説明

液体食品材料の交流高電界殺菌装置

【課題】 液体食品材料の交流高電界殺菌装置として、スパーク発生頻度を抑えた装置を提供する。
【解決手段】 平行一対の電極板間に絶縁性のスペーサ板が挟まれ、スペーサ板に、板面を貫通しかつ板面に沿って伸びる流路区画用の長孔が形成され、一方の電極板に長孔の一方側の端部に対応する位置に流入口が、他方の電極板に長孔の他方側の端部に対応する位置に流出口が、それぞれ開口形成されて、流入口から長孔を経て流出口に至る流路が区画形成され、スペーサ板の長孔の周縁部分と各電極板との間に、それぞれOリングが介挿され、そのOリングにより前記流路が外部に対してシールされた構成とされてなる交流高電界殺菌装置において、スペーサ板の両板面における長孔の周縁部分に、長孔の周方向に連続する凹溝を形成し、かつ凹溝に対応する電極板の表面を平坦面とし、凹溝にOリングの横断面の少なくとも一部を嵌入させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、果汁や肉汁、野菜スープ、牛乳、飲料水等の各種液体食品材料を、交流高電界殺菌法によって連続的に殺菌する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、果汁や肉汁、野菜スープ、牛乳、飲料水等の液体食品材料を殺菌するための方法としては、液体食品材料を加熱して高温により殺菌する方法が多用されている。この場合、連続的に液体食品材料を殺菌する装置としては、管路内に液体食品材料を連続的に流しながら、その管路を外側から適宜の加熱手段により加熱して、管路内の液体食品材料を間接的に加熱することにより殺菌する方式のものが一般的である。
【0003】
ところで上述のように外部からの加熱によって液体食品材料を殺菌する場合、その温度に液体食品材料をある程度の時間保持しておく必要がある。特に加熱温度が低ければ、加熱保持時間を長くして確実に殺菌されるようにする必要がある。一方、加熱温度を相対的に高温とすれば、加熱保持時間を相対的に短くすることが可能であるが、加熱温度が高温となれば、液体食品材料中の有用な成分、例えばビタミンC等の栄養成分が破壊されたり、香りをもたらす香気成分や色調をもたらす色調成分が破壊されたり変化したりしてしまって、商品価値を損なってしまうおそれがあるから、加熱温度を高温にするにも限界がある。
【0004】
したがって外部加熱により液体食品材料を殺菌する場合、液体食品材料中の栄養成分や香り、色が損なわれない程度の温度で、ある程度長い時間保持することが必須である。例えば外部加熱方式により115℃で殺菌する場合、充分に殺菌するためには4分以上保持する必要があるとされている。そしてこのような外部加熱を適用して連続方式により加熱殺菌する場合は、外部から加熱する部分の管路を長くすることにより、その加熱部中に液体食品材料が滞在する時間を充分に確保せざるを得ず、そのため加熱装置全体のライン長が長くならざるを得ないから、設備全体が大型化して、設備コストが大きくならざるを得なかった。
【0005】
ところで最近に至り、対向する狭い電極間に液体食品材料を通過させるとともに、その電極間に交流の高電圧を印加して、電極間に生じる交流高電界によって殺菌する方法、すなわちいわゆる交流高電界殺菌法が、例えば特許文献1、特許文献2等によって提案されている。
【0006】
この交流高電界殺菌法によれば、電極間を液体食品材料が通過する際に液体食品材料が高温により加熱殺菌されるばかりでなく、交流高電界による殺菌効果が与えられ、そのため液体食品材料を高温に曝す時間を短時間とすることが可能となり、その結果食品材料成分の破壊や変化を最小限に抑えることが可能となる。
【特許文献1】特許第2848591号公報
【特許文献2】特許第2964037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特許文献1や特許文献2には、交流高電界殺菌技術の基本的な考え方は示されているものの、この交流高電界殺菌技術を、液体食品製造メーカーにおいて実際の量産的規模での液体食品製造過程に導入するべく、完全連続化を行なって大量の液体食品材料を効率良く連続殺菌を行なうには種々の不都合があり、特に連続的に流れる液体食品材料に交流高電界を印加する電極部分付近の具体的構成については、未だ実用化できる程度には至っていないのが実情である。
【0008】
そこで本発明者等は、量産的規模での交流高電界殺菌方法の実用化に向けて、その装置の研究開発を続けている。そしてその開発過程において、連続的に供給される液体食品材料に交流高電界を印加する部分(電極部分付近)の具体的構成として、図10〜図13に示すような装置を既に開発し、実用化に向けての更なる実験・検討を重ねている。
【0009】
ここで図10〜図13に示される装置について説明すれば、チタン等の耐食性導電材料からなる平行一対の電極11A、11Bの間に、PEEK樹脂等の耐熱性を有する電気絶縁材料からなる全体として平板状のスペーサ板13が挟まれており、そのスペーサ板13には、一方の板面から他方の板面まで貫通しかつ板面に沿った方向(図示の例では上下方向)に伸びる長孔15が形成されている。この長孔15は、後述するように流路17を区画形成するためのものである。
【0010】
さらに前記一対の電極板11A、11Bのうちの一方の電極板11Aには、スペーサ板13の長孔15の一方の端部15Aに対応する位置に流入口19Aが形成され、また他方の電極板11Bには、スペーサ板13の長孔15の他方の端部15Bに対応する位置に流出口19Bが形成されている。また電極板11Aの流入口19Aの外側には、フランジ付き中空短円筒状の導入部材21Aが、絶縁パッキング23Aを介して複数のビス25により取付けられており、電極板11Bの流出口19Bの外側には、同様にフランジ付き中空短円筒状の導出部材21Bが、絶縁パッキング23Bを介して複数のビス27により取付けられている。
【0011】
そして電極板11Aにおけるスペーサ板13の側の面の所定の位置、すなわちスペーサ板13の長孔15の周縁部に対応する位置には、長孔15の周縁部に沿って連続するOリング嵌入用の凹溝29Aが形成され、一方電極板11Bにおけるスペーサ板13の側の面の所定の位置、すなわちスペーサ板13の長孔15の周縁部に対応する位置にも、長孔15の周縁部に沿って連続するOリング嵌入用の凹溝29Bが形成されている。そしてこれらの凹溝29A、29Bに、それぞれシリコンゴム等の耐熱性に優れた絶縁性電気絶縁材料からなるOリング31A、31Bの横断面の少なくとも一部を嵌入させた状態で、電極板11A、11Bの片側もしくは両側から絶縁ワッシャ33を介して複数のビス(あるいはボルト・ナット)35により両電極11A、11B間を締め付けて、Oリング31A、31Bを弾性圧縮変形させた状態で全体として装置が組立てられる。このとき、スペーサ板13の長孔15により形成される流路17は、外部に対して電極板11A、11Bとスペーサ板13との間がOリング31A、31Bによってシールされることになる。
【0012】
なお電極板11A、11Bにおけるビス貫通孔37には、絶縁カラー39が挿着されている。また電極板11A、11Bにおける符号41の部分は、ビス螺合用のねじ孔であり、さらにスペーサ板13における符号43の部分は、ビス挿通用の貫通孔である。
【0013】
以上のような図10〜図13に示す装置を用いて果汁等の液体食品材料を交流高電界法により殺菌するにあたっては、殺菌すべき対象となる液体食品材料を外部から導入部材21Aに連続的に導入する。導入部材21Aに連続的に導入された液体食品材料は、電極板11Aの流入口19Aを経て、スペーサ板13の長孔15によって区画形成された流路17に流入し、その流路17内を長孔15の長さ方向に沿って流れて、電極板11Bの流出口19Bを経て、導出部材21Bから外部へ排出される。そしてその間、電極板11A、11Bの間に交流高電圧を加えることによって、長孔15内の流路17中において液体食品材料の殺菌が連続的に行なわれる。ここで、電極板11A、11Bの間に加える交流高電圧は、電極板11A、11Bの間の間隔(≒スペーサ板13の厚み)の1mm当り50乃至100V以上、通常は1mm当り数百V以上の電圧とする。また電極板11A、11B間の間隔自体は、流量等によっても異なるが、0.5mm程度から20mm程度の狭い幅とするのが一般的であり、したがって実際に電極板11A、11B間に加える電圧は、数百V以上、通常は1000〜2000V以上の高い電圧となる。
【0014】
ところで上述のような図10〜図13に示される交流高電界殺菌装置を用いて、実際に液体食品材料を殺菌する実験を繰返したところ、電極板11A、11B間にスパークが発生しやすいことが判明した。
【0015】
このように電極板間にスパークが発生すれば、電極板の表面が急激に著しい高温となって局部的に溶融もしくは損傷したり、電極表面に液体食品材料成分が焦げ付いたりしてしまう。またスパークが発生すれば、急激に過大電流が流れて電源出力が急激に不安定となったり、電極装置が損傷したりして、そのまま安定した運転を行なうことが困難となる。また前述のように一旦スパークの発生により電極表面が局部的に溶融したり電極表面に食品材料成分が焦げ付いたりした電極を、そのまま再使用すれば、電極表面の凹凸によってさらにスパークが発生しやすくなって、実際上運転が全く不可能となってしまう。
【0016】
ここで、交流高電界殺菌装置の電源には、過大電流が流れないように安全装置を設けておくことが多く、その場合スパークの発生により過大電流が流れれば、直ちに電源が停止されるが、その場合でも、操業の一時的停止を招いて生産性を阻害してしまう。また仮に電源装置が停止されたとしても、スパーク発生から電源停止までの間において電極表面に食品材料成分が焦げ付いたり、電極表面が局部的に溶融もしくは損傷したりすることにより、電極の再使用が困難となることが多いのである。
【0017】
交流高電界殺菌法においては、電極間距離が狭く、その一方、電極間には著しく高い電圧を加えるため、そもそもスパークが発生しやすい状況下であるが、実際にスパークが発生してしまえば、前述のような種々の不都合を招くから、スパーク発生はできるだけ防止することが強く望まれる。
【0018】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、液体食品材料を交流高電界殺菌法により連続的に殺菌するための装置として、スパークの発生頻度を従来よりも格段に小さくし、これにより前述のような不都合を招くおそれが少ない交流高電界殺菌装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述のような課題を解決して、スパーク発生頻度の少ない液体食品材料連続交流高電界殺菌装置を提供するべく、本発明者等は前述の図10〜図13に示す装置におけるスパーク発生状況について詳細に検討したところ、図10〜図13に示す装置の構造では、次のような点からスパークが発生しやすくなっていることが判明した。
【0020】
すなわち、電極板間に交流高電圧を印加した場合、対向する電極の表面に尖った部分(エッジ部分)が存在すれば、そのエッジ部分に局部的に電流が集中し、その部分からスパークが発生しやすい。しかるに図10〜図13に示す装置の場合、電極板11A、11Bの表面に、Oリング嵌入用の凹溝29A、29Bがスペーサ板13の長孔15の周縁部に沿って連続して形成されており、この凹溝29A、29Bにおける内周端には、図13に拡大して示すように、それぞれ尖ったエッジ部45A、45Bが存在し、また流入口19A、流出口19Bの内側(流路側)開口端にもそれぞれエッジ部47A、47Bが存在する。なおこれらのエッジ部のうち、流入口19A、流出口19Bの内側開口端のエッジ部47A、47Bの半周分は、凹溝29A、29Bの内周端のエッジ部45A、45Bと共通する部分である。
【0021】
このようなエッジ部45A、45B、47A、47Bが存在する状況下において、電極板11A、11B間に交流高電界を加えれば、これらのエッジ部45A、45B、47A、47Bに極端な電流集中が生じて、スパークが発生しやすいことが判明した。そしてこれらのエッジ部のうち、特にエッジ部45A、45Bは、スペーサ板13の長孔15の周縁部の全長にわたって連続しているから、流路17の縁部の全周の長い距離にわたって存在していることになり、そのためエッジ部45A、45Bに対する電流集中に起因するスパークは、流路17の縁部の全周のどの部分でも生じやすく、したがって全体的にスパーク発生頻度も著しく高くなっていることが判明した。
【0022】
このように図10〜図13に示す構造の装置では、電極板11A、11Bの表面に長い距離にわたってエッジ部が存在しているため、スパーク発生頻度が高く、各エッジ部でのスパークによる電極材料の溶損や、液体食品材料中の成分の焦げ付き(スケーリング)が多発していたのである。なおここで液体食品材料中の成分の焦げ付きとは、いわゆる炭化による焦げ付きだけではなく、固化物質の生成および付着や、食品成分の変成による高粘度物質の生成とその高粘度物質の付着等を含んでいる。
【0023】
ここで、図10〜図13に示される装置を組立てるにあたっては、既に述べたように電極板11A、11B間にスペーサ板13を挟み、かつ凹溝29A、29B間にOリング31A、31Bの横断面の少なくとも一部を嵌入させた状態でビス(あるいはボルト・ナット)35により両電極板11A、11B間を締め付け、Oリング31A、31Bを弾性圧縮変形させて、このOリング31A、31Bより流路17を外部に対してシール(密閉)することとしているが、このように電極板11A、11B間を締め付けた状態でも、図11に示すように凹溝29A、29Bの内側のエッジ部45A、45Bの先端とスペーサ板13との間には、微視的に見ればわずかな隙間Gが残っているのが通常であり(図11では理解しやすくするため、隙間Gを大きく描いている)、またそのエッジ部45A、45BとOリング31A、31Bの外面との間にも微小な空間Hが残っているのが通常である。そのため流路17内に導入された液体食品材料は、前述の隙間Gから微小空間H内に侵入する。そして前述のようにエッジ部45A、45B付近でスパークが発生すれば、狭い隙間Gや微小空間Hの内側付近において食品材料成分の焦げ付きが生じる。そしてこのような狭溢な箇所において焦げ付きが発生した場合、単純に流路17内に洗浄液を流しただけでは、その焦げ付き物質を除去することが実際上困難であり、装置自体を分解して洗浄する必要が生じてしまう。したがって上述のような狭溢な箇所における頻繁なスパークの発生は、生産性に対する大きな阻害要因とならざるを得なかったのである。
【0024】
そこで本発明者等は、前述のような電流の集中しやすいエッジ部、特に狭溢な空間に隣接するエッジ部を可及的に少なくするべく、種々検討を重ねた結果、電極板自体にはOリング嵌入用の凹溝を形成せずに、電極板表面を平坦な面とする一方、スペーサ板の側にOリング嵌入用の凹溝を形成しておくことによって、電極板表面に存在するとがったエッジ部分を少なく(総延長を短く)すれば、スパークの発生頻度を小さくすることができ、また既に述べたような狭溢な部分における食品材料の焦げ付きによる問題を解決し得ることを見出し、請求項1の発明をなすに至った。
【0025】
さらに、電極板表面に若干のエッジ部分が存在していても、その部分が他の電極板に直接的に対向していなければ、その部分でもスパークの発生のおそれを少なくして、トータル的により一層スパークの発生頻度を少なくし得ることを見出し、請求項2の発明をなすに至ったのである。
【0026】
具体的には、請求項1に係る発明は、平行一対の電極板の間に電気絶縁性材料からなるスペーサ板が挟まれており、そのスペーサ板には、その一方の板面から他方の板面まで貫通しかつ板面に沿った方向に伸びる流路区画用の長孔が形成されており、前記一対の電極板のうちの一方の電極板には、スペーサ板の長孔の一方側の端部に対応する位置に流入口が開口形成され、他方の電極板には、スペーサ板の長孔の他方側の端部に対応する位置に流出口が開口形成されて、前記流入口からスペーサ板の長孔を経て流出口に至る流路が区画形成され、さらにスペーサ板の長孔の周縁部分とそれに対応する前記各電極板との間には、それぞれ弾性絶縁材料からなるOリングが介挿され、両電極板間を締め付けることによって前記Oリングにより前記流路が外部に対してシールされた構成とされており、前記流入口から流路内に殺菌対象となる液体食品材料を連続的に導入し、かつ前記流出口から連続的に流路内の液体食品材料を排出するとともに、前記一対の電極板間に交流高電圧を印加して、流路内の液体食品材料を殺菌するようにした交流高電界殺菌装置において、前記スペーサ板の両板面における長孔の周縁部分に、それぞれ長孔の周方向に沿って連続する凹溝を形成するとともに、その凹溝に対応する電極板の表面は平坦面としておき、前記凹溝にOリングの横断面の少なくとも一部を嵌入させて、スペーサ板と電極板との間をOリングによりシールするようにしたことを特徴とするものである。
【0027】
また請求項2の発明は、請求項1に記載の交流高電界殺菌装置において、前記スペーサ板における長孔の長さ方向両端部の内面がテーパー面とされ、電極板の流入口および流出口が、それぞれ流路側において前記テーパー面に対向するように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
この発明の交流高電界殺菌装置によれば、電極板の有効部分の面(流路の液体食品材料に接して電流が流れる面)が、流入口および流出口の部分を除いて平坦な面とされており、したがって図10〜図13に示す先行技術の場合と比較して、先端のとがったエッジ部の総延長が格段に短くなる。そのため、電極板のエッジ部における電流集中によるスパークの発生チャンスも格段に少なくなって、操業中におけるスパークの発生頻度が格段に小さくなるから、スパーク発生による電極板の溶損、損傷が生じたり、スパークによる液体食品材料成分の焦げ付き(スケーリング)も少なくなり、さらにはスパーク発生に起因する電流の急激な増大による電源装置の損傷や、操業の不安定化も少ない。そしてまた、Oリングによりシールされた部分に対し直近の内側の狭溢な部分でスパーク発生により液体食品材料成分が焦げ付くチャンスも少なくなるため、その狭溢な部分での焦げ付きにより装置の分解洗浄の必要が生じる頻度も格段に少なくなって、分解洗浄に要する手間および時間を削減できるとともに、生産性を著しく向上させることが可能となる。
【0029】
さらに、特に請求項2の発明の交流高電界殺菌装置によれば、電極板の流入口、流出口の部分のエッジ部において、対向する電極板が、その部分でスペーサ板のテーパー面によって覆われているため、これらのエッジ部もスパークが発生しにくくなり、そのため前述のような効果を、より一層確実かつ有効に発揮することができる。
【実施例】
【0030】
図1〜図5にこの発明の第1の実施例の交流高電界殺菌装置を示す。なお図1〜図5において、図10〜図13に示した先行技術による装置と同一の部分については、図10〜図13と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0031】
図1〜図5において、電極板11A、11Bは相互に対向する面(スペーサ板13を挟む側の面)が、流入口19A、流出口19B、ビス貫通孔37、ねじ孔41の部分を除き、実質的に平坦な面とされている。なおビス貫通孔37およびねじ孔41は、当然のことながら液体食品材料に接しない位置に形成されており、したがって電極板の有効面(流路17の液体食品材料に接して電流が流れる部分)においては、流入口19A、流出口19B以外の部分はすべて実質的に平坦な面となっていることになる。
【0032】
一方、スペーサ板13には、それぞれOリング嵌入用の凹溝49A、49Bが形成されている。そしてこれらのスペーサ板13の凹溝49A、49BにそれぞれOリング31A、31Bの断面の少なくとも一部が嵌入されている。
【0033】
このような装置を組立てるにあたっては、電極板11A、11Bの間にスペーサ板13を挟み、かつスペーサ板13の凹溝49A、49BにそれぞれOリング31A、31Bの断面の少なくとも一部を嵌入させた状態で、両電極板11A、11B間を、図10〜図13に示す装置の場合と同様に複数のビス35(またはボルト・ナット)により締め付けて、Oリング31A、31Bを弾性的に圧縮変形させる。これによってスペーサ13の長孔15の内側空間に相当する流路17が、Oリング31A、31Bにより外部に対してシールされた状態で装置が組上げられることになる。
【0034】
ここで、Oリング嵌入用の凹溝49A、49Bは、図10〜図13の装置の場合とは異なり、スペーサ板13の側に形成されており、電極板11A、11Bの板面、特にその有効面の表面には、流入口19A、流出口19Bの内側(流路側)の開口端を除き、とがったエッジ部は存在しないことになる。ここで、流入口19A、流出口19Bの内側の開口端のエッジ部47A、47Bは、トータルしてもその総延長は短く、したがってエッジ部に対する電流集中によるスパークの発生頻度は図10〜図13の装置の場合よりも格段に少なくなる。
【0035】
ちなみに、流入口19Aの中心軸線と流出口19Bの中心軸線との間の距離をl、流入口19A、流出口19Bの内径を2rとすれば、図10〜図13に示した装置の場合、片側(流入側)の電極板11Aについては、図11から明らかなように、凹溝29Aの内側のエッジ部45Aの長さLAは、
LA=2l+2πr ・・・(1)
となり、また同じく電極板11Aにおける流入口19Aの開口端のエッジ部47Aのうち、凹溝29Aの内側のエッジ部45Aと重複しない部分の長さLBは、
LB=πr ・・・(2)
となるから、有効面のエッジ部の総延長LCは、
LC=LA+LB=2l+3πr ・・・(3)
となる。また電極板11Bの側のエッジ部も同様であるから、結局両電極板11A、11Bでは、有効面のエッジ部の総延長LDはその2倍で、
LD=2LC=4l+6πr ・・・(4)
となる。
【0036】
一方、図1〜図5に示すこの発明の第1の実施例の場合、一方の電極板11Aの表面(有効面)に存在しているエッジ部分は、流入口19Aの開口端のエッジ部47Aだけであり、その長さLEは、
LE=2πr ・・・(5)
である。そして電極板11Bの例についても流入口が流出口に変わるだけで、エッジ47Bの長さは同じであるから、両電極板11A、11Bについての有効面のエッジ部分の総延長LFは、
LF=4πr ・・・(6)
となる。このように、図10〜図13に示した先行技術の装置の場合には、電極板11A、11Bにおけるエッジ部分の総延長LDが(4)式で示される[4l+6πr]の距離となっているのに対し、図1〜図5に示すこの発明の第1の実施例の場合、電極板11A、11Bにおけるエッジ部の総延長LFは(6)式で示される[4πr]の距離となるから、図10〜図13の先行技術の装置よりも格段に短くなっていることが判る。ここで、r、lの値は特に限定されるものではないが、本発明者等が実機として開発している装置では、2r≒15mm、l≒105mmとしており、この場合、図10〜図13に示した先行技術の装置のエッジ部分総延長LDが94.2mmであるのに対し、図1〜図5に示すこの発明の第1の実施例の装置のエッジ部分総延長LFは561.3mmとなり、図10〜図13の場合の1/6程度に過ぎない。したがってこの場合、エッジ部におけるスパークの発生頻度も、1/6程度に抑制されるのである。
【0037】
図6〜図9にはこの発明の第2の実施例の交流高電界殺菌装置を示す。なお図6〜図9において、図1〜図5に示した第1の実施例、および図10〜図13に示した先行技術の装置と同一の部分については、それぞれ同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0038】
この発明の第2の実施例の装置においては、スペーサ板13の長孔15における長さ方向の端部の内面(湾曲面)が、それぞれテーパー面15A、15Bとされている。これらのうち、電極板11Aの流入口19Aに近い側のテーパー面15Aは、流入口19Aに対して傾斜状に対向し、一方電極板11Bの流出口19Bに近い側のテーパー面15Bは、流出口19Bに対して傾斜状に対向している。言い換えれば、電極板11Bの表面のうち、電極板11Aの流入口19Aの開口部に対向する部分は、スペーサ板13におけるテーパー面15Aの部分によって覆われており、一方電極板11Aの表面のうち、電極板11Bの流出口19Bの開口部に対向する部分は、スペーサ板13のテーパー面15Bの部分によって覆われていることになる。
【0039】
したがって電極板11Aの流入口19Aは、直接的には反対側の電極板11Bに対向せず、また電極板11Bの流出口19Bは、直接的には反対側の電極板11Aに対向しないことになる。
【0040】
このような図6〜図9に示す第2の実施例の場合、電極板11Aの流入口19Aの開口端のエッジ部47Aは、反対側の電極板11Bに対向しないため、その部分でのスパークの発生が生じにくくなり、同じく電極板11Bの流出口19Bの開口端のエッジ部47Bも、反対側の電極板11Aに対向しないため、その部分でのスパークの発生が生じにくくなる。
【0041】
結局、図6〜図9に示される第2の実施例の場合、図1〜図5に示される第1の実施例と同様に、両電極板11A、11Bについて(6)式で総延長が表わされるエッジ部分は存在しているものの、これらのエッジ部分でのスパークの発生のおそれが、図1〜図5の実施例の場合よりも格段に少なくなり、その結果装置全体としてスパークの発生を確実かつ充分に防止することが可能となる。
【0042】
なお以上の各実施例においては、一対の電極板11A、11B間にスペーサ板13を挟み込んで、一対の電極板11A、11B間に単一の流路17を形成するものとしているが、3枚以上の電極板を平行に配置して、それぞれの間にスペーサ板を挟み、各電極板間にそれぞれ流路を形成した多段構成としても良いことはもちろんであり、その場合にはある流路についての電極板の流出口が次の流路に対する流入口を兼ねることになる。このような構成でも、既に述べたようにスペーサ板にOリング嵌入用の凹溝を形成しておくことによって、この発明の作用・効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の第1の実施例の交流高電界殺菌装置の縦断正面図である。
【図2】図1のII−II線(電極板11Aの表面位置)における縦断側面図である。
【図3】図1の装置に使用されているスペーサを、図1のIII−III線の位置で示す側面図である。
【図4】図3のIV−IV線におけるスペーサ縦断面図である。
【図5】図1中の部位Vの拡大図である。
【図6】この発明の第2の実施例の交流高電界殺菌装置の縦断正面図である。
【図7】図6の装置に使用されているスペーサを、図6のVII−VII線の位置で示す側面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線におけるスペーサ縦断面図である。
【図9】図6中の部位IXの拡大図である。
【図10】本発明者等がこの発明に先行して開発している交流高電界殺菌装置の縦断正面図である。
【図11】図10のXI−XI線(電極板11Aの表面位置)における縦断側面図である。
【図12】図10の装置に使用されているスペーサを、図10のXII−XII線の位置で示す側面図である。
【図13】図10中の部位XIIIの拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
11A、11B 電極板
13 スペーサ板
15 長孔
15A、15B テーパー面
17 流路
19A 流入口
19B 流出口
31A、31B Oリング
49A、49B Oリング嵌入用の凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行一対の電極板の間に電気絶縁性材料からなるスペーサ板が挟まれており、そのスペーサ板には、その一方の板面から他方の板面まで貫通しかつ板面に沿った方向に伸びる流路区画用の長孔が形成されており、前記一対の電極板のうちの一方の電極板には、スペーサ板の長孔の一方側の端部に対応する位置に流入口が開口形成され、他方の電極板には、スペーサ板の長孔の他方側の端部に対応する位置に流出口が開口形成されて、前記流入口からスペーサ板の長孔を経て流出口に至る流路が区画形成され、さらにスペーサ板の長孔の周縁部分とそれに対応する前記各電極板との間には、それぞれ弾性絶縁材料からなるOリングが介挿され、両電極板間を締め付けることによって前記Oリングにより前記流路が外部に対してシールされた構成とされており、前記流入口から流路内に殺菌対象となる液体食品材料を連続的に導入し、かつ前記流出口から連続的に流路内の液体食品材料を排出するとともに、前記一対の電極板間に交流高電圧を印加して、流路内の液体食品材料を殺菌するようにした交流高電界殺菌装置において;
前記スペーサ板の両板面における長孔の周縁部分に、それぞれ長孔の周方向に沿って連続する凹溝を形成するとともに、その凹溝に対応する電極板の表面は平坦面としておき、前記凹溝にOリングの横断面の少なくとも一部を嵌入させて、スペーサ板と電極板との間をOリングによりシールするようにしたことを特徴とする、交流高電界殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の交流高電界殺菌装置において;
前記スペーサ板における長孔の長さ方向両端部の内面がテーパー面とされ、電極板の流入口および流出口が、それぞれ流路側において前記テーパー面に対向するように構成したことを特徴とする、交流高電界殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−86259(P2008−86259A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270634(P2006−270634)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【Fターム(参考)】