説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】視野角特性及び表示品位に優れた液晶表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 画素電極13の表面を覆う配向膜14及び対向電極22の表面を覆う配向膜23を介して液晶層30を挟持して構成された液晶パネル1を備え、配向膜14及び23の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために画素電極−対向電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜14及び23のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする液晶表示装置であって、配向膜14及び23は、その膜厚変化に対する黒電圧のシフト量を相殺するよう、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料によって形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶表示装置及びその製造方法に係り、特に、広視野角及び高速応答の実現が可能なOCB(Optically Compensated Bend)技術を用いた液晶表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、軽量、薄型、低消費電力などの特徴を生かして、各種分野に適用されている。
【0003】
現在、市場で広く利用されているツイステッド・ネマチック(TN)型液晶表示装置は、光学的に正の屈折率異方性を有する液晶分子が一対の基板間で略90°捩れ配列されて構成されており、その捩れ配列を制御することにより液晶層に入射した光の旋光性を調節している。このTN型液晶表示装置は、比較的、容易に製造できるものの、その視野角は狭く、また応答速度が遅いため、特にTV画像等の動画表示には不都合があった。
【0004】
一方、視野角及び応答速度を改善可能な液晶表示装置として、OCB型液晶表示装置が注目されている。OCB型液晶表示装置は、一対の基板間にベンド配列させた液晶分子を有する液晶層が挟持されてなるものである。このOCB型液晶表示装置は、TN型液晶表示装置に比して応答速度が改善され、さらに液晶分子の配列状態により液晶層を通過する光の複屈折の影響を光学的に自己補償できるため視野角が広いという利点がある。
【0005】
このようなOCB型液晶表示装置を用いて画像を表示する場合、複屈折性を制御し偏光板との組み合わせによって、例えば高電圧印加時に光を遮断して黒画像を表示し、低電圧印加時に光を透過して白画面を表示することが考えられる。
【特許文献1】特開平7−84254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶表示装置においては、液晶層は、配向膜を介して一対の電極間に挟持されている。配向膜は、配向膜材料を塗布した後に、必要に応じて配向処理(ラビング処理)することによって形成される。このような配向膜は、塗布時において配向膜材料の供給不足などに起因した塗布ムラや異物の混入などにより、局所的に設定値より薄く形成される場合がある。
【0007】
例えば、黒画像を表示する場合、一対の電極間に黒画像を表示するのに必要な黒電圧が印加されるが、配向膜が設定値の膜厚の領域と設定値より薄い膜厚の領域とでは、液晶層への印加電圧が異なる。すなわち、設定値より薄い膜厚の領域では、液晶層に対して本来印加すべき電圧より高い電圧が印加されることになる。特に、OCB型液晶表示装置のように、比較的高い誘電率を有する液晶材料により液晶層を形成した構成では、配向膜の膜厚ムラに起因した液晶層への印加電圧のばらつきは顕著となる。このため、均一な黒画像を表示することができず、表示ムラを生ずる。
【0008】
この発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、視野角特性及び表示品位に優れた液晶表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の様態による液晶表示装置は、
一対の電極表面をそれぞれ覆う配向膜を介して液晶層を挟持して構成された液晶パネルを備え、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする液晶表示装置であって、
前記配向膜は、その膜厚変化に対する黒電圧のシフト量を相殺するよう、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料によって形成されたことを特徴とする。
【0010】
この発明の第2の様態による液晶表示装置の製造方法は、
一対の電極表面をそれぞれ覆う配向膜を介して液晶層を挟持して構成された液晶パネルを備え、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする液晶表示装置の製造方法であって、
前記配向膜は、その膜厚変化に対する黒電圧のシフト量を相殺するよう、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した材料によって形成されたことを特徴とする液晶表示装置。
【0011】
膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料を用意する工程と、
前記配向膜材料の膜厚に対するプレチルト角の関係に基づいて、配向膜の膜厚の設定値からの変化量に対する黒電圧のシフト量を相殺するようなプレチルト角変化量が得られるように、膜厚の設定値を決定する工程と、
決定した設定値で配向膜材料を塗布する工程と、
塗布した配向膜材料に対して配向処理を施す工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、視野角特性及び表示品位に優れた液晶表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の一実施の形態に係る液晶表示装置及びその製造方法について図面を参照して説明する。この実施の形態では、液晶表示装置として、特に、OCB(Optically Compensated Bend)モード方式による液晶表示装置を例に説明する。
【0014】
図1に示すように、OCB型液晶表示装置は、一対の基板すなわちアレイ基板10と対向基板20との間に液晶層30を挟持して構成された液晶パネル1を備えている。この液晶パネル1は、例えば透過型であり、アレイ基板10側に配置された図示しないバックライトユニットからのバックライト光を対向基板20側に透過可能に構成されている。また、この液晶パネル1は、実質的に画像を表示する有効表示部2を備えている。この有効表示部2は、マトリクス状に配置された表示画素PXによって構成されている。
【0015】
アレイ基板10は、ガラスなどの光透過性を有する絶縁基板11を用いて形成されている。このアレイ基板10は、絶縁基板11の一方の主面にスイッチ素子12、画素電極13、配向膜14などを備えている。スイッチ素子12は、各表示画素PXに配置され、TFT(Thin Film Transistor)やMIM(Metal Insulated Metal)などで構成されている。画素電極13は、各表示画素PXに配置され、スイッチ素子12に電気的に接続されている。この画素電極13は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの光透過性を有する導電性部材によって形成されている。配向膜14は、絶縁基板11の主面全体を覆うように配置され、光透過性を有する材料によって形成されている。
【0016】
対向基板20は、ガラスなどの光透過性を有する絶縁基板21を用いて形成されている。この対向基板20は、絶縁基板21の一方の主面に対向電極22、配向膜23などを備えている。対向電極22は、有効表示部2内において全表示画素に共通に配置され、例えばITOなどの光透過性を有する導電性部材によって形成されている。配向膜23は、絶縁基板21の主面全体を覆うように配置され、光透過性を有する材料によって形成されている。
【0017】
なお、カラー表示タイプの液晶表示装置では、液晶パネル1は、複数色の表示画素、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)の色画素を有している。すなわち、赤色画素は赤色波長の光を透過する赤色カラーフィルタを備え、緑色画素は緑色波長の光を透過する緑色カラーフィルタを備え、青色画素は青色波長の光を透過する青色カラーフィルタを備えている。これらカラーフィルタは、アレイ基板10または対向基板20の主面に配置されている。
【0018】
上述したような構成のアレイ基板10と対向基板20とは、図示しないスペーサを介して互いに所定のギャップを維持した状態で配置され、シール材によって貼り合わせられている。液晶層30は、これらアレイ基板10と対向基板20との間のギャップに封入されている。液晶層30に含まれる液晶分子31は、正の誘電率異方性を有するとともに光学的に正の一軸性を有する材料を選択可能である。特に、OCB型液晶表示装置では、液晶層30は、高い誘電率を有する液晶材料によって形成され、例えば、10以上の誘電率を有する液晶材料によって形成されている。
【0019】
このようなOCB型液晶表示装置は、液晶層30に電圧を印加した所定の表示状態において、図1に示したようにベンド配列した液晶分子31を含む液晶層30のリタデーションを光学的に補償する光学補償素子40を備えている。この光学補償素子40は、液晶パネル1の一方の主面すなわちアレイ基板10側外面に配置された第1補償素子40Aと、液晶パネル1の他方の主面すなわち対向基板20側外面に配置された第2補償素子40Bと、で構成されている。
【0020】
例えば図2に示すように、第1補償素子40Aは、偏光板41A、及び、位相差板としての機能を有する複数の光学素子42A及び43Aを有している。同様に、第2補償素子40Bは、偏光板41B、及び、位相差板としての機能を有する複数の光学素子42B及び43Bを有している。
【0021】
光学素子42A及び42Bは、後に説明するように、主にその厚み方向にリタデーション(位相差)を有する位相差板として機能する。また、光学素子43A及び43Bは、後に説明するように、主にその面内方向にリタデーション(位相差)を有する位相差板として機能する。
【0022】
図3に示すように、配向膜14及び23は、パラレル配向処理されている(すなわち図中の矢印Aで示す方向にラビング処理されている)。これにより、液晶分子31の光軸の正射影(液晶配向方向)は、図中矢印Aと平行となる。画像を表示可能な状態、すなわち所定のバイアスを印加した状態では、液晶分子31は、矢印Aで規定される液晶層30の断面内において、図1に示したように、アレイ基板10と対向基板20との間においてベンド配列する。
【0023】
このとき、偏光板41Aは、その透過軸が図中の矢印Bで示す方向を向くように配置されている。また、偏光板41Bは、その透過軸が図中の矢印Cで示す方向を向くように配置されている。つまり、偏光板41A及び41Bのそれぞれの透過軸は、液晶配向方向Aに対して45°の角度をなし、しかも、互いに直交する。このように、偏光板の透過軸が互いに直交する配置はクロスニコルと呼ばれ、これら一対の偏光板の間にある物体の複屈折量(リタデーション量)が実効的に0もしくは波長の整数倍であれば光は透過せず、黒画像が表示される。逆に、一対の偏光板の間にある物体の複屈折量(リタデーション量)が波長λの入射光に対して実効的にλ/2であれば光は透過し、白画像(もしくはカラー画像)が表示される。
【0024】
光学素子43A及び43Bは、ある特定の電圧印加状態(例えば高電圧を印加して黒画像を表示する状態)で、画面を正面方向から観察した時に影響する液晶層30のリタデーションの影響を補償するようなリタデーション量を有している。すなわち、OCB型液晶表示装置では、ベンド配列した液晶分子に対して高い電圧を印加しても、すべての液晶分子が基板の法線方向に沿って配列せず、液晶層のリタデーションが完全にはゼロにならない。
【0025】
そこで、光学素子43A及び43Bの光軸は、液晶層30においてリタデーションを発生する方向すなわち液晶配向方向(液晶分子を正射影したときの光軸方向)Aに直交する方向Dに平行に設定しており、光学素子43A及び43Bは、方向Dにリタデーションを有している。これが「面内方向にリタデーションを有する位相差板」43A及び43Bに相当する。なお、ここでは、面内方向とは、面内のX方向及びY方向で規定されるものであるが、液晶層や位相差板などの各光学部材の屈折率を考慮する際には、面内の主屈折率nx及びnyのみを考慮するのではなく、各光学部材を面内に正射影したときの主屈折率nx、ny、nzすべてを考慮したものである。
【0026】
これにより、液晶層30が有する面内方向でのリタデーションを補償して、液晶層30と光学素子43A及び43Bとを複合してリタデーション量Δn・dが実効的にゼロになる状態を形成し、画面を正面方向から観察した時に黒画像を表示することが可能となる。なお、Δn=ne−noであり(但し、neを異常光線屈折率及びnoを常光線屈折率とする)、dは光学素子の厚みとする。
【0027】
光学素子42A及び42Bは、液晶分子31とは逆の光学特性(例えば負の一軸性)を有している。すなわち、OCB型液晶表示装置において、黒画像を表示する際には、液晶層30に比較的高い電圧が印加されているため、大多数の液晶分子31は、電界方向に配列する(基板の法線方向に立ち上がる)。液晶分子31は、分子の長軸方向の主屈折率nzが他方向の主屈折率nx及びnyよりも大きい正の一軸性の光学特性を有する分子である。ここでは、液晶分子31について、便宜上、長軸方向(厚み方向)をZ方向とし、これに直交する面内方向をX方向及びY方向とした。
【0028】
液晶分子31が基板の法線方向に立ち上がった状態では、画面を正面方向から観察した場合、主屈折率の分布が等方的である(すなわち面内の主屈折率が等価(nx=ny)である)ため、リタデーションは発生しない。しかしながら、画面を斜め方向から観察した場合、液晶分子31の側面の影響により、長軸方向の主屈折率nzが増大し(nx、ny<nz)、傾斜方向に応じたリタデーションが発生する。このため、液晶層30を通過した光の一部がクロスニコル偏光板41A及び41Bを透過してしまい、明るくなってしまう(つまり、黒画像を表示することができない)。
【0029】
そこで、光学素子42A及び42Bは、その厚み方向の主屈折率nzが相対的に小さく、面内の主屈折率nx及びnyが相対的に大きく(nx、ny>nz)なるように設定されている。これが「厚み方向にリタデーションを有する位相差板」42A及び42Bに相当する。なお、ここでは、厚み方向とは、面内のX方向及びY方向に加えてこれらに直交するZ方向で規定されるものであり、液晶層や位相差板などの各光学部材の屈折率を考慮する際には、3次元的に主屈折率nx、ny、nzすべてを考慮したものである。
【0030】
このような光学素子42A及び42Bを組み合わせて用いることにより、これら液晶層30及び光学補償素子40におけるリタデーション量の総和をほぼゼロとすることができる。これにより、液晶層30が有する厚み方向でのリタデーションをキャンセルすることができ、黒画像を表示した状態の画面を斜め方向から観察した場合において、液晶層30でのリタデーションの影響を補償することができる。
【0031】
このように、液晶層に比較的高電圧を印加して黒画像を表示した場合、面内方向で発生する液晶層のリタデーションを「面内方向にリタデーションを有する位相差板」で補償するとともに、斜め方向で発生する液晶層のリタデーションを「厚み方向にリタデーションを有する位相差板」で補償することにより、OCB型液晶表示装置において、視野角特性及び表示品位を向上することが可能となる。
【0032】
ところで、液晶パネル1は、一対の電極すなわち画素電極13及び対向電極22の表面をそれぞれ覆う配向膜14及び23を介して液晶層30を挟持して構成されている。これらの配向膜14及び23に膜厚ムラが生じた場合、表示ムラを生ずる場合がある。以下に、この原理について説明する。
【0033】
例えば、黒画像を表示する場合、画素電極13と対向電極22との間に黒画像を表示するのに必要な電圧(以下、黒電圧と称する)を印加する。しかしながら、実際に液晶層30に印加される電圧(以下、液晶印加電圧と称する)は、画素電極13と対向電極22との間に印加される黒電圧とは異なり、配向膜14及び23、及び、液晶層30の容量に依存する。これは、図4に示した等価回路を用いて説明できる。
【0034】
すなわち、画素電極13と対向電極22との間に印加される黒電圧をVとし、液晶層30の液晶印加電圧をVLCとし容量をCLCとし、また、配向膜14の印加電圧をVPI1とし容量をCPI1とし、さらに、配向膜22の印加電圧をVPI2とし容量をCPI2としたとき、VLC=V/(1+CLC/CPI1+CLC/CPI2)の関係が成り立つ。
【0035】
このため、例えば、黒電圧Vとして画素電極13と対向電極22との間に5Vの電圧を印加したとしても、実際に液晶層30に印加される液晶印加電圧VLCは、液晶層30の容量CLC、配向膜14の容量CPI1、さらに、配向膜22の容量CPI2に依存し、結果的に5Vより小さくなる。換言すると、配向膜14の容量CPI1、及び、配向膜22の容量CPI2が変化すると、液晶印加電圧VLCが変化する。これは、配向膜14及び22の電界方向に沿った膜厚が変化すると、液晶印加電圧VLCが変化することを意味する。
【0036】
配向膜の膜厚が設定値より薄い領域では、膜厚が設定値の領域と比較して液晶印加電圧が高くなる。また、配向膜の膜厚が設定値より厚い領域では、膜厚が設定値の領域と比較して液晶印加電圧が低くなる。特に、比較的高い誘電率を有する液晶材料により液晶層30を形成した構成では、液晶層30の容量CLCが大きいため、配向膜の膜厚差に起因した液晶印加電圧の差も大きい。
【0037】
つまり、一対の基板間に黒電圧を印加した際に、配向膜の膜厚が設定値の領域において液晶層に対して所定の液晶印加電圧が印加されて所定の黒画像が表示されるものとしたとき、配向膜の膜厚が設定値より薄い領域においては、液晶層に対して所定の液晶印加電圧よりも高いレベルの電圧が印加されるため、所定の黒画像を表示することができない。同様に、配向膜の膜厚が設定値より厚い領域においては、液晶層に対して所定の液晶印加電圧よりも低いレベルの電圧が印加されるため、所定の黒画像を表示することができない。したがって、配向膜の膜厚にムラを生じた液晶パネルにおいて、一対の基板間に所定電圧(配向膜の膜厚が設定値であるものとして設定された黒電圧)を印加した場合、表示ムラを生ずることになる。
【0038】
すなわち、配向膜の膜厚が設定値より薄い領域においては、液晶層に対して所定の液晶印加電圧よりも高いレベルの電圧が印加されるため、所定の黒画像を表示するのに必要な黒電圧は、配向膜の膜厚が設定値であるものとして設定された黒電圧より低位にシフトする。同様に、配向膜の膜厚が設定値より厚い領域においては、液晶層に対して所定の液晶印加電圧よりも低いレベルの電圧が印加されるため、所定の黒画像を表示するのに必要な黒電圧は、配向膜の膜厚が設定値であるものとして設定された黒電圧より高位にシフトする。
【0039】
このような配向膜の膜厚変化による黒電圧のシフトは、図5に示したような測定結果からも明らかである。図5では、横軸は一対の電極間に印加される印加電圧であり、縦軸は規格化した液晶パネルの透過率である。この測定では、配向膜のプレチルト角が一定の条件下で膜厚をパラメータとして印加電圧に対する規格化透過率を測定し、規格化透過率が略ゼロ(規格化透過率のボトム)となる印加電圧を黒電圧とした。これにより、配向膜の膜厚に依存した黒電圧のシフト量を把握する。図5に示したように、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトしていることがわかる。
【0040】
一方、OCB型液晶表示装置などにおいては、配向膜のプレチルト角に依存して黒電圧がシフトする。すなわち、配向膜のプレチルト角が設定値より小さい領域においては、液晶層に含まれる液晶分子を一対の電極間の電界方向に沿って配列する(所定の黒画像を表示する)のに必要な黒電圧は、配向膜のプレチルト角が設定値であるものとして設定された黒電圧より高位にシフトする。同様に、配向膜のプレチルト角が設定値より大きい領域においては、液晶層に含まれる液晶分子を一対の電極間の電界方向に沿って配列するのに必要な黒電圧は、配向膜のプレチルト角が設定値であるものとして設定された黒電圧より低位にシフトする。
【0041】
このような配向膜のプレチルト角変化による黒電圧のシフトは、図6に示したような測定結果からも明らかである。図6では、横軸は一対の電極間に印加される印加電圧であり、縦軸は規格化した液晶パネルの透過率である。この測定では、配向膜の膜厚が一定の条件下でプレチルト角をパラメータとして印加電圧に対する規格化透過率を測定し、規格化透過率が略ゼロ(規格化透過率のボトム)となる印加電圧を黒電圧とした。これにより、配向膜のプレチルト角に依存した黒電圧のシフト量を把握する。図6に示したように、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が高位にシフトしていることがわかる。
【0042】
そこで、この実施の形態では、配向膜は、その膜厚変化に対する黒電圧のシフト量を相殺するよう、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料によって形成されている。例えば、配向膜は、ポリアミック酸系の配向膜材料によって形成されている。この配向膜材料は、例えば、図7に示すように、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有している。このような特性を有する配向膜材料を採用したことにより、膜厚変化による黒電圧のシフトを自己補償することが可能となる。
【0043】
すなわち、配向膜を形成する過程において、配向膜材料を塗布する際の膜厚の設定値は、図5に示したようなプレチルト角一定の条件下で膜厚変化による黒電圧のシフト量を把握し、図6に示したような膜厚一定の条件下でプレチルト角変化による黒電圧のシフト量を把握した上で、これらのシフト量を互いに相殺するように、図7に示したような膜厚に対するプレチルト角の関係に基づいて決定している。
【0044】
これにより、一対の電極間に所定の黒電圧を印加した場合、膜厚の薄い部分では液晶層に印加される液晶印加電圧が高くなるが、プレチルト角が小さくなるため、黒画像を表示するのに必要な電圧が高くなり、結果的に、膜厚の厚い部分(膜厚が設定値の部分)と同等の表示が可能となる。したがって、膜厚変化に伴う黒電圧のシフトを自己補償することができ、表示ムラの少ない表示品位の優れた画像を表示することができる。
【0045】
(実施例)
以下に、液晶表示装置の製造方法について説明する。すなわち、スイッチ素子12及び画素電極13を形成済みの絶縁基板11を用意する。一方、対向電極22を形成済みの絶縁基板21を用意する。続いて、絶縁基板11の画素電極13側表面に配向膜14を形成するとともに、絶縁基板21の対向電極22側表面に配向膜23を形成する。
【0046】
すなわち、これら配向膜14及び23を形成するための配向膜材料としては、上述したように、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有することが望ましく、例えばポリアミック酸系の配向膜材料を用意する。
【0047】
そして、図7に示したような配向膜材料の膜厚に対するプレチルト角の関係に基づいて、配向膜の膜厚の設定値からの変化量に対する黒電圧のシフト量を相殺するようなプレチルト角変化量が得られるように、膜厚の設定値を決定する。この膜厚の設定値を決定するに際しては、図5に示したようなプレチルト角が一定の条件下で膜厚をパラメータとして黒電圧のシフト量を把握するとともに、図6に示したような膜厚が一定の条件下でプレチルト角をパラメータとして黒電圧のシフト量を把握する。
【0048】
図5に示した例では、配向膜の膜厚が20nm変化したときの黒電圧のシフト量は約0.13Vであることがわかる。また、図6に示した例では、配向膜のプレチルト角が2°変化したときの黒電圧のシフト量は約0.13Vであることがわかる。
【0049】
すなわち、配向膜の膜厚が設定値に対して20nm薄くなったときに黒電圧が約0.13V低位にシフトするが、配向膜のプレチルト角が設定値に対して2°小さくなったときに黒電圧が約0.13V高位にシフトする。つまり、配向膜の膜厚が20nm薄くなったときにプレチルト角が2°小さくなれば、膜厚変化による黒電圧のシフト量を相殺することが可能となる。また、配向膜の膜厚が設定値に対して20nm厚くなったときに黒電圧が約0.13V高位にシフトするが、配向膜のプレチルト角が設定値に対して2°大きくなったときに黒電圧が約0.13V低位にシフトする。つまり、配向膜の膜厚が20nm厚くなったときにプレチルト角が2°大きくなれば、膜厚変化による黒電圧のシフト量を相殺することが可能となる。
【0050】
この実施の形態では、配向膜材料の塗布ムラや異物の混入などにより、局所的に設定値より薄い膜厚の領域が形成される課題に着目している。このため、特に、配向膜の膜厚が設定値より薄くなった場合の黒電圧のシフトを自己補償するように設定値を決定している。すなわち、図5及び図6に示した例では、配向膜の膜厚が20nm薄くなったときにプレチルト角が2°小さくなれば、膜厚変化による黒電圧のシフト量を相殺することが可能となる。ここで用意した配向膜材料は、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有しているため、図7に示した膜厚に対するプレチルト角の関係に基づくと、膜厚が設定値から20nm薄くなったときにプレチルト角が2°小さくなるように、膜厚の設計値を決定する。ここでは、膜厚の設定値を50nmに決定する。
【0051】
そして、決定した設定値で配向膜材料を塗布する。すなわち、絶縁基板11の画素電極13側表面に配向材料を設定値50nmの膜厚で塗布するとともに、絶縁基板21の対向電極22側表面にも同様に配向材料を設定値50nmの膜厚で塗布する。そして、塗布した配向膜材料に対して配向処理(ラビング処理)を施す。これにより、配向膜14及び23をそれぞれ備えたアレイ基板10及び対向基板20が形成される。
【0052】
続いて、アレイ基板10の配向膜14と対向基板20の配向膜23とが互いに対向しかつこれらの間に所定のギャップを形成した状態で両基板を貼り合せた後、これらの基板間に形成されたギャップに高誘電率の液晶分子31を含む液晶材料を封止して液晶層30を形成する。これにより、液晶パネル1が形成される。
【0053】
続いて、アレイ基板10の外面に第1補償素子40Aを配置するとともに、対向基板20の外面に第2補償素子40Bを配置する。これにより、OCB型液晶表示装置が構成される。
【0054】
以上説明したように、この実施の形態によれば、視野角及び応答速度を改善可能なOCB型液晶表示装置においては、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする。配向膜は、その膜厚変化に伴ってプレチルト角が変化する配向膜材料を用いて形成されている。この配向膜材料は、膜厚の薄い部分ではプレチルト角が小さくなる特性を有している。このため、配向膜の膜厚の設定値からの変化量に対する黒電圧のシフト量を相殺するようなプレチルト角変化量が得られるように、膜厚の設定値を決定している。これにより、膜厚変化に伴う黒電圧のシフトを自己補償することができ、表示ムラの少ない表示品位の良好な画像を表示することができる。
【0055】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態としてのOCB型液晶表示装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図2は、OCB型液晶表示装置に適用される光学補償素子の構成を概略的に示す図である。
【図3】図3は、図2に示した光学補償素子を構成する各光学部材の光軸方向と液晶配向方向との関係を示す図である。
【図4】図4は、配向膜の膜厚変化に伴う表示ムラの発生メカニズムを説明するための図である。
【図5】図5は、配向膜のプレチルト角が一定の条件下で膜厚をパラメータとしたときの一対の電極間に印加される印加電圧と液晶パネルの規格化透過率との関係の一例を示す図である。
【図6】図6は、配向膜の膜厚が一定の条件下でプレチルト角をパラメータとしたときの一対の電極間に印加される印加電圧と液晶パネルの規格化透過率との関係の一例を示す図である。
【図7】図7は、配向膜材料の膜厚とプレチルト角との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…液晶パネル
10…アレイ基板
14…配向膜
20…対向基板
23…配向膜
30…液晶層
31…液晶分子
40…光学補償素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極表面をそれぞれ覆う配向膜を介して液晶層を挟持して構成された液晶パネルを備え、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする液晶表示装置であって、
前記配向膜は、その膜厚変化に対する黒電圧のシフト量を相殺するよう、膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料によって形成されたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記配向膜は、ポリアミック酸系の配向膜材料によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記液晶層は、10以上の誘電率を有する液晶材料によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記液晶層に含まれる液晶分子は、表示状態において、一対の基板間においてベンド配列したことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記液晶層に電圧を印加した所定の表示状態において、前記液晶層のリタデーションを光学的に補償する光学補償素子を備え、前記液晶層に印加する電圧によって前記液晶層に含まれる液晶分子による複屈折量を変化させて画像を表示することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記光学補償素子は、その厚み方向にリタデーションを有する位相差板、及び、その面内方向にリタデーションを有する位相差板を有することを特徴とする請求項5に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
一対の電極表面をそれぞれ覆う配向膜を介して液晶層を挟持して構成された液晶パネルを備え、配向膜の膜厚が薄くなるほど黒画像を表示するために一対の電極間に印加すべき黒電圧が低位にシフトし、且つ、配向膜のプレチルト角が小さくなるほど黒電圧が高位にシフトする液晶表示装置の製造方法であって、
膜厚が薄くなるほどプレチルト角が小さくなる特性を有した配向膜材料を用意する工程と、
前記配向膜材料の膜厚に対するプレチルト角の関係に基づいて、配向膜の膜厚の設定値からの変化量に対する黒電圧のシフト量を相殺するようなプレチルト角変化量が得られるように、膜厚の設定値を決定する工程と、
決定した設定値で配向膜材料を塗布する工程と、
塗布した配向膜材料に対して配向処理を施す工程と、
を備えたことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記配向膜は、ポリアミック酸系の配向膜材料によって形成されたことを特徴とする請求項7に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記膜厚の設定値を決定する工程は、プレチルト角が一定の条件下で膜厚をパラメータとして黒電圧のシフト量を把握する工程と、膜厚が一定の条件下でプレチルト角をパラメータとして黒電圧のシフト量を把握する工程と、を含むことを特徴とする請求項7に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−113478(P2006−113478A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303185(P2004−303185)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】