液圧転写方法
【課題】フィルムを用いて印刷模様層を転写する場合よりもコストを低減することのできる液圧転写方法を提供する。
【解決手段】転写槽15内に貯留された液体21の液面22に対し、その上方からインクジェットプリンタ16によりインク粒子24を直接吹き付けて印刷模様層13を描画する。その後、印刷模様層13の上方から被転写体11を下降させて液体21内に押し入れ、同液体21の液圧により印刷模様層13を被転写体11の表面に転写させる。このため、印刷模様層の印刷されたフィルムが不要となるばかりか、フィルムの溶解に伴う液体21の性状変化(粘度増大等)が少なくなり、液体21の交換頻度が低くなる。
【解決手段】転写槽15内に貯留された液体21の液面22に対し、その上方からインクジェットプリンタ16によりインク粒子24を直接吹き付けて印刷模様層13を描画する。その後、印刷模様層13の上方から被転写体11を下降させて液体21内に押し入れ、同液体21の液圧により印刷模様層13を被転写体11の表面に転写させる。このため、印刷模様層の印刷されたフィルムが不要となるばかりか、フィルムの溶解に伴う液体21の性状変化(粘度増大等)が少なくなり、液体21の交換頻度が低くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を利用して被転写体に所望の印刷模様層を転写する液圧転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
凹凸等の三次元表面を有する被転写体に対し、木目模様等の模様を形成して加飾を行う方法として、特許文献1〜3に記載されているような液圧転写方法が知られている。この液圧転写方法では、ポリビニルアルコール等からなる水溶性のフィルムの一方の面に模様が印刷される。この模様の印刷されたフィルムは、印刷面を上にした状態で水槽内の水面に浮遊される。フィルムは時間の経過とともに水に溶解し、残った油性の印刷模様層が水面に浮遊する。この印刷模様層の上方から被転写体が下降させられて水内に押し入れられ、水圧により印刷模様層が被転写体に転写される。
【特許文献1】特開平6−171195号公報
【特許文献2】特開平8−39772号公報
【特許文献3】特開2004−358681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1〜3に記載された液圧転写方法では、フィルムが搬送時等における印刷模様層を保持する役割を担う。しかし、このフィルムは、印刷模様層の被転写体への転写に先立ち、液面に浮遊させる際にはその浮遊の妨げとなる。そのため、フィルムとして、水溶性の材料によって形成されたものが用いられ、水に溶解させられる。このように、印刷模様層の被転写体への転写に直接関与しないフィルムが用いられるため、その分、液圧転写方法の実施に要するコストが高くなる。
【0004】
また、上記従来の液圧転写方法では、フィルムが水に溶解するため、転写が繰り返されるに従い粘度が高くなる等、水の性状が変化していく。水の粘度が高くなると、転写時に印刷模様層に作用する水圧が変化し、転写の精度が変ってくる。従って、水槽内の水の性状を許容範囲に維持するために水の交換頻度を高くせざるを得ず、このこともコストを上昇させる一因となる。
【0005】
なお、上述した問題は、水以外の液体を用いた場合でも同様に起り得る。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、フィルムを用いて印刷模様層を転写する場合よりもコストを低減することのできる液圧転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、転写槽内に貯留された液体の液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画した後、同印刷模様層の上方から被転写体を下降させて前記液体内に押し入れ、同液体の液圧により前記印刷模様層を前記被転写体の表面に転写させることを要旨とする。
【0007】
上記の液圧転写方法の実施に際しては、まず、液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによってインク粒子が直接吹き付けられる。この吹き付けにより、多数のインク粒子からなる所望の印刷模様層が液面に描画される。このように、印刷模様層の形成及び浮遊が共通の対象(液体)に対し行われる。そのため、印刷模様層が一旦フィルムに形成され、そのフィルムが溶解することで印刷模様層が液面に浮遊する、すなわち、印刷模様層の形成及び浮遊が、互いに異なる対象(フィルムと液体の双方)に対し行われる従来の液圧転写方法と異なり、フィルムが不要となる。これに伴い、フィルムの溶解による液体の性状変化(粘度増加等)が少なくなり、液体の交換頻度が低くなる。その結果、液圧転写方法の実施に要するコストが低減する。
【0008】
そして、上記印刷模様層の描画の後、その上方から被転写体が下降させられて、液体内に押し入れられる。この押し入れに伴い、印刷模様層が液体の圧力(液圧)を受けて被転写体に表面に押付けられて付着する、すなわち、印刷模様層が被転写体の表面に転写される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、水を前記液体として用いるとともに、油性のインク粒子、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子のいずれか一方を、前記インクジェットプリンタにより前記液面に直接吹き付けて前記印刷模様層を描画することを要旨とする。
【0010】
液体として水を用いた場合には、上記請求項2に記載の発明によるように、油性のインク粒子、又は親水性ではあるが、疎水性の保護膜によって被覆されたインク粒子を、インクジェットプリンタによって液体に直接吹き付けて液面に印刷模様層を描画することが望ましい。これは、吹き付けられたインク粒子が水に溶解せず、又は溶解しにくく、拡散等せずに水面に安定した状態でとどまる(動きにくい)からである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、増粘剤の配合された水、水よりも粘度の高い粘性液、及び水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを前記液体として用いることを要旨とする。
【0012】
液体として上記請求項3に記載されたものを用いれば、被転写体を液体内に押し入れたときの同被転写体に対する液体の液圧が、液体として水を用いた場合よりも高くなる。そのため、液面の印刷模様層を被転写体に確実に付着させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、遅くとも前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記液体の少なくとも液面に、前記印刷模様層を取り囲み得る大きさの枠体を配置することを要旨とする。
【0014】
ここで、上記「遅くとも被転写体が液体内に押し入れられるよりも前」には、「液面に印刷模様層が描画される前」も、「描画された後」も含まれる。
上記の液圧転写方法によれば、遅くとも被転写体が液体内へ押し入れられるよりも前には、液体の少なくとも液面に枠体が配置される。この枠体により、液面が、印刷模様層を取り囲む領域(枠体の内側の領域)と、それ以外の領域(枠体の外側の領域)とに仕切られる。そのため、風、対流、振動等により、枠体よりも外側の領域で液面が動いたとしても、その液面の動きが枠体の内側の領域に伝わりにくくなる。その結果、インクジェットプリンタによる描画の後に、枠体よりも外側の領域での液面の変動に起因して印刷模様層が変形するのを抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記枠体として、前記印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いることを要旨とする。
ここで、印刷模様層の変形を抑制する観点からは、枠体と印刷模様層との間隙ができる限り狭いことが望ましい。印刷模様層が、枠体の内側の領域における液面の動きの影響を受けにくくなるためである。この点、請求項5に記載の発明によるように、枠体として、印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いれば、枠体と印刷模様層の外縁との間隙が狭くなり、従って、印刷模様層が枠体の内側の領域における液面の動きの影響を受けにくくなる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、前記印刷模様層の描画後であって、前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記枠体の少なくとも一部を、前記液面に沿う方向へ移動させることを要旨とする。
【0017】
上記の液圧転写方法によれば、印刷模様層が描画された後であって、被転写体が液体内へ押し入れられるよりも前に、枠体の少なくとも一部が液面に沿う方向へ移動させられると、枠体内の液体の少なくとも液面近くの部分が、上記枠体に追従して動く。すなわち、液体の上記部分に、上記枠体の移動方向に向かう流れが生ずる。液面の印刷模様層がこの流れに乗って動き、枠体の移動前とは異なる形状に変形する。その後に、被転写体が液体内に押し入れられると、上記変形した印刷模様層、すなわち、描画時の印刷模様層とは異なる形状の印刷模様層が被転写体に転写される。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記枠体の少なくとも一部を、前記印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させることを要旨とする。
上記請求項7に記載の発明によるように、枠体の少なくとも一部を印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させると、枠体内の液体の少なくとも液面近くの部分に、枠体の移動方向、この場合、印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ向かう流れが生ずる。液面の印刷模様層がこの流れに乗って動き、枠体の移動前よりも大きな形状に変形(拡大)する。その後に、被転写体が液体内に押し入れられると、描画時の印刷模様層よりも大きな印刷模様層が被転写体に転写される。従って、描画後に印刷模様層が変形しない場合に比べ、小さな印刷模様層を描画するだけですむ。インクジェットプリンタにおけるインクヘッド等、インク粒子を吹き付ける部分の小型化を図ることができる。また、小さな印刷模様層を描画することになるから、描画の時間も短縮することができる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記液体として紫外線透過性の液体を用いるとともに、前記インク粒子として紫外線硬化型のインク粒子を用い、前記被転写体の前記液体内への押し入れに伴い同被転写体に転写された前記印刷模様層に対し、その下方から前記液体を通じて紫外線を照射して、同印刷模様層を構成する前記インク粒子を硬化させることを要旨とする。
【0020】
上記の液圧転写方法によれば、被転写体が液体内へ押し入れられてその表面に転写された印刷模様層に対し、下方から紫外線が照射される。この紫外線が紫外線透過性の液体を透過して上記印刷模様層に達すると、同印刷模様層を構成するインク粒子が感応して硬化し、被転写体に定着する。従って、被転写体が液体内にあるときから紫外線を照射して印刷模様層を被転写体に定着させることができ、印刷模様層の転写された被転写体を液体から取り出した後に紫外線を照射する場合よりも生産工数を少なくし、生産性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被転写体の液体への押し入れに先立ち、液面に対しその上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画するようにしたため、フィルムを不要にするとともに、フィルムの溶解に伴う液体の性状変化を少なくして液体の交換頻度を低くすることができ、もってコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
まず、液圧転写方法が適用される対象である被転写体11について、図1を参照して説明する。この被転写体11は、最終的な製品の大部分を占め、かつ表面に加飾(ここでは印刷)が施される前の状態のものである。被転写体11は、合成樹脂、金属、セラミックス等によって形成され、曲面、屈曲面、凹凸面等の三次元表面を有している。最終製品の一例を挙げると、車両用内装品、例えば、コンソールリッド(肘掛け、小物入れ等の蓋)、車両用ドアに取付けられるアームレストのパネル、センターコンソールのパネル等が該当する。これらを最終製品とした場合、被転写体11は、多くの場合、合成樹脂によって成形される。ここでは、コンソールリッドの基材を被転写体11として説明を進めることとする。この被転写体11においては、上面11T及び側面11Sが被転写面12となる。
【0023】
上記被転写体11の被転写面12には、本実施形態の液圧転写方法によって印刷模様層10が形成される。印刷模様層10における印刷模様としては、例えば、木目模様、銘石(大理石等)模様等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
次に、液圧転写方法の実施に用いられる液圧転写装置14について説明する。液圧転写装置14は、図2及び図6の少なくとも一方に示すように、転写槽15、インクジェットプリンタ16、昇降装置17及び紫外線照射装置18(図6参照)を備えて構成されている。次に、液圧転写装置14を構成する各部について簡単に説明する。
【0025】
<転写槽15>
図2に示すように、上面が開放された転写槽15内には液体21が貯留されている。転写槽15には、液体21に流れを生じさせるようなものは設けられていない。液体21としては、例えば(i)水、(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液、(iv)水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを用いることができる。第1実施形態では、(i)水が液体として用いられている。
【0026】
ここで、従来の液圧転写方法では、水溶性のフィルムを溶解させる必要があることから、液体21の種類が水の1種類に制約される。この点、第1実施形態では、こうしたフィルムを用いていないことから、上記の制約を受けなくなり、その分、使用できる液体の種類が上記のように多くなっている。
【0027】
<インクジェットプリンタ16>
図3に示すように、インクジェットプリンタ16は、制御装置(図示略)からの指令信号に応じて作動するインクヘッド25を備えている。インクヘッド25は、紫外線UVに感応し硬化するタイプ、いわゆる紫外線硬化型のインクを微滴化してインク粒子24とし、これをノズル(図示略)から吐出し、上記液体21の液面22に対し上方から直接吹き付けて印刷模様層を描画する。この液面22上の印刷模様層を、既述した転写後の印刷模様層10と区別するために「印刷模様層13」というものとする。
【0028】
インク粒子24としては、(I)油性のインク粒子24、(II)疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子24のいずれか一方を用いることができる。また、インク粒子24の吐出方式には、加熱により管内のインクに気泡を発生させてインクを噴射するサーマル方式、インク室を有する微細管にピエゾ素子(圧電素子)を取付け、ピエゾ素子に電圧を印加して変形させることでインク室内のインクを管外へ噴射させるピエゾ方式等がある。なお、第1実施形態では、インクヘッド25として、転写槽15よりも幅が狭いものが用いられている。
【0029】
上記インクジェットプリンタ16には、インクヘッド25を転写槽15の幅方向(図3の紙面に直交する方向)に往復動させるとともに、同インクヘッド25を転写槽15の長さ方向(図3の左右方向)へ移動させる移動機構(図示略)が設けられている。この移動機構により、転写槽15の幅方向及び長さ方向に対するインクヘッド25の位置が可変とされることで、液体21の液面22に所望の印刷模様層13を描画可能である。印刷模様層13は、上記被転写体11の表面に転写された後の印刷模様層10を平面状に展開した形状、又はそれよりも若干大きく、かつ同形状に対応した形状をなしている。
【0030】
インクジェットプリンタ16は、印刷模様層13の描画時には、転写槽15の概ね中央部分に移動させられ、非描画時には転写槽15の周縁部近傍の待避位置へ移動させられる(図2参照)。この2位置間でのインクジェットプリンタ16の移動は、例えば、トラバーサ(横送り装置)、ロボット等によって行うことができる。トラバーサの場合、上記2位置間でインクジェットプリンタ16を平行移動させる。
【0031】
なお、上記インクヘッド25として、転写槽15と同程度の幅を有するものが用いられてもよい。この場合のインクジェットプリンタ16では、移動機構により、インクヘッド25が転写槽15の長さ方向へのみ移動させられる。
【0032】
<昇降装置17>
昇降装置17は、図2に示すように、転写槽15内の液面22よりも上方の位置(以下「上昇位置」という)と、図4に示すように、液面22よりも下方の位置(以下「下降位置」という)との間で被転写体11を昇降させるための装置である。上記「上昇位置」は、より正確には、「印刷模様層13の描画時にインクヘッド25よりも高くなる」位置である。また、上記「下降位置」は、より正確には、「被転写体11の少なくとも被転写面12が液面22よりも低くなる」位置である。従って、「下降位置」を示す図4では、被転写体11の全体が液体21に浸漬されているが、必ずしも被転写体11の全部が液体21に浸漬されなくてもよい。
【0033】
また、被転写体11の位置と、インクジェットプリンタ16による描画との関係からは、上記昇降装置17は、少なくとも次の条件を満たす位置へ被転写体11を移動させる。その条件とは、少なくとも描画中に「上昇位置」にあり、描画が終了した後に「下降位置」へ移動させることである。
【0034】
<紫外線照射装置18>
紫外線照射装置18は、図6に示すように、印刷模様層10の転写された被転写体11が液体21から取り出された後に、印刷模様層10に紫外線UVを照射して、その印刷模様層10を構成するインク粒子24を硬化させて被転写体11に定着させるための装置である。この紫外線UVの照射は、被転写体11の上昇途中に行われてもよいし、「上昇位置」で行われてもよいし、さらには「上昇位置」とは異なる箇所、例えば転写槽15とは異なるブースへ移されて行われてもよい。第1実施形態では、紫外線照射装置18が転写槽15とは異なるブースに配備されている。
【0035】
なお、紫外線照射装置18としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の光源ランプ26と照射器( ランプハウス) とを含む公知の紫外線硬化装置を用いることができる。
【0036】
次に、上記液圧転写装置14を用いた液圧転写方法の内容について工程順に説明する。なお、下記の工程は、一連の流れの説明のために便宜的に分けたものである。
<準備工程>
準備工程では、図3において二点鎖線で示すように、インクジェットプリンタ16のインクヘッド25を、液面22の上方近傍の描画予定位置へ移動させる。
【0037】
また、昇降装置17により、被転写体11をインクヘッド25の移動の妨げとならない位置、例えば上述した「上昇位置」へ移動させる。この上昇位置は、液面22の描画予定位置の上方である。このとき、被転写体11は、昇降装置17により、被転写面12が下側となるように把持されている。
【0038】
<描画工程>
描画工程では、図3において実線で示すように、インクヘッド25を転写槽15の幅方向(図3の紙面に直交する方向)及び長さ方向(図3の左右方向)へ移動させる。この移動に連動して、インクヘッド25のノズルからインク粒子24を液面22に直接吹き付けて、その液面22に木目模様等の印刷模様層13を描画する。
【0039】
この際、液面22に吹き付けられたインク粒子24を液面22に安定した状態でとどまらせる観点からは、次の条件を満たすことが望ましい。
・インクの粘度:0.5〜10000mPs
・インクの吐出量:10〜300pl/滴
・ノズル径:10〜100μm
また、インクの吐出方式として、ピエゾ素子に電圧を印加してインクを吐出させるピエゾ方式のインクジェットプリンタ16を用いた場合には、電気伝導度の小さなインクを用いることが望ましい。これは、電気伝導度の大きなインクを用いると、ピエゾ素子の変形に悪影響を及ぼし、インク粒子24が吐出されにくくなるおそれがあるからである。
【0040】
なお、描画工程では、被転写体11を上記「上昇位置」に保持し、次の転写工程に備え待機させておく。
上記のように、印刷模様層13の形成及び浮遊が共通の対象(液体21)に対し行われる。そのため、印刷模様層が一旦フィルムに形成され、そのフィルムが溶解することで印刷模様層が液面に浮遊する、すなわち、印刷模様層13の形成及び浮遊が異なる対象(フィルムと液体の双方)に対し行われる従来の液圧転写方法と異なり、フィルムが不要となる。それに伴い、フィルムの溶解による液体21の性状変化、例えば粘度の増大等が起こりにくくなる。
【0041】
ここで、第1実施形態では液体21として水が用いられているところ、油性のインク粒子24、又は親水性ではあるものの疎水性の保護膜によって被覆されたインク粒子24が、インクヘッド25のノズルから液体21(水)に直接吹き付けられる。このように吹き付けられたインク粒子24は、液面22(水面)に浮遊し、また、液体21に溶解せず、又は溶解しにくく、拡散することなく液面22に安定した状態でとどまる(動きにくい)。そのため、印刷模様層13は、インク粒子24が吹き付けられてから時間が経っても変形しにくい(形が崩れにくい)。
【0042】
そして、描画が終了したら、インクヘッド25を転写槽15の周縁部近傍の待避位置へ移動させる(図4参照)。
<転写工程>
転写工程では、上記描画工程での描画の後に、昇降装置17により、被転写体11を図4に示すように「下降位置」まで下降させる。この下降により、被転写体11が液体21内に押し入れられる。この押し入れに伴い、上記のように液面22(水面)に安定した状態でとどまっている印刷模様層13が液体21の圧力(液圧)を受けて、被転写体11の被転写面12に押付けられ、同被転写面12に倣って付着する。このようにして、液体21の液圧により印刷模様層13が被転写体11の表面(被転写面12)に転写される。なお、既述したが、この転写後の印刷模様層を「印刷模様層13」という。
【0043】
<取出し工程>
上記転写工程の後に、昇降装置17により、印刷模様層10が転写された後の被転写体11を図5に示すように「上昇位置」まで上昇させる。この上昇により、表面(被転写面12)に印刷模様層10の付着した被転写体11が液体21から引き上げられる(取り出される)。
【0044】
<定着工程>
液体21から取り出された上記被転写体11の印刷模様層10に対し、図6に示すように、紫外線照射装置18の光源ランプ26から紫外線UVを照射する。この照射された紫外線UVにより、印刷模様層10を構成するインク粒子24が硬化し被転写体11に定着する。
【0045】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)液体21の液面22に対し、その上方からインクジェットプリンタ16によりインク粒子24を直接吹き付けて印刷模様層13を描画し、その後に、印刷模様層13の上方から被転写体11を下降させて液体21内に押し入れ、同液体21の液圧により印刷模様層13を被転写体11の表面(被転写面12)に転写させるようにしている。
【0046】
そのため、印刷模様層13の形成される対象であるフィルムを不要とするとともに、フィルムの溶解に起因して粘度等の液体21の性状が変化する現象を起こりにくくし、液体21の交換頻度を低くすることができる。その結果、フィルムを用いて印刷模様層を被転写体に転写する場合よりも、液圧転写方法の実施に要するコストの低減を図ることができる。
【0047】
(2)上記(1)に関連するが、従来の液圧転写方法では、水溶性のフィルムを溶解させる必要があることから液体21として水を用いる必要があるのに対し、フィルムが不要となる第1実施形態では、フィルムを溶解させなくてもすむため、水以外の液体21を用いることが可能となり、使用できる液体21の種類が増える。
【0048】
(3)水を液体21として用いるとともに、油性のインク粒子24、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子24のいずれか一方を、液体21に直接吹き付けて液面22に印刷模様層13を描画している。そのため、吹き付けられたインク粒子24を液面22に安定した状態でとどまらせ、印刷模様層13が、インク粒子24の吹き付け後に変形するのを抑制することができる。
【0049】
(4)液体21として、上記(i)水に代え、(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液、及び(iv)水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを用いた場合には、次のメリットがある。それは、被転写体11を液体21内に押し入れたときの同被転写体11に対する液体21の液圧が、液体21として水を用いた場合よりも高くなり、印刷模様層13を被転写体11に確実に転写・付着させることができることである。
【0050】
(5)印刷模様層13における印刷模様を開発する場合、フィルムに印刷模様層を印刷する従来の方法では、印刷模様の設計→印刷模様を色毎にパターンに分解→転写ロール作成→テスト印刷→本工程(多色をフィルムに印刷)→フィルムを適切な長さに切断→梱包→搬送→液圧転写方法を実施、といった多くの工程を経る必要がある。これに伴い、目的とする印刷模様層を転写した製品が得られるまでに多くの時間がかかる。
【0051】
この点、インクジェットプリンタ16によりインク粒子24を液体21に直接吹き付けて印刷模様層13を描画する第1実施形態では、印刷模様の設計→インクジェットプリンタ16へ画像データを転送→液圧転写方法を実施、といった少ない工程を行うのみでよく、短時間で印刷模様の開発を行うことができる。
【0052】
(6)上記(5)に関連するが、上記一連の工程を実施したにも拘わらず、被転写体11において目的とする印刷模様が得られない場合には、従来の方法であれ、第1実施形態の方法であれ一連の工程を再び最初から行うこととなる。従って、工数の多い従来の方法で目的とする印刷模様が得られるまでにかかる時間と、工数の少ない第1実施形態の方法で目的とする印刷模様が得られるまでにかかる時間との差がますます拡大する。上記(5)の時間短縮効果がより顕著となる。
【0053】
(7)インクジェットプリンタ16として、転写槽15と同程度の幅を有する、いわゆるライン型のインクヘッド25を有するものを用いた場合には、転写槽15よりも幅が狭く、転写槽15の幅方向に往復駆動させる、いわゆるシリアル型のインクヘッド25を用いた場合よりも高速で描画を行うことできる。描画にかかる時間を短縮し、生産性の向上を図ることができる。
【0054】
(8)インクジェットプリンタ16へデザインの異なる画像データを転送するだけで印刷模様を変更できるため、多種多様な印刷模様の変更に容易に対応することができる。しかも、その変更を同一の設備で行うことができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0056】
第2実施形態では、液圧転写装置14の構成について、第1実施形態と異なっている。より詳しくは、図7及び図8に示すように、印刷模様層13を取り囲み得る大きさの枠体31が、印刷模様層13の種類毎に用意されている(図7及び図8では1つのみ図示)。各枠体31は、薄板材によって形成されている。各枠体31の形状は、図7に示すように、印刷模様層13の外縁13Aに対応しないものであってもよいし、図8に示すように、印刷模様層13の外縁13Aに対応するものであってもよい。各枠体31の複数箇所には、その枠体31の外側方へ延びる連結部材32が設けられている。そして、印刷模様層13の描画に先立ち、その印刷模様層13よりも若干大きな枠体31が、描画予定位置を取り囲むようにして液面22に浮かべられている。さらに、各連結部材32の延出端が、転写槽15において枠体31と対向する壁面15Aに対し取外し可能に装着されている。
【0057】
なお、枠体31の装着は、遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に行われる必要がある。これは、被転写体11に対する印刷模様層13の転写が行われるよりも前にその印刷模様層13が移動したり変形したりするのを抑制するためである。さらに、枠体31の装着は、インクジェットプリンタ16による印刷模様層13の描画よりも前に行われることが望ましい。これは、描画後に装着を行うと、その装着の際に液面22を揺らし、印刷模様層13が変形するおそれがあるためである。
【0058】
枠体31が上記のように装着された状態では、液面22に枠体31が浮遊していて、液面22が、印刷模様層13を取り囲む領域Z1と、それ以外の領域Z2とに仕切られる。そのため、風、対流、振動等により、枠体31よりも外側の領域Z2で液面22が動いたとしても、その液面22の動きが枠体31の内側の領域Z1に伝わりにくくなる。
【0059】
特に、印刷模様層13の変形を抑制する観点からは、枠体31と印刷模様層13との間隙ができる限り狭いことが望ましい。印刷模様層13が、領域Z1での液面22の動きの影響を受けにくくなるためである。この点、図8では、枠体31として、印刷模様層13の外縁13Aに対応した形状をなすものが用いられていることから、枠体31と印刷模様層13の外縁13Aとの間隙が狭く、印刷模様層13が領域Z1での液面22の動きだけでなく領域Z1での液面22の動きの影響も受けにくい。
【0060】
従って、第2実施形態によれば、上述した(1)〜(8)に加え、次の効果が得られる。
(9)遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、液体21の液面22に、印刷模様層13を取り囲み得る大きさの枠体31を浮かべている(図7、図8参照)。そのため、描画後の印刷模様層13の変形を抑制することができる。
【0061】
(10)枠体31として、印刷模様層13の外縁13Aに対応した形状をなすものを用いている(図8参照)。そのため、枠体31と印刷模様層13の外縁13Aとの間隙を狭くし、印刷模様層13が、領域Z1での液面22の動きから受ける影響度合いを小さくし、上記(9)の効果をより一層確実なものとすることができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0063】
第3実施形態では、液圧転写装置14及び液圧転写方法の双方について、第2実施形態と異なっている。
<液圧転写装置14の相違点について>
既述した第2実施形態では、枠体31が単一の部材によって構成されていたが、第3実施形態では、図9及び図10に示すように、枠体31は複数の可動部材35に分割されている。また、転写槽15には、各可動部材35を、印刷模様層13の外縁13Aに対し接近する位置(以下「接近位置」という、図9参照)と、離間する位置(以下「離間位置」という、図10参照)との間で移動させる駆動機構(図示略)が設けられている。図9に示す「接近位置」では、各可動部材35が隣の可動部材35に接触し、全体として四角環状(無端状)となる。すなわち、複数の可動部材35によって枠体31が構成される。これに対し、図10に示す「離間位置」では、各可動部材35が隣の可動部材35から離れる。
【0064】
各可動部材35は、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるときには「接近位置」に位置している。そのためには、各可動部材35は、遅くとも転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、「接近位置」へ移動させられる必要がある。各可動部材35は、さらにインクジェットプリンタ16による描画が行われるよりも前に「接近位置」へ移動させられることが好ましい。これは、接近位置への移動に伴い液面22が動いて、液面22の印刷模様層13が意図しない変形を起こすのを回避するためである。
【0065】
そして、各可動部材35は、インクジェットプリンタ16による描画後であって、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられる前に離間位置へ移動させられる。
【0066】
<液圧転写方法の相違点について>
第3実施形態では、描画工程と転写工程との後に、<印刷模様変形工程>が行われる。
枠体31の各可動部材35は、遅くとも描画工程の開始前、例えば準備工程で接近位置へ移動させられる。この移動により、図9に示すように、隣り合う可動部材35同士が相互に接触し、全体として四角環状の枠体31となる。この枠体31により、液面22が領域Z1と領域Z2とに仕切られる。
【0067】
描画工程では、枠体31内の液体21に対しインクジェットプリンタ16のインクヘッド25からインク粒子24が吹き付けられて、液面22に印刷模様層13が描画される。
上記描画工程の後、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に印刷模様変形工程が行われる。この印刷模様変形工程では、図9において矢印で示すように、枠体31の各可動部材35が離間位置へ向けて一斉に移動させられる。これに伴い、枠体31内の液体21の少なくとも液面22近くの部分が、可動部材35に追従して動く。すなわち、液体21の上記部分に、可動部材35の移動方向に向かう流れが生ずる。液面22上の印刷模様層13がこの流れに乗って動き、可動部材35の移動前とは異なる形状に変形する。
【0068】
その後に、転写工程において、被転写体11が液体21内に押し入れられると、上記変形した印刷模様層13、すなわち、描画時の印刷模様層13とは異なる印刷模様層13が被転写体11に転写される。
【0069】
ここで、各可動部材35を「接近位置」から「離間位置」へ移動させる方向は、各可動部材35を印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる方向と同一である。従って、各可動部材35を上記のように「接近位置」から「離間位置」へ移動させると、枠体31内の液体21の少なくとも液面22近くの部分に、可動部材35の移動方向、すなわち印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる側へ向かう流れが生ずる。液面22上の印刷模様層13がこの流れに乗って動き、可動部材35の移動前(図9参照)よりも大きな形状に変形(拡大)する。そのため、被転写体11が液体21内に押し入れられると、描画時の印刷模様層13よりも大きな印刷模様層13が被転写体11に転写されることとなる。
【0070】
第3実施形態によれば、上述した(1)〜(10)に加え、次の効果が得られる。
(11)印刷模様層13の描画後であって、被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、枠体31の各可動部材35を液面22に沿う方向へ移動させるようにしている。この移動により、液面22に描画された印刷模様層13を変形させ、描画時の印刷模様層13とは異なる印刷模様層13を被転写体11に転写させることができる。
【0071】
(12)各可動部材35を印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる側へ移動させるようにしている。そのため、描画後に印刷模様層13が変形しない、又はほとんど変形しない場合(例えば、前述した第1及び第2実施形態がこれに該当する)に比べ、小さな印刷模様層13を描画するだけでよくなり、インクジェットプリンタ16におけるインクヘッド25等、インク粒子24を吹き付ける部分の小型化を図ることができる。また、小さな印刷模様層13を描画することになるから、描画の時間も短縮することができる。
【0072】
(第4実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
第4実施形態では、液圧転写装置14及び液圧転写方法の双方について、第1実施形態と異なっている。
<液圧転写装置14の相違点について>
転写槽15には、紫外線透過性の液体21、例えば水ガラスが貯留されている。
【0074】
また、図11に示すように、転写槽15の液体21内であって、印刷模様層13の転写位置(被転写体11の下降位置)よりも下方には、紫外線照射装置18における光源ランプ26が配置されている。光源ランプ26は、液体21内に押し入れられた被転写体11に向けて紫外線UVを照射し得る姿勢で配置されている。
【0075】
<液圧転写方法の相違点について>
第4実施形態では、第1実施形態とは異なり、定着工程が、転写工程の後であって取出し工程よりも前に行われる。
【0076】
定着工程では、転写工程での被転写体11の液体21内への押し入れに伴い同被転写体11に転写された印刷模様層10に対し、その下方に配置された光源ランプ26から紫外線UVが照射される。この紫外線UVは紫外線透過性の液体21を透過して印刷模様層10に照射される。この照射により、印刷模様層10におけるインク粒子24が硬化させられる。このように、印刷模様層10の定着が液体21の内部で行われる。
【0077】
そして、上記定着工程の後に、取出し工程が行われることにより、印刷模様層10の定着した被転写体が液体21から引き上げられる(取り出される)。
従って、第4実施形態によれば、上述した(1),(2),(5)〜(12)に加え、次の効果が得られる。
【0078】
(13)液体21として紫外線透過性の液体21を用い、インクとして紫外線硬化型インクを用いている。そして、被転写体11の液体21内への押し入れに伴い被転写体11に転写された印刷模様層10に対し、その下方から液体21を通じて紫外線UVを照射して、印刷模様層10のインク粒子24を硬化させるようにしている。そのため、被転写体11が液体21内にあるときから紫外線UVを照射して印刷模様層10を被転写体11に定着させることができる。印刷模様層10が転写された被転写体11を液体21から取り出した後に、紫外線UVを照射する場合よりも生産工数を少なくし、生産性を向上させることができる。
【0079】
なお、水溶性のフィルムを用いた従来の液圧転写方法において、第4実施形態と同様の方法を採用した場合には、フィルムが完全に液体21に溶解するまでは紫外線UVが印刷模様層10に到達しないため、同第4実施形態と同様の効果を得ることは困難である。
【0080】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<各実施形態に共通する事項>
・転写工程における転写に際し、印刷模様層13の被転写体11に対する密着性を高める観点からは、被転写体11をより速い速度で液体21内に押し入れることが望ましい。
【0081】
・液体21として、上述した(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液等を用いた場合には、被転写体11の押し入れや引き出しに伴い凸凹状になった液面22が平滑になるまでに時間がかかる懸念がある。そこで、この場合には、スキージ等によって液面22を平滑な面に戻すようにしてもよい。
【0082】
・印刷模様層13の描画の後に、転写槽15とインクジェットプリンタ16との相対位置を変えるために、インクジェットプリンタ16を移動させる代わりに、転写槽15を移動させてもよい。
【0083】
・被転写体11の昇降を昇降装置17に代えて、人手によって行ってもよい。
・本発明は、三次元表面を有する被転写体の表面に加飾を行う場合に特に有効であるが、被転写面が平面である被転写体の表面に加飾を行う場合に適用されてもよい。
【0084】
・印刷模様層10の耐摩性、耐候性( 耐溶剤性、耐薬品性等を含む) 等の向上を目的として、印刷模様層13の上に透明な表面保護層( トップコート) をさらに形成してもよい。
【0085】
・被転写体11は、合成樹脂に限らず他の材料、例えば金属、セラミックス等によって形成されたものであってもよい。
・本発明の液圧転写方法は、車両用内装品以外の車両の部品や、車両以外の用途に用いられる製品の加飾に適用されてもよい。
【0086】
<第2実施形態に特有の事項>
・枠体31は、少なくとも液面22に配置されていればよい。従って、枠体31は必ずしも液面22に浮く構成でなくてもよく、例えば上下方向に細長い筒状をなすものであってもよい。この場合、枠体31は転写槽15の底壁に固定されたものであってもよい。
【0087】
・枠体31を転写槽15に装着する時期を、遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前であることを条件に、適宜変更してもよい。例えば、印刷模様層13を変形させずに枠体31を装着することが可能であれば、インクジェットプリンタ16によって印刷模様層13を描画した後に枠体31を転写槽15に装着してもよい。
【0088】
・枠体31が転写槽15に対し移動しない(例えば、上述した底壁に固定されたものがこれに該当する)か、又はほとんど移動しないものである場合には、枠体31及び転写槽15間の連結部材32を省略してもよい。
【0089】
・第2実施形態では、枠体31として、どの箇所でも幅が一様であるものを用いたが、箇所によって幅の異なるものを用いてもよい。
<第3実施形態に特有の事項>
・第3実施形態では、枠体31の少なくとも一部が可動部材35によって構成されればよい。従って、枠体31の一部のみを可動部材とし、これを液面22に沿う方向へ移動させるようにしてもよい。このようにしても、可動部材35の移動により、印刷模様層13を描画時のものとは異なるものに変形させる効果は得られる。
【0090】
・可動部材35を、第3実施形態とは逆に、印刷模様層13に近づく側へ移動させるようにしてもよい。このようにしても、印刷模様層13を描画時のものとは異なる形状に変形させる効果は得られる。
【0091】
<第4実施形態に特有の事項>
・紫外線照射装置18における光源ランプ26を転写槽15の外部(例えば下方)に配置してもよい。ただし、この場合には、転写槽15において、少なくとも光源ランプ26と、液体21内に押し入れられた被転写体11(印刷模様層10)との間となる箇所を、紫外線UVを透過し得る構成にする必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態を示す図であり、印刷模様層が転写された被転写体を示す断面図。
【図2】液圧転写装置の概略構成を示す断面図。
【図3】液圧転写方法中、インクジェットプリンタによって印刷模様層を液面に描画する状態を示す部分断面図。
【図4】液圧転写方法中、被転写体に印刷模様層を転写する状態を示す部分断面図。
【図5】液圧転写方法中、印刷模様層が転写された被転写体を液体から引き出す状態を示す部分断面図。
【図6】液圧転写方法中、印刷模様層に紫外線を照射する状態を示す断面図。
【図7】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、枠体内の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図8】第2実施形態において、図7とは異なる枠体を液面に配置し、枠体内の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図9】本発明を具体化した第3実施形態を示す図であり、各可動部材を接近位置へ移動させて枠状にし、その中の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図10】図9の状態から各可動部材を離間位置へ移動させて印刷模様層を変形(拡大)させる状態を示す部分平面図。
【図11】本発明を具体化した第4実施形態を示す図であり、液体内に配置した光源ランプから、液体内に押し入れられた被転写体の印刷模様層に紫外線を照射する状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0093】
11…被転写体、10,13…印刷模様層、13A…外縁、15…転写槽、16…インクジェットプリンタ、21…液体、22…液面、24…インク粒子、31…枠体、UV…紫外線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を利用して被転写体に所望の印刷模様層を転写する液圧転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
凹凸等の三次元表面を有する被転写体に対し、木目模様等の模様を形成して加飾を行う方法として、特許文献1〜3に記載されているような液圧転写方法が知られている。この液圧転写方法では、ポリビニルアルコール等からなる水溶性のフィルムの一方の面に模様が印刷される。この模様の印刷されたフィルムは、印刷面を上にした状態で水槽内の水面に浮遊される。フィルムは時間の経過とともに水に溶解し、残った油性の印刷模様層が水面に浮遊する。この印刷模様層の上方から被転写体が下降させられて水内に押し入れられ、水圧により印刷模様層が被転写体に転写される。
【特許文献1】特開平6−171195号公報
【特許文献2】特開平8−39772号公報
【特許文献3】特開2004−358681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1〜3に記載された液圧転写方法では、フィルムが搬送時等における印刷模様層を保持する役割を担う。しかし、このフィルムは、印刷模様層の被転写体への転写に先立ち、液面に浮遊させる際にはその浮遊の妨げとなる。そのため、フィルムとして、水溶性の材料によって形成されたものが用いられ、水に溶解させられる。このように、印刷模様層の被転写体への転写に直接関与しないフィルムが用いられるため、その分、液圧転写方法の実施に要するコストが高くなる。
【0004】
また、上記従来の液圧転写方法では、フィルムが水に溶解するため、転写が繰り返されるに従い粘度が高くなる等、水の性状が変化していく。水の粘度が高くなると、転写時に印刷模様層に作用する水圧が変化し、転写の精度が変ってくる。従って、水槽内の水の性状を許容範囲に維持するために水の交換頻度を高くせざるを得ず、このこともコストを上昇させる一因となる。
【0005】
なお、上述した問題は、水以外の液体を用いた場合でも同様に起り得る。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、フィルムを用いて印刷模様層を転写する場合よりもコストを低減することのできる液圧転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、転写槽内に貯留された液体の液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画した後、同印刷模様層の上方から被転写体を下降させて前記液体内に押し入れ、同液体の液圧により前記印刷模様層を前記被転写体の表面に転写させることを要旨とする。
【0007】
上記の液圧転写方法の実施に際しては、まず、液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによってインク粒子が直接吹き付けられる。この吹き付けにより、多数のインク粒子からなる所望の印刷模様層が液面に描画される。このように、印刷模様層の形成及び浮遊が共通の対象(液体)に対し行われる。そのため、印刷模様層が一旦フィルムに形成され、そのフィルムが溶解することで印刷模様層が液面に浮遊する、すなわち、印刷模様層の形成及び浮遊が、互いに異なる対象(フィルムと液体の双方)に対し行われる従来の液圧転写方法と異なり、フィルムが不要となる。これに伴い、フィルムの溶解による液体の性状変化(粘度増加等)が少なくなり、液体の交換頻度が低くなる。その結果、液圧転写方法の実施に要するコストが低減する。
【0008】
そして、上記印刷模様層の描画の後、その上方から被転写体が下降させられて、液体内に押し入れられる。この押し入れに伴い、印刷模様層が液体の圧力(液圧)を受けて被転写体に表面に押付けられて付着する、すなわち、印刷模様層が被転写体の表面に転写される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、水を前記液体として用いるとともに、油性のインク粒子、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子のいずれか一方を、前記インクジェットプリンタにより前記液面に直接吹き付けて前記印刷模様層を描画することを要旨とする。
【0010】
液体として水を用いた場合には、上記請求項2に記載の発明によるように、油性のインク粒子、又は親水性ではあるが、疎水性の保護膜によって被覆されたインク粒子を、インクジェットプリンタによって液体に直接吹き付けて液面に印刷模様層を描画することが望ましい。これは、吹き付けられたインク粒子が水に溶解せず、又は溶解しにくく、拡散等せずに水面に安定した状態でとどまる(動きにくい)からである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、増粘剤の配合された水、水よりも粘度の高い粘性液、及び水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを前記液体として用いることを要旨とする。
【0012】
液体として上記請求項3に記載されたものを用いれば、被転写体を液体内に押し入れたときの同被転写体に対する液体の液圧が、液体として水を用いた場合よりも高くなる。そのため、液面の印刷模様層を被転写体に確実に付着させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、遅くとも前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記液体の少なくとも液面に、前記印刷模様層を取り囲み得る大きさの枠体を配置することを要旨とする。
【0014】
ここで、上記「遅くとも被転写体が液体内に押し入れられるよりも前」には、「液面に印刷模様層が描画される前」も、「描画された後」も含まれる。
上記の液圧転写方法によれば、遅くとも被転写体が液体内へ押し入れられるよりも前には、液体の少なくとも液面に枠体が配置される。この枠体により、液面が、印刷模様層を取り囲む領域(枠体の内側の領域)と、それ以外の領域(枠体の外側の領域)とに仕切られる。そのため、風、対流、振動等により、枠体よりも外側の領域で液面が動いたとしても、その液面の動きが枠体の内側の領域に伝わりにくくなる。その結果、インクジェットプリンタによる描画の後に、枠体よりも外側の領域での液面の変動に起因して印刷模様層が変形するのを抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記枠体として、前記印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いることを要旨とする。
ここで、印刷模様層の変形を抑制する観点からは、枠体と印刷模様層との間隙ができる限り狭いことが望ましい。印刷模様層が、枠体の内側の領域における液面の動きの影響を受けにくくなるためである。この点、請求項5に記載の発明によるように、枠体として、印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いれば、枠体と印刷模様層の外縁との間隙が狭くなり、従って、印刷模様層が枠体の内側の領域における液面の動きの影響を受けにくくなる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、前記印刷模様層の描画後であって、前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記枠体の少なくとも一部を、前記液面に沿う方向へ移動させることを要旨とする。
【0017】
上記の液圧転写方法によれば、印刷模様層が描画された後であって、被転写体が液体内へ押し入れられるよりも前に、枠体の少なくとも一部が液面に沿う方向へ移動させられると、枠体内の液体の少なくとも液面近くの部分が、上記枠体に追従して動く。すなわち、液体の上記部分に、上記枠体の移動方向に向かう流れが生ずる。液面の印刷模様層がこの流れに乗って動き、枠体の移動前とは異なる形状に変形する。その後に、被転写体が液体内に押し入れられると、上記変形した印刷模様層、すなわち、描画時の印刷模様層とは異なる形状の印刷模様層が被転写体に転写される。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記枠体の少なくとも一部を、前記印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させることを要旨とする。
上記請求項7に記載の発明によるように、枠体の少なくとも一部を印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させると、枠体内の液体の少なくとも液面近くの部分に、枠体の移動方向、この場合、印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ向かう流れが生ずる。液面の印刷模様層がこの流れに乗って動き、枠体の移動前よりも大きな形状に変形(拡大)する。その後に、被転写体が液体内に押し入れられると、描画時の印刷模様層よりも大きな印刷模様層が被転写体に転写される。従って、描画後に印刷模様層が変形しない場合に比べ、小さな印刷模様層を描画するだけですむ。インクジェットプリンタにおけるインクヘッド等、インク粒子を吹き付ける部分の小型化を図ることができる。また、小さな印刷模様層を描画することになるから、描画の時間も短縮することができる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記液体として紫外線透過性の液体を用いるとともに、前記インク粒子として紫外線硬化型のインク粒子を用い、前記被転写体の前記液体内への押し入れに伴い同被転写体に転写された前記印刷模様層に対し、その下方から前記液体を通じて紫外線を照射して、同印刷模様層を構成する前記インク粒子を硬化させることを要旨とする。
【0020】
上記の液圧転写方法によれば、被転写体が液体内へ押し入れられてその表面に転写された印刷模様層に対し、下方から紫外線が照射される。この紫外線が紫外線透過性の液体を透過して上記印刷模様層に達すると、同印刷模様層を構成するインク粒子が感応して硬化し、被転写体に定着する。従って、被転写体が液体内にあるときから紫外線を照射して印刷模様層を被転写体に定着させることができ、印刷模様層の転写された被転写体を液体から取り出した後に紫外線を照射する場合よりも生産工数を少なくし、生産性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被転写体の液体への押し入れに先立ち、液面に対しその上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画するようにしたため、フィルムを不要にするとともに、フィルムの溶解に伴う液体の性状変化を少なくして液体の交換頻度を低くすることができ、もってコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
まず、液圧転写方法が適用される対象である被転写体11について、図1を参照して説明する。この被転写体11は、最終的な製品の大部分を占め、かつ表面に加飾(ここでは印刷)が施される前の状態のものである。被転写体11は、合成樹脂、金属、セラミックス等によって形成され、曲面、屈曲面、凹凸面等の三次元表面を有している。最終製品の一例を挙げると、車両用内装品、例えば、コンソールリッド(肘掛け、小物入れ等の蓋)、車両用ドアに取付けられるアームレストのパネル、センターコンソールのパネル等が該当する。これらを最終製品とした場合、被転写体11は、多くの場合、合成樹脂によって成形される。ここでは、コンソールリッドの基材を被転写体11として説明を進めることとする。この被転写体11においては、上面11T及び側面11Sが被転写面12となる。
【0023】
上記被転写体11の被転写面12には、本実施形態の液圧転写方法によって印刷模様層10が形成される。印刷模様層10における印刷模様としては、例えば、木目模様、銘石(大理石等)模様等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
次に、液圧転写方法の実施に用いられる液圧転写装置14について説明する。液圧転写装置14は、図2及び図6の少なくとも一方に示すように、転写槽15、インクジェットプリンタ16、昇降装置17及び紫外線照射装置18(図6参照)を備えて構成されている。次に、液圧転写装置14を構成する各部について簡単に説明する。
【0025】
<転写槽15>
図2に示すように、上面が開放された転写槽15内には液体21が貯留されている。転写槽15には、液体21に流れを生じさせるようなものは設けられていない。液体21としては、例えば(i)水、(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液、(iv)水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを用いることができる。第1実施形態では、(i)水が液体として用いられている。
【0026】
ここで、従来の液圧転写方法では、水溶性のフィルムを溶解させる必要があることから、液体21の種類が水の1種類に制約される。この点、第1実施形態では、こうしたフィルムを用いていないことから、上記の制約を受けなくなり、その分、使用できる液体の種類が上記のように多くなっている。
【0027】
<インクジェットプリンタ16>
図3に示すように、インクジェットプリンタ16は、制御装置(図示略)からの指令信号に応じて作動するインクヘッド25を備えている。インクヘッド25は、紫外線UVに感応し硬化するタイプ、いわゆる紫外線硬化型のインクを微滴化してインク粒子24とし、これをノズル(図示略)から吐出し、上記液体21の液面22に対し上方から直接吹き付けて印刷模様層を描画する。この液面22上の印刷模様層を、既述した転写後の印刷模様層10と区別するために「印刷模様層13」というものとする。
【0028】
インク粒子24としては、(I)油性のインク粒子24、(II)疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子24のいずれか一方を用いることができる。また、インク粒子24の吐出方式には、加熱により管内のインクに気泡を発生させてインクを噴射するサーマル方式、インク室を有する微細管にピエゾ素子(圧電素子)を取付け、ピエゾ素子に電圧を印加して変形させることでインク室内のインクを管外へ噴射させるピエゾ方式等がある。なお、第1実施形態では、インクヘッド25として、転写槽15よりも幅が狭いものが用いられている。
【0029】
上記インクジェットプリンタ16には、インクヘッド25を転写槽15の幅方向(図3の紙面に直交する方向)に往復動させるとともに、同インクヘッド25を転写槽15の長さ方向(図3の左右方向)へ移動させる移動機構(図示略)が設けられている。この移動機構により、転写槽15の幅方向及び長さ方向に対するインクヘッド25の位置が可変とされることで、液体21の液面22に所望の印刷模様層13を描画可能である。印刷模様層13は、上記被転写体11の表面に転写された後の印刷模様層10を平面状に展開した形状、又はそれよりも若干大きく、かつ同形状に対応した形状をなしている。
【0030】
インクジェットプリンタ16は、印刷模様層13の描画時には、転写槽15の概ね中央部分に移動させられ、非描画時には転写槽15の周縁部近傍の待避位置へ移動させられる(図2参照)。この2位置間でのインクジェットプリンタ16の移動は、例えば、トラバーサ(横送り装置)、ロボット等によって行うことができる。トラバーサの場合、上記2位置間でインクジェットプリンタ16を平行移動させる。
【0031】
なお、上記インクヘッド25として、転写槽15と同程度の幅を有するものが用いられてもよい。この場合のインクジェットプリンタ16では、移動機構により、インクヘッド25が転写槽15の長さ方向へのみ移動させられる。
【0032】
<昇降装置17>
昇降装置17は、図2に示すように、転写槽15内の液面22よりも上方の位置(以下「上昇位置」という)と、図4に示すように、液面22よりも下方の位置(以下「下降位置」という)との間で被転写体11を昇降させるための装置である。上記「上昇位置」は、より正確には、「印刷模様層13の描画時にインクヘッド25よりも高くなる」位置である。また、上記「下降位置」は、より正確には、「被転写体11の少なくとも被転写面12が液面22よりも低くなる」位置である。従って、「下降位置」を示す図4では、被転写体11の全体が液体21に浸漬されているが、必ずしも被転写体11の全部が液体21に浸漬されなくてもよい。
【0033】
また、被転写体11の位置と、インクジェットプリンタ16による描画との関係からは、上記昇降装置17は、少なくとも次の条件を満たす位置へ被転写体11を移動させる。その条件とは、少なくとも描画中に「上昇位置」にあり、描画が終了した後に「下降位置」へ移動させることである。
【0034】
<紫外線照射装置18>
紫外線照射装置18は、図6に示すように、印刷模様層10の転写された被転写体11が液体21から取り出された後に、印刷模様層10に紫外線UVを照射して、その印刷模様層10を構成するインク粒子24を硬化させて被転写体11に定着させるための装置である。この紫外線UVの照射は、被転写体11の上昇途中に行われてもよいし、「上昇位置」で行われてもよいし、さらには「上昇位置」とは異なる箇所、例えば転写槽15とは異なるブースへ移されて行われてもよい。第1実施形態では、紫外線照射装置18が転写槽15とは異なるブースに配備されている。
【0035】
なお、紫外線照射装置18としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の光源ランプ26と照射器( ランプハウス) とを含む公知の紫外線硬化装置を用いることができる。
【0036】
次に、上記液圧転写装置14を用いた液圧転写方法の内容について工程順に説明する。なお、下記の工程は、一連の流れの説明のために便宜的に分けたものである。
<準備工程>
準備工程では、図3において二点鎖線で示すように、インクジェットプリンタ16のインクヘッド25を、液面22の上方近傍の描画予定位置へ移動させる。
【0037】
また、昇降装置17により、被転写体11をインクヘッド25の移動の妨げとならない位置、例えば上述した「上昇位置」へ移動させる。この上昇位置は、液面22の描画予定位置の上方である。このとき、被転写体11は、昇降装置17により、被転写面12が下側となるように把持されている。
【0038】
<描画工程>
描画工程では、図3において実線で示すように、インクヘッド25を転写槽15の幅方向(図3の紙面に直交する方向)及び長さ方向(図3の左右方向)へ移動させる。この移動に連動して、インクヘッド25のノズルからインク粒子24を液面22に直接吹き付けて、その液面22に木目模様等の印刷模様層13を描画する。
【0039】
この際、液面22に吹き付けられたインク粒子24を液面22に安定した状態でとどまらせる観点からは、次の条件を満たすことが望ましい。
・インクの粘度:0.5〜10000mPs
・インクの吐出量:10〜300pl/滴
・ノズル径:10〜100μm
また、インクの吐出方式として、ピエゾ素子に電圧を印加してインクを吐出させるピエゾ方式のインクジェットプリンタ16を用いた場合には、電気伝導度の小さなインクを用いることが望ましい。これは、電気伝導度の大きなインクを用いると、ピエゾ素子の変形に悪影響を及ぼし、インク粒子24が吐出されにくくなるおそれがあるからである。
【0040】
なお、描画工程では、被転写体11を上記「上昇位置」に保持し、次の転写工程に備え待機させておく。
上記のように、印刷模様層13の形成及び浮遊が共通の対象(液体21)に対し行われる。そのため、印刷模様層が一旦フィルムに形成され、そのフィルムが溶解することで印刷模様層が液面に浮遊する、すなわち、印刷模様層13の形成及び浮遊が異なる対象(フィルムと液体の双方)に対し行われる従来の液圧転写方法と異なり、フィルムが不要となる。それに伴い、フィルムの溶解による液体21の性状変化、例えば粘度の増大等が起こりにくくなる。
【0041】
ここで、第1実施形態では液体21として水が用いられているところ、油性のインク粒子24、又は親水性ではあるものの疎水性の保護膜によって被覆されたインク粒子24が、インクヘッド25のノズルから液体21(水)に直接吹き付けられる。このように吹き付けられたインク粒子24は、液面22(水面)に浮遊し、また、液体21に溶解せず、又は溶解しにくく、拡散することなく液面22に安定した状態でとどまる(動きにくい)。そのため、印刷模様層13は、インク粒子24が吹き付けられてから時間が経っても変形しにくい(形が崩れにくい)。
【0042】
そして、描画が終了したら、インクヘッド25を転写槽15の周縁部近傍の待避位置へ移動させる(図4参照)。
<転写工程>
転写工程では、上記描画工程での描画の後に、昇降装置17により、被転写体11を図4に示すように「下降位置」まで下降させる。この下降により、被転写体11が液体21内に押し入れられる。この押し入れに伴い、上記のように液面22(水面)に安定した状態でとどまっている印刷模様層13が液体21の圧力(液圧)を受けて、被転写体11の被転写面12に押付けられ、同被転写面12に倣って付着する。このようにして、液体21の液圧により印刷模様層13が被転写体11の表面(被転写面12)に転写される。なお、既述したが、この転写後の印刷模様層を「印刷模様層13」という。
【0043】
<取出し工程>
上記転写工程の後に、昇降装置17により、印刷模様層10が転写された後の被転写体11を図5に示すように「上昇位置」まで上昇させる。この上昇により、表面(被転写面12)に印刷模様層10の付着した被転写体11が液体21から引き上げられる(取り出される)。
【0044】
<定着工程>
液体21から取り出された上記被転写体11の印刷模様層10に対し、図6に示すように、紫外線照射装置18の光源ランプ26から紫外線UVを照射する。この照射された紫外線UVにより、印刷模様層10を構成するインク粒子24が硬化し被転写体11に定着する。
【0045】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)液体21の液面22に対し、その上方からインクジェットプリンタ16によりインク粒子24を直接吹き付けて印刷模様層13を描画し、その後に、印刷模様層13の上方から被転写体11を下降させて液体21内に押し入れ、同液体21の液圧により印刷模様層13を被転写体11の表面(被転写面12)に転写させるようにしている。
【0046】
そのため、印刷模様層13の形成される対象であるフィルムを不要とするとともに、フィルムの溶解に起因して粘度等の液体21の性状が変化する現象を起こりにくくし、液体21の交換頻度を低くすることができる。その結果、フィルムを用いて印刷模様層を被転写体に転写する場合よりも、液圧転写方法の実施に要するコストの低減を図ることができる。
【0047】
(2)上記(1)に関連するが、従来の液圧転写方法では、水溶性のフィルムを溶解させる必要があることから液体21として水を用いる必要があるのに対し、フィルムが不要となる第1実施形態では、フィルムを溶解させなくてもすむため、水以外の液体21を用いることが可能となり、使用できる液体21の種類が増える。
【0048】
(3)水を液体21として用いるとともに、油性のインク粒子24、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子24のいずれか一方を、液体21に直接吹き付けて液面22に印刷模様層13を描画している。そのため、吹き付けられたインク粒子24を液面22に安定した状態でとどまらせ、印刷模様層13が、インク粒子24の吹き付け後に変形するのを抑制することができる。
【0049】
(4)液体21として、上記(i)水に代え、(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液、及び(iv)水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを用いた場合には、次のメリットがある。それは、被転写体11を液体21内に押し入れたときの同被転写体11に対する液体21の液圧が、液体21として水を用いた場合よりも高くなり、印刷模様層13を被転写体11に確実に転写・付着させることができることである。
【0050】
(5)印刷模様層13における印刷模様を開発する場合、フィルムに印刷模様層を印刷する従来の方法では、印刷模様の設計→印刷模様を色毎にパターンに分解→転写ロール作成→テスト印刷→本工程(多色をフィルムに印刷)→フィルムを適切な長さに切断→梱包→搬送→液圧転写方法を実施、といった多くの工程を経る必要がある。これに伴い、目的とする印刷模様層を転写した製品が得られるまでに多くの時間がかかる。
【0051】
この点、インクジェットプリンタ16によりインク粒子24を液体21に直接吹き付けて印刷模様層13を描画する第1実施形態では、印刷模様の設計→インクジェットプリンタ16へ画像データを転送→液圧転写方法を実施、といった少ない工程を行うのみでよく、短時間で印刷模様の開発を行うことができる。
【0052】
(6)上記(5)に関連するが、上記一連の工程を実施したにも拘わらず、被転写体11において目的とする印刷模様が得られない場合には、従来の方法であれ、第1実施形態の方法であれ一連の工程を再び最初から行うこととなる。従って、工数の多い従来の方法で目的とする印刷模様が得られるまでにかかる時間と、工数の少ない第1実施形態の方法で目的とする印刷模様が得られるまでにかかる時間との差がますます拡大する。上記(5)の時間短縮効果がより顕著となる。
【0053】
(7)インクジェットプリンタ16として、転写槽15と同程度の幅を有する、いわゆるライン型のインクヘッド25を有するものを用いた場合には、転写槽15よりも幅が狭く、転写槽15の幅方向に往復駆動させる、いわゆるシリアル型のインクヘッド25を用いた場合よりも高速で描画を行うことできる。描画にかかる時間を短縮し、生産性の向上を図ることができる。
【0054】
(8)インクジェットプリンタ16へデザインの異なる画像データを転送するだけで印刷模様を変更できるため、多種多様な印刷模様の変更に容易に対応することができる。しかも、その変更を同一の設備で行うことができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0056】
第2実施形態では、液圧転写装置14の構成について、第1実施形態と異なっている。より詳しくは、図7及び図8に示すように、印刷模様層13を取り囲み得る大きさの枠体31が、印刷模様層13の種類毎に用意されている(図7及び図8では1つのみ図示)。各枠体31は、薄板材によって形成されている。各枠体31の形状は、図7に示すように、印刷模様層13の外縁13Aに対応しないものであってもよいし、図8に示すように、印刷模様層13の外縁13Aに対応するものであってもよい。各枠体31の複数箇所には、その枠体31の外側方へ延びる連結部材32が設けられている。そして、印刷模様層13の描画に先立ち、その印刷模様層13よりも若干大きな枠体31が、描画予定位置を取り囲むようにして液面22に浮かべられている。さらに、各連結部材32の延出端が、転写槽15において枠体31と対向する壁面15Aに対し取外し可能に装着されている。
【0057】
なお、枠体31の装着は、遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に行われる必要がある。これは、被転写体11に対する印刷模様層13の転写が行われるよりも前にその印刷模様層13が移動したり変形したりするのを抑制するためである。さらに、枠体31の装着は、インクジェットプリンタ16による印刷模様層13の描画よりも前に行われることが望ましい。これは、描画後に装着を行うと、その装着の際に液面22を揺らし、印刷模様層13が変形するおそれがあるためである。
【0058】
枠体31が上記のように装着された状態では、液面22に枠体31が浮遊していて、液面22が、印刷模様層13を取り囲む領域Z1と、それ以外の領域Z2とに仕切られる。そのため、風、対流、振動等により、枠体31よりも外側の領域Z2で液面22が動いたとしても、その液面22の動きが枠体31の内側の領域Z1に伝わりにくくなる。
【0059】
特に、印刷模様層13の変形を抑制する観点からは、枠体31と印刷模様層13との間隙ができる限り狭いことが望ましい。印刷模様層13が、領域Z1での液面22の動きの影響を受けにくくなるためである。この点、図8では、枠体31として、印刷模様層13の外縁13Aに対応した形状をなすものが用いられていることから、枠体31と印刷模様層13の外縁13Aとの間隙が狭く、印刷模様層13が領域Z1での液面22の動きだけでなく領域Z1での液面22の動きの影響も受けにくい。
【0060】
従って、第2実施形態によれば、上述した(1)〜(8)に加え、次の効果が得られる。
(9)遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、液体21の液面22に、印刷模様層13を取り囲み得る大きさの枠体31を浮かべている(図7、図8参照)。そのため、描画後の印刷模様層13の変形を抑制することができる。
【0061】
(10)枠体31として、印刷模様層13の外縁13Aに対応した形状をなすものを用いている(図8参照)。そのため、枠体31と印刷模様層13の外縁13Aとの間隙を狭くし、印刷模様層13が、領域Z1での液面22の動きから受ける影響度合いを小さくし、上記(9)の効果をより一層確実なものとすることができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0063】
第3実施形態では、液圧転写装置14及び液圧転写方法の双方について、第2実施形態と異なっている。
<液圧転写装置14の相違点について>
既述した第2実施形態では、枠体31が単一の部材によって構成されていたが、第3実施形態では、図9及び図10に示すように、枠体31は複数の可動部材35に分割されている。また、転写槽15には、各可動部材35を、印刷模様層13の外縁13Aに対し接近する位置(以下「接近位置」という、図9参照)と、離間する位置(以下「離間位置」という、図10参照)との間で移動させる駆動機構(図示略)が設けられている。図9に示す「接近位置」では、各可動部材35が隣の可動部材35に接触し、全体として四角環状(無端状)となる。すなわち、複数の可動部材35によって枠体31が構成される。これに対し、図10に示す「離間位置」では、各可動部材35が隣の可動部材35から離れる。
【0064】
各可動部材35は、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるときには「接近位置」に位置している。そのためには、各可動部材35は、遅くとも転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、「接近位置」へ移動させられる必要がある。各可動部材35は、さらにインクジェットプリンタ16による描画が行われるよりも前に「接近位置」へ移動させられることが好ましい。これは、接近位置への移動に伴い液面22が動いて、液面22の印刷模様層13が意図しない変形を起こすのを回避するためである。
【0065】
そして、各可動部材35は、インクジェットプリンタ16による描画後であって、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられる前に離間位置へ移動させられる。
【0066】
<液圧転写方法の相違点について>
第3実施形態では、描画工程と転写工程との後に、<印刷模様変形工程>が行われる。
枠体31の各可動部材35は、遅くとも描画工程の開始前、例えば準備工程で接近位置へ移動させられる。この移動により、図9に示すように、隣り合う可動部材35同士が相互に接触し、全体として四角環状の枠体31となる。この枠体31により、液面22が領域Z1と領域Z2とに仕切られる。
【0067】
描画工程では、枠体31内の液体21に対しインクジェットプリンタ16のインクヘッド25からインク粒子24が吹き付けられて、液面22に印刷模様層13が描画される。
上記描画工程の後、転写工程において被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に印刷模様変形工程が行われる。この印刷模様変形工程では、図9において矢印で示すように、枠体31の各可動部材35が離間位置へ向けて一斉に移動させられる。これに伴い、枠体31内の液体21の少なくとも液面22近くの部分が、可動部材35に追従して動く。すなわち、液体21の上記部分に、可動部材35の移動方向に向かう流れが生ずる。液面22上の印刷模様層13がこの流れに乗って動き、可動部材35の移動前とは異なる形状に変形する。
【0068】
その後に、転写工程において、被転写体11が液体21内に押し入れられると、上記変形した印刷模様層13、すなわち、描画時の印刷模様層13とは異なる印刷模様層13が被転写体11に転写される。
【0069】
ここで、各可動部材35を「接近位置」から「離間位置」へ移動させる方向は、各可動部材35を印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる方向と同一である。従って、各可動部材35を上記のように「接近位置」から「離間位置」へ移動させると、枠体31内の液体21の少なくとも液面22近くの部分に、可動部材35の移動方向、すなわち印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる側へ向かう流れが生ずる。液面22上の印刷模様層13がこの流れに乗って動き、可動部材35の移動前(図9参照)よりも大きな形状に変形(拡大)する。そのため、被転写体11が液体21内に押し入れられると、描画時の印刷模様層13よりも大きな印刷模様層13が被転写体11に転写されることとなる。
【0070】
第3実施形態によれば、上述した(1)〜(10)に加え、次の効果が得られる。
(11)印刷模様層13の描画後であって、被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前に、枠体31の各可動部材35を液面22に沿う方向へ移動させるようにしている。この移動により、液面22に描画された印刷模様層13を変形させ、描画時の印刷模様層13とは異なる印刷模様層13を被転写体11に転写させることができる。
【0071】
(12)各可動部材35を印刷模様層13の外縁13Aから遠ざかる側へ移動させるようにしている。そのため、描画後に印刷模様層13が変形しない、又はほとんど変形しない場合(例えば、前述した第1及び第2実施形態がこれに該当する)に比べ、小さな印刷模様層13を描画するだけでよくなり、インクジェットプリンタ16におけるインクヘッド25等、インク粒子24を吹き付ける部分の小型化を図ることができる。また、小さな印刷模様層13を描画することになるから、描画の時間も短縮することができる。
【0072】
(第4実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
第4実施形態では、液圧転写装置14及び液圧転写方法の双方について、第1実施形態と異なっている。
<液圧転写装置14の相違点について>
転写槽15には、紫外線透過性の液体21、例えば水ガラスが貯留されている。
【0074】
また、図11に示すように、転写槽15の液体21内であって、印刷模様層13の転写位置(被転写体11の下降位置)よりも下方には、紫外線照射装置18における光源ランプ26が配置されている。光源ランプ26は、液体21内に押し入れられた被転写体11に向けて紫外線UVを照射し得る姿勢で配置されている。
【0075】
<液圧転写方法の相違点について>
第4実施形態では、第1実施形態とは異なり、定着工程が、転写工程の後であって取出し工程よりも前に行われる。
【0076】
定着工程では、転写工程での被転写体11の液体21内への押し入れに伴い同被転写体11に転写された印刷模様層10に対し、その下方に配置された光源ランプ26から紫外線UVが照射される。この紫外線UVは紫外線透過性の液体21を透過して印刷模様層10に照射される。この照射により、印刷模様層10におけるインク粒子24が硬化させられる。このように、印刷模様層10の定着が液体21の内部で行われる。
【0077】
そして、上記定着工程の後に、取出し工程が行われることにより、印刷模様層10の定着した被転写体が液体21から引き上げられる(取り出される)。
従って、第4実施形態によれば、上述した(1),(2),(5)〜(12)に加え、次の効果が得られる。
【0078】
(13)液体21として紫外線透過性の液体21を用い、インクとして紫外線硬化型インクを用いている。そして、被転写体11の液体21内への押し入れに伴い被転写体11に転写された印刷模様層10に対し、その下方から液体21を通じて紫外線UVを照射して、印刷模様層10のインク粒子24を硬化させるようにしている。そのため、被転写体11が液体21内にあるときから紫外線UVを照射して印刷模様層10を被転写体11に定着させることができる。印刷模様層10が転写された被転写体11を液体21から取り出した後に、紫外線UVを照射する場合よりも生産工数を少なくし、生産性を向上させることができる。
【0079】
なお、水溶性のフィルムを用いた従来の液圧転写方法において、第4実施形態と同様の方法を採用した場合には、フィルムが完全に液体21に溶解するまでは紫外線UVが印刷模様層10に到達しないため、同第4実施形態と同様の効果を得ることは困難である。
【0080】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<各実施形態に共通する事項>
・転写工程における転写に際し、印刷模様層13の被転写体11に対する密着性を高める観点からは、被転写体11をより速い速度で液体21内に押し入れることが望ましい。
【0081】
・液体21として、上述した(ii)増粘剤の配合された水、(iii )水よりも粘度の高い粘性液等を用いた場合には、被転写体11の押し入れや引き出しに伴い凸凹状になった液面22が平滑になるまでに時間がかかる懸念がある。そこで、この場合には、スキージ等によって液面22を平滑な面に戻すようにしてもよい。
【0082】
・印刷模様層13の描画の後に、転写槽15とインクジェットプリンタ16との相対位置を変えるために、インクジェットプリンタ16を移動させる代わりに、転写槽15を移動させてもよい。
【0083】
・被転写体11の昇降を昇降装置17に代えて、人手によって行ってもよい。
・本発明は、三次元表面を有する被転写体の表面に加飾を行う場合に特に有効であるが、被転写面が平面である被転写体の表面に加飾を行う場合に適用されてもよい。
【0084】
・印刷模様層10の耐摩性、耐候性( 耐溶剤性、耐薬品性等を含む) 等の向上を目的として、印刷模様層13の上に透明な表面保護層( トップコート) をさらに形成してもよい。
【0085】
・被転写体11は、合成樹脂に限らず他の材料、例えば金属、セラミックス等によって形成されたものであってもよい。
・本発明の液圧転写方法は、車両用内装品以外の車両の部品や、車両以外の用途に用いられる製品の加飾に適用されてもよい。
【0086】
<第2実施形態に特有の事項>
・枠体31は、少なくとも液面22に配置されていればよい。従って、枠体31は必ずしも液面22に浮く構成でなくてもよく、例えば上下方向に細長い筒状をなすものであってもよい。この場合、枠体31は転写槽15の底壁に固定されたものであってもよい。
【0087】
・枠体31を転写槽15に装着する時期を、遅くとも被転写体11が液体21内へ押し入れられるよりも前であることを条件に、適宜変更してもよい。例えば、印刷模様層13を変形させずに枠体31を装着することが可能であれば、インクジェットプリンタ16によって印刷模様層13を描画した後に枠体31を転写槽15に装着してもよい。
【0088】
・枠体31が転写槽15に対し移動しない(例えば、上述した底壁に固定されたものがこれに該当する)か、又はほとんど移動しないものである場合には、枠体31及び転写槽15間の連結部材32を省略してもよい。
【0089】
・第2実施形態では、枠体31として、どの箇所でも幅が一様であるものを用いたが、箇所によって幅の異なるものを用いてもよい。
<第3実施形態に特有の事項>
・第3実施形態では、枠体31の少なくとも一部が可動部材35によって構成されればよい。従って、枠体31の一部のみを可動部材とし、これを液面22に沿う方向へ移動させるようにしてもよい。このようにしても、可動部材35の移動により、印刷模様層13を描画時のものとは異なるものに変形させる効果は得られる。
【0090】
・可動部材35を、第3実施形態とは逆に、印刷模様層13に近づく側へ移動させるようにしてもよい。このようにしても、印刷模様層13を描画時のものとは異なる形状に変形させる効果は得られる。
【0091】
<第4実施形態に特有の事項>
・紫外線照射装置18における光源ランプ26を転写槽15の外部(例えば下方)に配置してもよい。ただし、この場合には、転写槽15において、少なくとも光源ランプ26と、液体21内に押し入れられた被転写体11(印刷模様層10)との間となる箇所を、紫外線UVを透過し得る構成にする必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態を示す図であり、印刷模様層が転写された被転写体を示す断面図。
【図2】液圧転写装置の概略構成を示す断面図。
【図3】液圧転写方法中、インクジェットプリンタによって印刷模様層を液面に描画する状態を示す部分断面図。
【図4】液圧転写方法中、被転写体に印刷模様層を転写する状態を示す部分断面図。
【図5】液圧転写方法中、印刷模様層が転写された被転写体を液体から引き出す状態を示す部分断面図。
【図6】液圧転写方法中、印刷模様層に紫外線を照射する状態を示す断面図。
【図7】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、枠体内の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図8】第2実施形態において、図7とは異なる枠体を液面に配置し、枠体内の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図9】本発明を具体化した第3実施形態を示す図であり、各可動部材を接近位置へ移動させて枠状にし、その中の液面に印刷模様層を描画した状態を示す部分平面図。
【図10】図9の状態から各可動部材を離間位置へ移動させて印刷模様層を変形(拡大)させる状態を示す部分平面図。
【図11】本発明を具体化した第4実施形態を示す図であり、液体内に配置した光源ランプから、液体内に押し入れられた被転写体の印刷模様層に紫外線を照射する状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0093】
11…被転写体、10,13…印刷模様層、13A…外縁、15…転写槽、16…インクジェットプリンタ、21…液体、22…液面、24…インク粒子、31…枠体、UV…紫外線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写槽内に貯留された液体の液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画した後、同印刷模様層の上方から被転写体を下降させて前記液体内に押し入れ、同液体の液圧により前記印刷模様層を前記被転写体の表面に転写させることを特徴とする液圧転写方法。
【請求項2】
水を前記液体として用いるとともに、油性のインク粒子、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子のいずれか一方を、前記インクジェットプリンタにより前記液面に直接吹き付けて前記印刷模様層を描画する請求項1に記載の液圧転写方法。
【請求項3】
増粘剤の配合された水、水よりも粘度の高い粘性液、及び水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを前記液体として用いる請求項1に記載の液圧転写方法。
【請求項4】
遅くとも前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記液体の少なくとも液面に、前記印刷模様層を取り囲み得る大きさの枠体を配置する請求項1〜3のいずれか1つに記載の液圧転写方法。
【請求項5】
前記枠体として、前記印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いる請求項4に記載の液圧転写方法。
【請求項6】
前記印刷模様層の描画後であって、前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記枠体の少なくとも一部を、前記液面に沿う方向へ移動させる請求項4又は5に記載の液圧転写方法。
【請求項7】
前記枠体の少なくとも一部を、前記印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させる請求項6に記載の液圧転写方法。
【請求項8】
前記液体として紫外線透過性の液体を用いるとともに、前記インク粒子として紫外線硬化型のインク粒子を用い、前記被転写体の前記液体内への押し入れに伴い同被転写体に転写された前記印刷模様層に対し、その下方から前記液体を通じて紫外線を照射して、同印刷模様層を構成する前記インク粒子を硬化させる請求項1〜7のいずれか1つに記載の液圧転写方法。
【請求項1】
転写槽内に貯留された液体の液面に対し、その上方からインクジェットプリンタによりインク粒子を直接吹き付けて印刷模様層を描画した後、同印刷模様層の上方から被転写体を下降させて前記液体内に押し入れ、同液体の液圧により前記印刷模様層を前記被転写体の表面に転写させることを特徴とする液圧転写方法。
【請求項2】
水を前記液体として用いるとともに、油性のインク粒子、及び疎水性の保護膜により被覆された親水性のインク粒子のいずれか一方を、前記インクジェットプリンタにより前記液面に直接吹き付けて前記印刷模様層を描画する請求項1に記載の液圧転写方法。
【請求項3】
増粘剤の配合された水、水よりも粘度の高い粘性液、及び水よりも比重の大きな高比重液のいずれか1つを前記液体として用いる請求項1に記載の液圧転写方法。
【請求項4】
遅くとも前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記液体の少なくとも液面に、前記印刷模様層を取り囲み得る大きさの枠体を配置する請求項1〜3のいずれか1つに記載の液圧転写方法。
【請求項5】
前記枠体として、前記印刷模様層の外縁に対応した形状をなすものを用いる請求項4に記載の液圧転写方法。
【請求項6】
前記印刷模様層の描画後であって、前記被転写体が前記液体内へ押し入れられるよりも前に、前記枠体の少なくとも一部を、前記液面に沿う方向へ移動させる請求項4又は5に記載の液圧転写方法。
【請求項7】
前記枠体の少なくとも一部を、前記印刷模様層の外縁から遠ざかる側へ移動させる請求項6に記載の液圧転写方法。
【請求項8】
前記液体として紫外線透過性の液体を用いるとともに、前記インク粒子として紫外線硬化型のインク粒子を用い、前記被転写体の前記液体内への押し入れに伴い同被転写体に転写された前記印刷模様層に対し、その下方から前記液体を通じて紫外線を照射して、同印刷模様層を構成する前記インク粒子を硬化させる請求項1〜7のいずれか1つに記載の液圧転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−269342(P2009−269342A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123462(P2008−123462)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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