説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】液晶材料をベンド配向させる液晶表示装置で初期転移を不要とすると共に表示ムラを生じ難くする。
【解決手段】本発明の液晶表示装置は、走査線101aと、信号線105aと、画素スイッチ104a及び画素電極を各々が含んだ画素回路と、走査線の接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える回路121と、信号線105aの接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える回路122とを備えたアレイ基板10と、対向電極を備えた対向基板20と、アレイ基板10と対向基板20との間に介在すると共に高分子材料とこれよりも低分子量の低分子液晶材料とを含み、電圧無印加状態において低分子液晶材料がベンド配向を呈する液晶層とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料がベンド配向を呈するアクティブマトリクス型液晶表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
πセル及びOCB(optically compensated bend)モードは、広視野角及び高速応答を実現可能な液晶表示モードである。これら表示モードを採用した液晶表示装置では、画像を表示している間は、ベンド配向を維持したまま、背面電極及び前面電極の近傍における液晶分子のチルト角を変化させる。そして、このチルト角変化に伴う液晶層のリタデーション変化を利用して画像を表示する。
【0003】
πセル及びOCBモードの液晶表示装置の起動時には、背面電極と前面電極との間に数ボルト以上の電圧を数秒乃至数分間印加して、スプレイ配向からベンド配向への転移を生じさせる必要があった。このような初期転移は、πセル及びOCBモードの応用を妨げる。
【0004】
非特許文献1には、この初期転移を不要とする技術が記載されている。具体的には、紫外線硬化モノマーと液晶材料とのネマチック相混合物に初期化電圧を印加して、スプレイ配向からベンド配向への転移を生じさせる。そして、この状態で先の混合物に紫外線を照射して、高分子ネットワークを形成する。
【0005】
この方法で得られた液晶セルでは、電圧を印加していない状態において、液晶材料はツイスト配向を呈する。或る電圧以上ではツイスト配向及びベンド配向の光学特性はほぼ等しく、また、ツイスト配向からベンド配向への転移は非常に速い。したがって、この液晶セルでは、初期転移は不要である。
【0006】
ところで、高画質が要求される液晶表示装置の多くは、アクティブマトリクス駆動方式を採用している。本発明者らは、本発明を為すに際し、非特許文献1の技術を適用したアクティブマトリクス型液晶表示装置では表示ムラを生じ易いことを見い出している。
【非特許文献1】T. Konnno et al., "OCB-Cell Using Polymer Stabilized Bend Alignment", ASIA DISPLAY '95, pp.581-583
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液晶材料をベンド配向させる液晶表示装置で初期転移を不要とすると共に表示ムラを生じ難くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、複数の走査線と、これらと交差した複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配列すると共に前記走査線から供給される走査信号によってスイッチング動作が制御される画素スイッチとこれを介して前記信号線に接続された画素電極とを各々が含んだ複数の画素回路と、前記画素電極を被覆した第1配向膜と、前記複数の走査線の接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える第1回路と、前記複数の信号線の接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える第2回路とを備えたアレイ基板と、前記第1配向膜と向き合った対向電極と、これを被覆した第2配向膜とを備えた対向基板と、前記アレイ基板と前記対向基板との間に介在すると共に高分子材料とこれよりも低分子量の低分子液晶材料とを含み、前記画素電極と前記対向電極との間に電圧を印加していない電圧無印加状態において前記低分子液晶材料がベンド配向を呈する液晶層とを具備したことを特徴とする液晶表示装置が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、複数の走査線と、これらと交差した複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配列すると共に前記走査線から供給される走査信号によってスイッチング動作が制御される画素スイッチとこれを介して前記信号線に接続された画素電極とを各々が含んだ複数の画素回路と、前記画素電極を被覆すると共に配向処理が施された第1配向膜とを備えたアレイ基板と、前記第1配向膜と向き合った対向電極と、これを被覆すると共に前記第1配向膜と同じ向きに配向処理が施された第2配向膜とを備えた対向基板と、前記アレイ基板と前記対向基板との間に介在すると共に高分子材料前駆体と低分子液晶材料とを含んだ液晶層とを具備した液晶セルを作製する工程と、前記複数の走査線を互いに接続し且つ前記複数の信号線を互いに接続した状態で、前記複数の走査線の電圧を前記画素スイッチを開く電圧Vg,offと前記画素スイッチを閉じる電圧Vg,onとの間で交互に変化させると共に、前記対向電極の電圧Vcomと、前記複数の走査線に前記電圧Vg,offを印加している期間における前記複数の信号線の電圧Vsig,offと、前記複数の走査線に前記電圧Vg,onを印加している期間における前記複数の信号線の電圧Vsig,onとを、それらが以下の不等式(1)乃至(3)に示す関係を満足するように制御しながら、前記高分子材料前駆体の重合反応を生じさせる工程とを含んだことを特徴とする液晶表示装置の製造方法が提供される。
【数2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によると、液晶材料をベンド配向させる液晶表示装置で初期転移を不要とすると共に表示ムラを生じ難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明の一態様に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図である。図2は、図1の液晶表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す部分断面図である。
【0013】
図1及び図2の液晶表示装置は、OCBモードのアクティブマトリクス型液晶表示装置である。この液晶表示装置は、液晶表示パネル1と、これと向き合うように配置されたバックライト(図示せず)と、液晶表示パネル1に接続された走査線ドライバ2及び信号線ドライバ3とを含んでいる。
【0014】
液晶表示パネル1は、アレイ基板10と対向基板20とを含んでいる。アレイ基板10と対向基板20との間には、枠状のシール層(図示せず)が介在している。アレイ基板10と対向基板20とシール層とに囲まれた空間は、高分子材料とこれよりも低分子量の低分子液晶材料とを含んだ混合物で満たされており、この混合物は液晶層30を形成している。また、アレイ基板10の外面上には偏光板50が配置されており、対向基板20の外面上には光学補償フィルム40及び偏光板50が順次配置されている。
【0015】
アレイ基板10は、例えばガラス基板などの透明基板100を含んでいる。
基板100上には、走査線101aと、図示しない参照配線と、配線101bと、配線101cとが配置されている。走査線101aと参照配線とは、各々がX方向に延びており、X方向と交差するY方向に交互に配列している。配線101bは、走査線101aと参照配線とが形成している配列から離れた位置でY方向に延びている。配線101cは、走査線101aと参照配線とが形成している配列から離れた位置でX方向に延びている。走査線101a、配線101b及び101cの各々は、例えばX方向又はY方向に突き出した突出部を含んでいる。これら突出部は、後述する薄膜トランジスタのゲート電極として利用する。
【0016】
走査線101aと参照配線と配線101b及び101cとは、同一の工程で形成することができる。また、これらの材料としては、例えば、金属又は合金を使用することができる。
【0017】
走査線101aと参照配線と配線101b及び101cとは、絶縁膜102で被覆されている。絶縁膜102としては、例えばシリコン酸化膜を使用することができる。
【0018】
絶縁膜102上では、半導体層103が上記のゲート電極に対応して配列している。これら半導体層103は、それぞれ、ゲート電極と交差している。半導体層103は、例えばアモルファスシリコンからなる。
【0019】
ゲート電極と、半導体層103と、絶縁膜102のうちゲート電極と半導体層103との間に位置した部分,すなわちゲート絶縁膜,とは、薄膜トランジスタを形成している。これら薄膜トランジスタは、画素スイッチ104a、第1スイッチ104b、第2スイッチ104cとして利用する。
【0020】
なお、この例では、スイッチ104a乃至104cは、nチャネル薄膜トランジスタである。また、各半導体層103上には、図示しないチャネル保護層及びオーミック層を形成している。
【0021】
絶縁膜102上には、信号線105aと配線105bと配線105cとソース電極105dとがさらに配置されている。
【0022】
信号線105aは、各々がY方向に延びており、画素スイッチ104aが形成する列に対応してX方向に配列している。信号線105aは、画素スイッチ104aが含む半導体層103のドレインを被覆している。すなわち、信号線105aの一部は、画素スイッチ104aに接続されたドレイン電極である。
【0023】
配線105bは、複数の導電部を含んでいる。これら導電部は、それぞれ、絶縁膜102に形成された貫通孔を介して走査線101aに接続されている。また、これら導電部は、スイッチ104bのソース及び/又はドレインに接続されている。
【0024】
配線105cは、複数の導電部を含んでいる。これら導電部は、それぞれ、信号線105aに接続されている。また、これら導電部は、スイッチ104cのソース及び/又はドレインに接続されている。
【0025】
ソース電極105dは、画素スイッチ104aに対応して配列している。ソース電極105dは、スイッチ104aのソースを被覆すると共に、参照配線と向き合っている。ソース電極105dと参照配線とそれらの間に介在した絶縁膜102とは、キャパシタ106を形成している。
【0026】
絶縁膜102上には、カラーフィルタ107がさらに配置されている。カラーフィルタ107は、例えば、青、緑、赤色の着色層を含んでいる。
【0027】
カラーフィルタ107上では、画素電極108が配列している。これら画素電極108は、それぞれ、カラーフィルタ107に形成された貫通孔を介してソース電極105dに接続されている。画素電極108の材料としては、例えばITO(indium tin oxide)を使用することができる。
【0028】
画素電極108は、配向膜109で被覆されている。配向膜109は、その近傍で、液晶分子を、比較的大きなプレチルト角,例えば5°乃至10°,で傾斜配向させる。配向膜109は、例えば、アクリル、ポリイミド、ナイロン、ポリアミド、ポリカーボネート、ベンゾシクロブテンポリマー、ポリアクリルニトリル、ポリシランなどからなる有機膜にラビングなどの配向処理を施すことにより得られる。或いは、配向膜109は、例えばシリコン酸化物を斜方蒸着することにより得られる。これらの中でも、成膜の容易さや化学的安定性の点では、ポリイミド、ポリアクリルニトリル、及びナイロンが優れている。この例では、配向膜109として、Y方向に沿ってラビングしたポリイミド膜を使用することとする。
【0029】
絶縁膜102上には、走査信号入力端子群(図示せず)と、映像信号入力端子群(図示せず)と、制御信号入力端子110b及び110cと、初期化信号入力端子111b及び111cとがさらに配置されている。この例では、映像信号入力端子と制御信号入力端子110bと初期化信号入力端子111bとは、基板100の一辺に沿って配列しており、この辺と交差する一辺に沿って、走査信号入力端子と制御信号入力端子110cと初期化信号入力端子111cとが配列している。
【0030】
走査信号入力端子及び映像信号入力端子は、それぞれ、走査線101a及び信号線105aに接続されている。制御信号入力端子110b及び110cは、それぞれ、配線101b及び101cに接続されている。初期化信号入力端子111b及び111cは、それぞれ、配線105b及び105cに接続されている。これら端子の材料としては、例えば金属又は合金を使用することができる。
【0031】
なお、スイッチ104bと配線101b及び105bと端子110b及び111bとは初期化回路121を形成し、スイッチ104cと配線101c及び105cと端子110c及び111cとは初期化回路122を形成している。また、画素スイッチ104aとソース電極105dと画素電極108とキャパシタ106とは画素回路を形成している。
【0032】
対向基板20は、例えばガラス基板などの透明基板200を含んでいる。
対向基板上には、対向電極208が形成されている。対向電極208は、画素電極108と向き合った共通電極である。対向電極208の材料としては、例えばITOを使用することができる。
【0033】
対向電極208は、配向膜209で被覆されている。配向膜209としては、配向膜109と同様の膜を使用することができる。この例では、配向膜209として、配向膜109と同じ向きにラビングしたポリイミド膜を使用することとする。
【0034】
アレイ基板10と対向基板20とは、それらの配向膜109及び209同士を向き合わせている。アレイ基板10と対向基板20との間には、枠状のシール層(図示せず)が介在している。走査信号入力端子と映像信号入力端子と制御信号入力端子110b及び110cと初期化信号入力端子111b及び111cとは、シール層が形成する枠の外側に位置している。シール層は、アレイ基板10と対向基板20とを互いに貼り合せている。シール層の材料としては、接着剤を使用することができる。
【0035】
アレイ基板10と対向基板20との間であってシール層が形成する枠の外側には、図示しないトランスファ電極が配置されている。トランスファ電極は、対向電極208をアレイ基板10に接続している。
【0036】
アレイ基板10と対向基板20との間には粒状スペーサが介在しているか、或いは、アレイ基板10及び/又は対向基板20は柱状スペーサをさらに含んでいる。これらスペーサは、アレイ基板10と対向基板20との間であって画素電極108に対応した位置に、厚さがほぼ一定の隙間を形成している。
【0037】
アレイ基板10と対向基板20と接着剤層とに囲まれた空間は、高分子材料とこれよりも低分子量の低分子液晶材料とを含んだ混合物で満たされている。この混合物は、液晶層30を形成している。
【0038】
高分子材料は、10000以上の平均分子量を有している。なお、ここで言う「平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した数平均分子量である。高分子材料は、液晶層30中で、高分子マトリクス又は高分子ネットワークを形成している。
【0039】
低分子材料は、1000以下の分子量を有している。低分子液晶材料は、例えば、誘電率異方性が正のネマチック液晶材料である。液晶層30中において、低分子液晶材料は、画素電極108と対向電極208との間に電圧を印加していない状態においてベンド配向を呈する。
【0040】
画素電極108と対向電極208と配向膜109及び209と液晶層30とは、液晶素子300を形成している。各画素は、画素スイッチ104aと液晶素子300とキャパシタ106とを含んでいる。また、アレイ基板10と対向基板20とそれらの間に介在した液晶層30及びシール層とは、液晶セルを形成している。
【0041】
光学補償フィルム40は、例えば、二軸性フィルムである。この光学補償フィルム40としては、屈折率異方性が負の一軸性化合物,例えばディスコティック液晶化合物,をその光学軸がX方向に垂直な面内で変化するようにベンド配向させた光学異方性層を含んでいるものを使用することができる。
【0042】
光学補償フィルム40のリタデーションは、例えば、液晶層30のON状態におけるリタデーションとほぼ等しくする。この場合、光学補償フィルム40は、例えば、ON状態における液晶層30と光学補償フィルム40との積層体のリタデーションがほぼゼロとなるように配置する。
【0043】
偏光板50は、例えば、それらの透過軸が互いに略直交するように配置する。また、各偏光板50は、例えば、その透過軸がX方向及びY方向に対して約45°の角度を為すように配置する。
【0044】
走査線ドライバ2及び信号線ドライバ3は、それぞれ、走査信号入力端子及び映像信号入力端子に接続されている。この例ではドライバ2及び3をCOG(chip on glass)実装しているが、その代わりにTCP(tape carrier package)実装してもよい。
【0045】
図示しないバックライトは、液晶表示パネル1の背面側に配置されている。バックライトは、アレイ基板10を背面側から照明する。
【0046】
この液晶表示装置は、例えば、以下の方法により製造する。
まず、液晶材料を注入する前の液晶セル,すなわち空セル,を準備する。次に、この空セルに、高分子材料前駆体と低分子液晶材料とを含んだ混合物を注入する。さらに、セルの注入口を塞ぐことにより、液晶セルを得る。なお、上記の混合物には、光重合開始剤を添加してもよい。
【0047】
次に、図示しない初期化装置を用いて、後で説明する初期化処理を行う。その後、液晶セルに光学補償フィルム40及び偏光板50を貼り付ける。さらに、これに走査線ドライバ2及び信号線ドライバ3を搭載し、液晶表示パネル1をバックライトなどと組み合わせる。以上のようにして、液晶表示装置を完成する。
【0048】
液晶セルの初期化処理では、まず、初期化装置の制御信号出力端子を制御信号入力端子110b及び110cに接触させ、この装置の初期化信号出力端子を初期化信号入力端子111b及び111cに接触させる。次いで、制御信号出力端子から、制御信号入力端子110b及び110cに、スイッチ104b及び104cを閉じる制御信号を出力する。すなわち、走査線101aを互いに接続すると共に、信号線105aを互いに接続する。この状態を維持したまま、初期化信号出力端子から初期化信号入力端子111b及び111cに初期化信号を出力し、これと同時に、高分子材料前駆体の重合反応を生じさせる。例えば、高分子材料前駆体と低分子液晶材料とを含んだ混合物に紫外線を照射する。これにより、電圧無印加時において低分子液晶材料がベンド配向を呈する液晶層30を得る。
【0049】
図3は、初期化処理において走査線及び信号線に供給する信号の一例を示すタイミングチャートである。図中、横軸は時間を示している。また、縦軸は電圧を示し、各波形と交差している一点鎖線は0Vを示している。
【0050】
「電圧信号Vg」と表記した波形は、初期化装置から初期化信号入力端子111bへと出力する初期化信号の波形,すなわち、走査線101aの電圧波形,を示している。「電圧信号Vsig」と表記した波形は、初期化装置から初期化信号入力端子111cへと出力する初期化信号の波形,すなわち、信号線105aの電圧波形,を示している。「対向電極電圧Vcom」と表記した波形は、対向電極208の電圧波形を示している。
【0051】
図3の方法では、初期化信号入力端子111bに供給する信号を、電圧信号Vg,onと電圧信号Vg,offとの間で交互に変化させる。上記の通り、この例では、画素スイッチ104aはnチャネル薄膜トランジスタである。また、初期化信号入力端子111bに電圧信号Vg,onを供給している期間において画素スイッチ104aのゲート−ソース間電圧はその閾値電圧よりも高く、初期化信号入力端子111bに電圧信号Vg,offを供給している期間において画素スイッチ104aのゲート−ソース間電圧はその閾値電圧よりも低い。すなわち、電圧信号Vg,onは画素スイッチ104aを閉じる信号であり、電圧信号Vg,offは画素スイッチ104aを開く信号である。
【0052】
初期化信号入力端子111cには、初期化信号入力端子111bに信号Vg,onを供給している期間においては電圧信号Vsig,onを供給する。したがって、画素電極108の電位は、初期化処理の間、電圧信号Vsig,onに維持される。また、初期化信号入力端子111cには、初期化信号入力端子111bに信号Vg,off供給している期間においては電圧信号Vsig,offを供給する。そして、対向電極電圧は、初期化信号入力端子111bに信号Vg,onを供給する毎に、電圧Vcom1と電圧Vcom2との間で変化させる。
【0053】
この初期化処理では、以下の不等式(1)に示すように、初期化信号入力端子111bに信号Vg,onを供給している期間において、走査線101aの電圧Vg,onと対向電極電圧Vcomとの差の絶対値|Vg,on−Vcom|を、画素電極108の電圧Vsig,onと対向電極電圧Vcomとの差の絶対値|Vsig,on−Vcom|よりも大きくする。また、以下の不等式(2)及び(3)に示すように、初期化信号入力端子111bに信号Vg,offを供給している期間において、走査線101aの電圧Vg,offと対向電極電圧Vcomとの差の絶対値|Vg,off−Vcom|、及び、信号線105aの電圧Vsig,offと対向電極電圧Vcomとの差の絶対値|Vg,off−Vcom|を、絶対値|Vsig,on−Vcom|よりも大きくする。
【数3】

【0054】
すなわち、この初期化処理では、全ての画素電極108の電圧を互いに等しくし、全ての走査線101aの電圧を互いに等しくし、全ての信号線105aの電圧を互いに等しくする。また、この初期化処理では、初期化信号入力端子111bに信号Vg,onを供給している期間においては、走査線101aと対向電極208との間の電圧の絶対値を、画素電極108と対向電極208との間の電圧の絶対値よりも大きくする。そして、初期化信号入力端子111bに信号Vg,offを供給している期間においては、走査線101aと対向電極208との間の電圧の絶対値及び信号線105aと対向電極208との間の電圧の絶対値の双方を、画素電極108と対向電極208との間の電圧の絶対値よりも大きくする。こうすると、初期転移が不要であり且つ表示ムラを生じ難い液晶表示装置が得られる。
【0055】
なお、走査線101aを線順次駆動すること以外は同様の方法で上記の初期化処理を行った場合、液晶配向の面内均一性が不十分となることがある。そのため、この場合、表示ムラを生じる可能性がある。
【0056】
また、初期化処理の際、走査線101aと対向電極208との間の電圧の絶対値及び/又は信号線105aと対向電極208との間の電圧の絶対値が画素電極108と対向電極208との間の電圧の絶対値よりも小さいと、走査線101aと対向電極208との間の領域や信号線105aと対向電極208との間の領域において、液晶材料がスプレイ配向を呈することがある。そのような液晶表示装置を長時間に亘って使用した場合や高温下で使用した場合には、画素電極108と対向電極208との間の領域の一部にスプレイ配向が拡がり、その結果、表示ムラを生じる可能性がある。
【0057】
この初期化処理は、回路121及び122を省略した場合にも実施可能である。例えば、初期化装置の初期化信号出力端子としてプローブ列又は異方性導電シートを使用し、これらをアレイ基板10の走査信号入力端子及び映像信号入力端子にそれぞれ接触させる。但し、プローブ列又は異方性導電シートを、典型的には数100本以上も敷設する走査線101aや信号線105aに不良なしで接触させることは困難である。接触不良を生じた場合、液晶配向の面内均一性が不十分となり、表示ムラを生じる可能性がある。
【0058】
この初期化処理では、不等式(1)の右辺に対する左辺の比は、例えば、2乃至10の範囲内とする。不等式(2)の右辺に対する左辺の比は、例えば、2乃至10の範囲内とする。不等式(3)の右辺に対する左辺の比は、例えば、2乃至10の範囲内とする。これらの比が小さい場合には、走査線101aと対向電極208との間の領域や信号線105aと対向電極208との間の領域において、液晶材料がスプレイ配向を呈し易くなる。また、これらの比が大きい場合には、走査線101aと対向電極208との間の領域や信号線105aと対向電極208との間の領域において、液晶分子がホメオトロピック配向となり、この影響で画素電極108と対向電極208との間のベンドを不安定にすることがある。
【0059】
また、この初期化処理では、初期化信号入力端子111bに信号Vg,onを供給している時間T1と信号Vg,offを供給している時間T2との比T1/T2を、例えば、1/2000乃至1/3の範囲内とする。比T1/T2が大きい場合には、信号線105aと対向電極208との間の領域において、液晶材料がスプレイ配向を呈し易くなることがある。比T1/T2が小さい場合には、画素スイッチ104aを介して画素電極に初期化電圧Vsig,onを十分に書き込むことができない、つまり画素電極に印加される電圧と初期化電圧Vsig,onが一致しないことがある。
【0060】
初期化処理を開始してから終了するまでの時間は、照射する紫外線の強さにもよるが、例えば3秒以上とする。処理時間が短い場合、高分子材料前駆体の重合反応が十分に進行せず、ベンド配向を安定化できないことがある。
【0061】
この製造方法において、高分子材料前駆体としては、例えば、液晶性を示す単官能アクリレートモノマー(分子内に1つのアクリル性二重結合を含んでいるアクリレートモノマー)などの液晶性アクリレートモノマーを使用することができる。そのようなアクリレートモノマーとしては、例えば、下記一般式(1)乃至(3)に示す化合物などを使用することができる。
【化1】

【0062】
液晶層30が含む高分子材料は、例えば、剛直なメソーゲン基が側鎖として高分子骨格に直接又は間接的に結合した側鎖型高分子液晶材料である。側鎖型高分子液晶材料としては、例えば、下記一般式(4)乃至(6)に示す高分子などを使用することができる。
【化2】

【0063】
液晶層30が含む低分子液晶材料と高分子液晶材料との重量比は、例えば、49:1乃至10:1の範囲内とする。低分子液晶材料の含量が小さい場合、十分なコントラスト比を実現するうえで、より厚い液晶層30が必要になることがある。低分子液晶材料の含量が大きい場合、電圧無印加時において、液晶材料がスプレイ配向を呈し易くなる。
【0064】
この液晶表示装置には、走査線101a及び信号線105aと対向電極208との間の領域は、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、電圧無印加時における液晶層30のリタデーションがより小さいという特徴がある。典型的には、それら領域間のリタデーションの差は約50nm乃至約200nmの範囲内にある。これについて、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0065】
図4及び図5は、電圧無印加時における液晶材料の配向状態を概略的に示す断面図である。なお、図4及び図5には、図1の液晶表示装置が含む液晶セルを簡略化して描いている。
【0066】
図4及び図5において、参照符号301は低分子液晶材料を示し、参照符号302は側鎖型高分子液晶材料を示している。また、参照符号302aは側鎖型高分子液晶材料302の高分子骨格を示し、参照符号302bは高分子骨格302aに結合したメソーゲン基を示している。
【0067】
図3を参照しながら説明した初期化処理では、不等式(1)乃至(3)に示す関係を満足するように各電圧を制御する。すなわち、走査線101aと対向電極208との間及び信号線105aと対向電極208との間には、画素電極108と対向電極208との間に印加する電圧と比較して、より強い電圧を印加する。したがって、初期化処理の最中、走査線101aと対向電極208との間の領域及び信号線105aと対向電極208との間の領域では、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、低分子液晶材料301はより垂直配向に近いベンド配向を呈する。
【0068】
この状態で高分子材料前駆体の重合反応を生じさせるので、初期化処理後の液晶セルでは、側鎖型高分子液晶材料302は、低分子液晶材料301の配向状態を、初期化処理時の状態に維持しようとする。その結果、電圧無印加時においても、走査線101aと対向電極208との間の領域及び信号線105aと対向電極208との間の領域では、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、低分子液晶材料301はより垂直配向に近いベンド配向を呈していると考えられる。
【0069】
液晶層30の厚さをd、液晶層30の常光屈折率をno、液晶層30の異常光屈折率をne(ne>no)、液晶分子の基板面に対する平均的な傾き角をθ(水平配向の場合には傾き角θは0°、垂直配向の場合には傾き角θは90°)とすると、液晶層30のリタデーションRは、下記等式で表すことができる。
【数4】

【0070】
この等式によると、傾き角θがより大きいほど、リタデーションRはより小さくなる。また、上記の通り、この液晶表示装置には、走査線101a及び信号線105aと対向電極208との間の領域は、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、電圧無印加時における液晶層30のリタデーションRがより小さいという特徴がある。したがって、このことからも、電圧無印加時において、走査線101aと対向電極208との間の領域及び信号線105aと対向電極208との間の領域では、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、低分子液晶材料301はより垂直配向に近いベンド配向を呈していると考えられる。
【0071】
このように、本態様に係る液晶表示装置は、電圧無印加状態において、画素電極108と対向電極208との間の第1領域は低分子液晶材料がベンド配向を呈し、走査線101aと対向電極208との間の第2領域と信号線105aと対向電極208との間の第3領域とは低分子液晶材料がベンド配向を呈すると共に第1領域と比較してリタデーションがより小さい液晶層30を含んでいる。
【0072】
なお、電圧無印加時における液晶層30のリタデーションは、例えば、液晶セルについてセナルモン法など利用したリタデーションの測定を行うことにより調べることができる。また、リタデーションの測定には、波長が約550nmの光を使用する。
【0073】
図4及び図5では、一例として、Y方向と略平行に延びた直鎖状の高分子骨格302aを描いているが、高分子骨格302aはどの方向に延びていてもよい。また、高分子骨格302aは、どのようなコンホメーションをとっていてもよい。さらに、高分子骨格302aは、枝分かれしていてもよい。例えば、高分子骨格302aは、二次元網目構造を有していてもよく、或いは、三次元網目構造を有していてもよい。
【0074】
この液晶表示装置には、様々な変形が可能である。
図6は、一変形例に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図である。この液晶表示装置は、初期化回路121及び122に以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2の液晶表示装置と同様の構造を有している。
【0075】
すなわち、図6の液晶表示装置では、走査線101a毎にスイッチ104bを配置すると共に、信号線105a毎にスイッチ104cを配置している。そして、スイッチ104bは走査線101aと端子111bとの間に接続し、スイッチ104cは信号線105aと端子111cとの間に接続している。
【0076】
図1の液晶表示装置では、配線105b及び105cは他の配線と交差していない。他方、図6の液晶表示装置では、配線105b及び105cは他の配線と交差している。配線の交差部では短絡を生じ易いため、これを考慮した場合には、図1の構造は図6の構造よりも有利である。
【0077】
また、図1の液晶表示装置では、信号線ドライバ3側の走査線101aはスイッチ104bを介することなく端子111bに接続されており、走査線ドライバ2側の信号線105aはスイッチ104cを介することなく端子111cに接続されている。他方、図6の液晶表示装置では、全ての走査線101aはスイッチ104bを介して端子111bに接続されており、全ての信号線105aはスイッチ104cを介して端子111cに接続されている。したがって、静電気破壊などを考慮した場合には、図6の構造は図1の構造よりも有利である。
【0078】
図7は、他の変形例に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図である。この液晶表示装置は、アレイ基板10と対向基板20とに以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2の液晶表示装置とほぼ同様の構造を有している。
【0079】
すなわち、図7の液晶表示装置では、アレイ基板10からカラーフィルタ107を省略し、その代わりに、対向基板20の基板200と対向電極208との間にカラーフィルタ207を配置している。また、図7の液晶表示装置では、信号線105aと配向膜109との間にブラックマトリクス112を配置している。このように、カラーフィルタ・オン・アレイ構造を採用してもよく、ブラックマトリクス・オン・アレイ構造を採用してもよい。
【0080】
図7の液晶表示装置では、カラーフィルタ207と対向電極208との間に平坦化層を配置してもよい。平坦化層を配置すると、対向電極208の平坦性が高まるため、液晶材料の配向度が向上すると共に、アレイ基板10が含む部材と対向電極208との間の不所望な短絡を生じ難くなる。
【0081】
平坦化層の材料としては、例えば、アクリル、ポリイミド、ナイロン、ポリアミド、ポリカーボネート、ベンゾシクロブテンポリマー、ポリアクリルニトリル、ポリシランなどの有機物を使用することができる。これら材料のうち、コストの点ではアクリルなどが優れており、平坦性の点ではベンゾシクロブテンポリマーなどが優れており、化学的安定性の点ではポリイミドなどが優れている。
【0082】
上記の液晶表示装置では、スイッチ104a乃至104cとしてアモルファスシリコン薄膜トランジスタを使用しているが、ポリシリコン薄膜トランジスタを使用してもよい。また、スイッチ104a乃至104cとして薄膜トランジスタを使用する代わりに、薄膜ダイオードなどの他のスイッチング素子を使用してもよい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
本例では、図1に示す液晶表示装置を以下の方法により作製した。なお、本例では、アレイ基板10及び対向基板20には、図7に示したのとほぼ同様の構造を採用した。
【0084】
アレイ基板10を作製するに当たっては、まず、ガラス基板100上に、走査線101aと補助容量線(図示せず)と配線101c及び101bとを形成した。これら配線の材料としては、クロムを使用した。
【0085】
次に、これら配線と、補助容量線及び走査線101aをクロム酸化膜と酸化シリコン膜との積層構造を有する絶縁膜102によって被覆した。この絶縁膜102上にアモルファスシリコンからなる半導体層103を形成し、この半導体層103をパターニングした。その後、半導体層103上に窒化シリコンからなるチャネル保護層(図示せず)を形成し、半導体層103及びチャネル保護層上に図示しないオーミック層を形成した。
【0086】
次に、絶縁膜102上に、信号線105aと配線105b及び105cとソース電極105dと走査信号入力端子(図示せず)と映像信号入力端子(図示せず)と制御信号入力端子110b及び110cと初期化信号入力端子111b及び111cとを形成した。さらに、絶縁膜102上に、画素電極108を形成した。
【0087】
対向基板20を作製するに当たっては、まず、ガラス基板200上にクロム膜を形成し、これをパターニングした。これにより、ブラックマトリクスを得た。続いて、その上に、それぞれ赤、緑、青色の顔料を混入した感光性アクリル樹脂を用いて、ストライプ状のカラーフィルタ207を形成した。
【0088】
次に、カラーフィルタ207上に、透明なアクリル樹脂を塗布して、図示しない平坦化層(オーバーコート)を形成した。その後、平坦化層上にITOをスパッタリングすることにより、対向電極208を形成した。さらに、対向電極208上に、フォトリソグラフィ法を利用して、高さが5μmであり且つ底面が5μm×10μmの柱状スペーサ(図示せず)を形成した。これら柱状スペーサは、アレイ基板10と対向基板20とを貼り合せたときに信号線105a上に位置するように形成した。
【0089】
画素電極108及び対向電極208を洗浄した後、それらの上に、オフセット印刷によってポリイミド溶液(日産化学製SE−5291)を塗布した。これら塗膜を、ホットプレートを用いて90℃で1分間加熱し、さらに200℃で30分間加熱した。このようにして、配向膜109及び209を形成した。
【0090】
次に、配向膜109及び209に、綿製の布を用いたラビングを施した。これらへのラビングは、配向膜109に対するラビングの方向と配向膜209に対するラビングの方向とが、アレイ基板10と対向基板20とを貼り合せたときに同じ向きになるように行った。また、各々のラビングには、毛先の直径が0.1μm乃至10μmの綿製ラビング布を使用し、ラビングローラの回転数を500rpm、基板移動速度を20mm/s、押し込み量を0.7mm、ラビングの回数を1回とした。また、ラビング後、配向膜109及び209は、中性の界面活性剤を主成分とする水溶液で洗浄した。
【0091】
その後、対向基板20の主面に、シール層の材料であるエポキシ接着剤を、配向膜209を取り囲むようにディスペンサを用いて塗布した。なお、接着剤層が形成する枠には、後で注入口として利用する開口を設けた。続いて、アレイ基板10と対向基板20とを、配向膜109及び209が向き合い且つそれらのラビング方向が互いに等しくなるように配置した。位置合わせ後、アレイ基板10と対向基板20とを貼り合わせ、さらに、加圧状態で160℃に加熱することにより接着剤を硬化させた。
【0092】
次に、このようにして得られた空セルを真空チャンバ内に搬入し、セル内を真空にした。その後、注入口からセル内へと、低分子液晶材料と高分子材料前駆体と光重合開始剤との混合物を注入した。低分子液晶材料としては、ネマティック液晶組成物であるメルクジャパン社製E7を使用し、その混合物中での濃度は95重量%とした。高分子材料前駆体としては、液晶性を示す単官能アクリレートモノマーであるUCL−001(大日本インキ化学工業株式会社製)を使用し、その混合物中での濃度は4.95重量%とした。光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを使用し、その混合物中での濃度は0.05重量%とした。
【0093】
注入口をエポキシ接着剤で封止した後、初期化装置の制御信号出力端子を制御信号入力端子110b及び110cに接触させ、この装置の初期化信号出力端子を初期化信号入力端子111b及び111cに接触させた。次いで、制御信号出力端子から、制御信号入力端子110b及び110cに、スイッチ104b及び104cを閉じる制御信号を出力した。この状態を維持したまま、図3を参照しながら説明した初期化処理を行った。すなわち、初期化信号出力端子から初期化信号入力端子111b及び111cにそれぞれ初期化信号Vg及びVsigを出力すると共に対向電極208に電圧Vcomを印加し、これと同時に、液晶セルに光を照射した。
【0094】
ここでは、電圧Vg,onは+20V、電圧Vg,offは−30V、電圧Vsig,onは0V、電圧Vsig,offは−20V、電圧Vcom1は+5V、電圧Vcom2は−5Vとした。時間T1(信号Vg及びVsigのパルス幅)は0.1msとし、信号Vg及びVsigの周波数は30Hzとした。液晶セルへの光照射には、主波長が365nmであり且つ強度が3.3mW/cm2の紫外線を使用し、この光照射は3分間継続した。
【0095】
以上のようにして得られた液晶セルを、偏光顕微鏡で観察した。その結果、電圧無印加時では、液晶層30のうち、走査線101aと対向電極208との間の領域及び信号線105aと対向電極208との間の領域は、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、リタデーションがより小さいことを確認できた。
【0096】
次に、アレイ基板10の外面に偏光板50を貼り付けると共に、対向基板20の外面に光学補償フィルム40及び偏光板50を貼り付けた。ここでは、画素電極108と対向電極208との間に5Vの電圧を印加した状態における画素電極108と対向電極208との間の液晶層30と光学補償フィルム40との積層体のリタデーションがほぼゼロとなる設計を採用した。また、偏光板50は、それらの透過軸が互いに略直交すると共に、各々の透過軸がX方向及びY方向に対して約45°の角度を為すように配置した。
【0097】
さらに、アレイ基板10に走査線ドライバ2及び信号線ドライバ3などを接続し、この液晶表示パネル1とバックライトとを組み合わせた。以上のようにして、液晶表示装置を完成した。
【0098】
この液晶表示装置は、起動直後から、表示ムラのない画像を表示することができた。なお、画素電極108と対向電極208との間に印加する電圧の絶対値は、ON状態では5Vとし、OFF状態では0Vとした。正面のコントラスト比は400:1であり、応答時間は5msであった。視野角(コントラスト比が10:1以上であり且つ階調反転を生じない条件を満足する)は、上下方向及び左右方向とも70°以上であった。さらに、この表示装置は、0℃、25℃、50℃の何れの温度で3000時間の連続点灯試験を行なった後でも表示ムラを生じることはなかった。
【0099】
(実施例2)
高分子材料前駆体として液晶性を示す単官能アクリレートモノマー(分子内にアクリル性二重結合を1つのみ含んでいるアクリレートモノマー)UCL−001に、非液晶性の多官能アクリレートモノマー(分子内にアクリル性二重結合を複数含んでいるアクリレートモノマー)であるKAYARAD HX−220(日本化薬株式会社製)を混合して使用したこと以外は実施例1で説明したのと同様の方法により液晶セルを作製した。混合比は、液晶E7が95%、UCL−001が4.7%、HX−220が0.25%、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンが0.05%とした。この液晶セルを偏光顕微鏡で観察したところ、電圧無印加時では、液晶層30のうち、走査線101aと対向電極208との間の領域及び信号線105aと対向電極208との間の領域は、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、リタデーションがより小さいことを確認できた。
【0100】
次に、この液晶セルを用いたこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置を実施例1で行ったのと同様の条件で駆動したところ、起動直後から、表示ムラのない画像を表示することができた。また、正面のコントラスト比は400:1であり、応答時間は5msであった。視野角は、上下方向及び左右方向とも70°以上であった。さらに、この表示装置について、実施例1で行ったのと同様の条件で連続点灯試験行ったところ、0℃、25℃、50℃の何れの温度であっても、試験終了後に表示ムラを生じることはなかった。非液晶性の多官能アクリレートモノマーを加えることによって、光重合によって形成される側鎖型高分子液晶は網目構造となる。その結果、高分子の構造がより強固なものとなり、液晶表示装置のパネル面に強い力がかかったときに生じる配向変化が生じにくくなった。
【0101】
(比較例1)
本例では、以下の事項を除き、実施例1で説明したのと同様の方法により液晶セルを作製した。すなわち、初期化回路121及び122は省略した。また、高分子材料前駆体及び光重合開始剤を使用せず、初期化処理を行わなかった。この液晶セルを偏光顕微鏡で観察したところ、電圧無印加時では、液晶層30のうち、走査線101aと対向電極208との間の領域と、信号線105aと対向電極208との間の領域と、画素電極108と対向電極208との間の領域とは、リタデーションが互いに等しいことを確認できた。
【0102】
次に、この液晶セルを用いたこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置では、起動直後に正常な画像を表示することはできず、起動してから正常な画像が表示されるまでに約1分の時間を要した。
【0103】
(比較例2)
本例では、まず、初期化回路121及び122を省略したこと以外は実施例1で説明したのと同様の方法により空セルを作製した。このセルには、実施例1で使用したのと同様の組成物を注入し、注入口をエポキシ接着剤で封止した。
【0104】
次に、初期化信号出力端子としてプローブ列を含んだ初期化装置を用いて初期化処理を行った。具体的には、プローブ列をそれぞれ走査信号入力端子群と映像信号入力端子群とに接触させた。次いで、各プローブに図8に示す信号を出力しつつ、液晶セルに光を照射した。
【0105】
図8は、比較例2の初期化処理において走査線に供給した信号を示すタイミングチャートである。図中、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
【0106】
「電圧信号Vg(1)」と表記した波形は、初期化装置から1行目の走査線101aへと出力した初期化信号の波形を示している。「電圧信号Vg(2)」と表記した波形は、初期化装置から2行目の走査線101aへと出力した初期化信号の波形を示している。「電圧信号Vg(3)」と表記した波形は、初期化装置から3行目の走査線101aへと出力した初期化信号の波形を示している。「対向電極電圧Vcom」と表記した波形は、対向電極208の電圧波形を示している。
【0107】
図8に示すように、本例の初期化処理では、走査線101aを線順次駆動すると共に、対向電極電圧Vcomを1水平周期毎に電圧Vcom1と電圧Vcom2との間で変化させた。そして、初期化処理の間、全ての信号線105aには一定電圧Vsigを出力した。
【0108】
具体的には、電圧Vg,onは+20V、電圧Vg,offは−30V、電圧Vsigは0V、電圧Vcom1は+5V、電圧Vcom2は−5Vとした。信号Vg(m)のパルス幅は0.1msとし、周波数は30Hzとした。液晶セルへの光照射には、主波長が365nmであり且つ強度が3.3mW/cm2の紫外線を使用し、この光照射は3分間継続した。
【0109】
このようにして得られた液晶セルを偏光顕微鏡で観察したところ、電圧無印加時では、液晶層30のうち、信号線105aと対向電極208との間の領域と、画素電極108と対向電極208との間の領域とは、リタデーションがほぼ等しかった。また、電圧無印加時では、液晶層30のうち、走査線101aと対向電極208との間の領域は、画素電極108と対向電極208との間の領域と比較して、リタデーションがより小さかった。
【0110】
次に、この液晶セルを用いたこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置を実施例1で行ったのと同様の条件で駆動したところ、起動直後から正常な画像を表示できたが、その画像は表示ムラを含んでいた。また、正面のコントラスト比は100:1であり、応答時間は5msであった。視野角は、上下方向及び左右方向とも70°以上であった。さらに、この表示装置について、実施例1で行ったのと同様の条件で連続点灯試験行ったところ、温度の上昇に伴い、表示ムラが顕著になった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の一態様に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図。
【図2】図1の液晶表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す部分断面図。
【図3】初期化処理において走査線及び信号線に供給する信号の一例を示すタイミングチャート。
【図4】電圧無印加時における液晶材料の配向状態を概略的に示す断面図。
【図5】電圧無印加時における液晶材料の配向状態を概略的に示す断面図。
【図6】一変形例に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図。
【図7】他の変形例に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図。
【図8】比較例2の初期化処理において走査線に供給した信号を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0112】
1…液晶表示パネル、2…走査線ドライバ、3…信号線ドライバ、10…アレイ基板、20…対向基板、30…液晶層、40…光学補償フィルム、50…偏光板、100…透明基板、101a…走査線、101b…配線、101c…配線、102…絶縁膜、103…半導体層、104a…画素スイッチ、104b…スイッチ、104c…スイッチ、105a…信号線、105b…配線、105c…配線、105d…ソース電極、106…キャパシタ、107…カラーフィルタ、108…画素電極、109…配向膜、110b…制御信号入力端子、110c…制御信号入力端子、111b…初期化信号入力端子、111c…初期化信号入力端子、112…ブラックマトリクス、121…初期化回路、122…初期化回路、200…透明基板、207…カラーフィルタ、208…対向電極、209…配向膜、300…液晶素子、301…低分子液晶材料、302…側鎖型高分子液晶材料、302a…高分子骨格、302b…メソーゲン基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の走査線と、これらと交差した複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配列すると共に前記走査線から供給される走査信号によってスイッチング動作が制御される画素スイッチとこれを介して前記信号線に接続された画素電極とを各々が含んだ複数の画素回路と、前記画素電極を被覆した第1配向膜と、前記複数の走査線の接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える第1回路と、前記複数の信号線の接続状態をそれらが互いに接続された状態とそれらが互いから切断された状態との間で切り替える第2回路とを備えたアレイ基板と、
前記第1配向膜と向き合った対向電極と、これを被覆した第2配向膜とを備えた対向基板と、
前記アレイ基板と前記対向基板との間に介在すると共に高分子材料とこれよりも低分子量の低分子液晶材料とを含み、前記画素電極と前記対向電極との間に電圧を印加していない電圧無印加状態において前記低分子液晶材料がベンド配向を呈する液晶層とを具備したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記第1回路は、第1制御信号入力端子と、前記複数の走査線の1つに接続された第1初期化信号入力端子と、前記複数の走査線間にそれぞれ接続されると共に各々のスイッチング動作が前記第1制御信号入力端子から供給される第1制御信号によって制御される複数の第1スイッチを含み、
前記第2回路は、第2制御信号入力端子と、前記複数の信号線の1つに接続された第2初期化信号入力端子と、前記複数の信号線間にそれぞれ接続されると共に各々のスイッチング動作が前記第2制御信号入力端子から供給される第2制御信号によって制御される複数の第2スイッチを含んだことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記第1回路は、第1制御信号入力端子と、第1初期化信号入力端子と、前記第1初期化信号入力端子と前記複数の走査線との間にそれぞれ接続されると共に各々のスイッチング動作が前記第1制御信号入力端子から供給される第1制御信号によって制御される複数の第1スイッチを含み、
前記第2回路は、第2制御信号入力端子と、第2初期化信号入力端子と、前記第2初期化信号入力端子と前記複数の信号線との間にそれぞれ接続されると共に各々のスイッチング動作が前記第2制御信号入力端子から供給される第2制御信号によって制御される複数の第2スイッチを含んだことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記高分子材料は高分子液晶材料を含んだことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記高分子材料は側鎖型高分子液晶材料を含んだことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
複数の走査線と、これらと交差した複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配列すると共に前記走査線から供給される走査信号によってスイッチング動作が制御される画素スイッチとこれを介して前記信号線に接続された画素電極とを各々が含んだ複数の画素回路と、前記画素電極を被覆すると共に配向処理が施された第1配向膜とを備えたアレイ基板と、前記第1配向膜と向き合った対向電極と、これを被覆すると共に前記第1配向膜と同じ向きに配向処理が施された第2配向膜とを備えた対向基板と、前記アレイ基板と前記対向基板との間に介在すると共に高分子材料前駆体と低分子液晶材料とを含んだ液晶層とを具備した液晶セルを作製する工程と、
前記複数の走査線を互いに接続し且つ前記複数の信号線を互いに接続した状態で、前記複数の走査線の電圧を前記画素スイッチを開く電圧Vg,offと前記画素スイッチを閉じる電圧Vg,onとの間で交互に変化させると共に、前記対向電極の電圧Vcomと、前記複数の走査線に前記電圧Vg,offを印加している期間における前記複数の信号線の電圧Vsig,offと、前記複数の走査線に前記電圧Vg,onを印加している期間における前記複数の信号線の電圧Vsig,onとを、それらが以下の不等式(1)乃至(3)に示す関係を満足するように制御しながら、前記高分子材料前駆体の重合反応を生じさせる工程とを含んだことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【数1】

【請求項7】
前記重合反応によって高分子液晶材料を生成することを特徴とする請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記高分子材料前駆体は液晶性を示すアクリレートモノマーを含んだことを特徴とする請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−11139(P2007−11139A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193984(P2005−193984)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】