説明

液晶光学装置、及びその製造方法

【課題】高い信頼性を有する液晶光学装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】液晶光学装置は、液晶を配向させる配向機能層と、配向機能層上に形成され、前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を液晶に生じせしめる高分子構造体を備える。高分子構造体は、下記式(1)により表わされる硬化性化合物を硬化することにより形成されたものであり、電圧非印加時に、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有するものである。


(A、Aは、それぞれ独立に外部エネルギーによって重合する硬化性官能基であり、R、Rは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を有していてもよい炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基を示し、Zは2価のメソゲン構造部を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧印加の有無に応じて透過状態を制御する液晶光学シャッター、液晶調光装置、液晶表示装置等の液晶光学装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶光学装置は、TV,パソコン、カーナビゲーションをはじめとするディスプレイ用の表示装置として確固たる地位を確立している。また、調光装置等にも応用展開が図られている。液晶光学装置は、通常、一対の基板間に液晶層が挟持された構造を有する。液晶層の形成方法の一つとして、液晶と硬化性化合物を含む液晶組成物を一対の基板間に注入し、注入後に硬化性化合物の硬化処理を行い、液晶と高分子を相分離することや、液晶と高分子によるゲル構造により液晶層を形成する方法が注目を集め、精力的な研究開発がなされている。
【0003】
液晶と高分子を用いた液晶光学装置として、透過−散乱型のものがある。高分子と液晶の屈折率差、又は液晶ドメイン内の屈折率差を利用したものであり、液晶/高分子複合体素子、液晶/樹脂複合体素子あるいは分散型液晶素子などと呼ばれている。この液晶光学装置は、原理的に偏光板を必要としないので光の吸収損失が少なく、かつ高い散乱性能が得られるので、光の利用効率が高いという優れた利点がある。この特性を活かして、調光ガラス、光シャッター、レーザー装置及び表示装置などに用いられている。電圧非印加で散乱状態、電圧印加で透明状態のものが多く商用化されているが、電圧非印加時に透明状態のものも提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、PSCT(ポリマー・スタビライズド・コレステリック・テクスチャー)と呼ばれる透過−散乱型の液晶光学装置が開示されている。具体的には、赤外波長に選択反射を示すカイラルネマティック液晶に微量の高分子を分散させるものである。電圧非印加時には、カイラルネマティック液晶が赤外波長帯域選択反射し、可視光に対しては透過を示すプレナー配列状態にて高分子により固定化されて透明状態を呈する。一方、カイラルネマティック液晶の螺旋軸が基板面に対し法線方向からそれぞれランダムな斜め方向に、つまりフォーカルコニック状態に変化して散乱状態を呈する。
【0005】
また、本出願人においても、先般、下記式(A)の硬化性化合物と液晶を含有する液晶組成物において、液晶/硬化物複合体層を形成する液晶光学装置を提案した(特許文献2)。
【化1】

式(1)中のA,Aは、それぞれ独立にアクリロイル基、メタクリロイル基、グリシジル基、またはアリル基であり、R,Rは、それぞれ独立に炭素数2〜6のアルキレン基、Zは2価のメソゲン構造基、n,mは、それぞれ独立に1〜10の整数である。上記式(A)の硬化性化合物を用いて液晶/硬化物複合体層を形成することにより、電圧非印加時に透明状態であり、かつ高信頼性、高コントラスト化が実現できることを報告した。
【0006】
上述した2つの先行文献においては、電圧非印加時における液晶配向を安定的に維持あるいは固定化するために、高分子が重要な役割を担っている。このような高分子による液晶配向の安定化、または制御する技術は、上述した透過-散乱型に限定されるものではなく、様々な液晶光学装置においても研究開発が進められている。
【0007】
特許文献3では、TNモードの液晶表示装置における広視野角化技術として、高分子壁によって分割された液晶領域において、液晶を軸対称配向させる方法が報告されている。電圧印加時において、液晶が高分子壁に沿って軸対象に配向変化することで、見る角度における屈折率差を抑制することで広視野角化を実現する。この液晶表示装置は、ASM(Axially Symmetrically aligned Microcell)モードと呼ばれている。
【0008】
上記では、液晶光学装置において数10質量%以上といった比較的多量の硬化性化合物を添加することによって、たとえば高分子壁といった構造体を形成させることで、液晶に対し配向固定化やドメイン分割といった効果を付与させる技術であった。これに対し、近年、液晶光学装置において非常に少量の硬化性化合物によって、基板界面に高分子構造体を形成させ、界面近傍における液晶の配向方向を制御する研究開発が進められている。
【0009】
たとえば特許文献4や特許文献5においては、数質量%といった非常に少量の硬化性化合物を含有する液晶組成物を用いることにより、電圧を印加しながら硬化性化合物を重合させることで、電圧非印加時における基板界面近傍の液晶の配向方向を制御する液晶表示装置が提案されている。
【0010】
上記特許文献4は、MVAモードの液晶表示装置に関するものである。この技術は、1つ以上の環構造あるいは縮環構造と、これらに直接結合している2つの官能基を有する硬化性化合物と、誘電率が負の液晶とを含む液晶組成物をセルに注入し、電圧印加しながら紫外光を照射することにより製造するものである。上記工程により、基板界面に高分子構造体を形成し、通電時の液晶の配向変化方向を記憶させることによって応答速度を改善した液晶表示装置を提供する。硬化性化合物の好ましい例として、式(B)が開示されている。
【化2】

【0011】
上記特許文献5は、高分子による液晶の配向制御技術における、速硬化性や高い液晶配向の制御効果や信頼性において効果を発揮する硬化性化合物として、下記式(C)の3環骨格の感光性モノマーを用いる方法が提案されている。
【化3】

【0012】
式(C)中のL,L、L,L、L、Lは、水素、フッ素、塩素、シアノ基、一つ以上の水素原子がフッ素または塩素によって置換されてもよい炭素数が1〜7のアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基である。また、R、R,R、Rは、水素、フッ素、塩素、シアノ基、チオシアネート基、ペンタフルオロスルファニル基、ニトリット基、直鎖型アルキル基、ブランチ型アルキル基、及びZ−Sp−P基から選ばれるものである。R、R,R、Rの少なくとも一つは、Z−Sp−Pである。Zは、O,S,メトキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルバモイル基、メチルチオ基、エテニルカルボニル基、カルボニルエテニル基、及び単結合から選択される。Spは、直鎖型アルキル基、又はブランチ型アルキル基、及び単結合から選択される。Pは、重合可能な基である。
【0013】
また、特許文献6において、基板面に液晶性を有する硬化性化合物を塗布し、磁場を作用させながら硬化性化合物を重合させることで、電圧非印加時に、液晶に対しチルトした垂直配向効果を付与する高分子構造体を有する液晶表示装置が提案されている。
【0014】
上記特許文献6に開示されている製造方法は、以下のとおりである。まず、液晶性骨格を有し、異種物質との界面において液晶性骨格を界面に垂直に向けて配向する性質と、重合する性質とを有する液晶性モノマーからなる層を基板上に形成する。次いで、液晶状態に保ちながら磁場を作用させ、液晶性モノマーの液晶性骨格を基板の法線方向からわずかに傾けた方向に配向させる。この状態で液晶性モノマーを重合させ、未反応の液晶性モノマーと液晶性モノマー重合体との複合体からなる硬化層を垂直配向膜として形成する。その後、この垂直配向膜が対向するように2枚の透明基板を配置し、間隙に液晶を封入することにより、未反応の液晶性モノマーと液晶性モノマーの重合体との複合体による配向機能層を有する液晶表示装置を得るものである。
【0015】
このような液晶性骨格を有する硬化性化合物を用いた高分子構造体による、液晶の配向制御に関する報告は、垂直配向モードのみにとどまらず、TNモード、IPSモード、ECBモード、OCBモードなど水平配向モードの液晶表示装置への適用も可能である。
【0016】
特許文献7には、以下の水平配向モードの液晶表示装置へ適用可能な高分子構造体による配向機能層の製造方法が開示されている。ITO基板にシランカップラー層を形成し、その上に液晶性を有する硬化性化合物の有機溶媒希釈液を塗布して、風乾させた後に、磁場を印加しながら、紫外線照射によって重合させ、プレチルト角を有する水平配向機能層を得るものである。前記の水平配向機能層を有する基板を用いた液晶セルにおいて高分子構造体による配向制御効果の確認が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第1992/19695号
【特許文献2】米国特許第6,723,393号
【特許文献3】特許第2,933,816号
【特許文献4】米国特許7,169,449号
【特許文献5】米国特許7,820,070号
【特許文献6】特開2009−139455号公報
【特許文献7】特許3,572,787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
硬化性化合物によって、基板界面に高分子構造体を形成させ、液晶の配向方向を制御する液晶光学装置においては、硬化性化合物の重合特性や重合後の樹脂特性が液晶光学装置の信頼性を確保する上で重要となる。未硬化の硬化性化合物を硬化処理した後、液晶層中に未反応の硬化性化合物の残存量が多いと、経時的に液晶の配向保持性能が変化するなど、液晶光学装置の特性に大きな影響を与える。また、重合によって得られた樹脂の形状などの経時的安定性が悪いと、同様に液晶光学装置の特性に大きな影響を与える。従って、少量の硬化性化合物によって、基板界面に高分子構造体を形成させ、液晶の配向方向を制御する液晶光学装置においては、高い信頼性を持つ硬化性化合物が求められていた。
【0019】
上記特許文献4によれば、上記式(B)のような1つ以上の環構造あるいは縮環構造と、これらに直接結合している2つの官能基を有する硬化性化合物を用いることにより、焼き付き現象(同じ画像を長時間表示し続けると表示画像を変えても前の画像が残って見えてしまう現象)を大幅に改善できることが記載されている。しかしながら、高品質・高画質のニーズに応えて信頼性の高い液晶光学装置を提供するために、焼き付き現象のさらなる改善が求められている。
【0020】
上記特許文献5においても信頼性の点で課題がある。上記式(C)のような芳香族多環構造化合物は、環数が増えるにつれて紫外領域と短波長の可視領域の吸光係数が増大するおそれがある。すなわち、紫外領域と短波長の可視領域の吸光係数の増大により、入射光による液晶材料の劣化や分解が起こり、比抵抗の低下や電圧保持率の低下が生じて、液晶光学装置の信頼性を低下させるおそれがある。
【0021】
上記特許文献6においては、液晶性モノマー重合体を一対の基板に貼り合わせる前に重合させているので、液晶層中に未反応のモノマーが残存する問題を回避することが期待できる。しかしながら、液晶性モノマーが単官能であり、側鎖末端が長鎖アルキルのため、当該液晶性モノマーの重合体が熱可塑性を示す場合や、重合体の弾性率を充分に高めることが難しい場合がある。従って、液晶分子の配向方向を広い温度範囲で安定的に維持できなかったり、経時的に界面近傍での液晶配向の安定性が損なわれたりするおそれがある。
【0022】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い信頼性を有する液晶光学装置、及びその製造方法の提供を目的とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る液晶光学装置は、液晶を駆動する電極対が形成された一対の基板と、前記一対の基板に挟持された液晶層と、前記一対の基板間の対向面に形成され、前記液晶を配向させる配向機能層と、前記配向機能層上に形成された高分子構造体と、を備える。前記高分子構造体は、下記式(1)により表わされる硬化性化合物を硬化することにより形成されたものであり、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有するものである。
【化4】

式中、A、Aは、それぞれ独立に、前記外部エネルギーによって重合する硬化性官能基であり、R、Rは、それぞれ独立に、メチル基、またはエチル基を有していてもよい炭素数2~5の直鎖状のアルキレン基であり、Zは2価のメソゲン構造部を示す。
【0024】
本発明に係る液晶光学装置によれば、未硬化の硬化性化合物中のメソゲン構造部(Z)と硬化性官能基(A、A)との間に、O原子を介してメチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基を導入しているので、硬化過程における硬化部位の分子運動性を向上させることができる。その結果、低照度エネルギーで硬化性化合物の硬化を進行させることができる。また、硬化過程における硬化部位の分子運動性を向上させて、硬化部位の反応性を高めることができるため、液晶層中の未硬化の硬化性化合物の残存量を低減できる。さらに、上記式(1)の硬化性化合物を用いることによって、硬化後において、硬化物の熱可塑性を抑制すると共に、硬化物の弾性率を高めることができる。その結果、弾性変形を示す高分子構造体を得ることができる。以上により、信頼性に優れた液晶光学装置を提供できる。
【0025】
本発明に係る液晶光学装置の製造方法は、液晶を配向させる配向機能層を、液晶を駆動する電極対が形成された一対の基板が対向する面側に形成する工程と、前記配向機能層を形成した一対の基板を貼り合わせ、当該一対の基板間に液晶と、下記式(1)で表わされる硬化性化合物とを含有する液晶組成物を供給する工程と、一対の基板間に電圧を印加して前記液晶組成物中の前記液晶を所定の配向に制御しつつ、前記硬化性化合物の硬化反応を行うための外部エネルギーを加えて前記配向機能層上に高分子構造体を形成する工程とを備える。前記高分子構造体は、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有するものである。
【化5】

式中、A、Aは、それぞれ独立に、前記外部エネルギーによって重合する硬化性官能基であり、R、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基を有していてもよい炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基であり、Zは2価のメソゲン構造部を示す。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、信頼性に優れた液晶光学装置、及びその製造方法を提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】第1実施形態に係る液晶表示装置の電圧非印加時の模式的断面図。
【図1B】第1実施形態に係る液晶表示装置の電圧印加時の模式的断面図。
【図1C】液晶の配向方向を説明するための説明図。
【図2A】硬化過程前の電圧非印加時の液晶表示装置の要部の模式的説明図。
【図2B】硬化過程後の電圧非印加時の液晶表示装置の要部の模式的説明図。
【図3】第2実施形態に係る液晶調光装置の電圧印加時の模式的断面図。
【図4】実施例・比較例に係る評価用組成物において、紫外光照射時間に対する貯蔵せん断弾性率変化をプロットしたグラフ。
【図5】実施例・比較例に係る評価用組成物において、紫外光照射時間に対する硬化度をプロットしたグラフ。
【図6】信頼性評価前後における各印加電圧値に対するΔT/Tiをプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る液晶光学装置は、液晶を駆動する電極対が形成された一対の基板と、この一対の基板に挟持された液晶層と、液晶を配向させる配向機能層と、配向機能層上に形成され、液晶層の液晶の配向を制御する高分子構造体とを備える液晶光学装置である。本発明に適用可能な高分子構造体については、後で詳述する。以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。
【0029】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る液晶光学装置として、VAモードのアクティブマトリックス型の液晶表示装置の一例について説明する。図1Aに、第1実施形態に係る液晶表示装置の電圧非印加時の要部の模式的断面図を、図1Bに、電圧印加時の要部の模式的断面図を示す。また、図1Cに、液晶の配向を説明するための説明図を示す。ここでは、透過型の液晶表示装置について説明する。透過型に代えて、反射型、半透過型の液晶表示装置でもよい。また、アクティブマトリックス型に代えてパッシブ型等にも適用可能である。
【0030】
液晶表示装置100は、液晶を駆動する電極対が形成された一対の第1基板1(たとえば、TFT基板)、第2基板2(たとえば、カラーフィルタ基板)を有する。この一対の基板間の周縁に形成されたシール材(不図示)により両基板が貼り合わされ、シール材、第1基板1,第2基板2によって囲まれた空間に液晶層3が封止されている。一対の基板は、面内スペーサである球状スペーサ(不図示)、柱状スペーサ、または壁状スペーサによって、所定の間隔となるように保持されている。なお、「液晶を駆動する電極対」は、一対の基板のいずれか一方のみに形成されていてもよい。
【0031】
第1基板1は、光透過性を有するガラス基板、樹脂基板、若しくはこれらの組み合わせ等からなる支持基板11を有する。液晶層3と接する側の第1基板1の表面には、液晶層3の液晶を配向させる配向機能層12が形成されている。この配向機能層12上に高分子構造体13が形成されている。そして、支持基板11の外側主面には偏光板15が配設されている。配向機能層12の下層には、液晶を駆動する電圧を印加する画素電極(不図示)、画素電極に電圧を供給するTFT等のスイッチング素子(不図示)、スイッチング素子に信号を供給する配線(不図示)等を備える。画素電極は、たとえば、ITO(Indium Thin Oxide)などの透明導電性薄膜から形成されており、スリット状の電極、若しくはスリット状の開口部が設けられている。
【0032】
第2基板2は、光透過性を有するガラス基板等からなる支持基板21を有する。支持基板11、21のいずれか一方は、アルミニウムや誘電体多層膜の反射電極であってもよい。液晶層3と接する側の第2基板2の表面には、液晶層3の液晶を配向させる配向機能層22が形成され、この配向機能層22上に高分子構造体23が形成されている。そして、支持基板21の外側主面には偏光板25が配設されている。偏光板25の偏光軸と、偏光板15の偏光軸とは、通常、液晶表示装置の電圧非印加時において、一対の偏光板を透過する光の少なくとも一部が一対の偏光板に吸収されるように当該一対の偏光板が貼り合わされているものを適用できる。偏光板25の偏光軸と、偏光板15の偏光軸と直交するように貼り合わされている場合もある。
【0033】
配向機能層22の下層には、第1基板1上に設けられた画素電極との間に電界を印加して液晶を駆動する対向電極24、絶縁膜26等を備える。対向電極24の下部には、カラーフィルタ層(不図示)、遮光層(不図示)等が形成されている。対向電極24は、スリット状の開口部27を有する。
【0034】
第1実施形態に係る配向機能層12、22は、電圧非印加時に液晶層3中の液晶を垂直方向に配向させる、いわゆる垂直配向膜である。一対の電極付き基板の表示領域には配向機能層12,22が形成されている。配向機能層12、22の材料は、垂直配向膜として機能するものであれば特に限定されないが、一例としてポリイミド、アルキル基やフルオロアルキル基を持つシラン化合物、オレフィン化合物等が挙げられる。耐熱性、剛直性の観点からは、ポリイミドを用いることが好ましい。
【0035】
高分子構造体13は、配向機能層12上に膜状あるいはネットワーク状に形成されている。高分子構造体23も同様に、配向機能層23上に膜状あるいはネットワーク状に形成されている。高分子構造体13、23は、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が配向機能層12,22による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタ方向を有するようにしたものである。第1実施形態においては、高分子構造体13、23によって、この界面近傍の液晶の配向が基板面の法線方向からチルト(傾斜)した方向にて安定化されるものである(図1C参照)。なお、ここでいう「チルト」とは、液晶分子4の集合体である液晶を巨視的に見た際の液晶のダイレクタの基板面の法線方向に対する傾きをいう。また、「膜状あるいはネットワーク状」とは、膜を構成していると言えない網目状の構造体も含むことを意図する。
【0036】
高分子構造体13、23は、下記式(1)により表わされる硬化性化合物を硬化することにより形成されたものである。下記式(1)の硬化性化合物を硬化することによって得られた高分子構造体13、23を用いることによって、電圧印加による繰り返し駆動に対しても、安定した配向制御(基板面の法線方向からチルト)を再現する機能を実現できる。また、下記式(1)の硬化性化合物から成る硬化物と液晶とによる複合体は、液晶の配向制御をより確実に行うためには、硬化物が液晶と相分離した複合体構造であることが好ましい。相分離した硬化物が一部の液晶を含んでいてもよいが、硬化物中の液晶含有量が多すぎると、硬化物の弾性率低下などによって配向制御の安定性が損なわれるおそれがある。硬化物中の液晶含有量を制限する面では、硬化性化合物が単独では液晶性を示さない方が好ましい。なお、特性に影響を与えない範囲において、下記式(1)の硬化性化合物から成る硬化物が、液晶中に分子分散したゲル構造が含まれていてもよい。
【化6】

【0037】
式(1)中のA、Aは、それぞれ独立に、外部エネルギーを加えることによって重合する硬化性官能基であればよく、特に限定されない。ここで外部エネルギーの好ましい例として、活性光線、加熱、電子線が挙げられる。これらは、単独あるいは組み合わせて使用できる。制御容易性の観点から活性光線照射により重合させる方法が好ましい。活性光線は、たとえば、紫外光、可視光である。取扱い容易性の観点からは、紫外光を用いることが好ましい。
【0038】
、Aの好ましい材料としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基(allyl group)等の外部エネルギーによって重合する硬化性官能基を挙げることができる。このうち、硬化速度を高めることができる点で特に好ましくは、アクリロイル基、メタクリロイル基である。式(1)の硬化性化合物は、2つの硬化部位を有する2官能性の化合物であることにより、硬化物の多くは架橋構造を示し、熱可塑性が抑制される。このため、幅広い温度領域において安定して液晶の配向を制御することができ好ましい。A、Aの部位の重合には、通常、重合開始剤が用いられる。
【0039】
Zは、メソゲン構造部である。このメソゲン構造部は、後述する液晶組成物中において液晶と硬化性化合物との分子の配向方向を揃えるために重要な役割を担う部位である。また、高分子構造体の弾性率を高めるために重要な役割を担う部分である。メソゲン構造部であるZは、これらの機能を有するものであればその構造は限定されないが、好ましい例として、水素の一部又は全部がメチル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい4,4'−ビフェニレン基や4,4'−ターフェニレン基、また、水素の一部又は全部がメチル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい4,4'−ビシクロヘキシレン基や4,4'−シクロへキシレン基、さらにフェニレン基やビフェニレン基、シクロヘキシレン基などがエステル結合やカーボネート結合などで連結した2価のメソゲン構造も挙げられる。
【0040】
式(1)中のR、Rは、それぞれ独立に、置換基としてメチル基またはエチル基を有していてもよい、炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基を示す。好ましい例としては、置換基を有さない直鎖状のアルキレン基として、エチレン基(ジメチレン基)、プロピレン基(トリメチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基)、ペンチレン基(ヘプタメチレン基)が挙げられる。置換基を有するアルキレン基として、メチルエチレン基、メチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、メチルブチレン基、ジメチルブチレン基、メチルペンチレン基、ジメチルペンチレン基、メチルペンチレン基、エチルエチレン基、エチルプロピレン基等が挙げられる。この中でも、置換基を有さない直鎖状のアルキレン基として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、または置換基を有するアルキレン基として、メチルエチレン基、エチルエチレン基が特に好ましい例として挙げられる。
【0041】
、Rの特に好ましい例として、下記式(2)下記式(3)で表わされる化合物を挙げることができる。
【化7】

【化8】

上記式(3)においては、R及びRとして1−メチルエチレン基の例を示しているが、2位に結合されている2−メチルエチレン基も同様に特に好ましい例として挙げることができる。また、RとRそれぞれ独立に、1−メチルエチレン基と、2−メチルエチレン基が混在しているものも特に好適な例として挙げられる。さらに、硬化性化合物として、上記式(3)、R及びRが2−メチルエチレン基の上記式(3)に対応する化合物、及び上記式(2)の少なくとも2つの組み合わせが任意の割合で混合されたものも、特に好適な例として挙げられる。
【0042】
なお、式(1)中のR、Rとして、上記範囲を超える炭素数のアルキレン基を用いると、硬化過程における硬化部位の分子運動性が向上し、紫外光照射に対する硬化反応性を高めることができる。一方で、硬化物の弾性率が低くなりすぎて液晶の配向制御の安定性が不充分となるおそれがある。また、R、Rのアルキレン基に結合する置換基を嵩高くしすぎると、硬化性化合物の液晶にたいする溶解性が損なわれたり、硬化物の弾性率が低くなったりするおそれがある。硬化物の弾性率が低いと、長時間の電圧印加に対して、液晶の配向変化により界面近傍の液晶配向を制御する高分子構造体自体も変形を受け、焼き付きなどの表示不良が発生しやすくなるおそれがある。
【0043】
液晶表示装置100は、第1基板1の画素電極と、第2基板2の対向電極24によって、基板面に対し垂直方向の電界が印加可能である。電圧非印加時には、図1Aに示すように、液晶層3中の高分子構造体13、23の界面近傍の液晶のダイレクタは、基板面の法線方向より僅かにチルトしている。一方、電圧印加時には、図1Bに示すように、液晶層3中の負の誘電率異方性を持つ液晶は、基板面に対してより水平方向に傾いた方位に配向する。このように、基板間に印加された電界に応じて、液晶の配向が制御される。
【0044】
高分子構造体13、23の界面近傍の液晶は、対向電極24に設けられたスリット状の開口部27、スリット状の画素電極によって、基板面からの観察において、複数の方位にチルトした配向を有している。これは、後述する製造方法において詳述するが、上記式(1)の硬化性化合物を硬化する際に、電圧印加して液晶と硬化性化合物よりなる組成物の配向を制御しながら、硬化物よりなる高分子構造体13、23を形成しているためである。この硬化物の配向状態を維持しながら硬化させることで得られる高分子構造体の配向方向への傾斜の方向を本明細書において「高分子構造体の傾斜方位」といい、高分子構造体のメソゲン構造部の長手方向を基板面に投影したときの方向を指すものとする。高分子構造体13,23の傾斜方位は、マルチ方位に限定されず、ニーズや用途に応じて1方位、2方位、4方位等と任意の配向を採用できる。未硬化状態における液晶と硬化性化合物よりなる組成物の配向方位を制御する方法としては、公知の方法を制限なく利用できる。例えば、上述したスリット状の電極やスリット状開口部を用いるほかに、異なる方向からのラビング処理を組み合わせたマルチラビング、光配向による配向機能層を偏光照射やパターン照射等によって2方位、4方位、マルチ方位等に配向させることができる。また、突起状や窪み状の構造体によってマルチ方位に配向させたりすることもできる。
【0045】
第1実施形態に係る上記式(1)の硬化性化合物を硬化して得られる高分子構造体13、23を設けることによって、電圧非印加時において、高分子構造体13、23の界面近傍の液晶のダイレクタの方向(図1C参照)を基板面からの観察においてマルチ方位にできる。なお、本明細書において「液晶のダイレクタの方向」とは、液晶のダイレクタを基板面に投影したときの方向をいうものとする。
【0046】
第1実施形態に係る上記式(1)の硬化性化合物を硬化して得られる高分子構造体13、23を配向機能層12、22上に設けることによって、電圧印加時において、液晶のダイレクタの方向を基板面からの観察においてマルチ方位にできる。その結果、広視野角の表示特性を実現できる。なお、電圧印加時の液晶のダイレクタの方向を基板面からの観察においてマルチ方位にする手段として、スリット状電極やスリット開口部(これらをまとめて「スリット状電極等」とも称する)を用いる例を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において公知の方法を制限なく使用できる。たとえば、スリット電極等に代わって、若しくはスリット電極等と併用して突起状等の構造体を用いてもよい。
【0047】
次に、第1実施形態に係る液晶表示装置100の製造方法の一例について説明する。但し、本発明は、以下の製造方法に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0048】
まず、液晶を駆動する電極対が形成された基板(たとえば、ITO基板)を用意する。次いで、配向機能層形成工程において、前記基板上に配向機能層を形成する。配向機能層の形成方法は、特に限定されず公知の方法を適用できる。たとえば、印刷法等により有機膜からなる塗膜を形成し、赤外線炉やホットプレート等により乾燥させる。
【0049】
続いて、シール材塗布工程、スペーサ散布工程等を経て、一対の基板を貼り合わせる。基板間の距離は特に限定されないが、たとえば、2〜50μm程度である。その後、液晶組成物を液晶注入口から注入し、液晶注入口を封止する。または、周縁部にシールを塗布した基板のシールに囲まれる面内に複数点に液晶組成物を滴下し、対向面内にあらかじめスペーサを形成した対向基板と、減圧環境下にてシールを介して一対の基板を貼り合わせてシールを硬化させることで、液晶組成物を挟持した積層基板を得てもよい。
【0050】
液晶組成物は、負の誘電率異方性を有する液晶と、式(1)で表わされる硬化性化合物を含むものとする。液晶としては、ネマティック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、強誘電液晶等を使用できる。液晶としては、1種類の単独化合物から構成してもよいし、2種以上の混合系としてもよい。混合系とする場合には、液晶全体として負の誘電率異方性を示すものを用いる。駆動電圧を低下させる面では、誘電率異方性の絶対値が大きい方が好ましい。誘電率異方性の絶対値が大きい液晶化合物として、シアノ基やフッ素や塩素などのハロゲン原子を置換基として有する化合物が化学的安定性から用いられる。シアノ基を有する液晶化合物は、大きな誘電異方性を示すものがある。また、フッ素原子を置換基として有する液晶化合物は、比抵抗が高く、TFTなどの能動素子による駆動に好適に用いられる。液晶組成物中には、硬化性化合物の硬化反応性を促進させるために重合開始剤を添加できる。液晶組成物は、その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、カイラル剤等の他の添加剤を適宜添加できる。
【0051】
高分子構造体13、23を配向機能層12、22表面上に形成することが好ましい。硬化性化合物の含有量が多すぎると、硬化後の高分子構造体が配向機能層の表面上だけでなく、一対の基板間の液晶層3全体中に高分子構造体が形成されることがあり、基板間の中心部分の液晶の配向に影響を与えて表示コントラストが低下するおそれがある。一方、硬化性化合物の含有量が少なすぎると、配向機能層の表面上に均質な高分子構造体が形成されず、充分な液晶配向の制御効果が得られない。液晶の配向制御に好適な高分子構造体13、23を安定して形成する観点から、液晶組成物全量に対して0.1質量%以上、5質量%以下の硬化性化合物を含有することが好ましい。より好ましい硬化性化合物の含有量は0.2質量%以上、2質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以上、1質量%以下である。
【0052】
液晶と未硬化の硬化性化合物よりなる液晶組成物は、液晶中における硬化反応性を向上させたり、硬化物の弾性率を調整したりするために、上記式(1)を満たす複数種の硬化性化合物を含有していてもよい。たとえば、R、Rの炭素結合数の長さが異なる2種類以上の硬化性化合物を含有していてもよい。
【0053】
液晶と未硬化の硬化性化合物の液晶組成物は、混合した後に均質な溶液であることが好ましい。また、液晶と未硬化の硬化性化合物の液晶組成物は、一対の基板間に挟持されるときに液晶相を示すものを用いると配向制御を行いやすく好ましい。
【0054】
活性光線照射により重合反応させる場合には、重合開始剤として、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般に光硬化樹脂に用いられる光重合開始剤を使用できる。一方、熱硬化の場合は、硬化部位の種類に応じて、パーオキサイド系、チオール系、アミン系、酸無水物系などの重合開始剤を使用でき、また、必要に応じてアミン類などの硬化助剤も使用できる。重合開始剤の含有量は、含有する未硬化の硬化性化合物に対して20質量%以下が好ましく、硬化後の硬化物の高い分子量や高い比抵抗が要求される場合、0.1質量%以上、10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上、5質量%以下が更に好ましい。
【0055】
次いで、硬化性化合物の硬化過程において、液晶の配向方向を制御する電圧を印加しつつ、硬化性化合物を硬化するために外部エネルギーを加える。硬化性化合物の硬化過程においては、電圧を印加しながら外部エネルギーを付加することが重要である。電圧により、液晶組成物中の液晶の配向が制御される。液晶の配向を制御した状態で、硬化性化合物を硬化する。外部エネルギーとしては、活性光線照射、電子線照射、加熱等を単独あるいは組み合わせて使用できる。取扱容易性の観点からは、活性光線照射が好ましく、紫外線等を好適に利用できる。また、活性光線照射と加熱による硬化とを組み合わせること適用できる。
【0056】
活性光線照射により、硬化性化合物を硬化させて高分子構造体を得る場合には、光源として高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプやケミカルランプ等を使用できる。
【0057】
活性光線照射により、硬化性化合物を硬化せしめる場合の光照射条件は、硬化性化合物や添加する光重合開始剤の種類に応じて設定する。光照射強度としては、0.1〜100mW/cmとすることが好ましい。0.1mW/cm未満では、硬化速度が遅く、高分子構造体を形成するのに多くの照射時間を要する。また、100mW/cmを超えると、液晶の分解劣化が誘発されるおそれがある。
【0058】
光照射により、液晶と未硬化の硬化性化合物からなる液晶組成物を硬化させる際の温度は、当該液晶組成物が均一な液晶相を示す温度範囲であることが好ましい。液晶組成物が均一な相溶状態を示す温度以下で硬化させると、硬化の前に一部の成分の相分離が起こり、均質な高分子構造体を得ることができないおそれがあるためである。また、均質な相溶状態であっても、当該液晶組成物が液晶相を示さない、例えば液晶相以上の温度、つまりアイソトロピック状態にて硬化工程を行った場合、液晶配向を電圧印加により充分に制御できず、所望の方位に液晶のダイレクタの方向を制御することができないおそれがある。光硬化により液晶組成物を硬化させる場合には、当該液晶組成物が液晶相を示すことが好ましく、熱硬化の場合には硬化温度においても液晶相を示すことが好ましい。
【0059】
図2Aに、硬化過程前の電圧非印加時の液晶表示装置の要部の模式的説明図を、図2Bに、硬化過程後の電圧非印加時の液晶表示装置の要部の模式的説明図をそれぞれ示す。硬化過程前の液晶組成物6は、液晶と未硬化の硬化性化合物5が相溶している。所定の電圧印加によって、第1基板1と第2基板2間において、基板面に対し垂直方向の電場が生じ、液晶は、基板1の法線面に対し印加電圧レベルに応じた傾き方向に配向する。これによって、未硬化の硬化性化合物5も、化合物構造中における環構造の相互作用から、分子長軸が液晶のダイレクタと揃うように配列する。そして、外部エネルギーを加えることによって未硬化の硬化性化合物5を硬化すると、図2Bに示すように、配向機能層12、22上に高分子構造体13、23が形成される。高分子構造体13、23近傍にある液晶のダイレクタが、高分子構造体13、23を設けることによって、前記配向機能層12、22による液晶の配向方向とは異なる方位、本実施形態のVAモードにおいては基板面の法線方向に対しマルチ方位にチルトして安定化する。高分子構造体13、23の界面近傍の液晶が基板面の法線方向に対し、マルチ方位にチルトした状態で安定化される。これにより、電圧印加によって液晶分子に配向トルクが発生する際に、配向変化方向を制御することができ、安定して広い視野角特性と良好な応答速度特性を示す液晶表示装置を提供できる。
【0060】
硬化反応時に印加する電圧を制御することによって、高分子構造体13、23界面近傍の液晶のダイレクタの方向(本実施形態であるVAモードにおいては基板面の法線方向に対する液晶分子のチルトの角度(プレチルト角θ))を調整できる。好ましい電圧としては、閾値電圧以上、閾値電圧より僅かに高い電圧が好ましい。閾値電圧より印加電圧が低すぎると、好ましい傾斜角度において高分子構造体13、23を形成することができないおそれがある。一方、閾値電圧より印加電圧が高すぎると、高分子構造体13、23の傾斜角度が大きくなりすぎて、電圧非印加時に入射光が光学変調して、遮光状態に配設した偏光板より光が漏れることなどで、液晶表示装置のコントラストが低下してしまう。
【0061】
その後、液晶セルに偏光板15、25を貼り付ける。そして、制御基板等の実装工程を経て、液晶表示パネルが完成する。液晶表示パネルに対し、バックライトユニット30を配設し、筺体に収納することにより、液晶表示装置100が完成する。
【0062】
なお、支持基板として、フィルム基板を用いる場合には、連続で供給される電極付き基板を2本のゴムロール等で挟み、その間にスペーサを分散させた液晶と未硬化の硬化性化合物との液晶組成物を供給して挟み込み、その後連続で重合処理を行うようにしてもよい。また、液晶組成物の注入法として、上記方法に代えて、液晶滴下法を用いてもよい。この場合、一対の基板のいずれかの内面に所定量の液晶組成物を滴下し、減圧下で、もう一方の基板をシール材により貼り合わせればよい。この場合、シール材の硬化と、液晶の硬化を同時に行ってもよい。
【0063】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、硬化性官能基とメソゲン構造部の間に短い炭素結合数を有する上記式(1)に示す硬化性化合物を用いることによって、表示性能を高められ、長期の使用においても特性変動の小さい、高信頼性の液晶光学装置を提供できることを見出した。
【0064】
第1実施形態に係る液晶表示装置によれば、高分子構造体13、23近傍にある液晶のダイレクタが、高分子構造体13、23を設けることにより、前記配向機能層12、22による液晶の配向方向とは異なる方位にて安定化する。しかも、高分子構造体13、23によって、電圧印加時における液晶の配向変化方向を予め所定方向に定めることができ、視野角改善や応答速度を改善することが可能となった。
【0065】
上記特許文献5の上記式(C)のような芳香族多環構造化合物においては、結合している環数が増えるほど紫外領域と短波長の可視領域の吸光係数が増大し、硬化に際して照射する紫外光により液晶分子が分解するなど劣化するおそれがある。液晶分子の分解は比抵抗の低下を招き、TFTなどの能動素子による液晶駆動においては電圧保持率の低下などが発生してコントラスト低下などのおそれがある。
【0066】
一方、第1実施形態に係る上記式(1)の硬化性化合物は、上記のような紫外領域と短波長の可視領域の吸光係数を抑制できると共に、既知の方法により比較的容易に合成できる。さらに、未硬化の硬化性化合物として上記式(1)を用いることにより、液晶と未硬化の硬化性化合物よりなる液晶組成物の相溶性を高めることができ、硬化性化合物の硬化において、液晶組成物の配向制御を容易に行えるため好ましい。
【0067】
また、第1実施形態に係る高分子構造体13、23は、基板面の法線方向に対し電圧非印加の状態で一つ以上の方位に傾斜しているので、垂直配向機能層のみにより配向方向が制御される従来の液晶表示装置と比較して、電圧印加時の液晶の配向変化方向を確実に制御でき、応答特性を向上させることができる。
【0068】
上記特許文献4においては、硬化性化合物中における硬化性官能基と環構造が直接結合しているために、当該硬化性官能基部位の運動性が、当該環構造の剛直性や立体的な嵩高さのために制限され、硬化時の反応性が損なわれるおそれがある。硬化反応性の低下により、硬化後の液晶層中に未硬化の硬化性化合物が残留しやすく、長期の使用において経時的に配向方向に変化が生じたり、長時間の電圧印加により動作時の液晶配が焼き付いたりするなどの表示性能の劣化が生じるおそれがあった。また、未硬化の硬化性化合物の残留を抑制するためには、より大きな照射エネルギー量を必要する場合があり、硬化時の紫外光などの光照射により液晶分子の分解劣化を誘発するおそれもあった。さらに、硬化後の高分子構造体としても、架橋点間の分子量が著しく小さいために、硬化過程での立体障害より、硬化物中に残留する未硬化部位が多くなり、経時的に変形したり、硬化後の高分子構造体の弾性率が高くなりすぎて微小な変形を許容できず脆くなったりするおそれがあった。
【0069】
一方、第1実施形態に係る上記式(1)の硬化性化合物によれば、メソゲン構造部ZとA,Aで表わされる硬化性官能基との間に、O原子を介して、メチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい炭素結合数が2〜5の直鎖状のアルキレン基を導入することで、硬化部位の分子運動性を高め、硬化時の反応性を向上させることができ、硬化に際して必要なエネルギー量を低減できる。また、未硬化の硬化性化合物の残留や、未反応の硬化性官能基部位を低減できるため、当該液晶表示装置の長期間の使用においても初期の液晶配向を好適に保持することができ、長時間の電圧印加により動作時の液晶配向が焼き付くなどの表示性能の劣化を効果的に防止できる。
【0070】
第1実施形態に係る液晶表示装置によれば、上記式(1)中のメソゲン構造部Zと、A,Aで表わされる硬化性官能基との間に、O原子を介して、メチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい炭素数が2〜5の直鎖状のアルキレン基を導入しているために、硬化部位の運動性を高めつつ、硬化後における高分子構造体の弾性率を高く維持できる。当該アルキレン基の炭素結合数が多すぎると、架橋点間の分子量が大きくなりすぎ、高分子構造体の弾性率が低下する。また、メソゲン構造部Zと硬化性官能基(A、A)との間に、O原子を介して、メチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい炭素数が2〜5の直鎖状のアルキレン基を導入することで、硬化後の高分子構造体が微小変形に対しても弾性変形を保持することができ、長時間の電圧印加により動作時の液晶配向が焼き付くなどの表示性能の劣化を防止でき、長期間の使用においても信頼性の高い液晶表示装置を提供できる。
【0071】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る液晶光学装置として、液晶調光装置の一例について説明する。なお、以降の図において、上記実施形態と同一の要素部材については同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0072】
図3に、第2実施形態に係る液晶調光装置の電圧非印加時の要部の模式的断面図を示す。第2実施形態に係る液晶調光装置100aは、電圧非印加時には透過状態であり、電圧印加時には均一な光散乱状態を呈するものである。
【0073】
液晶調光装置100aは、図3に示すように、互いに対向配置される透明な第1基板1a、透明な第2基板2aを有する。そして、この一対の基板間の周縁に形成されたシール材(不図示)により両基板が貼り合わされ、シール材、第1基板1a、第2基板2aによって囲まれた空間に液晶層3が封止されている。第1基板1aと第2基板2aは、面内スペーサである球状スペーサ(不図示)柱状スペーサ、または壁状スペーサによって、所定の間隔となるように保持されている。なお、第1基板と第2基板のいずれかは、不透明な材料であってもよい。また、これらの支持基板11,21の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。
【0074】
第1基板1aは、透明な支持基板11を有する。支持基板11の第2基板2aとの対向面上には、液晶を駆動するためのITO等の透明導電膜からなる第1電極16や、絶縁膜17が形成されている。そして、第1基板1aの最上層に配向機能層12が形成されている。配向機能層12上には、第1実施形態と同様に、高分子構造体13等が形成されている。
【0075】
第2基板2aは、透明な支持基板21を有する。支持基板21の第1基板1aとの対向面上には、液晶を駆動するためのITO等の透明導電膜からなる第2電極26や、絶縁膜27が形成されている。そして、第2基板1aの最上層に配向機能層22が形成されている。配向機能層22上には、第1実施形態と同様に、高分子構造体23が形成されている。
【0076】
第1電極16、第2電極26は、それぞれストライプ状または全面に形成されており、互いに直交する方向に配設されている。第1電極16及び第2電極26のいずれか一方は、Alや誘電体多層膜の反射電極であってもよい。電極の形状は、一例であって、基板面全体に電極を設けたり、特定のマークやキャラクターの形状を表示できる電極形状としたりしてもよい。第1電極16、第2電極26上は、それぞれ絶縁膜(不図示)によって被覆されている。
【0077】
液晶光学装置100aは、フラットな形状であるが、用途によっては一部または全部に曲率を有していてもよい。すなわち、3次元の形状であってもよい。ただし、この場合においても、第1基板1a及び第2基板2aの内面間距離すなわち液晶層3の厚さ(セルギャップ)はほぼ一定である。
【0078】
第2実施形態に係る液晶調光装置100aによれば、上記式(1)の硬化性化合物を硬化して得られる高分子構造体13、23を配向機能層12、22上に形成しているので、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、上記実施形態においては、液晶表示装置、液晶調光装置の例について説明したが、液晶光学シャッター等の液晶光学装置全般に本発明を適用できる。また、上記実施形態に係るVAモードに限定されず、広義のVAモード全般について本発明を適用できる。また、IPSモード、TNモード、STNモード、FFSモード、OCBモード等の他のモードに適用することも可能である。また、配向機能層として垂直配向膜の例を説明したが、各モードに応じて、適宜最適な配向機能層を選択できる。また、高分子構造体として、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍における液晶のダイレクタの方向を、前記基板面の法線方向よりチルトさせる例で説明したが、これは説明の便宜上のものである。すなわち、本発明に係る高分子構造体は、上記式(1)により表わされる硬化性化合物を硬化することにより形成されたものであり、電圧非印加時において、高分子構造体の界面近傍における液晶が配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有するものであればよい。また、上記実施形態においては、高分子構造体によって高分子構造体の界面近傍における液晶のダイレクタの方向を制御するが、この高分子構造体の界面近傍の液晶のダイレクタの方向の制御に伴って、高分子構造体近傍以外の液晶のダイレクタの方向が制御されるものを排除するものではない。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
≪実施例1≫
以下の方法によって、評価用セルを作製した。具体的には、清浄なITO透明電極上に垂直配向用ポリイミド薄膜を形成し、基板表面において微小なプレチルト角を与えるようにラビング処理を施した一対の基板を準備した。次いで、基板面に形成されたポリイミド薄膜が対向するように、一対の基板を貼り合わせて評価用セルである液晶セルを作製した。この液晶セルの配向機能層のプレチルト角は、基板面に対する垂直方向を0°とした場合に0.5°以下であり、セルギャップは2.7μmであった。
【0082】
次いで、VA−液晶表示用の負の誘電異方性を持つネマティック液晶(Δε=−2.1,Δn=0.116,ネマティック−アイソトロピック相転移温度=103.4℃,粘度=18.8mPa・s)と、式(4)で表わされる硬化性化合物と、重合開始剤としてベンゾインイソプロプルエーテル(BiPE,東京化成工業(株)製)とを混合することにより、均一な液晶組成物を調製した。硬化性化合物の添加量は、液晶組成物のトータル量に対し0.5質量%とした。また、重合開始剤の添加量は、硬化性化合物の添加量に対して1質量%とした。
【化9】

【0083】
その後、液晶組成物を評価用セルに真空注入法にて注入した。注入口を液晶セル用のシール剤を塗布した後、評価用セルの対向基板間に3Vrms,200Hz条件の電圧を印加しながら、室温25℃にてHg−Xeランプ光源を用いて紫外光を照射した。当該液晶組成物の閾電圧は3Vrmsよりも小さい値である。25℃にて、365nmでの照射強度条件は3mW/cmで10分間照射した。次いで、当該液晶セルを偏光軸が直交するように一対の基板間で挟持して張り合わせた。このとき、前記ポリイミド薄膜のラビング方向と偏光軸の成す角度が45°となるようにした。これらの工程を経て、液晶表示装置を得た。
【0084】
≪実施例2≫
実施例1と同じ液晶と、式(5)で表わされる硬化性化合物と、実施例1と同様の重合開始剤を、実施例1と同様の混合比で混合することにより、均一な液晶組成物を得た。そして、実施例1と同様の方法により液晶表示装置を得た。
【化10】

【0085】
≪比較例1≫
実施例1と同じ液晶と、式(B)で表わされる硬化性化合物(4,4'−ビスアクリロイルオキシビフェニル)と、実施例1と同じ重合開始剤を、実施例1と同様の混合比で混合することにより、均一な液晶組成物を得た。そして、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置を得た。
【化11】

【0086】
≪比較例2≫
実施例1と同じ液晶と、下記式(D)で表わされる硬化性化合物と、実施例1と同じ重合開始剤を、実施例1と同様の混合比で混合することにより、均一な液晶組成物を得た。そして、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置を得た。
【化12】

【0087】
≪比較例3≫
実施例1と同じ液晶に硬化性化合物と重合開始剤を混合せずに用いて液晶表示装置を作製した。作製条件は、実施例1と全て同一条件とした。
【0088】
<樹脂の硬化反応性評価>
実施例1及び実施例2、並びに比較例1及び比較例2に係る硬化性化合物に対し、液晶などの非硬化性媒体中における、紫外光照射に対する硬化反応性(重合性)を、貯蔵せん断弾性率(G')の測定により評価した。貯蔵せん断弾性率の測定は、モジュラーレオメーター(アントンパール社製、Physica MCR301)を用いて測定した。
【0089】
硬化反応性の評価用の組成物を、以下の方法により調製した。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(東京化成工業(株)製)に、実施例1に係る硬化性化合物を9質量%、および下記式(E)に示される硬化性化合物(新中村化学(株)製:A-PTMG-65)を1質量%添加した。さらに、硬化性化合物の総量に対して1質量%となるように重合開始剤としてベンゾインイソプロピルエーテル(BiPE、東京化成工業(株)製)を添加して、評価用組成物を調製した。次に、当該組成物を100℃に保持して1時間加熱撹拌溶解し、実施例1に係る硬化性組成物を含有する均一な評価用組成液を得た。実施例2、比較例1及び比較例2に係る硬化性組成物についても同様に評価するために、前述と同様の方法にて均一な評価用組成物を調製した。
【化13】

【0090】
なお、本硬化性の評価において、比較例1に係る硬化性化合物が、液晶への溶解度が室温にて2質量%以下と低く、モジュラーレオメーターでの弾性率測定が困難なため、弾性率を評価可能な含有量とすることができない。そのため、液晶を媒質とせず、代替としてDMF溶液を用いた。換言すると、比較例1に係る硬化性化合物から得られる硬化性化合物が溶解可能な媒質としてDMFを共通溶媒として用いた。また、比較例1に係る硬化性化合物から得られる硬化物は架橋点間分子量が小さいこともあり、非常に脆い。このため、粘弾性測定での印加歪みにより、高分子構造体の形状が破壊され、測定ができない。そこで比較的柔軟な硬化物が得られる上記式(E)を添加することで粘弾性測定可能な評価用組成物を調製した。
【0091】
貯蔵せん断弾性率(G')の測定は、以下のように行った。上述の各評価組成液をソーダライムガラス製のステージと測定用スピンドル(アントンパール社製、D-PP12)の間隙に(0.4mmに設定)挟持し、窒素雰囲気下25℃環境にて、当該ステージ下部に設置した紫外光源により波長365nmにおける照度が0.3mW/cmとなる条件にて紫外光を照射した。照射しながら、1%の動的せん断ひずみを印加して紫外光照射時間に対する貯蔵せん断弾性率(G')を測定した。紫外光照射時間1200sec後に示す貯蔵せん断弾性率値を飽和貯蔵せん断弾性率(G'max)とし、紫外光照射時間毎の貯蔵せん断弾性率(G')をG'maxで規格化することで各評価用組成物の硬化度を算出した。なお、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2に係る各評価用組成物から、紫外光照射によって、非硬化性媒体であるDMFを含んだフィルム状の硬化性化合物が得られた。
【0092】
図4は、各評価用組成物における、紫外光照射時間に対する貯蔵せん断弾性率の変化をプロットしたものである。また、各評価用組成物において、紫外光照射時間に対する硬化度をプロットしたグラフを図5に示す。図4及び図5より、以下の知見が得られた。
【0093】
実施例1、実施例2及び比較例2に係る評価用組成物においては、比較例1に係る評価用組成物と比較して、紫外光照射の初期段階にて、硬化に伴う貯蔵せん断弾性率の増加が観察され、より短時間の照射にて貯蔵せん断弾性率が飽和値に達した。図5より比較例2が最も重合反応性が高く、かつ、早期に貯蔵せん断弾性率が飽和値に達する照射時間が最も短いことが示されている。メソゲン構造部と硬化性官能基の間に比較的長いC6のアルキレン基を導入することにより、硬化部位の反応性が高められた結果と考えられる。図4、および図5より、メソゲン構造部である4,4'−ビフェニレン基と、硬化性官能基(本例においては、アクリロイロキシ基)間のスペーサが硬化反応性、及び飽和値の貯蔵せん断弾性率に大きな影響を及ぼしていることが示唆される。すなわち、メソゲン構造部と硬化性官能基間に存在するスペーサが長いほど、硬化性部位の分子運動性が高くなるため、より短時間の紫外光照射において硬化反応が進行することが示唆される。
【0094】
比較例1に係る硬化性化合物は、メソゲン構造部である4,4'−ビフェニレン基と、硬化性官能基がアルキレン鎖を介さずに直接結合しているため、硬化部位の分子運動性が制限されて硬化反応性が低くなると考えられる。
【0095】
実施例1に係る評価液は、実施例2に係る評価液に比して硬化反応性が若干高いという結果が得られた。これは、実施例2に係る硬化性化合物は、R,Rに相当する置換基が、メチルエチレン基となっており、エチレン基より嵩高いためと考えられる。すなわち、嵩高さ故に、回転運動性が実施例1に比して制限されているためと考えられる。
【0096】
(プレチルト角評価)
実施例1、実施例2、及び比較例1〜3で得られたLCD素子に対し、基板表面の液晶配向のプレチルト角測定を実施した。プレチルト角測定評価は、クリスタルローテーション法(Crystal Rotation Method)を用いた。プレチルト角は、基板面に対する法線方向を0°と定義して算出した。その結果を表1に示す。なお、プレチルト角評価は、偏光板を貼合前の液晶表示装置を用いて行った。
【表1】

【0097】
表1より、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2に係る各素子は、液晶単体を注入した比較例3の素子に比して、いずれも大きなプレチルト角を示すことが明らかとなった。すなわち、配向機能層上に高分子構造体を形成することにより、液晶が配向機能層による配向方向(比較例3)とは異なるダイレクタの方向(プレチルト角)を有する液晶表示装置を得たことが分かる。
【0098】
(応答速度評価)
上記と同じサンプルを用いて、25℃環境における、電圧印加後に光学変化が観測される応答時間(ms:ミリ秒)を測定した結果を表2に示す。電圧非印加時における液晶表示装置の飽和輝度を相対輝度0%、任意の印加電圧時の飽和輝度を相対輝度100%とする。なお、表2中のRiseは、相対輝度が0%から90%に達するまでの時間(駆動電圧が印加されてから要求される相対輝度変化の90%に達するまでの時間)を示し、表2中のDecayは、相対輝度が100%から10%に達するまでの時間(電圧印加状態から電圧を切った際の相対輝度変化の90%に達するまでの時間)を示す。また、表2中のTotalは、RiseとDecayの和を示す。評価時の駆動電圧は6Vであった。
【表2】

【0099】
実施例1、実施例2及び比較例1〜2に係るLCD素子は、液晶単体を注入した比較例3に係る液晶表示装置と比較して、いずれの液晶表示装置においてもRiseが改善されており、特に、実施例1、実施例2では顕著に改善されている。
【0100】
更に、Decayにおいても実施例1〜2では、比較例1〜3に比して応答速度が改善されており、式(1)に示す硬化性化合物より形成される高分子構造体が、好適に電圧印加時における液晶の配向変化方向を制御していることが示された。
【0101】
比較例2に係る硬化性化合物は、メソゲン構造部と硬化性官能基間にC6のアルキレン基を有することから、実施例1、実施例2及び比較例1に係る硬化性化合物に比して、硬化により得られる高分子構造体の弾性率が低くなりやすい。さらに硬化部位の反応性が高いために、硬化過程において液晶分子を含んだ硬化物が形成されることがあり、液晶の配向制御が高分子構造体に含まれる液晶分子により制限されることがある。このために、比較例2のDecayがやや大きい値を示すと考えられる。
【0102】
((信頼性評価))
実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2に係る各液晶表示装置に対し、10Vrms,100Hzの電圧を印加しながら約80℃の恒温槽内に通電状態で500時間保持した(通電保存という)。取り出し前後での印加電圧に対する透過率特性変化、又は液晶の配向状態を静電容量値変化にて観測した。
【0103】
(光学特性変化)
通電保存前後における印加電圧値に対する液晶表示装置の透過率の変化量を図6に示す。印加電圧値に対する透過率の変化量は、通電保存前の透過率Tiと、通電保存後における透過率Tとの差(T−Ti)=ΔTを、初期の透過率Tiにて規格化(ΔT/Ti)して算出した。ΔT/Tiが0%に近いほど、通電保存前後での透過率変化が小さい、すなわち通電保存における信頼性が良好であることを示す。
【0104】
図6より、実施例1及び実施例2に係る液晶表示装置の電圧印加に対する透過率応答の変化(ΔT/Ti)が、比較例1及び比較例2に係る液晶表示装置に比して著しく改善していた。具体的には、比較例1及び比較例2に係る液晶表示装置は、素子の駆動閾値電圧である3V以下の電圧印加時においてΔT/Tiが高い値であるのに対し、実施例1及び実施例2に係る液晶表示装置は、ΔT/Tiが0に近い値を示している。比較例1及び比較例2に係る高分子構造体は、通電保存において、通電時の液晶配向が高分子構造体の界面の影響を受けて、通電保存後の非通電時において初期の液晶配向が維持できなくなったと考えられる。すなわち、液晶のダイレクタが変化して、Tが大きくなり、ΔT/Tiが高い値になったと考えられる。通電保存において、信頼性評価後の実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2に比して信頼性が良好であった。
【0105】
実施例1及び実施例2において、比較例1に比して透過率応答の変化(ΔT/Ti)を改善できた理由は、運動性の高いアルキレン基を導入することによるものと考えられる。換言すると、運動性の高いアルキレン基の導入によって、硬化性化合物の硬化反応性が向上して、液晶相中に残存する未硬化の硬化性化合物を減少させることができる。かつ、アルキレン基のスペーサ長を制限することで硬化物の弾性率を高めることができ、通電保存での信頼性を改善できる。
【符号の説明】
【0106】
1 第1基板
2 第2基板
3 液晶層
4 液晶分子
5 硬化性化合物
6 液晶組成物
11 支持基板
12 配向機能層
13 高分子構造体
15 偏光板
21 支持基板
22 配向機能層
23 高分子構造体
24 対向電極
25 偏光板
30 バックライトユニット
100 液晶表示装置
100a 液晶調光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶を駆動する電極対が形成された一対の基板と、
前記一対の基板に挟持された液晶層と、
前記一対の基板間の対向面に形成され、前記液晶を配向させる配向機能層と、
前記配向機能層上に形成された高分子構造体と、を備え、
前記高分子構造体は、下記式(1)により表わされる硬化性化合物を硬化することにより形成されたものであり、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有する液晶光学装置。
【化14】

(式中、A、Aは、それぞれ独立に、前記外部エネルギーによって重合する硬化性官能基であり、R、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基を有していてもよい炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基であり、Zは2価のメソゲン構造部を示す。)
【請求項2】
前記A、Aは、それぞれ独立に、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基のいずれかである、請求項1に記載の液晶光学装置。
【請求項3】
前記硬化性化合物の硬化物は、前記液晶と前記硬化性化合物の合計に対して、0.2質量%以上、2質量%以下含有されている、請求項1又は2に記載の液晶光学装置。
【請求項4】
前記硬化性化合物の硬化物は、少なくとも2つ以上のダイレクタの方向を液晶に生じせしめる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶光学装置。
【請求項5】
前記A、Aは、それぞれ独立に、アクリロイル基、メタクリロイル基のいずれかであり、かつ、前記R、Rは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい直鎖状のエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基のいずれかである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶光学装置。
【請求項6】
前記Zは、水素の一部、又は全部がメチル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい4、4'−ビフェニレン基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶光学装置。
【請求項7】
前記一対の基板の外側主面には、一対の偏光板が配設され、かつ、電圧非印加時において、当該一対の偏光板を透過する光の少なくとも一部が偏光板に吸収される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶光学装置。
【請求項8】
前記配向機能層は、垂直配向膜であり、前記液晶は、負の誘電率異方性を有するものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶光学装置。
【請求項9】
液晶を配向させる配向機能層を、液晶を駆動する電極対が形成された一対の基板が対向する面側に形成する工程と、
前記配向機能層を形成した一対の基板を貼り合わせ、当該一対の基板間に液晶と、下記式(1)で表わされる硬化性化合物とを含有する液晶組成物を供給する工程と、
一対の基板間に電圧を印加して前記液晶組成物中の前記液晶を所定の配向に制御しつつ、前記硬化性化合物の硬化反応を行うための外部エネルギーを加えて前記配向機能層上に高分子構造体を形成する工程と、を備え、
前記高分子構造体は、電圧非印加時において、当該高分子構造体の界面近傍の液晶が前記配向機能層による配向方向とは異なる少なくとも一つのダイレクタの方向を有する液晶光学装置の製造方法。
【化15】

(式中、A、Aは、それぞれ独立に、前記外部エネルギーによって重合する硬化性官能基であり、R、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基を有していてもよい炭素数2〜5の直鎖状のアルキレン基であり、Zは2価のメソゲン構造部を示す。)
【請求項10】
前記硬化性化合物は、前記液晶組成物全量に対して0.2質量%以上、2質量%以下の添加量である、請求項9に記載の液晶光学装置の製造方法。
【請求項11】
前記A、Aは、それぞれ独立に、アクリロイル基、メタクリロイル基のいずれかであり、かつ、前記R、Rは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を置換基として有していてもよい直鎖状のエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基のいずれかである、請求項9又は10に記載の液晶光学装置の製造方法。
【請求項12】
前記外部エネルギーは、活性光線照射である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の液晶光学装置の製造方法。
【請求項13】
前記液晶組成物が、前期外部エネルギーの印加により前記硬化性化合物の硬化を促進する硬化剤触媒をさらに含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の液晶光学装置の製造方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の液晶光学装置の製造方法により製造された液晶光学装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−220673(P2012−220673A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85518(P2011−85518)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000103747)京セラディスプレイ株式会社 (843)
【Fターム(参考)】