液体緩衝GDF−5製剤
骨形成タンパク質溶液を安定化させるための改善された製剤及び方法が提供される。組成物はGDF−5の酢酸緩衝溶液及び他の賦形剤を含み、その溶液のpHは約4.2〜約5.3であり、それにより保存、操作、及び使用中のGDF−5タンパク質の安定性が改善された生物学的等張溶液を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許仮出願第61/044,518号の非暫定出願である。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、安定性、操作性、及び保存性を改善するための骨形成タンパク質の液体製剤に関する。より具体的には、本発明は、体温での操作中及び送達中のタンパク質安定性が改善された、pHが約4.0〜約5.5の生物学的等張酸性溶液中にGDF−5を含む液体製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
GDF−5は、タンパク質のTGF−βスーパーファミリーのサブクラスである、骨形成タンパク質(BMP)のメンバーである。GDF−5は、Lee(米国特許第5,801,014号)により、最初にマウスから単離されたmGDF−5を含む、数種の変異体及び突然変異体を含む。他の変異体としては、hGDF−5、及びLAP−4としても知られている(Triantfilou,et al Nature Immunology 2,338〜345(2001))、GDF−5のヒト型の特許名(国際公開第95/04819号)であるMP52;また、hGDF−5の対立遺伝子タンパク質変異体である、CDMP−1(国際公開第96/14335号);また、細菌で製造される組換えヒト型である、rhGDF−5(欧州特許第0955313号);また、rhGDF−5の単量体変異体である、rhGDF−5−Ala83;また、hGDF−5/CDMP−1様タンパク質の総称である、BMP−14;また、世界保健機関により指定された国際非専売名であるRadotermin;また、MP52の高分子量タンパク質変異体である、HMW MP52;また、分子間架橋に関与するシステイン残基がアラニンで置換されている単量体バージョンである、C465A;また、N445T、L441P、R438L、及びR438Kを含む、他の活性モノマー及び単一アミノ酸置換突然変異体が挙げられる。本出願の目的に関して、用語「GDF−5」は、GDF−5タンパク質の全ての変異体及び突然変異体を含むことを意味し、rhGDF−5は、119個のアミノ酸を有するその代表的なメンバーである。
【0004】
BMPファミリーの全てのメンバーは、カルボキシ末端活性ドメインを含む共通構造特性を共有し、3つの分子内ジスルフィド結合と1つの分子間ジスルフィド結合を生じさせるシステイン残基の高度に保存されたパターンを共有する。活性型は、単一のファミリーメンバーのジスルフィド結合ホモ二量体、又は2種の異なるメンバーのヘテロ二量体のいずれであってもよい(Massague,et al.Annual Review of Cell Biology 6:957(1990);Sampath,et al.Journal of Biological Chemistry 265:13198(1990);Celeste et al.PNAS 87:9843−47(1990);米国特許第5,011,691号、及び米国特許第5,266,683号参照)。GDF−5タンパク質の適切な折り畳み、及びこれらのジスルフィド結合の形成は、生物学的機能に必須であり、誤った折り畳みがあると、不活性凝集体及び切断断片が生じる。
【0005】
遺伝的に改変された細菌からのBMP産生、具体的にはGDF−5産生には、プラスミドベクターを利用して、大腸菌が高収率で単量体GDF−5タンパク質を産生するように形質転換する(例えば、米国特許第6,764,994号(Hotten)及び米国特許第7,235,527号(Makishima)参照)。この単量体は封入体から得られ、これを精製、及びGDF−5タンパク質のホモ二量体に再折り畳みして、生物学的活性を有するGDF−5タンパク質の二量体を生成する。これに至る工程では、GDF−5タンパク質の分離及び精製を可能にするために、製薬上受容されない種々の物質を利用して溶解度を調節する。
【0006】
一般にタンパク質の分解については数多くの文献に記述されているが、骨形成タンパク質、特にGDF−5の保存性及び溶解度についてはあまり記述されていない。BMP−2は、pHが6未満のとき1mg/mLを上回る濃度で容易に溶解でき、pHが6を上回る場合は、1MNaCl、30%イソプロパノール、又は0.1mMヘパリンを加えることによって溶解度を高めることができる(Ruppert,et al Eur J Biochem 237,295〜302(1996))。GDF−5の溶解度はBMP−2の溶解度より遥かにより限定されており、GDF−5は生理学的pH範囲及び緩衝液でほぼ不溶性である。GDF−5は、極端なpHでのみ水に可溶性である(Honda,et al,Journal of Bioscience and Bioengineering 89(6),582〜589(2000))。GDF−5は、約9.5〜12.0のアルカリ性pHで可溶性であるが、この条件下ではタンパク質が急速に分解するため、GDF−5タンパク質の調製には酸性条件が使用される。
【0007】
骨形成タンパク質の使用は、BMP−2及び骨の成長の場合において数多く報告されている。GDF−5は、筋骨格発達の他の分野において、実際細胞生化学及び細胞制御の他の分野においてBMP−2より活発に研究されている。これら他の分野におけるGDF−5の使用は、種々の疾患及び病状の潜在的治療法に格好の材料を提示する。保存、操作性、及び標的組織への送達に関する大きな課題は、GDF−5タンパク質分子の安定性である。タンパク質を分解から保護するために、バルクGDF−5タンパク質は典型的には、氷点下の温度で保存され、凍結乾燥製品は2〜8℃で保存されるが、多くの用途で液体製剤が必要とされており、例えば、植え込み型薬物送達ポンプにおける液体製品の送達が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
過去に、我々は、60%トレハロースのような多量の賦形剤を用いて、長期間体温でGDF−5タンパク質を保護できることを示した。しかしながら、これらの処方は等張ではなかったため、注入部位に達する前に希釈しなければならなかった。GDF−5タンパク質の生体適合性製剤は、GDF−5タンパク質に妥当な溶解度と同時に安定性を付与するという大きな問題を抱えている。したがって、GDF−5タンパク質溶液を保存、操作、及び送達するための改善された製剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、GDF−5タンパク質分子に安定性を付与するための、体温において改善された保存性及び操作性特性を有する緩衝等張GDF−5タンパク質溶液の製剤を目的とする。本発明の好ましい実施形態は、37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質保持率が約90%である、賦形剤として10%トレハロースを含む、pH4.5〜5の5〜10mM酢酸緩衝液中の0.1mg/mLのrhGDF−5を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図2】HPLCにより証明した、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図3】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1%HO−エクトインを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図4】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1%エクトインを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図5】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図6】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1% GABAを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図7】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース、0.1%タウリン、及び0.01% TEA−HClを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図8】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース、0.1%ベタイン、及び0.1%エクトインを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図9】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図10】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、0.01% TEA−HCl及び0.1%ベタインを含む、pH4.5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図11】90%の主ピーク保持率により証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性を表すHPLCクロマトグラム。
【図12】<70%の主ピーク保持率により証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mMマレイン酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の分解を表すHPLCクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の目的のために、請求する本発明の対象を明らかにかつ簡潔に示すために以下の用語の定義が有用である。本明細書で使用するとき、用語「増殖及び分化因子5」(本明細書では「GDF−5」と称する)は、GDF−5、mGDF−5、hGDF−5、MP−52、LAP−4、ラドテルミン、CDMP−1、C465A、及びrhGDF−5(rhGDF−5は、この群の代表的なメンバーである)が挙げられるが、これらに限定されない、GDF−5タンパク質分子の同義語、異形、及び突然変異を全て含むと理解される。それはまた、生物学的に活性であることが示されている単量体GDF−5タンパク質も含むと理解される。
【0012】
用語「室温」は、本明細書において「RT」又は「R.T.」と略され、普通のオフィス又は実験室の周囲温度を意味するものと理解され、約18〜25℃である。本明細書で使用するとき、用語「体温」は、約34〜約40℃であり、ヒトでは約37℃であると一般に認められている、哺乳類の平均体温を意味すると理解される。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「バルク」は、「バルクタンパク質」又は「バルク溶液」として記述されるとき、約1〜約10mM HCl中のGDF−5の精製溶液で、約−80℃で保存されたものを意味すると理解され、用語「ストック」、「ストックタンパク質」、及び「ストック溶液」と同義である。
【0014】
用語「緩衝剤」は名詞としては、液体に酸又は塩基を添加しても安定なpHを維持する能力を付与する酸及び共役塩基対であるという、文献中における一般的な意味を有すると理解され、動詞としての用語「緩衝する」は、緩衝剤の添加により溶液のpHを維持する作用を説明するものと理解される。代表的な緩衝共役塩基としては、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、及びこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されず、酢酸塩がこの群の代表的なメンバーである。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「等張」、「等張性」、及び「生物学的等張性」は、文献中における一般的な意味を有し、ヒトの血漿と等しい浸透圧モル濃度である、又はそれを有する溶液を指し、約290mosm/L±20mosm/Lの範囲である。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「賦形剤」は、タンパク質組成物に添加される緩衝剤以外の任意の追加成分又は添加剤を意味すると理解される。代表的な賦形剤としては、トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「TMAO」は、トリメチルアミンオキシドを意味すると理解され、本明細書で使用するとき、用語「TEA−HCl」は、トリエチルアミンヒドロクロリドを意味すると理解され、本明細書で使用するとき、用語「GABA」は、γ−アミノ酪酸を意味すると理解される。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「張度調整剤」は、溶液を等張にする目的のために、タンパク質溶液に添加される溶質を意味すると理解される。溶質はまた、溶液の張度調節に加えて、他の化学的又は生物学的性質を有していてもよい。代表的な張度調整剤としては、NaCl等の塩類、並びにトレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、及びマンニトールが挙げられるがこれらに限定されない特定の炭水化物が挙げられる。これら張度調整剤は、賦形剤とも見なされ得ることに留意すべきであるが、全ての賦形剤が張度調整剤として有用である訳ではない。張度に影響を与えるために添加する必要がある幾つかの賦形剤の量は、他の望ましくない効果を生じさせるため、張度調整剤としての有用性が否定される。しかしながら、非常に少量である場合、これら他の賦形剤物質は、溶液の張度に実質的に影響を及ぼすことなく有用かつ所望の特性を付与する。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「HPLC」は、高圧液体クロマトグラフィーの一般的な意味を有すると理解され、高性能液体クロマトグラフィーとしても知られ、また用語「逆相HPLC」又は「rp HPLC」も含む。
【0020】
GDF−5の発見及びそれ以降の組換えヒト型の開発以来、GDF−5は、GDF−5タンパク質構造を保存するため、−80℃において10mM HCl溶媒系中に保存されてきた。GDF−5は、BMP−2などの他のBMPよりも溶解度が低い(BMP−2については数多くの科学文献によって対象とされている)。GDF−5の溶解度及び安定性について入手できる報告はあるとしてもほんのわずかである。GDF−5単量体タンパク質を調製及び単離し、次に、再折り畳みにより二量体にすることは、生理活性を有する二量体の操作及び保存とは異なる、一連の課題及び問題を提示する。生体適合性製剤において成熟した二量体GDF−5タンパク質を取扱う際は、別の一連の問題が生じ、文献ではそのGDF−5二量体タンパク質の溶解度及び安定性に関する物理化学的情報はほとんど明らかにされていない。
【0021】
筋骨格発達におけるGDF−5の活性の広域スペクトル及び種々の組織におけるGDF−5受容体の発現は、療法及び治療の有意義な機会を提示する。治療にGDF−5を用いることの主な欠点の1つは、タンパク質の脆弱性である。我々は、保存、操作、及び送達中のGDF−5タンパク質溶液の安定性を改善するために、多数の異なる緩衝剤系及び賦形剤の使用について研究し、このタンパク質と共に機能する有用な製剤を本明細書に記載する。
【0022】
過去に我々は、60%トレハロースのような多量の賦形剤を用いて、長期間体温でGDF−5タンパク質を保護することができることを示した。しかしながら、これら処方は等張ではなく、使用前に希釈を必要としていた。更に、これら溶液はかなり粘性が高く、操作性に潜在的に問題があった。
【0023】
我々は、種々のGDF−5溶液について幾つかの研究を試みて、特に体温で、生物学的等張性及び安定性を有するGDF−5タンパク質溶液の保存性及び操作性を改善するための緩衝剤系及び賦形剤について調べた。GDF−5タンパク質の安定性を逆相HPLC(本明細書では単に「HPLC」と称する)により決定し、主ピークの保持率をGDF−5タンパク質の安定性又は分解の指標として用いた。我々の過去の結果は、これがGDF−5タンパク質分子の安定性を測定する信頼できる方法であることを示しており、GDF−5タンパク質の分解は、主ピークの減少、並びに酸化、脱アミド化、凝集、切断、及び断片化による異質ピークの出現により容易に観察される。これらの結果はまた、本実験でも確認された。
【0024】
例えば、図11は、37℃で32日間保存した後の、pH5.0の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5のHPLCクロマトグラムを示し、90%の主ピーク保持率を示し、小さな追加ピークも存在する。対照的に、図12は、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mMマレイン酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の分解を示し、わずか66%の主ピーク保持率を示し、追加ピークが存在する。我々はまた、溶液の視覚的透明度に基づいて溶液を評価し、曇り又は濁り溶液はGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集の証拠である。
【0025】
多くの化合物が他のタンパク質製剤で有用であることが示されており、例えば、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、リン酸塩、及び酒石酸塩の緩衝剤系、並びにトレハロース、マンニトール、スクロース、ラフィノース、トリメチルアミンオキシド、トリメチルアミンヒドロクロリド、トリエチルアミンヒドロクロリド、ベータ−アラニン、アラニン、グリシン、タウリン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、L−プロリン、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸ナトリウム、熱ショックタンパク質、デキストラン、シクロデキストラン、グリシン、アルギニン、PEG、プルロニック、脂質、リン脂質、ジアシルグリセロール、ビタミンE−酢酸塩、及びPEG−ビタミンEコハク酸塩等の他の賦形剤が挙げられる。しかしながら、これら賦形剤とGDF−5を共に使用すること若しくはその効果を示す既知の証拠又は文献は存在しない。
【0026】
我々の実験は、GDF−5タンパク質分子の溶解度及び安定性を更に維持する目的で等張溶液を設計した。全ての実験に0.1mg/mLのGDF−5タンパク質濃度を用いた。結果は、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液を用いて、37℃で32日間保存した後、約90%というGDF−5タンパク質のHPLC主ピーク保持率(安定性)を示す透明な液体を維持できることを示した(図1参照)。
【0027】
他の賦形剤の添加は、研究した実験条件下でGDF−5タンパク質の安定性を高めない、又は低下させないが、これら追加賦形剤は、他の条件下で他の効果を与え得る。したがって、最高0.2%、又は場合により更に最高約0.5%のこれら他の賦形剤を添加することは、本研究条件下におけるタンパク質の安定性にほとんど影響を与えることはできないが、他の条件下においては、タンパク質の溶解度又は安定性を高めることができる。酢酸緩衝液のpHを5.0に上げても、GDF−5タンパク質の安定性は低下しなかった(表2参照)。したがって、pH約4.2〜約5.3であり、10%トレハロースを添加して張度を調整した5mMの酢酸緩衝液と、0.1重量%のタウリン、ベタイン、b−アラニン、TMAO、GABA、エクトイン、HO−エクトイン、0.01重量%のTMAO又はTEA−HCl、及びこれらの種々の組み合わせの1種以上の賦形剤との製剤は、37℃で32日間保存した後もGDF−5タンパク質を保護した(表1及び2、図1〜8参照)。
【0028】
次いで、我々は、pH5.5で製剤及び賦形剤の類似のシリーズについて試験したが、これらサンプルは全て曇っており、これはGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集を示した(表3参照)。これらのサンプルに対して、HPLCスキャンは実施しなかった。
【0029】
我々はまた、pH3.9〜5.0の範囲の幾つかの5mMグリシン−HCl緩衝液中の、0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性についても試験した。張度を調整するために10%トレハロースを含む又は含まない、またタウリン、ベタイン、b−アラニン、及びTEA−HClの種々の賦形剤の組み合わせを含むサンプルを試験した。これらのサンプル全てから曇っている溶液が生じたため(表4参照)、HPLCで更には試験しなかった。同様に、我々は、10%トレハロースを含むpH4.4の5mMクエン酸緩衝液、10%トレハロースを含むpH3.5の0.25mM HCl溶液、及びトレハロースを含まないpH3.5の0.25mM HCl溶液を含む、他の緩衝剤系中の0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性についても試験した。これらの溶液は全て曇っていて、これはGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集を示すため、これらのサンプルに対してHPLCスキャンは実施しなかった(表4参照)。したがって、高pHにおける酢酸緩衝剤系は、低pHがGDF−5の安定性を高めることが知られているとき、低pHにおける生体適合性製剤に用いられている他の一般的に知られている緩衝剤より、GDF−5タンパク質分子に優れた安定性及び保護を提供することができる。
【0030】
次いで、我々は、賦形剤の選択された組み合わせを含む、pH4.5及びpH5.0の10mM酢酸緩衝剤系中の0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性について更に試験した。これらの溶液は全て透明であり、37℃で保存した後の試験は、37℃で32日間保存した後の主ピーク保持率が約85%であることにより証明されるように、これらの製剤がGDF−5タンパク質分子を保護することを示した(表5及び6参照)。張度調整剤としてトレハロースの代わりに10%スクロース、及び種々の他の賦形剤を添加したpH5.0の10mM酢酸緩衝液について更に試験したところ、正の結果が得られ、HPLCによる主ピーク保持率は約90%であった(表7参照)。
【0031】
試験した賦形剤及び賦形剤の組み合わせの多くが、試験した時間、温度、pH、及び浸透圧モル濃度の研究条件下で優れた結果を示さなかったが、GDF−5タンパク質の安定性に対して有害な効果も示さなかった。したがって、それらは、特定の生体組織、器官、若しくは細胞種、又は長期間、又は他の温度等の他の系、方法、又は条件において効果を示す可能性もある。
【0032】
本発明の目的は、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中改善されたタンパク質安定性を提供する、生体適合性緩衝剤系中のGDF−5タンパク質製剤を提供することである。本発明の別の目的は、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中安定であるGDF−5タンパク質の等張溶液を提供することである。本発明の別の目的は、pHが約4.3〜約5.2である酢酸緩衝液を有し、更にトレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される張度調整剤を10重量%有するGDF−5タンパク質の等張溶液であって、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中安定である溶液を提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、生物学的等張性を有し、pHが約4.3〜約5.2である酢酸緩衝溶媒系を提供することによりGDF−5タンパク質溶液を保存する方法であって、そのGDF−5タンパク質が、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、最高32日間37℃以下の体温で操作及び保存中GDF−5タンパク質を安定化させる方法を提供することである。
【0034】
下記の実施例は、本発明の性質を説明するための例に過ぎず、範囲を制限するものではない。当業者であれば、本発明の範囲内と見なされ得る他の実施形態が容易に想起されるであろう。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
バルク凍結rhGDF−5タンパク質溶液を一晩解凍させた。ストック溶液の一部をpH4.5の5mM酢酸緩衝液に用い、溶液の張度を等張に調整するための10%トレハロース、及び種々の他の賦形剤を用いて試験し、溶液の透明度及びHPLC分析の主ピークにより証明されるように、GDF−5タンパク質の安定性を評価した。37℃で5、11、22、及び32日間保存した後、データを収集した。緩衝剤のみを含む対照サンプル及び緩衝剤と10%トレハロースとを含むサンプルも実験に含まれていた。この結果を以下の表1に示す。驚くべきことに、緩衝剤のみでも他のサンプルと比べてGDF−5タンパク質はほぼ同程度保護された。試験した他の賦形剤はいずれも、GDF−5タンパク質の安定性の顕著な改善又は低下のどちらも見られなかった。図1は、pH4.5の酢酸緩衝液のみを含む対照サンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で5、11、22、及び32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていた(安定である)ことを示す。図2は同様に、pH4.5の酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた、37℃で32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図3及び図4は同様に、10%トレハロースと、それぞれ0.1%HO−エクトイン又は0.1%エクトインとを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた、37℃で32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。試験した賦形剤の種々の組み合わせ及び得られた結果の完全な一覧については以下の表1参照。全ての値がほぼ等価であることに留意すべきであり、これはpH4.5の酢酸緩衝液が、他の賦形剤が存在しようとしまいと、約90%のGDF−5タンパク質の安定性を維持できることを示す。
【表1】
【0036】
(実施例2)
この実施例では、rhGDF−5を5mM酢酸緩衝液中約0.1mg/mLで配合したが、実施例1のpH4.5の代わりにpH5.0とした。10%トレハロースを添加して張度を調整し、種々の他の賦形剤を表2に指示するように添加した。これらの配合もまた、表2に示すように32日間37℃で安定であった。図5は、pH5.0の5mM酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図6は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース及び0.1%GABAを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図7は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース、0.1%タウリン、及び0.01%TEA−HClを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図8は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース、0.1%ベタイン、及び0.1%エクトインを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。
【表2】
【0037】
(実施例3)
実施例1及び2と同様に、rhGDF−5を10%トレハロース及び他の賦形剤を含むpH5.5の5mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したところ、これらタンパク質溶液は全て曇っていた(表3参照)。更に、pH4.5の5mMクエン酸緩衝液、pH4.5のグリシン−HCl緩衝液、及び0.25mMのHCl溶媒も評価した。これらの配合も表4に示すように曇っていることが観察された。
【表3】
【0038】
(実施例4)
rhGDF−5を、10%トレハロース及び他の賦形剤を含む種々のpHのグリシン及びクエン酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したところ、これらタンパク質溶液は全て曇っていた(表4参照)。
【表4】
【0039】
(実施例5)
実施例1及び2と同様に、rhGDF−5を0.1mg/mLで配合したが、実施例5では、pH4.5の10mM酢酸緩衝液を用いた。サンプルは、張度を調整するために10%トレハロースを添加し、種々の他の賦形剤と共に試験した。これらの配合もまた、表5に示すように32日間37℃で安定であった。図9は、pH4.5の10mM酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約87%保持されていたことを示す。図10は、pH4.5の10mM酢酸緩衝液、0.01%のTEA−HCl、及び0.1%ベタインを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約87%保持されていたことを示す。
【表5】
【0040】
(実施例6)
実施例5と同様に、rhGDF−5を10mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したが、実施例6ではpHを5.0とした。サンプルは張度を調整するために10%トレハロースを添加し、種々の他の賦形剤と共に試験した。これらの配合もまた、表6に示すように32日間37℃で安定であった。
【表6】
【0041】
(実施例7)
実施例6と同様に、rhGDF−5をpH5.0の10mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合した。実施例7のサンプルは、張度を調整するためにトレハロースの代わりに10%スクロースを添加した。全てのサンプルから透明な溶液が得られ、HPLCにより主ピークは約90%保持されていた(表7参照)。
【表7】
【0042】
(実施例8)
実施例2と同様に、10%トレハロースを含むpH5の5mM又は10mM酢酸ナトリウム緩衝液中に高濃度の0.2mg/mLのrhGDF−5製剤を調製した。配合を37、40、及び5℃を含む異なる保存温度下で試験した。安定性の結果を表8に表す。
【表8】
【0043】
全てのサンプルから透明な溶液が得られた。37℃で34日間で保存したサンプルは、HPLCにより決定したとき、約90%のrHGDF−5タンパク質が更に保持されていた。40℃からのrHGDF−5タンパク質の回復率は、約85%の回復率とわずかに低かった。少なくとも7ヶ月間5℃のサンプルで著しい変化は見られなかった。
【0044】
結果は、他の賦形剤があってもなくても酢酸緩衝液中に配合されたrhGDF−5を5℃で長期間保存できることを示す。配合は1ヶ月以上体温下で送達されることができた。等張液rhGDF−5製剤は、既に示されていたよりも5℃及び37℃の高温でより安定である。
【0045】
〔実施の態様〕
(1) 約4.2〜約5.3のpHを有する酢酸緩衝液中のGDF−5タンパク質溶液を含む、組成物。
(2) トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を更に含む、実施態様1に記載の組成物。
(3) 前記溶液が等張である、実施態様2に記載の組成物。
(4) 前記賦形剤がトレハロースである、実施態様2に記載の組成物。
(5) 前記賦形剤がスクロースである、実施態様2に記載の組成物。
(6) TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される賦形剤を更に含む、実施態様2に記載の組成物。
(7) 前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、実施態様6に記載の組成物。
(8) a.GDF−5タンパク質のサンプルを提供する工程と、
b.約4.2〜約5.3のpHを有する緩衝酢酸溶液を添加し、それによりGDF−5の安定化溶液を提供する工程と、
を含む、GDF−5タンパク質の溶液を安定化する方法。
(9) トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記賦形剤が前記タンパク質溶液を等張にするのに十分な量添加される、実施態様9に記載の方法。
【0046】
(11) 前記賦形剤がトレハロースである、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記賦形剤がスクロースである、実施態様9に記載の方法。
(13) TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、実施態様9に記載の方法。
(14) 前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、実施態様13に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許仮出願第61/044,518号の非暫定出願である。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、安定性、操作性、及び保存性を改善するための骨形成タンパク質の液体製剤に関する。より具体的には、本発明は、体温での操作中及び送達中のタンパク質安定性が改善された、pHが約4.0〜約5.5の生物学的等張酸性溶液中にGDF−5を含む液体製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
GDF−5は、タンパク質のTGF−βスーパーファミリーのサブクラスである、骨形成タンパク質(BMP)のメンバーである。GDF−5は、Lee(米国特許第5,801,014号)により、最初にマウスから単離されたmGDF−5を含む、数種の変異体及び突然変異体を含む。他の変異体としては、hGDF−5、及びLAP−4としても知られている(Triantfilou,et al Nature Immunology 2,338〜345(2001))、GDF−5のヒト型の特許名(国際公開第95/04819号)であるMP52;また、hGDF−5の対立遺伝子タンパク質変異体である、CDMP−1(国際公開第96/14335号);また、細菌で製造される組換えヒト型である、rhGDF−5(欧州特許第0955313号);また、rhGDF−5の単量体変異体である、rhGDF−5−Ala83;また、hGDF−5/CDMP−1様タンパク質の総称である、BMP−14;また、世界保健機関により指定された国際非専売名であるRadotermin;また、MP52の高分子量タンパク質変異体である、HMW MP52;また、分子間架橋に関与するシステイン残基がアラニンで置換されている単量体バージョンである、C465A;また、N445T、L441P、R438L、及びR438Kを含む、他の活性モノマー及び単一アミノ酸置換突然変異体が挙げられる。本出願の目的に関して、用語「GDF−5」は、GDF−5タンパク質の全ての変異体及び突然変異体を含むことを意味し、rhGDF−5は、119個のアミノ酸を有するその代表的なメンバーである。
【0004】
BMPファミリーの全てのメンバーは、カルボキシ末端活性ドメインを含む共通構造特性を共有し、3つの分子内ジスルフィド結合と1つの分子間ジスルフィド結合を生じさせるシステイン残基の高度に保存されたパターンを共有する。活性型は、単一のファミリーメンバーのジスルフィド結合ホモ二量体、又は2種の異なるメンバーのヘテロ二量体のいずれであってもよい(Massague,et al.Annual Review of Cell Biology 6:957(1990);Sampath,et al.Journal of Biological Chemistry 265:13198(1990);Celeste et al.PNAS 87:9843−47(1990);米国特許第5,011,691号、及び米国特許第5,266,683号参照)。GDF−5タンパク質の適切な折り畳み、及びこれらのジスルフィド結合の形成は、生物学的機能に必須であり、誤った折り畳みがあると、不活性凝集体及び切断断片が生じる。
【0005】
遺伝的に改変された細菌からのBMP産生、具体的にはGDF−5産生には、プラスミドベクターを利用して、大腸菌が高収率で単量体GDF−5タンパク質を産生するように形質転換する(例えば、米国特許第6,764,994号(Hotten)及び米国特許第7,235,527号(Makishima)参照)。この単量体は封入体から得られ、これを精製、及びGDF−5タンパク質のホモ二量体に再折り畳みして、生物学的活性を有するGDF−5タンパク質の二量体を生成する。これに至る工程では、GDF−5タンパク質の分離及び精製を可能にするために、製薬上受容されない種々の物質を利用して溶解度を調節する。
【0006】
一般にタンパク質の分解については数多くの文献に記述されているが、骨形成タンパク質、特にGDF−5の保存性及び溶解度についてはあまり記述されていない。BMP−2は、pHが6未満のとき1mg/mLを上回る濃度で容易に溶解でき、pHが6を上回る場合は、1MNaCl、30%イソプロパノール、又は0.1mMヘパリンを加えることによって溶解度を高めることができる(Ruppert,et al Eur J Biochem 237,295〜302(1996))。GDF−5の溶解度はBMP−2の溶解度より遥かにより限定されており、GDF−5は生理学的pH範囲及び緩衝液でほぼ不溶性である。GDF−5は、極端なpHでのみ水に可溶性である(Honda,et al,Journal of Bioscience and Bioengineering 89(6),582〜589(2000))。GDF−5は、約9.5〜12.0のアルカリ性pHで可溶性であるが、この条件下ではタンパク質が急速に分解するため、GDF−5タンパク質の調製には酸性条件が使用される。
【0007】
骨形成タンパク質の使用は、BMP−2及び骨の成長の場合において数多く報告されている。GDF−5は、筋骨格発達の他の分野において、実際細胞生化学及び細胞制御の他の分野においてBMP−2より活発に研究されている。これら他の分野におけるGDF−5の使用は、種々の疾患及び病状の潜在的治療法に格好の材料を提示する。保存、操作性、及び標的組織への送達に関する大きな課題は、GDF−5タンパク質分子の安定性である。タンパク質を分解から保護するために、バルクGDF−5タンパク質は典型的には、氷点下の温度で保存され、凍結乾燥製品は2〜8℃で保存されるが、多くの用途で液体製剤が必要とされており、例えば、植え込み型薬物送達ポンプにおける液体製品の送達が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
過去に、我々は、60%トレハロースのような多量の賦形剤を用いて、長期間体温でGDF−5タンパク質を保護できることを示した。しかしながら、これらの処方は等張ではなかったため、注入部位に達する前に希釈しなければならなかった。GDF−5タンパク質の生体適合性製剤は、GDF−5タンパク質に妥当な溶解度と同時に安定性を付与するという大きな問題を抱えている。したがって、GDF−5タンパク質溶液を保存、操作、及び送達するための改善された製剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、GDF−5タンパク質分子に安定性を付与するための、体温において改善された保存性及び操作性特性を有する緩衝等張GDF−5タンパク質溶液の製剤を目的とする。本発明の好ましい実施形態は、37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質保持率が約90%である、賦形剤として10%トレハロースを含む、pH4.5〜5の5〜10mM酢酸緩衝液中の0.1mg/mLのrhGDF−5を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図2】HPLCにより証明した、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図3】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1%HO−エクトインを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図4】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1%エクトインを含む、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図5】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図6】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース及び0.1% GABAを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図7】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース、0.1%タウリン、及び0.01% TEA−HClを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図8】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロース、0.1%ベタイン、及び0.1%エクトインを含む、pH5.0の5mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図9】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図10】HPLCにより証明した、37℃で32日間保存した後の、0.01% TEA−HCl及び0.1%ベタインを含む、pH4.5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性。
【図11】90%の主ピーク保持率により証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH5の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の安定性を表すHPLCクロマトグラム。
【図12】<70%の主ピーク保持率により証明した、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mMマレイン酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の分解を表すHPLCクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の目的のために、請求する本発明の対象を明らかにかつ簡潔に示すために以下の用語の定義が有用である。本明細書で使用するとき、用語「増殖及び分化因子5」(本明細書では「GDF−5」と称する)は、GDF−5、mGDF−5、hGDF−5、MP−52、LAP−4、ラドテルミン、CDMP−1、C465A、及びrhGDF−5(rhGDF−5は、この群の代表的なメンバーである)が挙げられるが、これらに限定されない、GDF−5タンパク質分子の同義語、異形、及び突然変異を全て含むと理解される。それはまた、生物学的に活性であることが示されている単量体GDF−5タンパク質も含むと理解される。
【0012】
用語「室温」は、本明細書において「RT」又は「R.T.」と略され、普通のオフィス又は実験室の周囲温度を意味するものと理解され、約18〜25℃である。本明細書で使用するとき、用語「体温」は、約34〜約40℃であり、ヒトでは約37℃であると一般に認められている、哺乳類の平均体温を意味すると理解される。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「バルク」は、「バルクタンパク質」又は「バルク溶液」として記述されるとき、約1〜約10mM HCl中のGDF−5の精製溶液で、約−80℃で保存されたものを意味すると理解され、用語「ストック」、「ストックタンパク質」、及び「ストック溶液」と同義である。
【0014】
用語「緩衝剤」は名詞としては、液体に酸又は塩基を添加しても安定なpHを維持する能力を付与する酸及び共役塩基対であるという、文献中における一般的な意味を有すると理解され、動詞としての用語「緩衝する」は、緩衝剤の添加により溶液のpHを維持する作用を説明するものと理解される。代表的な緩衝共役塩基としては、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、及びこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されず、酢酸塩がこの群の代表的なメンバーである。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「等張」、「等張性」、及び「生物学的等張性」は、文献中における一般的な意味を有し、ヒトの血漿と等しい浸透圧モル濃度である、又はそれを有する溶液を指し、約290mosm/L±20mosm/Lの範囲である。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「賦形剤」は、タンパク質組成物に添加される緩衝剤以外の任意の追加成分又は添加剤を意味すると理解される。代表的な賦形剤としては、トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「TMAO」は、トリメチルアミンオキシドを意味すると理解され、本明細書で使用するとき、用語「TEA−HCl」は、トリエチルアミンヒドロクロリドを意味すると理解され、本明細書で使用するとき、用語「GABA」は、γ−アミノ酪酸を意味すると理解される。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「張度調整剤」は、溶液を等張にする目的のために、タンパク質溶液に添加される溶質を意味すると理解される。溶質はまた、溶液の張度調節に加えて、他の化学的又は生物学的性質を有していてもよい。代表的な張度調整剤としては、NaCl等の塩類、並びにトレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、及びマンニトールが挙げられるがこれらに限定されない特定の炭水化物が挙げられる。これら張度調整剤は、賦形剤とも見なされ得ることに留意すべきであるが、全ての賦形剤が張度調整剤として有用である訳ではない。張度に影響を与えるために添加する必要がある幾つかの賦形剤の量は、他の望ましくない効果を生じさせるため、張度調整剤としての有用性が否定される。しかしながら、非常に少量である場合、これら他の賦形剤物質は、溶液の張度に実質的に影響を及ぼすことなく有用かつ所望の特性を付与する。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「HPLC」は、高圧液体クロマトグラフィーの一般的な意味を有すると理解され、高性能液体クロマトグラフィーとしても知られ、また用語「逆相HPLC」又は「rp HPLC」も含む。
【0020】
GDF−5の発見及びそれ以降の組換えヒト型の開発以来、GDF−5は、GDF−5タンパク質構造を保存するため、−80℃において10mM HCl溶媒系中に保存されてきた。GDF−5は、BMP−2などの他のBMPよりも溶解度が低い(BMP−2については数多くの科学文献によって対象とされている)。GDF−5の溶解度及び安定性について入手できる報告はあるとしてもほんのわずかである。GDF−5単量体タンパク質を調製及び単離し、次に、再折り畳みにより二量体にすることは、生理活性を有する二量体の操作及び保存とは異なる、一連の課題及び問題を提示する。生体適合性製剤において成熟した二量体GDF−5タンパク質を取扱う際は、別の一連の問題が生じ、文献ではそのGDF−5二量体タンパク質の溶解度及び安定性に関する物理化学的情報はほとんど明らかにされていない。
【0021】
筋骨格発達におけるGDF−5の活性の広域スペクトル及び種々の組織におけるGDF−5受容体の発現は、療法及び治療の有意義な機会を提示する。治療にGDF−5を用いることの主な欠点の1つは、タンパク質の脆弱性である。我々は、保存、操作、及び送達中のGDF−5タンパク質溶液の安定性を改善するために、多数の異なる緩衝剤系及び賦形剤の使用について研究し、このタンパク質と共に機能する有用な製剤を本明細書に記載する。
【0022】
過去に我々は、60%トレハロースのような多量の賦形剤を用いて、長期間体温でGDF−5タンパク質を保護することができることを示した。しかしながら、これら処方は等張ではなく、使用前に希釈を必要としていた。更に、これら溶液はかなり粘性が高く、操作性に潜在的に問題があった。
【0023】
我々は、種々のGDF−5溶液について幾つかの研究を試みて、特に体温で、生物学的等張性及び安定性を有するGDF−5タンパク質溶液の保存性及び操作性を改善するための緩衝剤系及び賦形剤について調べた。GDF−5タンパク質の安定性を逆相HPLC(本明細書では単に「HPLC」と称する)により決定し、主ピークの保持率をGDF−5タンパク質の安定性又は分解の指標として用いた。我々の過去の結果は、これがGDF−5タンパク質分子の安定性を測定する信頼できる方法であることを示しており、GDF−5タンパク質の分解は、主ピークの減少、並びに酸化、脱アミド化、凝集、切断、及び断片化による異質ピークの出現により容易に観察される。これらの結果はまた、本実験でも確認された。
【0024】
例えば、図11は、37℃で32日間保存した後の、pH5.0の10mM酢酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5のHPLCクロマトグラムを示し、90%の主ピーク保持率を示し、小さな追加ピークも存在する。対照的に、図12は、37℃で32日間保存した後の、10%トレハロースを含む、pH4.5の5mMマレイン酸緩衝溶液中の0.1mg/mLのrhGDF−5の分解を示し、わずか66%の主ピーク保持率を示し、追加ピークが存在する。我々はまた、溶液の視覚的透明度に基づいて溶液を評価し、曇り又は濁り溶液はGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集の証拠である。
【0025】
多くの化合物が他のタンパク質製剤で有用であることが示されており、例えば、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、リン酸塩、及び酒石酸塩の緩衝剤系、並びにトレハロース、マンニトール、スクロース、ラフィノース、トリメチルアミンオキシド、トリメチルアミンヒドロクロリド、トリエチルアミンヒドロクロリド、ベータ−アラニン、アラニン、グリシン、タウリン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、L−プロリン、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸ナトリウム、熱ショックタンパク質、デキストラン、シクロデキストラン、グリシン、アルギニン、PEG、プルロニック、脂質、リン脂質、ジアシルグリセロール、ビタミンE−酢酸塩、及びPEG−ビタミンEコハク酸塩等の他の賦形剤が挙げられる。しかしながら、これら賦形剤とGDF−5を共に使用すること若しくはその効果を示す既知の証拠又は文献は存在しない。
【0026】
我々の実験は、GDF−5タンパク質分子の溶解度及び安定性を更に維持する目的で等張溶液を設計した。全ての実験に0.1mg/mLのGDF−5タンパク質濃度を用いた。結果は、pH4.5の5mM酢酸緩衝溶液を用いて、37℃で32日間保存した後、約90%というGDF−5タンパク質のHPLC主ピーク保持率(安定性)を示す透明な液体を維持できることを示した(図1参照)。
【0027】
他の賦形剤の添加は、研究した実験条件下でGDF−5タンパク質の安定性を高めない、又は低下させないが、これら追加賦形剤は、他の条件下で他の効果を与え得る。したがって、最高0.2%、又は場合により更に最高約0.5%のこれら他の賦形剤を添加することは、本研究条件下におけるタンパク質の安定性にほとんど影響を与えることはできないが、他の条件下においては、タンパク質の溶解度又は安定性を高めることができる。酢酸緩衝液のpHを5.0に上げても、GDF−5タンパク質の安定性は低下しなかった(表2参照)。したがって、pH約4.2〜約5.3であり、10%トレハロースを添加して張度を調整した5mMの酢酸緩衝液と、0.1重量%のタウリン、ベタイン、b−アラニン、TMAO、GABA、エクトイン、HO−エクトイン、0.01重量%のTMAO又はTEA−HCl、及びこれらの種々の組み合わせの1種以上の賦形剤との製剤は、37℃で32日間保存した後もGDF−5タンパク質を保護した(表1及び2、図1〜8参照)。
【0028】
次いで、我々は、pH5.5で製剤及び賦形剤の類似のシリーズについて試験したが、これらサンプルは全て曇っており、これはGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集を示した(表3参照)。これらのサンプルに対して、HPLCスキャンは実施しなかった。
【0029】
我々はまた、pH3.9〜5.0の範囲の幾つかの5mMグリシン−HCl緩衝液中の、0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性についても試験した。張度を調整するために10%トレハロースを含む又は含まない、またタウリン、ベタイン、b−アラニン、及びTEA−HClの種々の賦形剤の組み合わせを含むサンプルを試験した。これらのサンプル全てから曇っている溶液が生じたため(表4参照)、HPLCで更には試験しなかった。同様に、我々は、10%トレハロースを含むpH4.4の5mMクエン酸緩衝液、10%トレハロースを含むpH3.5の0.25mM HCl溶液、及びトレハロースを含まないpH3.5の0.25mM HCl溶液を含む、他の緩衝剤系中の0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性についても試験した。これらの溶液は全て曇っていて、これはGDF−5タンパク質の低溶解度及び/又は凝集を示すため、これらのサンプルに対してHPLCスキャンは実施しなかった(表4参照)。したがって、高pHにおける酢酸緩衝剤系は、低pHがGDF−5の安定性を高めることが知られているとき、低pHにおける生体適合性製剤に用いられている他の一般的に知られている緩衝剤より、GDF−5タンパク質分子に優れた安定性及び保護を提供することができる。
【0030】
次いで、我々は、賦形剤の選択された組み合わせを含む、pH4.5及びpH5.0の10mM酢酸緩衝剤系中の0.1mg/mLのGDF−5タンパク質溶液の安定性について更に試験した。これらの溶液は全て透明であり、37℃で保存した後の試験は、37℃で32日間保存した後の主ピーク保持率が約85%であることにより証明されるように、これらの製剤がGDF−5タンパク質分子を保護することを示した(表5及び6参照)。張度調整剤としてトレハロースの代わりに10%スクロース、及び種々の他の賦形剤を添加したpH5.0の10mM酢酸緩衝液について更に試験したところ、正の結果が得られ、HPLCによる主ピーク保持率は約90%であった(表7参照)。
【0031】
試験した賦形剤及び賦形剤の組み合わせの多くが、試験した時間、温度、pH、及び浸透圧モル濃度の研究条件下で優れた結果を示さなかったが、GDF−5タンパク質の安定性に対して有害な効果も示さなかった。したがって、それらは、特定の生体組織、器官、若しくは細胞種、又は長期間、又は他の温度等の他の系、方法、又は条件において効果を示す可能性もある。
【0032】
本発明の目的は、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中改善されたタンパク質安定性を提供する、生体適合性緩衝剤系中のGDF−5タンパク質製剤を提供することである。本発明の別の目的は、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中安定であるGDF−5タンパク質の等張溶液を提供することである。本発明の別の目的は、pHが約4.3〜約5.2である酢酸緩衝液を有し、更にトレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される張度調整剤を10重量%有するGDF−5タンパク質の等張溶液であって、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、体温で操作及び保存中安定である溶液を提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、生物学的等張性を有し、pHが約4.3〜約5.2である酢酸緩衝溶媒系を提供することによりGDF−5タンパク質溶液を保存する方法であって、そのGDF−5タンパク質が、HPLCの主ピークが少なくとも80%保持されることにより証明されるように、最高32日間37℃以下の体温で操作及び保存中GDF−5タンパク質を安定化させる方法を提供することである。
【0034】
下記の実施例は、本発明の性質を説明するための例に過ぎず、範囲を制限するものではない。当業者であれば、本発明の範囲内と見なされ得る他の実施形態が容易に想起されるであろう。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
バルク凍結rhGDF−5タンパク質溶液を一晩解凍させた。ストック溶液の一部をpH4.5の5mM酢酸緩衝液に用い、溶液の張度を等張に調整するための10%トレハロース、及び種々の他の賦形剤を用いて試験し、溶液の透明度及びHPLC分析の主ピークにより証明されるように、GDF−5タンパク質の安定性を評価した。37℃で5、11、22、及び32日間保存した後、データを収集した。緩衝剤のみを含む対照サンプル及び緩衝剤と10%トレハロースとを含むサンプルも実験に含まれていた。この結果を以下の表1に示す。驚くべきことに、緩衝剤のみでも他のサンプルと比べてGDF−5タンパク質はほぼ同程度保護された。試験した他の賦形剤はいずれも、GDF−5タンパク質の安定性の顕著な改善又は低下のどちらも見られなかった。図1は、pH4.5の酢酸緩衝液のみを含む対照サンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で5、11、22、及び32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていた(安定である)ことを示す。図2は同様に、pH4.5の酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた、37℃で32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図3及び図4は同様に、10%トレハロースと、それぞれ0.1%HO−エクトイン又は0.1%エクトインとを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた、37℃で32日後にGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。試験した賦形剤の種々の組み合わせ及び得られた結果の完全な一覧については以下の表1参照。全ての値がほぼ等価であることに留意すべきであり、これはpH4.5の酢酸緩衝液が、他の賦形剤が存在しようとしまいと、約90%のGDF−5タンパク質の安定性を維持できることを示す。
【表1】
【0036】
(実施例2)
この実施例では、rhGDF−5を5mM酢酸緩衝液中約0.1mg/mLで配合したが、実施例1のpH4.5の代わりにpH5.0とした。10%トレハロースを添加して張度を調整し、種々の他の賦形剤を表2に指示するように添加した。これらの配合もまた、表2に示すように32日間37℃で安定であった。図5は、pH5.0の5mM酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図6は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース及び0.1%GABAを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図7は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース、0.1%タウリン、及び0.01%TEA−HClを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。図8は、pH5.0の酢酸緩衝液、10%トレハロース、0.1%ベタイン、及び0.1%エクトインを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約90%保持されていたことを示す。
【表2】
【0037】
(実施例3)
実施例1及び2と同様に、rhGDF−5を10%トレハロース及び他の賦形剤を含むpH5.5の5mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したところ、これらタンパク質溶液は全て曇っていた(表3参照)。更に、pH4.5の5mMクエン酸緩衝液、pH4.5のグリシン−HCl緩衝液、及び0.25mMのHCl溶媒も評価した。これらの配合も表4に示すように曇っていることが観察された。
【表3】
【0038】
(実施例4)
rhGDF−5を、10%トレハロース及び他の賦形剤を含む種々のpHのグリシン及びクエン酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したところ、これらタンパク質溶液は全て曇っていた(表4参照)。
【表4】
【0039】
(実施例5)
実施例1及び2と同様に、rhGDF−5を0.1mg/mLで配合したが、実施例5では、pH4.5の10mM酢酸緩衝液を用いた。サンプルは、張度を調整するために10%トレハロースを添加し、種々の他の賦形剤と共に試験した。これらの配合もまた、表5に示すように32日間37℃で安定であった。図9は、pH4.5の10mM酢酸緩衝液及び10%トレハロースを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これは37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約87%保持されていたことを示す。図10は、pH4.5の10mM酢酸緩衝液、0.01%のTEA−HCl、及び0.1%ベタインを含むサンプルのHPLCの主ピーク(%)及び濃度回復率(%)のグラフを示し、これもまた37℃で32日間保存した後のGDF−5タンパク質が約87%保持されていたことを示す。
【表5】
【0040】
(実施例6)
実施例5と同様に、rhGDF−5を10mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合したが、実施例6ではpHを5.0とした。サンプルは張度を調整するために10%トレハロースを添加し、種々の他の賦形剤と共に試験した。これらの配合もまた、表6に示すように32日間37℃で安定であった。
【表6】
【0041】
(実施例7)
実施例6と同様に、rhGDF−5をpH5.0の10mM酢酸緩衝液中0.1mg/mLで配合した。実施例7のサンプルは、張度を調整するためにトレハロースの代わりに10%スクロースを添加した。全てのサンプルから透明な溶液が得られ、HPLCにより主ピークは約90%保持されていた(表7参照)。
【表7】
【0042】
(実施例8)
実施例2と同様に、10%トレハロースを含むpH5の5mM又は10mM酢酸ナトリウム緩衝液中に高濃度の0.2mg/mLのrhGDF−5製剤を調製した。配合を37、40、及び5℃を含む異なる保存温度下で試験した。安定性の結果を表8に表す。
【表8】
【0043】
全てのサンプルから透明な溶液が得られた。37℃で34日間で保存したサンプルは、HPLCにより決定したとき、約90%のrHGDF−5タンパク質が更に保持されていた。40℃からのrHGDF−5タンパク質の回復率は、約85%の回復率とわずかに低かった。少なくとも7ヶ月間5℃のサンプルで著しい変化は見られなかった。
【0044】
結果は、他の賦形剤があってもなくても酢酸緩衝液中に配合されたrhGDF−5を5℃で長期間保存できることを示す。配合は1ヶ月以上体温下で送達されることができた。等張液rhGDF−5製剤は、既に示されていたよりも5℃及び37℃の高温でより安定である。
【0045】
〔実施の態様〕
(1) 約4.2〜約5.3のpHを有する酢酸緩衝液中のGDF−5タンパク質溶液を含む、組成物。
(2) トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を更に含む、実施態様1に記載の組成物。
(3) 前記溶液が等張である、実施態様2に記載の組成物。
(4) 前記賦形剤がトレハロースである、実施態様2に記載の組成物。
(5) 前記賦形剤がスクロースである、実施態様2に記載の組成物。
(6) TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される賦形剤を更に含む、実施態様2に記載の組成物。
(7) 前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、実施態様6に記載の組成物。
(8) a.GDF−5タンパク質のサンプルを提供する工程と、
b.約4.2〜約5.3のpHを有する緩衝酢酸溶液を添加し、それによりGDF−5の安定化溶液を提供する工程と、
を含む、GDF−5タンパク質の溶液を安定化する方法。
(9) トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記賦形剤が前記タンパク質溶液を等張にするのに十分な量添加される、実施態様9に記載の方法。
【0046】
(11) 前記賦形剤がトレハロースである、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記賦形剤がスクロースである、実施態様9に記載の方法。
(13) TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、実施態様9に記載の方法。
(14) 前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、実施態様13に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約4.2〜約5.3のpHを有する酢酸緩衝液中のGDF−5タンパク質溶液を含む、組成物。
【請求項2】
トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶液が等張である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記賦形剤がトレハロースである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記賦形剤がスクロースである、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される賦形剤を更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
a.GDF−5タンパク質のサンプルを提供する工程と、
b.約4.2〜約5.3のpHを有する緩衝酢酸溶液を添加し、それによりGDF−5の安定化溶液を提供する工程と、
を含む、GDF−5タンパク質の溶液を安定化する方法。
【請求項9】
トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記賦形剤が前記タンパク質溶液を等張にするのに十分な量添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記賦形剤がトレハロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記賦形剤がスクロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項1】
約4.2〜約5.3のpHを有する酢酸緩衝液中のGDF−5タンパク質溶液を含む、組成物。
【請求項2】
トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶液が等張である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記賦形剤がトレハロースである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記賦形剤がスクロースである、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される賦形剤を更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
a.GDF−5タンパク質のサンプルを提供する工程と、
b.約4.2〜約5.3のpHを有する緩衝酢酸溶液を添加し、それによりGDF−5の安定化溶液を提供する工程と、
を含む、GDF−5タンパク質の溶液を安定化する方法。
【請求項9】
トレハロース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンニトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記賦形剤が前記タンパク質溶液を等張にするのに十分な量添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記賦形剤がトレハロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記賦形剤がスクロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
TMAO、TEA−HCl、タウリン、β−アラニン、ベタイン、エクトイン、HO−エクトイン、GABA、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の賦形剤を添加する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記賦形剤が約0.01〜約0.5重量%の量存在する、請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−516608(P2011−516608A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505094(P2011−505094)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/039925
【国際公開番号】WO2009/129101
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(509263146)アドバンスト・テクノロジーズ・アンド・リジェネレイティブ・メディスン・エルエルシー (17)
【氏名又は名称原語表記】Advanced Technologies and Regenerative Medicine, LLC
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, MA 02767, United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/039925
【国際公開番号】WO2009/129101
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(509263146)アドバンスト・テクノロジーズ・アンド・リジェネレイティブ・メディスン・エルエルシー (17)
【氏名又は名称原語表記】Advanced Technologies and Regenerative Medicine, LLC
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, MA 02767, United States of America
【Fターム(参考)】
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