説明

液化石油ガスの製造方法

【課題】 メタノールおよび/またはジメチルエーテルから、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を経済的に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと合成ガスとを含む原料ガスを、液化石油ガス製造用触媒を含む触媒層に流通させて液化石油ガスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールおよび/またはジメチルエーテルから、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化石油ガス(LPG)は、常温常圧下ではガス状を呈する石油系もしくは天然ガス系炭化水素を圧縮し、あるいは同時に冷却して液状にしたものをいい、その主成分はプロパンまたはブタンである。液体の状態で貯蔵および輸送が可能なLPGは可搬性に優れ、供給にパイプラインを必要とする天然ガスとは違い、ボンベに充填した状態でどのような場所にでも供給することができるという特徴がある。そのため、プロパンを主成分とするLPG、すなわちプロパンガスが、家庭用・業務用の燃料として広く用いられている。現在、日本国内においても、プロパンガスは約2,500万世帯(全世帯の50%以上)に供給されている。また、LPGは、家庭用・業務用燃料以外にも、カセットコンロ、使い捨てライター等の移動体用の燃料(主に、ブタンガス)、工業用燃料、自動車用燃料としても使用されている。
【0003】
従来、LPGは、1)湿性天然ガスから回収する方法、2)原油のスタビライズ(蒸気圧調整)工程から回収する方法、3)石油精製工程などで生成されるものを分離・抽出する方法などにより生産されている。
【0004】
LPG、特に家庭用・業務用の燃料として用いられるプロパンガスは将来的にも需要が見込め、工業的に実施可能な、新規な製造方法を確立できれば非常に有用である。
【0005】
LPGの製造方法として、特許文献1には、Cu−Zn系、Cr−Zn系、Pd系等のメタノール合成触媒、具体的には、CuO−ZnO−Al触媒、Pd/SiO触媒と、平均孔径が略10Å(1nm)以上のゼオライト、具体的にはY型ゼオライトよりなるメタノール転化触媒とを物理的に混合した混合触媒の存在下で、水素および一酸化炭素よりなる合成ガスを反応させて、液化石油ガス、あるいは、これに近い組成の炭化水素混合物を製造する方法が開示されている。
【0006】
また、LPGの製造方法として、非特許文献1には、メタノール合成用触媒である4wt%Pd/SiO、Cu−Zn−Al混合酸化物[Cu:Zn:Al=40:23:37(原子比)]またはCu系低圧メタノール合成用触媒(商品名:BASF S3−85)と、450℃で1時間水蒸気処理した、SiO/Al=7.6の高シリカY型ゼオライトとから成るハイブリッド触媒を用い、合成ガスからメタノール、ジメチルエーテルを経由してC2〜C4のパラフィンを選択率69〜85%で製造する方法が開示されている。
【0007】
一方、非特許文献2には、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つを原料としてLPGを製造する方法が開示されている。具体的には、微加圧下、反応温度603K(330℃)で、メタノール:H:N=1:1:1の原料ガスをメタノール基準のLHSVが20h−1で、前段がZSM−5であり、後段がPt−Cである2層の触媒層(ZSM−5/Pt−C Series)、または、ZSM−5とPt−Cとからなる混合触媒層(ZSM−5/Pt−C Pellet−mixture)に流通させ、LPG合成反応を行っている。
【0008】
さらに、非特許文献3には、ジメチルエーテルと水素とから、触媒反応により、LPGを製造する方法が開示されている。用いる触媒としては、メタノール合成触媒とゼオライトとから成るハイブリッド触媒(Cu−Zn/USYなど)、Pdでイオン交換したZSM−5(Pd−ZSM−5)、Ptでイオン交換したZSM−5(Pt−ZSM−5)などが挙げられている。非特許文献4にも、触媒としてVIIIB金属担持ZSM−5、具体的には、Pdでイオン交換したZSM−5(Pd−ZSM−5)、Ptでイオン交換したZSM−5(Pt−ZSM−5)などを用い、ジメチルエーテルと水素とからLPGを製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭61−23688号公報
【非特許文献1】“Selective Synthesis of LPG from Synthesis Gas”,Kaoru Fujimoto et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,58,p.3059−3060(1985)
【非特許文献2】“Methanol/Dimethyl Ether Conversion on Zeolite Catalysts for Indirect Synthesis of LPG from Natural Gas”,Yingjie Jin et al.,第92回触媒討論会 討論会A予稿集,p.322,2003年9月18日
【非特許文献3】“Selective Synthesis of LPG from DME”,Kenji Asami et al.,石油学会第47回年会 受賞講演、第53回研究発表会 講演要旨,p.98−99,平成16年5月19日
【非特許文献4】“Synthesis of LPG from DME with VIIIB Metal Supported on ZSM−5”,Kenji Asami et al.,第13回日本エネルギー学会大会 講演要旨集,p.128−129,平成16年7月29日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、メタノールおよび/またはジメチルエーテルから、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を経済的に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法であって、
メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素と一酸化炭素とを含む原料ガスを、液化石油ガス製造用触媒を含む触媒層に流通させて液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法であって、
メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと合成ガスとを含む原料ガスを、液化石油ガス製造用触媒を含む触媒層に流通させて液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、
(I)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(II)メタノール合成触媒を用いて、合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、メタノール含有ガスを製造するメタノール製造工程と、
(III)液化石油ガス製造用触媒を用いて、メタノール製造工程において得られたメタノール含有ガスと合成ガス製造工程において得られた合成ガスとから、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、
(I)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(II)ジメチルエーテル合成触媒を用いて、合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、ジメチルエーテル含有ガスを製造するジメチルエーテル製造工程と、
(III)液化石油ガス製造用触媒を用いて、ジメチルエーテル製造工程において得られたジメチルエーテル含有ガスと合成ガス製造工程において得られた合成ガスとから、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0014】
ここで、合成ガスとは、天然ガスや石炭などの含炭素原料から製造される水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを指し、水素および一酸化炭素からなる混合ガスに限られない。合成ガスは、例えば、二酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレンなどを含む混合ガスであってもよい。天然ガスを改質して得られる合成ガスは、通常、水素と一酸化炭素とに加えて二酸化炭素や水蒸気を含む。
【発明の効果】
【0015】
メタノールおよび/またはジメチルエーテルと水素とを反応させることにより、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を合成することができる。この反応に用いる液化石油ガス製造用触媒は、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ru,Rh,Pd,Ir、Pt等のオレフィン水素化触媒成分とゼオライトとを含有するものであり、例えば、Pdおよび/またはPtをZSM−5またはUSY型ゼオライトに担持したもの、Pdを担体(シリカなど)に担持してなるPd系触媒成分とUSY型ゼオライトとを混合したものである。
【0016】
従来、ゼオライト触媒の存在下でメタノールおよび/またはジメチルエーテルを反応させることによりオレフィンを合成する方法はよく知られている。しかし、この反応では、ゼオライト触媒がコーキングにより劣化しやすく、触媒寿命が十分に長いとは言い難い。また、反応雰囲気中に一酸化炭素および/または二酸化炭素が存在すると、一般的に、ゼオライト触媒がさらに劣化しやすくなることも知られている。
【0017】
それに対して、ゼオライト触媒を用いてメタノールおよび/またはジメチルエーテルからパラフィンを合成する場合、同じ炭化水素を合成するにも関わらず、オレフィンを合成する場合のような触媒の激しい劣化は起こらない。しかも、反応雰囲気中に一酸化炭素および二酸化炭素が存在しても何ら問題がない。むしろ、反応雰囲気中に一酸化炭素が存在すると、パラフィンの収率が増大する結果が得られた。
【0018】
メタノールおよび/またはジメチルエーテルと水素とを反応させてプロパンおよび/またはブタンを合成する本発明においては、ゼオライトを含有する触媒を用いるが、ゼオライトのコーキングによる劣化が小さく、LPGを長期間にわたって安定に製造することができる。また、触媒コストも低減される。
【0019】
さらに、本発明では水素の使用量(原料ガス中の水素の含有量)を少なくすることができる。メタノールおよび/またはジメチルエーテルと水素とからLPGを合成する場合、水が副生するが、水は一酸化炭素と反応して水素と二酸化炭素が生成する。この反応はシフト反応(CO+HO→CO+H)と言われるものである。本発明では一酸化炭素の存在下でLPG合成反応を行うので、反応時に副生する水と一酸化炭素とから水素が生成する。そのため、原料ガス中の水素の含有量が少なくても、LPG合成反応時に適当量の水素が反応雰囲気中に存在し、高収率でプロパンおよび/またはブタンを合成することができる。
【0020】
さらに、反応雰囲気中に一酸化炭素および二酸化炭素が存在していてもよいことから、本発明では、水素源として純水素ではなく、低価格の合成ガスを用いることができる。また、一酸化炭素を含む合成ガスを用いても、純水素を用いた場合と同等程度のプロパンおよび/またはブタンの収率が得られる。しかも、合成ガスはメタノールおよびジメチルエーテルの原料ガスであり、本発明においては、メタノール合成反応またはジメチルエーテル合成反応の未反応原料を水素源として用いることができる。このように、本発明によれば、低コストで、メタノールおよび/またはジメチルエーテルからLPGを製造することができる。
【0021】
なお、合成ガスは、水素および一酸化炭素以外に、二酸化炭素、水蒸気、メタン、エタン、エチレンなどを含むことがあるが、これらが反応雰囲気中に存在しても何ら問題がない。メタン、エタン、エチレンが存在する場合は、プロパンおよび/またはブタンの収率が高くなることもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
1.液化石油ガス製造用触媒
本発明において用いる液化石油ガス製造用触媒としては、オレフィン水素化触媒成分とゼオライトとを含有するもの、例えば、オレフィン水素化触媒成分をゼオライトに担持したものや、オレフィン水素化触媒成分をシリカ等の担体に担持したものとゼオライトとを混合したものなどが挙げられる。また、1種以上のメタノール合成触媒と1種以上のゼオライトとを含有する触媒、具体的には、Cu−Zn系メタノール合成触媒とUSY型ゼオライトとを、Cu−Zn系メタノール合成触媒:USY型ゼオライト=1:5〜2:1(質量比)で含有する触媒、Cu−Zn系メタノール合成触媒とβ−ゼオライトとを、Cu−Zn系メタノール合成触媒:β−ゼオライト=1:5〜2:1(質量比)で含有する触媒、Pd系メタノール合成触媒とβ−ゼオライトとを、Pd系メタノール合成触媒:β−ゼオライト=1:5〜2.5:1(質量比)で含有する触媒などが挙げられる。
【0023】
ここで、オレフィン水素化触媒成分とは、オレフィンのパラフィンへの水素化反応において触媒作用を示すものを指す。具体的には、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ru,Rh,Pd,Ir,Ptなどが挙げられる。また、メタノール合成触媒とは、CO+2H→CHOHの反応において触媒作用を示すものを指す。メタノール合成触媒とゼオライトとを含有する上記の触媒においては、メタノール合成触媒がオレフィン水素化触媒成分としての機能を有している。ゼオライトは、メタノールの炭化水素への縮合反応および/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応において触媒作用を示すものである。
【0024】
本発明においては、下記式(1)に従って、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素とから、主成分がプロパンまたはブタンであるパラフィン(LPG)が合成されると考えられる。
【0025】
【化1】

【0026】
本発明においては、ゼオライトの細孔内の空間場に配座する酸点と塩基点との協奏作用により、メタノールの脱水によってカルベン(HC:)が生成する。そして、このカルベンの重合によって、主成分がプロピレンまたはブテンであるオレフィンが生成する。より詳細には、2量体としてエチレンが、3量体として、あるいは、エチレンとの反応によってプロピレンが、4量体として、あるいは、プロピレンとの反応によって、あるいは、エチレンの2量化によってブテンが生成すると考えられる。
【0027】
また、このオレフィンの生成過程においては、メタノールの脱水2量化によるジメチルエーテルの生成、ジメチルエーテルの水和によるメタノールの生成などの反応も起こると考えられる。
【0028】
そして、オレフィン水素化触媒成分の作用により、生成したオレフィンが水素化され、主成分がプロパンまたはブタンであるパラフィン、すなわちLPGが合成される。
【0029】
上記の触媒において、Cu−Zn系メタノール合成触媒としては、公知のものいずれをも使用することができる。また、Pd系メタノール合成触媒としては、例えば、シリカ等の担体にPdを0.1〜10重量%担持したもの、シリカ等の担体にPdを0.1〜10重量%、Ca等のアルカリ金属、アルカリ土類金属およびランタノイド金属からなる群より選択される少なくとも一種を5重量%以下(0重量%を除く)担持したものが挙げられる。
【0030】
液化石油ガス製造用触媒としては、中でも、オレフィン水素化触媒成分をゼオライトに担持したもの、オレフィン水素化触媒成分をシリカ等の担体に担持したものとゼオライトとを混合したものが好ましい。
【0031】
オレフィン水素化触媒成分として、具体的には、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ru,Rh,Pd,Ir,Ptなどが挙げられる。オレフィン水素化触媒成分は、一種であっても、二種以上であってもよい。
【0032】
オレフィン水素化触媒成分としては、中でも、Pd,Ptが好ましく、Pdがより好ましい。オレフィン水素化触媒成分としてPdおよび/またはPtを用いることにより、高いプロパンおよびブタンの収率を保ちながら、一酸化炭素および二酸化炭素の副生をより十分に抑制することができる。
【0033】
なお、Pd,Ptは金属の形で含まれていなくてもよく、例えば、酸化物、硝酸塩、塩化物などの形で含まれていてもよい。その場合、より高い触媒活性が得られる点から、反応前に、例えば、水素還元処理などをすることによって、Pd,Ptを金属パラジウム、金属白金に転化させることが好ましい。
【0034】
Pd,Ptを活性化するための還元処理の処理条件は、担持したパラジウム化合物および/または白金化合物の種類などに応じて適宜決めることができる。
【0035】
オレフィン水素化触媒成分をゼオライトに担持したものとしては、Pdおよび/またはPtをZSM−5またはUSY型ゼオライトに担持したものが好ましく、PdをZSM−5またはUSY型ゼオライトに担持したものがさらに好ましい。Pdおよび/またはPtを担持するゼオライトとしてZSM−5またはUSY型ゼオライトを用いることにより、より高い触媒活性、より高いプロパンおよびブタンの収率が得られ、しかも、一酸化炭素および二酸化炭素の副生をより十分に抑制することができる。
【0036】
触媒活性の点から、Pd,PtはZSM−5またはUSY型ゼオライトに高分散担持されていることが好ましい。
【0037】
この液化石油ガス製造用触媒のPdおよび/またはPtの担持量は、選択性の点から、合計で、0.005重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましく、0.05重量%以上が特に好ましい。また、液化石油ガス製造用触媒のPdおよび/またはPtの担持量は、触媒活性、分散性および経済性の点から、合計で、5重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、0.7重量%以下が特に好ましい。液化石油ガス製造用触媒のPdおよび/またはPtの担持量を上記の範囲にすることにより、より高転化率、高選択率、高収率でプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。
【0038】
ZSM−5としては、高シリカZSM−5が好ましく、具体的にはSi/Al比(原子比)が20〜100のZSM−5が好ましい。Si/Al比(原子比)が20〜100のZSM−5を用いることにより、より高い触媒活性、より高いプロパンおよびブタンの収率が得られ、しかも、一酸化炭素および二酸化炭素の副生をより十分に抑制することができる。ZSM−5のSi/Al比(原子比)は、70以下がより好ましく、60以下が特に好ましい。
【0039】
また、USY型ゼオライトのSiO/Al比は、5以上が好ましく、15以上がより好ましい。USY型ゼオライトのSiO/Al比は、70以下が好ましく、50以下がさらに好ましく、40以下がより好ましく、25以下が特に好ましい。
【0040】
なお、上記の液化石油ガス製造用触媒は、その所望の効果を損なわない範囲内で、Pd,Pt以外の成分をZSM−5またはUSY型ゼオライトに担持したものであってもよい。
【0041】
オレフィン水素化触媒成分をゼオライトに担持した液化石油ガス製造用触媒は、イオン交換法、含浸法など公知の方法で調製することができる。イオン交換法で調製した液化石油ガス製造用触媒は、含浸法で調製した液化石油ガス製造用触媒と比べて、触媒活性がより高い場合があり、より低い反応温度でLPG合成反応を行うことができ、より高い炭化水素の選択性、さらには、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる場合がある。
【0042】
オレフィン水素化触媒成分を担持したゼオライトは、必要により粉砕、成形して用いる。触媒の成形方法としては特に限定されないが、乾式の方法が好ましく、例えば、押出成形法、打錠成形法などが挙げられる。
【0043】
オレフィン水素化触媒成分を担体に担持したものとゼオライトとを混合したものとしては、Pdを担体に担持してなるPd系触媒成分とUSY型ゼオライトとを混合したものが好ましい。ゼオライトとしてUSY型ゼオライトを用いることにより、より高い触媒活性、より高いプロパンおよびブタンの収率が得られ、しかも、一酸化炭素および二酸化炭素の副生をより十分に抑制することができる。
【0044】
USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)を0.1以上にすることにより、より高いLPG収率が得られる。
【0045】
また、USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)は、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)を1.5以下にすることにより、より高いLPG収率が得られ、一酸化炭素および二酸化炭素、メタンの副生をより十分に抑制することができる。さらに、USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)を0.8以下にすることにより、LPG収率がより高くなり、重質炭化水素類(C5以上)の副生をより十分に抑制することができる。
【0046】
なお、USY型ゼオライトに対するPd系触媒成分の含有比率は、上記の範囲に限定されるものではなく、Pd系触媒成分中のPd量などに応じて適宜決めることができる。
【0047】
Pd系触媒成分は、パラジウムを担体に担持したものである。触媒活性の点から、Pdは担体に高分散担持されていることが好ましい。
【0048】
Pd系触媒成分のPdの担持量は、0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましい。また、Pd系触媒成分のPdの担持量は、分散性と経済性との点から、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。Pd系触媒成分のPdの担持量を上記の範囲にすることにより、より高転化率、高選択率、高収率でプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。
【0049】
Pdを担持する担体としては特に限定されず、公知のものいずれをも用いることができる。担体としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、シリカ・アルミナ、カーボン(活性炭)などが挙げられ、さらには、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄などの酸化物や、これらの金属二種以上を含む複合酸化物、あるいは、これらの金属一種以上とその他の金属一種以上とを含む複合酸化物なども挙げられる。
【0050】
Pdを担持する担体としては、中でも、シリカが好ましい。担体としてシリカを用いることにより、二酸化炭素の副生を伴わず、高選択率、高収率でプロパンおよび/またはブタンを合成することができる。
【0051】
担体であるシリカとしては、比表面積が450m/g以上のものが好ましく、比表面積が500m/g以上のものがより好ましい。比表面積が上記の範囲であるシリカを用いることにより、より高い触媒活性が得られ、より高転化率、高収率でプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。
【0052】
一方、担体であるシリカの比表面積の上限は特に限定されないが、通常、1000m/g程度である。
【0053】
シリカの比表面積は、例えば、島津製作所製、ASAP2010等の全自動比表面積細孔分布測定装置を使用し、吸着ガスとしてNを用いてBET法により測定する。
【0054】
Pd系触媒成分は、その所望の効果を損なわない範囲内で、Pd以外の成分を担体に担持したものであってもよい。
【0055】
Pdを担体(シリカなど)に担持したPd系触媒成分は、含浸法、析出沈殿法など公知の方法で調製することができる。
【0056】
例えば、Pdが酸化物の形で含まれているもの、Pdが硝酸塩の形で含まれているもの、Pdが塩化物の形で含まれているものなど、Pd系触媒成分には、使用前に還元処理をして活性化することが必要なものもある。本発明においては、Pd系触媒成分を予め還元処理して活性化する必要は必ずしもなく、Pd系触媒成分とUSY型ゼオライトとを混合・成形して本発明の液化石油ガス製造用触媒を製造した後、反応を開始するに先立ち還元処理をしてPd系触媒成分を活性化することができる。この還元処理の処理条件は、Pd系触媒成分の種類などに応じて適宜決めることができる。
【0057】
USY型ゼオライトとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属を含有するUSY型ゼオライト、これらの金属等でイオン交換したUSY型ゼオライト、あるいは、これらの金属等を担持したUSY型ゼオライトなども用いることができるが、プロトン型であることが好ましい。適当な酸強度、酸量(酸濃度)を有するプロトン型のUSY型ゼオライトを用いることにより、触媒活性がさらに高くなり、高転化率、高選択率でプロパンおよび/またはブタンを合成することができる。また、Pdおよび/またはPtをUSY型ゼオライトに担持したものも好ましい。
【0058】
USY型ゼオライトのSiO/Al比は、5以上が好ましく、15以上がより好ましい。SiO/Al比が5以上、より好ましくは15以上のUSY型ゼオライトを用いることにより、一酸化炭素および二酸化炭素の副生をより十分に抑制することができ、また、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる。
【0059】
また、USY型ゼオライトのSiO/Al比は、70以下が好ましく、50以下がさらに好ましく、40以下がより好ましく、25以下が特に好ましい。SiO/Al比が70以下、より好ましくは25以下のUSY型ゼオライトを用いることにより、より高いメタノールおよび/またはジメチルエーテルの転化率が得られ、また、メタンの副生をより十分に抑制することができ、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる。
【0060】
Pd系触媒成分とUSY型ゼオライトとの混合触媒である液化石油ガス製造用触媒は、Pd系触媒成分とUSY型ゼオライトとを別途に調製し、これらを均一に混合した後、必要に応じて成形して製造される。両触媒成分の混合・成形の方法としては特に限定されないが、乾式の方法が好ましい。湿式で両触媒成分の混合・成形を行った場合、両触媒成分間での化合物の移動、例えばPd系触媒成分中の塩基性成分のUSY型ゼオライト中の酸点への移動・中和が生じることによって、両触媒成分の各々の機能に対して最適化された物性等が変化することがある。触媒の成形方法としては、押出成形法、打錠成形法などが挙げられる。
【0061】
液化石油ガス製造用触媒は、その所望の効果を損なわない範囲内で必要により他の添加成分を含有していてもよい。例えば、石英砂などで上記の触媒を希釈して用いることができる。
【0062】
また、反応を固定床で行う場合、液化石油ガス製造用触媒を含有する触媒層は、原料ガスの流通方向に対してその組成を変化させることもできる。例えば、触媒層は、原料ガスの流通方向に対して、前段にゼオライトを多く含有し、後段にオレフィン水素化触媒成分をシリカ等の担体に担持したもの、あるいはメタノール合成触媒成分を多く含有する構成にすることができる。
【0063】
2.液化石油ガスの製造方法
本発明においては、上記のような液化石油ガス製造用触媒一種以上を用いて、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素とを反応させ、主成分がプロパンまたはブタンであるパラフィン類、好ましくは主成分がプロパンであるパラフィン類を製造する。このとき、反応器に送入されるガス(原料ガス)は、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素と一酸化炭素とを含み、好ましくはメタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと合成ガスとから成る。そして、得られた低級パラフィン含有ガスから必要に応じて水分や、水素等の低沸点成分および高沸点成分を分離して液化石油ガス(LPG)を製造する。液化石油ガスを得るために、必要に応じて加圧および/または冷却を行ってもよい。
【0064】
ここで使用する水素および一酸化炭素、あるいは合成ガスは、メタノール合成反応(CO+2H→CHOH)またはジメチルエーテル合成反応(3CO+3H→CHOCH+CO)の未反応原料であってもよい。メタノール合成反応の生成ガスまたはジメチルエーテル合成反応の生成ガスから未反応原料である水素および一酸化炭素を分離することなく、これを原料ガスとして反応器に送入することもできる。余剰量の水素および/または一酸化炭素を分離した後、反応器に送入してもよい。また、一度、メタノール合成反応の生成ガスまたはジメチルエーテル合成反応の生成ガスから未反応原料である水素および一酸化炭素を分離した後、適当量の水素および一酸化炭素を反応生成ガスに戻すこともできる。
【0065】
本発明のLPGの製造方法においては、反応原料として、メタノールまたはジメチルエーテルを単独で用いることもでき、また、メタノールとジメチルエーテルとの混合物を用いることもできる。反応原料としてメタノールとジメチルエーテルとの混合物を用いる場合、メタノールとジメチルエーテルとの含有比率は特に限定されず、適宜決めることができる。
【0066】
反応は、固定床でも、流動床でも、移動床でも行うことができる。原料ガス組成、反応温度、反応圧力、触媒との接触時間などの反応条件は、用いる触媒の種類などに応じて適宜決めることができるが、例えば、以下のような条件でLPG合成反応を行うことができる。
【0067】
反応器に送入されるガスは、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素と一酸化炭素とを含む。さらに、一般的な合成ガスに含まれる成分、例えば二酸化炭素や水蒸気、メタン、エタン、エチレンなどを含んでいてもよい。
【0068】
反応原料がメタノールである場合、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、水素化率と触媒劣化抑制との点から、メタノール1モルに対して0.5モル以上が好ましく、0.8モル以上がより好ましい。また、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、生産性と経済性との点から、メタノール1モルに対して2モル以下が好ましく、1.2モル以下がより好ましい。
【0069】
反応原料がジメチルエーテルである場合、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、水素化率と触媒劣化抑制との点から、ジメチルエーテル1モルに対して1モル以上が好ましく、1.5モル以上がより好ましい。また、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、生産性と経済性との点から、ジメチルエーテル1モルに対して3モル以下が好ましく、2.4モル以下がより好ましい。
【0070】
反応原料がメタノールとジメチルエーテルとの混合物である場合、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、上記の反応原料がメタノールである場合の好ましい範囲と反応原料がジメチルエーテルである場合の好ましい範囲と同様の範囲が好ましく、メタノールとジメチルエーテルとの含有比率に応じてこれらの好ましい範囲を算出することができる。
【0071】
反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の含有量は適宜決めることができるが、好ましくは18〜30モル%である。反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の含有量は20モル%以上がより好ましい。また、生産性の点からは、反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の含有量は25モル%以下が好ましい。
【0072】
水素源として合成ガスを用いる場合、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと合成ガスの供給量比は、原料ガス組成が好ましくは上記の範囲内になるように、適宜決めればよい。また、必要に応じて、これに水素を添加してもよい。
【0073】
反応温度は、より高い触媒活性が得られる点から、300℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましい。また、反応温度は、より高い炭化水素の選択性、さらには、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる点と、触媒寿命の点とから、470℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、400℃以下が特に好ましい。
【0074】
反応圧力は、より高い活性が得られる点と、装置の操作性の点とから、0.1MPa以上が好ましく、0.15MPa以上がより好ましい。また、反応圧力は、経済性および安全性の点から、3MPa以下が好ましく、2.5MPa以下がより好ましい。
【0075】
さらに、本発明によれば、より低圧下でLPGを製造することができる。具体的には、1MPa未満、さらには0.6MPa以下の圧力下で、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素とからLPGを合成することができる。
【0076】
メタノールおよび/またはジメチルエーテルのガス空間速度は、経済性の点から、1500hr−1以上が好ましく、1800hr−1以上がより好ましい。また、メタノールおよび/またはジメチルエーテルのガス空間速度は、より高い活性が得られ、また、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる点から、60000hr−1以下が好ましく、30000hr−1以下がより好ましい。
【0077】
なお、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素と一酸化炭素とは、混合して反応器に供給してもよく、また、別々に反応器に供給してもよい。
【0078】
反応器に送入されるガスは、分割して反応器に送入し、それにより反応温度を制御することもできる。
【0079】
反応は固定床、流動床、移動床などで行うことができるが、反応温度の制御と触媒の再生方法との両面から選定することが好ましい。例えば、固定床としては、内部多段クエンチ方式などのクエンチ型反応器、多管型反応器、複数の熱交換器を内包するなどの多段型反応器、多段冷却ラジアルフロー方式や二重管熱交換方式や冷却コイル内蔵式や混合流方式などその他の反応器などを用いることができる。
【0080】
液化石油ガス製造用触媒は、温度制御を目的として、シリカ、アルミナなど、あるいは、不活性で安定な熱伝導体で希釈して用いることもできる。また、液化石油ガス製造用触媒は、温度制御を目的として、熱交換器表面に塗布して用いることもできる。
【0081】
このようにして得られる反応生成ガス(低級パラフィン含有ガス)は、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである。液化特性の点から、低級パラフィン含有ガス中のプロパンおよびブタンの合計含有量は多いほど好ましい。さらに、得られる低級パラフィン含有ガスは、燃焼性および蒸気圧特性の点から、ブタンよりプロパンが多いことが好ましい。
【0082】
得られる低級パラフィン含有ガスには、通常、水分や、プロパンの沸点より低い沸点または昇華点を持つ物質である低沸点成分、ブタンの沸点より高い沸点を持つ物質である高沸点成分が含まれる。低沸点成分としては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、未反応の原料である水素や、副生物であるエタン、メタンなどが挙げられる。高沸点成分としては、例えば、副生物である高沸点パラフィン(ペンタン、ヘキサン等)などが挙げられる。
【0083】
そのため、得られた低級パラフィン含有ガスから、必要に応じて水分、低沸点成分および高沸点成分などを分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガス(LPG)を得る。また、必要に応じて、未反応の原料であるメタノールおよび/またはジメチルエーテルなども公知の方法によって分離する。
【0084】
水分の分離、低沸点成分の分離、高沸点成分の分離は、公知の方法によって行うことができる。
【0085】
水分の分離は、例えば、液液分離などによって行うことができる。
【0086】
低沸点成分の分離は、例えば、気液分離、吸収分離、蒸留などによって行うことができる。より具体的には、加圧常温での気液分離や吸収分離、冷却しての気液分離や吸収分離、あるいは、その組み合わせによって行うことができる。また、膜分離や吸着分離によって行うこともでき、これらと気液分離、吸収分離、蒸留との組み合わせによって行うこともできる。低沸点成分の分離には、製油所で通常用いられているガス回収プロセス(「石油精製プロセス」石油学会/編、講談社サイエンティフィク、1998年、p.28〜p.32記載)を適用することができる。
【0087】
低沸点成分の分離方法としては、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを、ブタンより沸点の高い高沸点パラフィンガス、あるいは、ガソリンなどの吸収液に吸収させる吸収プロセスが好ましい。
【0088】
高沸点成分の分離は、例えば、気液分離、吸収分離、蒸留などによって行うことができる。
【0089】
なお、分離条件は、公知の方法に従って適宜決めることができる。
【0090】
民生用としては、使用時の安全性の点から、例えば、分離によってLPG中の低沸点成分の含有量を5モル%以下(0モル%も含む)とすることが好ましい。
【0091】
また、液化石油ガスを得るために、必要に応じて加圧および/または冷却を行ってもよい。
【0092】
このようにして製造されるLPG中のプロパンおよびブタンの合計含有量は、炭素量基準で90%以上、さらには95%以上(100%も含む)とすることができる。また、製造されるLPG中のプロパンの含有量は、炭素量基準で50%以上、さらには60%以上、さらには65%以上(100%も含む)とすることができる。本発明によれば、家庭用・業務用の燃料として広く用いられているプロパンガスに適した組成を有するLPGを製造することができる。
【0093】
3.含炭素原料からの液化石油ガスの製造方法
本発明において反応原料として用いるメタノールおよびジメチルエーテルは、現在、工業的に製造されている。
【0094】
メタノールは、例えば、以下のようにして製造されている。
【0095】
まず、必要に応じて、硫黄や硫黄化合物などの触媒被毒物質を除去(脱硫など)した後、天然ガス(メタン)と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とをNi系触媒などの改質触媒の存在下で反応させることにより、合成ガスを製造する。合成ガスの製造方法として、天然ガス(メタン)の水蒸気改質法、複合改質法あるいは自己熱改質法はよく知られている。
【0096】
また、天然ガス以外の含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とを公知の方法により反応させることによっても、合成ガスを製造することができる。含炭素原料としては、炭素を含む物質であって、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種と反応してHおよびCOを生成可能なものであれば何れも用いることができ、例えば、エタン等の低級炭化水素など、また、ナフサ、石炭などを用いることができる。
【0097】
次に、メタノール合成触媒の存在下、一酸化炭素と水素とを反応させることにより、合成ガスからメタノールを製造する。メタノール合成触媒としてCu−Zn−Al複合酸化物、Cu−Zn−Cr複合酸化物などのCu−Zn系触媒(CuおよびZnを含む複合酸化物)を用いる場合、通常、反応温度230〜300℃程度、反応圧力2〜10MPa程度で反応を行う。メタノール合成触媒としてZn−Cr系触媒(ZnおよびCrを含む複合酸化物)を用いる場合、通常、反応温度250〜400℃程度、反応圧力10〜60MPa程度で反応を行う。このようにしてメタノールを合成することができる。
【0098】
一方、ジメチルエーテルは、例えば、リン酸アルミニウムなどの固体酸触媒を用い、メタノールの脱水反応により製造されている。
【0099】
さらに、メタノールを経由せず、合成ガスから直接ジメチルエーテルを製造するプロセスも実用化されつつある。このプロセスにおいては、スラリー相反応器を用い、メタノール合成触媒とメタノール脱水触媒との混合触媒、例えば、メタノール合成触媒とメタノール脱水触媒とを、メタノール合成触媒:メタノール脱水触媒=1:2〜2:1(質量比)で含有する触媒の存在下、反応温度230〜280℃程度、反応圧力3〜7MPa程度で、一酸化炭素と水素とを反応させることにより、ジメチルエーテルを合成することができる。
【0100】
以上のように、メタノールおよびジメチルエーテルは合成ガスから製造されているが、本発明においては、この合成ガスをLPG合成の水素源としても用いることができる。
【0101】
図1に、天然ガスなどの含炭素原料から、合成ガス、メタノールおよび/またはジメチルエーテルを経由して、液化石油ガス(LPG)を製造する本発明のLPGの製造方法を実施するのに好適なLPG製造装置の一例を示す。
【0102】
まず、含炭素原料として天然ガス(メタン)が、ライン21を経て、改質器11に供給される。また、図示しないが、必要に応じて酸素、水蒸気あるいは二酸化炭素がライン21に供給される。改質器11内には、改質触媒(合成ガス製造用触媒)11aが備えられている。また、改質器11は、改質のために必要な熱を供給するための加熱手段(不図示)を備える。この改質器11内において、改質触媒の存在下、メタンが改質され、水素および一酸化炭素を含む合成ガスが得られる。合成ガスの合成反応は、上記の方法など、公知の方法に準じて行えばよい。
【0103】
このようにして得られた合成ガスは、一部がLPG合成の水素源として、ライン22および25を経て、液化石油ガス製造用反応器13に供給され、その残りが、ライン22および23を経て、メタノール合成用反応器12に供給される。反応器12内には、メタノール合成触媒12aが備えられている。この反応器12内において、メタノール合成触媒の存在下、合成ガスからメタノールが合成される。メタノールの合成反応は、上記の方法など、公知の方法に準じて行えばよい。
【0104】
合成されたメタノールは、必要に応じて精製した後、あるいは精製することなく、ライン24を経て、液化石油ガス製造用反応器13に供給される。また、水素源として、合成ガスが、改質器11からライン22および25を経て、液化石油ガス製造用反応器13に供給される。反応器13内には、液化石油ガス製造用触媒13aが備えられている。この反応器13内において、液化石油ガス製造用触媒の存在下、メタノールと水素とから、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素ガス(低級パラフィン含有ガス)が製造される。このLPG合成反応は、上記の方法に従って行えばよい。
【0105】
製造された炭化水素ガスは、必要に応じて水分や、水素等の低沸点成分および高沸点成分を気液分離などにより除去した後、加圧・冷却され、ライン26から製品となるLPGが得られる。
【0106】
ここで分離された成分は、系外に抜き出すこともできるし、また、いずれかの工程にリサイクルすることもできる。例えば、ここで分離された一酸化炭素、水素は、低級パラフィン製造工程あるいはメタノール製造工程にリサイクルすることができる。また、一酸化炭素、二酸化炭素は、合成ガス製造工程にリサイクルすることができる。
【0107】
分離された成分をリサイクルするためには、適宜リサイクルラインに昇圧手段を設ける等、公知の技術を採用することができる。
【0108】
なお、図示しないが、LPG製造装置には、昇圧機、熱交換器、バルブ、計装制御装置などが必要に応じて設けられる。
【0109】
また、メタノール合成触媒12aの代わりにジメチルエーテル合成触媒を用いることもできる。その場合、反応器12内において、合成ガスからジメチルエーテルが合成され、これから、反応器13内において、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素ガス(低級パラフィン含有ガス)が製造される。ジメチルエーテルの合成反応は、上記の方法など、公知の方法に準じて行えばよい。
【0110】
上記のLPGの製造方法において、合成ガスを製造する反応器である改質器の下流にシフト反応器を設け、シフト反応(CO+HO→CO+H)によって合成ガスの組成を調整することもできる。
【0111】
以上のようにして、本発明では、天然ガス等の含炭素原料から、合成ガス、メタノールおよび/またはジメチルエーテルを経由して、主成分がプロパンまたはブタンであるLPGを製造することができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
〔実施例1〕
(触媒の製造)
オレフィン水素化触媒成分であるPdを担持するゼオライトとして、Si/Al比(原子比)が20であるプロトン型ZSM−5(東ソー株式会社製)を機械的に粉末にしたものを用いた。そして、以下のようにして、イオン交換法によりZSM−5に0.5重量%のPdを担持させた。
【0114】
まず、40〜50℃で、0.0825gの塩化パラジウム(純度:>99重量%)を12.5重量%アンモニア水溶液10mlに溶解させた。さらに、この溶液にイオン交換水150mlを加えて、Pd含有溶液を調製した。調製したPd含有溶液に10gのZSM−5ゼオライトを加え、60〜70℃で6時間加熱・撹拌した。このようにしてイオン交換した後、塩素イオンがろ液中に観察されなくなるまで、試料のろ過、イオン交換水による水洗を繰り返した。
【0115】
そして、このPdでイオン交換したZSM−5を120℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で2時間空気焼成し、これを機械的に粉砕し、打錠成形・整粒して、平均粒径1mmの粒状の液化石油ガス製造用触媒(Pd−ZSM−5)を得た。
【0116】
(LPGの製造)
調製した触媒1gを内径6mmの反応管に充填した後、反応に先立ち、触媒を水素気流中、400℃で3時間還元処理した。
【0117】
触媒を還元処理した後、ジメチルエーテル:合成ガス(CO:H=1:2)=1:3の組成の原料ガスを反応温度350℃、反応圧力2.1MPa、ジメチルエーテルのガス空間速度2000hr−1(W/F=9.0g・h/mol)で触媒層に流通させ、LPG合成反応を行なった。原料ガス中の一酸化炭素の含有量は25モル%、H/DME=2(モル基準)であった。
【0118】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、反応開始から3時間後、ジメチルエーテルの転化率は100%であり、炭化水素への転化率は炭素量基準で104.1%であった。これは一酸化炭素も炭化水素に変換したためである。また、生成した炭化水素ガスの炭素基準で47.1%がプロパンおよびブタンであり、プロパンおよびブタンへの転化率は炭素量基準で49.0%であった。
【0119】
その結果を表1に示す。
【0120】
〔比較例1〕
ジメチルエーテル25モル%および水素75モル%からなる原料ガス(H/DME=3(モル基準))を用い、ジメチルエーテルのガス空間速度を実施例1と同じにした以外は実施例1と同様にしてLPG合成反応を行った。
【0121】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、反応開始から3時間後、ジメチルエーテルの転化率は100%であり、炭化水素への転化率は炭素量基準で98.2%であった。また、生成した炭化水素ガスの炭素基準で50.6%がプロパンおよびブタンであり、プロパンおよびブタンへの転化率は炭素量基準で49.7%であった。
【0122】
その結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして調製した触媒(Pd−ZSM−5)を用い、反応温度を375℃とした以外は実施例1と同様にしてLPG合成反応を行った。
【0125】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、反応開始から3時間後、ジメチルエーテルの転化率は100%であり、炭化水素への転化率は炭素量基準で106.0%であった。これは一酸化炭素も炭化水素に変換したためである。また、生成した炭化水素ガスの炭素基準で47.7%がプロパンおよびブタンであり、プロパンおよびブタンへの転化率は炭素量基準で50.5%であった。
【0126】
その結果を表2に示す。
【0127】
〔比較例2〕
ジメチルエーテル25モル%および水素75モル%からなる原料ガス(H/DME=3(モル基準))を用い、ジメチルエーテルのガス空間速度を実施例2と同じにした以外は実施例2と同様にしてLPG合成反応を行った。
【0128】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、反応開始から3時間後、ジメチルエーテルの転化率は100%であり、炭化水素への転化率は炭素量基準で99.2%であった。また、生成した炭化水素ガスの炭素基準で50.9%がプロパンおよびブタンであり、プロパンおよびブタンへの転化率は炭素量基準で50.5%であった。
【0129】
その結果を表2に示す。
【0130】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0131】
以上のように、本発明によれば、メタノールおよび/またはジメチルエーテルから、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明のLPGの製造方法を実施するのに好適なLPG製造装置の一例について、主要な構成を示すプロセスフロー図である。
【符号の説明】
【0133】
11 改質器
11a 改質触媒(合成ガス製造用触媒)
12 メタノール合成用反応器
12a メタノール合成触媒
13 液化石油ガス製造用反応器
13a 液化石油ガス製造用触媒
21,22,23,24,25,26 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法であって、
メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと水素と一酸化炭素とを含む原料ガスを、液化石油ガス製造用触媒を含む触媒層に流通させて液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項2】
主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法であって、
メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つと合成ガスとを含む原料ガスを、液化石油ガス製造用触媒を含む触媒層に流通させて液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガス中の一酸化炭素の含有量が18〜30モル%であり、
水素の含有量が、メタノール1モルに対して0.5〜2モル、または、ジメチルエーテル1モルに対して1〜3モルである請求項1または2に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項4】
前記液化石油ガス製造用触媒が、オレフィン水素化触媒成分とゼオライトとを含有するものである請求項1または2に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン水素化触媒成分がFe,Co,Ni,Cu,Zn,Ru,Rh,Pd,IrおよびPtからなる群より選択される少なくとも一種である請求項4に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項6】
前記液化石油ガス製造用触媒が、Pdおよび/またはPtをZSM−5またはUSY型ゼオライトに担持したものである請求項5に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項7】
前記ZSM−5のSi/Al比(原子比)が20〜100であるか、または、前記USY型ゼオライトのSiO/Al比が5〜70である請求項6に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項8】
前記液化石油ガス製造用触媒のPdおよび/またはPtの担持量が、合計で、0.005〜5重量%である請求項6に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項9】
前記液化石油ガス製造用触媒が、Pdを担体に担持してなるPd系触媒成分とUSY型ゼオライトとを混合したものである請求項5に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項10】
前記USY型ゼオライトに対する前記Pd系触媒成分の含有比率(Pd系触媒成分/USY型ゼオライト;質量基準)が、0.1〜1.5である請求項9に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項11】
前記Pd系触媒成分のPdの担持量が、0.1〜5重量%である請求項9に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項12】
前記Pd系触媒成分の担体が、シリカである請求項9に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項13】
前記USY型ゼオライトのSiO/Al比が5〜70である請求項9に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項14】
(I)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(II)メタノール合成触媒を用いて、合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、メタノール含有ガスを製造するメタノール製造工程と、
(III)液化石油ガス製造用触媒を用いて、メタノール製造工程において得られたメタノール含有ガスと合成ガス製造工程において得られた合成ガスとから、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項15】
(I)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(II)ジメチルエーテル合成触媒を用いて、合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、ジメチルエーテル含有ガスを製造するジメチルエーテル製造工程と、
(III)液化石油ガス製造用触媒を用いて、ジメチルエーテル製造工程において得られたジメチルエーテル含有ガスと合成ガス製造工程において得られた合成ガスとから、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−238935(P2007−238935A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30704(P2007−30704)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(503065494)日本ガス合成株式会社 (18)
【Fターム(参考)】