、制御において一般的に使用される方法の一つであり、変化時直後には急激に、時間経過につれて徐々に緩やかに変化するもので、検出温度遅れ特性に近似しているため、それと同様の応答遅れ特性を有するものとして有効な手段である。また、時定数は静電容量検出部の電極の大きさ、構造、材質等の属性によって決定される。
【0009】
請求項5に記載の発明によると、温度補正手段によって、検出温度は、応答遅れ特性によって生ずる誤差を打ち消すように補正される。
【0010】
請求項6に記載の発明によると、温度補正手段によって、検出温度は、検出温度と時定数とによって規定される一次遅れの逆特性の曲線に基づいて算出された値に補正される。
なお、一次遅れの逆特性の曲線による補正は、制御において一般的に使用される方法の一つであり、変化時直後にきわめて急激に収束値近傍まで、ほぼステップ状に変化するもので、応答遅れ特性によって生ずる誤差を打ち消すのに有効な手段である。また、時定数は温度検出部の構造、材質等の属性によって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の各実施形態による液体濃度検出装置が適用される燃料供給系統を示す構成図である。
【図2】本発明の各実施形態による液体濃度検出装置の断面図である。
【図3】本発明の各実施形態による液体濃度検出装置の回路の構成図である。
【図4】温度、静電容量、エタノール濃度の相関関係を示す特性図である。
【図5】本発明の第1実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す特性図である。
【図6】本発明の第2実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す特性図である。
【図7】本発明の第3実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す特性図である。
【図8】比較例としての液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて説明する。第1実施形態は請求項3に記載の発明を、第2実施形態は請求項4に記載の発明を、第3実施形態は請求項6に記載の発明の特徴を具現化したものである。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による液体濃度検出装置は、被検出液として燃料に含まれるエタノール濃度を検出するエタノール濃度センサであって、図1に示すように、自動車用エンジンの燃料供給系統に設けられる。エタノール濃度センサ1は、燃料タンク2とデリバリパイプ5とを接続する燃料配管4に設けられている。燃料タンク2内の燃料は、燃料ポンプ3によって燃料配管4を通りデリバリパイプ5へ圧送され、インジェクタ6から図示しない吸気管またはシリンダ内へ噴射される。エタノール濃度センサ1の検出したエタノール濃度は、エンジンのECU(電子制御ユニット)7に伝送される。ECU7は、エタノール濃度に応じ、インジェクタ6から噴射される燃料噴射量及び点火時期等を制御し、エンジンのトルク特性を適正にすることで、運転性を良好にするとともに排出ガス中の有害成分を低減している。
【0013】
エタノール濃度センサ1は、図2に示すように、第1ハウジング10、連結パイプ20、21、第1、第2電極31、32、サーミスタ40、第2ハウジング50、及び回路60等から構成されている。
第1ハウジング10は、例えばステンレス等の金属から略筒状に形成され、内部に燃料室11を有している。第1ハウジング10の軸方向の両端に、シール部材12、13を挟んで連結パイプ20、21がねじ結合している。連結パイプ20、21は、例えばステンレス等の金属から筒状に形成され、内部に通路22、23を有している。連結パイプ20、21の軸方向の途中には径外方向に突出する爪24、25が設けられている。連結パイプ20、21は、この爪24、25に接続する図示しないコネクタを経由し、燃料配管4と連結する。これにより、連結パイプ20、21の通路22、23、及び第1ハウジング10の燃料室11に燃料が供給される。
【0014】
第1電極31は、例えばステンレス等の金属から略円筒状に形成され、第1ハウジング10の径方向に形成された開口14から、第1ハウジング10の燃料室11に挿入されている。第2電極32は、例えばステンレス等の金属から有底筒状に形成され、第1電極31の径内側の空間35に収容されている。第1電極31の径内方向の内壁と、第2電極32の径外方向の外壁とは、ガラスシール36によって固定されている。ガラスシール36は、第1電極31と第2電極32とを電気的に絶縁している。
第1電極31は、径方向に通じる燃料孔33、34を有している。このため、第1ハウジング10の燃料室11から燃料孔33、34を経由し、第1電極31と第2電極32との間の空間35に燃料が流入する。これにより、第1電極31及び第2電極32は、燃料を誘電体としたコンデンサとして機能する。
【0015】
温度検出手段としてのサーミスタ40は、温度変化によって電気抵抗を変える温度検出素子である。サーミスタ40は、第2電極32の径内側に収容され、第2電極32の底部の内壁に当接している。このため、第1電極31と第2電極32との間の空間35の燃料の温度は、第2電極32の板厚を経由し、サーミスタ40に熱伝導する。なお、第2電極32の底部の内壁とサーミスタ40との間に放熱グリス等の熱伝導部材を充填してもよい。
【0016】
第2ハウジング50は、例えば樹脂等から有底筒状に形成され、底部51が第1ハウジング10の径外方向の外壁に固定され、第1ハウジング10の開口14を塞いでいる。
第2ハウジング50と第1ハウジング10との間には、環状のパッキン52及び板状の弾性部材53が挟まれている。パッキン52は、第2ハウジング50と第1ハウジング10との間に外部から水等が浸入することを防止している。弾性部材53は、第1電極31を第1ハウジング10へ押し付けている。
第2ハウジング50の開口部には、板状の蓋54が設けられ、第2ハウジング50の内側へ外部から水等が浸入することを防止している。蓋54は、第2ハウジング50の径外方向に突出する係止部55に係止された板状のスプリング56によって固定されている。
第2ハウジング50の底部51には収容孔57が設けられ、第2電極32の端部を収容している。
【0017】
回路60は、プリント配線板に設けられた複数の電子部品から構成され、第2ハウジング50の内側に収容されている。回路60と第1電極31とを第1導電体37が接続し、回路60と第2電極32とを第2導電体38が接続している。また、回路60とサーミスタ40とを第3、第4導電体41、42が接続している。
【0018】
回路60は、図3に示すように、静電容量検出回路61、温度検出回路62、マイクロコンピュータ63、出力回路64等から構成されている。
静電容量検出回路61は、第1電極31と第2電極32との間の充放電により、静電容量を検出する。温度検出回路62は、サーミスタ40への通電により、第1電極31と第2電極32との間の燃料温度を検出する。
ここで、第1、第2電極31、32、静電容量検出回路61及び第1、第2導電体37、38により、静電容量検出手段8が構成される。また、サーミスタ40、温度検出回路62及び第3、第4導電体41、42により温度検出手段9が構成される。
【0019】
マイクロコンピュータ63は、CPU、ROM、RAM等から構成され、ROM、RAM等に記憶されたプログラムをCPUが実行することで、静電容量補正手段65、濃度検出手段67として機能する。
濃度検出手段67は、静電容量検出手段8の検出した静電容量と、温度検出手段9の検出した燃料温度とにより燃料に含まれるエタノール濃度を検出する。これは、図4に示すように、一定のエタノール濃度において燃料の温度と静電容量とが相関関係を有し、また、一定の温度において燃料のエタノール濃度と静電容量とが相関関係を有することに基づく。具体的には、燃料温度として想定するのに十分な−20℃から80℃の領域で、一定のエタノール濃度において燃料温度が高くなるに従い静電容量は小さくなり、また、一定の温度においてエタノール濃度が高くなるに従い静電容量は大きくなる。
【0020】
静電容量補正手段65は、濃度検出手段67による濃度の検出に先立って、それぞれ、静電容量検出手段8の検出した静電容量、温度検出手段9の検出した燃料温度を補正する。このような補正手段は、一般にフィルタ処理と呼ばれる。補正の目的、具体的な補正値算出方法については以下に詳しく説明する。
また、出力回路64は、濃度検出部の検出したエタノール濃度をECU7に伝送する。
【0021】
ところで、燃料温度が瞬時に変化する場合がある。例えば、燃料タンク2内の燃料より温度が高く、エタノール濃度が同等である燃料を燃料タンク2に給油する場合を想定する。給油された燃料は、燃料タンク2から燃料配管4を通ってエタノール濃度センサ1の燃料室11に拡散され、燃料室11内の燃料温度が上昇し、静電容量が減少する。この場合、静電容量の変化については、実際の変化とほぼ同時に検出可能である。もっとも、厳密には0.1秒以下の遅れは生ずると考えられるが、実質的に無視してかまわない。それに対し、温度変化については、実際の変化に対し検出温度に通常数秒から十数秒の応答遅れが生じる。これは、燃料とサーミスタ40を隔てている第2電極32の板厚を伝熱する時間差、および、サーミスタ40自体の応答性によるものである。
【0022】
ここで、本発明の第1実施形態の説明についての理解を容易にするため、比較例を挙げて説明する。
図8は、比較例としての液体濃度検出装置、すなわち補正手段を用いない場合の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す。
横軸は時間軸であり、t0は変化が生じた時刻である。
縦軸において、T0は変化前の温度、T1は変化後の温度である。Q0は変化前の静電容量、Q1は変化後の静電容量である。このとき、エタノール濃度C0は変化していないものとする。また、温度T1と温度T0の差を温度差ΔT、静電容量Q1と静電容量Q0の差を静電容量差ΔQとする。
実際の温度Tr、実際の静電容量Qr、実際のエタノール濃度Crの変化を実線で示す。なお、燃料の拡散による微少の遅れは無視し、ステップ状に変化するものとして扱う。
【0023】
温度検出手段9の検出した検出温度Tdを破線で示す。温度T0から温度T1への変化について、検出温度Tdは実際の温度Trに対し応答遅れ特性を持つ。検出温度Tdが温度T1に一致する時刻、言い換えれば、検出温度Tdが実際の温度Trに収束する時刻をt1とする。ここで「一致する」とは、温度検出手段9の最小検出能力によって実現される温度範囲に基づき、±2℃、±1℃、±0.5℃などの温度範囲に入ることを意味する。
また、検出温度Tdは、時刻t0以前及び時刻t1以後は定常状態、時刻t0から時刻t1の間では過渡状態であるということができる。過渡状態の初期の任意の時刻をta、過渡状態の中期の任意の時刻をtb、過渡状態の終期の任意の時刻をtcとする。
【0024】
一方、静電容量検出手段8の検出した検出静電容量Qdは、実際の静電容量Qrに対し遅れを生じないため、検出静電容量Qdを示す線は実際の静電容量Qrを示す実線に一致する。
濃度検出手段67は、静電容量検出手段8の検出した検出静電容量Qdと、温度検出手段9の検出した検出温度Tdとにより燃料に含まれるエタノール濃度を検出濃度Cd0として検出する。検出濃度Cd0は、破線に示すように、検出温度Tdの応答遅れ特性を反映して同様の遅れ特性を持つことになる。すなわち、検出温度Tdが実際の温度Trに対して低温側に誤差を有するため、検出濃度Cd0は実際の濃度Crに対して低濃度側に誤差を伴って検出される。
過渡状態の段階に応じてさらに詳しく説明すると、時刻t0から時刻taでは、検出温度Tdと実際の温度Trの差が大きく、検出濃度Cd0と実際の濃度Crの差も大きい。次に時刻tb付近では、検出温度Tdと実際の温度Trの差は小さくなり、検出濃度Cd0と実際の濃度Crの差も小さくなる。時刻tc付近では、検出温度Tdが実際の温度Trに漸近し、検出濃度Cd0も実際の濃度Crに漸近する。そして時刻t1において、検出温度Tdが実際の温度Trに一致し、検出濃度Cd0も実際の濃度Crに一致する。
【0025】
次に、図5は、本発明の第1実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す。
静電容量補正手段65は、濃度検出手段67による濃度の検出に先立って、静電容量検出手段8の検出した静電容量Qdを補正し、補正静電容量Qf1として繰り返し算出する。補正静電容量Qf1は、所定時間m遡った時刻から現在までの検出静電容量Qdの平均値である。
補正静電容量Qf1を一点鎖線で示す。時刻t0以前、検出静電容量Qdは定常状態であり、常に静電容量Q0であるので、補正静電容量Qf1は静電容量Q0に等しい。つまり、理論上は補正ゼロの値が補正静電容量Qf1として算出されるため、みかけ上、補正動作が行われない。
時刻t0から時刻(t0+m)までの期間では、

Qf1={(時間m遡った時刻から時刻t0までの時間)×Q0+(時刻t0から現在までの時間)×Q1}/m ・・・(式1)

により、検出静電容量Qdの平均値が補正静電容量Qf1として算出される。すなわち、補正静電容量Qf1は時間につれて静電容量Q0から静電容量Q1まで直線的に減少する。これにより、温度の応答遅れ特性に対応して、静電容量にも応答遅れ特性を与えることができる。
時刻(t0+m)以後は、時間m遡った時刻から現在までの検出静電容量Qdは常に静電容量Q1であるので、補正静電容量Qf1は静電容量Q1に等しい。よって、再び、みかけ上、補正動作が行われない状態となる。
【0026】
ここで所定時間mは任意に設定することが可能だが、図5に示すように、時刻t0から時刻t1までの60〜70%程度の時間に設定する場合を例にとり説明する。
濃度検出手段67は、補正静電容量Qf1と検出温度Tdとにより、エタノール濃度を検出濃度Cd1として繰り返し検出する。検出濃度Cd1を一点鎖線で示す。
時刻t0から時刻taでは、検出温度Tdの遅れ特性よりも、補正静電容量Qf1に与えられた遅れ特性の方が大きくなる傾向がある。そのため、温度上昇による濃度増加効果が、静電容量減少による濃度減少効果を上回り、検出濃度Cd1は実際の濃度Crの高濃度側に誤差を生ずる。しかし、その絶対値は、補正手段を用いない場合の検出濃度Cd0の誤差に比べて小さい。
続いて時刻tb付近では、検出温度Tdの遅れ特性と、補正静電容量Qf1に与えられた遅れ特性が同程度になるため、検出濃度Cd1は実際の濃度Crとほぼ等しくなる。
さらに時刻tcから時刻t1では、補正静電容量Qf1が実際の静電容量Qrに収束した後、みかけ上の補正動作は行われないため、図8と同様、検出濃度Cd1は実際の濃度Crの低濃度側で実際の濃度Crに漸近し、一致する。
【0027】
このように、第1実施形態の液体濃度検出装置を用いることにより、検出濃度誤差を低減することができる。また、第1実施形態による補正では、時刻t0から所定時間m後に確実に補正静電容量Qf1が実際の静電容量Qrに収束し、みかけの補正動作が終了することが特徴である。したがって、制御において、動作の終了を確実に認知できるという効果がある。
【0028】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による液体濃度検出装置は、第1実施形態による液体濃度検出装置に対し、補正値の算出方法が異なる。図6は、本発明の第2実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す。
静電容量補正手段65は、濃度検出手段67による濃度の検出に先立って、静電容量検出手段8の検出した静電容量Qdを補正し、補正静電容量Qf2として繰り返し算出する。補正静電容量Qf2は、静電容量Qdの変化である静電容量差ΔQと時定数τQとによって規定される一次遅れ曲線に基づいて算出された値である。
参考までに時刻tの関数としての計算式を示す。なお、式中eは自然体数の底である。

Qf2(t)=Q0−ΔQ{1−e-t/τQ} ・・・(式2)
【0029】
補正静電容量Qf2を一点鎖線で示す。時刻t0以前、検出静電容量Qdは定常状態であり、静電容量差ΔQが0であるので、一次遅れ曲線はゼロ一定の直線にほかならない。つまり、理論上は補正ゼロの値が補正静電容量Qf2として算出されるため、みかけ上、補正動作が行われない。
時刻t0の瞬間、より正確には検出静電容量Qdを微少時間検出後、静電容量補正手段65は、静電容量Q0と静電容量Q1とにより静電容量差ΔQを認知する。そして、静電容量差ΔQと時定数τQから一次遅れ曲線を算出し補正静電容量Qf2を算出する。一次遅れ曲線は、制御において一般的に使用される方法の一つであるが、時刻t0直後には急激に、時間経過につれて徐々に緩やかに変化するものである。これにより、温度の応答遅れ特性に対応して、静電容量に同様の応答遅れ特性を与えることができる。なお、時定数τQは静電容量検出部の電極の大きさ、構造、材質等の属性によって決定される。
【0030】
濃度検出手段67は、補正静電容量Qf2と検出温度Tdとにより、エタノール濃度を検出濃度Cd2として繰り返し検出する。検出濃度Cd2を一点鎖線で示す。
検出温度Tdの応答遅れ特性は一次遅れ系の現象であると解析されるため、補正静電容量Qf2に検出温度Tdと同様の一次遅れ特性を与えることにより、理論上、検出濃度Cd2の誤差は解消されるはずである。しかし実際には、温度伝達や検出手段の測定誤差などにより、検出温度Tdが理想的な一次遅れ曲線からはずれる場合があり、その誤差が検出濃度Cd2の誤差として残る可能性が考えられる。
図6には、便宜上、検出濃度Cd2を実際の濃度Crの低濃度側にわずかな誤差を生ずるよう図示したが、高濃度側に誤差を生ずる場合もありえる。いずれにせよ、図6は検出濃度Cd2の誤差が非常に小さいことを表現するものである。
【0031】
このように、第2実施形態の液体濃度検出装置を用いることによっても、検出濃度誤差を低減することができる。また、第2実施形態による補正では、検出温度Tdが理想的な一次遅れ特性を有するならば、検出濃度Cd2は、よい精度で誤差を低減することができるという効果を奏する。
【0032】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による液体濃度検出装置は、検出静電容量ではなく、検出温度を補正する。図7は、本発明の第3実施形態による液体濃度検出装置の燃料温度変化時の温度、静電容量、エタノール濃度の変化を示す。
図3に破線で示す温度補正手段66は、第1、第2実施形態の静電容量補正手段65に代わり、濃度検出手段67による濃度の検出に先立って、温度検出手段9の検出した検出温度Tdを補正し、補正温度Tf3として繰り返し算出する。補正温度Tf3は、検出温度Tdの変化から推定される温度差ΔTと時定数τTとによって規定される一次遅れの逆特性の曲線に基づいて算出された値である。なお、逆特性とは、ある入力に対する出力が一次遅れ曲線として与えられた場合の、元の入力の曲線のことである。
【0033】
補正温度Tf3を一点鎖線で示す。時刻t0以前、検出温度Tdは定常状態であり、温度差ΔTが0であるので、一次遅れ曲線はゼロ一定の直線にほかならない。よって、一次遅れの逆特性の曲線もまた、ゼロ一定の直線である。つまり、理論上は補正ゼロの値が補正温度Tf3として算出されるため、みかけ上、補正動作が行われない。
時刻t0の瞬間、より正確には検出温度Tdを微少時間検出後、温度補正手段66は、検出温度Tdの変化を認知し、温度差ΔTを推定する。そして、温度差ΔTと時定数τTから一次遅れの逆特性の曲線を算出する。一次遅れの逆特性の曲線による補正は、制御において一般的に使用される方法の一つであるが、時刻t0直後にきわめて急激に温度T1の近傍まで、ほぼステップ状に変化するものである。これにより、温度の応答遅れ特性によって生ずる誤差を有効に打ち消すことができる。なお、時定数τTは温度検出部の構造、材質等の属性によって決定される。
【0034】
濃度検出手段67は、検出静電容量Qdと補正温度Tf3とにより、エタノール濃度を検出濃度Cd3として繰り返し検出する。検出濃度Cd3を一点鎖線で示す。
検出温度Tdの応答遅れ特性は一次遅れ系の現象であると解析されるため、その逆特性である補正温度Tf3は、理論上、ステップ状に変化する実際の温度Trに一致するはずである。しかし実際には、検出温度Tdの初期変化の検出能力、検出誤差などに基づき、補正温度Tf3に誤差が生じる。特に、初期変化に対しては小さな誤差が大きく変換され、ノイズによる影響も受けやすい。そのため、検出濃度Cd3は過渡状態初期には誤差が生じやすい。ただし、その後は、検出濃度Cd3の誤差はきわめて小さいことが期待される。
【0035】
このように、第3実施形態の液体濃度検出装置を用いることによっても、検出濃度誤差を低減することができる。また、第3実施形態による補正では、検出温度Tdが理想的な一次遅れ特性を有し、かつ、検出温度Tdの初期変化に対する検出能力が十分高ければ、検出濃度Cd3は、きわめてよい精度で誤差を低減することができるという効果を奏する。
【0036】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態では、自動車用エンジンの燃料供給系統に適用され、燃料に含まれるエタノール濃度を検出する液体濃度検出装置について説明した。これに対し、本発明の液体濃度検出装置は、同様に、温度、静電容量、濃度の相関関係を有する液体であれば、エタノール以外の被検出液の濃度を検出するものであってもよく、自動車用エンジンの燃料供給系統以外に適用されるものであってもよい。
上述した複数の実施形態では、燃料温度の変化と同時にエタノール濃度は変化しない場合について説明したが、エタノール濃度が同時に変化する場合であってもよい。また、変化後の温度T1が変化前の温度T0より高温の場合について説明したが、変化後の温度T1が変化前の温度T0より低温の場合であってもよい。
【0037】
上述した複数の実施形態では、静電容量補正手段あるいは温度補正手段のいずれか一方を用いることにより、濃度検出誤差を低減するものであったが、これらの両方を用いるものであってもよい。
静電容量補正手段によって検出静電容量を補正する場合、実施形態1及び実施形態2の算出方法に限定されず、検出温度の応答遅れ特性と同様の応答遅れ特性を検出静電容量に与えるようにする他の算出方法であってもよい。
温度補正手段によって検出温度を補正する場合、実施形態3の算出方法に限定されず、検出温度の応答遅れ特性によって生ずる誤差を打ち消すようにする他の算出方法であってもよい。
【0038】
上述した複数の実施形態では、静電容量補正手段または温度補正手段は、定常状態でもゼロ補正の値を繰り返し算出するものとして説明した。しかし、定常状態では補正動作を停止し、何らかの信号をトリガーとして入力した時のみ、補正動作を行うものであってもよい。
以上説明したように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:エタノール濃度センサ(液体濃度検出装置)
8:静電容量検出手段、9:温度検出手段、63:マイクロコンピュータ
65:静電容量補正手段、66:温度補正手段、67:濃度検出手段
Qd:検出静電容量、Qf1、Qf2:補正静電容量
Td:検出温度、Tf3:補正温度
Cd0、Cd1、Cd2、Cd3:検出濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度の検出対象となる被検出液の静電容量を検出静電容量として検出する静電容量検出手段と、
前記被検出液の温度を検出温度として検出する温度検出手段と、
前記検出静電容量及び前記検出温度に基づき、前記被検出液の濃度を繰り返し検出する濃度検出手段と、
前記被検出液の実際の温度変化に対する前記検出温度の変化の遅れである応答遅れ特性による影響を除去するように、前記濃度検出手段による濃度の検出に先立って、前記検出静電容量及び前記検出温度の少なくとも一方を補正可能な補正手段と、
を備えていることを特徴とする液体濃度検出装置。
【請求項2】
濃度の検出対象となる被検出液の静電容量を検出静電容量として検出する静電容量検出手段と、
前記被検出液の温度を検出温度として検出する温度検出手段と、
前記検出静電容量及び前記検出温度に基づき、前記被検出液の濃度を繰り返し検出する濃度検出手段と、
前記被検出液の実際の温度変化に対する前記検出温度の変化の遅れである応答遅れ特性と同様の応答遅れ特性を与えるように、前記濃度検出手段による濃度の検出に先立って、前記検出静電容量を補正可能な静電容量補正手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体濃度検出装置。
【請求項3】
前記静電容量補正手段によって補正された前記検出静電容量は、所定期間前から現在までの前記検出静電容量の平均値であることを特徴とする請求項2に記載の液体濃度検出装置。
【請求項4】
前記静電容量補正手段によって補正された前記検出静電容量は、前記検出静電容量と時定数とによって規定される一次遅れ曲線に基づいて算出された値であることを特徴とする請求項2に記載の液体濃度検出装置。
【請求項5】
濃度の検出対象となる被検出液の静電容量を検出静電容量として検出する静電容量検出手段と、
前記被検出液の温度を検出温度として検出する温度検出手段と、
前記検出静電容量及び前記検出温度に基づき、前記被検出液の濃度を繰り返し検出する濃度検出手段と、
前記被検出液の実際の温度変化に対する前記検出温度の変化の遅れである応答遅れ特性によって生ずる誤差を打ち消すように、前記濃度検出手段による濃度の検出に先立って、前記検出温度を補正可能な温度補正手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体濃度検出装置。
【請求項6】
前記温度補正手段によって補正された前記検出温度は、前記検出温度と時定数とによって規定される一次遅れの逆特性の曲線に基づいて算出された値であることを特徴とする請求項5に記載の液体濃度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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