説明

液晶表示装置

【課題】温湿度変化による表示性能の変動が軽減された液晶表示装置の提供。
【解決手段】少なくとも一方が電極を有する対向配置された一対の基板と、該一対の基板間に配置された配向制御された液晶層とを有し、前記電極により該電極を有する基板に対し平行な成分を持つ電界が形成される液晶セル(10)、及び、液晶セル(10)を挟んで配置された一対の偏光板(PLa及びPLb)を有し、前記一対の偏光板の少なくとも一方(PLa及び/又はPLb)が、偏光子(12a、12b)と、下記式(I)及び(II)を満たす、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムとを有する偏光板であることを特徴とする液晶表示装置である。
(I)0≦|Re(630)|≦10、かつ、|Rth(630)|≦25
(II)|Re(400)−Re(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置に関し、特に、水平方向に配向したネマティック液晶に横方向の電界を印加することにより表示を行うインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
横電界を液晶に対して印加する、いわゆるインプレーンスイッチング(IPS)モードによる液晶表示装置が提案されている。近年、液晶表示装置は、TV用途として開発が進められており、それに伴って画面の輝度が大きく向上してきている。このため、IPSモードで従来問題とされていなかった、黒表示時の対角位斜め入射方向での僅かな光漏れが表示品質の低下の原因として顕在化してきた。
色調や黒表示の視野角特性を改善するための一つの手段として、液晶層と偏光板の間に複屈折特性を有する光学補償材料を配置すること、及び偏光板の保護フィルムにその光学補償を持たせることが、IPSモードでも検討されている(例えば、特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−80424号公報
【特許文献2】特開平10−54982号公報
【特許文献3】特開平11−202323号公報
【特許文献4】特開平9−292522号公報
【特許文献5】特開平11−133408号公報
【特許文献6】特開平11−305217号公報
【特許文献7】特開平10−307291号公報
【特許文献8】特開2006−227606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記提案された方式によっても、位相差膜の光学特性(特にRth)が温度に依存して変化してしまうため、観察条件によって、液晶表示装置の表示性能が大きく変化し、また液晶セルのΔndのムラが顕著になるという問題があった。また、位相差膜には、温湿度変化によって光学特性(特にRe)の絶対値が大きくなるものもあり、Reの絶対値が大きくなることによって、位相差膜が必然的に有する分子軸のばらつきが顕在化して、正面コントラストを低下させる一因となっていた。
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、温湿度変化による表示性能の変動が軽減された液晶表示装置、特に水平配向モードの液晶表示装置、を提供することを課題とする。
また、本発明は、環境湿度及び温度に依存して生じる斜め方向のカラーシフトや、正面コントラストの低下が軽減された液晶表示装置、特に、IPSモード液晶表示装置、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 少なくとも一方が電極を有する対向配置された一対の基板と、該一対の基板間に配置された配向制御された液晶層とを有し、前記電極により該電極を有する基板に対し平行な成分を持つ電界が形成される液晶セル、及び、該液晶セルを挟んで配置された一対の偏光板を有し、
前記一対の偏光板の少なくとも一方が、偏光子と、下記式(I)及び(II)を満たす、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムとを有する偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
(I)0≦|Re(630)|≦10、かつ、|Rth(630)|≦25
(II)|Re(400)−Re(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35
(上記式(I)および(II)中、Re(λ)は、波長λnmにおける面内レターデーション値(nm)を表し、Rth(λ)は、波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(nm)を表す。)
[2] 前記一対の偏光板のうち、少なくともバックライト側に配置される偏光板が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする[1]の液晶表示装置。
[3] 前記一対の偏光板のうち、少なくとも表示面側に配置される偏光板が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする[1]の液晶表示装置。
[4] 前記一対の偏光板の双方が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする[1]の液晶表示装置。
[5] 前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe{T}及びRth{T}(Tは測定時の温度(℃))が、下記式(III)および(IV)を満たすことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの液晶表示装置。
(III)|Re{50}−Re{25}|<5
(IV)|Rth{50}−Rth{25}|<10
[6] 前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe[H]及びRth[H](Hは測定時の相対湿度(%))が、下記式(V)および(VI)を満たすことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの液晶表示装置。
(V)|Re[80]−Re[10]|<5
(VI)|Rth[80]−Rth[10]|<10
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、温湿度変化による表示性能の変動が軽減された液晶表示装置、特にIPSモードの液晶表示装置、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
まず、本明細書で用いられる用語について、説明する。
(レターデーション、Re、Rth)
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション(nm)及び厚さ方向のレターデーション(nm)を表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(X)及び式(XI)よりRthを算出することもできる。
【0009】
【数1】

式(XI)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。また、式中、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚を表す。
【0010】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:
セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0011】
本発明において、位相差膜等の「遅相軸」は、屈折率が最大となる方向を意味する。また、「可視光領域」とは、380nm〜780nmのことをいう。さらに屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域のλ=550nmでの値である。
また、本明細書において、位相差膜及び液晶層等の各部材の光学特性を示す数値、数値範囲、及び定性的な表現(例えば、「同等」、「等しい」等の表現)については、液晶表示装置やそれに用いられる部材について一般的に許容される誤差を含む数値、数値範囲及び性質を示していると解釈されるものとする。
【0012】
図1に本発明の液晶表示装置の一例の断面模式図を示す。但し、図中、各層の厚みの相対的関係は、実際の相対的関係を反映しているものではない。なお、図中、上を表示面側、下を背面側(バックライト側)とする。
図1に示す液晶表示装置は、IPSモード液晶セル10と、その上下に、一対の偏光板PLa及びPLbを有する。それぞれの偏光板PLa及びPLbは、偏光子12a、12bと、それを保護する液晶セル側保護フィルム14a、14b及び外側保護フィルム16a、16bとを有する。本例では、保護フィルム14a、14b、16a及び16bの少なくとも一つが、所定の式を満足する、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムからなる。液晶セル側保護フィルム14a及び14bの少なくとも一方が、前記熱可塑性樹脂フィルムであるのが好ましく、双方が、前記熱可塑性樹脂フィルムであるのがより好ましい。外側保護フィルム16a及び16bも、前記熱可塑性樹脂フィルムであってもよいし、また、セルロースアシレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系フィルム等、他のポリマーフィルムであってもよい。
本例では、保護フィルム14a、14b、16a及び16bの少なくとも一つとして、前記熱可塑性樹脂フィルムを用いることにより、温湿度変化による表示性能の変動が軽減された液晶表示装置としている。
【0013】
IPSモードの液晶セル10については、セル内に形成された電極により、該電極を有する基板に対し平行な成分を持つ電界が形成される構成である限り、特に制限はない。通常のIPSモード液晶セルを利用できる。なお、セル基板の表面に対する電界方向のなす角は、好ましくは20度以下で、より好ましくは10度以下で、すなわち、実質的に平行であることが望ましい。また、電極は、上下基板に分けて形成しても、一方の基板にのみ形成してもよい。また、電極が絶縁層を介した2層構造となっている構成であってもよい。2層構造の電極のうち、最下層の電極はパターニングされていない電極でも、線状などの電極でもよい。上層の電極は線状が好ましいが、下層電極からの電界が通過できる形状であれば、網目状、スパイラル状、点状などいずれでもよく、電位が中立なフローティング電極をさらに追加してもよい。また絶縁層は、SiOや窒化膜などの無機材料でも、アクリルやエポキシ系等の有機材料のいずれでもよい。
【0014】
液晶セル中に用いられる液晶材料としては、誘電率異方性△εが正のネマティック液晶を用いる。液晶層の厚み(ギャップ)はポリマビーズで制御することができる。ガラスビーズヤファイバー、樹脂製の柱状スペーサでも同様のギャップを得ることができる。IPSモードの液晶セルでは、通常、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・dは、0.2〜1.2μm程度であり、薄型化の要請に応えるために、0.2〜0.5μm程度とすることもできる。
【0015】
以下、本発明の液晶表示装置に使用可能な種々の部材に用いられる材料、その製造方法等について、詳細に説明する。
[ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルム]
本発明では、下記式(I)及び(II)を満足する、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板を用いる。該熱可塑性樹脂フィルムは、偏光子の保護フィルムであるのが好ましく、液晶セル側に配置される保護フィルムであるのがより好ましい。
(I)0≦|Re(630)|≦10、かつ、|Rth(630)|≦25
(II)|Re(400)−Re(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35
上記式(I)及び(II)を満足する位相差領域によって、IPSモードの液晶セルを補償することにより、黒表示時に斜め方向に生じる色味付き(カラーシフト)を軽減することができる。本発明者は、所定のラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムが、上記条件を満足し得ることを見出し、これをIPSモード液晶セルの光学補償に用いることによって、温湿度変化に依存した光学特性の変動を軽減、即ち、光学補償能の変動を軽減している。また複屈折性のポリマーフィルムは、一般的に、延伸などによって分子が一方向に揃うように調整されているが、必然的に分子軸の方向にはばらつきがあり、軸ズレがある。特に、環境温湿度によって、Reの絶対値が大きくなると、この軸ズレが顕著となって、位相差ムラが生じ、このことが正面コントラストの低下(黒表示時に正面に光漏れが生じる等)の一因となっている。本発明では、ラクトン環含有重合体を利用したReの絶対値が小さい熱可塑性樹脂フィルムを用いることで、Reの絶対値をほぼ0に近づけるとともに、温湿度環境変化による光学特性の変動を軽減し、位相差ポリマーフィルムが必然的に有する分子軸方向のばらつきが、顕在化するのを抑制している。ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムは、|Re(630)|が5nm以下で、且|Rth(630)|が15nm以下を達成可能である。また、IPSモード液晶セルの光学補償をより理想に近づけるには、|Re(400)−Re(700)|が、5nm以下、かつ|Rth(400)−Rth(700)|が10nm以下であるのが好ましく、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルムによって、この光学特性を達成可能である。
【0016】
また、前記熱可塑性樹脂フィルムは、温度によってそのRe及びRthが変動しないのが好ましい。前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe{T}及びRth{T}(Tは測定時の温度(℃))が、下記式(III)および(IV)を満たしているのが好ましく、下記式(III)’および(IV)’を満たしているのがより好ましい。
(III) |Re{50}−Re{25}|<5
(IV) |Rth{50}−Rth{25}|<10
(III)’ |Re{50}−Re{25}|<3
(IV)’ |Rth{50}−Rth{25}|<5
なお、Re{T}及びRth{T}を測定する際は、少なくともその温度T℃に1時間フィルムを放置した後に測定するものとする。
【0017】
また、前記熱可塑性樹脂フィルムは、湿度によってそのRe及びRthが変動しないのが好ましい。前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe[H]及びRth[H](Hは測定時の相対湿度(%))が、下記式(V)および(VI)を満たしているのが好ましく、下記式(V)’および(VI)’を満たしているのがより好ましい。
(V) |Re[80]−Re[10]|<5
(VI) |Rth[80]−Rth[10]|<10
(V)’ |Re[80]−Re[10]|<3
(VI)’ |Rth[80]−Rth[10]|<5
なお、Re[H]及びRth[H]を測定する際は、少なくともその湿度Hに1時間フィルムを放置した後に測定するものとする。
【0018】
熱可塑性樹脂フィルムの主成分であるラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体である。
【0019】
【化1】

【0020】
式中、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい。
【0021】
前記ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0022】
前記ラクトン環含有重合体は、上記式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造を有する共重合体であってもよい。上記式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと、水酸基含有単量体と、不飽和カルボン酸と、下記式(2)で表される単量体とからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−CO−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機残基を表す。
【0025】
前記ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、水酸基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、上記式(2)で表される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0026】
前記ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0027】
重合工程においては、例えば、下記式(3)で表される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体が得られる。
【0028】
【化3】

【0029】
式中、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜20の有機残基を表す。
【0030】
上記式(3)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0031】
重合工程に供する単量体成分中における上記式(3)で表される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。上記式(3)で表される単量体の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、上記式(3)で表される単量体の含有割合が90質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0032】
重合工程に供する単量体成分には、上記式(3)で表される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、および、下記式(2)で表される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
【化4】

【0034】
式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、または−CO−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素原子数1〜20の有機残基を表す。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0036】
上記式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
【0037】
水酸基含有単量体としては、上記式(3)で表される単量体以外の水酸基含有単量体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらの水酸基含有単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記式(3)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0039】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
【0040】
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0041】
上記式(2)で表される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、本発明の効果を充分に発揮することから、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0042】
上記式(2)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0043】
単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0044】
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0045】
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0046】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0047】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0048】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0049】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0050】
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
【0051】
重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0052】
ラクトン環化縮合工程において、上記式(1)で表されるラクトン環構造が導入される。
【0053】
重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
【0054】
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0055】
あるいは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。使用可能な有機リン酸化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
【0056】
環化縮合反応の際に用いられる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
【0057】
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
【0058】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0059】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
【0060】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0061】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0062】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0063】
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0064】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0065】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0066】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
【0067】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
【0068】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0069】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0070】
前述したように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナッミクTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0071】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0072】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
【0073】
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、いったん溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
【0074】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
【0075】
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度180℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0076】
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは100〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0077】
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
【0078】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0079】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0080】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0081】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0082】
ラクトン環含有重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。
【0083】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0084】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
【0085】
ラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0086】
ラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
【0087】
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、特に好ましくは140℃以上である。
【0088】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
【0089】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0090】
本発明に用いられる前記熱可塑性樹脂フィルムは、ラクトン環含有重合体を主成分として含む、具体的にはその含有割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。熱可塑性樹脂フィルム中のラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できないことがある。
【0091】
前記熱可塑性樹脂フィルムには、その他の成分として、ラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
【0092】
前記熱可塑性樹脂フィルムにおけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
【0093】
前記熱可塑性樹脂フィルムには、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2'−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0094】
前記熱可塑性樹脂フィルム中における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
【0095】
前記熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、従来公知の混合方法で充分に混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、これをフィルム成形することで製造することができる。あるいは、ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、それぞれ別々の溶液にしてから混合して均一な混合液とした後、フィルム成形してもよい。
【0096】
まず、熱可塑性樹脂組成物を製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記のフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いられる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0097】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
【0098】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0099】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0100】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0101】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
【0102】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持することができる。
【0103】
延伸温度は、フィルム原料である熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、樹脂組成物の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0104】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0105】
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
【0106】
なお、前記熱可塑性樹脂フィルムの光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0107】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、偏光板の耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
【0108】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、前記熱可塑性樹脂フィルムと他の層、例えば、偏光子等との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
【0109】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、種々の添加剤を含んでいてもよい。例えば、フィルムの面内レターデーション及び/又は厚み方向レターデーションを減少させるレターデーション調整剤を添加してもよい。レターデーション調整剤を添加し、所望により延伸処理することで、光学特性を所望の範囲とすることができる。
【0110】
(易接着層)
本発明では、前記熱可塑性樹脂フィルムの偏光子との接着性を改善するために、前記熱可塑性樹脂フィルムの表面に易接着層を形成するのが好ましい。該易接着層は、ポリウレタン樹脂組成物(ポリウレタン樹脂および/または反応後にポリウレタン樹脂を与える前駆体を含有する組成物)および/またはアミノ基含有ポリマーを含有する樹脂組成物(以下、いずれも「易接着層コーティング組成物」ということがある。)から形成するのが好ましい。該組成物を塗布液として調製し、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に塗布した後、乾燥・硬化または乾燥することにより形成される。
【0111】
前記易接着層の厚さは、好ましくは0.01〜10μm程度、より好ましくは0.05〜3μm程度、さらに好ましくは0.1〜1μm程度である。易接着層の厚さが上記範囲であると、接着強度が十分となり、且つ耐水性または耐湿性試験において、偏光板の色抜けや変色なども起こり難いので好ましい。
【0112】
前記易接着層の形成に用いられるポリウレタン樹脂、反応後にポリウレタン樹脂を与える前駆体を含有する組成物、及びアミノ基含有ポリマーについて、及び易接着層の形成方法については、特開2007−127893号公報の[0124]〜[0175]に詳細が記載されていて、かかる記載は、本発明における易接着層の材料及び形成方法の説明として参照することができる。
【0113】
なお、表面の濡れ張力を調整するために、前記熱可塑性樹脂フィルムの表面、もしくは所望により形成される易接着層の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施してもよい。
【0114】
(偏光子)
本発明に用いられる偏光板が有する偏光子としては、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜のいずれも用いることができる。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0115】
(第2の保護フィルム)
本発明に用いられる偏光板は、前記熱可塑性樹脂フィルム以外の第2の保護フィルムを有しているのが好ましい。前記第2の保護フィルムは、偏光子の表面であって、前記熱可塑性樹脂フィルムが貼り合せられていない他方の表面に貼り合せられる。前記第2の保護フィルムは、前記熱可塑性樹脂フィルムであってもよいし、また他のポリマーフィルム、セルロースアシレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系フィルム等、いずれであってもよい。
【0116】
(接着剤)
本発明の偏光板の作製において、前記熱可塑性樹脂フィルムや前記第2の保護フィルムと、偏光子とを貼り合せるのに、粘着剤を利用してもよい。より好ましくは、前記熱可塑性樹脂フィルムの表面に前記易接着層を形成し、該易接着層と、他の層とを、粘着剤を用いて貼り合せるのが好ましい。使用可能な粘着剤の例には、PVA系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、イソシアネート系接着剤などが含まれる。これらの接着剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの接着剤のうち、ポリウレタン系接着剤およびイソシアネート系接着剤が特に好適である。なお、接着剤の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、溶剤系、水系、無溶剤系などの各種形態の接着剤を使用することができる。
【0117】
ポリウレタン系接着剤、イソシアネート系接着剤、及びそれに用いられる反応触媒、添加剤、およびそれらの使用量等については、特開2007−12789号公報の[0174]〜[0194]に詳細な記載があり、本発明において使用可能な粘着剤の説明として参酌することができる。
【0118】
(その他の機能層)
本発明に用いる偏光板は、種々の機能層、例えば、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層ハードコート層、反射防止層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー性層等、を有していてもよい。これらの形成に用いる材料等については、特開2006−96960号公報の[0060]〜[0065]等に詳細な記載があり、かかる記載は、本発明における各種機能層の形材料の説明として参照することができる。
【0119】
(他の偏光板)
前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板とともに用いられる偏光板については特に制限はない。同様に、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板を用いてもよいし、他のポリマーフィルム、例えば、セルロースアシレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系フィルム等の保護フィルムのみを有する偏光板を用いてもよい。効果がより高くなる点で、双方の偏光板が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であるのが好ましい。前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板を一枚のみ用いる場合は、背面側偏光板(図1中のPLb)として配置するのが好ましい。
【0120】
本発明の液晶表示装置は、図1に示す構成に限定されず、他の部材を含んでいてもよい。例えば、液晶セルと偏光フィルムとの間にカラーフィルターを配置してもよい。また、後述する様に、液晶セルと偏光板との間に、さらに、別の光学補償膜を配置することもできる。また、透過型として使用する場合は、冷陰極あるいは熱陰極蛍光管、あるいは発光ダイオード、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネッセント素子を光源とするバックライトを背面に配置することができる。また、本発明の液晶表示装置は、反射型であってもよく、かかる場合は、本発明の偏光板は観察側に1枚配置したのみでよく、液晶セル背面あるいは液晶セルの下側基板の内面に反射膜を設置する。もちろん前記光源を用いたフロントライトを液晶セル観察側に設けることも可能である。
【0121】
本発明の液晶表示装置には、画像直視型、画像投影型や光変調型が含まれる。本発明は、TFTやMIMのような3端子または2端子半導体素子を用いたアクティブマトリックス液晶表示装置に適用した態様が特に有効である。勿論、時分割駆動と呼ばれるSTN型に代表されるパッシブマトリックス液晶表示装置に適用した態様も有効である。
【実施例】
【0122】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
[IPSモード液晶セルの作製]
一枚のガラス基板上に、隣接する電極間の距離が20μmとなるように電極を配設し、その上にポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行なった。別に用意した一枚のガラス基板の一方の表面にポリイミド膜を設け、ラビング処理を行なって配向膜とした。二枚のガラス基板を、配向膜同士を対向させて、基板の間隔(ギャップ;d)を3.9μmとし、二枚のガラス基板のラビング方向が平行となるようにして重ねて貼り合わせ、次いで屈折率異方性(Δn)が0.0769および誘電率異方性(Δε)が正の4.5であるネマティック液晶組成物を封入した。液晶層のd・Δnの値は300nmであった。
【0123】
[偏光板PL1〜PL6の作製]
(熱可塑性樹脂フィルムF1の作製)
特開2006−96960号公報の[実施例]に記載の製造例を参照して、熱可塑性樹脂フィルムF1を製造した。具体的には、以下の方法で製造した。
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、9000gのメタクリル酸メチル(MMA)、1000gの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、10000gの4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン、MIBK)、5gのn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として5.0gのターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(アクゾ化薬製、商品名:カヤカルボン Bic−7)を添加すると同時に、10.0gのターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネートと230gのMIBKからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜120℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0124】
得られた重合体溶液に、30gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)を加え、還流下(約90〜120℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレット(1A)を得た。
【0125】
得られたペレット(1A)について、特開2006−96960号公報に記載の方法で各種物性を測定し、特開2006−96960号公報の実施例で作製したペレット1Aが製造されたことを確認した。
【0126】
製造例1で得られたペレット(1A)を、20mmφのスクリューを有する二軸押出し機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出しし、厚さ約100μmのフィルムF1を作製した。このフィルムF1は、
Re(630)=0.6nm、
Rth(630)=−1.7nm、
|Re(400)−Re(700)|=0.1nm、及び
|Rth(400)−Rth(700)|=1.0nm
であり、上記式(I)及び(II)を満足していた。また、
|Re{50}−Re{25}|=1nm、
|Rth{50}−Rth{25}|=2nm、
|Re[80]−Re[10]|=0nm、及び
|Rth[80]−Rth[10]|=0.5nm
であり、上記式(III)〜(VI)の全てを満足していた。
【0127】
(ZRFフィルムF2の作製)
市販のセルロースアセテートフィルム(ZRF80s、富士フイルム(株)製、以下、「ZRFフィルム」という)をポリマーフィルムF2として用いた。フィルムF2は、
Re(630)=1nm、
Rth(630)=−7nm、
|Re(400)−Re(700)|=2nm、及び
|Rth(400)−Rth(700)|=15nm
であった。また、
|Re{50}−Re{25}|=3nm、
|Rth{50}−Rth{25}|=10nm、及び
|Re[80]−Re[10]|=0.3nm
|Rth{80}−Rth{10}|=16nm
であった。
【0128】
(TACフィルムF3の作製)
市販のセルロースアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製、以下、「TACフィルム」という)をポリマーフィルムF3として用いた。フィルムF3は、
Re(630)=1nm、
Rth(630)=38nm、
|Re(400)−Re(700)|=0.8nm、及び
|Rth(400)−Rth(700)|=20nmであった。
【0129】
(偏光フィルム)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させた偏光フィルムを製作し、採用した。
【0130】
(偏光板PL1の作製)
熱可塑性樹脂フィルムF1の面にイソシアネート系接着剤を塗布し、TACフィルムF3の面にPVA系接着剤を塗布し、これらのフィルムで偏光フィルムを挟んで、圧着ローラーで余分な接着剤を押し出しながら、ウェットラミネーションにより貼合した。その後、加熱乾燥して、偏光板を作製した。
(偏光板PL2の作製)
ZRFフィルムF2の面にPVA系接着剤を塗布し、TACフィルムF3の面にPVA系接着剤を塗布し、これらのフィルムで偏光フィルムを挟んで、上記と同様にして、偏光板を作製した。
(偏光板PL3の作製)
2枚のTACフィルムF3のそれぞれの面にPVA系接着剤を塗布し、これらのフィルムで偏光フィルムを挟んで、上記と同様にして、偏光板を作製した。
【0131】
[IPSモード液晶表示装置の作製]
図1と同様の構成の液晶表示装置を作製した。具体的には、以下の通りの方法で作製した。
上記で作製したIPSモード液晶セルの上下に、表示面側偏光板PLa及び背面側偏光板PLbとして、表1に示す組み合わせでそれぞれ貼り付け、液晶表示装置LCD1〜LCD6をそれぞれ作製した。但し、偏光板PL1及びPL2については、液晶セル側保護フィルムが、熱可塑性樹脂フィルムF1又はZRFフィルムとなるように配置した。
【0132】
[評価]
作製した液晶表示装置LCD1〜LCD6のそれぞれについて、以下の評価を行った。
各液晶表示装置を、温度25℃湿度60%に1時間放置した後、及び温度80℃湿度10%に1時間放置した後のそれぞれについて、黒表示時の斜め方向において観察されるカラーシフトの程度、及び正面(法線方向)黒輝度をそれぞれ評価した。評価基準は以下の通りである。結果を下記表1に示す。
・カラーシフト
○:カラーシフトが観察されなかった。
△:若干カラーシフトがあるが、許容レベルであった。
×:カラーシフトが観察された。
・正面黒輝度
○:正面への光漏れは見られず、CRの低下はない。
△:若干の光漏れが見られるが、CRはほとんど低下していない。
×:正面への光漏れが顕著で、CRが低下している。
【0133】
【表1】

【0134】
製造例1で得られたペレット(1A)を、20mmφのスクリューを有する二軸押出し機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出しし、溶融押出し時の厚み、温度、湿度、延伸条件等を変化させることにより、下記表に示す光学特性を示す熱可塑性樹脂フィルムF10〜F34をそれぞれ作製した。
【0135】
トリアセチルセルロースを使用し、既知のキャスト方法により、厚み、温度、湿度、延伸条件等を変化させることにより、下記表に示す光学特性を示す比較例用のトリアセチルセルロースフィルムF50〜F53を作製した。
【0136】
【表2】

*1: |Re(400)−Re(700)|
*2: |Rth(400)−Rth(700)|
*3: |Re{50}−Re{25}|
*4: |Rth{50}−Rth{25}|
*5: |Re[80]−Re[10]|
*6: |Rth[80]−Rth[10]|
【0137】
熱可塑性樹脂フィルムF1に代えて、上記熱可塑性樹脂フィルムF10〜F34のそれぞれを用いた以外は、偏光板PL1と同様にして、偏光板PL10〜PL34をそれぞれ作製した。
TACフィルムF3に代えて、上記トリアセチルセルロースフィルムF50〜F53のそれぞれを用いた以外は、偏光板PL2と同様にして、偏光板PL50〜PL53をそれぞれ作製した。
【0138】
偏光板PL10〜PL34及びPL50〜Pl53をそれぞれ2枚ずつ用いて、図1と同様の構成の液晶表示装置を作製した。具体的には、上記で作製したIPSモード液晶セルの上下に、表示面側偏光板PLa及び背面側偏光板PLbとして、同一の偏光板をそれぞれ貼り付け、液晶表示装置L10〜L34及びL50〜L53をそれぞれ作製した。但し、各偏光板を配置する際は、液晶セル側保護フィルムが、熱可塑性樹脂フィルムF10〜34及びセルロースアシレートフィルムF50〜F53のそれぞれになるように配置した。
作製した各液晶表示装置について、上記と同様の評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0139】
【表3】

【符号の説明】
【0140】
10 IPSモード液晶セル
12a、12b 偏光子
14a、14b 液晶セル側保護フィルム
16a、16b 外側保護フィルム
PLa 表示面側偏光板
PLb 背面側偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が電極を有する対向配置された一対の基板と、該一対の基板間に配置された配向制御された液晶層とを有し、前記電極により該電極を有する基板に対し平行な成分を持つ電界が形成される液晶セル、及び、該液晶セルを挟んで配置された一対の偏光板を有し、
前記液晶層の厚さは、ポリマビーズ、ガラスビーズファイバー、および樹脂製の柱状スペーサのいずれかで制御され、前記液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・dは、0.2〜1.2μmであり、
前記一対の偏光板の少なくとも一方が、偏光子と、下記式(I)および(II)を満たす、ラクトン環含有重合体を主成分として含有する熱可塑性樹脂フィルムとを有する偏光板であり、
前記ラクトン環含有重合体が、(メタ)アクリル酸エステルと、水酸基含有単量体と、不飽和カルボン酸と、下記式(2)で表される単量体とからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構造単位であることを特徴とする液晶表示装置。
(I)−3nm≦Re(630)≦4nm、かつ、−12nm≦Rth(630)≦6nm(II)|Re(400)−Re(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35
(上記式(I)および(II)中、Re(λ)は、波長λnmにおける面内レターデーション値(nm)を表し、Rth(λ)は、波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(nm)を表す。)
【化1】

(式中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−CO−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機残基を表す。)
【請求項2】
前記一対の偏光板のうち、少なくともバックライト側に配置される偏光板が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記一対の偏光板のうち、少なくとも表示面側に配置される偏光板が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記一対の偏光板の双方が、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する偏光板であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe{T}及びRth{T}(Tは測定時の温度(℃))が、下記式(III)および(IV)を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
(III)|Re{50}−Re{25}|<5nm
(IV)|Rth{50}−Rth{25}|<10nm
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe{T}及びRth{T}(Tは測定時の温度(℃))が、−4nm≦Re{50}−Re{25}≦4nm、および−8nm≦Rth{50}−Rth{25}≦9nmを満たすことを特徴とする請求項5に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe[H]及びRth[H](Hは測定時の相対湿度(%))が、下記式(V)および(VI)を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
(V)|Re[80]−Re[10]|<5nm
(VI)|Rth[80]−Rth[10]|<10nm
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂フィルムの波長550nmにおけるRe[H]及びRth[H](Hは測定時の相対湿度(%))が、−3nm≦Re[80]−Re[10]≦4nm、および−7nm≦Rth[80]−Rth[10]≦9nmを満たすことを特徴とする請求項7に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−29860(P2013−29860A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224175(P2012−224175)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2008−85530(P2008−85530)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】