説明

液晶表示素子

【課題】 負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、イオン性不純物による焼付き現象改善した液晶表示素子を提供する。
【解決手段】 負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、前記液晶組成物の電子分極率をα1、前記液晶配向膜の略垂直配向基の電子分極率及び被覆率をそれぞれα2及びCとするとき、
α1・α2・C<1500
で表されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、垂直配向タイプの液晶表示素子が液晶テレビ(直視型表示装置)、液晶プロジェクタ(投射型表示装置)、携帯電話等で実用化されている。これら垂直配向タイプの液晶表示素子は、内面に透明電極を形成し、さらに略垂直配向機能を持つ液晶配向剤を塗布してから焼成した一対の透明基板の透明電極の周囲に、液晶組成物を注入するための注入口を除いて熱硬化型剤の接着剤を塗布してから加熱硬化し、次に注入口から負の誘電率異方性を持つ液晶組成物を注入し、最後に注入口を紫外線硬化型の接着剤で封止することにより得られる。
【0003】
液晶表示素子の液晶配向には水平配向タイプと垂直配向タイプがある。垂直配向タイプの液晶表示素子に用いられる液晶配向剤は、水平配向タイプの液晶表示素子に用いられる極性の比較的大きなポリアミック酸または可溶性ポリイミドの一部に無極性の略垂直配向機能を持つ官能基を置換させたポリマーを極性溶媒に溶解したものである。また、垂直配向タイプの液晶表示素子に用いられる液晶材料は、複数の誘電率異方性が負及び/またはほぼ零の細長い液晶化合物を所定の割合で混合した誘電率異方性が負の液晶組成物である。これらの液晶配向剤を塗布及び焼成して得られる垂直配向膜及び誘電率異方性が負の液晶組成物を用いた液晶表示素子の配向膜表面近傍の分子配列は、極性の比較的大きなポリイミド骨格からなる膜の表面に極性の無い長鎖アルキル基等がほぼ垂直に林立し、その隙間を誘電率異方性が負の液晶分子が前記長鎖アルキル基と分子長軸が並行になるように充填していると考えられる。
【0004】
ところで、液晶表示素子中には構成材料及び製造工程由来のイオン性不純物が存在する。イオン性不純物は電荷を有し、イオンまたは有極性化合物と強い結合を作るが、無極性化合物とは弱い結合しか作らない。イオン性不純物は水平配向用ポリイミド薄膜のような極性の大きな表面には強く吸着され、電界または加熱等で脱離する割合は少ない。一方、垂直配向用ポリイミド薄膜では、極性の大きいポリイミド骨格に吸着したイオン性不純物は周りを無極性の長鎖アルキル基や液晶分子の末端アルキル基で覆われているため吸着力が低下して、電界または加熱等で脱離し易い。従って、垂直配向タイプの液晶素子を長時間駆動させると、隣接した透明電極間の電位差により脱離したイオン性不純物が特定の電極に掃き寄せられて焼付き現象が発生しやすい。
【0005】
そこで、垂直配向用ポリイミド薄膜の焼付き現象の発生を抑制する方法としては、ポリイミド骨格の極性をさらに大きくしてイオン性不純物の吸着力を強くする方法、ポリイミド骨格に吸着したイオン性不純物の周りの分散力を小さくしてイオン性不純物の吸着力の低下を防止する方法が考えられる。ポリイミド骨格の極性を大きくするにはイミド化率を下げて、ポリイミドより極性の大きなポリアミック酸の残存割合を多くすることまたはポリイミドに極性の大きな原子や官能基を導入するするが考えられるが、液晶表示素子の表示特性または信頼性に悪影響を与える場合がある。また、イオン性不純物の周りの分散力を小さくする方法としては、略垂直配向機能を持つ置換基の単位表面積当りの個数(表面密度)を減らすこと、及び液晶組成物の電子分極率を小さくすることが挙げられる。液晶表示素子の諸特性の改良法として液晶組成物または液晶配向膜の分極率を規定した文献としては、例えば特許文献1及び2に記載されたものがある。
【特許文献1】特開平6−167684号公報
【特許文献2】特開平7−72482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、液晶組成物に分極率の2つの短軸方向の成分の比が1.0〜1.2の液晶化合物を添加することにより、高温(60℃)におけるコントラスト比を改善しているが、焼付き現象に関する記載は無い。
【0007】
また上記特許文献2では、液晶配向膜近傍の液晶分子の配向性が均一で、液晶分子が基板面で一定したプレチルト角を有するSTN液晶表示素子を得る手段として、液晶配向膜の分子骨格に酸素、硫黄等の極性の大きな原子および/または芳香環等の分極率の大きな構造を導入する方法が記載されている。ここで述べられている分極率は永久双極子に由来する配向分極率を表わし、ポリイミド骨格の極性を大きくすること等しく、液晶表示素子の表示特性または信頼性に悪影響を与える場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、イオン性不純物による焼付き現象を改善した液晶表示素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、前記液晶組成物の電子分極率をα1、前記液晶配向膜の略垂直配向基の電子分極率及び被覆率をそれぞれα2及びCとするとき、
α1・α2・C<1500
で表されることを特徴とする。このような方法を用いることにより、配向膜に対するイオン性不純物の吸着力を強くして、液晶表示素子の焼付き現象を低減させることができる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は前記液晶組成物が、1、4−フェニレン基の2位及び/または3位に弗素原子を置換した構造を有する化合物を50重量%以上含有することを特徴とする。このような化合物を用いることにより、垂直配向力を強くして、表示品質を向上させ、また配向膜に対するイオン性不純物の吸着力を強くして、液晶表示素子の焼付き現象を低減させることができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は前記液晶配向膜の略垂直配向基が、アルキル基、ステロイド残基または液晶性化合物残基からなることを特徴とする。このような略垂直配向基を用いることにより、配向膜に対するイオン性不純物の吸着力を強くして、液晶表示素子の焼付き現象を低減させることができる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は前記液晶配向膜の略垂直配向基の被覆率Cが、
0.4≦C≦1.0
で表されることを特徴とする。このような範囲の略垂直配向基の被覆率を用いることにより、垂直配向力を強くして、表示品質を向上させ、また配向膜に対するイオン性不純物の吸着力を強くして、液晶表示素子の焼付き現象を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と略垂直配向機能を持つ液晶配向膜から成る液晶表示素子におけるイオン性不純物による焼付き現象は、無極性の略垂直配向基と異方性を持つ液晶分子の配列の仕方により、液晶配向膜表面に対するイオン性不純物の吸着エネルギーが減少し、電界または加熱等で脱離し易くなり、液晶素子を長時間駆動させると、脱離したイオン性不純物が隣接した透明電極間の電位差により特定の電極に掃き寄せられることが原因で発生すると考えられる。
【0014】
液晶表示素子の液晶配向膜表面近傍に存在するイオン性不純物は配向膜骨格のイミド基に吸着し、略垂直配向基は配向膜骨格のポリイミド面にほぼ垂直に直線的に延びた状態で林立し、誘電率異方性が負の液晶分子は略垂直配向基の隙間に略垂直配向基と並行に充填されている場合、イオン性不純物、略垂直配向基、イミド基、及び液晶分子間に働く相互作用エネルギーは、イオン性不純物をイオン、略垂直配向基及び液晶分子を極性分子とすると次のように表される。
【0015】
イオンと極性分子間の相互作用エネルギーはイオンの電荷と極性分子の誘起双極子(電子分極)及び永久双極子(配向分極)の間の相互作用エネルギーであり、
w1=−Q2(α1+μ2/3kT)/2(4πε0εr)2r4
で表される。ここで、Qはイオンの電荷、α1は極性分子の電子分極率、μは極性分子の極子モーメント、Tは絶対温度、ε0は真空誘電率、εrは比誘電率、rはイオンと極性分子間の距離である。極性分子がイミド基の場合には、双極子モーメント及び電子分極率は隣接する官能基によりほとんど変化しないので、イオン性不純物とイミド基の間の相互作用エネルギーw1は定数とみなせる。極性分子が負の誘電率異方性を持つ液晶分子の場合には、液晶分子の双極子モーメントは分子軸に対して直角方向を向いている。前記液晶分子が配向膜面に対して垂直に配列している場合には、液晶分子の双極子モーメントは配向膜面に対して並行に並び、配向膜方向の双極子モーメントは0 (w1においてμ=0)となり、配向膜表面に吸着したイオン性不純物との相互作用においては無極性とみなせる。また、極性分子が略垂直配向基の場合には、略垂直配向基はアルキル基等の無極性分子から成る。よって、配向膜表面に吸着したイオン性不純物と誘電率異方性が負の液晶分子または略垂直配向基間の相互作用エネルギーはイオンの電荷と無極性分子の誘起双極子(電子分極)の間の相互作用エネルギーとして扱うことができて、
w2=−Q2α2/2(4πε0εr)2r4
で表される。この式から、イオン性不純物と略垂直配向基及び誘電率異方性が負の液晶分子間の相互作用エネルギーは電子分極率α2の大きさで決まる。電子分極率α2は略垂直配向基の誘起双極子と誘電率異方性が負の液晶分子の誘起双極子の相互作用エネルギーから見積もることができる。α2が大きくなると、イミド基に吸着したイオン性不純物は液晶分子との相互作用エネルギーが増大することにより、吸着力が弱まって脱離しやすくなる。従って、焼付き現象を緩和させるには、α2は小さいほど良いことになる。
【0016】
次に、極性分子と極性分子間の相互作用エネルギーはvan der Waalsエネルギー(v.d.Waalsエネルギー)と呼ばれ、誘起双極子(電子分極率)と永久双極子(配向分極率)の間の相互作用エネルギー(誘起エネルギー)、永久双極子(配向分極率)と永久双極子(配向分極率)の間の相互作用エネルギー(配向エネルギー)、及び誘起双極子(電子分極率)と誘起双極子(電子分極率) の間の相互作用エネルギー(分散エネルギー)の和として
w3=−(C1+C2+C3)/r6
C1=(μ12α2+μ22α1)/(4πε0)2
C2=μ12μ22 /3/(4πε0)2Kt
C3=3α1α2I1I2/2(4πε0)2 (I1+I2)
で表される。ここで、C1、C2及びC3はv.d.Waalsエネルギーの誘起エネルギー項、配向エネルギー項、及び分散エネルギー項の係数、μ1及びμ2は相互作用をしている2個の極性分子の双極子モーメント、α1及びα2は相互作用をしている2個の極性分子の電子分極率、I1及びI2は相互作用をしている2個の極性分子のイオン化ポテンシャル、Tは絶対温度、ε0は真空誘電率、εrは比誘電率、rは分子間距離である。イミド基と略垂直配向基または負の誘電率異方性を持つ液晶分子との相互作用は誘起エネルギーC1であり、一般に、分散エネルギーより1桁小さいため無視する。略垂直配向基と負の誘電率異方性を持つ液晶分子との相互作用は、略垂直配向基が無極性で、双極子が0であるため、C1とC2は0となり、
w3=−3α1α2I1I2/2(4πε0)2 (I1+I2)r6
で表される。
【0017】
これらの結果から、イオン性不純物、略垂直配向基、イミド基、及び液晶分子間に働く相互作用エネルギーの中で、イオン性不純物の吸着エネルギーに影響を与える相互作用エネルギーは、略垂直配向基と負の誘電率異方性を持つ液晶分子との相互作用エネルギーw3であることがわかる。w3において、イオン化ポテンシャルは略垂直配向基及び負の誘電率異方性を持つ液晶分子の種類でほとんど変化しない。また、略垂直配向基の電子分極率は略垂直配向基の表面密度に比例する。ここでは、表面密度の代りに、表面密度と比例関係にある被覆率を用いる。よって、電子分極率α2は略垂直配向基の電子分極率と略垂直配向基の被覆率と負の誘電率異方性を持つ液晶組成物の電子分極率との積に比例する。
【0018】
そこで、内面に透明電極を形成した一対のガラス基板に、分子構造の異なる略垂直配向基を様々な被覆率で置換した液晶配向剤を塗布してから焼成し、透明電極の周囲に液晶組成物を注入するための注入口を除いて熱硬化型剤の接着剤を塗布してから加熱硬化し、次に注入口から様々な屈折率の負の誘電率異方性を持つ液晶組成物を注入し、最後に注入口を紫外線硬化型の接着剤で封止することにより、焼付き試験用の液晶表示素子を作った。
前記液晶表示素子に電圧を印可して焼付き試験をして、略垂直配向基の電子分極率α1と略垂直配向基の被覆率Cと負の誘電率異方性を持つ液晶組成物の電子分極率α2との積と焼付き現象のレベルの関係を調べたところ、
C・α1・α2<1500
の関係を満たす配向剤と液晶組成物の組合せにおいて、焼付き現象が緩和されることがわかった。
【0019】
ここで、略垂直配向基及び負の誘電率異方性を持つ液晶組成物の電子分極率の計算方法について述べる。略垂直配向基の電子分極は、原子屈折の和から分子屈折[R]を算出し、次式により電子分極率を計算した。
α1=3[R]/4πN
ここで、NはAvogadro定数である。また、原子屈折の値は化学便覧(丸善)等から引用した。即ち、水素原子は1.100、炭素原子は2.418、酸素原子は1.643、弗素原子は0.769、5員環は+0.04である。また、2,3−ジフルオロ−p−フェニレン基は22.515、この基に結合したフェニル基は+9.281である。上式を用いて計算した略垂直配向基の電子分極は、オクタデシル基では33.1、コレスタニル基では46.4、4−(トランス,トランス−4’−デシルビシクロヘキシル)フェニルエチル基では62.5である。負の誘電率異方性を持つ液晶組成物の電子分極率としては、次式で表される平均電子分極率を用いた。
α2=(α‖+2α⊥)/3
ここで、α‖は分子軸方向の電子分極率、α⊥は分子軸に直角方向の電子分極率である。
また、負の誘電率異方性液晶組成物の分子軸方向及び分子軸に直角方向の電子分極率は、分子軸方向及び分子軸に直角方向の屈折率から次式により計算した。
α‖=3(n‖2−1)M/4(n‖2+2)πρN
α⊥=3(n⊥2−1)M/4(n⊥2+2)πρN
ここで、n‖は分子軸方向の屈折率、n⊥は分子軸に直角方向の屈折率、Mは平均分子量、ρは密度、NはAvogadro定数である。ここでは、計算を簡単にするためにMは350、ρは1.0とした。
【0020】
また、略垂直配向基の被覆率Cはポリイミドの合成においてモノマーとして用いた全てのジアミンまたは四塩基酸無水物のモル数A、略垂直配向基で置換されたジアミンまたは四塩基酸無水物のモル数aを用いて次式で表わす。従って、Cは0から1の間の値をとる。
C=a/A
【0021】
また、内面に透明電極を形成した一対のガラス基板に、略垂直配向基を様々な被覆率で置換した液晶配向剤を塗布してから焼成し、透明電極の周囲に液晶組成物を注入するための注入口を除いて熱硬化型剤の接着剤を塗布してから加熱硬化し、次に注入口から負の誘電率異方性を持つ液晶組成物を注入し、最後に注入口を紫外線硬化型の接着剤で封止して液晶表示素子を作り、略垂直配向基の被覆率と液晶組成物の配向状態の関係を調べたところ
0.4≦C≦1.0
で表される略垂直配向基の被覆率の範囲で、負の誘電率異方性を持つ液晶組成物が略垂直配向することがわかった。
【0022】
一般に、液晶表示素子に用いられる液晶相としてはネマチック相が多く、実用的には種々の特性を得るために複数のネマチック液晶化合物を所定の割合で混合したネマチック液晶組成物として用いられる。ネマチック液晶化合物の一般的な分子構造は、2から4個の環、これらの環を直線的に結合する中間結合基、これらの環の分子短軸方向(2及び/または3位)に置換基を導入した側鎖基、両端にある環の分子長軸方向に置換基を導入した2つ末端基から成る。環としては、シクロヘキサン環、ベンゼン環、1,3−ジオキサン環、ピリミジン環、ピラジン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環等が用いられる。中間結合基としては、単結合、エステル基、エチレン基、ビニレン基、アセチレン基、メチレンオキシ基、ジフルオロメチレンオキシ基、アゾメチン基、アゾキシ基等が用いられる。側鎖基としては、弗素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、シアノ基等が単数または複数個用いられる。末端基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、弗素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基等が用いられる。また、ネマチック液晶化合物には誘電率異方性が正の液晶化合物と負の液晶化合物がある。ここで、誘電率異方性は液晶化合物の分子軸方向の誘電率から分子軸に垂直方向の誘電率を引いた値で表わされる。誘電率異方性が正の液晶化合物としては、末端基及び環の3または5位にシアノ基、弗素原子等の電気陰性度の大きな基を置換した化合物が用いられる。誘電率異方性が負の液晶化合物としては、末端基にアルキル基またはアルコキシ基、環の2または3位に電気陰性度の大きなシアノ基、弗素原子等を単数または複数個置換した化合物が用いられる。
【0023】
次に、垂直配向に用いられるネマチック液晶化合物としては、弗素系で誘電率異方性が負のネマチック液晶化合物及び誘電率異方性ほぼ0のネマチック液晶化合物(ニュートラル液晶化合物)が用いられる。弗素系で誘電率異方性が負のネマチック液晶化合物の分子構造は、環としては1,4−シクロヘキシレン基及び/または1,4−フェニレン基、側鎖基としては1,4−フェニレン基の2位及び/または3位に水素原子または単数又は複数個の弗素原子、末端基としてはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、弗素原子で表わされる。ニュートラル液晶化合物の分子構造は、環としては1,4−シクロヘキシレン基及び/または1,4−フェニレン基、末端基としてはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、弗素原子で表わされる。例えば、(化1)、(化2)及び(化3)にて表される分子構造を有する液晶化合物が利用される。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
(ここで、環AからJはシクロヘキサン環又はベンゼン環を表し、R1からR6はアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基又は弗素原子を表し、X1からX10は水素原子又は弗素原子を表す。)
【0028】
実用的にはこれらの液晶化合物を所定の割合で混合した液晶組成物が用いられる。液晶組成物には様々な特性が必要となるが、その中で最も重要な特性は駆動電圧が低いことである。駆動電圧は主として誘電率異方性の大きさの絶対値に左右され、その絶対値が大きいほど駆動電圧は低くなる。一方、弗素系で誘電率異方性が負のネマチック液晶化合物の誘電率異方性の大きさの絶対値は比較的小さい。従って、液晶組成物における弗素系で誘電率異方性が負のネマチック液晶化合物の混合割合は多いほど良いが、駆動電圧以外の特性を考慮すると、50wt%以上含有することが好ましい。
【0029】
本発明の配向膜は、環状の四塩基酸無水物と、環状のジアミンを重合させたポリイミドを主体として構成される配向膜であって、四塩基酸無水物またはジアミンの環構造の全部または一部に略垂直配向基を置換したものである。四塩基酸無水物としては、シクロブタンテトラカルボン酸無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物、1,2:4,5−ベンゼンテトラカルボン酸無水物、3,4:3‘,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,4:3‘,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物等及びこれらの化合物環構造に略垂直配向基を置換した化合物が用いられる。ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル、4−(4’−アミノベンジル)アニリン、4,4‘−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル等及びこれらの化合物環構造に略垂直配向基を置換した化合物が用いられる。
【0030】
略垂直配向基としては、アルキル基、ステロイド残基または液晶性化合物残基が用いられる。これらの略垂直配向基は四塩基酸無水物またはジアミンの環構造と結合基を介して結合される。結合基としては、単結合、エステル基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、アミド基等が用いられる。アルキル基としては、炭素数が6から30の直鎖または分岐アルキル基、炭素数が1から20の直鎖または分岐アルキル基の全ての水素原子を弗素原子で置換したパーフルオロアルキル基、または水素原子の一部を弗素原子で置換した部分フルオロアルキル基が用いられる。ステロイド残基としては、コレステリル基、コレスタニル基、エピコレステリル基、エピコレスタニル基、エルゴスタニル基、エピエルゴスタニル基、コプレステロール、エピコプレステリル基、α−エルゴステリル基、β−シトステリル基、スチグマステニル基、カンペステリル基等が用いられる。液晶性化合物残基としては、下記(化4)にて表される基が用いられる。
【0031】
【化4】

【0032】
但し、(化4)において、Rは炭素数が1から30のアルキル基、アルコキシ基、弗素化アルキル基、または弗素化アルコキシ基であり、環A1からA4はそれぞれ独立にp−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−イレン、ピリミジン−2,5−イレン、ピラジン−2,5−イレン、2,6−ナフタレンジイル、2,6−テトラヒドロナフタレンジイル、または2,6−デカヒドロナフタレンジイルであり、X1からX3はそれぞれ独立に単結合、−CO−O−、−O−CO−、−(CH2)o−、−O−(CH2)p−、−(CH2)q−O−、−O−CF2−、−CF2−O―、―CH=CH―、―CF=CF―、―C≡C−、−(CH2)r−CO−O−、−CO−O−(CH2)s−、−N=N−、−N(O)=N−、または−N=N(O)−であり、Yは−(CH2)t−、−O−(CH2)u−、−CO−O−(CH2)v−、−(CH2)w−CO−、または−O−(CH2)x−CO−であり、Zは単結合、−O−、−NH−、−S−であり、V1からV4はそれぞれ独立に−H、−F、−CH3、−OCH3、−CN、−CF3、または−OCF3であり、m1からm4はそれぞれ独立に0または1であり、n1からn4はそれぞれ独立に0から4のの整数であリ、oからxはそれぞれ独立に1から30のの整数であリ、R1及びR2はそれぞれ独立に−Hまたは炭素数が1から6のアルキル基である。液晶性化合物(化4)に含まれる化合物で好ましいものとしては、下記(化5)、(化6)及び(化7)で表される2環、3環及び4環の化合物が挙げられる。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
但し、(化5)、(化6)及び(化7)において、Rは炭素数が1から30のアルキル基、アルコキシ基、弗素化アルキル基、または弗素化アルコキシ基であり、環A1からA4はそれぞれ独立にp−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−イレン、ピリミジン−2,5−イレン、ピラジン−2,5−イレン、2,6−ナフタレンジイル、2,6−テトラヒドロナフタレンジイル、または2,6−デカヒドロナフタレンジイルであり、X1からX3はそれぞれ独立に単結合、−CO−O−、−O−CO−、−(CH2)o−、−O−(CH2)p−、−(CH2)q−O−、−O−CF2−、−CF2−O―、―CH=CH―、―CF=CF―、―C≡C−、−(CH2)r−CO−O−、−CO−O−(CH2)s−、−N=N−、−N(O)=N−、または−N=N(O)−であり、Yは−(CH2)t−、−O−(CH2)u−、−CO−O−(CH2)v−、−(CH2)w−CO−、または−O−(CH2)x−CO−であり、Zは単結合、−O−、−NH−、−S−であり、V1からV4はそれぞれ独立に−H、−F、−CH3、−OCH3、−CN、−CF3、または−OCF3であり、n1からn4はそれぞれ独立に0から4のの整数であリ、oからxはそれぞれ独立に1から30のの整数であリ、R1及びR2はそれぞれ独立に−Hまたは炭素数が1から6のアルキル基である。
【0037】
ポリイミド薄膜の形成方法としては、ポリイミドのプレポリマーであるポリアミック酸溶液を塗布後、焼成して脱水反応によりポリイミド薄膜を形成する方法(ポリアミック酸タイプ)、ポリイミド溶液を塗布後、溶媒を加熱蒸発させてポリイミド薄膜を形成する方法(可溶性ポリイミドタイプ)、ポリアミック酸とポリイミドの混合溶液を塗布して層分離させてから焼成する方法(ハイブリッドタイプ)等がある。ポリアミック酸タイプでは、環状四塩基酸無水物と環状ジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶媒中で加熱して重縮合反応させ、得られたポリアッミク酸をN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エチルセロソルブ等の混合溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱焼成してポリイミド薄膜を得る。可溶性ポリイミドタイプでは、前記ポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドン等の溶媒に溶解させ、ピリジン等のアルカリ、及び無水酢酸等の酸無水物を加えて加熱して閉環反応させ、得られたポリイミドをN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エチルセロソルブ等の溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱して溶媒を蒸発させてポリイミド薄膜を得る。ハイブリッドタイプでは、ポリアミック酸とポリイミドの混合物をN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エチルセロソルブ等の溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、基板側にポリアミック酸、空気層側にポリイミドを相分離させてから加熱して溶媒を蒸発させてポリイミド薄膜を得る。また、略垂直配向基の被覆率の調整は、略垂直配向基を置換した環状四塩基酸無水物または環状ジアミンと非置換の環状四塩基酸無水物または環状ジアミンを所定の比率で混合してからポリアミック酸を合成することによりできる。また、別の方法としては、略垂直配向基の被覆率1.0のポリアミック酸またはポリイミドと略垂直配向基の被覆率0のポリアミック酸またはポリイミドを所定の割合でブロック重合させることで得られる。
【0038】
次に、2枚のガラス内面に透明電極を形成し、上記ブロック重合法により、略垂直配向基の被覆率が0から100%の可溶性ポリイミド溶液からなる配向剤を塗布し、焼成後配向処理が施された一対の透明基板における表示領域の周囲に、シール剤を塗布した。このシール剤を用いて、液晶組成物を注入するための注入口を除いて、両基板をスペーサーにより一定の間隔を保って貼り合せて焼成することにより一体化し、液晶セルを形成した。次に、この液晶セルに、注入口から弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物を注入し、次いで、該注入口を紫外線硬化型の樹脂組成物からなる封止剤を塗布した後、該封止剤に紫外線を照射して硬化させることにより、液晶表示素子を得た。これらの略垂直配向基の被覆率の異なる液晶表示素子の液晶のプレチルトを測定したところ、被覆率が0.4以上の配向膜を用いた液晶表示素子ではほぼ垂直に配向していることがわかった。
【0039】
[第1実施形態]
ITOからなる透明電極を形成した2枚のガラス基板上に、シクロブタンテトラカルボン酸無水物と5−オクタデシルオキシカルボニル−1,3−フェニレンジアミンから前記の方法により合成したポリイミド(オクタデシル基の電子分極率はα2=33.1Å3、被覆率はC=0.8)のN-メチル−2−ピロリジノン溶液をスピンナーを用いて塗布し、210℃で1時間焼成して膜厚60nmのポリイミド塗膜を形成した。この塗膜をレーヨンを巻き付けたラビングマシンを用いてラビング処理した。次に、一枚の基板のラビング処理した側の外周に直径3μmのSiO2球を分散させた三井化学(株)製の熱硬化型エポキシ接着剤ストラクトボンドXN−21Sを液晶注入口を除いた部分にスクリーン印刷し、オーブンを用いて80℃で20分間プレベークした。もう一枚のラビング処理した基板とポリイミド膜面が対峙するように、さらにラビング方向が90°となるように重ね合わせて圧着し、オーブンを用いて150℃で90分間焼成して接着剤を硬化させた。次に、真空注入法を用いて、液晶注入口より複屈折が0.120のメルク(株)製の弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物(平均電子分極率はα1=42.5Å3)を注入し、注入口周辺の液晶組成物を拭き取り、注入口に(株)スリーボンド製のメタクリル系封止剤組成物3026を塗布し、紫外線を3000mJ/cm2(365nm)照射して硬化した。このようにして作成した液晶表示素子の平面図を(図1)に示した。この液晶表示素子においてはα1・α2・C=1125であった。
【0040】
液晶表示素子中のイオン性物質の量を推定するためにイオン密度測定を行った。イオン密度測定には東陽テクニカ製の液晶セルイオン密度測定装置MTR−1型を使用した。温度が25℃において、電圧範囲が−10Vから+10V、周波数が10V/0.1Hzの三角波を用いて液晶表示素子のイオン密度測定した結果、530pC/cm2の値が得られた。また、焼付き現象を観察するために高温動作試験を行った。温度60℃のオーブン中で液晶表示素子を500時間駆動(交流±3V矩形波、周波数60Hz)後、点灯試験を行った結果、表示品質に異常は認められなかった。
【0041】
[第2実施形態]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物と5−コレスタニルオキシカルボニル−1,3−フェニレンジアミンから合成したポリイミド(コレスタニル基の電子分極率はα2=46.4Å3、被覆率はC=0.7)のN-メチル−2−ピロリジノン溶液
及び弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物として、複屈折が0.170の液晶組成物(平均電子分極率はα1=44.6Å3)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子においてはα1・α2・C=1449であった。また、イオン密度は780pC/cm2であり、高温動作試験後の点灯試験では透明電極周辺に僅かに表示異常が発生した。
【0042】
[比較例1]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物と5−コレスタニルオキシカルボニル−1,3−フェニレンジアミンから合成したポリイミド(被覆率はC=0.8、コレスタニル基の電子分極率はα2=46.4Å3)のN-メチル−2−ピロリジノン溶液及び弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物として、複屈折が0.170の液晶組成物(平均電子分極率はα1=44.6Å3)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子においてはα1・α2・C=1655であった。また、イオン密度は1780pC/cm2であり、高温動作試験後の点灯試験では透明電極周辺に表示異常が発生した。
【0043】
[第3実施形態]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物と4−(トランス,トランス−4’−デシルビシクロヘキシル)フェニルエトキシカルボニル−1,3−フェニレンジアミンから合成したポリイミド(4−(トランス,トランス−4’−デシルビシクロヘキシル)フェニルエチル基の電子分極率はα2=62.6Å3、被覆率はC=0.5)のN-メチル−2−ピロリジノン溶液及び弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物として、複屈折が0.150の液晶組成物(平均電子分極率はα1=43.9Å3)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子においてはα1・α2・C=1374であった。また、イオン密度は610pC/cm2であり、高温動作試験後の点灯試験では表示品質に異常は認められなかった。
【0044】
[第4実施形態]
シクロブタンテトラカルボン酸無水物と5−オクタデシルオキシカルボニル−1,3−フェニレンジアミンより合成したポリイミド(オクタデシル基の電子分極率はα2=33.1Å3、被覆率はC=0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、1.0の9種類)のN-メチル−2−ピロリジノン溶液及び弗素系の誘電率異方性が負の液晶組成物として、複屈折が0.120の液晶組成物を用いた以外は実施例1と同様にして液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子の液晶のプレチルトを測定した結果を(図2)に示した。この図より、略垂直配向基の被覆率が0.4以上において、液晶はほぼ垂直に配向している。
【0045】
第1実施形態から第3実施形態においては、液晶組成物の電子分極率をα1、液晶配向膜の略垂直配向基の電子分極率及び被覆率をそれぞれα2及びCとするとき、α1・α2・Cは1500以下であり、イオン密度が小さく、焼付き現象はほとんど発生しなかった。一方、比較例1においては、α1・α2・Cは1500以上であり、イオン密度が大きく、焼付き現象が発生した。よって、α1・α2・Cの値が1500以下となるような略垂直配向基及び誘電率異方性が負の液晶組成物の組合せを選択することによりイオン性不純物による焼付き現象を抑制した液晶表示素子を得ることができた。また、略垂直配向基としてアルキル基、ステロイド残基及び液晶化合物残基を用いたが、いずれの基においても良好な垂直配向状態が得られ、α1・α2・Cの値が1500以下の場合にオン性不純物による焼付き現象を抑制した液晶表示素子を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例の液晶表示素子を示す平面模式図。
【図2】本発明の略垂直配向基の被覆率と液晶のプレチルト角の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0047】
1…ガラス基板、2…シール剤、3…封止剤、4…液晶層、5…透明電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の誘電率異方性を持つ液晶組成物と、略垂直配向機能を持つ液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、
前記液晶組成物の電子分極率をα1、前記液晶配向膜の略垂直配向基の電子分極率及び被覆率をそれぞれα2及びCとするとき、
α1・α2・C<1500
で表されることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記液晶組成物が、1、4−フェニレン基の2位及び/または3位に弗素原子を置換した構造を有する化合物を50重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記液晶配向膜の略垂直配向基が、アルキル基、ステロイド残基または液晶性化合物残基からなることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記液晶配向膜の略垂直配向基の被覆率が、
0.4≦C≦1.0
で表されることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の液晶表示素子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−93852(P2007−93852A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281407(P2005−281407)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(304053854)三洋エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】