説明

液体調味料の製造方法及び液体調味料

【課題】大豆及び小麦を主原料とし食塩を殆ど含まず風味及び香りに優れた液体調味料を短時間に製造する液体調味料の製造方法及びこの液体調味料を提供する。
【解決手段】大豆及び小麦を主原料とし製造された醤油麹と水との混合物を、食塩を全く添加することなく温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造する。さらに醤油麹と水の混合物に酵素を添加し処理することで、味、香りに優れ回収率の高い液体調味料を得ることができる。酵素には、セルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼなどを使用することが可能であり、2種以上を混合して使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩分を殆ど含まず風味及び香りに優れた液体調味料及びこれを短時間に製造する液体調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油には、濃口醤油、薄口醤油、たまり醤油などがあり、種々の醤油が製造販売されていることは周知の通りである。醤油は一般的には、蒸した大豆と小麦などの穀類を混合し、これに種麹を加え醤油麹としさらに食塩水を加え発酵させた後、ろ過することで得られる。濃口醤油などには、食塩が15重量%程度含まれていることから、食塩の過大な摂取を抑制することを目的に塩分濃度の少ない減塩醤油も多く販売されている。塩分濃度の少ない醤油の製造方法も種々の方法が検討されており、例えば食塩濃度が低く、風味が良好な低食塩醤油を得るため、減食塩醤油に所定量の塩化カリウム及びγアミノ酸を添加する方法などが開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
醤油を始め発酵法において、食塩を添加する理由は有害微生物の増殖による腐敗の抑制又は防止にあるとし、食塩を添加することなく調味料を製造する方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。この方法は、蛋白質分解酵素を含有又は添加した蛋白質原料としての食品素材を所定の温度、圧力に保持することで微生物の増殖を抑制しながら酵素の作用を促進し、短時間で調味料を製造すると言うものである。
【特許文献1】特開2006−87328号公報
【特許文献2】特開2001−120219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術を利用することで、塩分濃度の少ない液体調味料を得ることは可能であるが、従来の醤油の製造法と類似の工程を経て製造されるため時間がかかる。特許文献2に記載の技術は、微生物の増殖を抑制しながら酵素を効率よく蛋白質原料としての食品素材に作用させ、短時間内に食品素材を分解させる方法であるが、食品素材を短時間内に分解できることと得られる分解液が調味料として利用することができるか否かは別の問題である。特許文献2の明細書には、小麦蛋白質を所定の温度、圧力に保持することで流動性のない粘りのある物質が高圧処理後は粘りがなく、流動性のある液体に変化したとの実施例が記載されているが、この液体の味などの評価結果は記載されておらず、得られた液体が調味料として利用することができるか否かは不明である。本発明者らが大豆、小麦を用いて同様の実験したところ、分解液は得られたものの得られた分解液は風味及び香りも弱く、そのまま液体調味料として使用できるものではなかった。食品素材によっては、得られた分解液をそのまま液体調味料として使用することが可能と推察されるけれども、特許文献2に記載の技術を使用することで全ての食品素材について風味及び香りに優れた液体調味料が得られるわけでない。
【0005】
本発明の目的は、大豆及び小麦を主原料とし食塩を殆ど含まず風味及び香りに優れた液体調味料を短時間に製造する液体調味料の製造方法及びこの液体調味料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の液体調味料の製造方法は、大豆及び小麦を主原料とし製造された醤油麹と水との混合物を、食塩を全く添加することなく温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の液体調味料の製造方法は、請求項1に記載の液体調味料の製造方法において、さらに前記醤油麹と水との混合物に食塩を全く添加することなく酵素を添加し、これら混合物を温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の液体調味料は、請求項2に記載の方法で製造された液体調味料であって、アミノ酸を8.0重量%以上、グルタミン酸を2.0重量%以上含有する液体調味料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体調味料の製造方法を用いることにより、大豆及び小麦を主原料とし食塩を殆ど含まず風味及び香りに優れた液体調味料を短時間に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の液体調味料の製造方法は、大豆及び小麦を主原料とし製造された醤油麹と水との混合物を、食塩を全く添加することなく温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造する方法である。ここで使用する醤油麹は、大豆及び小麦を主原料とし製造された醤油麹であって、その製造方法も従来から一般的に行われている方法で製造された醤油麹であり、特殊な醤油麹ではない。例えば蒸煮大豆と割砕小麦とを混合した後、これに種麹を添加混合し、これらを高湿度下で3〜4日程度培養することで醤油麹を得ることができ、このような醤油麹を使用することができる。醤油麹と水との混合物に温度40〜60℃及び圧力80〜100MPaを加え保持することで、有害微生物の増殖を抑制し、かつ酵素を効率的に作用させることが可能となり、醤油麹と水との混合物に食塩を全く添加することなく液体調味料を製造することができる。処理時間(加圧時間)は特に限定されないけれども、後述の実施例から分かるように24〜48時間程度でよい。これにより食塩を殆ど含まずかつ風味及び香りに優れた液体調味料を短時間で得ることができる。本発明の液体調味料の製造方法を使用することで、従来の醤油製造工程に比較して大幅な工程の短縮が可能となる。また食塩を殆ど含まないので、顧客ニーズに即応した調味料を提供することができる。さらに醤油麹に種々の食品原料を追加することにより、バラエティに富んだ液体調味料を製造することもできる。
【0011】
さらに醤油麹と水との混合物に食塩を全く添加することなく酵素を添加し、これらを温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持することで、より風味及び香りに優れる液体調味料を得ることができる。また醤油麹と水との混合物に酵素を添加し、処理することで液体調味料の収率を高めることができる。ここで使用可能な酵素は、セルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、ヘミセルラーゼ、ラクターゼであり、これらは単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。また2種以上の酵素を混合して使用する場合の混合割合は、特定の割合に限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
原料には醤油麹(中国醤油醸造協同組合より入手した大豆、小麦を主原料とする標準的な醤油麹)を使用した。ミルミキサーで粉砕した醤油麹50gに、純水110gを加え十分に撹拌混合した。この混合物を、柔軟性を有するプラスチック製の袋に充填し、袋内の空気を追い出し、袋を封じた。これを加圧装置にセットし、温度50℃、圧力98〜100MPaの条件下で24時間保持した。加圧装置には、温度及び圧力調節機能を備える株式会社東洋高圧製の加圧装置(商品名:「まるごとエキス」装置、タイプ10L)を使用した。その後、加圧処理を終了し試料を取り出した後、85〜90℃で約10分間加熱処理を行った。このようにして得られた処理物の評価は、(1)Brix値の測定、(2)固形分量の測定、(3)味の評価、(4)香りの評価で行った。Brix値測定は、屈折糖度計(ATAGO製の屈折計)を用いて行った。処理物中の固形分の量は、試料10mlを先細試験管であるスピッツ管に充填し、遠心分離機(回転数:4000rpm、時間:20分)で固液分離操作を行い、容積割合から求めた。味及び香りの評価は、官能試験により行った。
【0013】
(実施例2)
処理時間が48である以外、他の条件は実施例1と同じである。
【0014】
(実施例3)
酵素を添加した実験を行った。ミルミキサーで粉砕した醤油麹50gに、純水110g、セルラーゼ(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素A)3.2g、プロテアーゼ(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素E)3.2gを加え十分に撹拌混合した。各酵素の添加割合は、醤油麹+純水に対して重量割合で2%とした。これを原料とし以下実施例1と同様の処理、評価を行った。なお処理時間は48時間とした。
【0015】
(比較例1)
醤油麹に換え大豆及び小麦を使用した。3時間水に浸漬させた後に30分間蒸し、その後ミルミキサーで粉砕した大豆(市販されている一般的な大豆)25gと、醤油醸造メーカから入手した醤油麹製造に使用する加熱処理し粉砕された小麦の粉末25gに純水110gを加え十分に撹拌混合した。これを原料とし以下実施例1と同様の処理、評価を行った。なお処理時間は48時間とした。
【0016】
(比較例2)
醤油麹に換え大豆及び小麦を使用し、さらに酵素を添加した実験を行った。3時間水に浸漬させた後に30分間蒸し、その後ミルミキサーで粉砕した大豆(市販されている一般的な大豆)25gと、醤油醸造メーカから入手した醤油麹製造に使用する加熱処理し粉砕された小麦の粉末25gに純水110g、セルラーゼ(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素A)3.2g、プロテアーゼ(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素E)3.2gを加え十分に撹拌混合した。各酵素の添加割合は、大豆+小麦+純水に対して重量割合で2%とした。これを原料とし以下実施例1と同様の処理、評価を行った。なお処理時間は48時間とした。
【0017】
(実施例1〜実施例3、比較例1、2の評価結果)
表1に、実施例1〜3、比較例1、2の実験条件及び処理物の評価結果を示した。表1中、Brix値は、処理物中の糖度、濃度を表す指標であって、値が高いほど糖度、濃度が高いことを示す。沈降率は、遠心分離操作後の試料容量に対する液体の容量割合を示し、値が大きいほど固形分量が少なく、試料の分解率が高いことを示す。味及び香りは五段階で評価し、値の大きいものほど味又は香りがよい。表1に示すように醤油麹を原料とした処理物は、大豆及び小麦を原料した場合に比べ味、香りもよく、Brix値も高かった。実施例1及び実施例2の処理物は味及び香りも良く、微かに酸味があった。実施例1と実施例2とでは、実施例2の方が若干香りがよかった。酵素を添加した実施例3の処理物は、味に甘味があり香りも強く最も評価が高かった。実施例1〜3の処理物中の液体は、液体調味料として十分に使用することが可能と評価された。これらに対して比較例1及び比較例2の処理物は、味、香りとも弱く、かつ実施例1〜3の処理物のものと異なり大豆そのものの味、香りがし、液体調味料として使用できないと評価された。酵素を添加していない原料で実施例と比較例との沈降率を比較すると、実施例1及び実施例2では沈降率が67、72容量%であったのに対し、比較例1では20容量%であり、蒸した大豆及び小麦を原料とした場合、分解速度が遅いことが分かった。酵素を添加した場合であっても、原料に醤油麹を使用する方が液体の収率が高かった。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施例4〜実施例12)
原料に醤油麹を使用し、添加する酵素と処理物の味、香り等の関係を調べた。酵素には、セルラーゼ(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素A)、ペクチナーゼ(ノボザイムジャパン製:Pectinex Ultra)、プロテアーゼ1(天野エンザイム製:プロチンPC10F)、プロテアーゼ2(天野エンザイム製:ウマミザイムG)、プロテアーゼ3(天野エンザイム製:ウマミザイムG)、プロテアーゼ4(株式会社超臨界技術研究所製:まるごと酵素E)を使用した。実験要領は、実施例3と基本的に同じである。表2に実験条件及び評価結果を示した。表2中、酵素の添加量は、醤油麹と水との合計重量に対する割合である。また表2の味、香りの欄の丸は、味、香りとも優れたもの、二重丸は味、香りとも特に優れたものを示す。実験の結果、全てのケースで味、香りに優れた処理物を得ることができた。Brix値も26以上の値を示し、実施例4〜12の処理物中の液体は、液体調味料として十分に使用することが可能と評価された。さらに液体の収率の指標である沈降率も54〜70%と良好であった。特にプロテアーゼを添加することで、旨みが増し、プロテアーゼ及びセルラーゼを同量添加することで、味もよく、液体の収量も大きくなった。液体の収率及び味は、使用するプロテアーゼの種類、原料の処理量に殆ど影響を受けなかった。
【0020】
【表2】

【0021】
(実施例12の分析結果)
表3に実施例12で得た処理物中の液体の分析結果を、表4及び図1にアミノ酸の含有量測定結果を示した。表4及び図1中の比較例は文献値であり、出典は、大豆醤油;早川ら,高タンパク質酒粕等の有効利用,京都府中小企業総合センター技報NO28,http://www.mtc.pref.kyoto.jp/gihou/giho-28/houbun/koutan.htm、こいくち本醸造;今野ら,ワカメ等の前浜資源利用技術開発に関する研究(ツノナシオキアミ),岩手県水産技術センター試験研究結果,http://www.pref.iwate.jp/~hp5507/report/kekka99/11-11.htmである。分析の結果、食塩分の濃度は0.3重量%と非常に低かった。さらに全窒素分は2.31重量%であり、比較例である輸入魚醤油、大豆醤油の約1.5倍の値を示した。さらに無塩可溶性固形分は34.6重量%であり、JAS規格に定める濃口醤油の16%(容重)の約2倍の値であった。またアミノ酸の含有量は、9468mg/100gであり、大豆醤油、こいくち本醸造と比較して多かった。特にグルタミン酸が2100mg/100gと非常に多く、スレオニン、セリン、プロリン、バリン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、アルギニンなども大豆醤油、こいくち本醸造と比較して多く含まれていた。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例12で得られた処理物中の液体に含まれるアミノ酸含有量を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆及び小麦を主原料とし製造された醤油麹と水との混合物を、食塩を全く添加することなく温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造することを特徴とする液体調味料の製造方法。
【請求項2】
さらに前記醤油麹と水との混合物に食塩を全く添加することなく酵素を添加し、これら混合物を温度40〜60℃、圧力80〜100MPaの条件下で保持し液体調味料を製造することを特徴とする請求項1に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法で製造された液体調味料であって、
アミノ酸を8.0重量%以上、グルタミン酸を2.0重量%以上含有する液体調味料。

【図1】
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