説明

液晶ポリエステル組成物の製造方法

【課題】液晶ポリエステルと板状充填材とを含み、高温下でブリスターが発生し難い組成物を製造する。
【解決手段】シリンダーと前記シリンダー内に配置されたスクリュウとを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダーに液晶ポリエステルと板状充填材とを供給し、溶融混練して押し出すことにより、組成物を製造する。シリンダーの長さL(mm)/シリンダーの内径D(mm)は、50以上とし、スクリュウの径は、50mm以下とし、スクリュウの回転数R(rpm)/押出機から押し出される組成物の量P(kg/h)は、4以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと板状充填材とを含む組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、溶融流動性に優れ、耐熱性も高いことから、薄肉部を有する電気・電子部品を製造するための成形材料として好ましく用いられているが、成形時の流動方向とその垂直方向とで成形収縮率や成形体の機械的性質に異方性が生じ易いため、成形体に反りが生じ易かったり、成形体のウエルド強度が低下し易かったりするという問題がある。このような問題を解消するため、液晶ポリエステルに板状充填材を配合してなる組成物を成形材料として用いることが検討されており(例えば特許文献1〜5)、この組成物を製造する方法として、スクリュウが内部に配置されたシリンダを有する押出機を用い、スクリュウを回転させながら、シリンダーに液晶ポリエステルと板状充填材とを供給し、溶融混練して押し出す方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−202558号公報
【特許文献2】特開平10−219085号公報
【特許文献3】特開2003−109700号公報
【特許文献4】特開2003−246923号公報
【特許文献5】特開2009−108179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の方法で得られる液晶ポリエステルと板状充填材とを含む組成物は、高温下でブリスターが発生し易いという問題がある。そこで、本発明の目的は、液晶ポリエステルと板状充填材とを含み、高温下でブリスターが発生し難い組成物を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、シリンダーと前記シリンダー内に配置されたスクリュウとを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダーに液晶ポリエステルと板状充填材とを供給し、溶融混練して押し出すことにより、組成物を製造する方法であって、下記要件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする組成物の製造方法。
(1):前記シリンダーの長さをL(mm)とし、前記シリンダーの内径をD(mm)としたとき、L/Dが50以上であること。
(2):前記スクリュウの径が50mm以下であること。
(3):前記スクリュウの回転数をR(rpm)とし、前記押出機から押し出される前記組成物の量をP(kg/h)としたとき、R/Pが4以上であること。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液晶ポリエステルと板状充填材とを含み、高温下でブリスターが発生し難い組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】シリンダーの内径Dを説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0009】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのそれぞれの一部又は全部に代えて、その重縮合可能な誘導体を用いてもよい。
【0010】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるものが挙げられる。
【0011】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有するものであることが好ましく、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有するものであることがより好ましい。
【0012】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0013】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0015】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0016】
ここで、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は通常6〜20である。アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0017】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Ar1としては、p−フェニレン基(p−ヒドロキシ安息香酸に由来)及び2,6−ナフチレン基(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Ar2としては、p−フェニレン基(テレフタル酸に由来)、m−フェニレン基(イソフタル酸に由来)及び2,6−ナフチレン基(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位であり、Ar3としては、p−フェニレン基(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来)及び4,4’−ビフェニリレン基(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは30〜80モル%であり、さらに好ましくは40〜70モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にあり、液晶ポリエステルひいては組成物の溶融流動性が向上する傾向にあるが、あまり多いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり易く、組成物の成形に高温を要し易くなる。
【0021】
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下であり、より好ましくは10〜35モル%であり、さらに好ましくは15〜30モル%である。
【0022】
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下であり、より好ましくは10〜35モル%であり、さらに好ましくは15〜30モル%である。
【0023】
繰返し単位(2)と繰返し単位(3)との含有割合は、[繰返し単位(2)]/[繰返し単位(3)](モル/モル)で表して、0.9/1〜1/0.9であることが、液晶ポリエステルの分子量が高くなり易く、液晶ポリエステルひいては組成物の耐熱性や強度が向上し易いので、好ましい。
【0024】
繰返し単位(3)は、X及びYがそれぞれ酸素原子であること、すなわち、芳香族ジオールに由来する繰返し単位であることが、液晶ポリエステルひいては組成物の溶融粘度が低くなり易いので、好ましい。
【0025】
液晶ポリエステルは、原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。前記溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0026】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは360℃以上、より好ましくは370℃以上であり、また、通常410℃以下、好ましくは400℃以下である。液晶ポリエステルの流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステルひいては組成物の耐熱性や強度が向上する傾向にあるが、あまり高いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり易く、組成物の成形に高温を要し易くなる。
【0027】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0028】
液晶ポリエステルに配合される板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、モンモリロナイト、スメクタイト、黒鉛、窒化ホウ素及び二硫化モリブデンが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、マイカを用いる場合に本発明の方法は好適である。
【0029】
マイカの例としては、金雲母、白雲母、セリサイト、フッ素金雲母、K四珪素雲母、Na四珪素雲母、Naテニオライト及びLiテニオライトが挙げられ、電気絶縁性や耐熱性の点から、金雲母や白雲母が好ましい。マイカを製造する際の粉砕法は、湿式粉砕法であってもよいし、乾式粉砕法であってもよいが、粒度分布が小さくなり易いことから、湿式粉砕法が好ましい。
【0030】
板状充填材の体積平均粒径は、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは15〜40μmである。板状充填材の体積平均粒径があまり小さいと、組成物が射出成形時にノズルから垂れ易くなり、成形し難くなり、あまり大きいと、組成物の溶融流動性が低下し易くなり、組成物を薄肉部を有する成形体に成形し難くなる。板状充填材の体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0031】
板状充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常10〜50質量部であり、好ましくは15〜45質量部である。板状充填材の配合量があまり少ないと、組成物の剛性が低下し易くなり、あまり多いと、組成物の溶融流動性が低下し易くなり、組成物を薄肉部を有する成形体に成形し難くなる。
【0032】
液晶ポリエステルには、必要に応じて板状充填材以外の充填材を配合してもよい。例えば、組成物の強度向上のために、繊維状充填材を配合してもよいし、組成物の軽量化のために、中空状充填材を配合してもよい。
【0033】
繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維等の繊維状無機充填材が好ましく用いられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びチタン酸カリウムウィスカが好ましい。
【0034】
繊維状充填材の数平均繊維径は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがより好ましい。繊維状充填剤の数平均繊維径があまり小さいと、組成物の強度が向上し難く、あまり大きいと、組成物の溶融流動性が低下し易くなる。また、繊維状充填材の数平均繊維長は、1〜300μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。繊維状充填材の数平均繊維長があまり小さいと、組成物の強度が向上し難く、あまり大きいと、組成物の溶融流動性が低下し易くなる。
【0035】
中空状充填材としては、例えば、シラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン及びフラーレンが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、破損し難いことから、ガラスバルーンが好ましい。
【0036】
中空状充填材の体積平均粒径は、好ましくは1〜200μmであり、より好ましくは5〜100μmであり、さらに好ましくは10〜50μmであり、特に好ましくは10〜30μmである。中空状充填材の体積平均粒径があまり大きいと、中空状充填材の強度が低下し易くなり、中空状充填材が破損し易くなり、あまり小さいと、中空状充填材の表面積が大きくなるため、中空状充填材が吸湿し易くなり、組成物の製造時(造粒時)に液晶ポリエステル加水分解され易くなる恐れがある、中空状充填材の強度は、好ましくは1000kg/cm2以上であり、より好ましくは1000〜1800kg/cm2であり、さらに好ましくは1200〜1800kg/cm2である。
【0037】
また、液晶ポリエステルには、必要に応じて、液晶ポリエステル以外の樹脂、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルやその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を配合してもよいが、その量は液晶ポリエステル100質量部に対して、通常20質量部までである。
【0038】
また、液晶ポリエステルには、必要に応じて、添加剤、例えば、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等;高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を配合してもよい。
【0039】
本発明では、前記の如き液晶ポリエステルと板状充填材とを含む組成物の製造を、シリンダーとその中に配置されたスクリュウとを有する押出機を用い、スクリュウを回転させながら、シリンダーに液晶ポリエステルと板状充填材とを供給し、溶融混練して押し出すことにより行う。そして、その際、下記要件(1)〜(3)を満たすことにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を製造することができる。
(1):シリンダーの長さをL(mm)とし、シリンダーの内径をD(mm)としたとき、L/Dが50以上であること。
(2):スクリュウの径が50mm以下であること。
(3):スクリュウの回転数をR(rpm)とし、押出機から押し出される組成物の量をP(kg/h)としたとき、R/Pが4以上であること。
【0040】
押出機は、スクリュウを1本有する短軸押出機であってもよいし、スクリュウを2本有する二軸押出機であってもよいが、二軸押出機が好ましい。二軸押出機では同方向回転の1条ネジのものから3条ネジのものまで使用可能であり、異方向回転の平行軸型、斜軸型又は不完全噛み合い型のものであってもよい。
【0041】
シリンダーの内径D(mm)に対する長さL(mm)の割合L/Dは、前記要件(1)に示すとおり、50以上であり、好ましくは60以上であり、また、スクリュウの径は、前記要件(1)に示すとおり、50mm以下であり、好ましくは45mm以下であり、これにより、液晶ポリエステルと板状充填材との溶融混練を十分に行うことができ、ブリスターが発生し難い組成物を得ることができる。ここで、シリンダーの内径Dは、シリンダーのスクリュウ軸に垂直な断面における空隙部分の周上の任意の2点を結ぶ直線の最大長さであり、例えば、短軸押出機で、前記空隙部分の形状が円であれば、図1(A)に示すように、その円の直径であり、また、二軸押出機で、前記空隙部分の形状が2つの円が部分的に重なってなる蝶形であれば、図1(B)に示すように、その蝶形の最大径である。また、スクリュウは、シリンダー内壁との隙間が0.5〜1.5mmになるような径を有するものであることが好ましい。
【0042】
また、溶融混練の強さは、スクリュウの回転数R(rpm)と押出機から押し出される組成物の量(吐出量)P(kg/h)との関係で表すことができ、R/Pは、前記要件(3)に示すとおり、4以上であり、好ましくは5以上である。
【0043】
スクリューデザインを決定するスクリューエレメントは、通常、順フライトからなる搬送用エレメントと、可塑化部用エレメントと、混練部用エレメントとからなる。二軸押出機の場合、可塑化部や混練部には、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントが組み合わされて構成されるのが一般的である。
【0044】
シリンダーには、ベント部が設けられていることが好ましく、これにより、ベント部から脱気が十分に行われ、揮発成分が組成物に残存し難くなるので、高温下でのブリスターの発生がより抑制された組成物を得ることができる。また、脱気を促進するため、ベント部を減圧にすることがこのましく、ベント部の減圧度は、ゲージ圧で表して、好ましくは−0.06MPa以下であり、より好ましくは−0.08MPa以下である。
【0045】
ベント部の開口長さは、スクリュウー径の0.5〜5倍であることが好ましい。ベント部の開口長さがあまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0046】
ベント部の開口幅は、スクリュウー径の0.5〜1.5倍であることが好ましい。ベント部の開口幅があまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0047】
ベント部の減圧は、通常、ポンプを用いて行われ、その例としては、水封式ポンプ、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ及びターボポンプが挙げられる。
【0048】
ベント部の上流側には、溶融した組成物が完全に充填されるシール部を設けることが好ましい。シール部を構成するスクリュー形状は、二軸押出機の場合、逆フライトの他、シールリング、逆ニーディング等、幾何学的にスクリュー回転に対して昇圧能力を有するものが好適に用いられる。また、必要に応じてニーディングディスク等のエレメントが組み合わされて構成されていてもよい。
【0049】
ベント部のスクリューエレメントの構造としては、ベント部におけるベントアップを防止する為に、順フライト、順ニーディングディスク等のバレル内圧が低くなるような構造にすることが好ましい。また、順フライト部のピッチは大きい方が、バレル内圧が低くなるため、好ましい。これらのベント部分の前方には同様の理由で搬送能力の高いスクリュー構造にすることが好ましい。
【0050】
フィード口への各成分の供給は、通常、定質量又は定容量供給装置を介して行われる。定量供給装置の供給方式としては、例えば、ベルト式、スクリュー式、振動式及びテーブル式が挙げられる。
【0051】
各成分の供給位置は、適宜選択されるが、繊維状充填材を用いる場合、溶融混練を均一に行うためには、液晶ポリエステルと板状充填材とを上流側フィード口から供給し、繊維状充填材を下流側フィード口から供給することが好ましい。
【0052】
ベント部は、下流側フィード口の下流側に設けることが、高温下でのブリスターの発生がより抑制された組成物を得ることができて、好ましい。そして、下流側フィード口の上流側及び下流側に各々ベント部を設けることが、高温下でのブリスターの発生がさらに抑制された組成物を得ることができて、より好ましい。上流側フィード口付近や下流側フィード口の上流側にベント部を設けると、その付近では液晶ポリエステルの溶融が不十分になることがあり、脱気の効果が十分に得られないことがある。
【0053】
こうして得られる組成物を溶融成形することにより、高温下でブリスターが発生し難い成形体を得ることができる。成形方法としては射出成形法が好ましく、射出成形は組成物に含まれる液晶ポリエステルの流動開始温度より10〜80℃高い温度で行うことが好ましい。成形温度がこの範囲にあれば、組成物が優れた溶融流動性を発現し、薄肉部を有する成形体や複雑な形状を有する成形体に成形できる。例えば、光ピックアップレンズホルダーは、軽量化や低コスト化の要求が強くなっており、その形状は益々薄肉化が進んでいく傾向にある。本発明により得られる組成物は、厚み0.1〜1.5mmの薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーへの成形も容易であり、さらに流動長が比較的短い場合には、厚み0.05〜0.15mmの薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーにも、良好な寸法精度で成形することが可能となる。
【実施例】
【0054】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸830.7g(5.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル465.5g(2.5モル)、テレフタル酸394.6g(2.375モル)、イソフタル酸20.8g(0.125モル)及び無水酢酸1153g(11.0モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して180分間還流させた。その後、副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで5時間かけて昇温し、320℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して液晶ポリエステルAを得た。この液晶ポリエステルAの流動開始温度は385℃であった。
【0055】
製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸996.8g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル372.4g(2.0モル)、テレフタル酸298.9g(1.8モル)、イソフタル酸33.3g(0.20モル)及び無水酢酸1153g(11.0モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して180分間還流させた。その後、副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで5時間かけて昇温し、320℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して液晶ポリエステルBを得た。この液晶ポリエステルBの流動開始温度は362℃であった。
【0056】
実施例1〜6、比較例1〜3
製造例1で得られた液晶ポリエステルA、マイカ((株)山口雲母工業所の「AB−25S」(体積平均粒径21μm))及びガラスバルーン(住友スリーエム(株)の「グラスバブルズS60HS」(体積平均粒径27μm))を表1に示す割合で混合した後、ベント部が設けられたシリンダーを有する二軸押出機を用いて、水封式ポンプによりベント部の減圧度をゲージ圧力で−0.08MPaに保ちながら、表1に示す条件下に溶融混練して押し出し、ペレット状の組成物を得た。この組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の「PS40E1ASE」)を用いて、シリンダー温度400℃、金型温度130℃、射出速度80%で成形し、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)を得た。この試験片20本を、240℃に加熱したハンダ浴に60秒間浸漬し、取出後、試験片表面のブリスターの有無を観察し、ブリスター有の本数を全本数(20本)で割った値(%)をブリスター発生率とし、表1に示した。
【0057】
実施例7〜8、比較例4〜5
製造例2で得られた液晶ポリエステルB、マイカ((株)山口雲母工業所の「AB−25S」(体積平均粒径21μm))及びガラスバルーン(住友スリーエム(株)の「グラスバブルズS60HS」(体積平均粒径27μm))を表1に示す割合で混合した後、ベント部が設けられたシリンダーを有する二軸押出機を用いて、水封式ポンプによりベント部の減圧度をゲージ圧力で−0.08MPaに保ちながら、表1に示す条件下に溶融混練して押し出し、ペレット状の組成物を得た。この組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の「PS40E1ASE」)を用いて、シリンダー温度380℃、金型温度130℃、射出速度80%で成形し、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)を得た。この試験片20本を、240℃に加熱したハンダ浴に60秒間浸漬し、取出後、試験片表面のブリスターの有無を観察し、ブリスター有の本数を全本数(20本)で割った値(%)をブリスター発生率とし、表1に示した。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーと前記シリンダー内に配置されたスクリュウとを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダーに液晶ポリエステルと板状充填材とを供給し、溶融混練して押し出すことにより、組成物を製造する方法であって、下記要件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする組成物の製造方法。
(1):前記シリンダーの長さをL(mm)とし、前記シリンダーの内径をD(mm)としたとき、L/Dが50以上であること。
(2):前記スクリュウの径が50mm以下であること。
(3):前記スクリュウの回転数をR(rpm)とし、前記押出機から押し出される前記組成物の量をP(kg/h)としたとき、R/Pが4以上であること。
【請求項2】
前記押出機が前記スクリュウを2本有する二軸押出機である請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記シリンダーがベント部を有し、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で−0.06MPa以下の状態で、溶融混練を行う請求項1又は2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルの流動開始温度が360℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
前記板状充填材がマイカである請求項1〜4のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
前記板状充填材の体積平均粒径が5〜50μmである請求項1〜5のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
前記板状充填材の供給量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜50質量部である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72370(P2012−72370A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183398(P2011−183398)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】