説明

液体調味料

【課題】適度な強さのコショウ風味を有し、しかもその風味が長時間持続する、コショウを含有する液体調味料の提供。
【解決手段】コショウを含有する液体調味料であって、溶液成分中の(A)δ−3−カレン含有量が43〜245ppm、(B)β−カリオフィレン含有量が25〜180ppmであり、且つ(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの含有質量比[(A)/(B)]が0.9〜2.2である液体調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コショウを含有する液体調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
香辛料は独特な風味を有し、食品に添加することによって食味の向上、食欲の増進等を促す。なかでも、コショウを素材とする風味成分は嗜好性が高く、コショウを挽いたばかりの香気は大変好まれている。
【0003】
これまでに、香気成分や挽きたての香りとされているフレーバーを食品に加え、コショウの香気を増強させる技術が種々提案されている。例えば、アリスモールを含有するコショウ香料組成物によりコショウのトップノートを強調し、挽きたてのコショウの香り立ちを付与する方法(特許文献1)、香料素材を官能基別に分類し、これらと香辛料抽出物を適宜配合し、より強く、より自然な香辛料フレーバーを調製する方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−132932号公報
【特許文献2】特開2005−13138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、コショウを配合した液体調味料を開発すべく種々検討したところ、喫食当初から喫食中、一定した良好なコショウ風味を持続的に発現させることは難しいことが判明した。すなわち、喫食当初のコショウ風味を強く発現させることができても短時間で消失してしまうか、コショウ風味は持続しても、風味自体が弱く、十分なコショウ感が感じられないか、或いは逆にコショウ風味が強すぎて辛味まで強く感じられてしまうという問題があった。
したがって、本発明の課題は、適度な強さのコショウ風味を有し、しかもその風味が長時間持続するコショウを含有する液体調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、コショウに含まれるδ−3−カレンとβ−カリオフィレンが、コショウの風味の発現と持続性に関わることを見出した。そして更に検討したところ、これら成分の液体調味料の溶液成分中の含有量を一定の範囲になるように調整すれば、喫食当初に発現するコショウ風味が増強され、かつその風味が喫食中も長く持続することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、コショウを含有する液体調味料であって、溶液成分中の(A)δ−3−カレン含有量が43〜245ppm、(B)β−カリオフィレン含有量が25〜180ppmであり、且つ(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの含有質量比[(A)/(B)]が0.9〜2.2である液体調味料を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、適度な強さのコショウ風味を有し、しかもその風味を長く感じられる、持続性に優れた液体調味料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液体調味料は、コショウ(Piper nigrum L.)を配合した液体調味料である。コショウとしては、その種類や産地は限定されるものではく、通常の黒コショウ、白コショウを用いることができる。本発明においては、風味が良好な点から黒コショウを用いるのが好ましい。
【0010】
コショウの形態は特に限定されず、果実を乾燥させた乾燥物、これを適当な大きさに粉砕した乾燥粉砕物、或いは果実をそのまま又は乾燥物を油漬けしたもの等が挙げられる。油漬けに用いられる油は、特に限定されず、後述する食用油脂を用いることができる。なお、ここで粉砕とは、すり砕いたものから、果実の原形をとどめつつ、亀裂等により組織が破壊されている程度のものも含む。
コショウは、乾燥粉砕物と油漬けしたものを混合して用いるのが、コショウ風味を増強させる点、持続性の点から好ましい。
【0011】
コショウは一定量以上加えると風味だけでなく辛味も強く発現するため、喫食に適当な添加量とすることが好ましい。コショウ風味の強さ、コショウ風味の強さと持続性のバランスの点から、コショウの含有量は、液体調味料中に2〜15質量%(以下、単に「%」とする)とするのが好ましく、更に2.5〜5.5%、特に3〜5%とするのが好ましい。
また、同様の点から、液体調味料中のコショウの乾燥粉砕物と油漬けしたものの含有質量比を3:1〜1:1.5とするのが好ましく、更に2:1〜1:1とするのが好ましい。
【0012】
本発明の液体調味料には、(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンが含まれる。ここで、δ−3−カレンとは、3,7,7−トリメチルビシクロ[4.1.0]ヘプタ−3−エンであり、β−カリオィレンとは(1R,1β,4E,9α)−4,11,11−トリメチル−8−メチレンビシクロ[7.2.0]ウンデカ−4−エンである。
(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンは、共にコショウに含まれる風味成分であるが、本発明は、これら風味成分を液体調味料の溶液成分中に一定範囲で含有させることで、喫食当初に発現するコショウ風味が増強され、かつそのコショウ風味が長く感じられる液体調味料を得るに至ったものである。なお、液体調味料の溶液成分とは、液体調味料の中から不溶性の固体成分を除いたものである。
液体調味料の溶液成分中の成分(A)と(B)の含有量は、後記実施例に記載の方法にて定量可能である。
【0013】
本発明の液体調味料において、(A)δ−3−カレンの含有量は、溶液成分中に43〜245ppmであるが、コショウ風味を増強させる点、コショウ風味の強さと持続性のバランスの点から、更に50〜200ppm、特に60〜150ppm、尚更70〜90ppmであるのが好ましい。
【0014】
また、(B)β−カリオフィレンの含有量は、溶液成分中に25〜180ppmであるが、コショウ風味の持続性の点、コショウ風味の強さと持続性のバランスの点から、更に30〜100pm、特に40〜90ppm、尚更50〜70ppmであるのが好ましい。
【0015】
溶液成分中の(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの含有質量比[(A)/(B)]は、0.9〜2.2であるが、コショウ風味を増強させる点、持続性の点及びコショウ風味の強さと持続性のバランスの点から、更に1.2〜2.1、特に1.3〜2、尚更1.4〜1.5であるのが好ましい。
【0016】
また、本発明の液体調味料において、溶液成分中の(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの合計含有量は70〜450ppm、更に80〜300ppm、特に120〜160ppmであるのが、コショウ風味の強さの点から好ましい。
【0017】
溶液成分中の(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの含有量は、前記コショウの種類や含有量を変化させることにより前記範囲とすることができるが、本発明では、さらにコショウ抽出物やフレーバー等を用いることもできる。コショウ抽出物、フレーバーとしては、例えばオレオレジン、ブラックペッパーオイル等が挙げられる。
【0018】
本発明の液体調味料は、液体状の調味料であれば特に制限されないが、酸性液体調味料が好ましく、特にドレッシング類(サラダ用の液体調味料)が好ましい。また、液体調味料は、容器詰液体調味料の形態が好ましい。
【0019】
本発明の液体調味料は、油相及び水相を含む液体調味料であるのが、コショウの風味を生かす点で特に好ましい。
【0020】
本発明の液体調味料が油相を含む場合、例えば、水相として水を主成分として用い、油相を上層、水相を下層とした分離型、水中油型の乳化物からなる乳化型、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型が挙げられる。
本発明の液体調味料中の油相は5%以上、さらに20%以上、特に30〜50%含有するのが好ましい。
【0021】
本発明の液体調味料に用いることのできる油相は、食用油脂が主成分である。食用油脂は、動物性、植物性のいずれでも良く、例えば、動物油としては牛脂、豚脂、魚油等、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油、胡麻油等が挙げられるが、風味、実用性の点から、大豆油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、胡麻油等の植物油を用いることが好ましい。
【0022】
食用油脂は、ジアシルグリセロールを15%以上含むことが、生理効果の点から好ましい。食用油脂中のジアシルグリセロール含有量は、15〜99.5%、更に35〜95%、特に50〜95%、殊更70〜93%とすることが、同様の点から好ましい。
本発明において、食用油脂がジアシルグリセロールを含む場合、その構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、80〜100%であることが好ましく、更に85〜99%、特に90〜98%であることが外観、生理効果の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0023】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス型不飽和酸の含有量は0.01〜5%であることが好ましく、更に0.01〜3.5%、特に0.01〜3%であることが生理効果、外観の観点から好ましい。また、風味の観点から炭素数12以下の脂肪酸の含有量は5%以下であることが好ましく、更に0〜2%、特に0〜1%であることが好ましい。
【0024】
ジアシルグリセロールを含有する油脂の起源としては、前記と同様の動物性、植物性の油脂を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものが、油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。
【0025】
ジアシルグリセロールを含有する油脂は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが、風味等の点で好ましい。
【0026】
本発明において、食用油脂は、トリアシルグリセロールを4.9〜84.9%、更に4.9〜64.9%、特に6.9〜39.9%、殊更6.9〜29.9%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は2%以下、特に0.01〜1.5%であるのが好ましく、遊離脂肪酸(塩)の含有量は3.5%以下、特に0.01〜1.5%であるのが風味等の点で好ましい。トリアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0027】
本発明の液体調味料に用いることのできる水相は、水が主成分であり、その他の成分として食酢、塩、醤油、味噌、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、澱粉、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種添加剤等を適宜含有させることが好ましい。特に、乳化物を安定化させるためには、増粘剤、安定剤、乳化剤を含有させることが好ましい。増粘剤の具体例としては、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、アルギン酸塩類、トラガントガム、ポリデキストロース、セルロース類、プルラン、カードラン、ペクチン、ゼラチン、寒天、大豆多糖類等の天然物や加工澱粉類、並びにカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の化学合成品のガム類等が挙げられる。安定剤の具体例としては、ラクトアルブミン等の乳蛋白、澱粉類等が挙げられる。乳化剤の具体例としては、卵黄液、カゼイン、ゼラチンの他、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等、一般に食品に使用可能な乳化剤が挙げられる。
【0028】
また、液体調味料のpH(液体調味料が油相と水相を含む場合には水相のpH、20℃)は5.5以下であることが保存性の点から好ましく、さらに4.7〜3、特に4.5〜3.5、殊更4.2〜3.7の範囲が好ましい。この範囲にpHを低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン果汁等の酸味料を使用することができるが、保存性を良くする点、加工直後の具材の風味成分を維持する点から食酢を用いることが好ましい。食酢は穀物酢、りんご酢、ビネガー類など様々な種類を用いることができ、その配合量は、液体調味料中に、3〜20%、さらに5〜15%、特に6〜10%が好ましい。
【0029】
本発明の液体調味料においては、抗酸化剤を添加してもよい。抗酸化剤は、通常、食品に使用されるものであればいずれでもよいが、天然抗酸化剤、トコフェロール、カテキン、リン脂質、アスコルビン酸脂肪酸エステル、BHT、BHA、TBHQから選ばれる1種以上が好ましく、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルから選ばれる1種以上がより好ましい。抗酸化剤は、油脂の風味劣化を抑制する点から油相へ添加することが好ましい。特に好ましい抗酸化剤の含有量は、油相中50〜5000ppm、さらに200〜2000ppmである。さらに、ジアシルグリセロールを含む油脂と水相を含有する液体調味料において、保存により異味(金属味)が生じるのを防止する点から、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含まず、δ−トコフェロールを200ppm以上含有させることが好ましい。
【実施例】
【0030】
〔分析方法〕
(i)δ−3−カレンとβ-カリオフィレンの測定
試料をジーエルサイエンス(株)のサンプル前処理用フィルターGLクロマトディスク0.45μmにてろ過し、アジレントテクノロジー社 2mLサイズバイアルに1.5mL採り、封入した。これをアジレントテクノジー社ガスクロマト(GC、モデル6890N)に3μL注入し分析した。GC分析の条件は下記のとおりである。なお、δ−3−カレンとβ-カリオフィレンの定量値は、それぞれ標品(シグマアルドリッチ)を用いて検量線を作成して求めた。
(条件)
カラム:アジレントテクノロジー社J&W DB−WAX、60m×φ0.25m、膜厚0.25μm
キャリアガス:30.0mL/min
インジェクター:Split(40:1)、T=300℃
ディテクター:FID、T=250℃
オーブン温度:25℃で2分間保持、3℃/分で220℃まで昇温、5分間保持
【0031】
(ii)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0032】
(iii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0033】
試験例1〜20
〔液体調味料の調製〕
卵黄を除く水相の原料を表1に示した量で配合し、撹拌混合して溶解し、水相を調製した。次に、常温から加熱して80℃に到達してから4分間保持することにより加熱処理(殺菌処理)を行った後、冷却した。次いで水相を攪拌しながら卵黄及び表2に示した組成の食用油脂A又はBを添加して均質化し、乳化型の液体調味料を調製した。
【0034】
〔官能評価〕
サンプルを5℃で7日間保存した後、調味食品開発に携わる専門パネル5名により、以下の評価基準に従って「コショウ風味の強さ」、「コショウ風味の持続性」、「コショウ風味と持続性のバランス」について評価を行い、協議により評点を決定した。「コショウ風味の強さ」の評価は、サンプルを食した際、最初にコショウの香気をどれくらい強く感じるかという観点から行い、「コショウ風味の持続性」は、サンプルを食している際にも持続してコショウの香気を感じるか否かという観点から行い、「コショウ風味と持続性のバランス」は、コショウの香気とコショウの香気の持続性とのバランスが良好か否かという観点から行った。
結果を表1に示す。
【0035】
〔コショウ風味の強さの評価基準〕
5:コショウ風味が強すぎて、辛い
4:コショウ風味がやや強い
3:コショウ風味がちょうど良い
2:コショウ風味がやや弱い
1:コショウ風味が弱い
〔コショウ風味の持続性の評価基準〕
2:コショウ風味が持続する
1:コショウ風味が持続しない
〔コショウ風味と持続性のバランスの評価基準〕
5:コショウ風味の強さと持続性のバランスが非常に良い
4:コショウ風味の強さと持続性のバランスがやや良い
3:コショウ風味の強さと持続性のバランスが取れている
2:コショウ風味の強さと持続性のバランスが悪い
1:コショウ風味の強さと持続性のバランスがとても悪い
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1より、液体調味料の溶液成分中の(A)δ−3−カレンと(B)β-カリオフィレンの含有量及びこれら成分の含有質量比[(A)/(B)]を一定範囲とすることで、コショウ風味が適度に強く感じられ、更にそのコショウ風味は長時間持続することが確認された。しかも、コショウの辛さが際立つことはなく、風味と持続性のバランスも良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コショウを含有する液体調味料であって、溶液成分中の(A)δ−3−カレン含有量が43〜245ppm、(B)β−カリオフィレン含有量が25〜180ppmであり、且つ(A)δ−3−カレンと(B)β−カリオフィレンの含有質量比[(A)/(B)]が0.9〜2.2である液体調味料。
【請求項2】
コショウの含有量が液体調味料中に2〜15質量%である請求項1記載の液体調味料。
【請求項3】
コショウが黒コショウである請求項1又は2記載の液体調味料。
【請求項4】
水相と油相を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の液体調味料。