説明

液剤徐放用具

【課題】液保持部材を密封収容する収容体と液徐放部材とを備えた液剤徐放用具において、使用時に収容体を液徐放部材の所定位置に容易に載置することができ、液剤で手等が汚れ難いと共に、開孔の封止状態の確保と封止状態の解除を確実なものとする液剤徐放用具を提供すること。
【解決手段】液剤を含浸させてなる液保持部材12と、液保持部材12を密封収容する扁平な袋状の収容体11と、液徐放部材20とを備えた液剤徐放用具1であって、収容体11は使用に際してその一部に開孔13を形成して封止状態を解くようになされており、収容体11は、開孔13が形成される面が液徐放部材20に対して接近離反自在に、扁平な収容体11の周縁部の一部11cのみにおいて液徐放部材20にヒンジ接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質表面の清掃、つや出し、保護等に好適に用いられる液剤徐放用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗浄剤、つや出し剤等の液剤を含浸させてなる液保持部材と、該液保持部材を密封収容する扁平な袋状の収容体と、液徐放部材とを備えた液剤徐放用具(清掃用ウエットシート)が知られている(例えば、下記特許文献1,2参照)。特許文献1,2記載の清掃用ウエットシート1においては、図6に示すように、収容体11は一方の面に開孔13を有しており、開孔13は、清掃用ウエットシート1の使用前においては封止手段14によって封止状態になっており、且つ使用に際して封止状態を解くようになされている。
【0003】
そして、特許文献1,2記載の清掃用ウエットシート1においては、例えば、図6(a)に示すように、液徐放部材20を展開し、展開した液徐放部材20の上に、収容体11を開孔13が上に向いた状態で載置する。その後、封止手段14を収容体11から引き剥がし、開孔13の封止状態を解く。次に、図6(b)に示すように、収容体11を裏返して開孔13が下に向いた状態で、収容体11を液徐放部材20に載置する。尚、開孔13が上に向いた状態で封止状態を解く理由は、液保持部材12に含浸されている液剤が開孔13から漏れ出さないようするためである。
【0004】
更に、液徐放部材20におけるフラップ23を、ヘッド部及び柄を有する清掃具(図示せず)における該ヘッド部の上面側に折り返して、清掃用ウエットシート1を該清掃具に装着する。そして、この状態でフローリング等に液剤を塗布しながら清掃することができる。
【0005】
また、特許文献2の図6には、開孔を有する収容体が、開孔を液徐放部材に対向させた状態で液徐放部材に固定された形態の清掃用ウエットシートが記載されている。使用前においては、収容体の開孔は、収容体とは別体の帯状の封止手段(シール14)によって封止されている。この形態の清掃用ウエットシートにおいては、収容体から帯状のシール14を引き抜くことにより開孔の封止状態を解き、液剤を塗布しながら清掃することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−105395号公報
【特許文献2】特開2004−105710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、1番目に挙げた、収容体と液徐放部材とが分離している形態の液剤徐放用具(清掃用ウエットシート)においては、前述したように、使用前に、開孔の封止状態を解いて、収容体を裏返して液徐放部材に載置する必要があり、その際に、使用者が誤って、開孔が上に向いた状態で収容体を液徐放部材に載置したり、収容体を液徐放部材の所定位置からずれた位置に載置する場合が少なくなかった。また、収容体をスムーズに裏返すことができない場合には、開孔から液剤が漏れ出し易く、液剤の付着により手等を汚し易かった。
【0008】
また、2番目に挙げた、収容体が開孔を液徐放部材に対向させた状態で液徐放部材に固定された形態の液剤徐放用具(清掃用ウエットシート)においては、帯状のシール14は、開孔を封止するように収容体に接着されていると認められるが、この接着剤は、液保持部材の液剤に滲み出したり溶出する場合がある。また帯状のシール14は、封止を解く際に引き抜く必要があるため、接着剤による接合強度を過度に強くすることはできない。従って、開孔の封止状態の確保や封止状態の解除の確実性が低い。
【0009】
従って、本発明は、液保持部材を密封収容する収容体と液徐放部材とを備えた液剤徐放用具において、使用時に収容体を液徐放部材の所定位置に容易に載置することができ、液剤で手等が汚れ難いと共に、開孔の封止状態の確保と封止状態の解除を確実なものとする液剤徐放用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、液剤を含浸させてなる液保持部材と、該液保持部材を密封収容する扁平な袋状の収容体と、液徐放部材とを備えた液剤徐放用具であって、前記収容体は使用に際してその一部に開孔を形成して封止状態を解くようになされており、前記収容体は、前記開孔が形成される面が前記液徐放部材に対して接近離反自在に、扁平な該収容体の周縁部の一部のみにおいて前記液徐放部材にヒンジ接合されている液剤徐放用具を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液剤徐放用具によれば、液保持部材を密封収容する収容体と液徐放部材とを備えた液剤徐放用具において、使用時に収容体を液徐放部材の所定位置に容易に載置することができ、液剤で手等が汚れ難い。また、開孔の封止状態の確保と封止状態の解除を確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の液剤徐放用具を、その好ましい一実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の液剤徐放用具の一実施形態について、仮想的に収容体11と液徐放部材20とを分離した状態の斜視図を示している。図2には、収容体11と液徐放部材20とがヒンジ接合された状態の液剤徐放用具1についての幅方向に沿う縦断面図(液徐放部材20が下に配置)を示している。本実施形態の液剤徐放用具1は、硬質表面、例えばフローリングの清掃やつや出しに好適に用いられる。
【0013】
本実施形態の液剤徐放用具1は、図1及び図2に示すように、洗浄剤、つや出し剤等の液剤を含浸させてなる液保持部材12と、液保持部材12を密封収容する扁平な袋状の収容体11と、液徐放部材20とを備えている。
液保持部材12は、例えば、繊維材料、フォーム材から構成されており、扁平な袋状をした収容体11内に密封収納されている。液保持部材12は、収容体11よりも若干小さな矩形状をしている。液保持部材12には所定量の洗浄剤、つや出し剤等の液剤が含浸されている。液保持部材12や液剤の詳細については後述する。
【0014】
収容体11は、第1の液不透過性シート11a及び第2の液不透過性シート11bから構成されている。両液不透過性シート11a,11bは、同じ平面視形状をしており、縦長の矩形状をしている。収容体11は、重ね合わされた2枚の液不透過性シート11a,11bを、それらの四辺を接合することで縦長矩形状の袋状に形成されている。両シート11a,11bの接合に接着剤を用いると、接着剤が、液保持部材12に含浸された液剤によって変質したり、接着剤が液剤に溶出したり滲み出す場合があるので、両シート11a,11bの接合にはヒートシールや超音波シール等の融着を用いることが好ましい。
【0015】
両液不透過性シート11a,11bは、ある程度柔軟で液不透過性のものであれば、その種類に特に制限はなく、例えば熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムにアルミニウム等の金属薄膜をラミネートしたものを用いることができる。特に、一軸延伸フィルム層と金属箔とのラミネートから形成されているものが好ましい。本実施形態における収容体11においては、一軸延伸フィルム層の延伸方向が各液不透過性シート11a,11bの長手方向と一致している。両液不透過性シート11a,11bは、同じ素材から形成されていてもよく、異なる素材から形成されていてもよい。
【0016】
図2に示すように、2枚の液不透過性シート11a,11bのうち、第1の液不透過性シート11aは、液徐放部材20に対向し、当接するようになっている。第1の液不透過性シート11aには、その長手方向に延びるように、所定幅の開封誘導領域14が2本並列して形成されている。開封誘導領域14は、複数枚の細幅のシート材料を積層することによって形成されている。これによって開封誘導領域14は、第1の液不透過性シート11aにおける他の領域よりも高坪量且つ高強度になっている。
【0017】
一軸延伸フィルムは、その延伸方向に関しては機械的強度が高いが、延伸方向と直交する方向には機械的強度が低い。そして、本実施形態においては、前述の通り、一軸延伸フィルムの延伸方向が第1の液不透過性シート11aの長手方向と一致しているため、第1の液不透過性シート11aは、その長手方向の機械的強度が、幅方向の機械的強度よりも高くなっている。その結果、第1の液不透過性シート11aは開封誘導領域14に沿って容易に引き裂くことができるようになっている。
【0018】
開封誘導領域14は、収容体11の長手方向ほぼ全長に亘り形成されている。そして、開封誘導領域14は、その一端部に摘み部15が連接されている。摘み部15は、第1の不透過性シート11aに形成された開封誘導領域14を引き裂くためのきっかけとなる部位である。摘み部15は、第1の液不透過性シート11aの一部領域から形成されている。摘み部15は、第1の液不透過性シート11aの他の領域に非接合状態となっていることによって形成されている。
【0019】
収容体11は使用に際してその一部に開孔13を形成できるようになっている。開孔13は、液剤徐放用具1の使用前においては封止手段によって封止状態になっており、且つ使用に際して封止状態を解くようになされている。本実施形態においては、摘み部15を手で把持し、開封誘導領域14の他端部に向けて引っ張ることで、図3に示すように、開封誘導領域14を含む第1の不透過性シート11aが引き裂かれ、開孔13が形成される。即ち、液剤徐放用具1の使用前においては、開封誘導領域14を含む第1の液不透過性シート11aは引き裂かれておらず、収容体11内に収納されている液保持部材12は、その密封状態が保たれている。
【0020】
一方、液剤徐放用具1の使用に先立ち、摘み部15を手で把持し、開封誘導領域14を収容体11の長手方向に引き裂いて除去することができる。これによって第1の液不透過性シート11aには、開封誘導領域14の形状に略対応する開孔13が形成される。そして、開孔13を通じて、液保持部材12に含浸されている液剤が収容体11の外部に放出可能になる。つまり、本実施形態においては、開封誘導領域14を主体して封止手段が形成されている。
【0021】
各開孔13の面積は、液剤の放出の程度を制御する観点から、5〜13,000mm2であることが好ましい。同様の理由により、各開孔13の長さは5.0〜500mmであることが好ましく、各開孔13の幅は1.0〜52mmであることが好ましい。また、同様の理由により、第1の液不透過性シート11aの面積(収容体11を袋状に形成するための第2の液不透過性シート11bとの接合部の面積を除く)に対する開孔13の面積の総和の割合、つまり開孔率は5.0〜80%が好ましい。
【0022】
このように本実施形態においては、液剤徐放用具1の使用直前まで液保持部材12の密封状態が保持され、使用に際して開封誘導領域14を延伸方向に引き裂くことで液保持部材12の密封状態が初めて解かれる。その結果、液剤の漏れや蒸発を伴うことなく、液保持部材12に多量の液剤を含浸させておくことができる。
【0023】
次に、液保持部材12について説明する。液保持部材12の素材としては、例えば、繊維材料、フォーム材が挙げられる。液保持部材12は、多量の液剤を含浸でき且つ液剤の放出性に優れていることが望ましい。そのような素材としては、嵩高な紙、不織布等の繊維集合体が適しており、特にエアレイド不織布、ニードルパンチ不織布などが好ましい。
【0024】
繊維の具体例としては、天然繊維及び化学繊維の何れか一方又は両方の繊維を使用することができる。天然繊維としては木材パルプ等が挙げられる。化学繊維としては、例えば、再生繊維であるレーヨンやアセテート、合成繊維であるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリアクリロニトニル系繊維が挙げられる。
フォーム材としては、化学反応に伴う発生ガスを利用したり、フロンガス等の低融点溶剤の注入又は空気の注入等によって発泡又は多孔質化してなるものが挙げられる。具体的にはポリウレタンフォーム、ポリオレフィンフォーム等が用いられる。
【0025】
液保持部材12は、液剤の保持容量を高め、また液剤塗布時における液剤の放出を良好にする点から、その密度が0.02〜0.2g/cm3、特に0.03〜0.15g/cm3であることが好ましい。また、液保持部材12の坪量は、20〜400g/m2、特に60〜200g/m2であることが好ましい。坪量がこの範囲であると、液剤の保持容量を十分に大きなものとすることができ、また液保持部材12の加工性も良好となる。
【0026】
液保持部材12には、できるだけ多量の液剤を含浸させることが好ましいが、一般家庭においてフローリングに対し、一枚の液剤徐放部材を用いて液剤の塗布をする場合を考えると、液剤含浸後の液保持部材12の重量は、含浸前の状態の液保持部材12の重量の300〜3000%、特に500〜2500%程度となる。液保持部材12は、液剤の徐放性に優れているものが好ましい、また多量の液剤を含浸させた場合に、ヘタリが生じないものが好ましい。
【0027】
液保持部材12の通気度は、液剤の放出速度を適切な範囲に調整し得る点から、液徐放部材20の通気度よりも高くなっていることが好ましい。
【0028】
また、好ましい液保持部材12としては、多層構造をなし、多層構造における開孔13に対向する層12A(説明の便宜上、符号を付す)を合成繊維を主体とするエアレイド不織布から構成し、該層12Aに隣接する層12Bをセルロース系繊維を主体とする紙又は不織布から構成したもの(図示せず)が挙げられる。
【0029】
このような多層構造の液保持部材12は、液剤が高含浸率で含浸された場合でも、開孔13に対向する合成繊維を主体とする層12Aは、該層12Aに隣接するセルロース系繊維を主体とする層12Bに比べて含浸液保持性が低くなる。そのため、液剤は、主にセルロース系繊維を主体とする層12Bに含浸保持される。従って、収納体11の開封時に液剤が液保持部材12から飛散したり、液剤塗布の初期に多量の液剤が放出することを抑えることができ、結果として液剤の徐放性に優れる。尚、「合成繊維を主体とする」とは、合成繊維の重量割合が過半数であることをいう。「セルロース系繊維を主体とする」についても同様である。
【0030】
次に、液徐放部材20について説明する。液徐放部材20は、液保持部材12から放出された液剤を一旦、液徐放部材全体に拡散させて、液剤が液保持部材12から放出される際の速度よりも低速度でこれらを放出させることによって、広い面積の塗布対象面に対して、塗布の初期から終期に至るまで、所定範囲の液剤を徐々に放出する目的で用いられる。
【0031】
液徐放部材20は、シート積層体(マルチプライ)から構成されていてよく、1枚のシート(シングルプライ)から形成されていてもよいが、本実施形態における液徐放部材20は、図2に示すように、内層シート21と表面シート22とから2プライで構成されている。両シート21,22は、重ね合わされて、内層シート21の長手方向両側縁部が表面シート22に接合されることによって一体化している。内層シート21は、収容体11とほぼ同寸の矩形状をしている。表面シート22の長さ(収容体11の長手方向に沿う長さ)は、内層シート21の長さとほぼ同じとなっている。表面シート22は、内層シート21の長手方向両側縁から両側方に延出し、延出した領域において一対のフラップ23,23を形成している。このフラップ23の使用目的については後述する。
【0032】
本実施形態のように液徐放部材20が内層シート21及び表面シート22の積層体から構成されていると、液剤塗布時の操作性が一層向上し、また内層シート21が保護されるという利点がある。また、液剤の放出が更に制御されるという利点もある。
【0033】
液徐放部材20が1枚のシート(シングルプライ)から構成されているか、シート積層体(マルチプライ)から構成されているかを問わず、多量の液剤を均一に放出する徐放性能を発現するためには、液徐放部材20による液剤の過剰な保持を防止する必要がある。この観点から、液徐放部材20の坪量は、20〜350g/m2、特に40〜200g/m2であることが好ましい。
【0034】
液徐放部材20の素材としては、液剤の平面方向への拡散が良好なシート材料が好ましい。このようなシート材料としては、湿式抄造紙、スパンレース不織布、メルトブローン不織布等の繊維シートが挙げられる。湿式抄造紙の場合、その拡散性の制御は、繊維の種類、叩解度、湿圧(乾燥前の加圧)、カレンダー処理(乾燥後の加圧)、填料添加等で調整される。繊維の種類としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプの他、各種改質パルプ、レーヨン繊維、熱可塑性繊維等が挙げられる。これらのうち繊維径が細い繊維や繊維長が短い繊維を用いると、繊維間で形成されるシートの空隙の大きさ(孔径)が小さくなり、所望の拡散性を得やすい。また叩解を強くしたり、カレンダー処理圧力を高くすることで同様に所望の拡散性を得やすい。填料の増量も同様に有効である。
【0035】
スパンレース不織布の場合は、例えば、コットンやレーヨン等の親水性繊維を用いたり、繊維径が細い繊維を用いたり、交絡状態を高交絡にすることで、所望の拡散性を得やすい。液徐放部材20に後述のエンボス加工によって凹凸賦形する場合には、熱可塑性繊維を好ましくは5〜95重量%、更に好ましくは10〜75重量%含有させて加熱エンボス加工を行うことで、湿潤時でも凸部形状を維持することが容易となる。
【0036】
内層シート21及び表面シート22は、同じ素材から形成されていてもよく、異なる素材から形成されていてもよい。表面シート22の坪量は、液剤塗布に必要なシート強度を満たすと共に不必要なコストが掛からない点から、好ましくは10〜100g/m2、特に好ましくは20〜80g/m2である。
【0037】
本実施形態における内層シート21は表面に多数の凸部を有している。これによって内層シート21はその上下面に位置する他のシートとの接触面積が低下する。その結果、液剤塗布の初期に生じ易い液剤の過放出を低下させることができ、更に徐放性能を高めることができる。この凸部は、シート全体に亘って形成されていることが好ましく、例えばエンボス加工によって形成される。特に、湿潤状態での形状の維持の点からスチールマッチエンボス加工による形成が好ましい。凸部としては、例えばリブ状やドット状の形状のものが用いられる。
【0038】
本実施形態における内層シート21は、凸部の間が凹部となっており、シート全体に亘って凹凸賦形されている。凹部と凸部とはシートの長手方向及び幅方向それぞれにおいて交互に配されている。凹部の形状は凸部を反転させた形状となっている。内層シート21に形成される凸部の形状は、特開平9−131288号公報に記載されている凸部の形状と同様とすることができる。
【0039】
スチールマッチエンボス加工によって内層シート21に凸部を形成する場合、内層シート21の上面又は下面に位置する他のシートとの接触面積が内層シート21全体の面積に対して5〜60%となるように、該凸部が形成されることが好ましい(この値を接触面積率という)。凸部の高さは0.2〜10mmであることが好ましく、該凸部の横断面形状は波状であることが好ましい。接触面積率は次に述べる方法で測定される。
【0040】
1)内層シートの測定表面にスプレー糊(住友スリーエム株式会社製、商品名「55」)を約0.0006g/cm2の坪量で均一にスプレーする。
2)平らなプレート上にJIS試験用ダスト7種(関東ローム層、細粒)を薄く均一に散布する。
3)プレートにおけるJIS試験用ダスト7種を散布した面に、前記スプレー糊を塗工した内層シートの測定表面を重ねる。その上にアクリル製の平板を重ね、更にアクリル製の平板の重さと合わせて500gの荷重となるように錘を置き、5分間荷重を掛ける。これにより測定用のサンプルを得る。
4)得られたサンプルを画像解析して、プレートに接した面において、JIS試験用ダスト7種で汚れた部分の面積の割合を算出して、これを接触面積率とする。
【0041】
表面シート22は、液剤塗布時における液剤徐放用具1の液剤塗布面となるものであり、液剤塗布時の操作性の向上、内層シート21の保護の目的で用いられる。また、液剤の放出を更に制御する目的でも用いられる。本実施形態における表面シート22は、液剤塗布時の操作性を向上させるために、内層シート21と同様に、液剤塗布対象面側に多数の凸部を有している。これによって、液剤塗布対象面との接触面積が低下して、液剤塗布時の摩擦が低下し、液剤塗布の操作性を向上させることができる。尚、内層シート21に関する説明は、表面シート22にも適宜適用される。
【0042】
次に、収容体11と液徐放部材20とのヒンジ接合形態について説明する。収容体11は、開孔13が形成される面が液徐放部材20に対して接近離反自在に、扁平な収容体11の周縁部の一部のみにおいて液徐放部材20に接合されている。本実施形態においては、縦長矩形状の収容体11は、その一辺部である長側縁部(長さの長い側縁部)11cのみにおいて液徐放部材20に接合されている。そして、収容体11における開孔13の形成されている面(即ち、第1の液不透過性シート11a側の面)が、液保持部材12における内層シート21に対して離反自在になっている。収容体11を内層シート21に当接させた状態において、収容体11と内層シート21とはぼほ一致した配置で重なる。
【0043】
収容体11の周縁部と液徐放部材20とをヒンジ接合する手段には特に制限はなく、例えば、粘着テープ、接着剤(ホットメルト接着剤等)、ヒートシールを用いることができる。本実施形態においては、粘着テープ4を用いて、収容体11の長側縁部11cの全域と、液徐放部材20における内層シート21の長手方向両側縁部近傍とが接合されている。一方、その他の部分では、収容体11と液徐放部材20とは接合されていない。そのため、収容体11は、粘着テープ4を回動支点として、液徐放部材20に接近する方向又は離反する方向に回動自在になっている。
【0044】
尚、収容体11の長側縁部11cと液徐放部材20とがヒンジ接合された形態には、液徐放部材20に対する収容体11の回動を妨げない範囲で、収容体11の短側縁部(長さの短い側縁部。別の見方をすると前後縁部)が液徐放部材20に若干接合されている形態も含む。
【0045】
次に液保持部材12に含浸される液剤について説明する。液剤としては、例えば、洗浄剤、つや出し剤等が用いられる。洗浄剤は、水を媒体とし、界面活性剤、アルカリ剤等を含有することが好ましく、例えば、土ボコリ、皮脂、油汚れのような乾式清掃では取り切れない汚れを溶解して、拭き取り除去することを目的に用いられる。つや出し剤は、フローリングのつや出し、保護を目的とした剤である。つや出し剤には、大別して、界面活性剤を多く含むものと、界面活性剤をほとんど含まない、いわゆるワックス剤とがある。つや出し剤は洗浄機能を併せ持っていてもよい。
【0046】
液剤の25℃における粘度は、1〜20mPa・s、特に2〜10mPa・sであることが、良好な拭き延ばし性及び仕上がり性の点から好ましい。尚、液剤の粘度は、液剤を液徐放部材20に含浸し、保持できる程度であれば、多少高くてもよい。粘度は、(株)東京計器のB型粘度計(ローターNo1、60rpm)を用いて測定する。
【0047】
洗浄剤には、前述の成分に加えて除菌剤を含有させることもできる。これによって、洗浄剤に、洗浄効果に加えて除菌効果を付与することができる。除菌剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、第4級アンモニウム塩、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸ナトリウム、天然除菌剤等が挙げられ、特に配合安定性と除菌性能の点から、第四級アンモニウム塩、天然除菌剤のポリリジン等が好ましく用いられる。除菌剤は、除菌効果と皮膚刺激性低減とのバランスの点から、洗浄剤中に0.005〜2重量%、特に0.01〜1重量%含有されることが好ましい。
【0048】
更に、洗浄剤には必要に応じ、香料、防黴剤、色素(染料、顔料)、キレート剤、ワックス剤等を含有させることもできる。
洗浄剤の媒体である水は、被清掃面の仕上がり性の点から、洗浄剤中に50〜99.9重量%、特に80〜99重量%含有されることが好ましい。
【0049】
本実施形態の液剤徐放用具1の一使用方法について説明する。本実施形態の液剤徐放用具1を使用するに際しては、例えば、図2(a)に示すように、液徐放部材20を収容体11が上に配置した状態で展開する。次に、図2(b)及び図4(a)に示すように、粘着テープ4を回動支点として収容体11を180°回動させて、収容体11における開孔13の形成されている面(第1の液不透過性シート11a側の面)を上に向ける。
この状態で、収容体11における摘み部15を手で把持し、開封誘導領域14の他端部に向けて引っ張ることで、開封誘導領域14を含む第1の不透過性シート11aを引き裂き、開孔13を形成する(図3参照)。
【0050】
その後、図4(b)に示すように、収容体11から開孔13を通じて液剤が漏れ出さないように留意しながら、先の回動のときとは反対方向に、粘着テープ4を回動支点として、収容体11を180°回動させて(裏返して)、収容体11における開孔13の形成されている面を液徐放部材20における内層シート21に当接させる。この状態の液剤徐放用具1を、図5に示す徐放作業具30に装着して使用する。
図5に示す徐放作業具30は、本実施形態の液剤徐放用具1が装着可能な平坦なヘッド部31、及びヘッド部31に自在継手32を介して連結された棒状の柄33から構成されている。ヘッド部31は収容体11とほぼ同寸の矩形状をしている。
【0051】
液剤徐放用具1は、収容体11における第2の液不透過性シート11b側(開孔13の形成されていない面側)がヘッド部31の下面に対向するように、ヘッド部31に装着される。次に、液徐放部材20におけるフラップ23,23をヘッド部31の上面側に折り返す。更にフラップ23を、ヘッド部31における、放射状のスリットを有する可撓性の複数の片部34内に押し込む。これによって液剤徐放用具1を徐放作業具30のヘッド部31に固定することができる。そして、この状態でフローリング等に液剤を塗布することができる。
【0052】
本実施形態の液剤徐放用具1によれば、以下の効果が奏される。本実施形態の液剤徐放用具1においては、収容体11は、開孔13が形成される面が液徐放部材20に対して接近離反自在に、収容体11の周縁部の一部(長側縁部11c)のみにおいて液徐放部材20に接合されている。そのため、接合手段である粘着テープ4を回動中心として、液保持部材12が収容された収容体11を液保持部材12に対して容易に回動させることができる。
【0053】
従って、例えば前述の一使用方法のように、液徐放部材20上に、収容体11を開孔13が上を向くように載置し、その状態で開孔13の封止状態を容易に解くことができる。その後、粘着テープ4を回動中心として、収容体11を開孔13が液徐放部材20に当接するように容易に回動させることができる。
【0054】
その結果、収容体と液徐放部材とが分離した形態の液剤徐放用具に比して、使用時に収容体11を液徐放部材20の所定位置に容易に載置することができる。また、開孔13の形成された収容体11をスムーズに裏返し易く、液剤で手等が汚れ難い。更に、収容体が開孔を液徐放部材に対向させた状態で液徐放部材に固定された形態の液剤徐放用具に比して、使用前において収容体11の開孔13が接着剤により封止されているものではないため、収容体11における液剤の密封性を良好にしながら、引き裂きによって確実に開孔13を形成できる。このように、開孔13の封止状態の確保と封止状態の解除を確実なものとすることができる。
【0055】
以上、本発明の液剤徐放用具を好ましい一実施形態に基づき説明したが、本発明の液剤徐放用具は前記実施形態に制限されるものではない。
例えば、収容体11における液徐放部材20とのヒンジ接合位置は、前記実施形態のような長側縁部11cの全域に制限されず、長側縁部11cの一部領域のみでもよく、短側縁部(前後縁部)でもよい。更には、前記ヒンジ接合位置は、液徐放部材20における、徐放作業具30のヘッド部31との対向面の外側や、該対向面の内側であってもよい。収容体11と液徐放部材20とのヒンジ接合の接合形態は、点状(2点〜複数点)の接合や、線状の接合でもよい。
【0056】
前記実施形態においては、開孔13の封止手段として、収容体11に開封誘導領域14が形成されていたが、その他の封止手段として、シート状のシール部材を収容体11にヒートシールや超音波シール等の融着により接合する手段を用いることもできる。
【0057】
液徐放部材20の保護や液剤徐放用具1の操作性向上を目的として、液徐放部材20の外面に、液徐放部材20とは別に更に別のシートを重ねてもよい。液徐放部材20は、1枚のシート(シングルプライ)から形成することができる。
収容体11内で液剤の液溜まりが発生することを一層防止するために、収容体11を複数の区画室に区分し、各区画室に液保持部材12を配してもよい。
【0058】
本発明の液剤徐放用具は、特にフローリングへの液剤塗布に好適であるが、これ以外の硬質表面、例えば自動車のボディや革靴等への液剤塗布にも用いることもできる。また、本発明の液剤徐放用具は、その他の湿式清掃、つや出し剤等の液剤の塗布等に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の液剤徐放用具の一実施形態について、仮想的に収容体と液徐放部材とを分離した状態を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す液剤徐放用具の幅方向に沿う縦断面図で、(a)は収容体と液徐放部材とが当接した状態を示す図、(b)は収容体と液徐放部材とが離反した状態を示す図である。
【図3】図3は、収容体を示す斜視図である。
【図4】図4は、図1に示す液剤徐放用具の幅方向に沿う縦断面図で、(a)は収容体を180°回動させた状態を示す図、(b)は、開孔の形成された収容体と液徐放部材とが当接した状態を示す図である。
【図5】図5は、図1に示す液剤徐放用具の一使用状態を示す斜視図である。
【図6】図6は、従来の液剤徐放用具を示す縦断面図で、(a)は収容体に開孔を形成する前の状態を示す図、(b)は収容体に開孔を形成した後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 液剤徐放用具
11 収容体
11a,11b 液不透過性シート
11c 長側縁部
12 液保持部材
13 開孔
14 開封誘導領域(封止手段)
20 液徐放部材
21 内層シート
22 表面シート
4 粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液剤を含浸させてなる液保持部材と、該液保持部材を密封収容する扁平な袋状の収容体と、液徐放部材とを備えた液剤徐放用具であって、
前記収容体は使用に際してその一部に開孔を形成して封止状態を解くようになされており、
前記収容体は、前記開孔が形成される面が前記液徐放部材に対して接近離反自在に、扁平な該収容体の周縁部の一部のみにおいて前記液徐放部材にヒンジ接合されている液剤徐放用具。
【請求項2】
前記収容体は、縦長矩形状となっており、その一辺部のみにおいて前記液徐放部材に接合されている請求項1記載の液剤徐放用具。
【請求項3】
前記液剤徐放用具を装着可能なヘッド部及び該ヘッド部に連結された棒状の柄を備えた徐放作業具における該ヘッド部に装着されて使用される請求項1又は2に記載の液剤徐放用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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