液体金属ターゲット形成装置
【課題】陽子ビームの照射面積を増大すること。
【解決手段】ノズル10から噴射された液体リチウムの噴流は、ノズル10の形状に従って膜状に噴射され、液体リチウムターゲットを形成する。この液体リチウムターゲットの表面は、ノズル10の長辺11が波形状になっていることから、当該波形状に応じたトタン板状の波面が形成される。液体リチウムの噴流の速度は最大で20m/sであるため、ノズル10の長辺部分の波形状がそのまま定在波の自由液面として形成される。この定在波が形成され自由液面は、平滑な自由液面に比べて表面積が大きくなるので、陽子ビームを受け止める領域が増えて中性子の発生効率が高くなる。
【解決手段】ノズル10から噴射された液体リチウムの噴流は、ノズル10の形状に従って膜状に噴射され、液体リチウムターゲットを形成する。この液体リチウムターゲットの表面は、ノズル10の長辺11が波形状になっていることから、当該波形状に応じたトタン板状の波面が形成される。液体リチウムの噴流の速度は最大で20m/sであるため、ノズル10の長辺部分の波形状がそのまま定在波の自由液面として形成される。この定在波が形成され自由液面は、平滑な自由液面に比べて表面積が大きくなるので、陽子ビームを受け止める領域が増えて中性子の発生効率が高くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体リチウム等の液体金属の流れにより液体金属ターゲットを形成する液体金属ターゲット形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来の液体金属ループの一例を示す構成図である。図14は、図13に示した液体金属ループのノズルの吐出口を示す説明図である。この液体金属ループ500は、陽子ビームを照射して中性子を得るためのターゲット501と、ターゲット501の下流に配置されたクエンチタンク502と、クエンチタンク502に接続された電磁ポンプからなる循環ポンプ503と、前記循環ポンプ503の下流に配置された熱交換器504とを有する。前記ターゲット501は、SUS304製の湾曲したバックウォール505に液体リチウムを遠心力で押しつけ、当該バックウォール505上に液体リチウム膜流を形成するものである。前記ターゲット501は、液体リチウムを噴出するノズルを備える。図14に示すように、このノズルの吐出口506の形状は、長辺507及び短辺508からなる短冊形状となる。長辺507の上部がターゲットの自由液面を形成することになり、この長辺507は平滑な自由液面を形成するため所定の表面粗さに機械加工される。
【0003】
バックウォール505の径は250mm程度、液体リチウムの流速は最大で20m/sであり、遠心力による圧力で当該液体リチウムの沸騰が抑制される。液体リチウムの膜厚は25mm程度、幅は260mm程度である。バックウォール505上に流れる液体リチウムに対して加速器から陽子を衝突させることで、液体リチウムの背後に中性子が発生する。中性子は、バックウォール505を透過してその背後に照射される。
【0004】
バックウォール505に液体リチウムを流す際には、自由液面の波を一定の値以下に抑制するように工夫がなされる。特許文献2では、実験装置として略水平に設置したバックウォールの上を異なる速度で水を噴射し、その自由表面波の状態を観察している。ノズルの吐出口の形状は幅70mm、高さ10mmの矩形である。自由表面波は、CCDカメラによりストロボスコープで撮影している。その結果、流速3.0m/sでは波が発生せず、5.0m/s以上で細かい波が発生し、9.0m/s以上になると不規則な波が自由表面全体に現れることが確認されている。そして、流路中心での測定結果を見ると、波の高さが高速流においても1mm以内に収まる結果を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−64000号公報
【特許文献2】IFMIF液体金属リチウムターゲット流に関する実験研究 堀池、近藤、金村他 J.Plasma Fusion Res. Vol.84, No.9 (2008) 600-605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターゲット上の陽子ビームの照射面積を大きくすることができれば、中性子の発生効率が向上する。ところが、上記特許文献1に記載のように、湾曲したバックウォール505上に高速で液体リチウムを流すことで液体リチウムの膜流を形成する方法の場合、遠心力により、矩形のノズルから噴射した液体リチウムの自由液面が平滑になるように作用する。また、バックウォール上に液体リチウムを流すことを想定した特許文献2の実験においても、高速のリチウム流の自由表面に生じる波は1mm以下に抑えられることが確認されている。いずれの場合でも、ターゲットにおいて陽子ビームの照射面積を増加させることは困難である。この発明はかかる問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分が凹凸形状であることを特徴とする。
【0008】
この発明では、液体金属が前記ノズルを通じて陽子ビームの照射空間に噴出されて液体金属ターゲットが形成するので、遠心力による影響がなく、液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に安定して凹凸形状を形成できる。これにより、陽子ビームを受け止める領域の面積が大きくなり、中性子の発生効率が向上する。なお、前記凹凸形状には、波形、櫛形、歯形等が含まれる。
【0009】
第2の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状の高低差は、吐出口が直線で形成されたノズルにより形成する液体金属ターゲットの自由液面に生じる微小の波の波高より大きいことを特徴とする。
【0010】
即ち、この液体金属ターゲット形成装置は、液体金属ターゲットの陽子ビーム照射面に積極的に凹凸形状を形成するものであり、直線で構成した吐出口から噴出される液体金属ターゲットの自由液面の微小の波より大きくすることで、その表面積が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0011】
第3の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状に基づく中心線平均粗さRaが12.5a以上であることを特徴とする。
【0012】
通常のノズルの吐出口は、平滑面を形成するため、表面を機械加工により6.3a以下の表面粗さとする。この発明では、前記通常とは逆に表面粗さを大きくすることで液体金属ターゲットの自由液面に凹凸形状を形成する。これにより、陽子ビームを受け止める領域が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0013】
第4の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記吐出口の凹凸形状は、液体金属を噴出することで形成する液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に定在波又は航跡波を生じさせる凹凸形状であることを特徴とする。なお、本発明において「定在波」とは、波の形状が一定に形成されるものをいう。
【0014】
即ち、前記凹凸形状は液体金属ターゲットの表面に定在波又は航跡波を生じさせるものであり、自然発生する不規則な波とは異なる。この定在波又は航跡波により液体金属ターゲットの表面積が増大して中性子発生効率を向上させる。
【0015】
第5の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、前記凹凸形状は、波形、櫛形又は鋸歯形であることを特徴とする。
【0016】
第6の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分を曲線形または斜線形で構成したことを特徴とする。
【0017】
第7の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口には複数の穴が連続的に且つ陽子ビーム進行方向に複数段に設けられ、各段の穴は陽子ビーム進行方向で重なり合っていることを特徴とする。
【0018】
前記吐出口の複数の穴から液体金属を噴射すると全体的に膜状で自由液面が凹凸形状となる液体金属ターゲットが形成される。上下方向で各段の穴が重なるように配置されているので、各穴から噴射された液体金属は上下方向で隙間が生じない。これにより、液体金属ターゲットの表面積が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0019】
第8の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルの吐出口が平行流路を形成することを特徴とする。
【0020】
平行流路内で境界層が発達することで液体金属を吐出口から噴射するとき自由液面に乱れが生じ、凹凸形状が不規則に現れる。これにより、自由液面の表面積が増大し、中性子の発生効率が向上する。
【0021】
第9の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの内部に連通するガス供給口を設けたことを特徴とする。
【0022】
ガス供給口から例えばアルゴンガスを導入すると、二流体乱れ及び真空中への急速脱気により、自由液面が大きく乱れて不規則な凹凸形状が形成される。これにより、自由液面の表面積が増大し、中性子の発生効率が向上する。
【0023】
第10の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を膜状に噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口の長辺部分のエッジ部に上向き面を設けたことを特徴とする。
【0024】
前記吐出口の曲面部に沿って液体リチウムが持ち上げられるので、自由液面が不安定になり、乱れる。これにより液体金属ターゲットの自由液面の表面積が大きくなり、中性子の発生効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1にかかる液体金属ループを示す構成図である。
【図2】この液体金属ターゲット形成装置のノズルを示す説明図である。
【図3】このノズルにより形成した液体リチウムターゲットに対する陽子ビームの照射状態を示す模式図である。
【図4】液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。
【図5】液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るノズルを示す説明図である。
【図7】ノズルの吐出口の一部拡大図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係るノズルを示す説明図である。
【図9】図8に示したノズルにより形成したターゲットを示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係るノズルを示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態5に係るノズルを示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態6に係るノズルを示す説明図である。
【図13】従来の液体金属ループを示す構成図である。
【図14】従来の液体金属ループのノズルの吐出口を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る液体金属ループのターゲット形成装置を示す模式図である。図2は、この液体金属ターゲット形成装置のノズルを示す説明図である。液体金属ループ100は、液体リチウムの噴流からなるターゲットを形成するターゲット形成装置1と、ターゲット形成装置1に接続されたクエンチタンク2と、クエンチタンク2に接続したポンプ3と、ポンプ3に接続した熱交換器4とを備えている。なお、液体金属ループ100に接続される機器はこれらに限定されない。また、ターゲット形成装置1の正面には、液体リチウムターゲットTに対して陽子ビームを照射する加速器5が配置されている。
【0027】
このターゲット形成装置1は、陽子ビームが照射される領域Sを横切るように液体リチウムを膜状に噴射するノズル6と、噴射された液体リチウムを受けるディフューザからなる受け部7とから構成される。ノズル6は、ノズル先端に短冊形状の吐出口10が形成され、この吐出口10から高圧で噴射された液体リチウムは、膜状の噴流となる。噴流となった液体リチウムは受け部7により緩衝される。
【0028】
図2に示すように、ノズル6の吐出口10の形状は、短冊形状であって長辺11の一方側辺11aが波形の凹凸形状となる。なお、ノズル6は、吐出口10の形状が同図に示す形状になれば、単板を抜いた構成でも、複数の部材から構成しても良い。ノズル6の吐出口10の形状・寸法は、陽子ビームのエネルギー量及び液体リチウムの熱容量等により決定する。液体リチウムターゲットTに陽子ビームが照射されるとそのエネルギーにより液体リチウムが加熱される。このため、液体リチウムが沸騰しないように、液体リチウムの陽子ビームが照射される面積における熱容量に基づき、液体リチウムの流量が制御される。なお、前記凹凸形状は、少なくとも陽子ビームを受け止める領域を形成する面に形成すれば、その他は直線形状としても良い。
【0029】
例えば、前記ノズル6の吐出口10の形状は、長辺11が70mm、短辺12が2〜5mm、波の高さが1〜2mm、波長が数mmの凹凸形状である。当該ノズル6の凹凸形状は、少なくともノズル6の長辺11が通常の直線とする場合の表面粗さより大きいものとなる。即ち、当該ノズル6の凹凸形状は、研磨等の機械加工により表面粗さ(中心線平均粗さRa)を6.3a〜0.13aに平滑化するのとは逆に、その表面粗さ(中心線平均粗さRa)を12.5a以上、好ましくは50a以上として積極的に凹凸を形成するものである。
【0030】
別の観点では、この波形は積極的に液体リチウムの自由液面に定在波又は航跡波を形成するものであり、消極的に波が発生するときの当該波とは異なるものである。特許文献2に記載のように自由液面には流速に応じて微小な波が発生するところ、本発明のノズル6により大きな波を形成した場合、その波の表面に更に微小な波が形成されるものとなる。
【0031】
別の観点では、低い流速においても液体リチウムの自由液面に定在波を形成するものである。上記特許文献2に記載のように、液体リチウムの流れが低速の場合、平滑な自由液面となるため、ノズル形状自体に波形を設け、低速域においても自由表面に凹凸を形成可能とする。また、1mm程度の細かい定在波を低速域においても形成できる。
【0032】
図3は、このノズルにより形成した液体リチウムターゲットに対する陽子ビームの照射状態を示す模式図である。ノズル6から噴射された液体リチウムの噴流は、ノズル6の形状に従って膜状に噴射され、液体リチウムターゲットTを形成する。この液体リチウムターゲットTの表面(陽子ビームを受け止める領域S)は、ノズル6の長辺11が波形状になっていることから、当該波形状に応じたトタン板状の定在波面が形成される。定在波の山Tm又は谷Tvの方向は前記噴射方向となる。液体リチウム噴流の速度は、最大で20m/sである。このため、ノズル6の長辺部分の波形状がそのまま自由液面の定在波として形成される。
【0033】
定在波の自由液面は、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなる。この自由液面に陽子ビームPが照射されると、陽子がリチウムに衝突して中性子が発生する。陽子ビームPがリチウムを通過するとエネルギーが低下し、当該エネルギーが核反応の閾値を下回ると中性子が発生し難くなる。このため、中性子の発生は主に液体リチウムターゲット表面付近で起こることになる。この発明では、自由液面に定在波を発生させて陽子ビームPを受け止める領域の表面積を増やすことで中性子の発生効率を高めることができる。
【0034】
また、液体リチウムターゲットTの断面積と流量により熱容量が定まる。液体リチウムは融点が約180℃であるため、液体リチウムが蒸発し難いように液体リチウムターゲットTの厚さと速度を定める必要がある。特に、波形状の波頭付近は熱容量が小さく沸騰しやすいので、当該波頭付近における蒸発を防止できるように流速を制御するのが好ましい。
【0035】
このように、液体リチウムターゲットTの自由液面に定在波を形成して積極的に表面積を増やすことで、中性子の発生効率を飛躍的に高めることができる。
【0036】
図4は、上記液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。このノズル20は、吐出口21の全体形状が波形状となる。このような吐出口10の形状を有するノズル20であっても、前記同様に陽子ビームを受け止める領域の面積が増加するので、中性子の発生効率が向上する。このノズル20の場合、図2に示したノズル形状に比べて熱容量が小さくなるので、流速を高くして熱容量を確保するのが好ましい。このノズル20の波形の凹凸形状も上記図2と同様の寸法或いは加工精度に相当するものである。
【0037】
図5は、上記液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。このように、ノズル30の吐出口31の長辺32の凹凸形状を鋸歯状に形成しても良い。係る形状によっても、液体リチウムターゲットTの自由液面を定在波による凹凸形状に形成できる。このノズル30の波形の凹凸形状も上記図2と同様の寸法或いは加工精度に相当するものである。前記鋸歯状の他、突起を櫛状に形成しても同様の効果がある。
【0038】
(実施の形態2)
図6は、この発明の実施の形態2に係るノズルを示す説明図である。図7は、ノズルの吐出口の一部拡大図である。このノズル40の吐出口41は複数の円形の小穴42をノズル40の長辺方向及び短辺方向に連設したことを特徴とする。例えば、小穴42が長手方向に3列形成され、隣接する列とずらして設けられる。同図において、上段の小穴42と中段の小穴42とは、陽子ビームの進行方向Pdで重複するように配置される(図中重複領域Sd)。中段の小穴と下段の小穴42とについても同様である。これは、陽子ビームが液体リチウムターゲットを突き抜けないようにするためである。なお、下段の小穴42の列は省略しても良い。
【0039】
前記小穴42の径は、2mm以上3mm以下が好ましい。なお、上段の小穴42と中段の小穴42の陽子ビームの進行方向での間隔は、陽子ビームを多少斜めに照射した場合でも陽子が突き抜けないような間隔とするのが好ましい。
【0040】
このノズル40の吐出口41の形状によれば、小穴42により陽子ビームの受け止め領域に近似的に凹凸形状が形成され、その自由液面の凹凸形状がくっきりと現れるので、陽子ビームの受け止め領域の表面積が飛躍的に増加する。このため、中性子の発生効率が増加する。
【0041】
(実施の形態3)
図8は、この発明の実施の形態3に係るノズルを示す説明図であって、(a)は断面図(b)は斜視図である。図9は、図8に示したノズルにより形成したターゲットを示す説明図である。このノズル50は、ノズル50の吐出口51が平行流路となっている点に特徴がある。このノズル50では、平行流路内において境界層を発達させることで吐出口51から噴出した際の液体リチウムターゲットTの自由液面に凹凸形状を形成する。この凹凸形状は、液体リチウムターゲットTの自由表面に不規則に現れる。このため、平滑な自由液面に比べて陽子ビームを受け止め領域の表面積が増えるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0042】
また、ノズルを形成する部材の内側上面に流れを乱す突起を設けても良い。このようにすれば、平行流路の内部の突起により生じた乱流が吐出口から噴出した際の自由液面に凹凸を形成する。この場合も、前記凹凸形状が液体リチウムターゲットTの自由表面に不規則に現れるので、陽子ビームを受け止め領域の表面積が増えて、中性子の発生効率が高まる。また、陽子ビームを受け止め領域に凹凸形状を形成できる場合、内側下面に複数の突起を設けても良い。
【0043】
(実施の形態4)
図10は、この発明の実施の形態4に係るノズルを示す断面図である。このノズル60では、アルゴンガスの供給口61をノズル60の絞りの上流に設けた点に特徴がある。供給口61から液体リチウムの流れの中にアルゴンガスを導入すると、擬似分離流が構成されて吐出後の二流体乱れ及び真空中への急速脱気により、自由液面が大きく乱れて不規則な凹凸形状が構成される。なお、アルゴンガスは、図示しない真空排気ユニットにより吸引される。このようにすれば、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0044】
(実施の形態5)
図11は、この発明の実施の形態5に係るノズルを示す断面図である。このノズル70では、ノズル70の吐出口71の長辺部分のエッジ部に滑らかな上向きの曲面部72を付ける。この場合、吐出口71の曲面部72に沿って液体リチウムが持ち上げられるので、自由液面が不安定になり、乱れる。このようにすれば、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0045】
(実施の形態6)
図12は、この発明の実施の形態6に係るノズルを示す説明図である。図12(a)に示すように、ノズル70の吐出口71の長辺部分72を全体的に曲線形としても良い。また、図12(b)に示すように、ノズル75の吐出口76の長辺部分77がV字の斜線形としても良い。いずれの場合でも、陽子ビームの照射方向に対して自由液面が斜めに形成されることになるので、陽子ビームを受け止める領域の表面積が増え、中性子の発生効率が高くなる。
【符号の説明】
【0046】
100 液体金属ループ
6 ノズル
10 吐出口
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体リチウム等の液体金属の流れにより液体金属ターゲットを形成する液体金属ターゲット形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来の液体金属ループの一例を示す構成図である。図14は、図13に示した液体金属ループのノズルの吐出口を示す説明図である。この液体金属ループ500は、陽子ビームを照射して中性子を得るためのターゲット501と、ターゲット501の下流に配置されたクエンチタンク502と、クエンチタンク502に接続された電磁ポンプからなる循環ポンプ503と、前記循環ポンプ503の下流に配置された熱交換器504とを有する。前記ターゲット501は、SUS304製の湾曲したバックウォール505に液体リチウムを遠心力で押しつけ、当該バックウォール505上に液体リチウム膜流を形成するものである。前記ターゲット501は、液体リチウムを噴出するノズルを備える。図14に示すように、このノズルの吐出口506の形状は、長辺507及び短辺508からなる短冊形状となる。長辺507の上部がターゲットの自由液面を形成することになり、この長辺507は平滑な自由液面を形成するため所定の表面粗さに機械加工される。
【0003】
バックウォール505の径は250mm程度、液体リチウムの流速は最大で20m/sであり、遠心力による圧力で当該液体リチウムの沸騰が抑制される。液体リチウムの膜厚は25mm程度、幅は260mm程度である。バックウォール505上に流れる液体リチウムに対して加速器から陽子を衝突させることで、液体リチウムの背後に中性子が発生する。中性子は、バックウォール505を透過してその背後に照射される。
【0004】
バックウォール505に液体リチウムを流す際には、自由液面の波を一定の値以下に抑制するように工夫がなされる。特許文献2では、実験装置として略水平に設置したバックウォールの上を異なる速度で水を噴射し、その自由表面波の状態を観察している。ノズルの吐出口の形状は幅70mm、高さ10mmの矩形である。自由表面波は、CCDカメラによりストロボスコープで撮影している。その結果、流速3.0m/sでは波が発生せず、5.0m/s以上で細かい波が発生し、9.0m/s以上になると不規則な波が自由表面全体に現れることが確認されている。そして、流路中心での測定結果を見ると、波の高さが高速流においても1mm以内に収まる結果を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−64000号公報
【特許文献2】IFMIF液体金属リチウムターゲット流に関する実験研究 堀池、近藤、金村他 J.Plasma Fusion Res. Vol.84, No.9 (2008) 600-605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターゲット上の陽子ビームの照射面積を大きくすることができれば、中性子の発生効率が向上する。ところが、上記特許文献1に記載のように、湾曲したバックウォール505上に高速で液体リチウムを流すことで液体リチウムの膜流を形成する方法の場合、遠心力により、矩形のノズルから噴射した液体リチウムの自由液面が平滑になるように作用する。また、バックウォール上に液体リチウムを流すことを想定した特許文献2の実験においても、高速のリチウム流の自由表面に生じる波は1mm以下に抑えられることが確認されている。いずれの場合でも、ターゲットにおいて陽子ビームの照射面積を増加させることは困難である。この発明はかかる問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分が凹凸形状であることを特徴とする。
【0008】
この発明では、液体金属が前記ノズルを通じて陽子ビームの照射空間に噴出されて液体金属ターゲットが形成するので、遠心力による影響がなく、液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に安定して凹凸形状を形成できる。これにより、陽子ビームを受け止める領域の面積が大きくなり、中性子の発生効率が向上する。なお、前記凹凸形状には、波形、櫛形、歯形等が含まれる。
【0009】
第2の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状の高低差は、吐出口が直線で形成されたノズルにより形成する液体金属ターゲットの自由液面に生じる微小の波の波高より大きいことを特徴とする。
【0010】
即ち、この液体金属ターゲット形成装置は、液体金属ターゲットの陽子ビーム照射面に積極的に凹凸形状を形成するものであり、直線で構成した吐出口から噴出される液体金属ターゲットの自由液面の微小の波より大きくすることで、その表面積が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0011】
第3の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状に基づく中心線平均粗さRaが12.5a以上であることを特徴とする。
【0012】
通常のノズルの吐出口は、平滑面を形成するため、表面を機械加工により6.3a以下の表面粗さとする。この発明では、前記通常とは逆に表面粗さを大きくすることで液体金属ターゲットの自由液面に凹凸形状を形成する。これにより、陽子ビームを受け止める領域が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0013】
第4の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、更に、前記吐出口の凹凸形状は、液体金属を噴出することで形成する液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に定在波又は航跡波を生じさせる凹凸形状であることを特徴とする。なお、本発明において「定在波」とは、波の形状が一定に形成されるものをいう。
【0014】
即ち、前記凹凸形状は液体金属ターゲットの表面に定在波又は航跡波を生じさせるものであり、自然発生する不規則な波とは異なる。この定在波又は航跡波により液体金属ターゲットの表面積が増大して中性子発生効率を向上させる。
【0015】
第5の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、上記発明において、前記凹凸形状は、波形、櫛形又は鋸歯形であることを特徴とする。
【0016】
第6の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分を曲線形または斜線形で構成したことを特徴とする。
【0017】
第7の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口には複数の穴が連続的に且つ陽子ビーム進行方向に複数段に設けられ、各段の穴は陽子ビーム進行方向で重なり合っていることを特徴とする。
【0018】
前記吐出口の複数の穴から液体金属を噴射すると全体的に膜状で自由液面が凹凸形状となる液体金属ターゲットが形成される。上下方向で各段の穴が重なるように配置されているので、各穴から噴射された液体金属は上下方向で隙間が生じない。これにより、液体金属ターゲットの表面積が増大し、中性子の発生効率をより高めることができる。
【0019】
第8の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルの吐出口が平行流路を形成することを特徴とする。
【0020】
平行流路内で境界層が発達することで液体金属を吐出口から噴射するとき自由液面に乱れが生じ、凹凸形状が不規則に現れる。これにより、自由液面の表面積が増大し、中性子の発生効率が向上する。
【0021】
第9の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの内部に連通するガス供給口を設けたことを特徴とする。
【0022】
ガス供給口から例えばアルゴンガスを導入すると、二流体乱れ及び真空中への急速脱気により、自由液面が大きく乱れて不規則な凹凸形状が形成される。これにより、自由液面の表面積が増大し、中性子の発生効率が向上する。
【0023】
第10の発明に係る液体金属ターゲット形成装置は、陽子ビームを照射する空間に液体金属を膜状に噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口の長辺部分のエッジ部に上向き面を設けたことを特徴とする。
【0024】
前記吐出口の曲面部に沿って液体リチウムが持ち上げられるので、自由液面が不安定になり、乱れる。これにより液体金属ターゲットの自由液面の表面積が大きくなり、中性子の発生効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1にかかる液体金属ループを示す構成図である。
【図2】この液体金属ターゲット形成装置のノズルを示す説明図である。
【図3】このノズルにより形成した液体リチウムターゲットに対する陽子ビームの照射状態を示す模式図である。
【図4】液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。
【図5】液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るノズルを示す説明図である。
【図7】ノズルの吐出口の一部拡大図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係るノズルを示す説明図である。
【図9】図8に示したノズルにより形成したターゲットを示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係るノズルを示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態5に係るノズルを示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態6に係るノズルを示す説明図である。
【図13】従来の液体金属ループを示す構成図である。
【図14】従来の液体金属ループのノズルの吐出口を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る液体金属ループのターゲット形成装置を示す模式図である。図2は、この液体金属ターゲット形成装置のノズルを示す説明図である。液体金属ループ100は、液体リチウムの噴流からなるターゲットを形成するターゲット形成装置1と、ターゲット形成装置1に接続されたクエンチタンク2と、クエンチタンク2に接続したポンプ3と、ポンプ3に接続した熱交換器4とを備えている。なお、液体金属ループ100に接続される機器はこれらに限定されない。また、ターゲット形成装置1の正面には、液体リチウムターゲットTに対して陽子ビームを照射する加速器5が配置されている。
【0027】
このターゲット形成装置1は、陽子ビームが照射される領域Sを横切るように液体リチウムを膜状に噴射するノズル6と、噴射された液体リチウムを受けるディフューザからなる受け部7とから構成される。ノズル6は、ノズル先端に短冊形状の吐出口10が形成され、この吐出口10から高圧で噴射された液体リチウムは、膜状の噴流となる。噴流となった液体リチウムは受け部7により緩衝される。
【0028】
図2に示すように、ノズル6の吐出口10の形状は、短冊形状であって長辺11の一方側辺11aが波形の凹凸形状となる。なお、ノズル6は、吐出口10の形状が同図に示す形状になれば、単板を抜いた構成でも、複数の部材から構成しても良い。ノズル6の吐出口10の形状・寸法は、陽子ビームのエネルギー量及び液体リチウムの熱容量等により決定する。液体リチウムターゲットTに陽子ビームが照射されるとそのエネルギーにより液体リチウムが加熱される。このため、液体リチウムが沸騰しないように、液体リチウムの陽子ビームが照射される面積における熱容量に基づき、液体リチウムの流量が制御される。なお、前記凹凸形状は、少なくとも陽子ビームを受け止める領域を形成する面に形成すれば、その他は直線形状としても良い。
【0029】
例えば、前記ノズル6の吐出口10の形状は、長辺11が70mm、短辺12が2〜5mm、波の高さが1〜2mm、波長が数mmの凹凸形状である。当該ノズル6の凹凸形状は、少なくともノズル6の長辺11が通常の直線とする場合の表面粗さより大きいものとなる。即ち、当該ノズル6の凹凸形状は、研磨等の機械加工により表面粗さ(中心線平均粗さRa)を6.3a〜0.13aに平滑化するのとは逆に、その表面粗さ(中心線平均粗さRa)を12.5a以上、好ましくは50a以上として積極的に凹凸を形成するものである。
【0030】
別の観点では、この波形は積極的に液体リチウムの自由液面に定在波又は航跡波を形成するものであり、消極的に波が発生するときの当該波とは異なるものである。特許文献2に記載のように自由液面には流速に応じて微小な波が発生するところ、本発明のノズル6により大きな波を形成した場合、その波の表面に更に微小な波が形成されるものとなる。
【0031】
別の観点では、低い流速においても液体リチウムの自由液面に定在波を形成するものである。上記特許文献2に記載のように、液体リチウムの流れが低速の場合、平滑な自由液面となるため、ノズル形状自体に波形を設け、低速域においても自由表面に凹凸を形成可能とする。また、1mm程度の細かい定在波を低速域においても形成できる。
【0032】
図3は、このノズルにより形成した液体リチウムターゲットに対する陽子ビームの照射状態を示す模式図である。ノズル6から噴射された液体リチウムの噴流は、ノズル6の形状に従って膜状に噴射され、液体リチウムターゲットTを形成する。この液体リチウムターゲットTの表面(陽子ビームを受け止める領域S)は、ノズル6の長辺11が波形状になっていることから、当該波形状に応じたトタン板状の定在波面が形成される。定在波の山Tm又は谷Tvの方向は前記噴射方向となる。液体リチウム噴流の速度は、最大で20m/sである。このため、ノズル6の長辺部分の波形状がそのまま自由液面の定在波として形成される。
【0033】
定在波の自由液面は、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなる。この自由液面に陽子ビームPが照射されると、陽子がリチウムに衝突して中性子が発生する。陽子ビームPがリチウムを通過するとエネルギーが低下し、当該エネルギーが核反応の閾値を下回ると中性子が発生し難くなる。このため、中性子の発生は主に液体リチウムターゲット表面付近で起こることになる。この発明では、自由液面に定在波を発生させて陽子ビームPを受け止める領域の表面積を増やすことで中性子の発生効率を高めることができる。
【0034】
また、液体リチウムターゲットTの断面積と流量により熱容量が定まる。液体リチウムは融点が約180℃であるため、液体リチウムが蒸発し難いように液体リチウムターゲットTの厚さと速度を定める必要がある。特に、波形状の波頭付近は熱容量が小さく沸騰しやすいので、当該波頭付近における蒸発を防止できるように流速を制御するのが好ましい。
【0035】
このように、液体リチウムターゲットTの自由液面に定在波を形成して積極的に表面積を増やすことで、中性子の発生効率を飛躍的に高めることができる。
【0036】
図4は、上記液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。このノズル20は、吐出口21の全体形状が波形状となる。このような吐出口10の形状を有するノズル20であっても、前記同様に陽子ビームを受け止める領域の面積が増加するので、中性子の発生効率が向上する。このノズル20の場合、図2に示したノズル形状に比べて熱容量が小さくなるので、流速を高くして熱容量を確保するのが好ましい。このノズル20の波形の凹凸形状も上記図2と同様の寸法或いは加工精度に相当するものである。
【0037】
図5は、上記液体金属ターゲット形成装置のノズル形状の別の例を示す説明図である。このように、ノズル30の吐出口31の長辺32の凹凸形状を鋸歯状に形成しても良い。係る形状によっても、液体リチウムターゲットTの自由液面を定在波による凹凸形状に形成できる。このノズル30の波形の凹凸形状も上記図2と同様の寸法或いは加工精度に相当するものである。前記鋸歯状の他、突起を櫛状に形成しても同様の効果がある。
【0038】
(実施の形態2)
図6は、この発明の実施の形態2に係るノズルを示す説明図である。図7は、ノズルの吐出口の一部拡大図である。このノズル40の吐出口41は複数の円形の小穴42をノズル40の長辺方向及び短辺方向に連設したことを特徴とする。例えば、小穴42が長手方向に3列形成され、隣接する列とずらして設けられる。同図において、上段の小穴42と中段の小穴42とは、陽子ビームの進行方向Pdで重複するように配置される(図中重複領域Sd)。中段の小穴と下段の小穴42とについても同様である。これは、陽子ビームが液体リチウムターゲットを突き抜けないようにするためである。なお、下段の小穴42の列は省略しても良い。
【0039】
前記小穴42の径は、2mm以上3mm以下が好ましい。なお、上段の小穴42と中段の小穴42の陽子ビームの進行方向での間隔は、陽子ビームを多少斜めに照射した場合でも陽子が突き抜けないような間隔とするのが好ましい。
【0040】
このノズル40の吐出口41の形状によれば、小穴42により陽子ビームの受け止め領域に近似的に凹凸形状が形成され、その自由液面の凹凸形状がくっきりと現れるので、陽子ビームの受け止め領域の表面積が飛躍的に増加する。このため、中性子の発生効率が増加する。
【0041】
(実施の形態3)
図8は、この発明の実施の形態3に係るノズルを示す説明図であって、(a)は断面図(b)は斜視図である。図9は、図8に示したノズルにより形成したターゲットを示す説明図である。このノズル50は、ノズル50の吐出口51が平行流路となっている点に特徴がある。このノズル50では、平行流路内において境界層を発達させることで吐出口51から噴出した際の液体リチウムターゲットTの自由液面に凹凸形状を形成する。この凹凸形状は、液体リチウムターゲットTの自由表面に不規則に現れる。このため、平滑な自由液面に比べて陽子ビームを受け止め領域の表面積が増えるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0042】
また、ノズルを形成する部材の内側上面に流れを乱す突起を設けても良い。このようにすれば、平行流路の内部の突起により生じた乱流が吐出口から噴出した際の自由液面に凹凸を形成する。この場合も、前記凹凸形状が液体リチウムターゲットTの自由表面に不規則に現れるので、陽子ビームを受け止め領域の表面積が増えて、中性子の発生効率が高まる。また、陽子ビームを受け止め領域に凹凸形状を形成できる場合、内側下面に複数の突起を設けても良い。
【0043】
(実施の形態4)
図10は、この発明の実施の形態4に係るノズルを示す断面図である。このノズル60では、アルゴンガスの供給口61をノズル60の絞りの上流に設けた点に特徴がある。供給口61から液体リチウムの流れの中にアルゴンガスを導入すると、擬似分離流が構成されて吐出後の二流体乱れ及び真空中への急速脱気により、自由液面が大きく乱れて不規則な凹凸形状が構成される。なお、アルゴンガスは、図示しない真空排気ユニットにより吸引される。このようにすれば、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0044】
(実施の形態5)
図11は、この発明の実施の形態5に係るノズルを示す断面図である。このノズル70では、ノズル70の吐出口71の長辺部分のエッジ部に滑らかな上向きの曲面部72を付ける。この場合、吐出口71の曲面部72に沿って液体リチウムが持ち上げられるので、自由液面が不安定になり、乱れる。このようにすれば、平滑な自由液面に比べてその表面積が大きくなるので、中性子の発生効率が高くなる。
【0045】
(実施の形態6)
図12は、この発明の実施の形態6に係るノズルを示す説明図である。図12(a)に示すように、ノズル70の吐出口71の長辺部分72を全体的に曲線形としても良い。また、図12(b)に示すように、ノズル75の吐出口76の長辺部分77がV字の斜線形としても良い。いずれの場合でも、陽子ビームの照射方向に対して自由液面が斜めに形成されることになるので、陽子ビームを受け止める領域の表面積が増え、中性子の発生効率が高くなる。
【符号の説明】
【0046】
100 液体金属ループ
6 ノズル
10 吐出口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分が凹凸形状であることを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項2】
更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状の高低差は、吐出口が直線で形成されたノズルにより形成する液体金属ターゲットの自由液面に生じる微小の波の波高より大きいことを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項3】
更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状に基づく中心線平均表面粗さが12.5a以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項4】
更に、前記吐出口の凹凸形状は、液体金属を噴出することで形成する液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に定在波又は航跡波を生じさせる凹凸形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項5】
前記凹凸形状は、波形、櫛形又は鋸歯形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項6】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分を曲線形または斜線形で構成したことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項7】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口には複数の穴が連続的に且つ陽子ビーム進行方向に複数段に設けられ、各段の穴は陽子ビーム進行方向で重なり合っていることを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項8】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルの吐出口が平行流路を形成することを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項9】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの内部に連通するガス供給口を設けたことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項10】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を膜状に噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口の長辺部分のエッジ部に上向き面を設けたことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項1】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分が凹凸形状であることを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項2】
更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状の高低差は、吐出口が直線で形成されたノズルにより形成する液体金属ターゲットの自由液面に生じる微小の波の波高より大きいことを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項3】
更に、前記ノズルの吐出口の凹凸形状に基づく中心線平均表面粗さが12.5a以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項4】
更に、前記吐出口の凹凸形状は、液体金属を噴出することで形成する液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域に定在波又は航跡波を生じさせる凹凸形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項5】
前記凹凸形状は、波形、櫛形又は鋸歯形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体金属ターゲット形成装置。
【請求項6】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口のうち前記液体金属ターゲットの陽子ビームを受け止める領域を形成する部分を曲線形または斜線形で構成したことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項7】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口には複数の穴が連続的に且つ陽子ビーム進行方向に複数段に設けられ、各段の穴は陽子ビーム進行方向で重なり合っていることを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項8】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルの吐出口が平行流路を形成することを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項9】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの内部に連通するガス供給口を設けたことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【請求項10】
陽子ビームを照射する空間に液体金属を膜状に噴出することで当該空間に液体金属ターゲットを形成するノズルを有し、このノズルの吐出口の長辺部分のエッジ部に上向き面を設けたことを特徴とする液体金属ターゲット形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−79819(P2013−79819A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218633(P2011−218633)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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