説明

液体食品材料の交流高電界殺菌方法

【課題】 液体食品材料を交流高電界殺菌するにあたり、電極間のスパークの発生を防止する。
【解決手段】 流路の流れ方向を横切る方向に対向するように一対の電極を配置し、電極間に対向面の間隔1mm当り500V以上の交流電圧を加えながら、流路内に液体食品材料を連続的に流して、電極間を通過する液体食品材料を交流高電界殺菌する方法において、電流をI(アンペア)、電極間の間隔をG(mm)、各電極の対向面の面積をS(mm2)とし、電流値Iを、GおよびSに応じて、I/G×S1/2≦2.0を満たすように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は果汁や肉汁、野菜スープ、飲料水等の各種液体食品材料を、交流高電界殺菌法によって連続的に殺菌する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、果汁や肉汁、野菜スープ、飲料水等の液体食品材料を殺菌するための方法としては、煮沸により加熱する方法等が広く適用されているが、その場合充分な殺菌効果が得られなかったり、逆に充分に殺菌しようとすれば食品材料中の有用な成分、例えばビタミンC等を破壊してしまったりする問題があった。
【0003】
そこで最近に至り、対向する狭い電極間の間隙に液体食品材料を連続的に流すとともに、その電極間に交流の高電圧を印加して、電極間に生成される交流高電界により連続的に殺菌する方法、すなわち交流高電界殺菌法が、例えば特許文献1、特許文献2等によって提案されている。
【0004】
この交流高電界殺菌法によれば、電極間を液体食品材料が通過する際に、液体食品材料が高温に加熱されるだけでなく、交流高電界による殺菌効果が得られ、そのため液体食品材料が高温となる時間が極めて短時間となり、効果的に殺菌することができると同時に、食品材料成分の破壊を最小限に抑えることができる。
【0005】
【特許文献1】特許第2848591号公報
【特許文献2】特許第2964037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような交流高電界殺菌法について、本発明者等がさらに実用化のための実験・研究を行なったところ、次のような問題があることが判明した。
【0007】
交流高電界殺菌では、対向電極間の0.1〜3mm程度の著しく狭い間隙に高電圧を印加するため、条件によっては電極間にスパークが発生してしまうことがある。このように電極間にスパークが発生すれば、電極の表面が急激に著しい高温となって局部的に溶融したり、電極表面に食品材料成分が焦げ付いたりしてしまう。そしてまた上述のようにスパークが発生すれば、過大電流が流れて電源出力が急激に不安定となり、そのまま安定した操業行なうことが困難となる。また前述のように一旦スパークの発生により電極表面が局部的に溶融したり電極表面に食品材料成分が焦げ付いたりした電極をそのまま再使用すれば、表面の凹凸によってさらにスパークが発生しやすくなって、実際上操業が不可能となる。
【0008】
ここで、交流高電界殺菌装置の電源には、通常は過大電流が流れないように安全装置が設けられており、そのため上述のようにスパークの発生により過大電流が流れれば、直ちに電源が停止されるのが一般的ではあるが、その場合、操業の一時的停止を招いて生産性を阻害してしまう。また仮に電源装置が停止されたとしても、スパーク発生から電源停止までの間において電極表面に食品材料成分が焦げ付いたり、電極表面の局部的な溶融により、電極の再使用が困難となったりすることを免れ得ないのである。
【0009】
以上のような事情から、本発明者等が交流高電界殺菌を行なうにあたってスパークの発生を抑え得る条件を見出すべく種々実験・検討を重ねたところ、電極の対向面の面積および電極間の間隔と、電流値との関係を適切に規制することによって、確実かつ安定してスパークの発生を抑え得ることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0010】
したがってこの発明は、交流高電界殺菌方法において、電極表面への食品材料成分の焦げ付きや電極表面の溶融を安定して回避して、操業を安定化させるとともに生産性を向上させるべく、電極間でのスパークの発生を確実に防止し得る方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のように交流高電界殺菌法においてスパークの発生を確実に抑えるべく、交流高電界殺菌を実際に行なうにあたっての各種条件とスパークの発生状況との関係を見出すべく、本発明者等が種々実験研究を重ねたところ、スパークの発生には電極の表面積(各電極の対向面の面積)と電流値との関係が大きな影響を及ぼしていることを見出した。すなわち、同じ電流値でも、電極の対向面の面積が小さいほどスパークが発生しやすくなることを見出した。但し、電極対向面の面積は、一次関数の形式でスパークの発生に影響を与えるのではなく、電極対向面の面積の平方根の値がスパークの発生に影響を与えていることが判明した。さらに、同じ電流値、同じ電極対向面面積でも、電極間の間隔が変化すれば、スパークの発生状況も変化することが確認されている。
【0012】
そしてこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、電流値をI(A:アンペア)、電極間の間隔をG(mm)、各電極の対向面の面積をS(mm2)とすれば、
P=I/G×S1/2
で定まる値Pを2.0以下に規制することによって、スパークの発生を確実かつ安定して抑止し得ることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0013】
したがって請求項1の発明は、液体食品材料を流すべき流路内に、その流路の流れ方向を横切る方向に所定間隔を置いて対向するように少なくとも一対の電極を配置しておき、その一対の電極間にその対向面の間隔1mm当り500V以上の交流電圧を加えながら、流路内に液体食品材料を連続的に流して、電極間に生じる交流高電界により、電極間を通過する液体食品材料の殺菌を連続的に行なう方法において、前記電極間に流す電流をI(アンペア)、対向する一対の電極間の間隔をG(mm)、各電極の対向面の面積をS(mm2)とし、電極間に流す電流Iを、電極間の間隔Gおよび各電極の対向面の面積Sに応じて、
I/G×S1/2≦2.0
を満たすように制御することを特徴とするものである。
【0014】
また請求項2の発明の液体食品材料の交流高電界殺菌方法は、請求項1に記載の液体食品材料の交流高電界殺菌方法において、電極間に流す電流Iを、電極間の間隔Gおよび各電極の対向面の面積Sに応じて、
I/G×S1/2≦1.5
を満たすように制御することを特徴とするものである。
【0015】
さらに請求項3の発明は、前記電極として、チタン、チタン合金、白金のうちいずれかを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の交流高電界殺菌方法によれば、電極間にスパークが発生することを防止することができ、そのためスパーク発生により電極表面が局部的に溶融したり食品材料成分が焦げ付いたりすることを有効に防止できるとともに、操業を安定化させて、長時間連続殺菌を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図3にこの発明の交流高電界殺菌方法を実施している状況の一例を示す。
【0018】
図1〜図3において、果汁、肉汁、野菜スープ等の液体食品材料を連続的に流すための流路1は、例えば断面矩形状をなすように電気絶縁材料により作られている。この流路1の中途には、流路1内を流れる液体食品材料の流れを横切る方向に、狭い間隔G(例えば0.1〜3mm程度)をもって対向する一対の電極3A,3Bが配置されている。これらの電極3A,3Bは、例えばチタンやチタン合金、あるいは白金の如く、耐食性が良好でかつ導電性の高い金属によって作られたものであり、図示の例ではそれぞれ直方体形状に作られており、それぞれの一つの方形の側面31A,31Bが相互に平行となって、流路1の流れ方向に対し直交する方向に対向するように配置されている。したがって側面31A,31Bが電極面となっている(以下ではこの側面を電極面31A,31Bと指称する)。そして電極3A,3Bは交流電源装置5に電気的に接続されており、電極3A,3B間に交流の高電圧が加えられるようになっている。
【0019】
以上のような図1〜図3に示される構成の装置を用いて液体食品材料の殺菌を行なうにたっては、その液体食品材料を例えば図1の下方から所定の圧力で供給して、流路1内で連続的に上方に流動移送させる。また電極3A,3B間に、例えば5kHz〜20kHz程度の周波数の交流電圧を、電極3A,3B間の間隔1mm当り500V以上の電圧で印加する。このようにすれば、液体食品材料が電極3A,3B間の間隙を通過する際に、その液体食品材料が急激に温度上昇すると同時に、交流高電界にさらされて、液体食品材料中の大腸菌等の菌が殺菌される。
【0020】
ここで、この発明の方法の場合は、特に各電極3A,3Bの対向面の面積、すなわち各電極面31A,31Bの面積S(mm2)および電極面31A,31Bの相互の間隔G(mm)に応じて、電流値I(アンペア)を
P=I/G×S1/2
で規定されるPの値が2.0以下となるように制御する。これによって、電極3A,3B間でスパークが発生することを安定して防止することが可能となる。このようにしてスパークの発生を防止し得る結果、長時間安定した操業を行なうことが可能となる。またスパークの発生によって電極面31A,31Bが局部的に溶融したり、液体食品材料の成分が焦げ付いたりすることがないため、同じ電極を繰返し使用することが可能となる。
【0021】
ここで、上記のPの値が2.0を越える場合には、スパークが発生しやすくなって、上述のような効果を得ることができなくなる。
【0022】
なお、より確実かつ安定してスパークの発生を防止するためには、前記Pの値が1.5以下となるように制御することが望ましい。
【0023】
なおまた、Pの値が小さければ小さいほどスパークは発生しにくくなるから、Pの値の下限値はこの発明では本質的ではなく、したがって特に規定しない。但し、Pの値が過少であれば充分な殺菌効果が得られなくなるから、通常は0.5程度以上となるように規制することが望ましい。
【0024】
なおまた電極3A,3Bに加える交流高電界の電圧値が電極3A,3B間の間隔1mm当り500V未満の場合には、交流高電界による充分な殺菌効果が得られないから、電圧値は500V/mm以上とする。但し、より確実かつ充分な殺菌効果を得るためには、電極間間隔1mm当り1000V以上の電圧とすることが望ましい。
【0025】
さらに図1〜図3の例では、電極面31A,31Bの形状を矩形状(方形状)としているが、電極面の形状はこれに限られるものではなく、例えば円形としても良いことはもちろんである。
【0026】
また図1〜図3の例では、流路1に、一対の電極3A,3Bを配した構成としているが、実際の殺菌装置では、流路1の長さ方向(流れ方向)に沿って二対以上の電極を配置しておき、2段以上の多段で交流高電界殺菌を行なっても良いことはもちろんである。
【実施例】
【0027】
図1〜図3に示すような装置を用いて、実際に交流高電界殺菌を実施した。電極3A,3Bとしては、チタン電極を用いた。電極面31A,31Bの形状は方形とし、1辺(流路に対して直行する辺)の長さWは6mmで共通とし、他辺(流路と平行な方向の辺)の長さLが4mmのもの、16mmのもの、24mmのもの、および32mmのものを用いた。したがって電極対向面の面積Sとしては、24mm2、96mm2、144mm2、192mm2の4種である。また電極の対向面の間隔Gは、1mmおよび2mmの2種に設定した。
【0028】
このような種々の条件下で、液体食品材料としてりんご果汁(100%果汁)を用いて、流量1l/minで連続的に流しながら、20kHzの交流高電圧を600Vもしくは1200Vで加え、交流高電界殺菌を連続的に行なった。
【0029】
電流値Iを種々変化させて、電極間でのスパーク発生件数を調べたところ、表1、表2に示す結果が得られた。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1、表2に示す結果から明らかなように、I/G×S1/2で規定されるPの値が2.0以下の本発明例では、いずれの場合もスパークの発生を有効に防止することができた。一方、Pの値が2.0を越える比較例の場合は、いずれの場合もスパークが発生してしまった。
【0033】
なお表1、表2には特に記載しなかったが、本発明例ではいずれの場合も充分な殺菌効果が得られたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の交流高電界殺菌方法を実施している状況の一例を略解的に示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】図1のIII−III線における断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 流路
3A,3B 電極
31A,31B 電極面(対向面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体食品材料を流すべき流路内に、その流路の流れ方向を横切る方向に所定間隔を置いて対向するように少なくとも一対の電極を配置しておき、その一対の電極間にその対向面の間隔1mm当り500V以上の交流電圧を加えながら、流路内に液体食品材料を連続的に流して、電極間に生じる交流高電界により、電極間を通過する液体食品材料の殺菌を連続的に行なう方法において、
前記電極間に流す電流をI(アンペア)、対向する一対の電極間の間隔をG(mm)、各電極の対向面の面積をS(mm2)とし、電極間に流す電流Iを、電極間の間隔Gおよび各電極の対向面の面積Sに応じて、
I/G×S1/2≦2.0
を満たすように制御することを特徴とする、液体食品材料の交流高電界殺菌方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体食品材料の交流高電界殺菌方法において、
電極間に流す電流Iを、電極間の間隔Gおよび各電極の対向面の面積Sに応じて、
I/G×S1/2≦1.5
を満たすように制御することを特徴とする、液体食品材料の交流高電界殺菌方法。
【請求項3】
前記電極として、チタン、チタン合金、白金のうちいずれかを用いることを特徴とする、請求項1に記載の液体食品材料の交流高電界殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−197887(P2006−197887A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15110(P2005−15110)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【Fターム(参考)】