説明

液圧ダンパ

【課題】温度の変化に拘わらず常時所望の減衰力が得ることのできる液圧ダンパを提供する。
【解決手段】シリンダ2内にピストン5を摺動自在に収容し、シリンダ2内を伸び側液室7と縮み側液室8に隔成する。ピストン5の小径軸部13bの外周に高熱膨張部材18を取り付ける。高熱膨張部材18の外側に複数の分割ブロック19を配置し、分割ブロック19の外側を略C字状のブロックカバー20で押え込む。ピストン5のピストンハウジング12の外周壁14とブロックカバー20の隙間を減衰通路9とする。磁性流体の温度が変化して磁性流体の粘性が変化すると、高熱膨張部材18がその粘性の変化による減衰力の変化を相殺するように体積変化して減衰通路9の断面積を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用サスペンション等に用いられ、液体の流通抵抗を利用して減衰力を得る液圧ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の液圧ダンパは、液体が充填されたシリンダの内部にピストンが摺動自在に収容され、ピストンによって隔成された液室間が減衰通路によって連通している。そして、ピストンとシリンダが相対作動すると、減衰通路内を液体が流通し、その際に減衰力を発生する。
【0003】
また、この種の液圧ダンパとして、発生減衰力を電気的な制御によって可変制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この液圧ダンパは、例えば、シリンダ内に充填する液体として磁性流体が用いられ、ピストンの減衰通路の近傍に、磁性流体の粘性を制御するための電磁コイルが設けられている。このダンパでは、電磁コイルの発生磁界を制御することによって減衰通路を通過する粘性流体の抵抗を可変にし、それにより、発生減衰力を任意に制御するようになっている。
【特許文献1】特開昭62−18775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この種の従来の液圧ダンパは、図6の特性図に示すように、シリンダ内の液体の温度が変化すると、その温度の変化に伴って発生減衰力が変わり、所望の減衰力が得られなくなることがある。
この現象は、図7の特性図に示すように、液体の粘度が温度の変化に伴って変化し、それによって液体の流通抵抗が変動することに起因するものと考えられる。
【0005】
このため、例えば、電磁コイルの発生磁界の制御によって粘性流体の粘度を変化させる上記の液圧ダンパにおいては、温度の変化によって所望通りの制御特性を得ることが難しくなる。
【0006】
そこでこの発明は、温度変化に拘わらず常時所望の減衰力が得ることのできる液圧ダンパを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、内部に液体を充填したシリンダ(例えば、後述の実施形態におけるシリンダ2)と、このシリンダ内に摺動自在に収容されてシリンダ内を2つの液室(例えば、後述の実施形態における縮み側液室7および伸び側液室8)に隔成するピストン(例えば、後述の実施形態におけるピストン5)と、前記2つの液室間を連通し、前記シリンダとピストンの相対作動に応じて流通する液体に抵抗を付与する減衰通路(例えば、後述の実施形態における減衰通路9)と、を備えた液圧ダンパ(例えば、後述の実施形態における液圧ダンパ1)において、熱膨張係数の大きい高熱膨張部材(例えば、後述の実施形態における高熱膨張部材18)を設け、この高熱膨張部材の温度に応じた体積変化によって前記減衰通路の通路断面積を可変にしたことを特徴とする。
これにより、例えば、温度上昇によって高熱膨張部材の体積が増加すると、その増加に応じて減衰通路の断面積が減少し、その通路断面積の減少に応じて発生減衰力が増大する。また、温度が上昇すると、液体の粘度低下によって減衰通路での発生減衰力が低下するが、この粘性低下による発生減衰力の低下分は、前記の減衰通路の断面積減少による発生減衰力の増大によって相殺される。逆に、温度の低下によって高熱膨張部材の体積が減少すると、減衰通路の断面積の増大によって発生減衰力が減少する。また、温度低下によって液体の粘度が高まると発生減衰力が増大するが、その発生減衰力の増大分は、前記の減衰通路の断面積増大による発生減衰力の減少によって相殺される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液圧ダンパおいて、前記ピストンを、筒状の周壁(例えば、後述の実施形態における外周壁14)を有するピストンハウジング(例えば、後述の実施形態におけるピストンハウジング12)と、このピストンハウジング内に一体に設けられた軸部(例えば、後述の実施形態における小径軸部13b)と、この軸部の外周に取り付けられた前記高熱膨張部材と、この高熱膨張部材の外周に円周方向に沿って複数設けられた分割ブロック(例えば、後述の実施形態における分割ブロック19)と、この複数の分割ブロックの外周面に跨って径方向に伸縮可能に嵌合されたブロックカバー(例えば、後述の実施形態におけるブロックカバー20)と、を備えた構成とし、前記ピストンハウジングの周壁と前記ブロックカバーの間の環状の隙間(例えば、後述の実施形態における隙間d)によって前記減衰通路を構成したことを特徴とする。
これにより、例えば、温度が上昇すると、高熱膨張部材の体積が増大して複数の分割ブロックを径方向外側方向に移動させる。この結果、ブロックカバーが複数の分割ブロックによって押圧されて拡径し、ピストンケースの周壁とブロックカバーの間の隙間が縮小されて減衰通路の断面積が減少する。逆に、温度が低下すると、高熱膨張部材の体積が縮小し、複数の分割ブロックが径方向内側方向に移動してブロックカバーが縮径する。この結果、ピストンケースの周壁とブロックカバーの間の隙間が拡大され、減衰通路の断面積が増大する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の液圧ダンパにおいて、前記シリンダ内に充填される液体として磁性流体を用い、前記減衰通路の近傍に、前記磁性流体の粘性を制御する電磁コイル(例えば、後述の実施形態における電磁コイル17)を設けたことを特徴とする。
これにより、電磁コイルの通電が制御されると、減衰通路を通過する磁性流体が電磁コイルで発生する磁界の影響を受け、磁性流体の粘性が制御されるようになる。一方、磁性流体は温度変化によって粘性が変動し、その粘性の変動によって減衰通路での発生減衰力が変化するが、この粘性変化による発生減衰力の変化分は、減衰通路の断面積の増減変化によって相殺される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、高熱膨張部材の温度に応じた体積変化によって減衰通路の通路断面積が調整されるため、温度変化によって液体の粘性が変化する場合においても、その粘性変化に起因した減衰抵抗の変化分を相殺することができ、その結果、常時所望の減衰力を安定して得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、温度変化に伴う高熱膨張部材の体積の変化を、複数の分割ブロックを介してブロックカバーの外径の変化に変換することができるため、高熱膨張部材の微少な体積変化を効率良く増幅し、減衰通路の断面積を有効に制御することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、電磁コイルによって磁性流体の粘性を制御する際に、温度変化に起因した発生減衰力の変化分を高熱膨張部材の体積変化によって相殺することができるため、温度変化による影響を受けることなく、常時所望の制御特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明にかかる液圧ダンパ1の断面図を示すものである。この液圧ダンパ1は、車両のサスペンションに用いられる所謂シングルチューブ式のダンパであり、シリンダ2の内部に作動液(液体)として磁性流体が充填されるとともに、ピストンロッド4に連結されたピストン5がシリンダ2内に摺動自在に収容されている。
【0014】
ピストンロッド4は、有底円筒状のシリンダ2の端部にロッドガイド6を介して摺動自在に支持され、ピストン5は、シリンダ2の内部を伸び側液室7と縮み側液室8とに隔成している。ピストン5には、シリンダ2内の伸び側液室7と縮み側液室8を連通する減衰通路9が設けられ、シリンダ2とピストン5が相対移動する際に磁性流体がこの減衰通路9を通過するようになっている。液圧ダンパ1は、シリンダ2とピストンロッド4間に加わる振動や衝撃を減衰通路9の流通抵抗によって減衰する。なお、図中30は、ロッドガイド6のシリンダ2の内側の内周縁部に設けられた液体封止用のシール部材であり、31は、ロッドガイド6のシリンダ2の外側の内周縁部に設けられたダストシールである。
【0015】
また、シリンダ2の底部側にはフリーピストン10が摺動自在に収容され、シリンダ2の内部を液室(縮み側液室8および伸び側液室7)とガス室11とに隔成している。フリーピストン10は、シリンダ2に対するピストンロッド4の進退部容積の増減に応じてシリンダ2内を移動し、それによってピストンロッド4の自由な進退変位を許容する。
【0016】
ピストン5は、図2〜図4にも示すように、シリンダ2に摺動自在に嵌合される中空円柱状のピストンハウジング12と、ピストンロッド4の端部に一体に形成されたピストンコア13とを備えている。ピストンハウジング12は、シリンダ2の内周面に接触する円筒状の外周壁14と、この外周壁14とピストンコア13の軸方向の両側端部を結合する一対のエンドプレート15,15によって構成されている。エンドプレート15は、外周縁部に円弧状の開口16が円周方向に沿って複数形成され、この開口16が減衰通路9の入出口を成している。
【0017】
一方、ピストンコア13は、軸方向中央の大径軸部13aと、この大径軸部13aの軸方向両側に一体に形成された小径軸部13b,13b(軸部)を備え、大径軸部13aの外周面には、磁性流体に磁界を作用させるための電磁コイル17が装着されている。この電磁コイル17とピストンハウジング12の外周壁14の間には環状の隙間d(図1参照)が設けられ、この隙間dが減衰通路9の一部を成している。なお、電磁コイル17の通電ケーブル32はピストンロッド4の軸芯部に沿って外部に引き出され、電磁コイル17が外部の図示しないコントローラによって通電制御されるようになっている。
【0018】
また、両側の小径軸部13b,13bの外周には、熱膨張係数の大きい発砲樹脂(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、シリコンスポンジ。)等から成る円筒状の高熱膨張部材18が取付けられている。この高熱膨張部材18の外周には断面略扇形状の複数の分割ブロック19…が配置され、この複数の分割ブロック19…の外周面に断面C字状のブロックカバー20が被着されている。分割ブロック19は、高熱膨張部材18の外周に配置された状態において外周面が円形を成し、その外周面にブロックカバー20が密接している。ブロックカバー20はばね弾性を有し、分割ブロック19…を外周側から押え込むとともに、高熱膨張部材18の体積変化に伴う分割ブロック19…の変位を許容するようになっている。なお、分割ブロック19とブロックカバー20は強磁性体によって形成されており、また、ブロックカバー20の切割り部20aは、分割ブロック19に対し隣接する分割ブロック19,19間の隙間に跨らない位置に位置決めされている。
【0019】
そして、ブロックカバー20とピストンハウジング12の外周壁14の間には環状の隙間dが設けられ、この隙間dが減衰通路9の一部を成している。この隙間dは、減衰通路9の軸方向の最小断面積部分とされ、この部分の断面積が減衰通路9の発生減衰力に直接影響するようになっている。
【0020】
以上の構成において、この液圧ダンパ1に振動や衝撃の入力があり、ピストンロッド4とシリンダ2が軸方向に相対作動すると、減衰通路9を通して伸び側液室7と縮み側液室8の間で磁性流体の流通が生じ、その際に発生する減衰力によって振動や衝撃が減衰される。そして、この液圧ダンパ1では、電磁コイル17の磁界を制御することにより、減衰通路9を通過する磁性流体の粘性を変え、例えば、磁界を強めて粘性を高めることによって発生減衰力を増大させ、逆に、磁界を弱めて粘性を低くすることによって発生減衰力を減少させる。
【0021】
ところで、外気温の上昇等によって磁性流体の温度が上昇すると、電磁コイル17を同じ電力で制御しても粘性が低下するが(図7の特性図参照。)、この液圧ダンパ1においては、磁性流体の温度が上昇すると、それに伴ってピストン5内の高熱膨張部材18の体積が増大し、それに伴って減衰通路9の断面積が縮小される。
【0022】
即ち、磁性流体の温度が低い間は、図3に示すように、高熱膨張部材18の体積が小さく、ブロックカバー20が縮径した状態にあるためにブロックカバー20と外周壁14の間の隙間dが大きくなり、減衰通路9の断面積が大きくなっている。しかし、この状態から、磁性流体の温度が高まると、図4に示すように、高熱膨張部材18が膨張し、分割ブロック19を径方向外側に押してブロックカバー20の外径を拡大するため、その分、ブロックカバー20と外周壁14の間の隙間dが狭められ、減衰通路9の断面積が縮小される。
【0023】
また、この状態から磁性流体の温度が低下した場合には、ピストン5内の高熱膨張部材18の体積の縮小によって、ブロックカバー20の外径が縮径され、ブロックカバー20と外周壁14の間の隙間dが大きくなって減衰通路9の断面積が拡大される。
【0024】
したがって、この液圧ダンパ1においては、磁性流体の温度が上昇した場合には、磁性流体の粘性低下による減衰力の減少分が減衰通路9の断面積の縮小による減衰力の増大によって相殺され、磁性流体の温度が低下した場合には、磁性流体の粘性上昇による減衰力の増大分が減衰通路9の断面積の拡大による減衰力の低下によって相殺される。このため、この液圧ダンパ1の場合、電磁コイル17による磁界制御が一定であれば、図5の特性図に示すように、磁性流体の温度の変化に拘らず発生減衰力をほぼ一定に維持されることになり、温度変化の影響を受けることなく所望の制御特性を得ることができる。
【0025】
また、温度変化に応じて高熱膨張部材18によって減衰通路9の断面積を可変にできる構造であれば、この実施形態のピストン5の構造に限らず採用可能であるが、この実施形態においては、小径軸部13bの外周に高熱膨張部材18を取り付け、高熱膨張部材18の外側に複数の分割ブロック19を介してブロックカバー20を装着し、ブロックカバー20とピストンハウジング12の外周壁14の間に環状の減衰通路9を設けるようにしているため、高熱膨張部材18の体積変化を大きく増幅して減衰通路9の断面積を効果的に増減変化させることができる。したがって、この実施形態の液圧ダンパ1を採用した場合には、高熱膨張部材18を大型化することなく、制御特性の確実な安定化を図ることができる。
【0026】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態は、所謂シングルチューブ式の液圧ダンパであるが、液室を形成するシリンダが二重に配置された所謂ツインチューブ式の液圧ダンパにも適用することが可能である。この場合には、高熱膨張部材によって制御される減衰通路はベースバルブに設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の一実施形態の液圧ダンパの断面図。
【図2】同実施形態のピストンの部分断面斜視図。
【図3】同実施形態の図1のA−A断面に対応する低温時における断面図。
【図4】同実施形態の図1のA−A断面に対応する高温時における断面図。
【図5】同実施形態の液圧ダンパと従来の液圧ダンパの減衰力−温度特性図。
【図6】従来のダンパの減衰力−温度特性図。
【図7】液体の粘度−温度特性図。
【符号の説明】
【0028】
1…液圧ダンパ
2…シリンダ
5…ピストン
7…伸び側液室(液室)
8…縮み側液室(液室)
9…減衰通路
12…ピストンハウジング
13…小径軸部(軸部)
17…電磁コイル
18…高熱膨張部材
19…分割ブロック
20…ブロックカバー
…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を充填したシリンダと、
このシリンダ内に摺動自在に収容されてシリンダ内を2つの液室に隔成するピストンと、
前記2つの液室間を連通し、前記シリンダとピストンの相対作動に応じて流通する液体に抵抗を付与する減衰通路と、
を備えた液圧ダンパにおいて、
熱膨張係数の大きい高熱膨張部材を設け、この高熱膨張部材の温度に応じた体積変化によって前記減衰通路の通路断面積を可変にしたことを特徴とする液圧ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンを、
筒状の周壁を有するピストンハウジングと、
このピストンハウジング内に一体に設けられた軸部と、
この軸部の外周に取り付けられた前記高熱膨張部材と、
この高熱膨張部材の外周に円周方向に沿って複数設けられた分割ブロックと、
この複数の分割ブロックの外周面に跨って径方向に伸縮可能に嵌合されたブロックカバーと、
を備えた構成とし、
前記ピストンハウジングの周壁と前記ブロックカバーの間の環状の隙間によって前記減衰通路を構成したことを特徴とする請求項1に記載の液圧ダンパ。
【請求項3】
前記シリンダ内に充填される液体として磁性流体を用い、
前記減衰通路の近傍に、前記磁性流体の粘性を制御する電磁コイルを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の液圧ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−101638(P2008−101638A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282395(P2006−282395)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】