説明

液晶表示装置

【課題】垂直配向型の液晶表示装置における表示均一性の向上。
【解決手段】液晶表示装置は、第1基板、第2基板、第1基板に設けられた第1電極及び第1垂直配向膜、第2基板に設けられた第2電極及び第2垂直配向膜、第1基板と第2基板の相互間に設けられた液晶層、液晶層を囲んで第1基板と第2基板の相互間に設けられたシール材を含む。第1基板と第2基板の重なる領域内には、第1電極と第2電極が重なる部分を内包する有効表示領域と、シール材と重畳する領域と当該シール材の端部から有効表示領域に向かって少なくとも1mm以上の幅の領域からなる外周領域が設けられている。第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、外周領域において液晶層に接する部位が有効表示領域において液晶層と接する部位よりも相対的に高いプレティルト角を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直配向型の液晶表示装置における表示品質の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上下基板間に配置された液晶層内の液晶分子が電圧無印加時において各基板に対してほぼ垂直に配向する垂直配向型の液晶表示装置(液晶表示素子)は、正面観察時における液晶層のリタデーションがゼロまたはほぼゼロであるため、上下基板を挟んで配置される各偏光板をクロスニコル配置とした場合には偏光板自体による消光性能が発揮されることにより非常に良好な黒表示特性を実現することができる。そして、例えば、特許第4614200号公報(特許文献1)に示されるように特定の表面自由エネルギーを有する垂直配向膜に対し特定のラビング条件にてラビング処理を施すことにより、電圧無印加時および電圧印加時におけるラビング筋などの配向欠陥が観察されず配向均一性に優れた垂直配向型の液晶表示装置を実現できる。
【0003】
ところで、上記のような垂直配向膜を用いてプレティルト角を略89.9°に設定した垂直配向型の液晶表示装置を作製し、これを詳細に観察したところ、液晶層を囲んで上下基板間に設けられたシール材の近傍領域において明らかな光抜けを生じることが確認された。この不具合は、シール材の近傍領域において配向膜による配向規制力が阻害され、この領域において液晶層が配向不均一となり、配向欠陥が生じたことに起因するものと推測される。またこの不具合は、液晶層の形成に用いる液晶材料の屈折率異方性Δnが大きくなるに従って顕著になる傾向、具体的には光抜けを生じる領域の幅(面積)が拡大する傾向が見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4614200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、垂直配向型の液晶表示装置におけるシール材の近傍領域の光抜けを抑制することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の液晶表示装置は、(a)対向配置された第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板の一面側に設けられた第1電極と、(c)前記第2基板の一面側に設けられた第2電極と、(d)前記第1基板の一面側に設けられた第1垂直配向膜と、(e)前記第2基板の一面側に設けられた第2垂直配向膜と、(f)誘電率異方性が負の液晶材料からなり、前記第1基板と前記第2基板の相互間に設けられた液晶層と、(g)前記液晶層を囲んで前記第1基板と前記第2基板の相互間に設けられたシール材を含み、(h)前記第1基板と前記第2基板の重なる領域内には、前記第1電極と前記第2電極が重なる部分を内包する有効表示領域と、前記シール材と重畳する領域と当該シール材の端部から前記有効表示領域に向かって少なくとも1mm以上の幅の領域からなる外周領域が設けられており、(i)前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記外周領域において前記液晶層に接する部位が前記有効表示領域において前記液晶層と接する部位よりも相対的に高いプレティルト角を発現し、かつ前記外周領域と前記有効表示領域のいずれにおいても88.5°以上90°未満の前記プレティルト角を発現する、ことを特徴とする液晶表示装置である。
【0007】
上記の液晶表示装置においては、シール材による影響で液晶層の配向不均一を生じやすい外周領域におけるプレティルト角をより高くすることで、配向規制力を高め、この外周領域における光抜けを抑制することが可能となる。
【0008】
上記の液晶表示装置において、前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域及び前記外周領域に渡って配置された低プレティルト配向膜と、当該低プレティルト配向膜に重ねて前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有することが好ましい。また、前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域を含んで前記外周領域の近傍まで配置された低プレティルト配向膜と、前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有し、前記低プレティルト配向膜と前記高プレティルト配向膜は、相互の端部が前記高プレティルト配向膜を上にして重なっていることも好ましい。
【0009】
上記した何れかの構成によれば、部位ごとに異なる大きさのプレティルト角を発現し得る垂直配向膜を従来と同様の作製方法により容易に形成することができる。
【0010】
上記の液晶表示装置において、前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域を含んで前記外周領域の近傍まで配置された低プレティルト配向膜と、前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有し、前記低プレティルト配向膜と前記高プレティルト配向膜は、相互の端部同士が繋がっており、前記低プレティルト配向膜は、前記高プレティルト配向膜と同一材料からなる膜を紫外線照射によって改質したものであることも好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、同一材料からなる膜を形成した後、この膜を部分的に紫外線照射によって改質することにより、低プレティルト配向膜と高プレティルト配向膜が一体となった垂直配向膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】屈折率異方性の異なる各液晶材料を用いた垂直配向型の液晶表示装置のシール材近傍領域の配向組織観察像を示す図である。
【図2】液晶層平均プレティルト角のラビング処理時の押し込み量への依存性を示す図である。
【図3】液晶層平均プレティルト角のラビング処理時の押し込み量への依存性を示す図である。
【図4】一実施形態の液晶表示装置を模式的に示す正面図である。
【図5】液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。
【図6】液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。
【図7】液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。
【図8】液晶材料Cを用いた液晶表示装置において液晶層平均プレティルト角の紫外線照射量依存性を示す図である。
【図9】液晶材料Bを用いた液晶表示装置において紫外線照射領域と非照射領域を1つの液晶表示装置内に作製した時の液晶層平均プレティルト角の照射量依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
始めに、上記したシール材の近傍領域における光抜け現象とその原因に関する考察について説明する。ここでは、上記のように特定の表面自由エネルギーを有し、ラビング筋を生じずプレティルト角θpを88.5°以上90°未満で設定可能でアンチパラレル配向が可能な所定の垂直配向膜(以下、「垂直配向膜a」という)を用いて、プレティルト角を略89.9°に設定し、液晶材料の屈折率異方性Δnが異なる3種類の液晶材料をそれぞれ用いて液晶層を形成した垂直配向型の液晶表示装置について、それぞれ外観観察を行った。
【0015】
図1は、屈折率異方性の異なる各液晶材料を用いた垂直配向型の液晶表示装置のシール材近傍領域の配向組織観察像を示す図である。なお、各液晶表示装置においては上下基板の双方の垂直配向膜aはシール材に重なって配置されており、各垂直配向膜aへのラビング処理の方向、上下基板の外側にそれぞれ配置される偏光板の吸収軸の方向は図示の通りである。また、図示の観察像の観察倍率は約20倍である。図1(A)はΔnが約0.1の液晶材料Aを用いた液晶表示装置の観察像、図1(B)はΔnが約0.21の液晶材料Bを用いた液晶表示装置の観察像、図1(C)はΔnが約0.25の液晶材料Cを用いた液晶表示装置の観察像である。図1(A)に示すように、Δnが相対的に小さい液晶材料Aを用いた液晶表示装置ではシール材と液晶層の境界に光抜け輝線が観察されるが、外観(目視)では全く視認されない。これは上下基板の各垂直配向膜がシール材近傍まで配置されて配向規制力を発揮しているためであり、シール材近傍の光抜けはシール材側面の形状効果により生じたと考えられる。一方、図1(B)および図1(C)に示すように、Δnが0.2以上と相対的に大きい液晶材料B、Cを用いた液晶表示装置では、Δnが大きくなるほどシール材近傍の光抜けを生じる領域の幅が拡大する様子が観察された。図1(C)に示した液晶表示装置における光抜けの領域幅は略0.8mmであった。これらは、シール材の近傍領域において配向不均一性が生じたことによる配向欠陥に起因していると考えられる。
【0016】
次に、上記した光抜けの原因を解析するために、図1の観察像を得た液晶表示装置と同様の垂直配向膜aを用い、一方の基板のみにラビング処理を行い、液晶材料B、Cを用いて液晶層を形成した液晶表示装置について、液晶層平均プレティルト角のラビング処理時押し込み量依存性を求めた。この結果を図2に示す。なお、ここでいう「液晶層平均プレティルト角」とは液晶層の層厚方向における略中央の液晶分子のプレティルト角をいう。図2に示すように、液晶材料B、Cのいずれにおいてもラビング処理時の押し込み量が増加するに従ってプレティルト角が低下する傾向がみられるが、同じ押し込み量で比較するとΔnの大きい液晶材料Cの方がプレティルト角がより大きく低下する傾向がみられる。なお、図示していないが、液晶材料Aを用いた場合は液晶材料Bに比べてプレティルト角がより高く発現することを確認した。具体的には、押し込み量を0.6mmに設定したときのプレティルト角が89.6°程度であった。これらの結果からは、同じ条件でラビング処理を行った場合には、液晶材料のΔnが大きいほどプレティルト角が発現しやすいと考えられることから、液晶材料のΔnが大きくなるに従って垂直配向膜により液晶分子を垂直に配向させようとする配向規制力が低下する傾向にあるとも考えられる。すなわち、シール材の影響を受けやすいシール材近傍領域において液晶層のプレティルト角の発現状態にムラを生じ、液晶材料のΔnが大きくなるに従って光抜けの領域幅が拡大したと考えられる。
【0017】
このような光抜けへの対策としては、液晶材料のΔnが大きくなったとしてもプレティルト角が発現しにくい垂直配向膜を用いることが有効と考えられる。そこで、上記した垂直配向膜aよりもラビング処理によりプレティルト角が発現しにくい垂直配向膜(以下、「垂直配向膜b」という)を用い、液晶材料B、Cを用いて液晶層を形成した液晶表示装置の液晶層平均プレティルト角の押し込み量依存性を調べた。なお、本検討においては上下基板の双方に対してラビング処理を行い、互いのラビング方向をアンチパラレルに配置した。この評価結果を図3に示す。図3に示すように、液晶材料によらず押し込み量が増加するに従ってプレティルト角は低下する傾向がみられ、液晶材料のΔnが大きくなるに従ってその減少度合いが大きくなる傾向がみられる。しかし、上下基板のいずれにもラビング処理を行っているにもかかわらず図2で示した垂直配向膜aの場合に比べプレティルト角は発現しにくいことが分かる。
【0018】
ここで、垂直配向膜bを用いた場合にはプレティルト角が発現しにくいため、例えばプレティルト角が89.5°以下となるような配向状態を実現するにはラビング時の押し込み量をより大きくする必要がある。しかし、押し込み量が大きすぎると液晶層への電圧印加時に外観上、ラビング筋が観察される傾向がみられる。垂直配向膜bでは、押し込み量を0.6mmより大きくした場合にラビング筋が観察されやすくなる傾向がみられた。なお、垂直配向膜bが全面に塗布され、プレティルト角を略89.9°に設定し、液晶材料B、Cを用いて液晶層を形成した液晶表示装置においてはいずれも図1(A)と同様な配向組織が得られておりシール材近傍領域の光抜けが外観上でもほぼ観察されないことが確認できた。したがって、有効表示領域のプレティルト角を89.9°〜88.5°の範囲とすることが必要な場合には垂直配向膜aを使用せざるを得ないが、シール材近傍領域では垂直配向膜bの特性を示していなければ光抜けを抑制できない。そこで、少なくとも液晶表示装置の有効表示領域には垂直配向膜aを用い、それ以外のシール材直下領域およびシール材近傍領域では垂直配向膜bを用いることが好ましいといえる。以下、これらの知見に基づく液晶表示装置の一実施形態について詳述する。
【0019】
図4は、一実施形態の液晶表示装置を模式的に示す正面図(平面図)である。図4に示す本実施形態の液晶表示装置は、上下基板間に配置された液晶層内の液晶分子が電圧無印加時において各基板に対してほぼ垂直に配向する垂直配向型の液晶表示装置であり、上下基板を挟んで配置される各偏光板をクロスニコル配置としたノーマリーブラックモードを採用している。本実施形態の液晶表示装置は、規則的に配列された複数の画素部を有するドットマトリクス型表示部や任意の文字や図案などを表示するための表示部を有するセグメント型表示部を含んだ有効表示領域1と、上下基板の間の液晶層を封止するために上下基板の周縁に沿って設けられたシール材2と、このシール材2の内側(有効表示領域1に近い側)に沿って環状に配置された外周領域3と、この外周領域3と有効表示領域1の間に配置された中間領域4と、外部から駆動信号を供給するための端子部5を備えている。外周領域3は、シール材2の直下領域の有効表示領域1に近い側の少なくとも一部を含み、シール材2より内側へ概ね1mm以上の幅に設定された領域である。
【0020】
図5は、図4に示す液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。図5に示す部分断面図は上述した図4に示すV−V線に対応する断面構造を示したものである。図5に示す構成例の液晶表示装置は、対向配置された上側基板(第1基板)11および下側基板(第2基板)12と、両基板の間に配置された液晶層17を基本構成として備える。
【0021】
上側基板11および下側基板12は、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、上側基板11と下側基板12は、上側電極13aと下側電極14aが対向し、かつ上側電極13bと下側電極14bが対向するようにして、所定の間隙(例えば4μm程度)を設けて貼り合わされている。
【0022】
上側電極13a、13bは、上側基板11の一面側に設けられている。同様に、下側電極14a、14bは、下側基板12の一面側に設けられている。上側電極13a、13bおよび下側電極14a、14bは、それぞれ例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。これらの上側電極13a、13b、下側電極14a、14bを介して駆動回路から液晶層17に駆動電圧が供給される。上側電極13aと下側電極14aは、互いが重なった領域がセグメント表示部の所定の文字や図案を形作るように形成されている。上側電極13bは、紙面の左右方向に対応する第1方向に延在するストライプ形状に形成されており、下側電極14bは、上記の第1方向と直交する第2方向に延在するストライプ形状に形成されている。これらの上側電極13bと下側電極14bとが互いに交差した領域のそれぞれが画素部を形作り、全体としては規則的に配列された複数の画素部からなるドットマトリクス表示部が構成される。
【0023】
配向膜15aは、上側基板11の一面側において上側電極13a、13bを覆うようにして設けられている。配向膜15bは、配向膜15aの上側に設けられ、少なくとも有効表示領域1とは重ならずに外周領域3と重なる位置に配置されている。また、配向膜16は、下側基板12の一面側に、下側電極14a、14bを覆うようにして設けられ、有効表示領域1、外周領域3、中間領域4のいずれとも重なるように配置されている。これらの配向膜15a、15b、16は、液晶層17の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜である。
【0024】
ここで、配向膜15aと配向膜15bの違いについて詳述する。本実施形態においては、配向膜15aと配向膜15bは互いに異なる配向膜材料を用いて形成されている。以後、配向膜15aの配向膜材料を「タイプ1の配向膜材料」といい、配向膜15bの配向膜材料を「タイプ2の配向膜材料」という。これらの相違点は、同一の条件でラビング処理等の一軸配向処理を施した場合に、タイプ1の配向膜材料からなる配向膜15aが液晶分子に与えるプレティルト角θaに比べて、タイプ2の配向膜材料からなる配向膜15bが液晶分子に与えるプレティルト角θbのほうが相対的に高い値を示すことである(すなわち、θa<θbとなる)。つまり、配向膜15aが「低プレティルト配向膜」に相当し、配向膜15bが「高プレティルト配向膜」に相当する。なお、配向膜16については、例えばタイプ2の配向膜材料を用いて形成されており、かつラビング処理等の一軸配向処理は施されていない。
【0025】
液晶層17は、上側基板11と下側基板12の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を用いて液晶層17が構成される。液晶層17に図示された太線は、液晶層17における液晶分子の配向方向を模式的に示したものである。本実施形態の液晶層17は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が上側基板11および下側基板12の各基板面に対して略垂直となる垂直配向モードに設定されている。
【0026】
上側偏光板19は、上側基板11の外側に配置されている。同様に、下側偏光板21は、下側基板12の外側に配置されている。上側偏光板19と下側偏光板21は、各々の吸収軸が互いに略直交するように配置されている。また、上側偏光板19と下側偏光板21の各吸収軸は、配向処理の方向に対応して定義される液晶層17の層厚方向の略中央における液晶分子(液晶層中央分子)の配向方向に対して略45°の角度をなす位置に設定される。なお、各偏光板と各基板との間には適宜Cプレート等の光学補償板が配置されてもよい。例えば本実施形態では、上側基板11と上側偏光板19の間、下側基板12と下側偏光板22の間のそれぞれに光学補償板20、22が配置されている。
【0027】
次に、図5に示した断面構造を有する液晶表示装置の製造方法の一例を説明する。
【0028】
まず、上側電極13a、13bを有する上側基板11、下側電極14a、14bを有する下側基板12をそれぞれ作製する。具体的には、片面が研磨処理され、その表面にSiOアンダーコートが施された後、ITO(インジウム錫酸化物)からなる透明電極が成膜された一対のガラス基板を用意する。これらのガラス基板の透明電極に対してフォトリソグラフィー工程及びエッチング工程を行うことにより所望の形状にパターニングする。なお、本例では省略しているが、必要に応じて、パターニングされた透明電極の一部表面上にSiOなどによる絶縁層を形成してもよい。
【0029】
次いで、上側基板11および下側基板12のそれぞれをアルカリ溶液等で洗浄した後、配向膜を形成する。上側基板11については、まず、タイプ1の配向膜材料(相対的に低いプレティルト角を発現するもの)を上側基板11のほぼ全面に渡ってフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布し、90℃、5分間の条件で仮焼成する。その後、上側基板11の一部、具体的には外周領域3に相当する領域のみにタイプ2の配向膜材料(相対的に高いプレティルト角を発現するもの)をフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布し、90℃、5分間の条件で仮焼成する。その後、仮焼成されたタイプ1、2の各配向膜材料を180℃、30分間の条件で焼成する。また、下側基板12については、タイプ2の配向膜材料を下側基板のほぼ全体に渡ってフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布し、90℃、5分間の条件で仮焼成し、さらに180℃、30分間の条件で焼成する。
【0030】
次に、上側基板11の配向膜15a、15bに対してのみラビング処理を行う。上側基板11には2種類の配向膜15a、15bが形成されており、それらに対して共通条件で一括してラビング処理を行う。ラビング条件は、例えば総厚が略3.2mmの綿製布にてローラー回転数1000rpm、押し込み量0.5mm、ラビング速度150mm/sとする。
【0031】
なお、上側基板11については、上記のような手順で配向膜15a、15bを形成した場合には外周領域3と有効表示領域1並びに中間領域4で明確なプレティルト角の違いを確認できるが、手順を逆にした場合にはプレティルト角の違いを確認できないことが分かった。具体的には、タイプ2の配向膜材料を上側基板11のほぼ全体に渡ってフレキソ印刷法によって塗布して仮焼成し(90℃、5分間)、その後、上側基板11の有効表示領域1並びに中間領域4に相当する領域にタイプ1の配向膜材料をフレキソ印刷法によって塗布して仮焼成し(90℃、5分間)、その後、仮焼成されたタイプ1、2の各配向膜材料を焼成する(180℃、30分間)、という手順で配向膜を形成した場合には明確なプレティルト角の違いを確認できなかった。
【0032】
次いで、一方の基板(例えば上側基板11)に、例えばスクリーン印刷法によってシール材2を形成する。また、他方の基板(例えば下側基板12)には、例えば4μm程度の粒径の球状プラスティックスペーサーを散布する。スペーサーの散布は、例えば乾式散布法によって行われる。
【0033】
次いで、上側基板11と下側基板12を、これらの一面同士が対向するようにして貼り合わせ、一定の加圧状態にて焼成する。それによりシール材2が硬化し、上側基板11と下側基板12が固定される(空セルが完成する)。
【0034】
次いで、真空注入法等の方法によって、上側基板11と下側基板12の間隙に液晶材料(誘電率異方性Δε<0のもの)を注入し、当該注入に用いた注入口を封止した後に、焼成する(例えば120℃、60分間)。これにより液晶層17が形成される。
【0035】
その後、上側基板11の外側に上側偏光板19および光学補償板20を貼り合わせ、かつ下側基板12の外側に下側偏光板21および光学補償板22を貼り合わせる。上側偏光板19と下側偏光板21のそれぞれは、例えば、液晶層17の略中央における液晶分子の配向方向に対して略45°の角度を有し、かつ互いの吸収軸がクロスニコル配置とされる。最後に、リードフレーム等を適宜に取り付けることにより液晶表示装置が完成する。
【0036】
このような製造方法とすることで、配向膜15aと配向膜15bの形成時におけるフレキソ印刷法等の位置合わせ精度がさほど高くなくても、完成した液晶表示装置にて外観上の不具合を発生させることのない配向膜を容易に形成することが可能となる。上記のような構成とすることで外周領域3においては配向膜15bによりプレティルト角が決まるため、シール材と液晶層の境界に沿った光抜け輝線が生じるのみで図1(A)と同様に外観では液晶層における光抜け輝線は確認されなくなる。なお、ここではシール材と液晶層の境界を含む任意の位置において0.8mmの領域を観察したときに液晶層に輝線が2本以上なければ光抜け輝線はないものと判断している。
【0037】
次に、液晶表示装置の他の構成例について説明する。
【0038】
図6は、図4に示す液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。図6に示す構成例の液晶表示装置は、上記した図5に示した構成例の液晶表示装置とは上側基板11に設けられた配向膜の構造が相違しており、その他の構造は共通している。以下、構造の共通するものについては同一符号を用いたうえで説明を省略し、構造の相違点について詳細に説明する。
【0039】
配向膜15cは、上側基板11の一面側に上側電極13a、13bを覆うようにして設けられている。また、配向膜15dは、上側基板11の一面側であって外周領域3に相当する領域に設けられている。図示のように、配向膜15cと配向膜15dは、外周領域3と中間領域4の境界付近においては両者が重なり合っている。詳細には、配向膜15dは、その端部が配向膜15cの端部を覆うようにして設けられている。これらの配向膜15cと配向膜15dは互いに異なる配向膜材料を用いて形成されている。具体的には、配向膜15cは上記した「タイプ1の配向膜材料」を用いて形成されており、配向膜15dは上記した「タイプ2の配向膜材料」を用いて形成されている。これらの相違点について再述すると、同一の条件でラビング処理等の配向処理を施した場合に、タイプ1の配向膜材料からなる配向膜15cが液晶分子に与えるプレティルト角θcに比べて、タイプ2の配向膜材料からなる配向膜15dが液晶分子に与えるプレティルト角θdのほうが相対的に高い値を示すことである(すなわち、θc<θdとなる)。つまり、配向膜15cが「低プレティルト配向膜」に相当し、配向膜15dが「高プレティルト配向膜」に相当する。
【0040】
次に、図6に示した断面構造を有する液晶表示装置の製造方法の一例を説明する。なお、配向膜15c、15dの形成工程以外は上記した図2に示した液晶表示装置の製造方法と共通するので、ここでは配向膜15c、15dの形成工程のみ説明する。
【0041】
上側基板11および下側基板12のそれぞれをアルカリ溶液等で洗浄した後、配向膜を形成する。まず、タイプ1の配向膜材料(相対的に低いプレティルト角を発現するもの)を上側基板11のシール材2内側において有効表示領域1および中間領域4に相当する領域にフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布する。その後、塗布した配向膜材料を90℃、5分間の条件で仮焼成する。次に、タイプ2の配向膜材料(相対的に高いプレティルト角を発現するもの)を上側基板11の外周領域3に相当する領域にフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布し、90℃、5分間の条件で仮焼成する。このとき、中間領域4と外周領域3の境界を中間領域4側に若干オーバーする程度に配向膜材料を塗布する。その後、仮焼成されたタイプ1、2の各配向膜材料を180℃、30分間の条件で焼成する。
【0042】
次に、上側基板11の配向膜15c、15dに対してラビング処理を行う。上側基板11には2種類の配向膜15c、15dが形成されており、それらに対して共通条件で1回のラビング処理を行う。ラビング条件は、例えば総厚が略3.2mmの綿製布にてローラー回転数1000rpm、押し込み量0.5mm、ラビング速度150mm/sとする。
【0043】
その後、上記と同様の工程を経て、図6に示した断面構造の液晶表示装置が完成する。この液晶表示装置は、図6に示すように外周領域3と中間領域4の境界において配向膜15cの端部の上に配向膜15dの端部が重なる構造を有する。
【0044】
このような製造方法とすることによっても、配向膜15cと配向膜15dの形成時におけるフレキソ印刷法等の位置合わせ精度がさほど高くなくても、完成した液晶表示装置にて外観上の不具合を発生させることのない配向膜を容易に形成することが可能となる。
【0045】
図7は、図4に示す液晶表示装置の断面構造の一例を示す部分断面図である。図7に示す構成例の液晶表示装置は、上記した図5、図6のそれぞれに示した構成例の液晶表示装置とは上側基板11に設けられた配向膜の構造が相違しており、その他の構造は共通している。以下、構造の共通するものについては同一符号を用いたうえで説明を省略し、構造の相違点について詳細に説明する。
【0046】
配向膜15eは、上側基板11の一面側に、上側電極13a、13bを覆うようにして設けられている。また、配向膜15fは、上側基板11の一面側であって外周領域3に相当する領域に設けられている。図示のように、配向膜15eと配向膜15fは、外周領域3と中間領域4の境界付近においては両者の端部同士が繋がっている。これらの配向膜15eと配向膜15fは同一の配向膜材料を用いて形成されている。具体的には、配向膜15e、15fともに上記した「タイプ2の配向膜材料」を用いて形成され、同一条件でラビング処理が施されている。さらに、配向膜15eについては、ラビング処理の前または後に紫外線照射による改質処理が施されている。この紫外線照射により、配向膜15eが液晶分子に与えるプレティルト角θeに比べて、配向膜15fが液晶分子に与えるプレティルト角θfのほうが相対的に高い値を示すようにしている(θe<θf)。つまり、配向膜15eが「低プレティルト配向膜」に相当し、配向膜15fが「高プレティルト配向膜」に相当する。
【0047】
次に、図7に示した断面構造を有する液晶表示装置の製造方法の一例を説明する。なお、配向膜15e、15fの形成工程以外は上記した図5に示した液晶表示装置の製造方法と共通するので、ここでは配向膜15e、15fの形成工程のみ説明する。
【0048】
上側基板11および下側基板12のそれぞれをアルカリ溶液等で洗浄した後、配向膜を形成する。タイプ2の配向膜材料(相対的に高いプレティルト角を発現するもの)を上側基板11のほぼ全体に渡ってフレキソ印刷法またはインクジェット法によって塗布し、90℃、5分間の条件で仮焼成し、さらに180℃、30分間の条件で焼成する。次に、焼成後の配向膜材料に対し、有効表示領域1および中間領域4に対応する領域のみに光が照射されるようにマスクを施して紫外線を照射する。紫外線の照射は、例えば光源に高圧水銀ランプを有する紫外線露光機を用いて行う。紫外線の照射条件は、例えば波長365nm、照度を略70mW/cmとする。これにより、紫外線の照射された領域に配向膜15eが形成され、それ以外の領域に配向膜15fが形成される。
【0049】
次に、上側基板11の配向膜15e、15fに対してラビング処理を行う。上側基板11には2種類の配向膜15e、15fが形成されており、それらに対して共通条件で1回のラビング処理を行う。ラビング条件は、例えば総厚が略3.2mmの綿製布にてローラー回転数1000rpm、押し込み量0.5mm、ラビング速度150mm/sとする。なお、このラビング処理は上記した紫外線照射の前に行ってもよいが、以下の理由により紫外線照射の後に行うことがより好ましい。すなわち、ラビング処理前に紫外線照射を行った場合には紫外線の照射量が増加するにしたがって徐々にプレティルト角が低下する傾向が見られるが、ラビング処理後の紫外線照射を行った場合には40〜50J/cm間で急激にプレティルト角が変化する傾向が見られる。このことから、配向膜15eによるプレティルト角の制御性という点では紫外線照射後にラビング処理を行うことが好適である。
【0050】
その後、上記と同様の工程を経て、図7に示した断面構造の液晶表示装置が完成する。この液晶表示装置は、図7に示すように外周領域3と中間領域4の境界において配向膜15eと配向膜15fの端部同士が連続的に繋がった構造を有する。
【0051】
このような製造方法によれば、紫外線照射を比較的高精度に行うことができることから、外周領域3と有効表示領域1並びに中間領域4のそれぞれに対応した2種類の配向膜15e、15fを容易に形成することができる。
【0052】
ここで、紫外線の照射量とプレティルト角の関係について説明する。
【0053】
図8は、液晶材料Cを用いた液晶表示装置において液晶層平均プレティルト角の紫外線照射量依存性を示す図である。この観察は配向膜に対してラビング処理前または処理後に照射したときの両方に関して検討した。図8に示すように、ラビング処理前に紫外線を照射した場合には、紫外線の照射量が増加するにしたがって徐々にプレティルト角が低下する傾向がみられるがラビング処理後に照射した場合は40〜50J/cmの間で急激にプレティルト角が変化する傾向が観察された。この傾向が液晶材料Bを用いた場合においても同様であったことから、紫外線照射はラビング処理前が好ましいといえる。
【0054】
図9は、液晶材料Bを用いた液晶表示装置において紫外線照射領域と非照射領域を1つの液晶表示装置内に作製した時の液晶層平均プレティルト角の照射量依存性を示す図である。なお、紫外線照射はラビング処理前に行った。図9に示すように、非照射領域では紫外線照射量に依存せずプレティルト角はほぼ一定で略89.97°であるのに対して、紫外線照射領域では紫外線照射量が50、60、70J/cmのそれぞれにおいてプレティルト角が89.76°、89.31°、81.21°と変化することが分かった。特に60〜70J/cmの間では急激にプレティルト角が変化するが、88.5°程度のプレティルト角を実現するには略65J/cm程度の紫外線照射が必要であった。各液晶表示装置の外観観察を行った結果、いずれにおいても外観からプレティルト角に違いが観察されることを認識することが可能であった。
【0055】
このように本実施形態によれば、シール材による影響で液晶層の配向不均一を生じやすい外周領域におけるプレティルト角をより高くすることで、配向規制力を高め、この外周領域における光抜けを抑制することが可能となる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記においては上側基板の配向膜にのみ配向処理(ラビング処理)を行っていたが、さらに下側基板の配向膜に対して配向処理を行ってもよい。また、下側基板の配向膜についても、低プレティルト配向膜と高プレティルト角を設けてもよい。また、上記では一軸配向処理の一例としてラビング処理を挙げていたがこれに限定されず、例えば光配向処理などの一軸配向処理を用いることもできる。
【0057】
また、上記した実施形態においては、シール材2と重なる領域の有効表示領域1に近い側の少なくとも一部を含んでシール材3の際から1mm以上の幅をもった領域である外周領域3をプレティルト角が高い領域、有効表示領域1と中間領域4を低いプレティルト角の領域と定義したが、この限りではない。例えば、セグメント表示部であれば、上側電極と下側電極が重なる領域のみを選択的にプレティルト角が低い領域とし、それ以外の領域プレティルト角が高い領域とすることも可能である。さらに、紫外線照射によりプレティルト角が異なる領域を形成する場合であれば、ドットマトリクス表示部の非表示部や表示部の一部の領域を紫外線照射しない領域にすることも高精度に設定可能と考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1:有効表示領域
2:シール材
3:外周領域
4:中間領域
5:端子部
11:上側基板
12:下側基板
13a、13b:上側電極
14a、14b:下側電極
15a、15b、15c、15d、15e、15f、16:配向膜
17:液晶層
19:上側偏光板
20、22:光学補償板(視角補償板)
21:下側偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の一面側に設けられた第1電極と、
前記第2基板の一面側に設けられた第2電極と、
前記第1基板の一面側に設けられた第1垂直配向膜と、
前記第2基板の一面側に設けられた第2垂直配向膜と、
誘電率異方性が負の液晶材料からなり、前記第1基板と前記第2基板の相互間に設けられた液晶層と、
前記液晶層を囲んで前記第1基板と前記第2基板の相互間に設けられたシール材と、
を含み、
前記第1基板と前記第2基板の重なる領域内には、前記第1電極と前記第2電極が重なる部分を内包する有効表示領域と、前記シール材と重畳する領域と当該シール材の端部から前記有効表示領域に向かって少なくとも1mm以上の幅の領域からなる外周領域が設けられており、
前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記外周領域において前記液晶層に接する部位が前記有効表示領域において前記液晶層と接する部位よりも相対的に高いプレティルト角を発現し、かつ前記外周領域と前記有効表示領域のいずれにおいても88.5°以上90°未満の前記プレティルト角を発現する、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域及び前記外周領域に渡って配置された低プレティルト配向膜と、当該低プレティルト配向膜に重ねて前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有する、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域を含んで前記外周領域の近傍まで配置された低プレティルト配向膜と、前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有し、
前記低プレティルト配向膜と前記高プレティルト配向膜は、相互の端部が前記高プレティルト配向膜を上にして重なっている、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1及び第2垂直配向膜の少なくとも一方は、前記有効表示領域を含んで前記外周領域の近傍まで配置された低プレティルト配向膜と、前記外周領域に配置された高プレティルト配向膜を有し、
前記低プレティルト配向膜と前記高プレティルト配向膜は、相互の端部同士が繋がっており、
前記低プレティルト配向膜は、前記高プレティルト配向膜と同一材料からなる膜を紫外線照射によって改質したものである、請求項1に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−64937(P2013−64937A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204541(P2011−204541)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】