説明

液晶材料、液晶表示素子、液晶光空間変調素子および液晶シャッタ

【課題】液晶分子が均一な配向状態を有する液晶材料を提供する。
【解決手段】TFTアレイ基板10と対向基板20との間に、液晶材料を含む液晶層30を備える。この液晶材料は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に、そのスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す。この液晶材料を加熱(昇温)させていくと、スメクチック層Aの次に他の相を介さずにネマチック相が現れると共に、そのネマチック層の次に他の相を介さずに等方相が現れる。液晶分子の配向状態が均一になるため、透過率が高精度に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スメクチックA相を示す液晶材料、ならびにそれを用いた液晶表示素子、液晶光空間変調素子および液晶シャッタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器などの小型用途から大画面テレビなどの大型用途まで、薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)を用いたアクティブマトリクス駆動方式の液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)が普及している。このLCDでは、インパルス駆動方式などを採用して液晶材料の応答速度が高速化されてはいるが、その液晶材料自体の応答速度が根本的に遅いため、動画ボケなどが生じやすいという問題がある。このため、LCDの動画表示品位は、プラズマディスプレイ(PDP:plasma display panel )および電界放出型ディスプレイ(FED:field emission display)などと比べて未だ劣っている状況にある。
【0003】
LCDの高速応答化については、フレームレートを60Hzから120Hzまたは240Hzに変更する対策(ハイフレームレート駆動)がなされている。ところが、LCDの動画表示品位は、確かにTFTを含む駆動系の要因に依存するところはあるが、本質的には液晶材料自体の応答特性に大きく依存する。よって、液晶材料自体の応答特性を改善しない限り、根本的な解決にはならないため、実質的にハイフレームレート駆動を実現できているとは言えない。そこで、LCDにおいて優れた動画表示品位を実現するために、ハイフレームレート駆動に対応できる高速応答可能な液晶材料の登場が望まれている。
【0004】
高速応答可能な液晶材料としては、ネマチック液晶(フレクソエレクトリック効果)、強誘電性液晶または反強誘電性液晶などが知られているが、最近では、スメクチック液晶(スメクチックA相のエレクトロクリニック効果)も検討されている。
【0005】
エレクトロクリニック効果とは、スメクチックA相において一軸配向している液晶材料(液晶分子)に電界を印加した際に、その液晶分子の光軸(長軸)が電界強度に応じて傾斜する現象であり、電傾効果とも呼ばれている(例えば、非特許文献1参照。)。この場合には、偏光方向が直交する2枚の偏光板の間に液晶材料を配置すると、偏光板の光軸と液晶分子の光軸との間の角度(チルト角)に応じて透過光量が変化する。この透過光量は、T/T0 =sin2 (2θ)×sin2 (πΔnd/λ)という式で表される。ここで、T=透過光量、T0 =入射光量、θ=チルト角、Δn=液晶材料の複屈折、d=液晶層の厚さ、λ=透過光の波長である。この式によれば、チルト角が±45°であると、透過率が最大になる。チルト角が最大になるリターデーション(=Δnd)における透過率とチルト角(°)との間の相関は、図4に示した通りである。
【0006】
エレクトロクリニック効果により液晶材料の応答時間は数μs〜数十μsになるため、その応答速度は大幅に速くなる。この場合には、電界強度が低い範囲においてチルト角が電界強度に比例するため、透過率の電圧変調が可能になる。このため、エレクトロクリニック効果を利用した表示モードは、アクティブマトリクス駆動方式に極めて適しており、LCDに限らずに他の光学用途においても有用である。
【0007】
ところが、エレクトロクリニック効果を発揮する従来の液晶材料では、液晶分子の配向状態が十分に均一ではなかった。このため、エレクトロクリニック効果を発揮する液晶材料を用いたLCDでは、透過率を高精度に制御することが困難であるため、十分なコントラストが得られなかった。
【0008】
そこで、従来は、液晶分子の配向状態を均一にするために、降温過程において等方相からスメクチックA相へ移行する際に大きな電界を印加する手法を採用していた(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、上記した手法では、煩雑な上に配向欠陥が生じやすいという問題があり、それらの問題と引き換えに液晶分子の配向状態が十分に均一になるとも言えなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】フィジカル レビュー レターズ,38巻,1977年,848頁,ガロフ等(Physical Review Letters, vol.38,1977,p848,Garpff et al. )
【非特許文献2】ケム.メイター,7,1995年,1397頁〜1402頁,ナシリ等(Chem.Mater,7,1995年,p1397〜p1402,Naciri et al. )
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
液晶材料の高速応答化についてはエレクトロクリニック効果が有効であるにもかかわらず、そのような効果を発揮する液晶分子の配向状態は十分に均一でない状況にある。そこで、エレクトロクリニック効果を発揮する液晶材料について、液晶分子の配向状態をできるだけ均一にすることが切望されている。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、液晶分子が均一な配向状態を有する液晶材料を得ると共に、それを用いて透過率を高精度に制御可能な液晶表示素子、液晶光空間変調素子および液晶シャッタを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の液晶材料は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共にスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示すものである。また、本発明の液晶表示素子、液晶光空間変調素子または液晶シャッタは、一対の基板の間に液晶層を備え、その液晶層が上記した液晶材料を含むものである。
【0013】
ここで、「高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す」とは、等方相からスメクチックA相まで相移行(相転移)する過程において、上記した3種類の液晶相以外の相を示さない相系列を意味する。すなわち、液晶材料を加熱(昇温)していくと、スメクチックA相の次に他の相を介さずにネマチック相が現れると共に、そのネマチック相の次に他の相を介さずに等方相が現れるような相系列である。
【0014】
エレクトロクリニック効果とは、上記したように、スメクチックA相において一軸配向している液晶分子に電界を印加した際に、その液晶分子の光軸が電界強度に応じて傾斜する現象である。液晶材料がスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を発揮できるかどうかは、スメクチックA相を示している液晶層に対して層表面に平行となるように電界を印加した際に、液晶分子の光軸が層表面に垂直な方向(法線方向)に対して傾斜するかどうかを調べることにより確認できる。液晶分子の光軸が法線方向に対して傾斜すれば、エレクトロクリニック効果を発揮できることになる。
【0015】
液晶表示素子とは、液晶層に電界が印加されると、それに応じて液晶材料(液晶分子)の長軸が傾斜するため、液晶層の透過率が変化するものである。液晶光空間変調素子とは、液晶層に電界が印加されると、それに応じて液晶材料の長軸が傾斜するため、液晶層に入射した光が空間変調されるものである。液晶シャッタとは、液晶層に電界が印加されると、それに応じて液晶材料の長軸が傾斜するため、液晶層により光路が開閉されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液晶材料によれば、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共にスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す。このため、上記した相系列を有していない場合と比較して、液晶分子の配向状態が均一になる。よって、本発明の液晶材料を用いた液晶表示素子、液晶光空間変調素子または液晶シャッタによれば、透過率を高精度に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の液晶材料を用いた液晶表示素子の主要部の構成を表す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の液晶材料を用いた液晶光空間変調素子の主要部の構成を表す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の液晶材料を用いた液晶シャッタの主要部の構成を表す断面図である。
【図4】エレクトロクリニック効果における透過率とチルト角との間の相関を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.液晶材料
2.液晶材料を用いた液晶表示素子
3.液晶材料を用いた液晶光空間変調素子
4.液晶材料を用いた液晶シャッタ
【0019】
<1.液晶材料>
まず、本発明の一実施形態の液晶材料について説明する。ここで説明する液晶材料は、多様な光学用途に用いられるものである。光学用途の具体例としては、後述するLCDなどの液晶表示素子、光偏光スイッチなどの光空間変調素子、またはシャッタ眼鏡などの液晶シャッタが挙げられる。
【0020】
この液晶材料は、光学用途の使用温度域においてスメクチック液晶層を形成する(一軸配列したスメクチックA相を示す)性質を有している。スメクチック液晶層とは、液晶分子の長軸が層状に配列されている液晶層であり、スメクチックA相とは、スメクチック液晶層の法線方向と液晶分子の長軸方向とが一致している液晶相である。なお、光学用途の使用温度域とは、光学用途の各種機器などが一般的に使用される温度範囲であり、例えば、20℃〜50℃である。ただし、20℃〜50℃の範囲内の温度域を含んでいれば、全体の温度域は低温側および高温側に多少ずれてもよい。
【0021】
特に、液晶材料は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相(以下、単に「3種類の液晶相」ともいう。)をこの順に連続して示す相系列を有すると共に、そのスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す。この液晶材料が上記した相系列を有しているのは、その相系列を有していない場合と比較して、液晶分子の配向状態が均一になるからである。
【0022】
なお、液晶材料は、ネマチック相の代わりにコレステリック相を示してもよい。この場合には、高温状態から低温状態に向かって等方相、コレステリック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有することになり、ネマチック相を有する場合と同様に液晶分子の配向状態が均一になる。
【0023】
液晶材料がネマチック相(またはコレステリック層)を示す温度幅は、特に限定されないが、中でも、できるだけ広いことが好ましく、具体的には1℃(1K(ケルビン))以上であることが好ましい。等方相とスメクチックA相との間に十分な温度幅を有するネマチック相が存在するため、液晶分子の配向状態が均一になりやすいからである。
【0024】
液晶材料が3種類の液晶層を示すかどうかについては、既存の手法および装置などを用いて確認できる。具体的には、例えば、示差走査熱量測定法を用いて液晶材料の温度を測定すれば、相転移の有無を確認できる。また、例えば、ホットステージなどで液晶材料を加熱しながら偏光顕微鏡で液晶材料を観察すれば、液晶相の種類を同定できる。これにより、液晶材料が3種類の液晶層を示すかどうか、言い換えれば液晶材料を加熱した場合にスメクチックA相、ネマチック相(またはコレステリック相)および等方相がこの順に連続して現れるかどうかを確認できる。
【0025】
なお、液晶材料は、3種類の液晶相の他に、それらとは異なる他の1または2以上の液晶相を示してもよい。ただし、3種類の液晶相は、高温側から順に連続して存在する相系列であるため、他の液晶相は、スメクチックA相よりも低温側に存在することになる。このような他の液晶相としては、例えば、スメクチックC相または結晶相などが挙げられる。この他、スメクチック相として、A相またはC相以外の他の相を有していてもよい。スメクチック相については、A相またはC相の他にも多様な種類の相が存在し得るからである。
【0026】
この液晶材料は、全体として3種類の液晶相を示すことができれば、単一の材料でもよいし、2種類以上の材料の混合物でもよい。特に、2種類以上の材料の混合物である場合には、単独の材料では3種類の液晶相を示すことができなくても、混合物において3種類の液晶相を示すことができればよい。
【0027】
単独で3種類の液晶相を示すことができる液晶材料としては、例えば、式(1−1)〜式(1−35)で表される材料が挙げられる。これに対して、例えば、式(2)で表される材料は、単独では3種類の液晶相を示すことができない。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
また、単独では3種類の液晶相を示すことができないが、混合物であれば3種類の液晶相を示すことができる材料としては、例えば、式(3−1)および式(3−2)で表される材料の混合物が挙げられる。
【0035】
【化7】

【0036】
この液晶材料によれば、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に、そのスメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す。このため、上記した相系列を有していない場合と比較して、液晶分子の配向状態が均一になる。よって、エレクトロクリニック効果を発揮する液晶材料において、均一な配向状態を得ることができる。この場合には、特に、ネマチック相を示す温度幅が1℃以上であれば、配向状態をより均一にすることができる。
【0037】
次に、本発明の液晶材料に関するいくつかの適用例について説明する。
【0038】
<2.液晶材料を用いた液晶表示素子>
本発明の液晶材料は、例えば、液晶表示素子に適用される。図1は、液晶表示素子の主要部の断面構成を表している。
【0039】
ここで説明する液晶表示素子は、液晶材料を用いて光の透過率を制御することにより画像が形成され、その画像が観察者により直接見られることになる直視型の表示素子である。このような液晶表示素子の具体例としては、直視型LCDまたは高温ポリシリコンTFT−LCDなどが挙げられる。
【0040】
図1に示した液晶表示素子は、例えば、TFTを用いたアクティブマトリクス駆動方式の透過型液晶表示素子であり、一対の基板であるTFTアレイ基板10と対向基板20との間に液晶層30を備えている。
【0041】
TFTアレイ基板10は、支持基板11の一面に画素電極12がマトリクス状に形成されたものである。支持基板11は、例えば、ガラスなどの透過性材料により形成されており、画素電極12は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO:indium tin oxide)などの透過性導電性材料により形成されている。なお、画素電極12には、スイッチング用のTFTを含む画素選択用の駆動回路(図示せず)が接続されている。
【0042】
対向基板20は、支持基板21の一面に対向電極22が全面形成されたものである。支持基板21は、例えば、ガラスなどの透過性材料により形成されており、対向電極22は、例えば、ITOなどの導電性材料により形成されている。
【0043】
TFTアレイ基板10および対向基板20は、液晶層30を挟んで画素電極12と対向電極22とが対向するように配置されていると共に、球状または柱状のスペーサ(図示せず)により離間されるようにシール材により貼り合わされている。なお、両基板の液晶層30に接する側には、配向膜(図示せず)が設けられている。
【0044】
液晶層30は、本発明の液晶材料を含む液晶混合物であり、TFTアレイ基板10と対向基板20との間に封入されている。
【0045】
この他、液晶表示素子は、例えば、位相差板、偏光板、配向膜およびバックライトユニットなどの他の構成要素(いずれも図示せず)も備えている。なお、バックライトユニットは、例えば、発光ダイオード(LED:light emitting diode)などの光源を含んでいる。
【0046】
この液晶表示素子では、画素電極12と対向電極22との間に電界が印加されると、その電界強度に応じてエレクトロクリニック効果により液晶分子のチルト角が変化する。これにより、バックライトユニットから発生した光の透過量(透過率)が制御されるため、階調画像が表示される。
【0047】
この際、例えば、1H(Hは水平走査期間)反転駆動方式あるいは1F(Fはフィールド)反転駆動方式などが用いられる。これらの交流駆動方式では、駆動電圧の高さ(振幅の大きさ)に応じて色レベル(階調)が変化する。この場合には、駆動電圧を大きくすれば、画像のコントラストが向上する。
【0048】
この液晶表示素子によれば、液晶層30が本発明の液晶材料を含んでいるので、透過率を高精度に制御することができる。これにより、優れた動画表示品位および階調性を得ることができると共に、特にコントラストを大幅に向上させることができる。
【0049】
<3.液晶材料を用いた液晶光空間変調素子>
また、本発明の液晶材料は、例えば、液晶光空間変調素子に適用される。図2は、液晶光空間変調素子の主要部の断面構成を表している。
【0050】
ここで説明する液晶光空間変調素子は、光源から発生した光を平面的に分割し、その個々の光束の強度および位相などを変化させる素子である。このような液晶光空間変調素子の具体例としては、プロジェクションディスプレイに用いられるマイクロ液晶デバイス(LCoS:liquid crystal on silicon )またはライトバルブ、あるいは光偏光スイッチなどが挙げられる。なお、ライトバルブは、例えば、上記した液晶表示素子とほぼ同様の構成を有している。この場合には、光源から発生した光が赤色、緑色および青色の光に分離され、各色の光が液晶表示素子と同様の構成を有する3つのライトバルブにより変調されたのちに合成されることにより、投射面に像が拡大投影される。
【0051】
図2に示した液晶光空間変調素子は、例えば、光偏光スイッチであり、一対の基板である透明基板40,50の間に、本発明の液晶材料を含む液晶層70を備えている。透明基板40,50は、液晶層70を挟むように対向配置された電極61,62により離間されており、交流電源などの駆動装置(図示せず)から電極61,62の間に交流電界が印加されるようになっている。
【0052】
透明基板40,50は、例えば、ガラスなどの透過性材料により形成されていると共に、それぞれの主面同士が平行になるように対向配置されている。透明基板40,50の対向面(互いに対向する側の面)には、例えば、垂直配向剤が塗布されており、電極61,62の間に電界が印加されていない状態では、液晶分子の長軸が主面に対して垂直に配向するようになっている。
【0053】
この液晶光空間変調素子では、透明基板40に対して光Lが垂直に入射すると、その光Lは、電極61,62の間に印加された電界Eにより、その電界方向と直交する方向に偏光されて透明基板50から出射される。この場合には、E=0であると、光Lは偏光されない。これに対して、E>0であると、光Lは電界方向と直交する方向(+方向)に偏光されると共に、E<0であると、光LはE>0の場合とは逆方向(−方向)に偏光される。このときの偏光量(シフト量)は、電界強度に応じて変化する。
【0054】
この液晶光空間変調素子によれば、液晶層70が本発明の液晶材料を含んでいるので、液晶表示素子と同様に、透過率を高精度に制御することができる。これにより、十分な光学変調を得ることができる。
【0055】
<4.液晶材料を用いた液晶シャッタ>
また、本発明の液晶材料は、例えば、液晶シャッタに適用される。図3は、液晶シャッタの主要部の断面構成を表している。
【0056】
ここで説明する液晶シャッタは、液晶材料を用いて光路を開閉する素子である。このような液晶シャッタの具体例としては、3次元立体映像を視聴するために用いられるシャッタ眼鏡などが挙げられる。このシャッタ眼鏡では、2つの液晶シャッタが1組(右眼用および左眼用)として用いられる。この場合には、右眼用画像と左眼用画像との間に視差を設けるために、2つの液晶シャッタが異なる偏光特性を有するように構成される。
【0057】
図3に示した液晶シャッタは、例えば、図2に示した液晶光空間変調素子と同様の構成を有している。具体的には、液晶シャッタは、一対の基板である透明基板80,90が電極101,102により離間されると共に、その透明基板80,90の間に本発明の液晶材料を含む液晶層110が封入されたものである。
【0058】
この液晶シャッタでは、透明基板80に光Lが入射された際に、電極101,102の間に印加される電界の有無により、その光Lの透過の可否が制御される。これにより、光Lに対するシャッタ(開閉)動作が自在に行われる。
【0059】
この液晶シャッタによれば、液晶層110が本発明の液晶材料を含んでいるので、透過率を高精度に制御することができる。これにより、シャッタ動作を安定かつ確実に実行することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0061】
(実験例1〜39)
まず、式(1−1)〜式(1−35)、式(2)、式(3−1)および式(3−2)に示した液晶材料の相系列を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。この相系列を調べる場合には、ホットステージで液晶材料を加熱しながら偏光顕微鏡で液晶材料の相状態を観察して、液晶相の種類を同定した。この場合には、示差走査熱量測定法で液晶材料の温度を測定して、相転移の有無を確認した。相転移温度とは、結晶相から等方相を示すまで液晶材料を加熱(昇温)した際に相転移が生じた温度である。なお、X相とは、液晶相の種類を同定することができなかった相であり、A相またはC相以外のスメクチック相であると思われる。
【0062】
ここで、一連の液晶材料を代表して、式(1−10)、式(2)、式(3−1)および式(3−2)に示した材料の合成手順は、以下の通りである。
【0063】
式(1−10)の液晶材料を合成する場合には、最初に、4,4’−ビフェノールのピリジン溶液に塩化ベンゾイルを滴下したのち、室温で終夜攪拌した。得られた析出物を濾過したのち、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィ法を用いて4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルベンゾエイトを得た。続いて、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルベンゾエイトを酢酸中に分散したのち、15℃に保ちながら硝酸を滴下し、さらに水を加えて攪拌した。得られた析出物をエタノールおよび酢酸で再結晶して、4’−ヒドロキシ−3’−ニトロ−4−ビフェニルベンゾエイトを得た。続いて、アルゴンガス(Ar)で置換したフラスコ中に4’−ヒドロキシ−3’−ニトロ−4−ビフェニルベンゾエイトとトリフェニルホスフィンと3,3−ジメチルブチル−1−オールとのテトラヒドロフラン溶液を入れたのち、アゾジカルボン酸ジエチルのテトラヒドロフラン溶液を滴下して室温で終夜攪拌した。続いて、溶媒を揮発させたのち、カラムクロマトグラフィ法を用いて4’−(3,3−ジメチルブチルオキシ)−3’−ニトロ(1,1’−ビフェニル)−4−イル ベンゾエイトを得た。続いて、4’−(3,3−ジメチルブチルオキシ)−3’−ニトロ(1,1’−ビフェニル)−4−イル ベンゾエイトのメタノール溶液に水酸化リチウムの水溶液を加えたのち、室温で終夜攪拌した。続いて、溶媒を揮発させたのち、塩酸で中和してからエチルエーテルで目的物を抽出した。続いて、硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を揮発させたのち、カラムクロマトグラフィ法を用いて4’−(3,3−ジメチルブチルオキシ)−3’−ニトロ(1,1’−ビフェニル)−4−オールを得た。続いて、1−(3−(ジメチルアミノ)−プロピル)−3−エチルカルボジイミド メチオジンに、4’−(3,3−ジメチルブチルオキシ)−3’−ニトロ(1,1’−ビフェニル)−4−オールとp−オクチルオキシ安息香酸と4−ジメチルアミンピリジンとのジクロロメタン溶液を加えたのち、室温で終夜攪拌した。続いて、溶液を水洗浄したのち、分液してから硫酸ナトリウムで乾燥させた。最後に、溶媒を揮発させたのち、カラムクロマトグラフィ法を用いて式(1−10)の液晶材料を得た。
【0064】
式(2)の液晶材料を合成する場合には、p−オクチルオキシ安息香酸の代わりにp−ドデカオキシ安息香酸を用いたことを除き、式(1−10)の液晶材料と同様の手順を経た。式(3−1)および式(3−2)の液晶材料を合成する場合には、それぞれ3,3−ジメチルブチル−1−オールの代わりに1,1−ジメチルペンチル−1−オールおよび5,5−ジメチルヘキシル−1−オールを用いたことを除き、式(1−10)の液晶材料と同様の手順を経た。
【0065】
なお、式(3−1)および式(3−2)の液晶材料を組み合わせて用いる場合には、それらを1:1の重量比で混合したのち、等方相を示す温度まで昇温しながら攪拌した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
実験例1〜39では、昇温過程において結晶相と等方相との間に複数の相が観察された。ここで、単独の液晶材料を用いると、実験例1〜35ではスメクチックA相と等方相との間にネマチック相が観察されたが、実験例36〜38ではネマチック相が観察されなかった。また、同じ種類の液晶材料を単独または混合して用いると、単独で用いた実験例37,38ではネマチック相が観察されなかったが、混合して用いた実験例39ではネマチック相が観察された。これらのことから、液晶材料の種類または組み合わせにより、等方相とスメクチックA相との間にネマチック相が得られる場合と得られない場合とがあることが確認された。
【0069】
次に、液晶材料を用いて評価用セルを作製して、液晶分子および評価用セルの諸特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0070】
評価用セルを作製する場合には、最初に、2枚のITO付きガラス基板の一面に配向膜(ポリイミド)を形成したのち、バフ材付きのローラでラビングした。続いて、シリカボール(2.4μm径)が分散された紫外線硬化樹脂でセル状となるように2枚のガラス基板を貼り合わせた。最後に、セルの内部に等方相となる温度で液晶材料を注入した。
【0071】
ネマチック相の温度幅を調べる場合には、表1および表2に示した結果に基づいて、等方相/ネマチック相の相転移温度からネマチック相/スメクチックA相の相転移温度を差し引いて、ネマチック相を示す温度範囲を算出した。また、液晶分子の配向状態を調べる場合には、偏光顕微鏡で液晶分子を観察して、その配向状態が均一であるか不均一であるかを目視で判断した。
【0072】
透過率を調べる場合には、暗状態(無電界印加状態)において、液晶材料がスメクチックA相を示す温度となるように評価用セルの温度を調整したのち、分光光度計で透過光量を測定して透過率を求めた。この透過率を算出する場合には、偏光顕微鏡における偏光板の光軸に対して無電界印加状態における評価用セルの光軸を一致させると共に、偏光方向が平行となるように2枚の偏光板が配置された状態における透過光量を100%とした。
【0073】
【表3】

【0074】
等方相とスメクチックA相との間にネマチック相が観察された実験例10,39では、液晶分子の配向状態が均一であり、透過率が1%未満に抑えられた。この場合におけるネマチック相の温度幅は、1℃以上であった。これに対して、ネマチック相が観察されなかった実験例36〜38では、液晶分子の配向状態が不均一な場合があり、透過率が1%超に至った。この不均一な配向状態は、配向状態が局所的にしか均一にならないバトネ配向状態(「液晶便覧」,液晶便覧編集委員会編,丸善,2000年)であった。これらのことから、等方相とスメクチックA相との間にネマチック相を示す液晶材料では、液晶分子の配向状態が均一になるため、暗状態において透過率が低く抑えられることが確認された。
【0075】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の液晶材料は、液晶表示素子、液晶光空間変調素子および液晶シャッタに限らず、他の光学用途に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10…TFTアレイ基板、11,21…支持基板、12…画素電極、20…対向基板、22…対向電極、30,70,110…液晶層、40,50,80,90…透明基板、61,62,101,102…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に、前記スメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す、液晶材料。
【請求項2】
前記ネマチック相を示す温度幅は1℃以上である、請求項1記載の液晶材料。
【請求項3】
一対の基板の間に液晶層を備え、前記液晶層は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に前記スメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す液晶材料を含む、液晶表示素子。
【請求項4】
一対の基板の間に液晶層を備え、前記液晶層は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に前記スメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す液晶材料を含む、液晶光空間変調素子。
【請求項5】
一対の基板の間に液晶層を備え、前記液晶層は、高温状態から低温状態に向かって等方相、ネマチック相およびスメクチックA相をこの順に連続して示す相系列を有すると共に前記スメクチックA相においてエレクトロクリニック効果を示す液晶材料を含む、液晶シャッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99016(P2011−99016A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253361(P2009−253361)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】