液晶表示装置
【課題】表示輝度の向上が図られたFS駆動を行う液晶表示装置を提供する。
【解決手段】液晶表示装置は、液晶表示素子と、複数色の光源を有するバックライトと、液晶表示素子とバックライトとを同期させFS駆動を行う駆動装置とを有し、駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1サブフレームの直後の第2サブフレームの開始時刻から、液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、応答遅れ時間の終了後、第1サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を挟んで、第2サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、バックライトの点灯状態を制御する。
【解決手段】液晶表示装置は、液晶表示素子と、複数色の光源を有するバックライトと、液晶表示素子とバックライトとを同期させFS駆動を行う駆動装置とを有し、駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1サブフレームの直後の第2サブフレームの開始時刻から、液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、応答遅れ時間の終了後、第1サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を挟んで、第2サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、バックライトの点灯状態を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、フィールドシーケンシャル(FS)駆動を行う液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用情報表示装置や、カーオーディオの表示部等に、セグメント表示、またはセグメント表示に加えてドットマトリクス表示が可能な液晶表示装置が用いられる。セグメント表示部をカラー表示可能な液晶表示装置の1つとして、カラーフィルタの形成された液晶表示素子に、白色のバックライト光を照射する構成のものがある。
【0003】
カラーフィルタを用いた液晶表示装置の短所としては、液晶表示素子のガラス基板上にカラーフィルタを形成する工程が必要なことや、各セグメントの表示色がカラーフィルタの色に限定されること等が挙げられる。
【0004】
セグメント表示部をカラー表示可能な、他の液晶表示装置として、いわゆるフィールドシーケンシャル(FS)駆動を行うものがある。このような液晶表示装置では、液晶表示素子にカラーフィルタを形成しない代わりに、例えば赤緑青(RGB)発光可能なマルチカラー発光ダイオード(LED)光源などにより構成されたマルチカラーバックライトを用い、点灯色を順次時間的に切り替えることにより、カラー表示を行う。
【0005】
図14を参照して、従来のFS駆動方法の具体例について説明する。図14は、各セグメントの入力信号とバックライト点灯状態のタイミングチャートである。液晶表示素子として、オン状態で光を透過させ、オフ状態で光を透過させないノーマリーブラック型のものを想定している。
【0006】
1つの画像を表示する時間的単位である1フレーム内に、バックライトがR、G、Bそれぞれに点灯する3つのサブフレームSB1〜SB3が設定されている。例えば、1フレームの長さは、NTSC規格に従った16.7msであり、各サブフレームの長さは、5.57msである。
【0007】
液晶表示素子に印加される駆動波形は、例えば矩形波で、駆動周波数は、1つのサブフレーム内で1周期以上になるように設定し、入力信号に対して液晶表示素子が明暗表示できるように、オン時及びオフ時の振幅(駆動電圧)が調整される。
【0008】
一般に、液晶表示素子は、印加電圧に対する応答がバックライトのそれに比べて遅いため、液晶表示素子がある程度応答するまでバックライトを点灯させないブランク時間を要する。
【0009】
図15に、ノーマリーブラック型液晶表示素子の1セグメント部分における、明表示から暗表示への切り替え時の立下り電気光学応答の測定例を示す。縦軸の上側が透過率を示し、縦軸の下側がセグメント部上下電極間駆動波形の電位を示し、横軸が経過時間を示す。
【0010】
駆動電圧が、閾値以上の電圧Vから0に低下しても、すぐには透過率が充分低下しないことが分かる。透過率が充分に低下していない状態で、サブフレーム内で指定された色のバックライト光を点灯すれば、このセグメントで消光すべき色の光が漏れるため、色純度が低下することになる。
【0011】
従って、透過率が充分に低下するまでの期間は、バックライトを点灯させないブランク時間とする必要がある。例えば、液晶セルが明表示から暗表示に変化する立下り応答時間が3ms程度の場合、ブランク時間は2.5ms程度、好ましくは3ms程度必要である。
【0012】
図14に戻って説明を続ける。各サブフレームの切り替え直後から、ブランク時間Bが設けられている。ブランク時間Bの後、各サブフレームの終了時刻までが、サブフレームに対応する色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lとなっている。
【0013】
サブフレーム動作を人間の目に認識されない速度(例えば約16.7ms/フレーム、約5.57ms/サブフレーム、約3ms/ブランク時間)で駆動させれば、狙い通りの、ちらつきの抑えられたカラー表示を実現可能である。図14に示す例で、セグメント1はRとGの混色である黄色、セグメント2はRとBの混色であるマゼンタ、セグメントnはGのみの緑の表示として、人間の目に認識される。
【0014】
なお、上述のFS駆動方法(このFS駆動方法を、後述するカラーブレークレスFS駆動方法と区別する場合には、通常FS駆動方法と呼ぶこととする)では、特に観察者の周囲が暗い場合に、観察者の視線が表示素子から離れた時や、素子自体に振動が加わった場合など(例えば自動車内環境において)、通常状態では人間の目に認識されない、各サブフレームの画像が分離して観察されるカラーブレークと呼ばれる現象が現れる場合がある。この現象は、人間の心理的要因からあまり好ましい表示状態とはいえない。
【0015】
カラーブレーク現象は、特に、白表示部分にはっきり現れることから、通常FS駆動方法において、1つのセグメント表示部にて複数のサブフレームで点灯動作が行われている場合、即ち白色、黄色やマゼンタなどの混色表示状態で顕著に確認されると考えられる。
【0016】
カラーブレーク現象を低減する方法として、1フレーム内に白表示サブフレームを挿入する等の方法が提案されているが、このような方法でカラーブレーク現象を除去することはできない。
【0017】
本願発明者らは、特許文献1において、カラーブレーク現象を解消可能なFS駆動方法(以下、上述の通常FS駆動方法と区別する場合には、カラーブレークレスFS駆動方法と呼ぶこととする)を提案した。
【0018】
この駆動方法の基本的な考え方は、1サブフレーム内において、バックライトの点灯色として原色(R、G、B)のみではなく、混色(白やオレンジ等)も用い、各セグメントにおいては1サブフレームでのみバックライト光を透過させることにより、カラーブレーク現象を生じさせない、というものである。
【0019】
図16を参照して、カラーブレークレスFS駆動方法の具体例について説明する。図16は、各セグメントの入力信号とバックライト点灯状態のタイミングチャートである。液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。
【0020】
この例のバックライト発光色は、第1のサブフレームで白色とし、第2のサブフレームでオレンジとし、第3のサブフレームで青としている。この駆動方法では、1フレーム内で可能な表示色は、サブフレーム数をMとすると、発光色数Mに黒を足して、M+1色となる。
【0021】
なお、フレームごとにバックライト点灯色を可変にできるので、液晶表示素子の動作が明と暗の2値動作である場合は、上記通常FS駆動方法に比べて、表示色が大幅に増加可能であることは明白であろう。
【0022】
この例では、16.7msの1フレームを、等間隔の3つのサブフレームに分割している。なお、各サブフレームの間隔は、バックライトの発光色に応じて変化させても良い。即ち、サブフレームは不等間隔でも動作可能である。
【0023】
この例では、セグメント1で白表示を行い、セグメント2で黒表示を行い、セグメントnでオレンジ表示を行っている。バックライトの点灯タイミングについて、通常FS駆動方法と同様に、サブフレーム切り替え直後は、液晶表示素子の電気光学応答を待つため約3msのブランク時間Bを設けている。ブランク時間Bの後、サブフレームの終了まで、サブフレームに対応する色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lが設けられる。
【0024】
このような動作を行うことにより、外観上狙い通りの、ちらつきの無いカラー表示を、カラーブレークなしに実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特許第3894323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
通常FS駆動方法及びカラーブレークレスFS駆動方法ともに、サブフレーム間の不要な混色を抑制するためにブランク時間を設けている。例えば上述の例のように、16.7msのフレームを、5.57msの3つの等間隔のサブフレームに分け、ブランク時間が3ms程度の場合、1サブフレーム内でバックライトが点灯している時間は略2.57msとなり、点灯時間はサブフレーム時間の半分にも満たない。
【0027】
例えば、バックライトの常時点灯が可能な、カラーフィルタを用いた液晶表示装置と比べると、FS駆動を行う液晶表示装置では、このように、表示輝度を高めることが難しい。FS駆動方法で、表示輝度を高める技術が望まれる。
【0028】
なお、上述の例の条件で、例えば通常FS駆動方法で白表示を行った場合は、1フレーム内のバックライト点灯時間を、RGBを点灯させる3つのサブフレーム合計で略7.71msまでは長くできる。しかし、カラーブレークレスFS駆動方法では、混色表示でも1サブフレームのみしかバックライトを点灯させない。特に、カラーブレークレスFS駆動方法において、表示輝度を高める技術が望まれる。
【0029】
本発明の一目的は、表示輝度の向上が図られたFS駆動を行う液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の一観点によれば、明表示と暗表示とが切り換わる複数の表示部を含む液晶表示素子と、複数色の光源を有し、該光源から出射した光を、前記液晶表示素子に入射させるバックライトと、前記液晶表示素子と前記バックライトとを同期させフィールドシーケンシャル駆動を行う駆動装置とを有し、前記駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、前記液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレームの直後のサブフレームである第2のサブフレームの開始時刻から、前記液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、前記応答遅れ時間の終了後、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を間に挟んで、前記第2のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、前記バックライトの点灯状態を制御する液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0031】
例えば、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1のサブフレーム内で点灯され、さらに、第1のサブフレームの直後の第2のサブフレーム内まで延長して点灯される。これにより、表示輝度の向上が図られる。
【0032】
また例えば、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1のサブフレーム内で点灯されなくても、第1のサブフレームの直後の第2のサブフレーム内で点灯される。例えば、低温により液晶の応答速度が遅いとき、サブフレームの終了時刻まで液晶が充分に応答せず(明表示から暗表示への立下りが充分でなく)、第1のサブフレーム内で、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯できない状況が生じうる。そのような場合に、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、直後の第2のサブフレーム内で点灯することにより、バックライト点灯時間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の第1の実施例による液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2(A)は、NWTNモード液晶表示素子の概略斜視図であり、図2(B)は、ガラス基板上の構造の一例を示す概略断面図であり、図2(C)は、ガラス基板上の構造の他の例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、2層TNモード液晶表示素子の概略斜視図である。
【図4】図4は、VAモード液晶表示素子の概略斜視図である。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、それぞれ、暗表示から明表示へのスイッチング時、及び、明表示から暗表示へのスイッチング時における電気光学応答の過渡応答波形を示すグラフである。
【図6】図6は、2層TN液晶表示素子の立上り及び立下りの電気光学過渡応答特性を、1サブフレームのタイミングに対応付けて示したグラフである。
【図7】図7は、第2の実施例による駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図8】図8は、第3の実施例による駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図9】図9は、第4の実施例の駆動方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、立上り応答時間の温度依存性、及び、立下り応答時間の温度依存性を示すグラフである。
【図11】図11は、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、立上りの応答遅れ時間の温度依存性を示すグラフである。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、それぞれ、第5及び第6の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【図13】図13は、第7の実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。
【図14】図14は、従来の通常FS駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図15】図15は、ノーマリーブラック型液晶表示素子の1セグメント部分における、明表示から暗表示への切り替え時の立下り電気光学応答を示すグラフである。
【図16】図16は、従来のカラーブレークレスFS駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図17】図17は、従来のマルチプレックス駆動の通常FS駆動方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施例による液晶表示装置について説明する。図1は、実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。実施例の液晶表示装置は、液晶表示素子1と、マルチカラーバックライト2と、駆動装置3とを含んで構成される。マルチカラーバックライト2は、液晶表示素子1の背面に備えられ、例えば赤緑青(RGB)発光可能なマルチカラー発光ダイオード(LED)を含んで構成される。駆動装置3は、液晶表示素子1とマルチカラーバックライト2とを所望のタイミングで同期駆動させて、フィールドシーケンシャル(FS)駆動によるカラー表示を行う。
【0035】
液晶表示素子1として、本願発明者らは、以下の3つの動作モードで動作するものを作製し、それらの電気的特性を評価した。
【0036】
まず、図2(A)〜図2(C)を参照して、ノーマリーホワイト(NW)ツイステッドネマチック(TN)モード液晶表示素子について説明する。図2(A)は、NWTNモード液晶表示素子の概略斜視図である。液晶セル11が、上下のガラス基板12、13と、それらの間に形成された液晶層14とを含んで構成される。
【0037】
図2(B)に示すように、液晶セルのガラス基板12、13それぞれの、液晶層側内面に、表示パタンに対応するパタンを形成した透明電極31が配置され、さらにその内面に、水平配向膜32が形成されている。上下の水平配向膜32に、上下基板間で左ねじれ90°で液晶分子が配向するようラビング処理が施されている。
【0038】
上下水平配向膜32の間に、左ねじれのカイラル材が添加されたΔε>0の液晶材料が満たされて、液晶層14が形成されている。液晶層14の厚さ、即ちセル厚は、略2μmに設定されており、液晶セル厚dと液晶材料のねじれピッチpとの比d/pは、略0.35に設定されている。なお、液晶材料の複屈折率Δnとセル厚dとの積であるリタデーションΔndは、略446nmに設定されている。液晶層中央分子配向方位が、液晶表示素子を法線方向から観察したとき、素子面内において6時方位となるように、ラビング方向が調整されている。
【0039】
液晶セル11は、相互にクロスニコル配置された上側偏光板21と下側偏光板22との間に配置されている。偏光板21、22は、それぞれ、液晶セル11の近接する基板のラビング方向に直交するように、吸収軸が配置されている。偏光板21、22として、例えばポラテクノ製SKN18243Tが用いられる。
【0040】
なお、液晶表示素子の視角特性等を改善するため、表示パタン部以外の領域の、片側または両側のガラス基板上に、表示パタン電極から非導電物により電気的に絶縁したブラックマスク膜を配置する場合もある。ブラックマスク膜は、例えばクロムやモリブデン等の金属薄膜からなる。なお、ブラックマスク膜として、顔料、カーボンを分散したアクリル等の樹脂膜を用いてもよい。
【0041】
図2(C)に示すように、絶縁膜41、ブラックマスク膜42は、例えば、液晶セルのガラス基板12(13)と透明電極31との間に形成される。必要に応じて、透明電極31と配向膜32との間に形成してもよい。特に、カラーブレークレスFS駆動の液晶表示装置には、このような遮光構造を採用することが好ましい。
【0042】
次に、図3を参照して、2層TNモード液晶表示素子について説明する。図3は、2層TNモード液晶表示素子の概略斜視図である。上側偏光板61と下側偏光板62とが、相互にクロスニコル配置されている。偏光板61、62として、ポラテクノ製SKN18243Tを用いることができる。偏光板61、62の間に、上側から、2層の液晶セル51、52が配置されている。
【0043】
下側の液晶セル52は、図2(A)を参照して説明したNWTNモード液晶セルと同等なものであり、「駆動セル」として動作させる。駆動セル52は、このセル側に外部から駆動電圧を印加して、表示素子の明暗をスイッチングするために用いる。
【0044】
上側の液晶セル51は、「補償セル」として用いる。補償セル51では、上下のガラス基板間で液晶分子が右ねじれ90°に配向するように、ラビング方向が設定されている。補償セル51の液晶層には、右ねじれを誘起するカイラル材が添加され、液晶層中央分子の配向方位は3時方位としている。また、補償セル51のガラス基板表面には、表示パタン電極が形成されていない。その他の条件は、駆動セル52と同様である。
【0045】
補償セル51により、駆動セル52で発生したリタデーションがキャンセルされ、正面観察時におけるリタデーションが略0となり、ほぼ偏光板クロスニコルの暗表示が得られる。このように2層の液晶セルを用いることにより、ノーマリーブラック(NB)動作が得られる。
【0046】
なお、補償セルの代わりに、補償セルと同様な光学特性を有する光学フィルム、例えばポラテクノ製Twistarフィルムを用いることができることは明らかであり、実際の液晶表示素子に適用して、同様な動作が可能であることを確認済みである。
【0047】
次に、図4を参照して、垂直配向(VA)モード液晶表示素子について説明する。図4は、VAモード液晶表示素子の概略斜視図である。VAモード液晶表示素子の液晶セル71では、上下ガラス基板72、73それぞれの液晶層側内面に、表示パタンを形成した透明電極が配置され、さらにその内面に、垂直配向膜が形成されている。上下の垂直配向膜に、上下基板間でアンチパラレル配向となるようにラビング処理が施されている。
【0048】
上下垂直配向膜間に、Δε<0の液晶材料が満たされて、液晶層74が形成されている。液晶層74の厚さは略2μmに設定され、リタデーションΔndは略300nmに設定され、液晶層中央分子の配向方位は12時方位に設定されている。
【0049】
液晶セル71は、相互にクロスニコル配置された上側偏光板81と下側偏光板82との間に配置されている。上側の偏光板81の吸収軸は、12時方位から反時計回りに45°回転させた位置に設定されている。
【0050】
液晶セル71と、上下の偏光板81、82との間に、それぞれ、視角補償板91、92が配置されている。視角補償板91、92として、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムを用いることができる。試作した液晶表示素子では、住友化学製ヨウ素系偏光板に、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムを貼り合わせた視角補償板貼合偏光板を用いた。
【0051】
視角補償板91、92の面内遅相軸は、それぞれ、近接する偏光板81、82の透過軸にほぼ平行に配置した。視角補償板91、92各々について、面内位相差は、略45nmとし、厚さ方向の(厚さ断面内の)位相差は略120nmとしている。
【0052】
なお、負の二軸光学異方性を有する視角補償板は、液晶セルの上面側または下面側の一方のみに配置されていてもよい。さらに他方に、負の一軸光学異方性を有する視角補償板を配置してもよい。光学フィルムのパラメータとしては、厚さ方向の位相差(光学フィルム2枚以上使用の場合はその合計)を、液晶セルのΔndに対して略0.5倍〜略1倍に設定することが好ましい。また、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムの面内位相差は、略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0053】
2層TN素子、VA素子は、ノーマリーブラック型素子となる。ノーマリーブラック型素子を用いると、ブラックマスクを用いない構造で、コントラストの高いカラーブレークレスFS駆動液晶表示装置を作製することが容易である。さらに、視角特性を考慮すると、VA素子が最適である。FS駆動液晶表示装置として動作させた場合、VA素子を用いた場合に、圧倒的に良好な表示品位が得られることを確認している。
【0054】
次に、上述のように作製したNWTNモード、2層TNモード、及びVAモードの3種の液晶表示素子の、室温時の電気光学応答特性の測定結果について説明する。測定には、大塚電子製LCD5200を用いた。
【0055】
駆動条件について説明する。駆動波形は矩形波とし、駆動周波数は500Hzとした。駆動電圧は、オフ電圧を0Vとし、オン電圧は、NWTN素子では6Vとし、2層TN素子では5Vとし、VA素子では6.5Vとした。NWTN素子では、オン電圧時の暗透過率が1%程度になる条件、2層TN素子及びVA素子では、オン電圧時の透過率が25%程度になる条件を狙って、各素子のオン電圧を設定した。
【0056】
図5(A)及び図5(B)に、それぞれ、暗表示から明表示へのスイッチング時、及び、明表示から暗表示へのスイッチング時における電気光学応答の過渡応答波形測定結果を示す。横軸が経過時間を示し、縦軸が透過率を示す図5(A)の曲線A1〜A3が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果であり、図5(B)の曲線A4〜A6が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果である。
【0057】
暗表示から明表示に変化させる場合、NWTN素子は、オン電圧からオフ電圧に切り替え、2層TN素子及びVA素子、すなわちノーマリーブラック型素子は、オフ電圧からオン電圧に切り替える。明表示から暗表示に変化させる場合は、各素子について、電気的に逆の切り替えを行う。
【0058】
いずれの種類の素子についても、暗表示から明表示への切り替え時の応答を、立上り応答と呼ぶこととし、明表示から暗表示への切り替え時の応答を、立下り応答と呼ぶこととする。
【0059】
図5(A)に示すように、立上りの電気的スイッチングは、時刻100msに行われている。3種の素子すべてについて、スイッチング直後には透過率が変化しない応答遅れが存在する。
【0060】
NWTN素子が、最も早く透過率上昇が現れる。ノーマリーブラック型素子は、これに比べて、透過率が上昇するまでの時間が長い。応答遅れを評価するために、電気的スイッチングが行われた時刻から透過率が2%まで上昇する時間を応答遅れ時間とし、各素子の応答遅れ時間を測定した。応答遅れ時間は、NWTN素子が0.32msであり、2層TN素子が1.62msであり、VA素子が1.26msであった。
【0061】
図5(B)に示すように、立下りの電気的スイッチングは、200msに行われている。立上り応答では、応答遅れの後に透過率が上昇しているのに対し、立下り応答では、ほぼ応答遅れなく透過率が下降している。
【0062】
NWTN素子が、最も急峻な透過率の立下りを示し、ノーマリーブラック型素子に比べて応答速度が速い。ただし、いずれの液晶表示素子でも、立下り応答が完了するまでに数ms程度の長い時間がかかる。なお、NWTN素子の応答が相対的に速いのは、電気的な立上り応答であるためと推測される。また、2層TN素子と比べると、オン電圧が高めに設定されていることも影響していると推測される。
【0063】
NWTN素子は、立下り応答時間が比較的短いので、ノーマリーブラック型の素子に比べると、従来のFS駆動において、バックライト点灯時間を長く取ることができることになる。
【0064】
ノーマリーブラック型素子は、上述のように、例えば、表示品位を高めたカラーブレークレスFS駆動に好適である。しかし、NWTN素子に比べると、立下り応答時間が長く、従来のFS駆動において、バックライト点灯時間を長く取ることが難しくなる。
【0065】
ノーマリーブラック型液晶表示素子を用いた場合でも、バックライトの点灯時間を長く取れるFS駆動方法が望まれる。このような駆動方法があれば、表示部の輝度を向上させることや、または、バックライトに用いる発光素子の部品点数を減少させて低コスト化を図れること等の利点がある。
【0066】
次に、図6を参照して、このような駆動方法について検討する。図6は、2層TN液晶表示素子の立上り及び立下りの電気光学過渡応答特性を、1サブフレームのタイミングに対応付けて示したグラフである。縦軸が透過率を示し、横軸がサブフレームの開始時刻を時刻0とした経過時間を示す。
【0067】
サブフレームの開始時刻0に、立上り及び立下りの電気的スイッチングが行われている。上述したように、立下りの応答がスイッチング直後から始まっているのに対し、立上りの応答(透過率上昇)は応答遅れの後に開始している。立下り応答が完了するまでの時間が長いので、立下り応答するセグメントの、立上り応答遅れ時間中の透過率は、充分に低下していない。
【0068】
従って、立上りの応答遅れ時間中に、このサブフレーム(現サブフレーム)の直前のサブフレーム(前サブフレーム)に対応する点灯色のバックライトを延長して点灯させるのであれば、明表示から暗表示に切り替えられるセグメントの表示輝度を高めることができ、一方、暗表示から明表示に切り替えられるセグメントでは透過率がまだ充分上昇しておらず光漏れが抑制されるので、不要な混色も抑えることができる。
【0069】
図6に示すように、例えば、現サブフレームの開始時刻から、立上りの応答遅れ時間分の期間を、前サブフレームに対応するバックライトを点灯させる、前サブフレームバックライト点灯時間Dとして設定することができる。
【0070】
前サブフレームバックライト点灯時間Dに引き続き、立下り応答するセグメントの透過率が充分に低下するまでバックライトを消灯させるブランク時間Bが続く。ブランク時間Bの後に、現サブフレームで点灯すべきバックライトを点灯する、現サブフレームバックライト点灯時間Lが続く。
【0071】
ノーマリーブラック型の液晶表示素子の方が、立上りの応答遅れ時間が長い。また、ノーマリーブラック型の方が、立下り応答でゆっくり透過率が低下するので、立上り応答遅れ時間中の透過率が高い。このような観点から、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、特に、ノーマリーブラック型の液晶表示素子の表示輝度向上に有効となろう。
【0072】
次に、図7を参照して、第2の実施例によるFS駆動方法について説明する。第2の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、通常FS駆動方法に導入する。図7は、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。なお、液晶表示素子として、NWTN素子等のノーマリーホワイト型のものを用いる場合は、セグメントのオン・オフ制御が逆になる。
【0073】
1フレーム内に、3つのサブフレームSB1〜SB3が設定されている。サブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、各セグメントの明暗の表示状態が制御される。サブフレームSB1〜SB3それぞれの表示パタンに対応する点灯色として、R、G、Bが設定されている。
【0074】
各サブフレーム内の、現サブフレームバックライト点灯時間Lに、各サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯される。各サブフレームに対応する点灯色は、さらに、その直後のサブフレームの初期に設定された前サブフレームバックライト点灯時間Dだけ、延長して点灯される。現サブフレームバックライト点灯時間Lと前サブフレームバックライト点灯時間Dとを合わせた点灯状態が、ブランク時間Bを挟んで繰り返される。
【0075】
本明細書「背景技術」の欄で図14を参照して説明したように、従来の通常FS駆動方法では、あるサブフレームで点灯させていたバックライトが、そのサブフレームの終了時刻で消灯されていた。
【0076】
これに対し、第2の実施例の駆動方法では、あるサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、その直後のサブフレームまで延長して点灯させることにより、表示輝度の向上を図ることができる。
【0077】
例えば、1フレームの長さを16.7msとし、各サブフレームの長さを5.57msとする。液晶表示素子としてNWTN素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを0.32msとし、サブフレーム開始時刻から現サブフレームに対応する点灯色のバックライト点灯時刻までの待ち時間である応答待ち時間(点灯待ち時間D+B)を2.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは、サブフレーム時間から応答待ち時間を引いた3.07msとなる。
【0078】
RGB各々の点灯時間は、現サブフレームバックライト点灯時間Lと前サブフレームバックライト点灯時間Dとの和となるので、3.39msとなる。従来のFS駆動方法では、現サブフレームバックライト点灯時間Lである3.07msのみが1色の点灯時間となるので、実施例の駆動方法により、略10%の点灯時間延長が実現される。
【0079】
また、液晶表示素子として2層TN素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.62msとし、応答待ち時間を3.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは2.07msとなる。前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合の1色の点灯時間は3.69msに延びる。これは、従来方法の点灯時間2.07msに比べて、略78%の点灯時間延長となる。
【0080】
さらに、液晶表示素子としてVA素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.26msとし、応答待ち時間を3.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは2.07msとなる。前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合の1色の点灯時間は3.33msに延びる。これは、従来方法の点灯時間2.07に比べて、略61%の点灯時間延長となる。
【0081】
このように、ノーマリーブラック型の液晶表示素子(2層TN素子、VA素子)で、特に長く点灯時間を延長できる。
【0082】
3種の液晶表示素子について、上記駆動タイミングを適用した通常FS駆動液晶表示装置を作製し、表示状態を観察した結果、バックライト発光輝度が同じ条件下で、従来駆動方法の装置と比べ、すべての種類の液晶表示素子に対し、外観上の輝度向上が確認できた。色純度に関しては、従来駆動方法とほとんど違いが見られなかったが、表示輝度が向上したおかげで、より鮮やかな表示状態が得られることがわかった。
【0083】
次に、図8を参照して、第3の実施例によるFS駆動方法について説明する。第3の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、カラーブレークレスFS駆動方法に導入する。図8は、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。第2の実施例と同様に、液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。
【0084】
第3の実施例はカラーブレークレスFS駆動を行うので、各セグメントは、1フレーム当たり1つのサブフレームしか明表示とならない。また、サブフレーム内で、複数色の光源を同時点灯させる点灯態様が含まれることにより、例えばシアン等の混色系の発光色が、単独のサブフレーム内で得られる。
【0085】
前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、及び、現サブフレームバックライト点灯時間Lの設定方法は、第2の実施例と同様である。前サブフレームバックライト点灯時間が導入されることにより、カラーブレークレスFS駆動の第3の実施例でも、通常FS駆動の第2の実施例と同様に、従来方法に比べて表示輝度向上が図られる。
【0086】
以上説明したように、FS駆動方法に前サブフレームバックライト点灯時間を導入することにより、従来よりもバックライト点灯時間が延長されるので、例えばバックライトの輝度を向上させなくとも、表示輝度向上を図ることができる。
【0087】
特に、混色表示でも1サブフレームしかバックライトを点灯させないカラーブレークレスFS駆動方法の輝度向上技術として有用と考えられる。なお、バックライトの輝度を低下させつつ、従来と同様の表示輝度を維持するという使い方をすることもできる。
【0088】
あるサブフレームの開始時刻から、液晶表示素子の立上りの応答遅れ時間の間に、前サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯させることにより、不要な混色による色純度の低下を抑制しつつ、表示輝度の向上を図ることができる。
【0089】
なお、ノーマリーホワイト型の液晶表示素子に比べて、ノーマリーブラック型の液晶表示素子の方が、立上りの応答遅れ時間が長い傾向があり、さらに、立下り応答でゆっくり透過率が低下する傾向があるので、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、ノーマリーブラック型の液晶表示素子を用いる場合に特に有効と考えられる。
【0090】
なお、FS駆動方法で一般に、あるサブフレームで明表示の表示部は、その直後のサブフレームで明表示のままであるか、暗表示に変化することになる。通常FS駆動方法では、混色表示を行うとき、1フレーム内の連続する2つのサブフレームで、明表示から明表示に移る表示態様がある。一方、カラーブレークレスFS駆動方法では、1フレーム当たり1つのサブフレームでしか表示部が明表示にならないので、1フレーム内では明表示か
ら明表示に移る表示態様がない。
【0091】
前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合、明表示から暗表示に移る表示部に対して輝度向上効果が得られるのに加え、明表示から明表示に移る表示部に対しては、明表示のまま点灯時間が延びるので、特に高い輝度向上効果が得られる。
【0092】
次に、図9を参照して、第4の実施例によるFS駆動方法について説明する。第4の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、マルチプレックス駆動の通常FS駆動方法に導入する。なお、比較のため、図17を参照して、従来のマルチプレックス駆動のFS駆動方法についても説明する。
【0093】
図9及び図17は、それぞれ、第4の実施例、及び、従来方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。1フレームは16.7msとし、これを5.57msの3つの等間隔のサブフレームSB1〜SB3に分割している。1/4デューティ、1/3バイアスのマルチプレックス駆動を例に説明する。印加電圧±Vで走査線が選択されるコモン駆動波形とした。駆動周波数は略180Hzとした。
【0094】
まず、比較例として従来方法について説明する。マルチプレックス駆動のFS駆動方法では、走査線が複数あるので、走査線本数をNとすると、N−1本の走査が完了するまで、バックライト点灯に関する動作を待つ必要がある。この待ち時間を、走査待ち時間Wとする。走査待ち時間Wは、駆動周波数をfとすると、(1/f)×(N−1)/2Nで定義される。
【0095】
図17に示す例で、走査待ち時間Wは2.09msとなる。その後、最後の走査線に選択電圧が印加される時刻から、液晶表示素子の応答を待つブランク時間Bが設定される。ブランク時間Bは、例えば3.0msである。
【0096】
ブランク時間Bの後に、現サブフレームに対応する点灯色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lが続く。1色のバックライト点灯時間Lは、サブフレーム時間から走査待ち時間Wとブランク時間Bとを引くことで求められ、0.48msとなる。走査線本数が多くなると、走査待ち時間Wが長くなるため、液晶表示装置の表示輝度が益々暗くなってしまう。
【0097】
一方、図9に示すように、第4の実施例の駆動方法では、比較例の駆動方法において、各サブフレームに、前サブフレームバックライト点灯時間Dが導入される。この例では、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.2msとしている。これにより、1色のバックライトの点灯時間が、比較例の0.48msから1.2ms延びて、比較例の約3倍の1.68msとなり、大幅な輝度向上が図られる。走査待ち時間が、表示輝度向上のために有効に利用されている。
【0098】
このように、マルチプレックス駆動で走査待ち時間が長くなり、現サブフレームでのバックライト点灯時間の確保が難しくなるような場合にも、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は有効となる。
【0099】
液晶表示素子として、2層TN素子を用いた液晶表示装置を作製し、図9及び図17に示した駆動シーケンスによって駆動した表示状態を比較した結果、明らかに実施例の装置の方が、表示輝度が高いことを確認した。
【0100】
なお、1/4デューティのマルチプレックス駆動の例を説明したが、デューティ比としては、1/2デューティ〜1/8デューティ程度が適当であることがわかっている。また、マルチプレックス駆動周波数としては、150Hz〜1kHzが好ましく、300Hz〜1kHzがより好ましい。
【0101】
なお、上記実施例で、サブフレーム数を3としたが、サブフレーム数は3に制限されない。特に、カラーブレークレスFS駆動方法では、2以上であればよい。また、上記実施例で各サブフレーム時間を等しくしたが、サブフレームは等間隔に制限されない。例えば、発光色ごとに、所望の表示輝度のバランスとなるように、サブフレーム時間を変化させてもよい。さらに、前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、現サブフレームバックライト点灯時間Lは、サブフレームごとに異ならせることも可能である。
【0102】
次に、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法の、パラメータの満たす条件についてまとめる。フレーム時間をFとし、サブフレーム数をMとし、サブフレーム時間をSm(m=1〜M)とし、前サブフレームバックライト点灯時間をDm(m=1〜M)とし、ブランク時間をBm(m=1〜M)とし、現サブフレームバックライト点灯時間をLm(m=1〜M)とし、走査待ち時間をWとする。
【0103】
まず、第1の条件について説明する。フレーム時間Fは、
という関係を満たす。なお、各サブフレームが等時間であるときは、サブフレーム時間をSとして、
と表される
次に、第2の条件について説明する。走査待ち時間Wが、前サブフレームバックライト点灯時間Dm以下(W≦Dm)の場合は、
という関係を満たし、走査待ち時間Wが、前サブフレームバックライト点灯時間Dm以上(W≧Dm)の場合は、
という関係を満たす。なお、スタティック駆動の場合は走査線本数N=1なので、走査待ち時間W=0となる。
【0104】
なお、W≦Dm及びW≧Dmのいずれの場合でも、現サブフレームバックライト点灯時間Lmが0であっても、前サブフレームバックライト点灯時間Dmが0でなければ、バックライトの点灯時間を確保することができることになる。
【0105】
現サブフレームバックライト点灯時間Lmが非0であっても、0であっても、任意のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、当該サブフレーム内のある時点から、その直後のサブフレーム内のある時点までの間に点灯される。
【0106】
次に、第3の条件について説明する。液晶の立上りまたは立下りの応答時間が、最も短いサブフレーム時間Sm以下であることが好ましく、最も短いSm−W以下であることがより好ましい。特に、立下りの応答時間が、最も短いSm−W以下であることが好ましい。
【0107】
ここで、立上りの応答時間、及び、立下りの応答時間は、以下のように定義される。暗表示電圧印加時の定常状態における透過率を0%とし、明表示電圧印加時の定常状態における透過率を100%とした相対透過率を考える。暗表示から明表示への光学応答について、相対透過率が0%から90%まで上昇するのに要する時間が、立上り応答時間と定義される。また、明表示から暗表示への光学応答について、相対透過率が100%から10%まで下降するのに要する時間が、立下り応答時間と定義される。
【0108】
上記の条件に従って、液晶表示素子の応答速度にかかわらず良好な色純度を示すFS駆動液晶表示装置を作製することができる。
【0109】
次に、液晶表示素子の電気光学応答の温度依存性を考慮したFS駆動方法について説明する。まず、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、電気光学応答の温度依存性について説明する。
【0110】
図10(A)、図10(B)、及び図11に、それぞれ、立上り応答時間の温度依存性、立下り応答時間の温度依存性、及び、立上りの応答遅れ時間の温度依存性のグラフを示す。横軸は温度を示し、縦軸は時間を示す。図10(A)の曲線A7〜A9、図10(B)の曲線A10〜A12、及び、図11の曲線A13〜A15が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果である。
【0111】
上述のように、立上り応答時間は、相対透過率が0%から90%まで上昇するのに要する時間で定義され、立下り応答時間は、相対透過率が100%から10%まで下降するのに要する時間で定義されている。また、立上りの応答遅れ時間を、電気的スイッチングから(絶対)透過率が2%まで上昇するのに要する時間としている。
【0112】
3種の素子すべてについて、立上り応答時間、立下り応答時間、及び、立上りの応答遅れ時間が、温度低下に伴って長くなる。NWTN素子の温度変化よりも、ノーマリーブラック型素子の温度変化の方が大きい傾向が見られる。NWTN素子の応答時間が、ノーマリーブラック型素子のそれよりも短いことについて図5(A)及び図5(B)を参照して説明したが、低温になるほど、NWTN素子とノーマリーブラック型素子との差が拡大する傾向が見られる。
【0113】
立上り応答時間については、2層TN素子とVA素子とはほぼ同様な温度変化を示し、立下り応答時間については、2層TN素子よりもVA素子の温度変化の方が大きく、立上りの応答遅れ時間については、VA素子よりも2層TN素子の温度変化の方が大きい。
【0114】
このように、液晶表示素子の電気光学応答が低温になるほど遅くなる。従来のFS駆動液晶表示装置では、応答時間が長くなれば、バックライト点灯時間(実施例の現サブフレームバックライト点灯時間に対応)が短くなり、輝度が低下する。また、さらに、応答待ち時間が、サブフレーム終了時刻まで長くなれば、バックライトを点灯させることができなくなる(実施例で現サブフレームバックライト点灯時間が0となることに対応)。これに起因して、意図した表示状態を実現できなくなったり、そもそもカラー表示ができなくなったりする。
【0115】
上記第2の条件で説明したように、前サブフレームバックライト点灯時間を導入することにより、現サブフレームバックライト点灯時間が0となっても、前サブフレームバックライト点灯時間によって、バックライト点灯時間を確保することができる。すなわち、現サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、現サブフレームの直後のサブフレームに入ってから点灯させることにより、所望の表示状態を実現することができる。このように、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、低温時のような、液晶の応答時間が長い場合にも有効である。
【0116】
次に、図12(A)を参照して、サブフレーム時間等の駆動パラメータを温度に応じて適切に設定する第5の実施例によるFS駆動方法について説明する。第5の実施例では、液晶表示素子として、スタティック駆動の2層TN素子を用いる。走査線本数N=1となるので、走査待ち時間W=0である。第5の実施例では、FS駆動条件を定める駆動パラメータを、温度に応じて変化させる。図12(A)は、第5の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【0117】
表には、25℃、10℃、0℃、−10℃、及び−20℃における、立上り応答時間(黒から白表示応答時間)、立下り応答時間(白から黒表示応答時間)、立上りの応答遅れ時間(黒からT=2%到達時間)、フレーム時間F、サブフレーム時間S、前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、及び、現サブフレームバックライト点灯時間Lがms単位で記載されている。サブフレーム数Mを3とし、各サブフレームは等間隔としている。
【0118】
10℃以下において、サブフレーム時間Sを立下り応答時間と等しく設定し、現サブフレームバックライト点灯時間Lを0msに設定している。また、全ての温度で、前サブフレームバックライト点灯時間Dは、立上りの応答遅れ時間に等しく設定されている。
【0119】
前サブフレームバックライト点灯時間Dと、ブランク時間Bと、現サブフレームバックライト点灯時間Lとの和が、サブフレーム時間Sと等しい。10℃以下においては、前サブフレームバックライト点灯時間Dと、ブランク時間Bとの和が、サブフレーム時間S及び立下り応答時間と等しくなっている。10℃以下において、サブフレーム時間Sを立下り応答時間と等しく設定しているので、温度が下がるほど、サブフレーム時間S及びフレーム時間Fが長くなる。
【0120】
サブフレーム時間Sは、液晶表示素子の立下り応答時間以上の長さに設定されていることが好ましいが、サブフレーム時間Sが長すぎると、良好なカラー表示がし難くなる。従って、低温時、サブフレーム時間S(より好ましくは、サブフレーム時間S−走査待ち時間W)を、液晶表示素子の立下り応答時間と等しく設定することが有効であろう。
【0121】
この場合、立下り応答がサブフレーム終了までかかるので、現サブフレームバックライト点灯時間Lが0となる。そして、現サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、その直後のサブフレームで点灯されるように、前サブフレームバックライト点灯時間Dが導入される。
【0122】
このような駆動パラメータを適用した液晶表示装置を、恒温槽に入れて動作させ、表示状態を観察した。恒温槽の温度に応じて、駆動パラメータは手動で変化させた。低温になるに従って表示のちらつきが激しくなる現象が見られたものの、表示色は意図した通りになっていることが分かった。
【0123】
次に、図12(B)を参照して、第6の実施例によるFS駆動方法について説明する。第6の実施例では、液晶表示素子として、スタティック駆動のVA素子を用いる。第5の実施例と同様に、走査待ち時間W=0である。第6の実施例も、第5の実施例と同様に、駆動パラメータを、温度に応じて変化させる。図12(B)は、第6の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【0124】
パラメータ同士の関係は、第5の実施例と同様である。ただし、サブフレーム数Mを2とし、各サブフレームは等間隔としている。第6の実施例の液晶表示装置も、温度が下がるほど、サブフレーム時間S及びフレーム時間Fが長くなる。2層TN素子を用いた第5の実施例の液晶表示装置と同様に、恒温槽に入れて動作させ、表示状態を観察したところ、第5の実施例の液晶表示装置と同様に、低温になるに従って表示のちらつきが激しくなる現象が見られた。また、表示部の輝度が低下する現象も見られたが、表示色は意図した通りのものであった。
【0125】
なお、前サブフレームバックライト点灯時間は、必ずしもサブフレームの開始時刻から開始しなくてもよい。サブフレーム開始時刻から、液晶表示素子の立上りの応答遅れ時間の間に、前サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯させれば、不要な混色を抑えて、表示輝度向上を図ることができる。
【0126】
なお、第5、第6の実施例では、温度に応じた適切な駆動パラメータを手動で設定したが、以下のように、駆動パラメータを自動で設定できる液晶表示装置を構成することもできる。
【0127】
図13は、第7の実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。この液晶表示装置は、液晶表示素子1の近傍、表面、または液晶セル内に、液晶表示素子1の温度を測定する温度センサ4が配置されている。温度センサ4が測定した温度のデータが、駆動装置3に入力される。
【0128】
第7の実施例では、予め、液晶表示素子1の電気光学応答特性の温度依存性が測定されており、測定された温度依存性に基づいて、例えば上述の図12(A)、図12(B)の表に示したように、温度ごとの駆動パラメータが定められている。駆動装置3のメモリ5に、例えば1℃ごとに、駆動パラメータが記憶されている。
【0129】
駆動装置3は、温度センサ4から入力された温度データに基づき、メモリ5からその温度に対応する駆動パラメータを読み出して、マルチカラーバックライト2と液晶表示素子1とを同期駆動させる。このようにして、環境の温度が変化しても、温度に応じた適切な駆動パラメータを自動的に選択して動作する液晶表示装置が実現される。
【0130】
なお、周波数発信源をアナログ的に可変することにより、温度に応じた適切な駆動パラメータを設定するようにしてもよい。駆動装置の周波数発信源が1つで、これによってLC素子、バックライト動作タイミングが決まる回路構造の場合は、温度によりこの発信源の周波数のみ変化させれば、ある程度の動作はできる。これによってメモリを不要とすることが可能となる。
【0131】
以上説明したように、液晶表示素子の電気光学応答が、温度低下に伴い遅くなっても、それに応じてサブフレーム時間、前サブフレームバックライト点灯時間等の駆動パラメータを設定することにより、良好なFS駆動を行うことができる。
【0132】
例えば低温により、応答時間が長くなって、サブフレーム内で、当該サブフレームに対応する表示パタンの点灯色を点灯できなくなっても、その直後のサブフレームの初期に、当該点灯色を点灯させることにより、所望の表示状態を得ることができる。
【0133】
例えば、1サブフレームの長さの目安は5.57msであり、立下り応答時間が5.57ms以上である場合に、サブフレームに対応する点灯色を当該サブフレームでは点灯させず、その直後のサブフレームで点灯させるモードの駆動が好ましいといえよう。このモードでの駆動は、例えば−10℃〜―30℃で特に好ましいであろう。
【0134】
なお、サブフレームに対応する点灯色を当該サブフレームで点灯させ、さらにその直後のサブフレームまで延長して点灯させるモードの駆動は、例えば、立下り応答時間が5.57msより短い場合に好ましいといえよう。このモードでの駆動は、室温以上、例えば+15℃〜+95℃で特に好ましいであろう。
【0135】
なお、上記実施例では、立上りの応答遅れ時間を、絶対透過率が2%まで上昇する時間としていたが、立上りの応答遅れ時間は、相対透過率を用いて定義した方が一般的となり好ましい。絶対透過率2%は、相対透過率としては10%に相当するので、立上りの応答遅れ時間は、電気的スイッチングから相対透過率が10%まで上昇するのに要する時間で定義される。
【0136】
なお、実施例の液晶表示装置、FS駆動方法は、以下のような製品に適用することができる。例えば、セグメント表示部、または、セグメント表示部及びドットマトリクス表示部を含む車載用情報表示装置に適用することができる。また、例えば、カーオーディオの表示部、コピー機等の操作パネル表示部、情報表示装置全般(薄膜トランジスタ液晶表示装置を含む)に適用することもできる。
【0137】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0138】
1 液晶表示素子
2 マルチカラーバックライト
3 駆動装置
21、22 偏光板
11 (TNモード)液晶セル
61、62 偏光板
51 (TNモード)補償セル
52 (TNモード)駆動セル
81、82 偏光板
91、92 視角補償板
71 (VAモード)液晶セル
4 温度センサ
5 メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、フィールドシーケンシャル(FS)駆動を行う液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用情報表示装置や、カーオーディオの表示部等に、セグメント表示、またはセグメント表示に加えてドットマトリクス表示が可能な液晶表示装置が用いられる。セグメント表示部をカラー表示可能な液晶表示装置の1つとして、カラーフィルタの形成された液晶表示素子に、白色のバックライト光を照射する構成のものがある。
【0003】
カラーフィルタを用いた液晶表示装置の短所としては、液晶表示素子のガラス基板上にカラーフィルタを形成する工程が必要なことや、各セグメントの表示色がカラーフィルタの色に限定されること等が挙げられる。
【0004】
セグメント表示部をカラー表示可能な、他の液晶表示装置として、いわゆるフィールドシーケンシャル(FS)駆動を行うものがある。このような液晶表示装置では、液晶表示素子にカラーフィルタを形成しない代わりに、例えば赤緑青(RGB)発光可能なマルチカラー発光ダイオード(LED)光源などにより構成されたマルチカラーバックライトを用い、点灯色を順次時間的に切り替えることにより、カラー表示を行う。
【0005】
図14を参照して、従来のFS駆動方法の具体例について説明する。図14は、各セグメントの入力信号とバックライト点灯状態のタイミングチャートである。液晶表示素子として、オン状態で光を透過させ、オフ状態で光を透過させないノーマリーブラック型のものを想定している。
【0006】
1つの画像を表示する時間的単位である1フレーム内に、バックライトがR、G、Bそれぞれに点灯する3つのサブフレームSB1〜SB3が設定されている。例えば、1フレームの長さは、NTSC規格に従った16.7msであり、各サブフレームの長さは、5.57msである。
【0007】
液晶表示素子に印加される駆動波形は、例えば矩形波で、駆動周波数は、1つのサブフレーム内で1周期以上になるように設定し、入力信号に対して液晶表示素子が明暗表示できるように、オン時及びオフ時の振幅(駆動電圧)が調整される。
【0008】
一般に、液晶表示素子は、印加電圧に対する応答がバックライトのそれに比べて遅いため、液晶表示素子がある程度応答するまでバックライトを点灯させないブランク時間を要する。
【0009】
図15に、ノーマリーブラック型液晶表示素子の1セグメント部分における、明表示から暗表示への切り替え時の立下り電気光学応答の測定例を示す。縦軸の上側が透過率を示し、縦軸の下側がセグメント部上下電極間駆動波形の電位を示し、横軸が経過時間を示す。
【0010】
駆動電圧が、閾値以上の電圧Vから0に低下しても、すぐには透過率が充分低下しないことが分かる。透過率が充分に低下していない状態で、サブフレーム内で指定された色のバックライト光を点灯すれば、このセグメントで消光すべき色の光が漏れるため、色純度が低下することになる。
【0011】
従って、透過率が充分に低下するまでの期間は、バックライトを点灯させないブランク時間とする必要がある。例えば、液晶セルが明表示から暗表示に変化する立下り応答時間が3ms程度の場合、ブランク時間は2.5ms程度、好ましくは3ms程度必要である。
【0012】
図14に戻って説明を続ける。各サブフレームの切り替え直後から、ブランク時間Bが設けられている。ブランク時間Bの後、各サブフレームの終了時刻までが、サブフレームに対応する色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lとなっている。
【0013】
サブフレーム動作を人間の目に認識されない速度(例えば約16.7ms/フレーム、約5.57ms/サブフレーム、約3ms/ブランク時間)で駆動させれば、狙い通りの、ちらつきの抑えられたカラー表示を実現可能である。図14に示す例で、セグメント1はRとGの混色である黄色、セグメント2はRとBの混色であるマゼンタ、セグメントnはGのみの緑の表示として、人間の目に認識される。
【0014】
なお、上述のFS駆動方法(このFS駆動方法を、後述するカラーブレークレスFS駆動方法と区別する場合には、通常FS駆動方法と呼ぶこととする)では、特に観察者の周囲が暗い場合に、観察者の視線が表示素子から離れた時や、素子自体に振動が加わった場合など(例えば自動車内環境において)、通常状態では人間の目に認識されない、各サブフレームの画像が分離して観察されるカラーブレークと呼ばれる現象が現れる場合がある。この現象は、人間の心理的要因からあまり好ましい表示状態とはいえない。
【0015】
カラーブレーク現象は、特に、白表示部分にはっきり現れることから、通常FS駆動方法において、1つのセグメント表示部にて複数のサブフレームで点灯動作が行われている場合、即ち白色、黄色やマゼンタなどの混色表示状態で顕著に確認されると考えられる。
【0016】
カラーブレーク現象を低減する方法として、1フレーム内に白表示サブフレームを挿入する等の方法が提案されているが、このような方法でカラーブレーク現象を除去することはできない。
【0017】
本願発明者らは、特許文献1において、カラーブレーク現象を解消可能なFS駆動方法(以下、上述の通常FS駆動方法と区別する場合には、カラーブレークレスFS駆動方法と呼ぶこととする)を提案した。
【0018】
この駆動方法の基本的な考え方は、1サブフレーム内において、バックライトの点灯色として原色(R、G、B)のみではなく、混色(白やオレンジ等)も用い、各セグメントにおいては1サブフレームでのみバックライト光を透過させることにより、カラーブレーク現象を生じさせない、というものである。
【0019】
図16を参照して、カラーブレークレスFS駆動方法の具体例について説明する。図16は、各セグメントの入力信号とバックライト点灯状態のタイミングチャートである。液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。
【0020】
この例のバックライト発光色は、第1のサブフレームで白色とし、第2のサブフレームでオレンジとし、第3のサブフレームで青としている。この駆動方法では、1フレーム内で可能な表示色は、サブフレーム数をMとすると、発光色数Mに黒を足して、M+1色となる。
【0021】
なお、フレームごとにバックライト点灯色を可変にできるので、液晶表示素子の動作が明と暗の2値動作である場合は、上記通常FS駆動方法に比べて、表示色が大幅に増加可能であることは明白であろう。
【0022】
この例では、16.7msの1フレームを、等間隔の3つのサブフレームに分割している。なお、各サブフレームの間隔は、バックライトの発光色に応じて変化させても良い。即ち、サブフレームは不等間隔でも動作可能である。
【0023】
この例では、セグメント1で白表示を行い、セグメント2で黒表示を行い、セグメントnでオレンジ表示を行っている。バックライトの点灯タイミングについて、通常FS駆動方法と同様に、サブフレーム切り替え直後は、液晶表示素子の電気光学応答を待つため約3msのブランク時間Bを設けている。ブランク時間Bの後、サブフレームの終了まで、サブフレームに対応する色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lが設けられる。
【0024】
このような動作を行うことにより、外観上狙い通りの、ちらつきの無いカラー表示を、カラーブレークなしに実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特許第3894323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
通常FS駆動方法及びカラーブレークレスFS駆動方法ともに、サブフレーム間の不要な混色を抑制するためにブランク時間を設けている。例えば上述の例のように、16.7msのフレームを、5.57msの3つの等間隔のサブフレームに分け、ブランク時間が3ms程度の場合、1サブフレーム内でバックライトが点灯している時間は略2.57msとなり、点灯時間はサブフレーム時間の半分にも満たない。
【0027】
例えば、バックライトの常時点灯が可能な、カラーフィルタを用いた液晶表示装置と比べると、FS駆動を行う液晶表示装置では、このように、表示輝度を高めることが難しい。FS駆動方法で、表示輝度を高める技術が望まれる。
【0028】
なお、上述の例の条件で、例えば通常FS駆動方法で白表示を行った場合は、1フレーム内のバックライト点灯時間を、RGBを点灯させる3つのサブフレーム合計で略7.71msまでは長くできる。しかし、カラーブレークレスFS駆動方法では、混色表示でも1サブフレームのみしかバックライトを点灯させない。特に、カラーブレークレスFS駆動方法において、表示輝度を高める技術が望まれる。
【0029】
本発明の一目的は、表示輝度の向上が図られたFS駆動を行う液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の一観点によれば、明表示と暗表示とが切り換わる複数の表示部を含む液晶表示素子と、複数色の光源を有し、該光源から出射した光を、前記液晶表示素子に入射させるバックライトと、前記液晶表示素子と前記バックライトとを同期させフィールドシーケンシャル駆動を行う駆動装置とを有し、前記駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、前記液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレームの直後のサブフレームである第2のサブフレームの開始時刻から、前記液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、前記応答遅れ時間の終了後、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を間に挟んで、前記第2のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、前記バックライトの点灯状態を制御する液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0031】
例えば、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1のサブフレーム内で点灯され、さらに、第1のサブフレームの直後の第2のサブフレーム内まで延長して点灯される。これにより、表示輝度の向上が図られる。
【0032】
また例えば、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、第1のサブフレーム内で点灯されなくても、第1のサブフレームの直後の第2のサブフレーム内で点灯される。例えば、低温により液晶の応答速度が遅いとき、サブフレームの終了時刻まで液晶が充分に応答せず(明表示から暗表示への立下りが充分でなく)、第1のサブフレーム内で、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯できない状況が生じうる。そのような場合に、第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、直後の第2のサブフレーム内で点灯することにより、バックライト点灯時間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の第1の実施例による液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2(A)は、NWTNモード液晶表示素子の概略斜視図であり、図2(B)は、ガラス基板上の構造の一例を示す概略断面図であり、図2(C)は、ガラス基板上の構造の他の例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、2層TNモード液晶表示素子の概略斜視図である。
【図4】図4は、VAモード液晶表示素子の概略斜視図である。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、それぞれ、暗表示から明表示へのスイッチング時、及び、明表示から暗表示へのスイッチング時における電気光学応答の過渡応答波形を示すグラフである。
【図6】図6は、2層TN液晶表示素子の立上り及び立下りの電気光学過渡応答特性を、1サブフレームのタイミングに対応付けて示したグラフである。
【図7】図7は、第2の実施例による駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図8】図8は、第3の実施例による駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図9】図9は、第4の実施例の駆動方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、立上り応答時間の温度依存性、及び、立下り応答時間の温度依存性を示すグラフである。
【図11】図11は、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、立上りの応答遅れ時間の温度依存性を示すグラフである。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、それぞれ、第5及び第6の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【図13】図13は、第7の実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。
【図14】図14は、従来の通常FS駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図15】図15は、ノーマリーブラック型液晶表示素子の1セグメント部分における、明表示から暗表示への切り替え時の立下り電気光学応答を示すグラフである。
【図16】図16は、従来のカラーブレークレスFS駆動方法の、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【図17】図17は、従来のマルチプレックス駆動の通常FS駆動方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施例による液晶表示装置について説明する。図1は、実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。実施例の液晶表示装置は、液晶表示素子1と、マルチカラーバックライト2と、駆動装置3とを含んで構成される。マルチカラーバックライト2は、液晶表示素子1の背面に備えられ、例えば赤緑青(RGB)発光可能なマルチカラー発光ダイオード(LED)を含んで構成される。駆動装置3は、液晶表示素子1とマルチカラーバックライト2とを所望のタイミングで同期駆動させて、フィールドシーケンシャル(FS)駆動によるカラー表示を行う。
【0035】
液晶表示素子1として、本願発明者らは、以下の3つの動作モードで動作するものを作製し、それらの電気的特性を評価した。
【0036】
まず、図2(A)〜図2(C)を参照して、ノーマリーホワイト(NW)ツイステッドネマチック(TN)モード液晶表示素子について説明する。図2(A)は、NWTNモード液晶表示素子の概略斜視図である。液晶セル11が、上下のガラス基板12、13と、それらの間に形成された液晶層14とを含んで構成される。
【0037】
図2(B)に示すように、液晶セルのガラス基板12、13それぞれの、液晶層側内面に、表示パタンに対応するパタンを形成した透明電極31が配置され、さらにその内面に、水平配向膜32が形成されている。上下の水平配向膜32に、上下基板間で左ねじれ90°で液晶分子が配向するようラビング処理が施されている。
【0038】
上下水平配向膜32の間に、左ねじれのカイラル材が添加されたΔε>0の液晶材料が満たされて、液晶層14が形成されている。液晶層14の厚さ、即ちセル厚は、略2μmに設定されており、液晶セル厚dと液晶材料のねじれピッチpとの比d/pは、略0.35に設定されている。なお、液晶材料の複屈折率Δnとセル厚dとの積であるリタデーションΔndは、略446nmに設定されている。液晶層中央分子配向方位が、液晶表示素子を法線方向から観察したとき、素子面内において6時方位となるように、ラビング方向が調整されている。
【0039】
液晶セル11は、相互にクロスニコル配置された上側偏光板21と下側偏光板22との間に配置されている。偏光板21、22は、それぞれ、液晶セル11の近接する基板のラビング方向に直交するように、吸収軸が配置されている。偏光板21、22として、例えばポラテクノ製SKN18243Tが用いられる。
【0040】
なお、液晶表示素子の視角特性等を改善するため、表示パタン部以外の領域の、片側または両側のガラス基板上に、表示パタン電極から非導電物により電気的に絶縁したブラックマスク膜を配置する場合もある。ブラックマスク膜は、例えばクロムやモリブデン等の金属薄膜からなる。なお、ブラックマスク膜として、顔料、カーボンを分散したアクリル等の樹脂膜を用いてもよい。
【0041】
図2(C)に示すように、絶縁膜41、ブラックマスク膜42は、例えば、液晶セルのガラス基板12(13)と透明電極31との間に形成される。必要に応じて、透明電極31と配向膜32との間に形成してもよい。特に、カラーブレークレスFS駆動の液晶表示装置には、このような遮光構造を採用することが好ましい。
【0042】
次に、図3を参照して、2層TNモード液晶表示素子について説明する。図3は、2層TNモード液晶表示素子の概略斜視図である。上側偏光板61と下側偏光板62とが、相互にクロスニコル配置されている。偏光板61、62として、ポラテクノ製SKN18243Tを用いることができる。偏光板61、62の間に、上側から、2層の液晶セル51、52が配置されている。
【0043】
下側の液晶セル52は、図2(A)を参照して説明したNWTNモード液晶セルと同等なものであり、「駆動セル」として動作させる。駆動セル52は、このセル側に外部から駆動電圧を印加して、表示素子の明暗をスイッチングするために用いる。
【0044】
上側の液晶セル51は、「補償セル」として用いる。補償セル51では、上下のガラス基板間で液晶分子が右ねじれ90°に配向するように、ラビング方向が設定されている。補償セル51の液晶層には、右ねじれを誘起するカイラル材が添加され、液晶層中央分子の配向方位は3時方位としている。また、補償セル51のガラス基板表面には、表示パタン電極が形成されていない。その他の条件は、駆動セル52と同様である。
【0045】
補償セル51により、駆動セル52で発生したリタデーションがキャンセルされ、正面観察時におけるリタデーションが略0となり、ほぼ偏光板クロスニコルの暗表示が得られる。このように2層の液晶セルを用いることにより、ノーマリーブラック(NB)動作が得られる。
【0046】
なお、補償セルの代わりに、補償セルと同様な光学特性を有する光学フィルム、例えばポラテクノ製Twistarフィルムを用いることができることは明らかであり、実際の液晶表示素子に適用して、同様な動作が可能であることを確認済みである。
【0047】
次に、図4を参照して、垂直配向(VA)モード液晶表示素子について説明する。図4は、VAモード液晶表示素子の概略斜視図である。VAモード液晶表示素子の液晶セル71では、上下ガラス基板72、73それぞれの液晶層側内面に、表示パタンを形成した透明電極が配置され、さらにその内面に、垂直配向膜が形成されている。上下の垂直配向膜に、上下基板間でアンチパラレル配向となるようにラビング処理が施されている。
【0048】
上下垂直配向膜間に、Δε<0の液晶材料が満たされて、液晶層74が形成されている。液晶層74の厚さは略2μmに設定され、リタデーションΔndは略300nmに設定され、液晶層中央分子の配向方位は12時方位に設定されている。
【0049】
液晶セル71は、相互にクロスニコル配置された上側偏光板81と下側偏光板82との間に配置されている。上側の偏光板81の吸収軸は、12時方位から反時計回りに45°回転させた位置に設定されている。
【0050】
液晶セル71と、上下の偏光板81、82との間に、それぞれ、視角補償板91、92が配置されている。視角補償板91、92として、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムを用いることができる。試作した液晶表示素子では、住友化学製ヨウ素系偏光板に、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムを貼り合わせた視角補償板貼合偏光板を用いた。
【0051】
視角補償板91、92の面内遅相軸は、それぞれ、近接する偏光板81、82の透過軸にほぼ平行に配置した。視角補償板91、92各々について、面内位相差は、略45nmとし、厚さ方向の(厚さ断面内の)位相差は略120nmとしている。
【0052】
なお、負の二軸光学異方性を有する視角補償板は、液晶セルの上面側または下面側の一方のみに配置されていてもよい。さらに他方に、負の一軸光学異方性を有する視角補償板を配置してもよい。光学フィルムのパラメータとしては、厚さ方向の位相差(光学フィルム2枚以上使用の場合はその合計)を、液晶セルのΔndに対して略0.5倍〜略1倍に設定することが好ましい。また、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムの面内位相差は、略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0053】
2層TN素子、VA素子は、ノーマリーブラック型素子となる。ノーマリーブラック型素子を用いると、ブラックマスクを用いない構造で、コントラストの高いカラーブレークレスFS駆動液晶表示装置を作製することが容易である。さらに、視角特性を考慮すると、VA素子が最適である。FS駆動液晶表示装置として動作させた場合、VA素子を用いた場合に、圧倒的に良好な表示品位が得られることを確認している。
【0054】
次に、上述のように作製したNWTNモード、2層TNモード、及びVAモードの3種の液晶表示素子の、室温時の電気光学応答特性の測定結果について説明する。測定には、大塚電子製LCD5200を用いた。
【0055】
駆動条件について説明する。駆動波形は矩形波とし、駆動周波数は500Hzとした。駆動電圧は、オフ電圧を0Vとし、オン電圧は、NWTN素子では6Vとし、2層TN素子では5Vとし、VA素子では6.5Vとした。NWTN素子では、オン電圧時の暗透過率が1%程度になる条件、2層TN素子及びVA素子では、オン電圧時の透過率が25%程度になる条件を狙って、各素子のオン電圧を設定した。
【0056】
図5(A)及び図5(B)に、それぞれ、暗表示から明表示へのスイッチング時、及び、明表示から暗表示へのスイッチング時における電気光学応答の過渡応答波形測定結果を示す。横軸が経過時間を示し、縦軸が透過率を示す図5(A)の曲線A1〜A3が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果であり、図5(B)の曲線A4〜A6が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果である。
【0057】
暗表示から明表示に変化させる場合、NWTN素子は、オン電圧からオフ電圧に切り替え、2層TN素子及びVA素子、すなわちノーマリーブラック型素子は、オフ電圧からオン電圧に切り替える。明表示から暗表示に変化させる場合は、各素子について、電気的に逆の切り替えを行う。
【0058】
いずれの種類の素子についても、暗表示から明表示への切り替え時の応答を、立上り応答と呼ぶこととし、明表示から暗表示への切り替え時の応答を、立下り応答と呼ぶこととする。
【0059】
図5(A)に示すように、立上りの電気的スイッチングは、時刻100msに行われている。3種の素子すべてについて、スイッチング直後には透過率が変化しない応答遅れが存在する。
【0060】
NWTN素子が、最も早く透過率上昇が現れる。ノーマリーブラック型素子は、これに比べて、透過率が上昇するまでの時間が長い。応答遅れを評価するために、電気的スイッチングが行われた時刻から透過率が2%まで上昇する時間を応答遅れ時間とし、各素子の応答遅れ時間を測定した。応答遅れ時間は、NWTN素子が0.32msであり、2層TN素子が1.62msであり、VA素子が1.26msであった。
【0061】
図5(B)に示すように、立下りの電気的スイッチングは、200msに行われている。立上り応答では、応答遅れの後に透過率が上昇しているのに対し、立下り応答では、ほぼ応答遅れなく透過率が下降している。
【0062】
NWTN素子が、最も急峻な透過率の立下りを示し、ノーマリーブラック型素子に比べて応答速度が速い。ただし、いずれの液晶表示素子でも、立下り応答が完了するまでに数ms程度の長い時間がかかる。なお、NWTN素子の応答が相対的に速いのは、電気的な立上り応答であるためと推測される。また、2層TN素子と比べると、オン電圧が高めに設定されていることも影響していると推測される。
【0063】
NWTN素子は、立下り応答時間が比較的短いので、ノーマリーブラック型の素子に比べると、従来のFS駆動において、バックライト点灯時間を長く取ることができることになる。
【0064】
ノーマリーブラック型素子は、上述のように、例えば、表示品位を高めたカラーブレークレスFS駆動に好適である。しかし、NWTN素子に比べると、立下り応答時間が長く、従来のFS駆動において、バックライト点灯時間を長く取ることが難しくなる。
【0065】
ノーマリーブラック型液晶表示素子を用いた場合でも、バックライトの点灯時間を長く取れるFS駆動方法が望まれる。このような駆動方法があれば、表示部の輝度を向上させることや、または、バックライトに用いる発光素子の部品点数を減少させて低コスト化を図れること等の利点がある。
【0066】
次に、図6を参照して、このような駆動方法について検討する。図6は、2層TN液晶表示素子の立上り及び立下りの電気光学過渡応答特性を、1サブフレームのタイミングに対応付けて示したグラフである。縦軸が透過率を示し、横軸がサブフレームの開始時刻を時刻0とした経過時間を示す。
【0067】
サブフレームの開始時刻0に、立上り及び立下りの電気的スイッチングが行われている。上述したように、立下りの応答がスイッチング直後から始まっているのに対し、立上りの応答(透過率上昇)は応答遅れの後に開始している。立下り応答が完了するまでの時間が長いので、立下り応答するセグメントの、立上り応答遅れ時間中の透過率は、充分に低下していない。
【0068】
従って、立上りの応答遅れ時間中に、このサブフレーム(現サブフレーム)の直前のサブフレーム(前サブフレーム)に対応する点灯色のバックライトを延長して点灯させるのであれば、明表示から暗表示に切り替えられるセグメントの表示輝度を高めることができ、一方、暗表示から明表示に切り替えられるセグメントでは透過率がまだ充分上昇しておらず光漏れが抑制されるので、不要な混色も抑えることができる。
【0069】
図6に示すように、例えば、現サブフレームの開始時刻から、立上りの応答遅れ時間分の期間を、前サブフレームに対応するバックライトを点灯させる、前サブフレームバックライト点灯時間Dとして設定することができる。
【0070】
前サブフレームバックライト点灯時間Dに引き続き、立下り応答するセグメントの透過率が充分に低下するまでバックライトを消灯させるブランク時間Bが続く。ブランク時間Bの後に、現サブフレームで点灯すべきバックライトを点灯する、現サブフレームバックライト点灯時間Lが続く。
【0071】
ノーマリーブラック型の液晶表示素子の方が、立上りの応答遅れ時間が長い。また、ノーマリーブラック型の方が、立下り応答でゆっくり透過率が低下するので、立上り応答遅れ時間中の透過率が高い。このような観点から、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、特に、ノーマリーブラック型の液晶表示素子の表示輝度向上に有効となろう。
【0072】
次に、図7を参照して、第2の実施例によるFS駆動方法について説明する。第2の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、通常FS駆動方法に導入する。図7は、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。なお、液晶表示素子として、NWTN素子等のノーマリーホワイト型のものを用いる場合は、セグメントのオン・オフ制御が逆になる。
【0073】
1フレーム内に、3つのサブフレームSB1〜SB3が設定されている。サブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、各セグメントの明暗の表示状態が制御される。サブフレームSB1〜SB3それぞれの表示パタンに対応する点灯色として、R、G、Bが設定されている。
【0074】
各サブフレーム内の、現サブフレームバックライト点灯時間Lに、各サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯される。各サブフレームに対応する点灯色は、さらに、その直後のサブフレームの初期に設定された前サブフレームバックライト点灯時間Dだけ、延長して点灯される。現サブフレームバックライト点灯時間Lと前サブフレームバックライト点灯時間Dとを合わせた点灯状態が、ブランク時間Bを挟んで繰り返される。
【0075】
本明細書「背景技術」の欄で図14を参照して説明したように、従来の通常FS駆動方法では、あるサブフレームで点灯させていたバックライトが、そのサブフレームの終了時刻で消灯されていた。
【0076】
これに対し、第2の実施例の駆動方法では、あるサブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、その直後のサブフレームまで延長して点灯させることにより、表示輝度の向上を図ることができる。
【0077】
例えば、1フレームの長さを16.7msとし、各サブフレームの長さを5.57msとする。液晶表示素子としてNWTN素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを0.32msとし、サブフレーム開始時刻から現サブフレームに対応する点灯色のバックライト点灯時刻までの待ち時間である応答待ち時間(点灯待ち時間D+B)を2.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは、サブフレーム時間から応答待ち時間を引いた3.07msとなる。
【0078】
RGB各々の点灯時間は、現サブフレームバックライト点灯時間Lと前サブフレームバックライト点灯時間Dとの和となるので、3.39msとなる。従来のFS駆動方法では、現サブフレームバックライト点灯時間Lである3.07msのみが1色の点灯時間となるので、実施例の駆動方法により、略10%の点灯時間延長が実現される。
【0079】
また、液晶表示素子として2層TN素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.62msとし、応答待ち時間を3.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは2.07msとなる。前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合の1色の点灯時間は3.69msに延びる。これは、従来方法の点灯時間2.07msに比べて、略78%の点灯時間延長となる。
【0080】
さらに、液晶表示素子としてVA素子を用いる場合、例えば、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.26msとし、応答待ち時間を3.5msとする。現サブフレームバックライト点灯時間Lは2.07msとなる。前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合の1色の点灯時間は3.33msに延びる。これは、従来方法の点灯時間2.07に比べて、略61%の点灯時間延長となる。
【0081】
このように、ノーマリーブラック型の液晶表示素子(2層TN素子、VA素子)で、特に長く点灯時間を延長できる。
【0082】
3種の液晶表示素子について、上記駆動タイミングを適用した通常FS駆動液晶表示装置を作製し、表示状態を観察した結果、バックライト発光輝度が同じ条件下で、従来駆動方法の装置と比べ、すべての種類の液晶表示素子に対し、外観上の輝度向上が確認できた。色純度に関しては、従来駆動方法とほとんど違いが見られなかったが、表示輝度が向上したおかげで、より鮮やかな表示状態が得られることがわかった。
【0083】
次に、図8を参照して、第3の実施例によるFS駆動方法について説明する。第3の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、カラーブレークレスFS駆動方法に導入する。図8は、各セグメント表示部の入力信号と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。第2の実施例と同様に、液晶表示素子として、ノーマリーブラック型のものを想定している。
【0084】
第3の実施例はカラーブレークレスFS駆動を行うので、各セグメントは、1フレーム当たり1つのサブフレームしか明表示とならない。また、サブフレーム内で、複数色の光源を同時点灯させる点灯態様が含まれることにより、例えばシアン等の混色系の発光色が、単独のサブフレーム内で得られる。
【0085】
前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、及び、現サブフレームバックライト点灯時間Lの設定方法は、第2の実施例と同様である。前サブフレームバックライト点灯時間が導入されることにより、カラーブレークレスFS駆動の第3の実施例でも、通常FS駆動の第2の実施例と同様に、従来方法に比べて表示輝度向上が図られる。
【0086】
以上説明したように、FS駆動方法に前サブフレームバックライト点灯時間を導入することにより、従来よりもバックライト点灯時間が延長されるので、例えばバックライトの輝度を向上させなくとも、表示輝度向上を図ることができる。
【0087】
特に、混色表示でも1サブフレームしかバックライトを点灯させないカラーブレークレスFS駆動方法の輝度向上技術として有用と考えられる。なお、バックライトの輝度を低下させつつ、従来と同様の表示輝度を維持するという使い方をすることもできる。
【0088】
あるサブフレームの開始時刻から、液晶表示素子の立上りの応答遅れ時間の間に、前サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯させることにより、不要な混色による色純度の低下を抑制しつつ、表示輝度の向上を図ることができる。
【0089】
なお、ノーマリーホワイト型の液晶表示素子に比べて、ノーマリーブラック型の液晶表示素子の方が、立上りの応答遅れ時間が長い傾向があり、さらに、立下り応答でゆっくり透過率が低下する傾向があるので、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、ノーマリーブラック型の液晶表示素子を用いる場合に特に有効と考えられる。
【0090】
なお、FS駆動方法で一般に、あるサブフレームで明表示の表示部は、その直後のサブフレームで明表示のままであるか、暗表示に変化することになる。通常FS駆動方法では、混色表示を行うとき、1フレーム内の連続する2つのサブフレームで、明表示から明表示に移る表示態様がある。一方、カラーブレークレスFS駆動方法では、1フレーム当たり1つのサブフレームでしか表示部が明表示にならないので、1フレーム内では明表示か
ら明表示に移る表示態様がない。
【0091】
前サブフレームバックライト点灯時間を導入した場合、明表示から暗表示に移る表示部に対して輝度向上効果が得られるのに加え、明表示から明表示に移る表示部に対しては、明表示のまま点灯時間が延びるので、特に高い輝度向上効果が得られる。
【0092】
次に、図9を参照して、第4の実施例によるFS駆動方法について説明する。第4の実施例では、前サブフレームバックライト点灯時間を、マルチプレックス駆動の通常FS駆動方法に導入する。なお、比較のため、図17を参照して、従来のマルチプレックス駆動のFS駆動方法についても説明する。
【0093】
図9及び図17は、それぞれ、第4の実施例、及び、従来方法の、各コモン(走査線)電極へ印加する駆動波形と、バックライトの点灯タイミングを示すタイミングチャートである。1フレームは16.7msとし、これを5.57msの3つの等間隔のサブフレームSB1〜SB3に分割している。1/4デューティ、1/3バイアスのマルチプレックス駆動を例に説明する。印加電圧±Vで走査線が選択されるコモン駆動波形とした。駆動周波数は略180Hzとした。
【0094】
まず、比較例として従来方法について説明する。マルチプレックス駆動のFS駆動方法では、走査線が複数あるので、走査線本数をNとすると、N−1本の走査が完了するまで、バックライト点灯に関する動作を待つ必要がある。この待ち時間を、走査待ち時間Wとする。走査待ち時間Wは、駆動周波数をfとすると、(1/f)×(N−1)/2Nで定義される。
【0095】
図17に示す例で、走査待ち時間Wは2.09msとなる。その後、最後の走査線に選択電圧が印加される時刻から、液晶表示素子の応答を待つブランク時間Bが設定される。ブランク時間Bは、例えば3.0msである。
【0096】
ブランク時間Bの後に、現サブフレームに対応する点灯色のバックライトを点灯させるバックライト点灯時間Lが続く。1色のバックライト点灯時間Lは、サブフレーム時間から走査待ち時間Wとブランク時間Bとを引くことで求められ、0.48msとなる。走査線本数が多くなると、走査待ち時間Wが長くなるため、液晶表示装置の表示輝度が益々暗くなってしまう。
【0097】
一方、図9に示すように、第4の実施例の駆動方法では、比較例の駆動方法において、各サブフレームに、前サブフレームバックライト点灯時間Dが導入される。この例では、前サブフレームバックライト点灯時間Dを1.2msとしている。これにより、1色のバックライトの点灯時間が、比較例の0.48msから1.2ms延びて、比較例の約3倍の1.68msとなり、大幅な輝度向上が図られる。走査待ち時間が、表示輝度向上のために有効に利用されている。
【0098】
このように、マルチプレックス駆動で走査待ち時間が長くなり、現サブフレームでのバックライト点灯時間の確保が難しくなるような場合にも、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は有効となる。
【0099】
液晶表示素子として、2層TN素子を用いた液晶表示装置を作製し、図9及び図17に示した駆動シーケンスによって駆動した表示状態を比較した結果、明らかに実施例の装置の方が、表示輝度が高いことを確認した。
【0100】
なお、1/4デューティのマルチプレックス駆動の例を説明したが、デューティ比としては、1/2デューティ〜1/8デューティ程度が適当であることがわかっている。また、マルチプレックス駆動周波数としては、150Hz〜1kHzが好ましく、300Hz〜1kHzがより好ましい。
【0101】
なお、上記実施例で、サブフレーム数を3としたが、サブフレーム数は3に制限されない。特に、カラーブレークレスFS駆動方法では、2以上であればよい。また、上記実施例で各サブフレーム時間を等しくしたが、サブフレームは等間隔に制限されない。例えば、発光色ごとに、所望の表示輝度のバランスとなるように、サブフレーム時間を変化させてもよい。さらに、前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、現サブフレームバックライト点灯時間Lは、サブフレームごとに異ならせることも可能である。
【0102】
次に、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法の、パラメータの満たす条件についてまとめる。フレーム時間をFとし、サブフレーム数をMとし、サブフレーム時間をSm(m=1〜M)とし、前サブフレームバックライト点灯時間をDm(m=1〜M)とし、ブランク時間をBm(m=1〜M)とし、現サブフレームバックライト点灯時間をLm(m=1〜M)とし、走査待ち時間をWとする。
【0103】
まず、第1の条件について説明する。フレーム時間Fは、
という関係を満たす。なお、各サブフレームが等時間であるときは、サブフレーム時間をSとして、
と表される
次に、第2の条件について説明する。走査待ち時間Wが、前サブフレームバックライト点灯時間Dm以下(W≦Dm)の場合は、
という関係を満たし、走査待ち時間Wが、前サブフレームバックライト点灯時間Dm以上(W≧Dm)の場合は、
という関係を満たす。なお、スタティック駆動の場合は走査線本数N=1なので、走査待ち時間W=0となる。
【0104】
なお、W≦Dm及びW≧Dmのいずれの場合でも、現サブフレームバックライト点灯時間Lmが0であっても、前サブフレームバックライト点灯時間Dmが0でなければ、バックライトの点灯時間を確保することができることになる。
【0105】
現サブフレームバックライト点灯時間Lmが非0であっても、0であっても、任意のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、当該サブフレーム内のある時点から、その直後のサブフレーム内のある時点までの間に点灯される。
【0106】
次に、第3の条件について説明する。液晶の立上りまたは立下りの応答時間が、最も短いサブフレーム時間Sm以下であることが好ましく、最も短いSm−W以下であることがより好ましい。特に、立下りの応答時間が、最も短いSm−W以下であることが好ましい。
【0107】
ここで、立上りの応答時間、及び、立下りの応答時間は、以下のように定義される。暗表示電圧印加時の定常状態における透過率を0%とし、明表示電圧印加時の定常状態における透過率を100%とした相対透過率を考える。暗表示から明表示への光学応答について、相対透過率が0%から90%まで上昇するのに要する時間が、立上り応答時間と定義される。また、明表示から暗表示への光学応答について、相対透過率が100%から10%まで下降するのに要する時間が、立下り応答時間と定義される。
【0108】
上記の条件に従って、液晶表示素子の応答速度にかかわらず良好な色純度を示すFS駆動液晶表示装置を作製することができる。
【0109】
次に、液晶表示素子の電気光学応答の温度依存性を考慮したFS駆動方法について説明する。まず、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の、電気光学応答の温度依存性について説明する。
【0110】
図10(A)、図10(B)、及び図11に、それぞれ、立上り応答時間の温度依存性、立下り応答時間の温度依存性、及び、立上りの応答遅れ時間の温度依存性のグラフを示す。横軸は温度を示し、縦軸は時間を示す。図10(A)の曲線A7〜A9、図10(B)の曲線A10〜A12、及び、図11の曲線A13〜A15が、それぞれ、NWTN素子、2層TN素子、及びVA素子の結果である。
【0111】
上述のように、立上り応答時間は、相対透過率が0%から90%まで上昇するのに要する時間で定義され、立下り応答時間は、相対透過率が100%から10%まで下降するのに要する時間で定義されている。また、立上りの応答遅れ時間を、電気的スイッチングから(絶対)透過率が2%まで上昇するのに要する時間としている。
【0112】
3種の素子すべてについて、立上り応答時間、立下り応答時間、及び、立上りの応答遅れ時間が、温度低下に伴って長くなる。NWTN素子の温度変化よりも、ノーマリーブラック型素子の温度変化の方が大きい傾向が見られる。NWTN素子の応答時間が、ノーマリーブラック型素子のそれよりも短いことについて図5(A)及び図5(B)を参照して説明したが、低温になるほど、NWTN素子とノーマリーブラック型素子との差が拡大する傾向が見られる。
【0113】
立上り応答時間については、2層TN素子とVA素子とはほぼ同様な温度変化を示し、立下り応答時間については、2層TN素子よりもVA素子の温度変化の方が大きく、立上りの応答遅れ時間については、VA素子よりも2層TN素子の温度変化の方が大きい。
【0114】
このように、液晶表示素子の電気光学応答が低温になるほど遅くなる。従来のFS駆動液晶表示装置では、応答時間が長くなれば、バックライト点灯時間(実施例の現サブフレームバックライト点灯時間に対応)が短くなり、輝度が低下する。また、さらに、応答待ち時間が、サブフレーム終了時刻まで長くなれば、バックライトを点灯させることができなくなる(実施例で現サブフレームバックライト点灯時間が0となることに対応)。これに起因して、意図した表示状態を実現できなくなったり、そもそもカラー表示ができなくなったりする。
【0115】
上記第2の条件で説明したように、前サブフレームバックライト点灯時間を導入することにより、現サブフレームバックライト点灯時間が0となっても、前サブフレームバックライト点灯時間によって、バックライト点灯時間を確保することができる。すなわち、現サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を、現サブフレームの直後のサブフレームに入ってから点灯させることにより、所望の表示状態を実現することができる。このように、前サブフレームバックライト点灯時間を導入したFS駆動方法は、低温時のような、液晶の応答時間が長い場合にも有効である。
【0116】
次に、図12(A)を参照して、サブフレーム時間等の駆動パラメータを温度に応じて適切に設定する第5の実施例によるFS駆動方法について説明する。第5の実施例では、液晶表示素子として、スタティック駆動の2層TN素子を用いる。走査線本数N=1となるので、走査待ち時間W=0である。第5の実施例では、FS駆動条件を定める駆動パラメータを、温度に応じて変化させる。図12(A)は、第5の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【0117】
表には、25℃、10℃、0℃、−10℃、及び−20℃における、立上り応答時間(黒から白表示応答時間)、立下り応答時間(白から黒表示応答時間)、立上りの応答遅れ時間(黒からT=2%到達時間)、フレーム時間F、サブフレーム時間S、前サブフレームバックライト点灯時間D、ブランク時間B、及び、現サブフレームバックライト点灯時間Lがms単位で記載されている。サブフレーム数Mを3とし、各サブフレームは等間隔としている。
【0118】
10℃以下において、サブフレーム時間Sを立下り応答時間と等しく設定し、現サブフレームバックライト点灯時間Lを0msに設定している。また、全ての温度で、前サブフレームバックライト点灯時間Dは、立上りの応答遅れ時間に等しく設定されている。
【0119】
前サブフレームバックライト点灯時間Dと、ブランク時間Bと、現サブフレームバックライト点灯時間Lとの和が、サブフレーム時間Sと等しい。10℃以下においては、前サブフレームバックライト点灯時間Dと、ブランク時間Bとの和が、サブフレーム時間S及び立下り応答時間と等しくなっている。10℃以下において、サブフレーム時間Sを立下り応答時間と等しく設定しているので、温度が下がるほど、サブフレーム時間S及びフレーム時間Fが長くなる。
【0120】
サブフレーム時間Sは、液晶表示素子の立下り応答時間以上の長さに設定されていることが好ましいが、サブフレーム時間Sが長すぎると、良好なカラー表示がし難くなる。従って、低温時、サブフレーム時間S(より好ましくは、サブフレーム時間S−走査待ち時間W)を、液晶表示素子の立下り応答時間と等しく設定することが有効であろう。
【0121】
この場合、立下り応答がサブフレーム終了までかかるので、現サブフレームバックライト点灯時間Lが0となる。そして、現サブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、その直後のサブフレームで点灯されるように、前サブフレームバックライト点灯時間Dが導入される。
【0122】
このような駆動パラメータを適用した液晶表示装置を、恒温槽に入れて動作させ、表示状態を観察した。恒温槽の温度に応じて、駆動パラメータは手動で変化させた。低温になるに従って表示のちらつきが激しくなる現象が見られたものの、表示色は意図した通りになっていることが分かった。
【0123】
次に、図12(B)を参照して、第6の実施例によるFS駆動方法について説明する。第6の実施例では、液晶表示素子として、スタティック駆動のVA素子を用いる。第5の実施例と同様に、走査待ち時間W=0である。第6の実施例も、第5の実施例と同様に、駆動パラメータを、温度に応じて変化させる。図12(B)は、第6の実施例における駆動パラメータをまとめた表である。
【0124】
パラメータ同士の関係は、第5の実施例と同様である。ただし、サブフレーム数Mを2とし、各サブフレームは等間隔としている。第6の実施例の液晶表示装置も、温度が下がるほど、サブフレーム時間S及びフレーム時間Fが長くなる。2層TN素子を用いた第5の実施例の液晶表示装置と同様に、恒温槽に入れて動作させ、表示状態を観察したところ、第5の実施例の液晶表示装置と同様に、低温になるに従って表示のちらつきが激しくなる現象が見られた。また、表示部の輝度が低下する現象も見られたが、表示色は意図した通りのものであった。
【0125】
なお、前サブフレームバックライト点灯時間は、必ずしもサブフレームの開始時刻から開始しなくてもよい。サブフレーム開始時刻から、液晶表示素子の立上りの応答遅れ時間の間に、前サブフレームの表示パタンに対応する点灯色を点灯させれば、不要な混色を抑えて、表示輝度向上を図ることができる。
【0126】
なお、第5、第6の実施例では、温度に応じた適切な駆動パラメータを手動で設定したが、以下のように、駆動パラメータを自動で設定できる液晶表示装置を構成することもできる。
【0127】
図13は、第7の実施例の液晶表示装置を概略的に示すブロック図である。この液晶表示装置は、液晶表示素子1の近傍、表面、または液晶セル内に、液晶表示素子1の温度を測定する温度センサ4が配置されている。温度センサ4が測定した温度のデータが、駆動装置3に入力される。
【0128】
第7の実施例では、予め、液晶表示素子1の電気光学応答特性の温度依存性が測定されており、測定された温度依存性に基づいて、例えば上述の図12(A)、図12(B)の表に示したように、温度ごとの駆動パラメータが定められている。駆動装置3のメモリ5に、例えば1℃ごとに、駆動パラメータが記憶されている。
【0129】
駆動装置3は、温度センサ4から入力された温度データに基づき、メモリ5からその温度に対応する駆動パラメータを読み出して、マルチカラーバックライト2と液晶表示素子1とを同期駆動させる。このようにして、環境の温度が変化しても、温度に応じた適切な駆動パラメータを自動的に選択して動作する液晶表示装置が実現される。
【0130】
なお、周波数発信源をアナログ的に可変することにより、温度に応じた適切な駆動パラメータを設定するようにしてもよい。駆動装置の周波数発信源が1つで、これによってLC素子、バックライト動作タイミングが決まる回路構造の場合は、温度によりこの発信源の周波数のみ変化させれば、ある程度の動作はできる。これによってメモリを不要とすることが可能となる。
【0131】
以上説明したように、液晶表示素子の電気光学応答が、温度低下に伴い遅くなっても、それに応じてサブフレーム時間、前サブフレームバックライト点灯時間等の駆動パラメータを設定することにより、良好なFS駆動を行うことができる。
【0132】
例えば低温により、応答時間が長くなって、サブフレーム内で、当該サブフレームに対応する表示パタンの点灯色を点灯できなくなっても、その直後のサブフレームの初期に、当該点灯色を点灯させることにより、所望の表示状態を得ることができる。
【0133】
例えば、1サブフレームの長さの目安は5.57msであり、立下り応答時間が5.57ms以上である場合に、サブフレームに対応する点灯色を当該サブフレームでは点灯させず、その直後のサブフレームで点灯させるモードの駆動が好ましいといえよう。このモードでの駆動は、例えば−10℃〜―30℃で特に好ましいであろう。
【0134】
なお、サブフレームに対応する点灯色を当該サブフレームで点灯させ、さらにその直後のサブフレームまで延長して点灯させるモードの駆動は、例えば、立下り応答時間が5.57msより短い場合に好ましいといえよう。このモードでの駆動は、室温以上、例えば+15℃〜+95℃で特に好ましいであろう。
【0135】
なお、上記実施例では、立上りの応答遅れ時間を、絶対透過率が2%まで上昇する時間としていたが、立上りの応答遅れ時間は、相対透過率を用いて定義した方が一般的となり好ましい。絶対透過率2%は、相対透過率としては10%に相当するので、立上りの応答遅れ時間は、電気的スイッチングから相対透過率が10%まで上昇するのに要する時間で定義される。
【0136】
なお、実施例の液晶表示装置、FS駆動方法は、以下のような製品に適用することができる。例えば、セグメント表示部、または、セグメント表示部及びドットマトリクス表示部を含む車載用情報表示装置に適用することができる。また、例えば、カーオーディオの表示部、コピー機等の操作パネル表示部、情報表示装置全般(薄膜トランジスタ液晶表示装置を含む)に適用することもできる。
【0137】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0138】
1 液晶表示素子
2 マルチカラーバックライト
3 駆動装置
21、22 偏光板
11 (TNモード)液晶セル
61、62 偏光板
51 (TNモード)補償セル
52 (TNモード)駆動セル
81、82 偏光板
91、92 視角補償板
71 (VAモード)液晶セル
4 温度センサ
5 メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明表示と暗表示とが切り換わる複数の表示部を含む液晶表示素子と、
複数色の光源を有し、該光源から出射した光を、前記液晶表示素子に入射させるバックライトと、
前記液晶表示素子と前記バックライトとを同期させフィールドシーケンシャル駆動を行う駆動装置と
を有し、
前記駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、前記液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレームの直後のサブフレームである第2のサブフレームの開始時刻から、前記液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、前記応答遅れ時間の終了後、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を間に挟んで、前記第2のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、前記バックライトの点灯状態を制御する液晶表示装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレーム内では点灯されないように、前記バックライトの点灯状態を制御する請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項1】
明表示と暗表示とが切り換わる複数の表示部を含む液晶表示素子と、
複数色の光源を有し、該光源から出射した光を、前記液晶表示素子に入射させるバックライトと、
前記液晶表示素子と前記バックライトとを同期させフィールドシーケンシャル駆動を行う駆動装置と
を有し、
前記駆動装置は、フレームを複数に分割したサブフレームごとに、サブフレームに対応する表示パタンが実現されるように、前記液晶表示素子の明暗の表示状態を制御するとともに、任意の第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレームの直後のサブフレームである第2のサブフレームの開始時刻から、前記液晶表示素子の暗表示から明表示への立上りの応答遅れ時間の間に点灯され、前記応答遅れ時間の終了後、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されないブランク時間を間に挟んで、前記第2のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が点灯されるように、前記バックライトの点灯状態を制御する液晶表示装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記第1のサブフレームの表示パタンに対応する点灯色が、該第1のサブフレーム内では点灯されないように、前記バックライトの点灯状態を制御する請求項1に記載の液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−212162(P2012−212162A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139592(P2012−139592)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【分割の表示】特願2007−232630(P2007−232630)の分割
【原出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【分割の表示】特願2007−232630(P2007−232630)の分割
【原出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]