説明

液晶表示素子及びその生産方法

【課題】高い開口率を有し、表示像を中間色で表示させることができる液晶表示素子及びその生産方法を提供する。
【解決手段】液晶表示素子は、第1電極部21と第2電極部22とを備える。第1電極部21は、第1の方向に延在する複数の線状電極1と、第2の方向に延在する複数の線状電極2とが交差するようにして格子状に形成され、第2電極部22は、第1の方向に延在する複数の線状電極3と、第2の方向に延在する複数の線状電極4とが交差するようにして格子状に形成されている。基板対向面の法線方向から見た場合に、線状電極1と線状電極3とは重ならず、線状電極2と線状電極4とは重ならず、線状電極1と線状電極4とが重なる領域及び線状電極2と線状電極3とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子として、セグメント表示型の液晶表示素子が知られている。この液晶表示素子は、液晶層を挟持する一対の基板のうち、一方の基板の内面に所定の表示像(例えば1セグメント、その他の図形、記号)に対応した形状のセグメント電極が設けられ、他方の基板の内面にセグメント電極に対向するコモン電極が設けられた構造になっており、明暗の2つの状態で表示を行う。そのため、このような液晶表示素子は、表示像を中間色(例えば、グレー)で表示することができなかった。
【0003】
表示像を中間色で表示させることを可能とする技術として、特許文献1には、液晶表示素子の電極の一部(副セグメント電極)に微小な開口部を設けるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−201755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1のような技術を用いて、ノーマリブラックモードの液晶表示素子に表示像を黒色に近いグレー色で表示させたい場合、表示像の形成領域における微小な開口部の割合を増やせばよい(つまり、開口率が高くなるように設計すればよい)はずである。
しかし、特許文献1に係る技術のように電極に微小な開口部を設けるという技術では、製造上の問題(電極の重ね合わせ精度、電極の抵抗制限等の問題)により、高い開口率(例えば、開口率が50%以上、特に75%以上)を実現するのが困難であった。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、高い開口率を有し、表示像を中間色で表示することができる液晶表示素子及びその生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る液晶表示素子は、
液晶層と、
前記液晶層を挟んで互いに対向する第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記液晶層側に位置する第1電極部と、
前記第2基板の前記液晶層側に位置する第2電極部と、を備え、
前記第1電極部は、第1の方向に延在する複数の第1線状電極と、第2の方向に延在する複数の第2線状電極とが交差するようにして格子状に形成され、
前記第2電極部は、前記第1の方向に延在する複数の第3線状電極と、前記第2の方向に延在する複数の第4線状電極とが交差するようにして格子状に形成され、
前記第1基板と前記第2基板の対向面の法線方向から見た場合に、
前記第1線状電極と前記第3線状電極とは重ならず、
前記第2線状電極と前記第4線状電極とは重ならず、
前記第1線状電極と前記第4線状電極とが重なる領域及び前記第2線状電極と前記第3線状電極とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素を形成する、
ことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る液晶表示素子の生産方法は、
液晶層を挟んで互いに対向する第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記液晶層側に、第1の方向に延在する複数の第1線状電極と、第2の方向に延在する複数の第2線状電極とが交差するようにして格子状に形成される第1電極部と、
前記第2基板の前記液晶層側に、前記第1の方向に延在する複数の第3線状電極と、前記第2の方向に延在する複数の第4線状電極とが交差するようにして格子状に形成される第2電極部と、を備える液晶表示素子の生産方法であって、
前記第1基板と前記第2基板の対向面の法線方向から見た場合に、前記第1線状電極と前記第3線状電極とが重ならず、且つ、前記第2線状電極と前記第4線状電極とが重ならないように、前記第1電極部と前記第2電極部との位置関係を決定するステップと、
前記第1基板と前記第2基板とを対向配置した際に、決定した前記位置関係を満たすように、前記第1基板の一面上に前記第1電極部を形成し、前記第2基板の一面上に前記第2電極部を形成するステップと、
前記第1基板と前記第2基板とを、それぞれの電極部が形成された面を対向させて配置するステップと、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い開口率を有し、表示像を中間色で表示することができる液晶表示素子及びその生産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る液晶表示素子の概略断面図である。
【図2】第1電極部及び第2電極部の構造を説明するための両電極部の概略平面図である。
【図3】液晶表示素子が表示する表示像の一部を表した概略平面図である。
【図4】図2に示す単位領域の拡大図である。
【図5】電極形成領域における設計上のグレースケール比とON透過率との関係を表したグラフを示した図である。
【図6】変形例に係る液晶表示素子の電極形成領域における設計上のグレースケール比とON透過率との関係を表したグラフを示した図である。
【図7】変形例に係る第1電極部及び第2電極部の構造を説明するための両電極部の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る一実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下では、所定の構成要素の液晶表示素子の表示面方向(液晶表示素子の視認者の方向)を「表」とし、表示面方向の反対側方向を「裏」として、説明する。
【0012】
(液晶表示素子の構成)
図1に示す本実施形態に係る液晶表示素子100は、一対の基板11,12と、それぞれの基板の互いに対向する内面(対向面)に形成された第1電極部21及び第2電極部22と、これら電極部の表面に形成された配向膜31,32と、液晶分子を含む液晶層40と、一対の偏光フィルタ51,52と、を備える。
【0013】
基板11,12は、例えば、ガラス、プラスチック等から構成される透明基板である。基板11,12は、液晶層40を挟んで対向するように配置されており、基板11は液晶層40の表側に位置し、基板12は液晶層40の裏側に位置する。
【0014】
第1電極部21及び第2電極部22は、酸化インジウムを主成分とするITO(Indium Tin Oxide)膜等から構成され、光を透過する透明電極からなる。第1電極部21は基板11の裏面上に、第2電極部22は基板12の表面上に、公知の方法(スパッタ、蒸着、エッチング等)により形成されている。例えば、第1電極部21は走査電極として、第2電極部22は信号電極としての役割を持ち、両電極には、パッシブ駆動方式で電圧が印加される。
第1電極部21及び第2電極部22は、本実施形態に特有の構造を有する。この構造については、後に詳述する。
【0015】
配向膜31,32は、それぞれ、液晶層40に接する膜であり、例えばポリイミドから、公知の方法(例えば、フレクソ印刷)によって形成される。配向膜31は第1電極部21を裏側から覆うように形成されており、配向膜32は第2電極部22を表側から覆うように形成されている。
配向膜31,32には、ラビング処理、光配向処理、突起配向処理等の公知の処理によって配向処理が施されている。このように配向処理が施された配向膜31,32により、液晶層40の液晶分子の配向方向が規定される。
【0016】
液晶層40は、一対の基板11,12を接合するためのシール材(図示せず)と、両基板によって形成される密閉空間に液晶分子を含む液晶が封入されることによって構成される。
液晶層40は、配向膜31,32の配向規制力により、例えば、電圧無印加時に液晶分子の配向方向が基板11,12の対向面に対して垂直になるように配列されたVA(Vertical Alignment)型液晶として構成される。この場合、液晶層40は、液晶分子の誘電率異方性Δεが負(Δε<0)のいわゆるネガ型の液晶材から構成される。
後に変形例で説明するように、液晶層40は、VA型液晶に限られるものではないが、本実施形態では、説明便宜のため、液晶表示素子100がVA型のものであるとして説明する。
【0017】
偏光フィルタ51,52は、表面側又は裏面側から入射する光を吸収軸に直交する透過軸に沿った直線偏光として出射する。偏光フィルタ51は基板11の表側に配置され、偏光フィルタ52は基板12の裏側に配置されている。偏光フィルタ51と52とは、例えば、各々の有する透過軸が互いに直交するように配置されている(クロスニコル配置)。
【0018】
以上の構成からなる液晶表示素子100は、次のように表示を行う。
【0019】
(黒表示)
液晶表示素子100では、液晶分子が倒れ始める閾値電圧よりも低い値にOFF電圧が設定されている。そのため、第1電極部21及び第2電極部22にOFF電圧を印加しても液晶分子は実質的に垂直に配向したままである。この場合、裏側から偏光フィルタ52を通過した光は、液晶層40によっては偏光方向がほとんど変化されないため、そのほとんどは、偏光フィルタ52とクロスニコルの関係で配置された偏光フィルタ51を通過できない。液晶表示素子100は、このようにして黒表示を実現する。つまり、本実施形態に係る液晶表示素子100は、ノーマリブラック(NB)モードである。
(白表示)
第1電極部21及び第2電極部22にON電圧を印加すると、液晶層40の電圧がかけられた領域、つまり、正面視において第1電極部21と第2電極部22とが重なる領域(後述する画素5の形成領域)においては、液晶分子は、その長軸が基板11,12の主面と実質的に平行となるように挙動する。これにより、液晶層40を通過する光に複屈折が起きて、液晶層40を通過する光の偏光方向が変化し、偏光フィルタ52の裏側から液晶層40を通過した光は偏光フィルタ51を通過する。液晶表示素子100は、このようにして白表示を実現する。
【0020】
(第1電極部21と第2電極部22の構造について)
ここからは、図2〜図4を参照して、本実施形態に特有の第1電極部21と第2電極部22の構造について詳細に説明する。
【0021】
第1電極部21は、基板11の裏面上に、図2に示すように格子状に形成される電極である。また、その裏側に位置する第2電極部22は、基板12の表面上に、図2に示すように格子状に形成される電極である。
【0022】
格子状に形成されている第1電極部21は、第1の方向に延びるように形成される部分と、第2の方向に延びるように形成される部分とを有する。
以下では、説明便宜のため、第1の方向に延びるように形成される部分を線状電極1といい、第2の方向に延びるように形成される部分と線状電極2という。線状電極1と線状電極2とは、別体の電極を指すものではない。つまり、第1電極部21は、第1の方向に延在する複数の線状電極1と、第2の方向に延在する複数の線状電極2とが交差するようにして格子状に形成されている。複数の線状電極1は互いに平行であり、複数の線状電極2も互いに平行である。線状電極1と線状電極2との交差領域C1(図2参照。同図では、複数の交差領域のうち任意の1の交差領域C1を太枠で囲んで示した)に当たる部分は、両線状電極に共通の部分である。このように、第1電極部21は、一体的に形成されている。
本実施形態では、第1の方向と第2の方向は直交しており、第1電極部21は、直交格子状に形成されている。以下、説明便宜上、図示するように、第1の方向をy方向、第2の方向をx方向として説明する。
【0023】
y方向に延びる複数の線状電極1は、互いに等しい間隔Px1で配列されている(以下、この間隔を線間ピッチPx1という)。
x方向に延びる複数の線状電極2は、互いに等しい間隔Py1で配列されている(以下、この間隔を線間ピッチPy1という)。
【0024】
格子状に形成されている第2電極部22は、線状電極1と同様にy方向に延びるように形成される部分と、線状電極2と同様にx方向に延びるように形成される部分とを有する。
以下では、説明便宜のため、y方向に延びるように形成される部分を線状電極3といい、x方向に延びるように形成される部分と線状電極4という。線状電極3と線状電極4とは、別体の電極を指すものではない。つまり、第2電極部22は、y方向に延在する複数の線状電極3と、x方向に延在する複数の線状電極4とが交差するようにして格子状に形成されている。複数の線状電極3は互いに平行であり、複数の線状電極4も互いに平行である。線状電極3と線状電極4との交差領域C2((図2参照。同図では、複数の交差領域のうち任意の1の交差領域C2を太枠で囲んで示した)に当たる部分は、両線状電極に共通の部分である。このように、第2電極部22は、一体的に形成されている。
第2電極部22は、第1電極部21と同様に、直交格子状に形成されている。
【0025】
y方向に延びる複数の線状電極3は、互いに等しい間隔Px2で配列されている(以下、この間隔を線間ピッチPx2という)。
x方向に延びる複数の線状電極4は、互いに等しい間隔Py2で配列されている(以下、この間隔を線間ピッチPy2という)。
【0026】
本実施形態では、線間ピッチPx1、Py1、Px2、Py1がすべて等しい値に設定されており、この値をPとすれば、P=Px1=Py1=Px2=Py1である。また、線状電極1,2,3,4それぞれの電極幅もすべて等しい値に設定されている(図4に示すようにこの値をWとする)。つまり、第1電極部21と第2電極部22とは同様の形状となっている(図2参照)。
このようにして直交格子状に形成された第1電極部21は、複数の正方形状の開口部210を有する。また、同様に直交格子状に形成された第2電極部22は、複数の正方形状の開口部220を有する。
【0027】
第1電極部21と第2電極部22とは、基板11と基板12の対向面の法線方向から見た場合(正面視した場合)に、図2に示すように、交差領域C1と交差領域C2とがずれるように配置されている。また、第1電極部21と第2電極部22とは、線状電極1と線状電極3とが重ならず、且つ、線状電極2と線状電極4とが重ならないように配置されている。
さらに、本実施形態では、第1電極部21と第2電極部22とは、線状電極1と線状電極3とが線間ピッチの半分だけ(つまり、P/2だけ)だけ配列方向(x方向)にずれ、且つ、線状電極2と線状電極4とが線間ピッチの半分だけ(つまり、P/2だけ)だけ配列方向(y方向)にずれるように配置されている。
【0028】
このように両電極部が配置された液晶表示素子100は、正面視した場合、第1電極部21と第2電極部22とが重なる領域で複数の画素5(図3及び図4では、画素5の形成領域を点線で表した)を形成する。
具体的には、液晶表示素子100は、1本の線状電極1と1本の線状電極4が重なる領域で1の画素5を形成し、1本の線状電極2と1本の線状電極3とが重なる領域で1の画素5を形成し、線状電極1と線状電極4とが重なる領域及び線状電極2と線状電極3とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素5を形成する。
【0029】
液晶表示素子100は、第1電極部21と第2電極部22の形成領域により、所定の表示像(図形、記号等)を表示する。表示像は、例えば、液晶表示素子100がセグメント表示をする際の1セグメントを表す表示像60である(図3参照。同図では、表示像60の一部を表した)。
【0030】
両電極部は、格子状に形成され、且つ、上記に説明したように互いに交差領域C1と交差領域C2とが面内方向(x及びy方向)にずれるように配置されているため、表示像60の形成領域の全てにおいて重なるものではなく、表示像60の形成領域に点在するように複数の画素5を形成する。このため、ON電圧印加時に、表示像60の形成領域のすべてが白表示となるわけではなく、点在する複数の画素5のみが白表示となる。表示像60の形成領域のうち画素5の形成領域以外の領域では、液晶層40に電圧がかからずに黒表示となるため、液晶表示素子100は、視認者に、中間色(グレー)で表示された表示像60を視認させることができる。
【0031】
ここからは、以上のように構成される液晶表示素子100により、高い開口率を有し、表示像を中間色で表示することができる理由を説明する。
【0032】
上記のように液晶表示素子100が表示する表示像60においては、複数の画素5が点在するように配置されている。そのため、表示像60の形成領域における所定の領域を単位領域とした場合の単位領域の面積(単位面積)当たりの画素5の形成領域の面積の割合(以下、この割合を「比A」という)を所望の値に調整することができれば、濃淡の階調が調整された表示色で表示像60を表示できるはずである。
比AがA=1ならば、ON時に表示像60が真っ白に表示されることになる。比AがA=0ならば、ON時に表示像60が真っ黒に表示されることになる。つまり、比Aを0<A<1の範囲で所望な値に調整できれば、表示像60を様々な濃淡のグレー色で表示させる(階調表示させる)ことができるといえる。よって、比Aは、設計上のグレースケール比を表すものとなる。
なお、A=1は、開口が設けられていない電極により表示像を形成している状態を示し、A=0は、電極が形成されていない状態を示しているため、本実施形態の電極構造とは異なる。つまり、本実施形態に係る液晶表示素子100は、0<A<1の範囲での表示を実現する。
【0033】
ここで、単位面積当たりの画素5の形成領域の面積の割合を開口率Rとすれば、比Aと開口率Rとの関係は、(1−R)=Aという関係になる。
【0034】
本実施形態では、規則的に配列された格子状の第1電極部21と第2電極部22とにより、比A(または、開口率R)を所望の値に調整することを可能とする。
【0035】
単位領域を、図2、図4に示すように、交差する1本の線状電極1及び1本の線状電極2と、交差する1本の線状電極3及び1本の線状電極4とを含み、且つ、画素5を2つ含んだ正方形状の単位領域Bとすれば、本実施形態では、単位領域Bが規則的にx方向、y方向に並ぶことになるため、電極形成領域の比A(または、開口率R)がわかる。
本実施形態では、単位領域Bの面積はP(Pの2乗)であり、単位領域における画素5の形成領域の面積は、2×W(Wの2乗)であるため、本実施形態に係る液晶表示素子100の電極形成領域における設計上のグレースケール比を表す比Aは、A=2W/Pという式で表せるものとなる(このとき開口率Rは、R=1−2W/Pという式で表せる)。
【0036】
従来のように電極に微小な開口部を設けるという技術では、設計上のグレースケール比Aを50%以下にすることが、電極の重ね合わせ精度、電極の抵抗制限等の製造上の問題により難しく、特に、NBモードのVA型の液晶表示素子では、比Aを20%以下にすることは著しく困難であった(図5参照)。
一方、本実施形態に係る液晶表示素子100の電極構造は、設計上のグレースケール比Aを50%以下、さらに20%以下にし、黒色に近いグレー色で表示像60を表示させることを可能とする。これは、本実施形態の電極構造では、電極の重ね合わせ工程において、第1電極部21と第2電極部22とが多少ずれたとしても、単位領域Bにおいて画素5を形成する領域が2つあれば、理論上、比A(または、開口率R)が変化することがなく、また、本実施形態は、線状電極を格子状に構成することによって電極部を形成しているため、少なくとも、従来技術のように電極に直接開口部を形成する際の電極の抵抗制限の問題は生じないためである。
【0037】
本願発明者らは、図3に示すような表示像60を表示する液晶表示素子100を、線状電極1〜4の線幅Wを0.063mm、線間ピッチPを0.2mmと設定し、実際に作成した。この設定では、比Aは、A=2W/Pより、約0.19(19%)という値になる(このとき開口率Rは、約81%)。
このように、本実施形態に特有の電極構造によれば、設計上のグレースケール比Aを50%以下、さらには20%以下とすることが可能である。
【0038】
また、本願発明者らは、この範囲は、本実施形態における線間ピッチPが0.15mm以上0.3mm以下の範囲であれば、表示品位を低下させることなく濃淡を実現できることを見出した。よって、この範囲を満たす上限値であるP=0.3mmに設定すれば、比Aは、A=2W/Pより、約0.09(9%)という値になる(このとき開口率Rは、約91%)。このように、本実施形態によれば、従来技術では、著しく困難であったグレースケール比20%を大きく下回る色での表示が可能である。
【0039】
上記では、比Aが約19%、約9%となるように第1電極部21と第2電極部22とを設定した例を示したが、連続的な濃淡の階調を実現したい場合は、表示像60における所定の領域毎に、線幅Wと線間ピッチPとの少なくとも一方を変化させることで、比A(または開口率R)が徐々に変化するようにして、液晶表示素子100を設計すればよい。
【0040】
図5に、電極形成領域における比AとON透過率(ON電圧印加時の透過率)との関係を表したグラフを示す。同図において、線6は、理論上の前記関係を示すものであり、線7は、実際に作成した液晶表示素子での前記関係を示すものである。
【0041】
図5を見ると、ある比AにおけるON透過率の実測値は、比較的良好に、理論値に従っていることがわかる。よって、表示像60における所定の領域毎に、比A(または開口率R)が徐々に変化するようにした液晶表示素子100によれば、連続的な濃淡の階調を実現できることがわかる。
また、図5により、ある比AにおけるON透過率の実測値は、全体的に理論値よりも下回るという関係がわかるため、この関係を踏まえて液晶表示素子100を作成すれば、よりなめらかな階調表示が可能となる。
【0042】
なお、液晶表示素子100における電極の形成領域のすべてに、本実施形態に特有の格子状の電極構造を適用する必要はなく、その一部だけに形成してもよい。例えば、比Aが50%より大きい範囲においては、必ずしも本実施形態に係る電極構造を用いる必要はなく、例えば、従来技術のように電極に直接開口部を形成したものを用いればよい。
【0043】
(液晶表示素子100の生産方法について)
次に、液晶表示素子100の生産方法について説明する。
【0044】
まず、透明基板からなる一対の基板11,12を用意する。
【0045】
続いて、基板11の一面上にITOにより第1電極部21を形成する。具体的には、第1の方向に延在する複数の線状電極1と、第2の方向に延在する複数の第2線状電極とが直交するような形状の第1電極部21を形成する。つまり、直交格子状の第1電極部21を形成する。また、基板12の一面上にITOにより第2電極部22を形成する。具体的には、複数の線状電極3と、複数の第4線状電極とが直交するような形状の第2電極部22を形成する。つまり、直交格子状の第2電極部22を形成する。
ここでの工程では、まず、基板11と基板12の対向面の法線方向から見た場合に、線状電極1と線状電極3とが重ならず、且つ、線状電極2と線状電極4とが重ならないように、第1電極部21と第2電極部22との位置関係を決定し、その後に、基板11と基板12とを対向配置した際に、決定した前記位置関係を満たすように、基板11の一面上に第1電極部21を形成し、基板12の一面上に前記第2電極部21を形成する。
【0046】
続いて、基板11に、第1電極部21を覆うように配向膜31を形成する。同様に、基板12に、第2電極部22を覆うように配向膜32を形成する。このように形成された配向膜31と配向膜32とには、例えばアンチパラレルとなるようにラビング処理が施され、液晶分子に略90°(例えば、89.5°程度)のプレチルトを付与するように調整されている。
【0047】
続いて、基板11,12のいずれかにシール材を塗布し、両基板を、電極部側が対向するように重ね合わせる。そして、一対の基板11,12間に、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材を注入して、液晶層40を形成する。液晶層40の液晶分子は、配向膜31,32によって垂直配向されるとともに、上記プレチルトが付与される。
【0048】
そして、基板11に偏光フィルタ51を貼り合わせ、基板12に偏光フィルタ52を貼り合わせる。偏光フィルタ51と52とは、各々が有する透過軸が互いに直交するクロスニコルの関係で配置される。
液晶表示素子100は、例えば、以上のように生産される。
【0049】
以上のように構成され、生産される液晶表示素子100は、液晶層40と、液晶層40を挟んで互いに対向する基板11及び基板12と、基板11の液晶層40側に位置する第1電極部21と、基板12の液晶層40側に位置する第2電極部22と、を備え、第1電極部21は、第1の方向に延在する複数の線状電極1と、第2の方向に延在する複数の線状電極2とが交差するようにして格子状に形成され、第2電極部22は、第1の方向に延在する複数の線状電極3と、第2の方向に延在する複数の線状電極4とが交差するようにして格子状に形成され、基板11と基板12の対向面の法線方向から見た場合に、線状電極1と線状電極3とは重ならず、線状電極2と線状電極4とは重ならず、線状電極1と線状電極4とが重なる領域及び線状電極2と線状電極3とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素5を形成する。
この液晶表示素子100によれば、上記に説明したように、高い開口率を有し、表示像を中間色で表示することができる。
【0050】
(変形例)
なお、本発明は上記の実施形態及び図面によって限定されるものではない。上記の実施形態及び図面に変更(構成要素の削除も含む)を加えることができるのはもちろんである。
【0051】
以上の実施形態では、液晶表示素子100をNBモードのVA型のものとして説明したが、これに限られない。液晶層40を他の公知の液晶材により構成してもよい。
例えば、液晶表示素子100は、ノーマリホワイト(NW)モードのTN(Twisted Nematic)型であってもよい。この場合、液晶層40は、配向膜31,32の配向規制力により、電極部21,22から電圧を印加していない時(電圧無印加時)に基板11,12間で液晶分子の配向方向が約90°ねじれるように配列したTN型液晶から構成され、液晶分子の誘電率異方性Δεが正(Δε>0)のいわゆるポジ型の液晶材から構成される。
【0052】
液晶表示素子100が、このようなNWモードのTN型として構成される場合、液晶表示素子100は、OFF時に白表示を行い、ON時に黒表示を行う(つまり、画素5を黒色で表示する)。
第1電極部21と第2電極部22は、上述のように、表示像60の形成領域に点在するように複数の画素5を形成する。このため、ON電圧印加時に、点在する複数の画素5が黒表示となる。表示像60の形成領域のうち画素5の形成領域以外の領域では、液晶層40に電圧がかからずに白表示となるため、NWモードのTN型として構成される液晶表示素子100によっても、視認者に、中間色(グレー)で表示された表示像60を視認させることができる。
従来のように電極に微小な開口部を設けるという技術では、設計上のグレースケール比Aを50%以下にすることが、電極の重ね合わせ精度、電極の抵抗制限等の製造上の問題により難しく、特に、NWモードのVA型の液晶表示素子では、比Aを35%以下にすることは著しく困難であった(図6参照)。一方、この変形例に係るTN型の液晶表示素子100の電極構造は、設計上のグレースケール比Aを50%以下、さらに35%以下にし、白色に近いグレー色で表示像60を表示させることを可能とする。比Aを50%以下、さらに35%以下とすることができる理由は、前述と同様である。
【0053】
図6に、NWモードのTN型の液晶表示素子100において、電極形成領域における比AとON透過率との関係を表したグラフを示す。同図において、線8は、理論上の前記関係を示すものであり、線9は、実際に作成した液晶表示素子での前記関係を示すものである。図6を見ると、ある比AにおけるON透過率の実測値は、良好に、理論値に従っていることがわかる。よって、表示像60における所定の領域毎に、比A(または開口率R)が徐々に変化するようにした液晶表示素子100によれば、連続的な濃淡の階調を実現できることがわかる。また、図6により、ある比AにおけるON透過率の実測値は、全体的に理論値よりも、若干下回るという関係がわかるため、この関係を踏まえて液晶表示素子100を作成すれば、よりなめらかな階調表示が可能となる。
【0054】
また、以上では、第1電極部21と第2電極部22とを直交格子状に形成した例を説明したが、両電極部の形状はこれに限られない。図7に、変形例に係る第1電極部221及び第2電極部222を示す。第1電極部221は、第1の方向に延在する複数の線状電極201と、第2の方向に延在する複数の線状電極202とが交差するようにして格子状に形成されている。この変形例では、第1の方向と第2の方向は直交せず、第1電極部221は、斜め格子状に形成されている。第2電極部222は、第1の方向に延在する複数の線状電極203と、第2の方向に延在する複数の線状電極203とが交差するようにして格子状に形成されている。第2電極部222は、第1電極部221と同様に、斜め格子状に形成されている。このように両電極部を形成してもよい。
【0055】
また、以上の実施形態では、第1電極部21と第2電極部22とは、線状電極1と線状電極3とが線間ピッチの半分だけ配列方向にずれ、且つ、線状電極2と線状電極4とが線間ピッチの半分だけ配列方向にずれるように配置されていたが、これに限られない。
正面視した場合に、線状電極1(201)と線状電極3(203)とが重ならず、線状電極2(202)と線状電極4(204)とが重ならず、線状電極1(201)と線状電極4(204)とが重なる領域及び線状電極2(202)と線状電極3(203)とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素を形成する、という条件を満たしていれば、配列方向へのずらしかたは任意である。
また、線間ピッチや電極幅も、すべての線状電極において等しくする必要はない。両電極部によって形成される画素の配置パターンが一定の規則性を有しており、設計上、比A(または開口率R)の計算ができる範囲においては、線間ピッチや電極幅を、例えば、両電極部の一方と他方とで異ならせたりしてもよい。
【0056】
以上の実施形態及び変形例に係る液晶表示素子100は、光を面状に出射して液晶パネル10を照らすバックライトをさらに備えてもよい。さらに、半透過反射層を設け、半反射型の液晶表示素子としてもよい。また、バックライトを省略し反射層を設けた反射型の液晶表示素子であってもよい。
【0057】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、重要でない公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0058】
100…液晶表示素子
11,12…基板
21…第1電極部
22…第2電極部
1,2,3,4…線状電極
5…画素
31,32…配向膜
40…液晶層
51,52…偏光フィルタ
60…表示像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶層と、
前記液晶層を挟んで互いに対向する第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記液晶層側に位置する第1電極部と、
前記第2基板の前記液晶層側に位置する第2電極部と、を備え、
前記第1電極部は、第1の方向に延在する複数の第1線状電極と、第2の方向に延在する複数の第2線状電極とが交差するようにして格子状に形成され、
前記第2電極部は、前記第1の方向に延在する複数の第3線状電極と、前記第2の方向に延在する複数の第4線状電極とが交差するようにして格子状に形成され、
前記第1基板と前記第2基板の対向面の法線方向から見た場合に、
前記第1線状電極と前記第3線状電極とは重ならず、
前記第2線状電極と前記第4線状電極とは重ならず、
前記第1線状電極と前記第4線状電極とが重なる領域及び前記第2線状電極と前記第3線状電極とが重なる領域で、互いに離間した複数の画素を形成する、
ことを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1の方向は、前記第2の方向と直交し、
前記第1電極部と前記第2電極部とは、各々、直交格子状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記複数の第1線状電極の配列間隔と前記複数の第3線状電極の配列間隔とは等しく、
前記法線方向から見た場合に、前記第1線状電極と前記第3線状電極とは、配列間隔の半分だけ配列方向にずれている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記複数の第2線状電極の配列間隔と前記複数の第4線状電極の配列間隔とは等しく、
前記法線方向から見た場合に、前記第2線状電極と前記第4線状電極とは、配列間隔の半分だけ配列方向にずれている、
ことを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第1線状電極と前記第2線状電極との交差領域は、前記第1線状電極と前記第2線状電極とで共通の部分であり、前記第1電極部は、一体的に形成され、
前記第3線状電極と前記第4線状電極との交差領域は、前記第3線状電極と前記第4線状電極とで共通の部分であり、前記第2電極部は、一体的に形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
パッシブ駆動方式で駆動する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
液晶層を挟んで互いに対向する第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記液晶層側に、第1の方向に延在する複数の第1線状電極と、第2の方向に延在する複数の第2線状電極とが交差するようにして格子状に形成される第1電極部と、
前記第2基板の前記液晶層側に、前記第1の方向に延在する複数の第3線状電極と、前記第2の方向に延在する複数の第4線状電極とが交差するようにして格子状に形成される第2電極部と、を備える液晶表示素子の生産方法であって、
前記第1基板と前記第2基板の対向面の法線方向から見た場合に、前記第1線状電極と前記第3線状電極とが重ならず、且つ、前記第2線状電極と前記第4線状電極とが重ならないように、前記第1電極部と前記第2電極部との位置関係を決定するステップと、
前記第1基板と前記第2基板とを対向配置した際に、決定した前記位置関係を満たすように、前記第1基板の一面上に前記第1電極部を形成し、前記第2基板の一面上に前記第2電極部を形成するステップと、
前記第1基板と前記第2基板とを、それぞれの電極部が形成された面を対向させて配置するステップと、を備える、
ことを特徴とする液晶表示素子の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114114(P2013−114114A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261367(P2011−261367)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】