説明

液体用温度センサ及びこの製造方法

【課題】 有底円筒状のケースを樹脂により形成しつつ、被検液の温度計測時間の短縮を図った液体用温度センサを提供する。
【解決手段】 一体成型した有底円筒状のケース1と、ケース1内の底部1a側に配された感温素子2と、ケース1内に充填されて少なくとも感温素子2を封止する封止樹脂3とを備え、ケース1の底部1a側を被検液と接触させることで感温素子2が被検液の温度を感知する液体用温度センサAであって、ケース1が樹脂で形成されるとともに、計測時に被検液中に位置される部分が接液部1eとされ、接液部1eの熱容量が8.4×10−3J/K以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の温度を計測するための液体用温度センサ及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体(被検液)の温度を計測するための液体用温度センサには、有底円筒状の樹脂製のケースと、このケース内の底部側に配された感温素子と、ケース内に配され、感温素子と電気的に接続されたリード線と、感温素子とリード線とを封止する封止樹脂とを主な構成要素としたものがある(例えば、特許文献1参照。)。この種の液体用温度センサは、ケースの、感温素子が配された底部側が被検液に接触されることで、被検液の熱がケースと封止樹脂とを通じて感温素子に伝達され、被検液の温度を計測可能とされている。また、従来、封止樹脂には、高粘度の、例えばシリコングリースなどの熱伝導グリースが用いられ、被検液の熱が感温素子に極力速く伝達されるようにしている。
【0003】
一方、樹脂製のケースの被検液と接触する底部側に金属製キャップを取り付け、ケースと一体形成した液体用温度センサがある。この種の液体温度センサは、被検液と接触する底部側に熱伝導率の高い金属製キャップを設けることで、被検液の熱を感温素子に速く伝達させることができ、計測時間を短縮できるという利点を有している(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平07−113692号公報
【特許文献2】実公平02−5037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被検液と感温素子との間に樹脂のみが介在される特許文献1に開示されるような液体用温度センサは、ケースの底部側に金属製キャップを取り付けた液体用温度センサと比較して、被検液の熱が感温素子に伝達されるまでの時間を多く要するため、計測に時間が掛かり、被検液の急な温度変化に追従できないので計測時間を短縮させることが強く望まれていた。
【0005】
例えば、液体用温度センサを管と接続し、管内を流通する液体(被検液)の温度計測に供される場合では、液体の流通を阻害しないように底部側を大きく管内に挿入できない場合がある。このような場合には、必然的に被検液と接触する部分が小さくなるため、さらに被検液の急な温度変化に追従できなくなるので温度計測に多くの時間を要するという問題があった。
【0006】
また、ケースの底部側に金属製キャップを取り付けて計測時間の短縮を可能にした特許文献2に開示されるような液体温度センサでは、金属製キャップと、樹脂製のケースや封止樹脂との接着性を確保することが難しく、金属製キャップが剥離する場合があるという問題があった。金属製キャップが剥離した場合には、被検液が剥離部分に浸入し、感温素子などと接触して漏電を生じさせる恐れがあった。また、剥離部分に空気が侵入した場合には、熱の伝導性が低下し計測時間の延長を招くという問題があった。
【0007】
一方、封止樹脂に熱伝導グリースを使用する場合においては、熱伝導グリースの粘度が大きく、ケース内に充填した状態で気泡が包含されやすいという問題があった。封止樹脂内に混在した気泡は、樹脂と比較して熱伝導率が小さいため、計測時間の延長を招くうえに、計測温度に誤差を生じさせ、精度の低下を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑み、有底円筒状のケースを樹脂により形成しつつ、被検液の温度を計測する時間の短縮を図った液体用温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の液体用温度センサは、有底筒状部分が樹脂で一体成形されたケースと、該ケース内の底部側に配された感温素子と、前記ケース内に充填されて少なくとも前記感温素子を封止する封止樹脂とを備え、前記ケースの底部側を被検液と接触させることで前記感温素子が該被検液の温度に感応する液体用温度センサであって、前記ケースが樹脂で形成されるとともに、計測時に前記被検液中に位置される部分が接液部とされ、該接液部の熱容量が8.4×10−3J/K以下とされている。
【0011】
また、本発明の液体用温度センサは、前記封止樹脂がポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0012】
本発明の液体用温度センサの製造方法は、上記の液体用温度センサの製造方法であって、有底筒状のケースを樹脂により成型した後、前記ケース内に、温度に感応する感温素子を封止するためのポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂の封止樹脂を充填し、前記ケース内に充填された前記封止樹脂の粘度が2Pa・S以下であるときに、前記感温素子を前記ケース内に挿入して底部側に配置しつつ固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体用温度センサによれば、接液部の熱容量が8.4×10−3J/K以下とされていることによって、ケースが樹脂で形成された場合においても、ケース内の感温素子に、金属製キャップを備えた液体用温度センサと同等の速さで被検液の熱を伝達させることができる。これにより、金属製キャップを備えた液体温度センサと同等の時間で被検液の温度を計測することが可能となる。
【0014】
また、本発明の液体用温度センサによれば、少なくとも感温素子を封止する封止樹脂がポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂とされているため、液体用温度センサの製造時に粘度の調整が容易で、従来の高粘度の熱伝導グリースと比較し、ケース内に気泡が混在しない液密な状態で封止することができる。これにより、被検液の熱を確実に感温素子に伝達させることができ、計測精度の向上を図ることが可能となる。
【0015】
さらに、本発明の液体用温度センサの製造方法によれば、封止樹脂が、ポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂とされ、この粘度が2Pa・S以下の低粘度の状態で、感温素子が底部に配置されるため、ケース内に気泡が混在することを防止できる。これにより、被検液の熱を確実に感温素子に伝達させることができ、計測精度の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る液体用温度センサについて説明する。本実施形態は、液体(被検液)の温度を計測する液体用温度センサに関するものであり、管内を流通する液体の温度計測に供される液体用温度センサを一例として示したものである。
【0017】
本実施形態の液体用温度センサAは、図1から図2に示すように、有底円筒状のケース1と、ケース1の底部1a内に配された感温素子2と、ケース1の内部に充填された封止樹脂3と、ケース1の上端1b側が接続されケース1と一体成型された略円筒状のグリップ部4とが主な構成要素とされている。ここで、ケース1およびグリップ部4は、例えばPC(Poly Carbonate)やABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)などの樹脂で形成されたものである。
【0018】
グリップ部4は、円筒状の大径部4aと、円筒状の小径部4bと、大径部4aと小径部4bとの間に配されて互いを連接する円筒状の接続部4cとから構成されている。大径部4aと小径部4bとは、軸線O1に直交する方向の厚さが略同一とされ、大径部4aがグリップ部4の後端4d側に位置され、大径部4aよりも外径が小径となるように形成された小径部4bが、グリップ部4の先端4e側に位置されている。また、小径部4bの内面には、雌ネジの螺刻が施されている。一方、接続部4cは、大径部4aと小径部4bとを連接させつつ、その内面が大径部4aと小径部4bの内面よりも軸線O1側に位置されている。
【0019】
ケース1は、その上端1bが接続部4cの小径部4b側の面に、互いの内孔を連通させつつ接続されて、接続部4cから小径部4bに向かう方向に延設されている。また、ケース1は、底部1aがグリップ部4の先端4eよりも延出方向に突出されている。さらに、ケース1は、上端1bから底部1aに向かって漸次小となるように形成され、このテーパー形状を呈する部分がシール部1cとされている。また、ケース1のシール部1cよりも底部1a側は、シール部1cよりも大きなテーパー角で絞り込まれた段差部1dを介し、軸線O1に平行する外周面が形成されている。また、この外周面の先端に軸線O1に直交する平面を有する底部1aが連接されている。ここで、段差部1dから底部1aまでの部分が、温度計測時に被検液と接触される接液部1eとされ、接液部1eは、段差部1dから底部1aまでの内孔部分も含むものとされる。
【0020】
また、ケース1の内孔およびこれに連通する接続部4cの内孔には、例えばサーミスタ、熱電対の様な白金や銅、鉄などの異なる2つの金属が露出されつつ接続されて、例えば半田などで固定された感温素子2と、感温素子2の2つの金属とそれぞれ電気的に接続された2本のリード線5と、各リード線5の感温素子2と対向する後端に取り付けられた接続端子6と、感温素子2とリード線5と接続端子6の一部とを封止する封止樹脂3とが設けられている。
感温素子2は、ケース1内の底部1a側(接液部1e)に配されている。接続端子6は、円柱棒状に形成された金属であり、リード線5と接続された一端側が封止樹脂3により固定され、他端側が大径部4aの内孔に露出されている。このとき、接続端子6は、その軸線O2がグリップ部4の軸線O1に平行した状態で固定されている。封止樹脂3は、ポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂とされ、ケース1と接続部4cの連通した内孔に充填されて、感温素子2とリード線5と接続端子6の一部とを封止している。ここで、接液部1eは、感温素子2の外面からケース部1の外面までの最短距離が1.2mm以下とされ、その熱容量が8.4×10−3J/K以下とされている。
【0021】
ついで、上記の構成からなる液体用温度センサAの製造方法について説明する。
上記の構成からなる液体用温度センサAは、ケース1とグリップ部4の液体用温度センサAの樹脂製外郭部分を型成型により一体成型したのち、ケース1内に所定量の封止樹脂3を充填する。このとき、封止樹脂3は、ポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂の2液混合型の樹脂であるため、主液と硬化液の粘度を選択し、混合後の粘度が2Pa・S以下となるように調整される。ついで、充填した封止樹脂3の粘度が2Pa・S以下を示す状態で、感温素子2とリード線5と接続端子6とを、感温素子2が接液部1eに位置されるように挿入し、且つ接続端子6の一部が封止樹脂3内に位置するように挿入する。封止樹脂3が硬化し、感温素子2とリード線5と接続端子6の一部が封止された段階で、液体用温度センサAの製造が完了する。このように製造された液体用温度センサAでは、封止樹脂3が低粘度であるため、ケース1内に気泡が残存されることのないものとされる。
【0022】
ついで、上記構成からなる液体用温度センサAを用いて管内を流通する液体の温度を計測する方法について説明する。
【0023】
はじめに、上記の液体用温度センサAを取り付ける管について説明する。図3に示すように、管10には、液体(被検液)が流通する主管部10aに、液体の流通方向(矢印a方向)に軸線O3が直交する円筒状の取付部材10bが設けられている。このとき、取付部材10bの内孔は、主管部10aの内孔と連通されている。また、この取付部材10bは、先端側の外周面に雄ネジが螺刻されているとともに、内壁が、液体用温度センサAのケース1のシール部1cと係合するテーパー形状とされている。
【0024】
このように形成された管10に対して、図4に示すように、液体用温度センサAのケース1を取付部材10bの内孔に挿入するとともに、グリップ部4の小径部4bに形成された雌ネジを、取付部材10bの先端側に形成された雄ネジに螺合させて、強固に液体用温度センサAを取付部材10bと接続する。これにより、液体用温度センサAと管10とが接続される。液体用温度センサAを取付部材10bに接続した段階で、ケース1のテーパー形状の外周面と、取付部材10bの内面とが面接触されて密着される。また、接液部1eが若干量で主管部10a内に突出されて挿入される。これにより、主管部10aを流通する液体が取付部材10bとケース1との間から漏出することのないものとされる。また、主管部10a内に接液部1eのみが若干量で挿入されるため、主管部10aを流通する液体の流れを阻害することがないものとされる。
【0025】
ついで、液体用温度センサAの大径部4a内に露出された2本の接続端子6に図示せぬ温度表示装置を接続して、感温素子2とリード線5と接続端子6と温度表示装置によって1つの直列回路を形成する。そして、被検液の温度計測を開始する。被検液と接触する接液部1eには、被検液の熱が伝達され、ケース1および封止樹脂3を通じて感温素子2にその熱が伝達される。このとき、接液部1eの熱容量が8.4×10−3J/K以下とされているため、その熱の伝達速さが速く、金属製キャップをケースの先端に取り付けた液体用温度センサとほぼ同等の伝達速さとされる。この内容については、後述の実施例で詳細な説明を行なうこととする。
【0026】
被検液の熱が感温素子2に伝達された段階で、感温素子2が、サーミスタの場合は温度変化により電気抵抗値が変化し、熱電対の場合は温度変化により異なる金属の接触電位が生じる。発生した電気抵抗変化と電位差は、各々相当する電流を回路内に流し、この電流値を温度表示装置が検出するとともに、電流値と温度との相関関係から温度を特定し、その温度が表示される。
【0027】
したがって、上記の構成からなる液体用温度センサAにおいては、管10内を流通する液体の流れを阻害しないように挿入量を小さく保持した状態においても、接液部1eの熱容量が8.4×10−3J/K以下とされていることによって、金属製キャップをケースの先端側に取り付けた液体用温度センサと同等の時間で、計測を行なうことができる。
【0028】
また、ケース1とグリップ部4とが同一樹脂材料により一体成型されているため、金属製キャップなどを別途取り付ける液体用温度センサを比較して、容易に製造することが可能とされる。さらに、樹脂と金属との異なる材質のものを接着する必要がないため、剥離などを生じる恐れがなく、計測温度の信頼性を確保することができる。また、接液部1eに金属を使用せず樹脂一体成型なので被検液と感温素子2から温度表示装置までとは絶縁されており、漏電の可能性がない安全なものとされる。
【0029】
また、上記の構成からなる液体用温度センサAにおいては、封止樹脂3にポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂の2液混合型の樹脂を使用しているため、容易に粘度の調整を行なうことができ、且つ封止時の粘度を2Pa・S以下とすることで、ケース1内に気泡を混在させずに液密な状態で封止することが可能となる。これにより、感温素子2に被検液の熱を確実に伝達させることができ、計測精度を向上させることができる。
【0030】
以上、本発明に係る液体用温度センサの実施の形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、感温素子2の外面からケース1の外面までの最短距離が1.2mm以下とされ、その熱容量が8.4×10−3J/K以下とされるものとしたが、接液部1eの熱容量が8.4×10−3J/K以下とされる場合においては、前記最短距離が1.2mmよりも大きく形成されてもよいものである。また、封止樹脂3は感温素子2とリード線5、接続端子6の固定を行なっているが、感温素子2の固定と熱伝導のみを行い、リード線5と接続端子6の固定は他の手段で行なってもよい。
【0031】
また、本実施形態では、例えばケース1の外面がテーパー状に形成されているものとしたが、軸線O1に平行する外面とされていてもよく、接液部1eの熱容量が8.4×10−3J/K以下とされていれば、ケース1の構成が異なるものとされてもよいものである。さらに、管10内を流通する液体の温度を計測するものとして説明を行なったが、これに限定される必要はなく、本発明は、管10内を流通する液体以外の液体の温度計測に適用されてもよいものである。
【実施例1】
【0032】
以下に、本発明の実施例1を図5から図8を参照して具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。また、前記実施形態に示したものと同様の構成については、その詳細な説明を省略する。
【0033】
本実施例は、ケース1の先端部分に金属製キャップ11を取り付けた液体用温度センサBと、ケース1が樹脂により形成されるとともに、接液部1eの熱容量を1.5×10−2J/Kとした液体用温度センサCと、接液部1eの熱容量を8.4×10−3J/K以下とした本発明の液体用温度センサAとを用いて、管内を流通する液体の温度を計測したものである。本実施例は、それぞれの温度計測結果を比較することによって、本発明の液体用温度センサAの優位性を明らかにしたものである。
【0034】
はじめに、使用した各種液体用温度センサA、B、Cについて説明する。
図5から図6は、ケース1の先端側にステンレス製の金属製キャップ11を取り付けた液体用温度センサBを示している。この液体用温度センサBは、樹脂で一体成型されたグリップ部4およびケース1と金属製キャップ11と感温素子2とリード線5と接続端子6と封止樹脂3とを備えている。ケース1は、円筒状に形成されており、グリップ部4の内孔に設けられた接続部4cから軸線O1方向に延出されている。また、ケース1の先端部分は、その肉厚が他の部分よりも薄肉となるように加工されており、底面が平面とされた皿状の金属製キャップ11が取り付けられている。この金属製キャップ11は、ケース1の薄肉に加工された部分に嵌合されるとともに樹脂によって固着されている。また、感温素子2が、金属製キャップ11が形成する底部1a側に配されており、金属製キャップ11のケース1内を含む部分が接液部1eとされている。ちなみに、ステンレス製の金属製キャップ11の熱伝導率は、PC(Poly Carbonate)が0.19W/mkであるのに対して、16.33W/mkであり、熱伝導性に優れたものとされている。
【0035】
図7から図8に示す液体用温度センサCは、図1から図2に示した本発明の液体用温度センサAに対して、ケース1の先端側に段差部1dを設けず、シール部1cのテーパー形状を延出して接液部1eを形成したものである。この液体用温度センサCは、感温素子2の外面からケース1の外面までの最短距離が1.5mmとされており、接液部1eの容積が75.14mmとされている。また、接液部1eの熱容量は、1.5×10−2J/Kとされている。
【0036】
本発明の接液部1eの熱容量を8.4×10−3J/K以下とした液体用温度センサAは、前述の一実施形態に示した図1から図2と同様の構成とされている。一方で、本実施例では、この液体用温度センサAの、感温素子2の外面からケース1の外面までの最短距離が1.2mmとされ、接液部1eの容積が34.32mmとされている。また、このときの接液部1eの熱容量は、8.0×10−3J/Kとされている。
【0037】
以下、本実施例では、金属製キャップ11を取り付けた液体用温度センサBを温度センサB、ケース1が樹脂により形成されるとともに、接液部1eの熱容量を1.5×10−2J/Kとした液体用温度センサCを温度センサC、接液部1eの熱容量を8.4×10−3J/K以下とした本発明の液体用温度センサAを温度センサAと表記する。
【0038】
ついで、試験方法および評価方法について説明する。
本実施例では、冷温水槽に接続された循環回路を形成し、循環回路を構成する管に、各温度センサA、B、Cを取り付け、管内を流通する被検液の温度測定を行なっている。はじめに、第1の試験では、温度センサBと温度センサCとを用いて、被検液温度6.0℃〜40.0℃の範囲で調整した被検液の温度計測を行い、被検液値と安定時の各センサ計測値の誤差の確認を行なっている。また、冷温水槽によって管内を流通する被検液温度を、25.0℃から10.0℃に、30.0℃から20.0℃に、23.0℃から30.0℃に、それぞれ急に変化させた場合に対し、各温度センサB、Cの変化した温度検出が安定するまでに要する時間を測定している。そして、それぞれの測定結果を比較し、温度センサBと温度センサCの温度計測精度および温度計測速さの優劣によって評価を行なっている。ここで、各被検液温度は、冷温水槽内の被検液の温度を校正済水銀棒状温度計で計測した温度としている。
【0039】
また、第2の試験では、温度センサBと、本発明の温度センサAを用いて、冷温水槽によって管内を流通する被検液温度を、23.0℃から31.0℃に、26.0℃から10.0℃にそれぞれ急に変化させた場合に対し、各温度センサA、Bの変化した温度検出が安定するまでに要する時間を測定している。そして、それぞれの測定結果を比較し、温度計測速さの優劣によって評価を行なっている。
【0040】
ついで、上記の試験方法で行なった第1の試験結果を表1および表2に示す。
【0041】
表1および表2は、温度センサBと温度センサCとを用いて行なった試験結果を示しており、表1は、被検液温度6.0℃〜40.0℃の範囲で調整した被検液温度を計測した結果を示している。また、表2は、冷温水槽によって管内を流通する被検液温度を、25.0℃から10.0℃に、30.0℃から20.0℃に、23.0℃から30.0℃に、それぞれ急に変化させた場合の、温度センサBおよび温度センサAの変化した温度検出が安定するまでに要する時間を測定した結果を示している。
【0042】
この結果、表1に示すように、金属製キャップを備える温度センサBでは、被検液温度6.0℃から40.0℃の全範囲で、最大0.5℃の計測誤差が確認され、特に30.0℃以上の温度に対して若干計測誤差が大きくなることが確認された。一方、樹脂製ケースを備えた温度センサCでは、被検液温度が6.0℃から15.0℃の低温被検液に対して、温度センサAよりも大きな計測誤差を示すことが確認されている一方で、20.0℃から40.0℃の被検液温度では、計測誤差が温度センサAと同値であることが確認された。また、温度センサCの全範囲の最大計測誤差は温度センサAと同じ0.5℃であり、この結果から、ケース1が樹脂で形成された場合においても、安定値の計測精度は、金属製キャップを備えたものに対してほぼ同等であることが確認された。
【0043】
【表1】

【0044】
一方、表2に示すように、被検液温度を25.0℃から10.0℃に急に変化させた場合には、温度センサBが20秒で計測誤差0.3℃、60秒で計測誤差0.1℃となるのに対し、温度センサCでは、計測誤差0.3℃となるのに140秒を要することが確認された。また、被検液温度を30.0℃から20.0℃に急に変化させた場合においては、温度センサBが40秒で計測誤差0.1℃に達するのに対して、温度センサCでは、計測誤差0.1℃となるのに120秒を要することが確認された。さらに、被検液温度を23.0℃から30.0℃に急に変化させた場合においても、温度センサBが40秒で計測誤差0.1℃となるのに対し、温度センサCでは、計測誤差0.1℃となるのに80秒を要することが確認された。
【0045】
【表2】

【0046】
以上の結果から、ケース1の先端側に金属製キャップ11を備えた温度センサBと、ケース1が樹脂で形成されている温度センサCとでは、安定した液体の温度を計測する精度はほぼ同等であるといえるが、急な温度変化の場合は、その計測に要する時間は、金属製キャップ11を備えた温度センサBに対し、ケース1が樹脂で形成されている温度センサCが2倍以上の時間を要することが確認された。
【0047】
ついで、第2の試験結果を表3に示す。
【0048】
表3に示すように、被検液温度を23.0℃から31.0℃に急に変化させた場合には、温度センサBが20秒で計測誤差0.1℃となるのに対し、温度センサAでは、同じく20秒で計測誤差0.0℃となることが確認された。また、被検液温度を26.0℃から10.0℃に急に変化させた場合においても、温度センサBが30秒で計測誤差0.1℃に達するのに対して、温度センサAも同じく、30秒で計測誤差0.1℃となることが確認された。
【0049】
【表3】

【0050】
以上の結果から、接液部1eの熱容量を8.4×10−3J/K以下とすることによって、ケース1を樹脂で形成した場合においても、金属製キャップ11を備えた液体用温度センサBと同等の計測精度と計測速さを得られることが実証された。
【実施例2】
【0051】
ついで、以下に本発明の実施例2を具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
本実施例は、樹脂により形成されたケース内に、図1から図2に示した本発明の液体用温度センサAの封止樹脂3を、2液混合型のポリウレタン樹脂とした液体用温度センサと、従来使用されている熱伝導グリースとした液体用温度センサとを用い、管内を流通する液体の温度を計測したものである。本実施例は、それぞれの温度計測結果を比較することによって、本発明の封止樹脂の優位性を明らかにするものである。以下、封止樹脂としてポリウレタン樹脂を使用した液体用温度センサを温度センサD、熱伝導グリースを使用した液体用温度センサを温度センサEとする。
【0053】
ここで、温度センサDは、封止樹脂のポリウレタン樹脂をケース内に充填し、その粘度が2Pa・S以下を示す状態で感温素子やリード線、接続端子を設置したものであり、温度センサEは、熱伝導グリースとしてシリコングリースを使用し、その粘度が2×10Pa・Sとされたものである。
【0054】
ついで、本実施例での試験方法および評価方法について説明する。
実施例1と同様に、冷温水槽に接続された循環回路を形成し、循環回路を構成する管に、各温度センサD、Eを取り付け、管内を流通する被検液の温度計測を行なっている。本実施例では、温度センサDと温度センサEとを用いて、被検液温度6.0℃〜40.0℃の範囲で調整した被検液温度を計測し、被検液温度と計測値の誤差の確認を行なっている。そして、それぞれの測定結果を比較し、温度センサDと温度センサEの温度計測精度及び温度計測速さの優劣によって評価を行なっている。ここで、被検液温度は、実施例1と同様に冷温水槽内の被検液を校正済水銀棒状温度計で計測した温度としている。
【0055】
ついで、上記の試験方法で行なった結果を表4に示す。
【0056】
表4は、被検液温度6.0℃〜40.0℃の範囲で調整した被検液の温度計測を行った結果を示している。この結果、封止樹脂としてポリウレタン樹脂を用いた温度センサDでは、被検液温度6.0℃〜40.0℃の全範囲での計測誤差が−0.4℃から+0.4℃であるのに対し、熱伝導グリースを封止樹脂として用いた温度センサEでは、計測誤差が−1.0℃から+1.0℃であることが確認された。
この計測誤差の相違は、ケース内に充填された各封止樹脂の、特に感温素子周辺に気泡が混在されているか否かが大きく影響している。すなわち、封止時の粘度を2Pa・S以下の低粘度としたポリウレタン樹脂では、ケース内に気泡が混在することなく液密な状態で充填されたのに対し、熱伝導グリースでは、粘度が大きいため、充填時に気泡の混在を許し、且つ気泡の除去が困難となることで残存され、この気泡によってケースから感温素子に伝達される熱の伝導性の悪化を招いたことに起因している。
【0057】
【表4】

【0058】
以上の結果から、従来使用されている熱伝導グリースに対して、封止時の粘度を2Pa・S以下としたポリウレタン樹脂を封止樹脂として使用することにより、液体用温度センサの計測精度の向上が図られることが実証された。
【0059】
なお、本実施例では、封止樹脂としてポリウレタン樹脂を用いた場合の優位性を実証したが、封止時の粘度を2Pa・S以下としたエポキシ樹脂を用いた場合においても同様の効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体用温度センサの斜視図である。
【図2】図1に示した液体用温度センサの断面図である。
【図3】図1に示した液体用温度センサが接続可能な管の断面図である。
【図4】図3に示した管に、図1の液体用温度センサを取り付けた状態を示す断面図である。
【図5】ケースの先端側に金属製キャップを備えた従来の液体温度センサを示す斜視図である。
【図6】図5に示した液体用温度センサの断面図である。
【図7】接液部の熱容量が大きい従来の樹脂製ケースを備える液体用温度センサを示す斜視図である。
【図8】図7に示した液体用温度センサの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ケース
1a 底部
1c シール部
1e 接液部
2 感温素子
3 封止樹脂
4 グリップ部
5 リード線
6 接続端子
10 管
10a 主管部
10b 取付部材
11 金属製キャップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状部分が樹脂で一体成形されたケースと、該ケース内の底部側に配された感温素子と、前記ケース内に充填されて少なくとも前記感温素子を封止する封止樹脂とを備え、前記ケースの底部側を被検液と接触させることで前記感温素子が該被検液の温度に感応する液体用温度センサであって、
前記ケースが樹脂で形成されるとともに、計測時に前記被検液中に位置される部分が接液部とされ、該接液部の熱容量が8.4×10−3J/K以下とされていることを特徴とする液体用温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の液体用温度センサにおいて、
前記封止樹脂は、ポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂であることを特徴とする液体用温度センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体用温度センサの製造方法であって、
有底筒状のケースを樹脂により成型した後、前記ケース内に、温度に感応する感温素子を封止するためのポリウレタン樹脂もしくはエポキシ樹脂の封止樹脂を充填し、前記ケース内に充填された前記封止樹脂の粘度が2Pa・S以下であるときに、前記感温素子を前記ケース内に挿入して底部側に配置しつつ固定することを特徴とする液体用温度センサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−337306(P2006−337306A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165228(P2005−165228)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】