説明

液晶性樹脂アロイ組成物及びフィルム

【課題】成形体の成形収縮率、曲げたわみが小さく、引張伸びが比較的大きな液晶性樹脂アロイ組成物及び面方向の線膨張係数に異方性がなく、厚さ方向の線膨張係数も小さいフィルムを提供する。
【解決手段】液晶性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)ならびに微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子からなるフィラーの少なくとも1種(C)を含む樹脂組成物であって、(1)前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種、(2)前記フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.9μmである、ことを特徴とする液晶性樹脂アロイ組成物に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂アロイ組成物及び当該組成物から得られるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性樹脂は、一般にLCPともいわれ、溶融状態あるいは溶液状態で液晶性を示す樹脂である。特に、溶融状態を示すサーモトロピック液晶性樹脂は高強度、高耐熱、高絶縁、低吸水率、高ガスバリアー性等の優れた性質をもっており、すでに射出成型部品あるいは繊維として実用化されている。また、この液晶性樹脂を用いたフィルムも、例えば電子材料、フレキシブルプリントサーキット(FPC)、包装材料等としてその用途が期待されている。
【0003】
ところが、液晶性樹脂は、溶融した状態で押出されると、そのせん断方向に著しく配向し、フィルムに裂け目が入ったり、しわがよる等の外観上の問題、フィルムの配向方向(フィルムの長手方向)(MD)とフィルム配向方向と垂直方向(フィルムの幅方向)(TD)の物性に大きな異方性が生じる等の問題がある。
【0004】
そこで、この異方性を緩和する技術としていくつかの方法が提案されている。例えば、インフレーションによるもの[特公平01-34134号公報(特許文献1)、特開平03-152131号公報(特許文献2)、特開平05-43664号公報(特許文献3)]、回転ダイを使ったインフレーションによるもの[特開昭63-199622号公報(特許文献4)、特開平01-130930号公報(特許文献5)、特開平02-89616号公報(特許文献6)、特平04-506779号公報(特許文献7)]、多層フラットダイの各層の配向を交差させる方法[特開平02-89617号公報(特許文献8)、特開昭63-264323号公報(特許文献9)]、フラットダイのランド部で横方向に磁場をかける方法[特開平02-89617号公報(特許文献10)]、また、ポリエステル等の非液晶性樹脂と液晶性樹脂を共押出する方法[特開昭63-31729号公報(特許文献11)、特開平02-178016号公報(特許文献12)]、液晶性樹脂と合成樹脂のフィルムのラミネート体を延伸する方法[特開平07-323506号公報(特許文献13)、特開平09-131789号公報(特許文献14)]等が提案されている。
【0005】
また、液晶性樹脂と他の熱可塑性樹脂とをブレンドする方法についても、いくつかの提案がなされている。例えば、重なった成形温度を持った熱可塑性樹脂(B)とのブレンド[特開昭56-115357号公報(特許文献15)]、PEI(ポリエーテルイミド)とのブレンド[特開昭63-215769号公報(特許文献16)、特開昭64-1758号公報(特許文献17)、特開平01-301749号公報(特許文献18)]、ポリスルホンとのブレンド[特開昭57-40555号公報(特許文献19)、特開平01-252657号公報(特許文献20)]等がある。
【0006】
しかし、これらは、いずれも機械的特性又は電気的特性の向上及び加工性の向上等を目的としたものであり、用途にフィルムの記載はあるものの、実施例においてフィルムにしたものはない。
【0007】
また、液晶性樹脂と他の熱可塑性樹脂とのブレンドをフィルムとしているものについては、特平06-506498号公報(特許文献21)等がある。ところが、逆回転ダイを用いたフィルム製法であり、基本的に多層構造のフィルムとなっているため、層間剥離の可能性が大きい。また、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)等の耐熱性の低い樹脂をブレンドした場合は、フィルムそのものの耐熱性が低下する上、溶融加工中のポリマーブレンドの熱安定性が低下するため、充分な品質のフィルムを作ることが容易ではない。
【0008】
その他にも、液晶性樹脂と他の熱可塑性樹脂のブレンドをフィルムとしているものについては特開平08-337710号公報(特許文献22)がある。しかし、この場合の熱可塑性樹脂としては、グリシジル基をもったエチレン共重合体について詳細に記載されており、またその実施例についてもグリシジル基を持ったエチレン共重合体についてのみ記載されている。このような樹脂はエチレン共重合を基本骨格としたものであるから耐熱性が低く、満足した生産性や品質のフィルムを作ることは難しい。また、この文献においても、液晶性樹脂の溶融時の特異な粘度挙動を改良し、加工性を改善することについて記載されている。
【0009】
以上のように、これまでに異方性を緩和した液晶性樹脂フィルムの製法が種々提案されているが、いずれのフィルムも以下に示すような問題を持つ。
【0010】
一般に、液晶性樹脂の特徴として低い線膨張係数が挙げられるが、これは樹脂が配向している方向についての特徴であり、配向していない方向ではむしろ他の樹脂に比較して、線膨張係数は大きいことが多い。また、液晶性樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて明確なガラス転移点(すなわち、弾性率が急に低下する温度)を持たず、温度上昇によって徐々に弾性率が低下する欠点がある。
【0011】
最近、これらの欠点を改良するため、液晶性樹脂とポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート及びポリフェニレンサルファイドのような耐熱性熱可塑性樹脂(B)を25〜55重量%配合してなるフィルムが提案されている。[特開2004-175995号公報(特許文献23)]、この提案によりフィルムのMDとTDの両方向の線膨張係数を5〜25ppmにおさえ、かつフィルムの厚さ方向の線膨張係数が270ppmを越えないフィルムが見出された。
【0012】
しかしながら、MD、TD方向の線膨張係数は最大25ppmと金属導体に比べ、大きく、厚さ方向の線膨張係数も最大270ppmであり、まだまだ実用上の問題点を有している。
【特許文献1】特公平01-34134号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平03-152131号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平05-43664号公報(請求項1)
【特許文献4】特開昭63-199622号公報(請求項1)
【特許文献5】特開平01-130930号公報(請求項1)
【特許文献6】特開平02-89616号公報(請求項1)
【特許文献7】特表平04-506779号公報(請求項1)
【特許文献8】特開平02-89617号公報(請求項1)
【特許文献9】特開昭63-264323号公報(請求項1)
【特許文献10】特開平02-89617号公報(請求項1)
【特許文献11】特開昭63-31729号公報(請求項1)
【特許文献12】特開平02-178016号公報(請求項1)
【特許文献13】特開平07-323506号公報(請求項1)
【特許文献14】特開平09-131789号公報(請求項1)
【特許文献15】特開昭56-115357号公報(請求項1)
【特許文献16】特開昭63-215769号公報(請求項1)
【特許文献17】特開昭64-1758号公報(請求項1)
【特許文献18】特開平01-301749号公報(請求項1)
【特許文献19】特開昭57-40555号公報(請求項1)
【特許文献20】特開平01-252657号公報(請求項1)
【特許文献21】特表平06-506498号公報(請求項1)
【特許文献22】特開平08-337710号公報(請求項1)
【特許文献23】特開2004-175995号公報(請求項1)
【特許文献24】特開2002-69309号公報(段落0028〜0030)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、成形収縮率、伸びたわみが小さく、引張伸びが比較的大きな液晶性樹脂アロイ組成物及び面方向の線膨張係数に異方性がなく、厚さ方向の線膨張係数も小さなフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の液晶性樹脂アロイ組成物を調製することにより、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の新規な液晶性樹脂アロイ組成物及び該フィルムに係る。
1. 液晶性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)ならびに微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子からなるフィラーの少なくとも1種(C)を含む樹脂組成物であって、
(1)前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種、
(2)前記フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.9μmである、
ことを特徴とする液晶性樹脂アロイ組成物。
2. 液晶性樹脂(A)が、融点が250℃以上であるサーモトロピック液晶性樹脂である、前記項1に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
3. 液晶性樹脂(A)の含有量が、当該樹脂組成物中50〜60重量%である、前記項1又は2に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
4. 熱可塑性樹脂(B)の含有量が、(A)+(B)の合計100重量%のうち30〜50重量%である、前記項1〜3のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
5. フィラー(C)の含有量が、(A)+(B)の合計100重量部に対して10〜50重量部である、前記項1〜4のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
6. フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.4μm粒子径である、前記項1〜5記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
7. 前記項1〜6のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物を成形して得られるフィルム。
8. 成形収縮率が0.30%以下であり、曲げたわみが3.6%以下であり、かつ引張伸びが4.0%以上である、前記項7記載のフィルム。
9. フィルムMD(フィルムの長手方向)とTD(フィルムの幅方向)の両方向の線膨張係数の差が10ppm以下であり、かつ、フィルムの厚さ方向の線膨張係数が200ppm以下である、前記項7又は8に記載のフィルム。
10. フィラーが、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が0.1〜0.9μmであるタルク微粉末であって、
前記タルク微粉末を大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置した後のタルク微粉末Aを発振周波数45kHz−定格出力100Wの超音波により1分間分散して得られたタルク微粉末Bのメディアン径D5045kHzと、さらに前記タルク微粉末Bを発振周波数19.5kHz−定格出力300Wの超音波により3分間分散して得られたタルク微粉末Cの前記メディアン径D5019.5kHzとの比[D5019.5kHz/D5045kHz]が0.88以上である、前記項1〜4のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
11. 前記タルク微粉末のアスペクト比が15以上である、前記項5に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
12. 前記タルク微粉末のかさ比重が0.12以下である、前記項5又は6に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、特に、液晶性樹脂に特定のフィラーを含む組成を採用していることから、優れた機械的特性、電気的特性等を発揮する材料を提供することができる。特に、本発明組成物から得られるフィルム(例えば、押出成形してなるフィルム)は、そのフィルムのMD、TD方向及び厚さ方向の線膨張係数を低減することにより、応力を緩和することができる。このフィルムは、これを積層して用いる用途、例えば多層配線板の用途において有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の液晶性樹脂アロイ組成物は、液晶性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)ならびに微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子からなるフィラーの少なくとも1種(C)を含む樹脂組成物であって、
(1)前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種、
(2)前記フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.9μmである、
ことを特徴とする。
【0018】
液晶性樹脂(A)
液晶性樹脂(LCP)としては、融点が250℃以上のサーモトロピック液晶性樹脂が好ましい。このような樹脂は、公知の各種のものを用いることができる。このうち、融点280℃〜380℃の液晶性樹脂が好ましい。液晶性樹脂としては、例えば芳香族ジオール、芳香族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等のモノマーから合成される、溶融時に液晶性を示す芳香族ポリエステルがある。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)とテレフタル酸とビフェニールからなる第1タイプのもの(下記式1)、PHBと2、6-ヒドロキシナフトエ酸からなる第2タイプのもの(下記式2)、PHBとテレフタル酸とエチレングリコールからなる第3タイプのもの(下記式3)が例示される。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
液晶性樹脂(A)の含有量は、用いる液晶性樹脂の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は当該樹脂組成物中50〜75重量%、特に50〜60重量%とすることが望ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂(B)
熱可塑性樹脂(B)としては、液晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂であれば限定されない。例えば、PES(ポリエーテルスルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAR(ポリアリレート)及びPPS(ポリフェニレンサルファイド)の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を好適に用いることができる。
【0024】
本発明で用いる前記熱可塑性樹脂(B)において、その溶融温度又はその溶融成形温度は、用いる液晶性樹脂(A)の溶融成形温度と重なるように設定することが好ましい。すなわち、前記(A)及び(B)の溶融温度が異なると溶融混合性が低くなるので、溶融温度を合わせることが望ましい。従って、本発明で用いる熱可塑性樹脂(B)は、使用される液晶性樹脂(A)との関連で適宜選定することができる。本発明で好ましく用いられる熱可塑性樹脂(B)の具体例を示すと、PESとしては、例えば住友化学工業社の製品名「PES」が示され、PEIとしては、GEプラスチックス社の製品名「ウルテム」が示される。
【0025】
熱可塑性樹脂(B)の含有割合は、液晶性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計重量に対して、一般に25〜55重量%、好ましくは30〜50重量%である。熱可塑性樹脂(B)割合が少なすぎると、得られるフィルムにおけるその厚さ方向の線膨張係数等の物性改善効果が乏しくなる。一方、多すぎると、得られるフィルムの機械的物性が低下するとともに、その方向の線膨張係数の制御が困難になることがある。
【0026】
フィラー(C)
本発明では、フィラー(C)として微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子から選ばれるフィラーの少なくとも1種を用いる。
【0027】
フィラー(C)は、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.9μmである。
【0028】
フィラーの数平均粒子径は、通常0.05μm以上1μm以下であるが、好ましくは0.05μm以上1μm未満、より好ましくは0.05μm以上0.9μm以下、最も好ましくは0.1μm以上0.9μm以下である。数平均粒子径が0.05μm未満の場合には、十分な分散性が得られなくなることがある。また、数平均粒子径が1μmを超える場合は、所望の物理的特性等が得られないことがある。本発明の数平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(製品名「SALD−2000J」(株)島津製作所製)を用いて測定した値を示す。
【0029】
また、本発明におけるフィラーは、その少なくとも50重量%(50%径)が0.1μm〜0.9μmの範囲内にあるが、特に0.1μm〜0.4μmの範囲内にあることが望ましい。上記範囲に設定することによって、本発明の目的、すなわち成形収縮率、伸びたわみが小さく、引張伸びが比較的大きな樹脂アロイ組成物が効率的に得られる。また、フィルム化した場合は、面方向及び厚み方向の線膨張係数のより小さなものが得られる。なお、上記50%径の測定方法は、後記に示すレーザー回折・散乱法によるメディアン径D50の測定方法と同じである。
【0030】
化学式MgSi10(OH)で示される白色粉末状タルク粒子は、滑石とも呼ばれている。この化合物は、組成式3MgO、4SiO、HOで示すことができ、結晶学的には三斜晶系に分類される板状白色物質である。また、上記白色粉末状タルク粒子を例えば800℃以上の温度で焼成して得られる焼成タルク粒子はエンスタタイトとも呼ばれる3MgSiOとSiOの混合物であり、文献ではSiOはクリストバライトといわれているが、X線回析上は、SiOの結晶ピークは認められず、無定形シリカである。
【0031】
さらに、本発明のフィラーは、モース硬度が1以上であることが好ましい。本発明のフィラーの線膨張係数は、5.0×10-5/K以下であることが好ましい。このようなフィラーを用いることにより、成形収縮率、伸びたわみを小さくし、引張伸びが比較的大きな樹脂アロイ組成物を得ることができる。また、フィルム化した場合には、面方向及び厚み方向の線膨張係数を効果的に低く抑えることができる。
【0032】
本発明のフィラーは、少なくとも400℃までは化学的に不活性であり、結晶構造を保持することが好ましい。本発明において、「化学的に不活性」とは、化学反応しにくいだけでなく、混練(ペレット造粒)又はフィルム押し出し工程中、結晶構造が安定であることを意味する。
【0033】
一般に、金属酸化物を主成分とする鱗片状無機充填剤を樹脂に含有させた場合には、曲げたわみ特性及び引張伸び特性が低下することが多い。これは、金属酸化物が樹脂の主鎖構造を攻撃して劣化を引き起こすものと推測されている。これに対し、本発明で使用する微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子を用いる場合は、空気中の水分による変質を抑制ないしは防止できる結果、良好な曲げたわみ特性、引張伸び特性等を得ることができる。
【0034】
本発明におけるフィラーは、上記のような粒度を有する限り、いずれの方法で得られたものであっても良い。例えば、市販のタルクを用い、公知の方法に従って粒度調整(粉砕)、分級等を行うことにより、上記フィラーとして用いることもできる。
【0035】
なお、フィラーとして微細焼成タルク粒子(ステアタイト粒子)を用いる場合は、例えば市販のタルク粒子を予め800℃以上に焼成した上で、粒度調整(粉砕)、分級等を行うことにより、上記フィラーとして用いることもできる。
【0036】
これらで適用される粉砕方法は限定的ではなく、例えば本発明者らが既に特許出願した「微細タルク粒子の製造法」(特願2005-301995号)に従って好適に製造することもできる。すなわち、下記の方法に従って調製することもできる。
【0037】
1) 化学式MgSiO10(OH)で示される白色粉末タルク粒子を湿式又は乾式ジェットミル及び/又はビーズミルに投入し、粉砕することにより、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、粒子の少なくとも50重量%が粒径0.1〜0.9μmの範囲である微細タルク粒子を製造する方法。
【0038】
2) 粒子の少なくとも50重量%が粒径0.1μm〜0.4μmの範囲である、前記項1に記載の方法。
【0039】
3) 乾式ジェットミルが、ノズルから噴出する高速気流により形成された同心円状の渦に化学式MgSiO10(OH)で示される白色粉末タルク粒子を巻き込み、前期タルク粒子相互の衝撃による衝撃力及び摩擦力により粉砕する方式の乾式ジェットミルである、前記項1に記載の方法。
【0040】
4) 湿式ジェットミルが、化学式MgSiO10(OH)で示される白色粉末タルク粒子が分散した液体に圧力を加え、対向衝突チャンバー、ボール衝突チャンバー又はシングルノズルチャンバーに導入して粉砕する方式の湿式ジェットミルである、前記項1に記載の方法。
【0041】
5) ビーズミルが、回転するローターと固定ステーターの間に形成される隙間に化学式MgSiO10(OH)で示される白色粉末タルク粒子と1)マイクロビーズ又は2)マイクロビーズ及び液体の混合物を導入して粉砕する方式のビーズミルである、前記項1に記載の方法。
【0042】
6) 化学式MgSiO10(OH)で示される白色粉末タルク粒子が、粒径2μm〜6μmの範囲である、前記項1に記載の製造方法。
【0043】
これらの製造方法は、公知の粉砕装置(ジェットミル、ビーズミル等)を用いて適宜実施することができる。
【0044】
本発明では、フィラーとして、次のタルク微粉末も好適に用いることができる。すなわち、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が0.1〜0.9μmであるタルク微粉末であって、
前記タルク微粉末を大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置した後のタルク微粉末Aを発振周波数45kHz−定格出力100Wの超音波により1分間分散して得られたタルク微粉末Bのメディアン径D5045kHzと、さらに前記タルク微粉末Bを発振周波数19.5kHz−定格出力300Wの超音波により3分間分散して得られたタルク微粉末Cの前記メディアン径D5019.5kHzとの比[D5019.5kHz/D5045kHz]が0.88以上であることを特徴とするタルク微粉末も使用することができる。
【0045】
<メディアン径D50>
前記タルク微粉末は、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が、通常0.1〜0.9μmであり、好ましくは0.1〜0.7μm、より好ましくは0.1〜0.6μmである。本発明は、このような微細粒子から構成されるにもかかわらず、優れた分散安定性を発揮するものである。特に、本発明では、ナノスケールの微粒子(ナノ微粒子)であっても、効果的に凝集が抑制され、長期にわたり高い分散性を発揮することができる。
【0046】
本発明において、メディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(製品名「SALD−2000J」(株)島津製作所製)を用いて測定した値を示す(以下同じ)。
【0047】
<比[D5019.5kHz/D5045kHz]>
前記タルク微粉末の最も大きな特徴は、上記比が0.88以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.92以上という点にある。上記比は最大値を1とし、1に近づくほど分散安定性が高いことを示す。すなわち、上記比の値が高いほど長期にわたり高い分散性を維持できることを示す。
【0048】
従来のタルク微粉末は、たとえ粉砕により微細化されたとしても(粉砕直後のものであっても)、時間の経過とともに凝集が進み、比較的大きな二次粒子を形成することになる。特に、大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置した後においてはほとんどすべてのタルク微粉末が凝集する。このような凝集した粒子群に対し、比較的弱い超音波処理(第1処理)を施す。次いで、第1処理により得られたタルク微粉末に対して比較的強い超音波処理を施す。この場合、凝集が進行した粒子群では、第1処理では凝集が十分に解れず、第2処理でさらに解れることになる。このため、第2処理で粒度が小さくなり、従って比[D5019.5kHz/D5045kHz]が小さくなる。すなわち、上記比が0.88未満となる。これに対し、本発明のタルク微粉末では、大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置した後においても、凝集の進行が抑制ないしは防止されているため、第1処理でほとんどの凝集が解れるので、第2処理を実施しても粒度の大幅な低下は認められない。すなわち、上記比が0.88以上となる。
【0049】
上記比の測定方法は、まず測定対象となる微粉末(被測定粉末)を大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置する。1ヶ月放置した直後のタルク微粉末Aについて発振周波数45kHz−定格出力100Wの超音波による1分間連続の分散を実施して得られたタルク微粉末Bのメディアン径D5045kHzを測定する。次いで、前記タルク微粉末Bを発振周波数19.5kHz−定格出力300Wの超音波により3分間(3秒発振と2秒休止の繰り返し、計108秒照射)分散して得られたタルク微粉末Cの前記メディアン径D5019.5kHzを測定する。
【0050】
分散方法は、前記の第1処理及び第2処理の条件下で測定方法に定められた条件で実施すれば良い。例えば、100mlガラスビーカーを容器とし、蒸留水50mlに対してアニオン界面活性剤1重量%を添加し、これにタルク微粉末を0.1g加えた上で、超音波分散に供することができる。
【0051】
超音波分散機は、公知の装置を使用すれば良く、例えば市販の超音波洗浄器を用いることができる。超音波の条件は前記のとおりとすれば良い。特に、第1処理後のものを第2処理へ、というように、断続的に超音波分散を実施することが再現性という点で好ましい。
【0052】
<アスペクト比>
前記タルク微粉末のアスペクト比は、通常15以上、特に17以上であることが好ましい。前記タルク微粉末は、上記アスペクト比に見られるように、微細であっても扁平性が高く、従来のタルク微粉末に比べて薄い粒子である。一般にタルク粉末は、微細化に伴ってそのアスペクト比も低下して鱗片状でなく粒状に近い形状となるが、前記タルク微粉末は例えばメディアン径が2μm以下という微細なものであっても15以上という高いアスペクト比を有する。
【0053】
アスペクト比の測定方法は、タルク微粉末の粒子を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(製品名「S−4800」日立製作所製)にて3万〜10万倍で観察し、断面の観察が可能な粒子を任意で10個選び出し、それぞれの断面の厚みと長さを測定した上で各アスペクト比(長さ/厚み)を計算し、さらにその算術平均値を算出することにより求めた。
【0054】
<かさ比重>
前記タルク微粉末のかさ比重は、通常0.12以下、特に0.11以下、さらには0.07以下であることが好ましい。このため、前記タルク微粉末は、従来のタルク微粉末よりも嵩高い。なお、かさ比重の下限値は一般的には0.05程度である。
【0055】
かさ比重の測定方法は、JIS K 5101のかさ比重、静置法に規定された方法に準拠して実施する。
【0056】
前記タルク微粉末は、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が2μmを超えるタルク粉末の粒子をジェット気流により加速して粒子どうし又は衝突板に衝突させることにより、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が0.1〜2μmであるタルク微粉末を製造する方法により好適に製造することができる。
【0057】
出発原料とするタルク粉末は、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が2μmを超えるタルク粉末を用いる。特に、本発明では、メディアン径D50が2μmを超え、かつ、10μm以下のタルク粉末、さらにはメディアン径D50が3μm以上10μm以下のタルク粉末を用いることが好ましい。上記範囲のタルク粉末を出発原料として用いることにより、より効率的に分散安定性に優れたタルク微粉末を得ることができる。このようなタルク粉末は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0058】
粉砕は、タルク粉末をジェット気流にのせて加速し、タルク粉末の粒子どうし又は衝突板に衝突させることにより実施する。衝突板としては、アルミナセラミック等の材質からなる衝突板を好適に用いることができる。
【0059】
ジェット気流として用いる気体は、所望の加速性能が得られるものであれば特に限定されない。例えば、空気のほか、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを単独又は混合して用いることができる。特に、本発明では、より高い加速性能が得られるという点でヘリウムガスを用いることが望ましい。
【0060】
加圧条件(粉砕圧)は、得られるタルク微粉末の所望の粒径、用いる気体の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.4〜1.5MPa、特に0.6〜1.4MPaとなるように調節することが望ましい。
【0061】
粉砕回数(パス数)は特に限定されず、1回又は2回以上とすることができる。目的とする粒径が小さい場合は、パス数を増加させれば良い。
【0062】
前記粉砕は、乾式ジェット粉砕を実行できるものであれば限定されず、公知又は市販のジェット粉砕装置(システム)を用いることができる。例えば、乾式ジェットミル等を用いることができる。これらの装置を用い、前記の粉砕条件に設定して粉砕を行うことにより、分散安定性に優れるタルク微粉末を好適に製造することができる。
【0063】
本発明で使用されるフィラー(C)は、必要に応じて表面処理が施されても良い。表面処理は、一般的には無機系充填剤の表面処理と同様にすれば良い。例えば、シランカップリング剤、チタネート処理剤等のカップリング剤を用いて表面処理を行うことができる。表面処理を施すことにより、本発明の樹脂組成物の諸特性をさらに向上させることができる。
【0064】
フィラー(C)の含有量は限定的ではないが、通常は前記(A)+(B)の合計100重量部に対して10〜50重量部、特に15〜45重量部とすることが望ましい。フィラー(C)が、上記の範囲よりも少なすぎると成形品のソリが大きくなることがある。また、上記範囲よりも多すぎると成形加工性が阻害される可能性がある。
【0065】
その他の成分
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて相溶化剤、可塑剤、難燃剤、充填剤(無機粉体、ファイバー等)等の補助成分を添加することができる。これらの補助成分の添加割合は、その具体的な補助成分の種類等に応じて適宜設定すれば良い。
【0066】

本発明組成物の製造方法は、これらの成分を均一に混合できる限り制限されない。例えば、液晶性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練し、この中にフィラー(C)をサイドフィードして液晶性樹脂アロイ組成物を調製することができる。溶融混練装置としては、1軸又は2軸押出機、各種ニーダ等を用いることができる。また、これらの溶融混練装置に供給するに際し、液晶性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)は、あらかじめタンブラー、ヘンシェルミキサー等の混合装置を用いてドライブレンドすることもできる。
【0067】
本発明組成物を成形する場合は、所望の成形体に応じて公知の成形方法等を用いことができる。例えば、射出成形することによって成形体を好適に製造することができる。また例えば、フィルムを製造する場合、液晶性樹脂アロイ組成物を公知のフィルム化装置を用いてフィルム化し、該フィルムを1軸方向又は2軸方向に延伸することによって製造することができる。フィルム化装置は、1軸又は2軸押出機、圧延装置等の公知の装置を用いることができる。
【0068】
上記フィルムにおいて、延伸前の厚みは15〜1000μm(好ましくは25μm〜500μm)に設定することが望ましい。このフィルムは、延伸工程において縦方向及び/又は横方向に延伸することが望ましい。延伸された後のフィルムの厚さは、一般的には10μm〜300μm程度、特に25μm〜125μmとすることが好ましい。
【0069】
これら液晶性樹脂アロイ組成物をフィルム化する時の延伸技術は、公知の方法で行うことができる。この場合、ラミネートフィルムを使用するのが一般的である。このラミネート用フィルムはフッ素樹脂多孔質フィルムが好ましく用いられる。これら液晶性樹脂アロイ組成物の延伸方法は、積層体フィルム形成工程(液晶性樹脂アロイ組成物とラミネートフィルムからなる積層体)、延伸工程、冷却工程及び剥離工程を含む。それぞれに工程については先願の特開2004−175995号公報(特許文献23)に詳述されており、本発明においてもそのまま採用することができる。
【0070】
主なる目的である該フィルムの原料である液晶性樹脂アロイ組成物は、射出成形等をして得られる成形体は、曲げたわみ率が3.6%以下であることが好ましい。また、引張伸び率が4.0%以上であることが好ましい。さらに、成形収縮率は0.30%以下であることが好ましい。これにより、各用途分野で適用でき、割れやもろさの解決ができることが先願の特開2002−69308号公報(特許文献24)において提案されている。この目的を達成するための最適のフィラーとしては本発明の微細タルク粒子及び/又は微細焼成タルク粒子である。なぜならばタルク自体モース硬度は1であり、鱗片状フィラーの中で最もやわらかくタルク粒子又は焼成タルク粒子自体の線膨張係数も小さく、そのうえ微細タルク粒子及び/又は微細焼成タルク粒子は同量の添加量であっても粒子数が大幅に添加されていることから熱可塑性樹脂(B)の熱膨張を妨げる効果は大きい。
【0071】
また、本発明の液晶性樹脂アロイ組成物から得られた該フィルムにおいて、MD(フィルムの長手方向)とTD(フィルムの幅方向)の両方向の線膨張係数は、いずれも5〜25ppm、特に10〜20ppmとすることが好ましい。また、MDとTDの線膨張係数の差は10以下であることが望ましい。このような物性を備えることにより、実質的に等方性を得ることができる。本発明のフィルムにおいて、その厚さ方向の線膨張率は250ppm以下、特に200ppm以下であることが好ましい。
【0072】
本発明のフィルムは、その表面に金属導体層を形成することにより、FPC(フレキシブルプリントサーキット用)フィルムとして使用することができる。
【0073】
フィルムの表面に金属層を形成する方法としては、例えば1)フィルム上に金属箔を積層し、両層を融着される方法、2)スパッタリングあるいは蒸着する物理的な方法、3)無電解めっきあるいは無電解めっき後の電解めっき等の化学的な方法、4)金属ペースト塗布法等を挙げることができる。
【0074】
これら金属導体層の厚みは限定的ではないが、一般に500Å〜200μm程度であり、この金属ラミネートフィルムは、多層配電板として使用できるが、その他にも高放熱基板、アンテナ基板等の用途に用いることができる。また、多層配線板は、電子回路基板として最適であるが、その他にも光電子混載基板、ICパッケージ等に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明を実施例及び比較例により説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されるものでない。
【0076】
<実施例1〜7及び比較例1〜5>
表1に示す液晶性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)及び微細タルク粒子及び/又は微細焼成タルク粒子(C)を表1に示す割合でドライブレンドした。このドライブレンド物を2軸押出機(スクリュー径15mm)内に供給し、溶融混練し、液晶性樹脂アロイ組成物を調製した。次いで、その押出機先端のTダイ(リップ長さ:10cm、リップクリアランス:2.5mm)よりフィルム状に押出し、冷却して厚さ300μmの液晶性樹脂アロイ組成物からなるフィルムを得た。フィルムの外観はムラなく均一である。
【0077】
次に、このようにして得たフィルムの両側にフッ素樹脂多孔体フィルムを積層し、一対のロール(温度340℃、ロール周速2m/分)で熱圧着した後、一対の冷却ロール(温度150℃、ロール周速2m/分)を通して冷却した。
【0078】
この積層体フィルムを延伸スピード20%/秒で、2軸延伸機にて延伸した。延伸倍率はそれぞれのフィルムに応じて適宜調整した。ただし、延伸倍率はMD方向の延伸倍率xとTD方向の延伸倍率yとの積x×yが6程度になるようにし、液晶性樹脂アロイ組成物から得られたフィルムの厚さが約50μmになるように設定した。最後に、ラミネートフィルムを本発明のフィルムの両面から剥離して本発明のフィルムを得た。
【0079】
このようにして得られた延伸済のフィルムについて、MD、TD及び厚み方向の線膨張率(ppm)、弾性率(GPa)及び引張強度を測定し、その結果を表1に、本発明の液晶性樹脂アロイ組成物の基本物性はその一部を表2に示す。表1に示した
符号の具体的内容は以下の通りである。
・液晶性樹脂(A)
E4000(スミカスーパーE4000:住友化学工業株式会社製;融点380℃)
E6000(スミカスーパーE6000:住友化学工業株式会社製;融点355℃、加工温度350℃)
C950(ポリプラスチックス株式会社製;融点335℃、加工温度330℃)
A950(ポリプラスチックス株式会社製;融点285℃、加工温度300℃)
・熱可塑性樹脂(B)
PEI(ポリエーテルイミド:GEプラスチック株式会社製;ウルテム1000、加工温度340〜380℃)
PES(ポリエーテルサルホン:住友化学工業株式会社製;加工温度320℃〜360℃
PPS(ポリフェニレンサルファイド:大日本インキ化学工業株式会社製;融点280℃、加工温度300〜340℃)
・微細タルク粒子及び/又は微細焼成タルク粒子
製造例1(微細タルク粒子の製造)
市販のジェットミル(製品名「ナノ・グラインディングミル」(株)アイシン ナノテクノロジーズ製)を用いた。粉砕条件は、粉砕圧1.4MPa、原料供給量16kg/hrとした。粉砕回数は4パスとして微粉砕を実施した。出発原料として、白色粉末タルク粒子(製品名「ミクロエースP−4」、日本タルク株式会社製、D50:4.5μm)を用いた。このようにして微細タルク粒子を得た。
【0080】
得られた微細タルク粒子を粒度分布測定機(島津製作所製「SALD−2000J」)で粒径を測定した。その結果、数平均粒子径が0.05〜1μmであり、これら微細タルク粒子の50重量%が0.1〜0.9μmの粒径に微粉砕されていた。この方法により得られ、下記の特性の微細タルクをそれぞれ用いた。
【0081】
微細タルク粒子(a)(日本タルク株式会社製;数平均粒子径0.05μm〜1μmを持ち、そのうち50重量%が0.1μm〜0.9μmの粒子径を持つもの)
微細タルク粒子(b)(日本タルク株式会社製;数平均粒子径0.05μm〜1μmを持ち、そのうち50重量%が0.1μm〜0.4μmの粒子径を持つもの)
微細焼成タルク粒子(c)(日本タルク株式会社製;数平均粒子径0.05μm〜1μmを持ち、そのうち50重量%が0.1μm〜0.9μmを持つもの)
また、表1に示すフィルム物性の評価方法は次の通りである。
<線膨張率>
昇温速度10℃/分で150℃まで昇温した後、降温温度5℃/分で50℃に降温したフィルムの線膨張係数を求めた。フィルムのMD、TDの線膨張係数は引張モードにて、フィルムの厚さ方向の線膨張係数は厚さ1mmに積層し、押しモードで測定した。引張モードの荷重は10g、押しモードの荷重は100gで、ひずみ自動制御で測定は行った。
<弾性率>
昇温速度10℃/分、ひずみ0.3%、周波数1Hzの条件で測定した。
<引張強度>
JIS K 7127に準じて試験片を形成し、JIS K 7127に準じ測定した。
【0082】
表1に示した結果からわかるように、フィルムの引張強度は液晶性樹脂(A)に熱可塑性樹脂(B)をアロイ化するので若干低下しているが、実用上、多層配線板用フィルムとしては十分な強度を有するものである。また、耐熱性も若干の低下があるが、実用上十分な耐熱性(ハンダ熱性等)を有している。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
<比較例6〜8>
タルク粒子として下記のd又はeを使用し、表3に示す組成としたほかは、実施例1と同様にしてペレットを製造した。その結果を表3及び表4に示す。
【0086】
d:商品名「ミクロエースP−4」日本タルク株式会社製、D50:4.5μm
e:商品名「SG−95」日本タルク株式会社製、D50:2.5μm
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
実施例8
微細タルク粒子として、下記の製造例2で得られたタルク微粉末を使用したほか、実施例1と同様にして液晶性樹脂アロイ組成物を調製し、さらにフィルムを作製した。得られたフィルムについて実施例1と同様の試験を行った結果、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【0090】
製造例2
出発原料としてのタルク粉末(製品名「ミクロエースP−3」日本タルク(株)製,D50:5.1μm,BET比表面積:8.5m/g)を乾式ジェット粉砕により粉砕し、タルク微粉末(D50:0.5μm)を得た。
【0091】
粉砕装置は、ヘリウム循環式粉砕システム(製品名「PJM−80SP」日本ニューマチック工業(株)製)を用いた。粉砕条件は、粉砕圧0.6MPa、原料供給量0.5kg/hrとした。粉砕回数は2パスとした。また、ライン全体の雰囲気はヘリウムガス雰囲気とした。得られたタルク微粉末について、(1)比D5019.5kHz/D5045kHz(SALD比)、(2)かさ比重、(3)アスペクト比についてそれぞれ調べた。その結果を表5に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
なお、各物性は、それぞれ以下のようにして測定した。
(1)比D19.5kHz/D45kHz
タルク微粉末を大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃に設定された恒温室内で1ヶ月放置した直後のタルク微粉末0.1gをとり、容器である100mlガラスビーカーに入れる。その容器に、アニオン界面活性剤1重量%が添加、調整された蒸留水50mlを加える。超音波洗浄器にその容器を置き、発振周波数45kHz−定格出力100Wの超音波により1分間連続分散して得られたタルク微粉末Bのメディアン径D5045kHzを測定し、さらに前記タルク微粉末Bを発振周波数19.5kHz−定格出力300Wの超音波により3分間(3秒発振と2秒休止の繰り返し、計108秒照射)分散して得られたタルク微粉末Cの前記メディアン径D5019.5kHzとの比[D5019.5kHz/D5045kHz]を求めた。
(2)かさ比重
JIS K 5101、かさ比重 静置法に規定された方法に準拠して実施した。
(3)アスペクト比
タルク微粉末の粒子を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(製品名「S−4800」日立製作所製)にて3万〜10万倍で観察し、断面の観察が可能な粒子を任意で10個選び出し、それぞれの断面の厚みと長さを測定した上で各アスペクト比(長さ/厚み)を計算し、さらにその算術平均値を算出することにより求めた。より具体的には、図1に示すように、断面が観察できる粒子を選択し、その断面の厚み(t)とその断面の長さ(D)を測定し、その比[D/t]を求めた。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】製造例2で得られたタルク微粉末の粒子を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡で観察した結果を示す図(イメージ画像)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)ならびに微細タルク粒子及び微細焼成タルク粒子からなるフィラーの少なくとも1種(C)を含む樹脂組成物であって、
(1)前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種、
(2)前記フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.9μmである、
ことを特徴とする液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項2】
液晶性樹脂(A)が、融点が250℃以上であるサーモトロピック液晶性樹脂である、請求項1に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項3】
液晶性樹脂(A)の含有量が、当該樹脂組成物中50〜60重量%である、請求項1又は2に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(B)の含有量が、(A)+(B)の合計100重量%のうち30〜50重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項5】
フィラー(C)の含有量が、(A)+(B)の合計100重量部に対して10〜50重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項6】
フィラー(C)が、数平均粒子径0.05μm〜1μmであり、かつ、少なくとも50重量%が0.1μm〜0.4μm粒子径である、請求項1〜5記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物を成形して得られるフィルム。
【請求項8】
成形収縮率が0.30%以下であり、曲げたわみが3.6%以下であり、かつ引張伸びが4.0%以上である、請求項7記載のフィルム。
【請求項9】
フィルムMD(フィルムの長手方向)とTD(フィルムの幅方向)の両方向の線膨張係数の差が10ppm以下であり、かつ、フィルムの厚さ方向の線膨張係数が200ppm以下である、請求項7又は8に記載のフィルム。
【請求項10】
フィラーが、レーザー回折・散乱法によるメディアン径D50が0.1〜0.9μmであるタルク微粉末であって、
前記タルク微粉末を大気圧中で相対湿度70%及び温度25℃で1ヶ月放置した後のタルク微粉末Aを発振周波数45kHz−定格出力100Wの超音波により1分間分散して得られたタルク微粉末Bのメディアン径D5045kHzと、さらに前記タルク微粉末Bを発振周波数19.5kHz−定格出力300Wの超音波により3分間分散して得られたタルク微粉末Cの前記メディアン径D5019.5kHzとの比[D5019.5kHz/D5045kHz]が0.88以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項11】
前記タルク微粉末のアスペクト比が15以上である、請求項5に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。
【請求項12】
前記タルク微粉末のかさ比重が0.12以下である、請求項5又は6に記載の液晶性樹脂アロイ組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197714(P2007−197714A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351710(P2006−351710)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(505360801)日本タルク株式会社 (8)
【Fターム(参考)】