説明

液体霧化装置

【課題】液体ミストの霧化位置の精度が高く、かつ霧化位置をマルチ化、狭ピッチ化できる液体霧化装置を提供する。
【解決手段】SAWデバイス10には、櫛形電極12の重なり幅の範囲内に、表面と裏面とを貫通する複数の液体供給孔14a〜14dが弾性表面波の伝搬方向に対して横切るように列設されており、SAWデバイスの裏面に開口する液体供給孔の入口部には、各液体供給孔に対して個別に液体を供給する複数の液体供給器20a〜20dが設けられる。液体供給孔からSAWデバイスの表面に供給された液体を弾性表面波によって霧化し、ミストの発生/停止の切り替えを、各液体供給孔に対する液体の供給を制御することで行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波デバイス(SAWデバイス)を用いて液体を霧化させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性表面波が伝搬しているSAWデバイスの表面に液体を供給すると、液体が弾性表面波のエネルギーを受け取って振動し、微小粒子となって飛翔する現象が知られている。この現象を利用して液体を霧化させる装置が提案されている。このような霧化装置により発生する液滴は超微細化できるので、インクジェットプリンタに利用した場合には、印刷物の微妙な濃淡をつけることができ、銀塩写真のような美しい印刷が可能になる。また、液滴が微細化されることにより速乾性が高まり、印刷物の扱いが容易になったり、積み重ね印刷が可能になるという利点がある。また、美容分野では微細化された美容液が肌に浸透しやすくなるなどの効果がある。
【0003】
特許文献1には、弾性表面波を生成するSAWデバイスと、SAWデバイスの表面に液体を供給する液体供給装置とを備え、液体供給装置が供給した液体をSAWデバイスの表面に膜状に分布させるための膜形成隙間を形成する液膜形成部材を有する構造の霧化装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、SAWデバイスと、SAWデバイスの表面に所定の隙間をあけて配置されたSAWカバーと、SAWデバイスの裏側に設けられたインクタンクと、インクタンク内のインクをSAWデバイスとSAWカバーとの隙間へ供給するようSAWデバイスに形成されたインク供給口とを備え、SAWデバイスとSAWカバーとの隙間へ供給されたインクを、SAWデバイスの櫛形電極の間に導くことで、インクを霧化させるインクジェット記録装置が開示されている。
【0005】
特許文献3には、インクミストを安定して飛翔させることができ、マルチエレメントとして高密度に集積させることができる、インクジェットプリンタが開示されている。特に、特許文献3の第5図(f)には、弾性表面波を発生するSAWデバイスに導波路を横切る方向に複数の孔を列設し、各孔に対応して複数の櫛形電極を形成したものが記載されている。この場合には、SAWデバイスの表面側に別部材が配置されないので、小型に構成できると共に、個々の孔のエッジ部によりインクミストの飛翔位置が決定されるので、霧化位置の精度が高くなるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−104974号公報
【特許文献2】特開平9−201961号公報
【特許文献3】特開平4−189145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、液膜形成部材がSAWデバイスの幅方向に連続して延びる構造であるため、霧化された液滴が意図しない領域に飛び散る可能性があり、霧化精度が劣る。また、液体供給装置がSAWデバイスの表面側に位置するため、SAWデバイスの特性に影響が生じる。さらに、SAWデバイスの表面と液体供給装置とを分離しようとすると、霧化装置全体として大型化してしまう。
【0008】
特許文献2では、液体供給装置であるインクタンクがSAWデバイスの裏面に位置している。SAWデバイスでは、櫛形電極の表面付近のみ励振されるため、裏面は振動せず静止状態となっている。裏面が振動しないため、インクタンクをSAWデバイスの裏面に密着配置しても、振動が阻害されることはなく、インクタンクがSAWデバイスの振動の影響を受けることもない。しかし、SAWデバイスの表面の親水部分に沿って移動させるために、SAWデバイスの表面にインク供給路を設けるためのSAWカバーを設ける必要があり、霧化装置として大型化する。また、液体の供給位置が精密に定まらないため、霧化位置がラフになるという問題がある。
【0009】
特許文献3では、各孔にインクを供給するために、SAWデバイスの裏面側に設けたインク室から毛細管現象などを利用して連続的にインクを供給している。各孔からのインクミストの発生/停止は、各孔に対応して設けられた櫛形電極の駆動/停止によって制御している。そのため、インクミストの発生位置(孔の位置)は櫛形電極のピッチによって制約される。しかし、隣り合う櫛形電極の間には干渉防止のために所定の隙間が必要であるため、櫛形電極のピッチを任意に小さくすることができない。その結果、インクミストの発生位置を狭ピッチ化することが難しい。
【0010】
そこで、本発明の目的は、液体ミストの霧化位置の精度が高く、かつ霧化位置をマルチ化、狭ピッチ化することができる液体霧化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、表面に互いに重なる少なくとも一組の櫛形電極が形成され、前記櫛形電極に電圧を印加することで弾性表面波が励振されるSAWデバイスと、前記SAWデバイスの裏面側に設けられ、前記SAWデバイスの表面に液体を供給する液体供給手段と、を備え、前記SAWデバイスの表面に供給された液体を前記弾性表面波によって霧化する液体霧化装置において、前記SAWデバイスには、前記櫛形電極の重なり幅の範囲内に、表面と裏面とを貫通する複数の液体供給孔が前記弾性表面波の伝搬方向に対して横切るように列設されており、前記液体供給手段は、前記SAWデバイスの裏面に開口する前記液体供給孔の入口部に接続され、前記各液体供給孔に対して液体の供給を制御する液体供給器を有していることを特徴とする液体霧化装置を提供する。
【0012】
本発明では、特許文献3と同様に、弾性表面波(レイリー波)を発生するSAWデバイスに導波路を横切る方向に複数の液体供給孔を列設しており、個々の液体供給孔のエッジ部によりミストを発生させる。そのため、ミストの発生位置を高精度化できる。一方、特許文献3では、複数の液体供給孔に対応して複数の櫛形電極を設け、これら櫛形電極の駆動/停止を制御することで、個々の液体供給孔からのミストの発生/停止を制御しているのに対し、本発明では、1組の櫛形電極の重なり幅の範囲内に、複数の液体供給孔をレイリー波の伝搬方向に対して横切るように列設し、液体供給孔に対して液体供給を制御する液体供給器を設けてある。つまり、幅方向に延びる広幅な櫛形電極を形成し、各液体供給孔への液体供給を液体供給器によって制御することで、ミストの発生/停止を制御している。そのため、櫛形電極のピッチに影響されずにミストの発生位置を任意に狭ピッチ化でき、高精度なマルチノズルを実現できる。
【0013】
本発明では互いに重なる1組の櫛形電極から発生する平行なレイリー波を、複数の液体供給孔に同時に与えるので、個々の液体供給孔では同一条件でミストを発生させることができる。そのため、個々の液体供給孔から発生するミストの量にばらつきが発生しにくい。特許文献3では、1つの櫛形電極を停止しても、隣の櫛形電極が駆動されていると、そのレイリー波が正面の液体供給孔だけでなく、隣の液体供給孔にも波及し、隣の液体供給孔からミストが発生する可能性があるのに対し、本発明では、液体供給孔への液体供給そのものを停止するので、液体が供給されない液体供給孔にレイリー波が作用しても、ミストの発生を確実に防止できる。
【0014】
液体供給器は単一でもよいし、複数個設けてもよい。液体供給器が単一の場合には、1種類の液体を霧化する目的で、各液体供給孔に対して1個の液体供給器から同じ液体を供給することができる。また、液体供給器が複数の場合には、複数の液体供給器をSAWデバイスの裏面に開口する液体供給孔の入口部に個別の連通路を介して接続し、各液体供給孔に対して個別に液体を供給するようにしてもよい。この場合には、個々の液体供給孔からミストを個別に発生させることができ、個々の液体供給器から異なる液体を供給することもできる。
【0015】
液体供給器による各液体供給孔への液体供給の切り替え方法として、例えば液体供給器は、SAWデバイスの表面とほぼ一致する液体供給孔内の第1液面位置と、SAWデバイスの表面からレイリー波が実質的に作用しない高さだけ後退した液体供給孔内の第2液面位置との2つの位置に、液面位置を制御可能とするのがよい。一般に、SAWデバイスではレイリー波が伝搬している部分は表面だけであり、液面が液体供給孔の表面から少し後退した位置になると、レイリー波は作用せず、ミストは発生しない。そこで、液体供給孔内の液面位置を僅かに変化させるだけで、ミストの発生/停止を制御することができる。
【0016】
液体供給器の構成としては、SAWデバイスの裏面側に配置された基板と、基板に形成された液体が貯留される加圧室と、加圧室と液体供給孔とを個別に繋ぐ連通路と、加圧室の1つの壁面を構成する振動板と、液体供給孔の液面が第1液面位置になるように液体を液体供給孔へ押し出すか、又は液体供給孔の液面が第2液面位置になるように液体を加圧室へ引き込むように、振動板の加圧室に対応する部分を個別に変位させる圧電体と、を含むものがよい。つまり、液体供給器としてインクジェットプリンタに広く使用されるピエゾデバイスを用いることで、簡単に液体供給器を構成することができる。
【0017】
液体供給孔は、レイリー波の伝搬方向に対して直角方向に並ぶように、1列または複数列設けられているのが望ましい。液体供給孔の配列方向をレイリー波の伝搬方向に対して直角方向とすることで、プリンタのような印刷物であれば、高速で分解能の高い印刷が可能となり、芳香剤やコスメ商品であれば、複数の溶液の混合霧化が可能となる。
【0018】
SAWデバイスの表面に形成された櫛形電極は、液体供給孔を挟んでその両側に形成された一対のペア電極からなるものでもよい。一方向の櫛形電極から発生する表面弾性波により霧化されたミストは、液体供給孔の垂直面に対して約30°偏向する傾向がある。相対する一対の櫛形電極から発生する表面弾性波により霧化すると、この偏向角が緩和される。また、霧化のパワーも増大する。一方向の櫛形電極から発生する表面弾性波を他方の櫛形電極で受けることにより、電力の回生が可能となり、効率が高まる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、SAWデバイスに複数の液体供給孔を形成し、その裏面側から液体を供給するので、SAWデバイスの表面側には別部材を設ける必要がなく、霧化装置を小型化でき、しかも複数の液体供給孔の個々のエッジ部によりミストを発生させるので、霧化精度が高くなる。また、1組の櫛形電極の重なり幅の範囲内に複数の液体供給孔を列設し、各液体供給孔に対して液体供給器から液体を供給するようにしたので、液体供給孔からのミストの発生/停止を高精度に制御できる。そのため、ミストの発生位置を任意に狭ピッチ化でき、さらなる高精度化と小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る液体霧化装置の第1実施形態の斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII −III 線断面図である。
【図4】本発明に係る液体霧化装置の第2実施形態の斜視図である。
【図5】図4に示す液体霧化装置の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
図1〜図3は、本発明にかかる液体霧化装置の第1実施形態を示す。この液体霧化装置Aは、SAWデバイス10と、その裏面側に設けられた液体供給手段20とを備えている。SAWデバイス10は、例えば圧電セラミック材料よりなる基板11の表面に一組の櫛形電極12を形成したものであり、櫛形電極12は互いに幅W1の範囲で重なっている。なお、基板11自体が圧電材料である必要はなく、非圧電基板の表面に圧電薄膜を形成したものでもよい。櫛形電極12に高周波電圧を印加すると、弾性表面波(レイリー波)Eが励振され、そのレイリー波Eが基板11上を矢印方向、すなわち櫛形電極が伸びる方向に対して垂直な方向に伝搬する。
【0022】
SAWデバイス10の櫛形電極12の近傍位置であって、レイリー波の伝搬領域には、基板11の表面と裏面とを貫通する複数(ここでは4個)の液体供給孔14a〜14dがレイリー波の伝搬方向に対して横切るように狭ピッチで列設されている。この実施例では、液体供給孔14a〜14dは、レイリー波の伝搬方向に対して直角方向に並ぶように一列に設けられている。両端に位置する液体供給孔14aと14dとの距離W2は、櫛形電極12の重なり幅W1より狭い。そのため、櫛形電極12によって励振されたレイリー波を、全ての液体供給孔14a〜14dに均等に作用させることができる。
【0023】
SAWデバイス10の裏面には、液体供給手段20を構成する基板21が接着固定されている。SAWデバイス10の裏面は振動しないので、基板21を固定してもSAWデバイス10の特性に影響を与えない。基板21には、液体供給孔14a〜14dに対応した個数の液体供給器20a〜20dが設けられている。すなわち、基板21の内部には下方に開口する複数の加圧室22a〜22dが形成されている。この実施例の加圧室22a〜22dは、横断面長方形で、液体供給孔14a〜14dと同じピッチ間隔で形成されている。なお、加圧室22a〜22dには図示しない液体供給通路を介して液体が供給されている。各加圧室22a〜22dの天井部には、吐出口25a〜25dが形成されており、これら吐出口25a〜25dは液体供給孔14a〜14dと個別に接続されている。
【0024】
基板21の下面には振動板23が接着固定され、加圧室22a〜22dの下部開口面は1枚の振動板23によって閉じられている。振動板23は所定のヤング率を持つ弾性板であり、金属板(例えば42Ni合金など)を用いてもよいし、ABS樹脂やPET樹脂などの樹脂シートを使用してもよい。なお、振動板23は個々の加圧室22a〜22dを閉じることができるように、個別に形成されていてもよい。振動板23の裏面側には、各加圧室22a〜22dと対応する位置に、圧電体24a〜24dが接着されている。圧電体24a〜24dとしてはPZT等の圧電セラミックスが望ましい。なお、振動板23が金属板である場合には、それぞれ1つの圧電体24a〜24dと振動板23とでユニモルフ型アクチュエータを構成してもよいし、振動板23が樹脂板である場合には、それ自身が屈曲振動する2層または積層体からなる圧電体24a〜24dを使用してバイモルフ型アクチュエータを構成してもよい。圧電体24a〜24dには直流電源26が切替器27a〜27dを介して接続されている(図3参照)。前記加圧室22a〜22d、振動板23、圧電体24a〜24dによって液体供給器20a〜20dが構成されている。
【0025】
圧電体24a〜24dを駆動して振動板23を上方へ屈曲させると、加圧室22a〜22d内の液体が吐出口25a〜25dを介して押し出され、その液面がSAWデバイス10の表面と一致する位置まで押し出される。なお、加圧室22a〜22dから押し出された液体が、表面張力によりSAWデバイス10の表面より盛り上がった状態となってもよい。この実施例では、SAWデバイス10と液体供給手段20とが密着しているため、吐出口25a〜25dが液体供給孔14a〜14dと直接接続され、液体供給孔14a〜14dのピッチが加圧室22a〜22dのピッチと同じである例を示したが、SAWデバイス10と液体供給手段20との間に中間部材が介在している場合には、吐出口25a〜25dと液体供給孔14a〜14dとを導管を介して接続してもよい。その場合には、加圧室22a〜22dの配列ピッチを液体供給孔14a〜14dのピッチと異なるピッチに設定できる。
【0026】
液体供給孔14a〜14dの口径は、例えばφ10〜50μm程度に小さくすることができる。そのため、圧電体24a〜24dの駆動による変位量が小さく、加圧室22a〜22dの容積変化が小さい場合でも、液面位置をSAWデバイス10の表面位置と所定高さHだけ後退した位置との間で切り替えることが可能である。SAWデバイス10の表面位置から後退位置までの高さHは、SAWデバイス10の表面を伝播するレイリー波の影響を実質的に受けない高さであり、例えば1mm程度でよい。
【0027】
ここで、前記構成よりなる液体霧化装置Aの作動を説明する。まず、櫛形電極12に高周波電圧を印加すると、レイリー波Eが励振され、そのレイリー波が基板11上を矢印方向に伝搬する。レイリー波の振幅は、櫛形電極に印加される電圧の大きさに依存する。レイリー波の伝搬領域には液体供給孔14a〜14dが形成されているので、レイリー波が全ての液体供給孔14a〜14dに均等に作用する。ここで、例えば切替器27a〜27dのうち切替器27bのみをONし、図3に示す左側から2番目の圧電体24bのみに電圧を印加すると、この圧電体24bと対応する振動板23の部分が上方へ変位し、加圧室22b内の液体を押し出す。押し出された液体は吐出口25bを通り液体供給孔14bへ供給され、液面がSAWデバイス10の表面位置まで上昇する。そのため、液面がSAWデバイス10の表面位置まで上昇した液体は、レイリー波によって縦波放射を受け、液体の表面を表面張力波(キャピラリ波)が伝搬し、このキャピラリ波により液滴が液体表面からちぎれ、液体の表面からミストMが発生する。特に、液体供給孔14bの前側(レイリー波の伝搬側)のエッジ部で主に液体ミストMが発生する。
【0028】
他の圧電体24a、24c、24dには電圧が印加されないので、加圧室22a、22c、22d内の液体は液体供給孔14a、14c,14dへ押し出されない。液体供給孔14a、14c,14dの液面はSAWデバイス10の表面から一定高さHだけ後退した位置にある。この高さHは、SAWデバイス10の表面を伝播するレイリー波の影響を受けない高さであり、そのため、液体供給孔14a、14c,14dからミストは発生しない。
【0029】
例えば櫛形電極に10MHzの周波数信号を印加すると、SAWデバイスから霧化される液体(水)の平均粒径はφ3μm以下になると考えられる。これは0.014plに相当し、インクジェット方式(約1pl)と比べて、約1/70の粒径になる。そのため、プリンタに利用した場合には、印刷物の濃淡をつけることができ、美しい印刷が可能になる。また、液滴が微細化されることにより速乾性が高まり、積み重ね印刷が可能になる。さらに、美容分野に用いた場合、微細化された美容液が肌に浸透しやすくなるなどの効果がある。特に、各液体供給孔から個別にミストを発生させることができるので、各液体供給孔に異なる種類の液体(例えば色の異なるインクや異なる成分の美容液など)を供給することもできる。
【0030】
このように、複数の液体供給器20a〜20dを個別に制御することにより、個々の液体供給孔14a〜14dから個別に液体ミストMを発生させることができる。レイリー波を発生する櫛形電極として、従来のように各液体供給孔に対応した櫛形電極を形成する必要がないため、液体供給孔のピッチを櫛形電極のピッチと関係なく自由に設定できる。従来では、液体供給孔のピッチが櫛形電極のピッチに制約されるので、1mmピッチ以下にはできなかったが、本発明では液体供給孔14a〜14dのピッチを100μm以下に設定でき、狭ピッチのマルチノズルを構成できる。また、櫛形電極から発生する平行なレイリー波を複数の液体供給孔に同時に与えるので、個々の液体供給孔では同一条件でミストを発生させることができる。そのため、液体供給器20a〜20dを切り替えたときに、個々の液体供給孔14a〜14dから発生するミストの量にばらつきが発生しにくい。さらに、本発明では、液体供給孔への液体供給を停止することでミストの発生を停止させるので、液体が供給されない液体供給孔にレイリー波が作用しても、ミストの発生を確実に防止できる。
【0031】
〔第2実施形態〕
図4〜図6は、本発明にかかる液体霧化装置の第2実施形態を示す。この液体霧化装置Bは、液体供給孔14a〜14dを間にしてその両側にペアとなる櫛形電極12,13を形成したものであり、第1実施形態と共通する部分には同一番号を付して重複説明を省略する。
【0032】
この実施形態では、ペアとなる櫛形電極12,13から液体供給孔14a〜14dに対して両側からレイリー波を与えることができるので、液体供給孔14a〜14dの両側のエッジ部からミストMを発生させることができる。そのため、霧化のパワーが増大し、ミストの発生効率が向上する。なお、一方向の櫛形電極から発生するレイリー波により霧化されたミストは、液体供給孔の垂直面に対して約30°偏向する傾向があるが、相対する一対の櫛形電極から発生するレイリー波により霧化すると、この偏向角が緩和されるという利点がある。
【0033】
この実施形態では、図5、図6に示すように、加圧室22a〜22dを液体供給孔14a〜14dを間にして交互に配置し、これら加圧室22a〜22dから液体供給孔14a〜14dへ液体を供給するように連通路(吐出口)25a〜25dを形成してある。そのため、加圧室22a〜22dのピッチを液体供給孔14a〜14dのピッチの2倍に広げることができ、圧電体24a〜24dの幅寸法(液体供給孔の配列方向の寸法)を拡大できる。これにより、圧電体24a〜24dの駆動による変位量を増大させることができる。
【0034】
本発明において、液体供給孔は一列に設けたものに限らず、多列に構成してもよい。その場合、第1列目の孔に対して第2列目の孔を、各孔の半ピッチずつずらしてジグザグ状としてもよい。
【0035】
前記実施例では、液体供給手段として圧電体と振動板とを有するピエゾデバイスを用いた例を示したが、これに限るものではなく、加熱により液体を沸騰させて吐出する加熱装置や、毛細管現象を利用した加圧組み上げ装置等を用いることも可能である。また、前記実施例では1つの液体供給器から1つの液体供給孔に対して液体を個別に供給する例を示したが、1つの液体供給器から複数の液体供給孔へ液体を供給してもよいことは勿論である。
【0036】
液体供給孔の位置は前記実施形態に限るものではなく、例えば櫛形電極のパターン上、パターン間またはパターンの間欠部分に位置させてもよい。この場合には、レイリー波の振動エネルギーを効率よく霧化に変換することが可能になる。さらに、液体供給孔の配列方向は、レイリー波の伝搬方向に対して直角方向である必要はなく、所定の角度をもって交差しておればよい。
【符号の説明】
【0037】
A,B 液体霧化装置
10 SAWデバイス
12 櫛形電極
14a〜14d 液体供給孔
20 液体供給手段
20a〜20d 液体供給器
21 基板
22a〜22d 加圧室
23 振動板
24a〜24d 圧電体
25a〜25d 吐出口(連通路)
26 直流電源
27a〜27d 切替器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に互いに重なる少なくとも一組の櫛形電極が形成され、前記櫛形電極に電圧を印加することで弾性表面波が励振されるSAWデバイスと、
前記SAWデバイスの裏面側に設けられ、前記SAWデバイスの表面に液体を供給する液体供給手段と、を備え、
前記SAWデバイスの表面に供給された液体を前記弾性表面波によって霧化する液体霧化装置において、
前記SAWデバイスには、前記櫛形電極の重なり幅の範囲内に、表面と裏面とを貫通する複数の液体供給孔が前記弾性表面波の伝搬方向に対して横切るように列設されており、
前記液体供給手段は、前記SAWデバイスの裏面に開口する前記液体供給孔の入口部に接続され、前記各液体供給孔に対して液体の供給を制御する液体供給器を有している、ことを特徴とする液体霧化装置。
【請求項2】
前記液体供給手段は、前記SAWデバイスの裏面に開口する前記液体供給孔の入口部に個別の連通路を介して接続され、前記各液体供給孔に対して個別に液体を供給する複数の液体供給器を有していることを特徴とする、請求項1に記載の液体霧化装置。
【請求項3】
前記液体供給器は、前記SAWデバイスの表面とほぼ一致する前記液体供給孔内の第1液面位置と、前記SAWデバイスの表面から前記弾性表面波が実質的に作用しない高さだけ後退した前記液体供給孔内の第2液面位置との2つの位置に、液面位置を制御可能であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体霧化装置。
【請求項4】
前記液体供給器は、前記SAWデバイスの裏面側に配置された基板と、当該基板に形成された液体が貯留される加圧室と、前記加圧室と前記液体供給孔とを個別に繋ぐ連通路と、前記加圧室の1つの壁面を構成する振動板と、前記液体供給孔の液面が前記第1液面位置になるように液体を液体供給孔へ押し出すか、又は前記液体供給孔の液面が前記第2液面位置になるように液体を加圧室へ引き込むように、前記振動板の前記加圧室に対応する部分を個別に変位させる圧電体と、を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の液体霧化装置。
【請求項5】
前記液体供給孔は、前記弾性表面波の伝搬方向に対して直角方向に並ぶように、1列または複数列設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の液体霧化装置。
【請求項6】
前記SAWデバイスの表面に形成された櫛形電極は、前記液体供給孔を挟んでその両側に形成された一対のペア電極からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の液体霧化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−24646(P2012−24646A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162418(P2010−162418)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】