説明

液晶ポリエステル組成物

【課題】液晶ポリエステルとマイカとを含み、高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルに、マイカと、下記流動開始温度が330℃以下のフルオロカーボン重合体とを配合して、液晶ポリエステル組成物とする。液晶ポリエステル組成物中、マイカの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、15〜100質量部であるであるのがよく、フルオロカーボン重合体の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0.2〜10質量部であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルとマイカとを含む液晶ポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、溶融流動性に優れ、耐熱性や強度・剛性も高いことから、電気・電子部品を製造するための射出成形材料として好適に用いられているが、成形時に分子鎖が流動方向に配向し易いため、成形体に収縮・膨張率や機械物性の異方性が生じ易いという問題がある。このような問題を解消すべく、液晶ポリエステルにマイカを配合することが種々検討されている(例えば特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−167252号公報
【特許文献2】特開平04−202558号公報
【特許文献3】特開平04−213354号公報
【特許文献4】特開2003−321598号公報
【特許文献5】特開2006−037061号公報
【特許文献6】特開2006−274068号公報
【特許文献7】特開2009−108179号公報
【特許文献8】特開2009−108180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の液晶ポリエステルとマイカとを含む液晶ポリエステル組成物は、異方性が低減された成形体を与えるものの、成形性を高めるべく、高温で成形すると、得られる成形体をハンダ付け等で高温下に曝したとき、成形体にブリスター(表面の膨れ)が発生し易いという問題がある。そこで、本発明の目的は、液晶ポリエステルとマイカとを含み、高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、液晶ポリエステルと、マイカと、下記流動開始温度が330℃以下のフルオロカーボン重合体とを含む液晶ポリエステル組成物を提供する。
【0006】
流動開始温度:毛細管レオメーターを用いて、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、フルオロカーボン重合体を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・sの粘度を示す温度。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、これを高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与える。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0009】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0010】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0011】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0012】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0013】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0015】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0017】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0018】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましく、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)がより好ましい。
【0020】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0022】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0023】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0024】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0025】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0026】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常270℃以上、好ましくは270〜400℃、より好ましくは280〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0027】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0028】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、流動開始温度が330℃以下のフルオロカーボン重合体とを含む。このように、液晶ポリエステルに、マイカに加えて、所定値以下の流動開始温度を有する低分子量のフルオロカーボン重合体を配合することにより、高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与える液晶ポリエステル組成物を得ることができる。液晶ポリエステルとマイカとを含む液晶ポリエステル組成物を高温で成形すると、マイカにより液晶ポリエステルの分解が促進されて、ガスが発生し易くなり、このガスが成形体に取り込まれ、抜けずに残存すると、その後、成形体を高温下に曝したときに、ガスの膨張により成形体の表面が押し上げられ、成形体にブリスターが発生し易くなるが、液晶ポリエステル組成物に前記所定のフルオロカーボン重合体を含ませることにより、これが溶融混練時の流動性に優れ、液晶ポリエステルへの分散性に優れるので、成形体表面のガスバリア性の高いスキン層を乱し、その結果、成形体にガスが残存し難くなり、ひいては、成形体を高温下に曝しても、ブリスターが発生し難くなる。
【0029】
なお、フルオロカーボン重合体の流動開始温度は、液晶ポリエステルの流動開始温度同様、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、フルオロカーボン重合体を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、フルオロカーボン重合体の分子量の目安となるものである。
【0030】
マイカの例としては、金雲母、白雲母、セリサイト、フッ素金雲母、K四珪素雲母、Na四珪素雲母、Naテニオライト及びLiテニオライトが挙げられる。中でも、電気絶縁性や耐熱性に優れることから、金雲母及び白雲母が好ましい。また、マイカは、その製造に、湿式粉砕法で粉砕されたものであってもよいし。乾式粉砕法で粉砕されたものであってもよいが、粒度分布が狭くなり、粒径が均一になり易いことから、湿式粉砕法で粉砕されたものであることが好ましい。
【0031】
マイカの体積平均粒径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μmである。マイカの平均粒径があまり小さいと、液晶ポリエステル組成物が成形時にノズルから垂れ易くなり、成形し難くなり、あまり大きいと、成形体の異方性が低減され難くなり、成形体が反り易くなる。マイカの体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0032】
液晶ポリエステル組成物中のマイカの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは15〜100質量部、より好ましくは20〜50質量部である。マイカの含有量があまり少ないと、成形体の異方性が低減され難くなり、成形体が反り易くなり、あまり多いと、成形時の流動性が低下し易く、成形し難くなる。
【0033】
フルオロカーボン重合体は、フルオロカーボンの単独重合体又は共重合体であり、両者の混合物であってもよい。ポリフルオロカーボンの例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリトリクロロフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が挙げられる。中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、末端がフッ素化されたポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。
【0034】
フルオロカーボン重合体の流動開始温度は、前記のとおり、330℃以下であり、これより高いと、成形体の高温下でのブリスター発生低減効果が奏され難くなる。また、フルオロカーボン重合体の流動開始温度は、好ましくは225℃以上、より好ましくは265℃以上であり、あまり低いと、液晶ポリエステル組成物の強度が低下し易くなる。
【0035】
液晶ポリエステル中のフルオロカーボン重合体の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.2〜10重量部、より好ましくは0.2〜5質量部である。フルオロカーボン重合体の含有量があまり少ないと、その効果が奏され難くなり、あまり多いと、液晶ポリエステル組成物の成形性や強度が低下し易くなる。
【0036】
液晶ポリエステル組成物は、マイカ以外の充填材、添加剤、液晶ポリエステル及びフルオロカーボン重合体以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0037】
充填材は、繊維状充填材であってもよいし、マイカ以外の板状充填材であってもよいし、繊維状及び板状以外で、球状その他の粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。マイカ以外の板状無機充填材の例としては、タルク、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカ以外の充填材の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜100質量部である。
【0038】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。添加剤の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜5質量部である。
【0039】
液晶ポリエステル及びフルオロカーボン重合体以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル及びフルオロカーボン重合体以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル及びフルオロカーボン重合体以外の樹脂の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜20質量部である。
【0040】
液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、マイカ、フルオロカーボン重合体及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。ベント部の減圧度は、ゲージ圧で−0.06MPa以下とすることが好ましい。
【0041】
こうして得られる本発明の液晶ポリエステル組成物は、高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与える。液晶ポリエステル組成物の成形法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられる。中でも射出成形法が好ましい。
【0042】
こうして得られる成形体である製品・部品の例としては、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;RIMM、DDR、CPUソケット、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター等のコネクター;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ランプホルダー、ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;及び半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材が挙げられる。
【0043】
特に、本発明の液晶ポリエステル組成物は、薄肉部を有する成形体や複雑な形状を有する成形体に高温で成形しても、高温下でブリスターが発生し難い成形体を与えるので、ハンダ付け等で高温下に曝されうるCPUソケット等のコネクターの材料として好適に用いられ、また、高温での成形が必要とされうる厚さ0.1mm以下の薄肉部を有する成形体の材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0044】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0045】
〔フルオロカーボン重合体の流動開始温度の測定〕
液晶ポリエステルと同様に測定した。すなわち、フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、フルオロカーボン重合体約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、フルオロカーボン重合体を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0046】
実施例1〜4、比較例1〜3
〔液晶ポリエステル(1)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)の流動開始温度は、327℃であった。
【0047】
〔液晶ポリエステル(2)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで30分かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)の流動開始温度は、286℃であった。
【0048】
〔マイカ〕
マイカとして、(株)ヤマグチマイカの「AB25S」(体積平均粒径21μm)を用いた。体積平均粒径はレーザー回折法により測定した値である。
【0049】
〔フルオロカーボン重合体〕
フルオロカーボン重合体として、次のものを用いた。
フルオロカーボン重合体(1):セントラル硝子(株)の「セフラルルーブI」(流動開始温度328℃)。
フルオロカーボン重合体(2):ダイキン工業(株)の「ルブロンL5」(流動開始温度349℃)。
【0050】
〔液晶ポリエステル組成物の調製〕
液晶ポリエステル100質量部と、表1に示す量のマイカと、表1に示す種類及び量のフルオロカーボン重合体とを混合した後、二軸押出機(池貝鉄工(株)の「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。
【0051】
〔ハンダ耐熱性の評価〕
液晶ポリエステル組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の「PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃又は370℃、金型温度130℃、射出速度75mm/秒で、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)に成形した。この試験片10本を、280℃に加熱したハンダ浴に60秒浸漬し、取出後、試験片表面のブリスターの有無を観察した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと、マイカと、下記流動開始温度が330℃以下のフルオロカーボン重合体とを含む液晶ポリエステル組成物。
流動開始温度:毛細管レオメーターを用いて、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、フルオロカーボン重合体を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・sの粘度を示す温度。
【請求項2】
前記マイカの体積平均粒径が、1〜100μmである請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記マイカの含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、15〜100質量部である請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記フルオロカーボン重合体が、末端がフッ素化されたポリテトラフルオロエチレンである請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記フルオロカーボン重合体の含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、0.2〜10質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
コネクターである請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
厚さ0.1mm以下の薄肉部を有する請求項6又は7に記載の成形体。

【公開番号】特開2012−116907(P2012−116907A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266234(P2010−266234)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】