説明

液体調整タンクとしてのマルチチャンバシステムとその使用方法

本発明は、液体調整タンクとしてのマルチチャンバシステム並びにその使用に関する。本発明によるマルチチャンバシステム中では、チャンバと導管システムとの配置に基づき、一方で外部のガスが前記液体システム中に侵入することを阻止し、一様な高さの液柱を利用しないので、加速度を受けるシステム、例えば車両中においても稼働することができる液体膨張タンクが提供される。それにより、液体で充填された装置中のガス容積の監視のためのシステムは、マルチチャンバシステムの他に液体冷却システム中でブッフホルツ継電器をも備え得る。従って、ガス容積を監視するためのこのシステムは、輸送手段中での使用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体調整タンクとしてのマルチチャンバシステムとその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気部材、特に変圧器は、液体冷却循環路、例えば油循環路によって運転時の熱による過熱に対し保護されている。前記変圧器油は、加熱に伴い膨張し、変圧器を越えて油導管を介して油膨張タンク中で捕捉され、前記油膨張タンクは同様に変圧器油により部分的に充填される。前記油膨張タンクと変圧器との間の油導管中には、所謂ブッフホルツ継電器が配置されることが多く、その際、ブッフホルツ継電器中では変圧器中で形成されたガスが測定されかつ所定のガス容積を超えた場合に変圧器のスイッチオフが行われる。大きなガス容積が、変圧器内部での機能不良の原因となることが多い。ドイツ工業規格DIN42566は、油冷却される変圧器を運転すべく、前記装置内部で所定のガス容積を上回った際に、ブッフホルツ継電器を用いて警報メッセージを発するよう規定している。所定のガス容積への到達は、この場合、本来の液体膨張タンクの前方に配置された相応する膨張タンク及びガス捕捉タンクとしてのブッフホルツ継電器内部で検出される。
【0003】
この公知のシステム中では、変圧器油の冷却時に油膨張タンク中の脱気開口部を経て更に環境から空気が吸い込まれ、環境空気中に存在する水分は空気除湿器によって低減される。空気/水分の冷却循環路中への侵入は、全ての場合において避けねならない。さもないと変圧器の絶縁耐力が著しく低下してしまうためである。
【0004】
独国特許出願公開第19636456号明細書は、温度に依存して容積が変化するシステムを外来ガスから遮断する装置、特に絶縁液の温度に依存して又は絶縁液温度とは無関係に圧力に影響を及ぼす一体式の装置と接続された電気的変圧器を開示している。前記明細書に記載された発明では、絶縁液と外気又はガスクッションとの間に膜を配置し、前記膜は外気と冷却循環路との直接的な交換を阻止している膨張タンクを有している。
【0005】
英国特許第318397号明細書は、弾性の膜が膨張タンク中で液体表面をガスクッションに対し分離し、かつそれにより外気との空気交換を阻止している変圧器用の膨張タンクを開示している。
【0006】
先行技術の欠点は、変圧器内部のガス容積の過剰な上昇時にスイッチオフメカニズムが設けられていないことである、それは、上記したシステムは完全に液体で充填された冷却循環路用に構成されているに過ぎないためである。
【0007】
英国特許第368264号明細書は、変圧器用の膨張タンクを開示し、この場合は相互に階段状のマルチチャンバシステムが冷却循環路内部への外気の侵入を阻止している。しかし、この場合の欠点は、膨張タンクの加速時に液柱が相互に動き得るため冷却循環路中へ外気が侵入し、前記システムは静止した据え置き型の装置にしか使えないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、先行技術における上記の欠点を回避し、かつ加速するシステム中でも稼働させ得る膨張タンクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、請求項1に記載の本発明により解決される。本発明の場合には、第1チャンバ中で第1導管システムが第1チャンバと液体システムとを接続し、かつ第2導管システムが第1チャンバと少なくとも1つの他の第2チャンバとを接続し、その際、第2導管システムが第2チャンバ中に配置され、第2チャンバ中に存在する液体においてそれにより生じる液体圧が第2導管システム中にも同様に存在し、かつ第2導管システムは第1チャンバ中に配置され、第1チャンバが液体により完全に充填される場合に初めて第2導管システムは同様に液体で完全に充填され、そのため液体システムと第2チャンバとの間に液圧結合が生じるように構成される。第1導管システムが完全に充填された際、同様に外気又はガスが第2チャンバを介して液体システム内へ侵入するのを阻止できる。前記第2導管システムの開口部は、第1チャンバの上側領域内に配置するのが好ましい。
【0010】
第2チャンバ中の少なくとも1つの膜が、第2チャンバ中の気相に対し液体の表面を気密に遮閉すると更に好ましい。更に好ましい実施形態では、第1チャンバを第2チャンバ中に配置し、その際、前記のチャンバは回転対称であり、かつ第2チャンバ中の液体の表面を、第2チャンバ中の気相に対し回転対称の膜により気密に遮閉する。チャンバのこの配置により、唯一の膜を、例えばリングの形で使用できる。前記膜は弾性であるとよい。
【0011】
前記膜をホルダで第2チャンバの内壁に固定するとよい。それとは別に、第2チャンバ中で液体表面に対応して気密に閉鎖するガイドレールが第2チャンバの内壁に接して前記膜を誘導する。この構造では、強固な固定と比較して膜の機械的負荷を低減できる。
【0012】
導管システムの横断面及び/又は高さは、第1チャンバ中での可能な液体圧に関して最大値に依存して構成かつ形成するとよい。空気除湿装置は第2チャンバ内の気相中の湿度を低下させ、その結果膜表面側は、気相中の水分により化学的−物理的に侵食されない。
【0013】
更に本発明では、液体で充填された装置内のガス容積を監視するシステム、特に少なくとも1つのマルチチャンバシステム、液体システム及びガス容積を監視するための装置、特にブッフホルツ継電器を有する変圧器が配置され、前記装置は液体システムを介してガス容積を監視すべく、装置及びマルチチャンバシステムと接続される。好ましい実施態様では、前記マルチチャンバシステムはガス容積を監視する装置の後方に配置される。
【0014】
更に、輸送手段中で液体冷却される装置用の、特に変圧器用の膨張タンクとしてマルチチャンバシステムを使用すると好ましい。更に、輸送手段中のガス容積を監視すべく、前記のシステムを使用すると好ましい。前記輸送手段の加速により、膨張タンク中で一様な高さの液柱が殆ど存在しないため、この場合、著しい圧力変動が生じ、外気も液体冷却システム内へ侵入しかねない。本発明によるマルチチャンバシステムは、加速されたシステム、例えば車両中でも、変圧器用の液体システムの使用が可能であるという利点を持つ。更に、システムの外部領域からの空気又はガスの侵入は加速時であっても阻止される。
【0015】
更に好ましい実施形態は、残りの従属請求項に記載している。本発明を、実施例及び図面により詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明によるマルチチャンバシステム1を示す。
【0017】
第1チャンバ2は第2チャンバ3中に配置されていて、該2つのチャンバ2、3は第2導管システム5を介して互いに接続されている。第1導管システム4は液体システム10と接続されている。前記第1チャンバ2は、液体で、冷却液であるのが好ましい、例えば変圧器油で完全に充填されている。前記第2導管システム5は第1チャンバ2中に配置されていて、第2導管システム5の上側の開口部を介してだけ液体が第1チャンバ2と第2チャンバ3との間を移動でき、その際、前記開口部は第1チャンバ2の上側のカバーの直下に配置されている。第1チャンバ2が液体で完全に充填された際、液体システム10を経て第2チャンバ3と冷却システムとの間に液圧結合が初めて生じる。この構造により、第2チャンバ3中の空気又はガスが第2導管システム5をでて第1チャンバ2内へ、引き続き第1導管システム4を経て液体システム10内へ到達することは十分に抑制できる。空気除湿装置7は液体表面上の気相の湿度を低下する機能を果たす。
【0018】
本発明では、更に少なくとも1つの膜6a、6bを設けており、該膜は第2チャンバ3中で液密、かつ気相に対し気密に封止している。前記膜6aは、ホルダ8により第2チャンバ3の内壁に固定されている。この結果外部の影響により導管システム中の液柱が「破壊され」、空気又はガスが前記システム内へ侵入したときも、空気又はガスがマルチチャンバシステム1中、ひいては液体システム10へ侵入するのを排除している。この際、弾性の膜6aは第2チャンバ3中への液体の移動に応じて変形し、その結果空気又はガスが到達することなく、マルチチャンバシステム1内の液体調整、ひいては液体システム10の液体調整が可能となる。更に、本発明のマルチチャンバシステム1により、第2チャンバ3の気相から空気又はガスが第2チャンバ3内の液体へ拡散するのを抑制できる。
【0019】
空気除湿装置7は、液体表面又は膜表面6a上の気相の湿度を低下させる役目を持つ。
【0020】
第2図は、液体で充填された装置9、例えば変圧器中のガス容積を監視するための本発明によるシステムの概略図を表す。液体で充填された装置9中で生じるガスは、液体システム10中でブッフホルツ継電器11に送られる。ブッフホルツ継電器中で、前記のガス容積が監視される。更に、前記液体システムにはマルチチャンバシステム1が膨張タンクとして接続されている。マルチチャンバシステム1の、変圧器9に対して相対的な又はブッフホルツ継電器11に対し相対的な位置は自由に選択可能である。それは、液体システム10による第2チャンバ3(図示せず)中の圧力調整は液圧結合により行っているためである。従って、前記システムは加速されるシステム中での運転にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるマルチチャンバシステムの概略図を表す。
【図2】液体で充填された装置中のガス容積を監視するための本発明によるシステムの概略図を表す。
【符号の説明】
【0022】
1 マルチチャンバシステム、2、3 チャンバ、4、5 導管システム、6a、6b 膜、7 空気除湿装置、8 膜ホルダ、9 液体充填された装置、10 液体システム、11 ガス容積を監視するための装置、12 第2チャンバ中の気相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1チャンバ(2)中で第1導管システム(4)が前記第1チャンバ(2)と液体システム(10)とを接続し、第2導管システム(5)が前記第1チャンバ(2)と少なくとも1つの他の第2チャンバ(3)とを接続し、その際、前記第2導管システム(5)が第2チャンバ(3)中に配置されていて、前記第2チャンバ(3)中に存在する液体においてそれにより生じる液体圧が前記第2導管システム(5)中にも同様に存在し、かつ前記第2導管システム(5)は第1チャンバ(2)中に配置されていて、前記第1チャンバ(2)が液体により完全に充填された際に初めて前記第2導管システム(5)は同様に液体で完全に充填され、その結果前記液体システム(10)と第2チャンバ(3)との間に液圧結合が生じることを特徴とする液体膨張タンクとしてのマルチチャンバシステム。
【請求項2】
第2導管システム(5)の開口部が、第1チャンバ(2)の上方領域に配置されたことを特徴とする請求項1記載のマルチチャンバシステム。
【請求項3】
第2チャンバ(3)中で、少なくとも1つの膜(6a)が液体の表面を第2チャンバ(3)中の気相に対し気密に遮蔽することを特徴とする請求項1又は2記載のマルチチャンバシステム。
【請求項4】
第1チャンバ(2)が第2チャンバ(3)中に配置され、前記両チャンバ(2、3)は回転対称であり、かつ第2チャンバ(3)中の液体の表面は、第2チャンバ(3)中の気相に対し回転対称の膜(6a)により気密に遮閉されたことを特徴とする請求項3記載のマルチチャンバシステム。
【請求項5】
膜(6a)が弾性体であることを特徴とする請求項3又は4記載のマルチチャンバシステム。
【請求項6】
ホルダ(8)が第2チャンバ(3)の内壁に膜(6a)を固定するか、又は気密に閉鎖するガイドレールが第2チャンバ(3)の内壁に接して膜(6a)を、第2チャンバ(3)中の液体表面に対応し誘導することを特徴とする請求項3から5の1つに記載のマルチチャンバシステム。
【請求項7】
導管システム(4、5)の横断面及び/又は高さが、第1チャンバ(2)中で可能な液体圧力の最大値に依存して構成されたことを特徴とする請求項1から6の1つに記載のマルチチャンバシステム。
【請求項8】
空気除湿装置(7)が、第2チャンバ(3)内の気相(12)中の湿度を低下させることを特徴とする請求項1から7の1つに記載のマルチチャンバシステム。
【請求項9】
請求項1から8の1つに記載の少なくとも1つのマルチチャンバシステム(1)と、液体システム(10)と、ガス容積を監視するための装置(11)とを備えたシステムにおいて、前記装置(9)が液体システム(10)を経てガス容積の監視のための装置(11)とマルチチャンバシステム(1)とを接続するガス容積を監視するためのシステム。
【請求項10】
マルチチャンバシステム(1)が、ガス容積を監視するための装置(11)の後方に配置されたことを特徴とする請求項9記載のシステム。
【請求項11】
輸送手段において液体冷却される装置(9)の膨張タンクとして、請求項1から8の1つに記載のマルチチャンバシステムを使用する方法。
【請求項12】
輸送手段中における、請求項9又は10に記載のガス容積を監視するためのシステムの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−531291(P2007−531291A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505369(P2007−505369)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000518
【国際公開番号】WO2005/096329
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【出願人】(506326154)ベール インダストリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニ コマンディートゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】