説明

液晶ポリエステル繊維、その製造方法及びその用途

【課題】高強度の液晶ポリエステル繊維を、より低温条件の加熱処理で製造できる製造方法を提供する。また、該製造方法で製造された液晶ポリエステル繊維及びその好適な用途を提供する。
【解決手段】示差走査熱量測定(DSC)測定により、ガラス転移温度及び融点が観測され、流動開始温度が250℃以上である液晶ポリエステルからなる繊維を230℃以下で加熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。本発明により得られる液晶ポリエステル繊維は、10(cN/dtex)以上の高強度を有し、不織布等、各種工業材料に好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル繊維、液晶ポリエステル繊維の製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル繊維は、高強度・高弾性率繊維として注目され、これまで数多くの検討が進められている。液晶ポリエステルは溶融状態で異方性を示すという特性を有することから、当該液晶ポリエステルを溶融紡糸する際に、紡糸口金ノズルからの押し出し条件を適正化すれば、延伸を必要とせず、比較的高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。そして、さらに高強度の液晶ポリエステル繊維を得るために、溶融紡糸した液晶ポリエステル繊維をさらに加熱処理することが通常行われている。
前記加熱処理により、液晶ポリエステルは繊維状態を維持したまま、高重合度化が生じて結晶化が進行し、結果として高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。しかしながら、このような液晶ポリエステル繊維製造で実施されていた加熱処理は、比較的高温条件を必要とするものであり、このような高温条件での加熱処理では、得られる液晶ポリエステル繊維の単糸同士の膠着が生じて単糸分繊性に劣るといった問題点が指摘されていた(例えば、特許文献1参照)。また、このように高温条件を必要とする加熱処理は生産性の面でも難点を有し、しかも液晶ポリエステル繊維の種類によっては、かなりの長時間を要する加熱処理が必要とされていた。
このような問題を改善するべく、これまで様々な製造方法が提案されている。例えば、特許文献2には、液晶ポリマーからなる繊維(液晶ポリマー繊維)を、1g/d以上の緊張状態で熱処理する製造方法が提案されている。また、特許文献3には、液晶ポリエステル繊維をループ状に堆積させた後、得られた繊維堆積物を、熱処理炉中を通過させて加熱処理するという製造方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特表昭58−502227号公報(第2頁右上欄,8〜12行目)
【特許文献2】特開平3−260114号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平5−222611号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3で開示されている液晶ポリエステル繊維の製造方法においても、285℃程度の加熱処理が実施されており、その温度条件には改善の余地があった。このような液晶ポリエステル繊維製造は、単糸同士の膠着等を十分に抑制し得るものではなく、生産性を良好にする点でも、より低温条件で高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる製造方法が求められていた。
そこで本発明の目的は、従来の液晶ポリエステル繊維の製造方法よりも、より低温条件での加熱処理で、高強度の液晶ポリエステル繊維の製造を可能とする液晶ポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。また、該製造方法により得られる高強度の液晶ポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記<1>を提供するものである。
<1>下記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルから繊維を得る工程と、
前記繊維を230℃以下の温度で加熱処理する工程と、
を有することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法
(a)示差走査熱量測定により、ガラス転移温度及び融点が観測されること
(b)流動開始温度が250℃以上であること

本発明者等は、前記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルからなる繊維を用いることで、230℃以下という低温条件であっても、高強度の液晶ポリエステル繊維が製造できることを見出すに至った。なお、前者の工程を「紡糸工程」、後者の工程を「加熱処理工程」と、以下の説明ではいうことがある。
【0007】
さらに、本発明は前記<1>に係る好適な実施形態として、下記の<2>〜<5>を提供する。
<2>前記液晶ポリエステルが、フタル酸に由来するモノマー単位及び/又はイソフタル酸に由来するモノマー単位を有し、これらのモノマー単位の合計が、全モノマー単位の合計に対して20mоl%以上の液晶ポリエステルである、<1>の液晶ポリエステル繊維の製造方法;
<3>前記液晶ポリエステルが、示差走査熱量測定により求められるガラス転移温度が150℃以下の液晶ポリエステルである、<1>又は<2>の液晶ポリエステル繊維の製造方法;
<4>前記液晶ポリエステルが、示差走査熱量測定により求められる融点が250℃以上の液晶ポリエステルである、<1>〜<3>のいずれかの液晶ポリエステル繊維の製造方法;
<5>前記加熱処理が、加熱処理前の繊維の強度をTX(cN/dtex)、加熱処理後の液晶ポリエステル繊維の強度をTY(cN/dtex)としたとき、TY/TX≧2の関係を満たす加熱処理である、<1>〜<4>のいずれかの液晶ポリエステル繊維の製造方法;
【0008】
また、本発明は前記いずれかの製造方法により得られる液晶ポリエステル繊維として、以下の<6>〜<7>を提供する。さらに本発明は、該液晶ポリエステル繊維の好適な用途として、以下の<8>を提供する。
<6><1>〜<5>のいずれかの液晶ポリエステル繊維の製造方法により得られる液晶ポリエステル繊維;
<7>23℃での引張強度が10(cN/dtex)以上である、<6>の液晶ポリエステル繊維;
<8><6>又は<7>の液晶ポリエステル繊維からなる不織布;
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、従来提案されている製造方法よりも、低温条件の加熱処理によって、高強度の液晶ポリエステル繊維を製造することが可能である。そして、このような低温条件の加熱処理によれば、単糸分繊性に優れた液晶ポリエステル繊維を製造することができる。本発明によって得られる高強度の液晶ポリエステル繊維は各種工業用途に適用可能であり、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施態様を、必要に応じて図面を参照しながら説明する。
【0011】
<液晶ポリエステル>
まず、本発明に適用する液晶ポリエステルについて説明する。
液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下の温度で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。
本発明に適用する液晶ポリエステルは、芳香族ポリエステル、芳香族−脂肪族ポリエステル等の、芳香族基同士又は芳香族基と脂肪族基とが、エステル基(-COO-又は-OCO-)を結合基として連結されている。また、この液晶ポリエステルにおいて、その結合基の一部にアミド基(-CONH-又は-NHCO-)を有する芳香族ポリ(エステル−アミド)や、結合基の一部に炭酸エステル基(-OCOO-)を有する芳香族ポリエステル−カーボネートも本発明の液晶ポリエステルとして使用可能である。
また、前記の(a)及び(b)の要件を満たすためには、エステル基を含む結合基で連結される残基は、芳香族基であると好ましく、液晶ポリエステルを構成する残基の合計に対して、50mol%以上が芳香族基であるとより好ましく、80mol%以上が芳香族基であるとさらに好ましく、実質的に全ての残基が芳香族基である全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリ(エステル−アミド)又は全芳香族ポリエステル−カーボネートが特に好ましい。なお、該芳香族基は単環芳香族基が好ましく、このような好適な液晶ポリエステルの詳細については後述する。
【0012】
次に、前記の(a)及び(b)の要件について説明する。
前記(a)は、示差走査熱量測定(以下、場合により「DSC測定」という)によってガラス転移温度及び融点が観測されることを表す。前記(a)におけるDSC測定とは、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で、室温(約23℃)から400℃までの熱量測定を行うことを指す。そして、このようにして測定されたDSCチャートの熱量プロファイルにおいて、ガラス転移温度(以下、場合により「Tg」という)に基づく吸熱パターン(以下、場合により「Tgパターン」という)と、融点(以下、場合により「Tm」という)に基づく吸熱ピーク(以下、場合により「Tmピーク」という)が観測される液晶ポリエステルを、前記(a)の要件を満たす液晶ポリエステルとする。
ここで、Tgパターン及びTmピークを、図1を用いて説明する。図1は、x軸が温度(右側に行くほど高温)を、y軸が吸発熱を示す温度変化を表した典型的な液晶ポリエステルのDSCチャートの模式図である。液晶ポリエステルの熱量プロファイルは、室温から昇温していくにしたがって、まず、Tgに基づいて、吸熱が生じる「階段状変化」が観測される。そして、このような階段状変化の吸熱パターンを、本発明においてはTgパターンという。このようなTgパターンからTgを求めるには、通常JIS K7121(1987年)の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠した解析手段に拠ればよい。これを、図2(Tgパターンの拡大模式図)を用いて簡単に説明する。まず、Tgパターンの高温側(発熱側)のベースライン及び低温側(吸熱側)のベースラインをそれぞれ延長した2つの補助直線L1、L2を引く。次いで、L1とL2の間の吸熱変化量(ΔTh)を求める。そして、このΔThの半値(1/2ΔTh)を求め、L2から、発熱側に1/2ΔTh分ずらし、L2と平行となる第3の補助直線(Lh)を引く。そして、Lhと熱量プロファイルとの交点の温度値がTgとなる。Tmに基づくTmピークは、Tgパターンよりも高温側に観測される吸熱ピークである。そして、このTmピークの頂点の温度値がTmとなる。なお、このDSC測定におけるTgパターンの吸熱量変化と、Tmピークの吸熱量変化とは、当該DSC測定のSN比というパラメータで判断する。SN比とは、DSC測定の信号成分の熱量差とノイズ成分の熱量差の比をいう。Tgパターンは、DSC測定において、吸熱側にSN比30以上の吸熱量変化のパターン(階段状変化)が見られた場合に観測されたとする。一方、Tmピークは、吸熱側にSN比50以上のピークが、Tgパターンよりも高温側に見られた場合に観測されたとする。
【0013】
本発明に適用する液晶ポリエステルのTgは、通常80℃以上250℃未満の範囲で観測されるが、特にTgが150℃以下の液晶ポリエステルが、本発明に適用するうえで好ましい。
一方、Tmピークは、既述のようにTgパターンよりも高温側に観測される。本発明においては、その頂点(Tm)が250℃以上である液晶ポリエステルが好ましく、280℃以上である液晶ポリエステルがさらに好ましい。
【0014】
前記(b)の流動開始温度とは、当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標であり(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)、液晶ポリエステルをパウダー状に加工して、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメータに充填し、これに9.8MPa(100kg/cm2)の荷重を加え、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルを押出しながらフローテスターを用いて溶融粘度を測定し、4800Pa・s(48000ポイズ)の溶融粘度が得られたときの温度を表す。本発明に適用する液晶ポリエステルは、当該流動開始温度が250℃以上であることを必要とする。これは、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法において、加熱処理前に液晶ポリエステルを溶融紡糸して繊維(繊維形状の液晶ポリエステル)を得る際の紡糸性を良好にするためである。該流動開始温度が250℃未満であると、溶融紡糸の際、吐出量を増やすなどの対策を取っても、糸切れが激しく、安定的に紡糸することが比較的困難になる傾向がある。
【0015】
このように、前記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルは、後述するような、低温条件での加熱処理によって、液晶ポリエステル繊維の高強度化を実現することが可能となる。
かかる効果を奏する原因は必ずしも明らかでないが、本発明者等は次のように推定している。すなわち、前記DSC測定にて、Tgが観測される液晶ポリエステルは、加熱処理によってポリエステル分子のミクロブラウン運動が、比較的活発になり易く、従来の製造方法のように、融点付近のような高温条件下を用いなくとも、液晶ポリエステルの配向をコントロールすることができる。また、Tmが観測される液晶ポリエステルとは、結晶構造を有する液晶ポリエステルであることから、加熱処理後にその結晶性が高くなって、液晶ポリエステル繊維の高強度化が達成され易い。したがって、比較的低温条件での加熱処理においても、高強度の液晶ポリエステル繊維が得られると推定される。
【0016】
より低温条件での加熱処理を用いて、液晶ポリエステル繊維の強度を向上させるためには、Tgが低い液晶ポリエステルを用いることが好ましく、既述のようにTgが150℃以下の液晶ポリエステルを用いることが特に好ましい。さらに、融点付近で加熱処理を行うと単糸同士が膠着し易くなるために、より高温側でTmが発現される液晶ポリエステルが好ましく、TgとTmとの温度差が100℃以上であることが好ましい。この温度差が100℃以上であると、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法により、単糸同士の膠着を十分防止して、高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。
【0017】
次に、本発明に適用する液晶ポリエステルの中で、好適なものについて詳述する。
該液晶ポリエステルが、前記(b)の要件を満たすためには、該液晶ポリエステル中の前記残基は芳香族基を主として有する芳香族液晶ポリエステルが好ましい。特に、前記(a)の要件を満たすには、Tgを発現できるような比較的屈曲性に富むセグメントと、Tmを発現できるような比較的結晶性が高いセグメントと、を合わせて有する芳香族液晶ポリエステルがより好ましい。
このような2種のセグメントを有する好適な芳香族液晶ポリエステルとしては、
(P1)芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来するモノマー単位(以下、「芳香族ヒドロキシカルボン酸単位」という。)、芳香族ジオールに由来するモノマー単位(以下、「芳香族ジオール単位」という。)及び芳香族ジカルボン酸に由来するモノマー単位(以下、「芳香族ジカルボン酸単位」という。)からなる芳香族液晶ポリエステル;
(P2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸単位からなる芳香族液晶ポリエステル;
を具体的に挙げることができるが、前記(P1)の芳香族ポリエステルが前記(a)の要件を満たすうえで特に好ましい。
なお、特定のモノマーに由来するモノマー単位とは、換言すれば、そのモノマーを用い、後述するような重合を行ったときに形成された構造単位を意味するものである。
【0018】
これらのモノマー単位を誘導する好適なモノマーとしては、以下のものが例示できる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2―ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2―ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1―ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−パラヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。芳香族液晶ポリエステル製造において、該芳香族ヒドロキシカルボン酸は、前記の例示から選ばれる1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのなかでも、パラヒドロキシ安息香酸及び/又は2―ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が、入手が容易であることと、得られる液晶ポリエステル繊維がより高強度になり易いことから好ましい。
【0019】
芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のほか、2つの芳香族基が共役となり得る芳香族ジオールである、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等を挙げることができる。
また、2つの芳香族基が脂肪族基で結合された芳香族ジオールを用いることもできる。
具体的には、2,2―ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。このように、2つの芳香族基がアルキレン基で結合された芳香族ジオールを用いると、液晶ポリエステルの分子鎖に、部分的にアルキレン基が導入されることになる。このようなアルキレン基が多く存在すると、液晶ポリエステルの流動開始温度が低温化することもあるので、前記(b)の要件を満たすようにして、これらの芳香族ジオールの使用量を決定することが必要である。
なお、芳香族液晶ポリエステル製造においては、該芳香族ジオールも、前記の例示から選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン及び2,6−ジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる芳香族ジオールが、入手が容易であることと、得られる液晶ポリエステル繊維がより高強度になり易いことから好ましい。
【0020】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸等のほか、2つの芳香族基が共役となり得る芳香族ジカルボン酸である、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、2,2’―ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸等を用いてもよい。芳香族液晶ポリエステル製造においては、該芳香族ジカルボン酸も、前記の例示から選ばれる1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる芳香族ジカルボン酸を用いると、液晶ポリエステルのTg及びTmを比較的コントロールし易く、前記の(a)の要件を満たす液晶ポリエステルを得るうえで好ましい。これらの芳香族ジカルボン酸は入手が容易であるという利点もある。
【0021】
前記に例示したような芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジオールのフェノール性水酸基をアミノ基に置き換えたモノマー、すなわち、芳香族アミノカルボン酸又はフェノール性水酸基を有する芳香族アミンをモノマーの一部として使用し、液晶ポリエステルを製造すれば、得られるものは液晶ポリ(エステル−アミド)となり、液晶ポリエステルを製造する際に、ジフェニルカーボネート等を反応試剤として用いると、結合基の一部に炭酸エステル基を有する液晶ポリエステル−カーボネートが得られる。しかしながら、結合基として、アミド基や炭酸エステル基を有していると、前記(a)の要件のうち、Tmが観測されない液晶ポリエステルとなり易いこともあるので、Tmが観測される程度にアミド基や炭酸エステル基の導入量を調節する必要がある。この点からも、本発明に適用する液晶ポリエステルは、結合基が実質的にエステル基のみからなり、残基が実質的に芳香族基からなる全芳香族液晶ポリエステルが好適である。
【0022】
次に、好適な液晶ポリエステルである、芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族ジオール単位及び芳香族ジカルボン酸単位からなる芳香族液晶ポリエステルにおいて、前記の(a)及び(b)の要件を満たすものについて、より具体的に説明する。
液晶ポリエステルがTmを発現するためには、既述のように結晶性の高いセグメントを液晶ポリエステル分子中に導入すればよい。具体的にいうと、

(i)パラヒドロキシ安息香酸から誘導されるモノマー単位の含有比率を上げる。
(ii)前記残基において、2,6−ナフタレン残基の含有比率を上げる。
(iii)芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とが交互に共重合しているようなセグメントの含有比率を上げる。

等によれば、得られる液晶ポリエステルはTmを発現し易いものとなる。すなわち、パラヒドロキシ安息香酸から誘導されるモノマー単位は、液晶ポリエステルの結晶性を向上させ易く、2,6−ナフタレン残基は芳香環同士が重なり合って緻密化するといった、いわゆるパッキング性が高くなるので結晶性を向上させ易く、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とが交互に共重合しているようなセグメントは液晶ポリエステル分子の規則性を高くして結晶性を向上させ易い。これら、(i)、(ii)、(iii)(以下、「(i)〜(iii)」という)は何れもTmを発現させる点で有利である。
【0023】
一方、Tgを発現する液晶ポリエステルを得るためには、上述したモノマー単位の中でも液晶ポリエステルの分子鎖に屈曲構造を与えるモノマー単位(以下、場合により「屈曲モノマー単位」という)を導入すればよい。具体的には、全モノマー単位の合計に対して、屈曲モノマー単位を20mol%以上導入すると、得られる液晶ポリエステルはTgを発現し易いものとなる。このような屈曲モノマー単位としては、芳香族ジカルボン酸単位の中では、フタル酸に由来するモノマー単位、イソフタル酸に由来するモノマー単位が挙げられ、芳香族ジオール単位としてはレゾルシンに由来するモノマー単位が挙げられる。そして、このような屈曲モノマー単位の合計含有量(共重合比)を20mol%以上有する液晶ポリエステルであると、Tgの低温化が容易となる。
本発明に適用する液晶ポリエステルとしては、この屈曲モノマー単位の中でも、フタル酸に由来するモノマー単位及び/又はイソフタル酸に由来するモノマー単位を導入することがより好ましい。
【0024】
したがって、前記の(i)〜(iii)及び結合基(上述のアミド基、炭酸エステル基)の導入量によって液晶ポリエステルのTmをコントロールし、屈曲モノマー単位の共重合比によってTgをコントロールすれば、前記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを得ることが容易となる。そして、その共重合比としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸単位が30〜80mol%、芳香族ジオール単位が10〜35mol%、芳香族ジカルボン酸単位が10〜35mol%(なお、芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族ジオール単位及び芳香族ジカルボン酸単位の合計を100mol%とする。)であると好ましい。このようなモノマー単位の組合せからなる液晶ポリエステルは、Tg及びTmを比較的コントロールし易く、本発明の製造方法により高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることが可能となる。
【0025】
なかでも、好適な芳香族ヒドロキシカルボン酸単位である、パラヒドロキシ安息香酸及び/又は2―ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来するモノマー単位と、
好適な芳香族ジオール単位である、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン及び2,6−ジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる芳香族ジオールに由来するモノマー単位と、
好適な芳香族ジカルボン酸単位である、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる芳香族ジカルボン酸に由来するモノマー単位と、
からなる液晶ポリエステルは、分子鎖中にアルキレン基が含まれない全芳香族液晶ポリエステルになることから、前記(b)の要件を満足し易く、また液晶ポリエステル自身が高耐熱性となるという利点もある。
【0026】
<液晶ポリエステルの製造方法>
前記のように、Tg及びTmを発現する上で好適なモノマー単位の組合せからなる液晶ポリエステルは、各モノマー単位を誘導するそれぞれのモノマーを、所望の共重合比になるように使用量を決定し、重合させることにより得ることができる。
【0027】
ここで、液晶ポリエステルの製造方法について簡単に説明する。まず、所望のモノマー単位の組み合わせとなるように、液晶ポリエステルの原料モノマーを選択し、これらを溶融重合させて、比較的低分子量のプレポリマーを得る。このプレポリマーを得るには、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を、酸無水物によりアシル化してアシル化物(アシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸及びアシル化芳香族ジオール)とした後、このアシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及びアシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基とが、エステル交換反応を生じるようにして、溶融重合させればよい。このような溶融重合としては、特開2002−220444号公報や、特開2002−146003号公報に開示された重合方法が適用できる。より高強度の液晶ポリエステル繊維を得るためには、このような溶融重合により比較的低分子量の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得、該プレポリマーをさらに固相重合により高分子量化させるという2段階の重合で液晶ポリエステルを得ることが好ましい。この場合、該プレポリマーの流動開始温度は228℃〜238℃であると好ましく、232〜236℃がより好ましい。プレポリマーの流動開始温度が228℃未満あるいは238℃を超えると、固相重合後の樹脂中に未溶融物が発生し易くなり、該液晶ポリエステルを紡糸して繊維状にすることが比較的困難になることがある。
【0028】
ここで、前記固相重合に関し、簡単に説明しておく。
前記溶融重合により得られたプレポリマーを、室温程度まで冷却して固形物とした後、該固形物を粉砕する等して、パウダー状又はフレーク状といった粉末状に加工する。このプレポリマーの粉末は、その平均粒径が1mm以下にすると好ましく、平均粒径0.1〜1mmとなるようにするとさらに好ましい。なお、ここでいう平均粒径とは、光学顕微鏡による外観観察により複数個の粉末(プレポリマーの粉末)の粒径を観測し、該粒径の測定値を平均して算出される値である。
【0029】
その後、このプレポリマーの粉末を、粉末状のまま加熱する等により固相重合を行い、高分子量化された液晶ポリエステルを得る。このようにして固相重合を行って、高分子量化を進めると、液晶ポリエステルの流動開始温度及びTmを、ともに向上させることができる。特に、この固相重合を行うことで、液晶ポリエステルの流動開始温度を250℃以上とすることが好ましい。固相重合の反応条件は、適用した液晶ポリエステルの種類及び所望の流動開始温度の値により異なるので、予備実験等により適宜最適化することが好ましい。また、固相重合中の液晶ポリエステルを所定時間おきにサンプリングして、その流動開始温度を求め、該流動開始温度が250℃以上となって時点で固相重合を停止するという操作によってもよい。
【0030】
<液晶ポリエステル繊維及びその製造方法>
次に、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法について説明する。
該液晶ポリエステル繊維を得るには、まず上述したような液晶ポリエステルを溶融紡糸して、繊維形状とする紡糸工程と、得られた繊維の高強度化を達成するために、繊維形状となった液晶ポリエステルを230℃以下の温度で加熱処理する加熱処理工程を有する製造方法が適用される。ここで、紡糸工程を経て得られた繊維を、以下「液晶ポリエステル繊維1」という。
【0031】
前記紡糸工程では、まず液晶ポリエステルを流動開始温度以上で溶融させる。この溶融に係る温度の上限値は、適用した液晶ポリエステルのTmにより設定する。好適には(Tm+50)℃以下、好ましくは(Tm+30)℃以下であることが好ましい。溶融させた液晶ポリエステルは、適当な紡糸口金ノズルから吐出させることにより繊維形状とし、さらに冷却することにより液晶ポリエステル繊維1が形成される。形成された液晶ポリエステル繊維1は巻取りボビン等を用いて、巻き取ることにより連続的に液晶ポリエステル繊維1を得ることができる。紡糸口金ノズルの孔径は、通常0.05〜1.0mm程度であり、0.1〜0.5mmであると好ましい。また、紡糸口金からの吐出量は通常1〜40g/分であり、10〜30g/分であると好ましく、吐出量は溶融紡糸時に糸切れが発生しないような範囲で調整すると好ましい。
【0032】
このようにして紡糸することにより、液晶ポリエステルが配向結晶化した液晶ポリエステル繊維1を得ることができる。ただし、液晶ポリエステル自身の分解を極力抑制するためには、紡糸工程における液晶ポリエステルの溶融時間は、より短時間であると好ましく、溶融した液晶ポリエステルの移送時間はなるべく低く設定することが好ましい。かかる溶融紡糸には、市販の溶融紡糸装置(例えば、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトV)を用いることができる。このような溶融紡糸装置を用いれば、液晶ポリエステルの溶融時間の短時間化が容易であり、溶融した液晶ポリエステルを繊維形状とする移送時間も短時間にすることができる。また、溶融紡糸装置として、紡糸口金ノズルの直前部に加熱手段を備え、溶融された液晶ポリエステルが直ぐに紡糸口金ノズルから吐出するようにすれば、溶融時間の短時間化と移送時間の短時間化を両立させることができる。
さらに、液晶ポリエステル繊維1を構成している液晶ポリエステルに、より高い配向性を付与するためには、紡糸口金ノズルにおける剪断速度を103sec-1以上とすることが好ましく、さらには紡糸口金ノズルの孔径が小さいほど好ましい。また、吐出された液晶ポリエステル繊維1を、巻取りボビンを用いて巻き取る場合は、その巻取速度が大きいほど好ましい。なお、紡糸口金ノズルの孔数は特に制限されるものではなく、使用する溶融紡糸装置の種類や、必要とする生産量により適宜選択すればよい。
【0033】
また、溶融紡糸する際の液晶ポリエステルには、液晶ポリエステル繊維1を製造する上での紡糸性や、後述する加熱処理により悪影響を及ぼさない範囲で、耐光剤、カーボンブラック、酸化チタンなど各種の粒子、顔料、染料などの着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤などを添加することもできる。
【0034】
このようにして得られた液晶ポリエステル繊維1は、そのままでも5〜8(cN/dtex)程度の強度を有しているので、ナイロンや液晶ポリエステル以外のポリエステルからなる有機繊維より、比較的強度が高いものである。しかし、前記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを用いて得られた液晶ポリエステル繊維1は、続く加熱処理によって液晶ポリエステル繊維の強度を飛躍的に向上させることができる。
【0035】
液晶ポリエステル繊維1の加熱処理に当たっては、紡糸口金ノズルから吐出された液晶ポリエステル繊維1を、そのまま加熱炉中に通過させるようにする形式でも、液晶ポリエステル繊維1を巻取りボビンに巻き取った後、ボビンごと液晶ポリエステル繊維1を加熱するような形式でも、巻取りボビンから液晶ポリエステル繊維1を引き出して、加熱するような形式でもよい。操作上の容易さ及び生産性を勘案すると、ボビンごと加熱する形式が好ましい。
【0036】
加熱処理に係る雰囲気ガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスのほか、空気や酸素、炭酸ガス又はこれらの混合気体を用いることもできる。ただし、液晶ポリエステルは加水分解を受けやすい傾向があるので、除湿された雰囲気ガスであることが好ましく、雰囲気ガスの露点は−20℃以下がより好ましく、−50℃以下が特に好ましい。
【0037】
液晶ポリエステル繊維1の高強度化に係る加熱処理において、その処理時間は、処理温度及び得られる液晶ポリエステル繊維の目的とする特性により適宜最適化できるが、一般的には1〜20時間程度である。該処理時間は生産性及びエネルギー消費量の点から、短時間の方が好ましい。なお、該処理時間をより短時間にするためには、多段階の加熱処理を行うことが好ましい。典型的には、120〜150℃程度で0.5〜1時間、次いで、180〜200℃で0.5〜3時間、さらには210〜230℃で1〜5時間、加熱処理するといった多段階の加熱処理を挙げることができる。なお、このような多段階の加熱処理においても、処理温度の最高値が230℃以下であることが必要である。また、処理温度の最高値は、後述する加熱処理前後の強度の増加率を勘案して設定すればよいが、典型的には200℃以上である。
【0038】
前記液晶ポリエステル繊維1は、前記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを適用することにより、既述のように最高温度230℃以下という低温条件の加熱処理によっても、高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることが可能である。そして、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、従来一般的であった液晶ポリエステルの融点付近の温度条件を採用する加熱処理工程を有する製造方法に比して、単糸同士の膠着を良好に防止することが可能となる。また、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は低温条件での加熱処理であることから省エネルギーにも寄与するので、生産面でも有利である。
【0039】
かくして得られる液晶ポリエステル繊維は、前記の加熱処理の前後で、その強度が飛躍的に向上する。具体的には、液晶ポリエステル繊維1の強度をTX(cN/dtex)、加熱処理後の液晶ポリエステル繊維の強度をTY(cN/dtex)としたとき、TY/TX≧2とすることができる。そして、このようにして加熱処理を行った液晶ポリエステル繊維は、10(cN/dtex)以上の高強度を容易に実現することができる。
【0040】
このように、230℃以下の低温条件での加熱処理によることで、単糸同士の膠着を良好に防止しながら、極めて高強度の液晶ポリエステル繊維が得られる本発明の製造方法は、従来の液晶ポリエステル繊維製造方法では容易に達し得なかったことであり、本発明者等の独自の知見に基づくものである。なお、液晶ポリエステル繊維の強度とは、オートグラフ((株)島津製作所製AG−1KNIS)を用い、測定温度23℃、試料間隔20cm、引張速度20cm/分で測定して求められる強度をいう。
【0041】
なお、本発明の液晶ポリエステル繊維は、芯鞘型複合糸、バイメタル型複合糸、海島型や分割型の複合紡糸で得られた繊維であってもよく、極細繊維であってもよい。
また、繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形断面の他、三角断面、マルチオーバル断面、扁平断面、中空糸等、従来公知の形状が広く適用できる。このような繊維の断面形状は、前記紡糸工程で使用する紡糸口金ノズルの形状によって適宜所望の形状とすることができる。
【0042】
<液晶ポリエステル繊維の用途>
また、本発明で得られる液晶ポリエステル繊維は高強度という特徴を有するばかりでなく、液晶ポリエステル自身の特性、すなわち低吸水性、低誘電性、振動減衰性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性などの特性が十分維持されており、魚網、テグス、ロープ等の水産資材、光ファイバーコードやプリント基板の補強材、タイヤコードやベルト等のゴム補強材のほか、プラスチックやコンクリートの補強剤としても有用である。また、防護服や手袋など衣料資材としても用いることができる。
また、本発明の液晶ポリエステル繊維は、他のポリマーからなる繊維と撚り合わせて複合化繊維とし、各種の用途に使用することもできる。
【0043】
さらに、本発明で得られる液晶ポリエステル繊維は、あらゆる形態に加工して用いることができる。例えば、フィラメント糸、カットファイバー、紡績糸、ロープ状物、布帛(織物、編物、不織布等)などが挙げられる。これらの中で、不織布の製造方法においては、乾式不織布、ニードルフェルト、スパンレース、スパンボンドなど多形態のシートとすることができる。例えば、湿式不織布を製造する場合は、単繊維径5dtex以下で、かつ繊維長3mm〜10mmのカットファイバーを使用することが好ましい。
特に、液晶ポリエステル繊維は比較的低誘電性を有することから、不織布とした場合に優れた電気特性の効果が得られ、回路基板用の絶縁材料として好適に適用することができる。勿論、この場合においても、他の繊維と併用してもかまわない。
【0044】
前記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、前記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0046】
以下の液晶ポリエステルの合成において、測定対象の液晶ポリエステルのガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)及び流動開始温度は、以下の方法にしたがって、それぞれ測定した。
【0047】
(ガラス転移温度及び融点測定)
測定対象の液晶ポリエステルについて、セイコーインスツルメンツ株式会社製、示差走査熱量測定システム「DSC6200」を用い、既述のような条件で熱量プロファイルを測定し、得られた熱量プロファイルから、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を求めた。
【0048】
(流動開始温度)
流動開始温度も既述のようにして測定した。すなわち、フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用い、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填した。そして、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重を加え、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出しながら、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を測定し、この温度を流動開始温度とした。
【0049】
液晶ポリエステル繊維の特性(強度)評価は以下のようにして行った。
(引張強度)
液晶ポリエステル繊維の引張強度は、(株)島津製作所製のオートグラフAG−1KNISを用い、室温下試料間隔20cm、引張速度20cm/分で測定した。
【0050】
(合成例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸を828g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)、無水酢酸を1348g(13.2モル)加え、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾールを0.19g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、320℃で75分経過した時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0051】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕して、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、230℃であった。
【0052】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から232℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、258℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度(Tg)が128℃であり、融点(Tm)が310℃であった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(パラヒドロキシ安息香酸)単位50mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位25mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸)単位25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)は25mol%である。
【0053】
(合成例2)
合成例1と同様にして、流動開始温度230℃を示すプレポリマー粉末を得た。次いで、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から220℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、241℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度(Tg)が125℃であり、融点(Tm)が305℃であった。なお、モノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率及び屈曲モノマー単位の比率は、前記合成例1の液晶ポリエステルと同等である。
【0054】
(合成例3)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)加え、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾールを0.17g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを更に1.7g添加した後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。トルクの上昇が認められた時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0055】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕し、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末とした。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、257℃であった。
【0056】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から285℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、327℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、融点(Tm)は340℃であり、ガラス転移温度(Tg)は観測されなかった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(パラヒドロキシ安息香酸)単位60mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位20mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸及びテレフタル酸)単位20mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)は5mol%である。
【0057】
(合成例4)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を加え、これらを攪拌した。次に、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。トルクの上昇が認められた時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0058】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕し、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、229℃であった。
【0059】
それから、プレポリマーの粉末を25℃から180℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から220℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、272℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度(Tg)は129℃であり、融点(Tm)は明確に観測されなかった。芳香族ヒドロキシカルボン酸(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸)単位50mol%、水酸基を有する芳香族アミン(4−アミノフェノール)から誘導される単位25mol%、芳香族ジカルボン酸単位(イソフタル酸)25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)は25mol%である。
【0060】
(合成例5)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸を828g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)、無水酢酸を1348g(13.2モル)加え、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾールを0.19g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、320℃で65分経過した時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0061】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕し、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、227℃であった。
【0062】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から249℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、266℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度が128℃であり、融点が313℃であった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(p―ヒドロキシ安息香酸)単位50mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位25mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸)単位25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)は25mol%である。
【0063】
(合成例6)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸を828g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)、無水酢酸を1348g(13.2モル)加え、これらを攪拌した。次に、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、320℃で85分経過した時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0064】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕し、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、234℃であった。
【0065】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から245℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、267℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度が128℃であり、融点が313℃であった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(パラヒドロキシ安息香酸)単位50mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位25mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸)単位25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)としては25mol%である。
【0066】
(合成例7)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸を828g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)、無水酢酸を1348g(13.2モル)加え、これらを攪拌した。次に、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、320℃で90分経過した時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0067】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕して、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、237℃であった。
【0068】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から244℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、267℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度(Tg)が128℃であり、融点(Tm)が312℃であった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(パラヒドロキシ安息香酸)単位50mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位25mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸)単位25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)としては25mol%である。
【0069】
(合成例8)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸を828g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)、無水酢酸を1348g(13.2モル)加え、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾールを0.19g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、そのまま温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、320℃で90分経過した時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0070】
次いで、取り出した内容物を室温に冷却した後、粉砕機で粉砕し、約0.1mm〜約1mmの粒径を有するプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの粉末を一部取り出し、その流動開始温度を測定したところ、241℃であった。
【0071】
それから、このプレポリマーの粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、この温度から243℃まで5時間かけて昇温し、更に同温度で3時間保温して、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却して、液晶ポリエステルの粉末を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度を前記と同様に測定したところ、268℃であった。また、液晶ポリエステルの粉末についてDSC測定を実施したところ、ガラス転移温度(Tg)が128℃であり、融点(Tm)が312℃であった。なお、使用した原料モノマーから求められるモノマー単位の全モノマー単位の合計に対する比率は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(パラヒドロキシ安息香酸)単位50mol%、芳香族ジオール(4,4’−ジヒドロキシビフェニル)単位25mol%、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸)単位25mol%であり、屈曲モノマー単位(イソフタル酸に由来するモノマー単位)としては25mol%である。
【0072】
(実施例1)
合成例1で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて310℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Aの評価結果を表1に示す。
【0073】
(実施例2)
合成例2で得られた液晶ポリエステルをペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて310℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から220℃まで70分、220℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Bの評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例3)
合成例5で得られた液晶ポリエステルをペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて315℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理をした。得られた熱処理糸Dの評価結果を表1に示す。
【0075】
(実施例4)
合成例6で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて315℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Eの評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例5)
合成例7で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて315℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Fの評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例6)
合成例8で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて315℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Gの評価結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
合成例2で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて300℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分で実施したが、糸切れが激しく、ボビンに巻き取れなかった。したがって、繊維の強度を測定することはできなかった。
【0079】
(比較例2)
合成例3で得られた液晶ポリエステルを造粒によりペレットに加工した後、30mm径のスクリュー型押出機を用いて370℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.2mm、孔数150個のものを用い、紡速600m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間、加熱処理した。得られた熱処理糸Cの評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例3)
合成例4で得られた液晶ポリエステルを、紡糸工程にて繊維化し易い形状であるペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置ポリマーメイトVを用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて310℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量20g/分、紡速300m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、150で1時間、150℃から230℃まで80分、230℃で5時間熱処理をした。得られた熱処理糸Dの評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

※1 DSC測定でTgが観測された場合を「○」、観測されない場合を「×」とした。
※2 DSC測定でTmが観測された場合を「○」、観測されない場合を「×」とした。
※3 糸切れが激しい場合の紡糸性を「×」、ボビンに巻き取れる程度の紡糸性を有していた場合を「○」とした。
※4 加熱処理の最高温度を示す。
【0082】
DSC測定によりガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)が観測され、流動開始温度が250℃以上である液晶ポリエステルを用いた液晶ポリエステル繊維は、従来よりも低温条件での加熱処理によって、その強度が飛躍的に向上し、処理後に得られた液晶ポリエステル繊維は極めて高強度(10cN/dtex以上)となることが判明した(実施例1〜6)。一方、同一の原料モノマーを使用しても、流動開始温度が250℃を下回る液晶ポリエステルでは溶融防止して繊維形状にすることができなかった(比較例1)。また、Tg又はTmのどちらかが観測されない液晶ポリエステルを用いた繊維は、実施例1の液晶ポリエステルに比して、強度に劣るものであった(比較例2、3)。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】典型的な液晶ポリエステルのDSCチャートの熱量プロファイルを表す模式図である。
【図2】TgパターンからTgを求める解析手段の要部を表す摸式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルから繊維を得る工程と、
前記繊維を230℃以下の温度で加熱処理する工程と、
を有することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。
(a)示差走査熱量測定により、ガラス転移温度及び融点が観測されること
(b)流動開始温度が250℃以上であること
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、フタル酸に由来するモノマー単位及び/又はイソフタル酸に由来するモノマー単位を有し、これらのモノマー単位の合計が全構造単位の合計に対して20mоl%以上の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、示差走査熱量測定により求められるガラス転移温度が150℃以下の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、示差走査熱量測定により求められる融点が250℃以上の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理が、加熱処理前の繊維の強度をTX(cN/dtex)、加熱処理後の液晶ポリエステル繊維の強度をTY(cN/dtex)としたとき、TY/TX≧2の関係を満たす加熱処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法により得られることを特徴とする液晶ポリエステル繊維。
【請求項7】
23℃での引張強度が10(cN/dtex)以上であることを特徴とする請求項6記載の液晶ポリエステル繊維。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の液晶ポリエステル繊維からなることを特徴とする不織布。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−167584(P2009−167584A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318117(P2008−318117)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】