説明

液晶ポリエステル樹脂組成物及びカメラモジュール部品

【課題】 フィブリル化しにくい成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを成形してなるカメラモジュール部品を提供すること。
【解決手段】 本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル(A)100容量部に対して、粒子径1μm以下の硫酸バリウム(B)を5〜40容量部及びカーボンブラック(C)を0.01〜10.0容量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを成形して得られるカメラモジュール部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラ等に搭載するカメラモジュールは、バレル(レンズが乗る部分)やホルダー(バレルを装着する或いは支持する部分)などの部品から構成されている。近年では、耐熱性、機械的特性、寸法精度に優れかつ薄肉成形が可能な液晶性樹脂組成物によってカメラモジュールの部品が作製されるようになってきた。
【0003】
ところで、カメラモジュールの組立工程において、部品の組み立て時に部品表面から樹脂組成物の粉が脱落することがある。このような粉は、CMOSセンサー上に乗ると画像不良を起こす原因となる。液晶性樹脂製の部品の場合には、フィブリル化と呼ばれる現象が脱落原因のひとつとしてある。これは、カメラモジュール部品を超音波洗浄することによって部品の表面に毛羽立ちが発生する現象である。
【0004】
超音波洗浄によるフィブリル化を抑える技術はこれまでにも検討されており、例えば、下記特許文献1には、平均一次粒径5μm以下のシリカを含む射出成形用液晶性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カメラの高性能化に伴う画素数の向上によって、1μm未満といった微小の異物であっても不良の原因になる場合がある。そのため、組み立て前の各部品、さらには組立品を十分に洗浄する必要がある。しかし、液晶性樹脂製の部品では、厳しい条件での超音波洗浄によってフィブリル化してしまう可能性がある。本発明者らの検討によると、超音波による洗浄時間を長くすると上記特許文献1の樹脂組成物からなる成形体であってもフィブリル化してしまうことが判明している。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フィブリル化しにくい成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを成形してなるカメラモジュール部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、液晶ポリエステル、特定の粒子、及びカーボンブラックを特定の割合で配合した液晶ポリエステル樹脂組成物を成形することにより、カメラモジュール部品として好適な特性を有し、なおかつ超音波洗浄されてもフィブリル化が十分抑制されている成形体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、液晶ポリエステル(A)100容量部に対して、粒子径1μm以下の硫酸バリウム(B)を5〜40容量部及びカーボンブラック(C)を0.01〜10.0容量部含有する液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、超音波洗浄によってもフィブリル化しにくい成形体を得ることができる。
【0011】
フィブリル化は液晶ポリマーに特有の繊維状の分子構造に起因して生じる現象である。そのメカニズムは、繊維状に並んだ分子に超音波などのエネルギーがかけられることにより摩擦が起こり、分子同士がよじれて表面に析出することであると本発明者らは考えている。本発明においては、樹脂組成物に上記特定の粒子径を有する硫酸バリウムが配合されることにより、成形体中の繊維状の分子は適度に屈曲した状態となり、これにより分子同士の摩擦が抑えられてフィブリル化が高度に抑制されたと考えられる。
【0012】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上記構成を有することにより、フィブリル化抑制効果に優れているうえに、十分な機械的特性及び耐熱性、並びにカメラモジュール部品として十分な黒さをも兼ね備えることができる。
【0013】
(B)成分の配合量が上記下限値未満であると、フィブリル化を抑制する効果が十分に得られにくくなり、上記上限値を超えると、ストランド乱れが生じやすくなり、ペレット化が困難になる。(C)成分の配合量が上記下限値未満であると、十分な黒さの成形体を得ることが困難となり、上記上限値を超えると、フィブリル化を抑制する効果が十分に得られにくくなる。
【0014】
本発明はまた、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなるカメラモジュール部品を提供する。
【0015】
本発明のカメラモジュール部品は、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物からなるものであることにより、超音波洗浄によってもフィブリル化しにくいものになり得る。また、本発明のカメラモジュール部品は、十分な機械的特性及び耐熱性、並びにカメラモジュール部品として十分な黒さを兼ね備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィブリル化しにくい成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを成形してなるカメラモジュール部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<液晶ポリエステル(A)について>
本発明で用いる液晶ポリエステル(以下、単に「LCP」と略称する場合もある)とは、異方性溶融体を形成するものであり、これらの中でも、実質的に芳香族化合物のみの重縮合によって得られる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを用いることが好ましい。液晶ポリエステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられる。
【0019】
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、融点が300℃以上であることが好ましい。このようなLCPを配合することにより、ハンダリフロー工程にも耐えうる耐熱性に優れたカメラモジュール部品を作製することができる。
【0020】
融点が300℃以上の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを得るには、原料モノマーとしてp−ヒドロキシ安息香酸を40モル%以上使用するとよい。この他に、公知の他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用することができる。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸や2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸のみから得られるポリエステル、さらにこれらとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、および/またはハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる液晶性ポリエステルなどが好ましいものとして挙げられる。
【0021】
特に好ましくは、p−ヒドロキシ安息香酸(a)、テレフタル酸(b)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(c)(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%(但し、(a)と(b)の合計を60モル%以上とする。)、及び、(a)、(b)、(c)のいずれかと重縮合反応可能な他の芳香族化合物0〜20モル%を重縮合して得られる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルが挙げられる。
【0022】
液晶ポリエステルの製造に際しては、溶融重縮合時間を短縮し工程中の熱履歴の影響を低減させるため、上記のモノマーの水酸基を予めアセチル化した後に溶融重縮合を行うことが好ましい。さらに、工程を簡略化するために、アセチル化は反応槽中のモノマーに無水酢酸を供給して行うのが好ましく、このアセチル化工程を溶融重縮合工程と同じ反応槽を用いて行うのが好ましい。すなわち、反応槽中で無水酢酸による原料モノマーのアセチル化反応を行い、反応終了後昇温して重縮合反応に移行するのが好ましい。
【0023】
アセチル化されたモノマーは、脱酢酸反応を伴いながら溶融重縮合反応を行うことができる。反応槽としては、モノマー供給手段、酢酸排出手段、溶融ポリエステル抜き出し手段および攪拌手段を備えた反応槽を用いることが好ましい。このような反応槽(重縮合装置)は公知のものから適宜選択することができる。重合温度は好ましくは150℃〜350℃である。アセチル化反応終了後、重合開始温度まで昇温して重縮合を開始し、0.1℃/分〜2℃/分の範囲で昇温して、最終温度として280〜350℃まで上昇させるのが好ましい。このように、重縮合の進行により生成重合体の溶融温度が上昇するのに対応して重縮合温度も上昇させることが好ましい。重縮合反応では、ポリエステルの重縮合触媒として公知の触媒を使用することができる。触媒としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの金属触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
【0024】
溶融重縮合において、その流動点が200℃以上、好ましくは220℃〜330℃に達したところで、低重合度の液晶ポリエステルを溶融状態のまま重合槽から抜き出し、スチールベルトやドラムクーラー等の冷却機へ供給し、冷却して固化させる。
【0025】
ついで、固化した低重合度の液晶ポリエステルを、後続の固相重縮合反応に適した大きさに粉砕する。粉砕方法は特に限定されないが、例えば、ホソカワミクロン社製のフェザーミル、ビクトミル、コロプレックス、パルベラーザー、コントラプレックス、スクロールミル、ACMパルベライザー等の衝撃式粉砕機、マツボー社製の架砕式粉砕機であるロールグラニュレーター等の装置を使用する方法が好ましい例として挙げられる。特に好ましくは、ホソカワミクロン(株)製のフェザーミルを使用する方法である。本発明においては、粉砕物の粒径に特に制限はないが、工業フルイ(タイラーメッシュ)で4メッシュ通過〜2000メッシュ不通の範囲が好ましく、5メッシュ〜2000メッシュ(0.01〜4mm)の範囲にあればさらに好ましく、9メッシュ〜1450メッシュ(0.02〜2mm)の範囲にあれば最も好ましい。
【0026】
次いで、粉砕工程で得られた粉砕物を固相重縮合工程に供して固相重縮合を行う。固相重縮合工程に使用する装置、運転条件には特に制限はなく、公知の装置および方法を用いることができる。
【0027】
液晶ポリエステル(A)は、生産性(コンパウンド)の点で、見掛け粘度が10〜300Pa・Sであるものが好ましい。ここで見掛け粘度とは、インテスコ(株)製のキャピラリーレオメーター(Model 2010)を用い、キャピラリーとして径1.0mm、長さ40mm、流入角90°のものを用いて、せん断速度100sec−1において測定し、液晶ポリエステルの融点+20℃における粘度をいう。
【0028】
樹脂組成物における液晶ポリエステル(A)の含有量は、樹脂組成物全量基準で50〜90容量%であることが好ましい。
【0029】
<硫酸バリウム(B)について>
本発明に用いる硫酸バリウムは、BaSOで表されるイオン結晶性化合物のことで塗料、インキ、プラスチック添加剤、白色顔料として広く用いられているものである。硫酸バリウムは、天然の重晶石と呼ばれるバライトの粉砕品であっても、化学反応で製造した沈降性硫酸バリウムであってもよい。
【0030】
本発明においては一次(数平均)粒子径1μm以下の硫酸バリウム粒子が用いられる。硫酸バリウムは市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、堺化学工業(株)製の「300」(沈降性硫酸バリウム、一次数平均粒子径0.7μm)、「BF−20」(沈降性硫酸バリウム、一次粒子径0.03μm)が挙げられる。
【0031】
樹脂組成物における硫酸バリウム(B)の含有量は、液晶ポリエステル(A)100容量部に対して5〜40容量部、好ましくは10〜35容量部である。硫酸バリウム(B)の含有量が、上記下限値未満であると、フィブリル化を抑制する効果が十分に得られにくくなる傾向にあり、一方、上記上限値を超えると、ストランド乱れが生じやすくなり、ペレット化が困難になる。
【0032】
<カーボンブラック(C)について>
本発明に用いるカーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なもので特に限定されるものではない。市販品としては、例えば、キャボット社製の「REGAL99I」が挙げられる。
【0033】
樹脂組成物におけるカーボンブラック(C)の含有量は、液晶ポリエステル(A)100容量部に対して0.01〜10.0容量部、好ましくは1.0〜3.0容量部である。カーボンブラック(C)の含有量が上記下限値未満であると、十分な黒さの成形体を得ることが困難となり、漆黒性が低下して遮光性が不十分となる傾向にある。上記上限値を超えると、フィブリル化を抑制する効果が十分に得られにくくなる。
【0034】
<その他の添加剤について>
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤の1種又は2種以上を配合することができる。添加剤としては、例えば、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状無機充填剤、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの添加剤を添加して、所定の特性を樹脂組成物に付与することができる。
【0035】
本発明の樹脂組成物には、成形品のウェルド部の強度を向上させる目的から、本発明の目的を損なわない範囲でガラス繊維を配合することができる。
【0036】
<ガラス繊維(D)について>
本発明に用いるガラス繊維としては、チョップドストランド、ミルドファイバーなど一般的な樹脂補強材として使用されているものを好ましく使用できるが、ミルドファイバーが好ましい。用いられるガラス繊維の繊維長は、数平均長さで10μm〜1mmが好ましく、50μm〜200μmがより好ましい。ガラス繊維の太さは、数平均径5〜20μmが射出成形時の流動性の点から好ましく、更に好ましくは数平均径7〜15μmである。ガラス繊維の好ましい具体例としては、例えば、セントラルグラスファイバー(株)製の「EFH150−01」(数平均繊維径10μm、数平均繊維長150μm)等が挙げられる。
【0037】
ガラス繊維(D)の配合量は、液晶ポリエステル(A)100容量部に対して0〜50容量部であることが好ましく、5〜15容量部であることがより好ましい。ガラス繊維(D)の配合量が上記上限値を超える場合には、フィブリル化を抑制する効果が十分に得られにくくなる傾向にある。
【0038】
本発明の樹脂組成物において、フィブリル化抑制の観点から、粒子径が1μmより大きい繊維状以外の不定形状若しくは球状の無機粒子の含有量が液晶ポリエステル(A)100容量部に対して50容量部以下であることが好ましく、粒子径が1μmより大きい繊維状以外の不定形状若しくは球状の無機粒子が実質的に含まれないことがより好ましい。
【0039】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、カメラモジュール部品成形用として好適に用いることができる。
【0040】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、剪断速度100sec−1、液晶ポリエステル(A)の融点+20℃で測定される溶融粘度が10〜200(Pa・S)の範囲にあることが好ましい。溶融粘度がこの範囲を外れると、射出成形品の表面性状が悪くなり、脱落物が増えるためである。溶融粘度は、インテスコ株式会社製のキャピラリーレオメーター(Model 2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、液晶ポリエステル(A)の融点+20℃における見かけ粘度を求めることにより得られる。
【0041】
後述する本発明のカメラモジュール部品は本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形することにより得られるが、成形品に目的とする剛性、摺動性能を発揮させるためにも、液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度が上記範囲にあることが好ましい。部品の最小厚みが0.2〜0.8mmのような薄肉の場合、溶融粘度が上記範囲にある樹脂組成物を用いることにより、金型内の0.2〜0.8mmの厚みの空間に高速で射出充填されたときに金型内で均一に流動させることができ、組成の偏りがない成形品を得ることができる。このようにして得られたカメラモジュール部品は、耐磨耗性能、剛性にすぐれ、成形品表面からの脱落物が十分抑制されたものになり得る。
【0042】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法について>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上述した各成分(液晶ポリエステル、硫酸バリウム粒子、カーボンブラック、および必要に応じてガラス繊維など)を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練するための装置としては、二軸混練機を使用することができる。より好ましくは、1対の2条スクリュを有する連続押出式の二軸混練機であって、その中でも切り返し機構を有することで充填材の均一分散を可能とする同方向回転式が好ましい。充填材の食い込みが容易となるバレル−スクリュ間の空隙が大きい40mmφ以上のシリンダー径を有するものであり、スクリュ間の大きい、かみ合い率1.45以上のものであり、シリンダー途中から充填剤を供給可能なものを使用すると、本発明の樹脂組成物を効率よく得ることができる。また、ガラス繊維の少なくとも一部をシリンダーの途中へ供給するための設備を有するものを用いることが好ましい。
【0043】
液晶ポリエステル、硫酸バリウム粒子、及びカーボンブラックは、公知の固体混合設備、例えばリボンブレンダー、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、必要に応じて熱風乾燥器、減圧乾燥器等により乾燥し、二軸混練機のホッパーから供給することが好ましい。
【0044】
ガラス繊維を含有する樹脂組成物の製造においては、配合するガラス繊維の少なくとも一部を、二軸混練機のシリンダーの途中より供給する(所謂サイドフィード)ことができる。これにより、全てのガラス繊維を他の原料と共にホッパーより供給する(所謂トップフィード)場合に比較して、得られる樹脂組成物を射出成形してなる成形体のウェルド部の機械的強度がより向上する傾向にある。
【0045】
<カメラモジュール部品について>
本発明のカメラモジュール部品は上記組成物から射出成形で得られる。射出成形条件あるいは射出成形機は、液晶ポリエステルの成形に一般に使用されている公知のものであれば特に制限は無い。
【0046】
本発明のカメラモジュール部品は、曲げ強度が120MPa以上であることが好ましく、140MPa以上であることがより好ましい。ここで、曲げ強度とはASTM D790に準拠して測定された曲げ強度を意味する。
【0047】
本発明のカメラモジュール部品は、曲げ弾性率が10GPa以上であることが好ましく、12GPa以上であることがより好ましい。ここで、曲げ弾性率とは、ASTM D790に準拠して測定された曲げ弾性率を意味する。
【0048】
本発明のカメラモジュール部品は、ウェルド強度が20MPa以上であることが好ましく、23MPa以上であることがより好ましい。ここで、ウェルド強度とは、試験片中央にウェルド部を有する試験片をASTM D790に準拠して測定された曲げ強度を意味する。
【0049】
本発明のカメラモジュール部品は、荷重たわみ温度が240℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましい。ここで、荷重たわみ温度とは、ASTM D648に準拠して測定された荷重たわみ温度(DTUL)を意味する。
【0050】
本発明のカメラモジュール部品は、ΔEが50以上あることが好ましく、55以上であることがより好ましい。ここで、ΔEは、JIS Z8729に準拠して測定されたL、a、b値より算出される数値を意味する。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<液晶ポリエステル(A)の製造>
ダブルヘリカル型攪拌翼を有し、内容積が1.7m3のSUS316L(ステンレス鋼)製の反応槽に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298.3kg(2.16キロモル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル(本州化学工業株式会社製)134.1kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)89.7kg(0.72キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)29.9kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.11kg、および酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kgを仕込んだ。重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換した後、無水酢酸377.7kg(3.7キロモル)を添加し、攪拌翼の回転数45rpmにて150℃まで1.5時間で昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化反応終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で310℃まで昇温し、発生する酢酸を除去しながら、重縮合反応を行った。
【0053】
ついで、反応槽系を密閉し、その系内を窒素で14.7N/cmに加圧し、反応槽内の溶融重縮合反応生成物である低重合度液晶ポリエステル約480kgを反応槽の底部の抜出し口から抜出し、特開2002−179779号公報の冷却固化装置にて冷却固化した。このときの溶融重縮合反応生成物の温度は310℃であった。得られた溶融重縮合反応生成物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により見開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0054】
次に、上記で得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンに充填し、窒素を16Nm/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で10時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が295℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステル(A)約400kgを得た。得られた液晶ポリエステル(A)の融点は350℃、比重は1.37、溶融粘度は70Pa・Sであった。
【0055】
<融点の測定>
液晶ポリエステル(ポリマー)の融点は、セイコー電子工業(株)製の示差走査熱量計(DSC)により、リファレンス(基準品)としてα−アルミナを用いて測定した。このとき、昇温速度20℃/分で室温から400℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で150℃まで降温し、更に20℃/分の速度で420℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点とした。
【0056】
<カーボンブラック>
カーボンブラックとして、キャボット(株)製の商品名「REGAL99I」(一次粒子径24nm、比重1.9)を用意した。
【0057】
<硫酸バリウム粒子>
硫酸バリウム粒子(I)として、堺化学工業(株)製の商品名「300」(一次数平均粒子径0.7μm、比重4.3)を用意した。
【0058】
硫酸バリウム粒子(II)として、堺化学工業(株)製の商品名「BF−20」(一次数平均粒子径0.03μm、比重4.3)を用意した。
【0059】
硫酸バリウム粒子(III)として、堺化学工業(株)製の商品名「BMH−60」(一次数平均粒子径6μm、比重4.3)を用意した。
【0060】
<シリカ粒子>
シリカ粒子(I)として、電気化学工業(株)製の商品名「FB−5SDC」(一次数平均粒子径5μm、比重2.1)を用意した。
【0061】
シリカ粒子(II)として、電気化学工業(株)製の商品名「SFP−30M」(一次数平均粒子径0.7μm、比重2.1)を用意した。
【0062】
シリカ粒子(III)として、電気化学工業(株)製の商品名「FB−950」(一次数平均粒子径23μm、比重2.1)を用意した。
【0063】
<タルク粒子>
タルク粒子として、日本タルク(株)製の商品名「MS−KY」(一次数平均粒子径20μm、比重2.9)を用意した。
【0064】
<ガラス繊維>
セントラルグラスファイバー(株)製の商品名「EFH150−01」(数平均長さ150μm、数平均径10μm、比重2.55)を用意した。
【0065】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
液晶ポリエステル100容量部に対して、硫酸バリウム粒子(I)を25.0容量部及びカーボンブラックを1.0容量部の割合で予めリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定した2軸押出機((株)神戸製鋼所製KTX−46)を用い、押出速度160kg/hrにて溶融混練して、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0066】
(実施例2〜5)
各成分を表1に示す組成(表中の組成は容量部を示す)となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0067】
(比較例1〜6および8)
各成分を表1に示す組成(表中の組成は容量部を示す)となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0068】
(比較例7)
各成分を表1に示す組成(表中の組成は容量部を示す)となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを製造しようとしたが、ストランド乱れが生じて安定してペレットを得ることができなかった。
【0069】
<生産性の評価>
実施例及び比較例の液晶ポリエステル樹脂組成物の生産性について、上記のペレット製造条件でストランドが安定に引けてペレットが得られた場合を「○」とし、ストランド乱れが生じて安定してペレット化ができなかった場合を「×」として、評価した。
【0070】
<射出成形法による試験片の作製>
上記の実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いて、シリンダー最高温度350℃、射出速度100mm/秒、金型温度80℃で射出成形して、ASTM曲げ試験片(短冊試験片)を作製した。また、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH−1000)を使用し、シリンダー最高温度350℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃で射出成形し、幅13mm×長さ80mm×厚さ1mmの中央部にウェルドのあるウェルド部強度測定用の試験片を作成した。
【0071】
<フィブリル化抑制の評価>
上記で得られた短冊試験片に対して、30℃の水中で4時間、IUCHI社製の超音波洗浄機「VS−150」にて超音波洗浄を行った。洗浄後の試験片をキーエンス社製のデジタルマイクロスコープVHX−1000にて300倍、500倍に拡大した画像により観察し、表面に析出するフィブリルの有無を調べた。上記の条件でフィブリルが発生しなかった場合を「○」とし、フィブリルが発生した場合を「×」として、評価した。
【0072】
<曲げ強度の測定>
上記で作製した短冊試験片を用い、ASTM D790に従い、曲げ強度を測定した。
【0073】
<曲げ弾性率の測定>
上記で作製した短冊試験片を用い、ASTM D790に従い、曲げ弾性率の測定を行った。
【0074】
<ウェルド強度の測定>
上記で作製したウェルド部強度測定用試験片を用い、ASTM D790に従い、ウェルド部の曲げ強度を測定し、これをウェルド強度とした。
【0075】
<荷重たわみ温度(DTUL)の測定>
上記で作製した短冊試験片を用い、ASTM D648に従い、荷重たわみ温度(DTUL)の測定を行った。
【0076】
<黒さの評価>
上記で作製した短冊試験片を用い、分光光度計(日立製作所(株)製、U−3500)にて、JIS Z8729に従い、L、a、b値を測定し、標準白色との差であるΔEを算出した。
【0077】
<溶融粘度の測定>
キャピラリーレオメーター(インテスコ(株)製、2010)を用い、キャピラリーとして径1.0mm、長さ40mm、流入角90°のものを使用し、せん断速度100sec−1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見かけ粘度を測定し、370℃における見かけ粘度を求め、これを溶融粘度とした。なお、測定に際し、液晶ポリエステルおよび樹脂組成物は予め真空乾燥機にて150℃で4時間乾燥した。
【0078】
【表1】



【0079】
【表2】



【0080】
表2に示したように、粒子径1μm以下の硫酸バリウムを含み、本発明に係る条件を満たす実施例1〜5の液晶ポリエステル樹脂組成物は、生産性良好であり、フィブリル化しにくい成形品を得ることができた。また、実施例1〜5の樹脂組成物は溶融粘度が低く、これにより良好な成形性を示し、成形品の曲げ強度や弾性率、ウェルド強度も高いという良好な結果が得られた。また、実施例1〜5の樹脂組成物の成形品は、荷重たわみ温度(DTUL)が260℃以上で耐熱性も良好であった。
【0081】
さらに、粒子径1μm以下の硫酸バリウムを含む本発明に係る液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、カーボンブラックの含有量が同じでもシリカやタルクを含む組成物に比べて成形品の黒さをより濃くすることができ、シリカやタルクを用いる組成物よりも少ないカーボンブラック量でカメラモジュール部品に要求される黒さを実現できる。
【0082】
一方、粒子径が1μmを超える硫酸バリウムを用いた比較例1の組成物では成形品にフィブリルが発生した。また、シリカを配合した比較例2〜4の組成物も、成形品にフィブリルが発生し、曲げ強度や曲げ弾性率が低くなった。更に、比較例2〜4の組成物は、実施例1〜5の組成物に比べて溶融粘度が高く、薄肉成形性が劣るといえる。タルク及びガラス繊維を用いた比較例5の組成物から得られる成形品は、ウェルド強度などは良好だが、フィブリルが発生した。硫酸バリウムの含有量が本発明に係る下限値を下回る比較例6の組成物から得られる成形品はフィブリルが発生してしまい、曲げ強度なども低かった。硫酸バリウムの含有量が本発明に係る上限値を上回る比較例7の組成物は、ストランド乱れが生じて安定してペレットを得ることができなかった。また、カーボンブラックの含有量が本発明に係る上限値を上回る比較例8の組成物は溶融粘度が高くなり、この組成物から得られる成形品は表面性状が悪いためフィブリルが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、フィブリル化しにくい成形体を得ることができる。また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる本発明のカメラモジュール部品は、厳しい条件で超音波洗浄しても成形品表面のフィブリル化を十分に抑制できるものであり、しかも成形性に優れ、強度、耐熱性が高く、ハンダリフローに耐えることができるので、携帯電話、ラップトップコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等における、表面実装加工が可能なレンズバレル部、マウントホルダー部、更には、CMOS(イメージセンサー)の枠、シャッター及び、シャッターボビン部、ボイスコイルモーター式やピエゾモーター式等の自動焦点調整部材などの各種カメラモジュール部品用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル(A)100容量部に対して、粒子径1μm以下の硫酸バリウム(B)を5〜40容量部及びカーボンブラック(C)を0.01〜10.0容量部含有する、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる、カメラモジュール部品。

【公開番号】特開2012−87171(P2012−87171A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232719(P2010−232719)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】