説明

液晶装置、液晶装置の製造方法、電子機器

【課題】液晶層における液晶分子の初期配向状態が安定した略垂直配向型の液晶装置、液晶装置の製造方法、該液晶装置を備えた電子機器を提供すること。
【解決手段】液晶装置100は、一対の基板間に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層50と、一対の基板のそれぞれに設けられ、インジウムを主体とする金属酸化物からなる画素電極15および共通電極23と、画素電極15および共通電極23上に設けられ、液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜18,24と、反応性メソゲンを有する液晶モノマーの光重合物からなり、無機配向膜18,24と液晶層50との間に形成された配向制御膜19,25と、を備えた。配向制御膜形成工程では、液晶層50が等方性となるNi点未満の温度であって常温よりも高い温度に液晶層50を加温した状態で光を照射して、液晶モノマーを重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、液晶装置の製造方法、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置として、画素領域に液晶ドメインを形成するための陥没パターンを含むドメイン形成層および画素電極を含む第1基板と、該第1基板と対向する全面に形成された共通電極を含む第2基板と、該第1基板と該第2基板との間に介在され、液晶ドメインを形成する液晶分子を固定させる反応性メソゲンを有する液晶層と、を含む表示装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記表示装置の製造方法によれば、第1基板と第2基板との間に液晶層を介在させた状態で画素電極と共通電極との間に電圧を印加して電界を発生させ、液晶分子がプレチルトされた状態で、第1基板と第2基板に光を照射する。光は例えば紫外線であって、液晶層中の反応性メソゲンモノマーが光反応して重合し、反応性メソゲン硬化物(RM硬化物)が形成される。RM硬化物は、画素電極上や共通電極上に設けられた配向膜と該配向膜に接する液晶分子との間に形成される。このようなRM硬化物の形成により、液晶分子が不整な配向状態となることを低減して安定した表示性能を実現しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−181874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の表示装置は、負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶を用い、上記配向膜は、液晶分子を垂直配向させる垂直配向物質を含むものであるとしている。
負の誘電異方性を有する液晶分子を垂直配向させる配向膜としては、例えばポリイミドなどの有機配向膜や酸化シリコンなどの無機材料を基板面に対して例えば斜め蒸着して得られた無機配向膜が挙げられる。
【0006】
一方、第1基板には画素電極だけでなく、画素電極をスイッチング制御するためのトランジスターを含む画素回路や周辺回路が設けられる。第2基板には共通電極だけでなく画素を光学的に区画するための遮光部(ブラックマトリクス;BM)などが設けられる。したがって、第1基板側または第2基板側から液晶層に光を照射しても上記画素回路や上記遮光部などによって光が遮られ、配向膜と液晶層との界面において反応性メソゲンモノマーを効率よく硬化させることが難しい。
とりわけ、上述した無機配向膜を用いた場合には、無機配向膜は光(紫外線)を容易に透過するので、光(紫外線)を吸収して励起電子やホールを発生し易い有機配向膜に比べて、無機配向膜に接する液晶分子との間において反応性メソゲンモノマーを効率よく硬化させることが難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の液晶装置は、一対の基板間に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層と、前記一対の基板の少なくとも一方に設けられ、インジウムを主体とする金属酸化物からなる電極と、前記電極上に設けられ、前記液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜と、反応性メソゲンを有する液晶モノマーの光重合物からなり、前記無機配向膜と前記液晶層との間に形成された配向制御膜と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、インジウムを主体とする金属酸化物は光触媒として機能するため、液晶モノマーを重合させる光を電極が吸収すると、励起電子やホールが発生する。発生した励起電子やホールが無機配向膜と液晶層との界面に到達してラジカル種が生じ、液晶モノマーの重合が促進される。したがって、無機配向膜と液晶層との間にムラのない配向制御膜が得られ、液晶分子の初期的な配向状態(方位角やプレチルト角)が安定し、所望の電気光学特性を有する液晶装置を提供できる。
【0010】
[適用例2]本適用例の他の液晶装置は、一対の基板間に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層と、前記一対の基板の一方に設けられ、光を反射する反射層と、前記反射層上に設けられインジウムを主体とする金属酸化物からなる画素電極と、前記一対の基板の他方に設けられたインジウムを主体とする金属酸化物からなる共通電極と、前記画素電極上および前記共通電極上に設けられ、前記液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜と、反応性メソゲンを有する液晶モノマーの光重合物からなり、前記無機配向膜と前記液晶層との間に形成された配向制御膜と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、インジウムを主体とする金属酸化物は光触媒として機能するため、液晶モノマーを重合させる光を画素電極や共通電極が吸収すると、励起電子やホールが発生する。発生した励起電子やホールが無機配向膜と液晶層との界面に到達してラジカル種が生じ、液晶モノマーの重合が促進される。したがって、無機配向膜と液晶層との間にムラのない配向制御膜が得られ、液晶分子の初期的な配向状態(方位角やプレチルト角)が安定し、所望の電気光学特性を有する反射型の液晶装置を提供できる。
【0012】
[適用例3]本適用例の液晶装置の製造方法は、一対の基板の少なくとも一方にインジウムを主体とする金属酸化物を用いて電極を形成する電極形成工程と、前記電極上に負の誘電異方性を有する液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜を形成する配向膜形成工程と、前記一対の基板間に前記液晶分子と反応性メソゲンを有する液晶モノマーとを含む液晶を充填する液晶充填工程と、前記一対の基板間に挟持された前記液晶に光を照射して前記液晶モノマーを重合させ、前記無機配向膜と前記液晶との間に配向制御膜を形成する配向制御膜形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、配向制御膜形成工程において、液晶モノマーを含む液晶に光を照射すると、インジウムを主体とする金属酸化物は光触媒として機能するため、光を吸収した電極から励起電子やホールが発生する。発生した励起電子やホールが無機配向膜と液晶層との界面に到達してラジカル種が生じ、液晶モノマーの重合が促進される。したがって、無機配向膜と液晶層との間にムラのない配向制御膜が得られ、液晶分子の初期的な配向状態(方位角やプレチルト角)が安定し、所望の電気光学特性を有する液晶装置を製造できる。
【0014】
[適用例4]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記配向制御膜形成工程では、前記液晶が等方性となるNi点未満の温度であって常温よりも高い温度に前記液晶を加温した状態で光を照射することが好ましい。
【0015】
[適用例5]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記液晶の動粘度が、常温における動粘度の10%以上20%以下となるように前記液晶を加温することがより好ましい。
これらの方法によれば、液晶が液晶相を示す温度範囲において加温され低粘度な状態で光が照射されるので、液晶モノマーの光重合がより効率的に進んで配向制御膜をムラなく形成することができる。
【0016】
[適用例6]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置、あるいは上記適用例の液晶装置の製造方法を用いて製造された液晶装置を備えることを特徴とする。
所望の電気光学特性が得られる液晶装置を備えているので、優れた表示品質を有する電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は第1実施形態の液晶装置の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のH−H’線で切った概略断面図。
【図2】第1実施形態の液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】第1実施形態の液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図。
【図4】素子基板における配向制御膜および液晶分子の配向状態を示す模式図。
【図5】第1実施形態の液晶装置の製造方法を示すフローチャート。
【図6】第1実施形態の液晶装置の製造方法における配向制御膜形成工程を示す概略図断面。
【図7】液晶層の温度と粘度との関係を示すグラフ。
【図8】実施例の光の照射条件と照射後の残留モノマーの量との関係を示す表。
【図9】第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図。
【図10】電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0019】
なお、以下の形態において、例えば「基板上に」と記載された場合、基板の上に接するように配置される場合、または基板の上に他の構成物を介して配置される場合、または基板の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0020】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0021】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について、図1および図2を参照して説明する。図1(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のH−H’線で切った概略断面図、図2は液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【0022】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板のうちの一方の基板としての素子基板10と、他方の基板としての対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。素子基板10および対向基板20は、透明な例えば石英などのガラス基板が用いられている。
【0023】
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、額縁状に配置されたシール材40を介して接合され、その隙間に負の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。シール材40は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性のエポキシ樹脂などの接着剤が採用されている。シール材40には、一対の基板の間隔を一定に保持するためのスペーサー(図示省略)が混入されている。
【0024】
額縁状に配置されたシール材40の内側には、同じく額縁状に遮光膜21が設けられている。遮光膜21は、例えば遮光性の金属あるいは金属酸化物などからなり、遮光膜21の内側が複数の画素Pを有する表示領域Eとなっている。図1では詳細な図示を省略したが、遮光膜21は表示領域Eにおいて画素Pをそれぞれ平面的に区分するように対向基板20側に設けられている。
【0025】
素子基板10の1辺部に沿ったシール材40との間にデータ線駆動回路101が設けられている。また、該1辺部に対向する他の1辺部に沿ったシール材40の内側に検査回路103が設けられている。さらに、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿ったシール材40の内側に走査線駆動回路102が設けられている。該1辺部と対向する他の1辺部のシール材40の内側には、2つの走査線駆動回路102を繋ぐ複数の配線105が設けられている。これらデータ線駆動回路101、走査線駆動回路102に繋がる配線は、該1辺部に沿って配列した複数の外部接続端子104に接続されている。
以降、該1辺部に沿った方向をX方向とし、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿った方向をY方向として説明する。
なお、検査回路103の配置はこれに限定されず、データ線駆動回路101と表示領域Eとの間のシール材40の内側に沿った位置に設けてもよい。
【0026】
図1(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素Pごとに設けられた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター30を含む画素回路と、配向膜18とが形成されている。
【0027】
対向基板20の液晶層50側の表面には、遮光膜21と、これを覆うように成膜された層間膜層22と、層間膜層22を覆うように設けられた光透過性を有する共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜24とが設けられている。
【0028】
遮光膜21は、図1(a)に示すように平面的にデータ線駆動回路101や走査線駆動回路102、検査回路103と重なる位置において額縁状に設けられている。これにより対向基板20側から入射する光を遮蔽して、これらの駆動回路を含む周辺回路の光による誤動作を防止する役目を果たしている。また、不必要な迷光が表示領域Eに入射しないように遮蔽して、表示領域Eの表示における高いコントラストを確保している。
【0029】
層間膜層22は、例えば酸化シリコンなどの無機材料からなり、光透過性を有して遮光膜21を覆うように設けられている。このような層間膜層22の形成方法としては、例えばプラズマCVD法などを用いて上記無機材料を成膜する方法が挙げられる。
【0030】
共通電極23は、層間膜層22を覆うと共に、図1(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0031】
画素電極15を覆う配向膜18および共通電極23を覆う配向膜24は、SiOx(酸化シリコン)などの無機材料を物理気相成長法を用いて成膜されたものである。物理気相成長法としては、配向膜18,24が形成される基板と、無機材料を放出する放出源とを該基板の法線方向に対して傾斜させて配置して成膜を行うものであって、斜方蒸着法、斜方スパッタ法などが挙げられる。このような配向膜18,24の形成方法によれば、配向膜18,24の表面に対してプレチルトを与えた状態で液晶分子を垂直配向させることができる。さらに、本実施形態では、配向膜18,24の表面に対して液晶分子がプレチルトを与えられて垂直配向する状態がより安定するように配向膜18,24と液晶層50との界面に配向制御膜が設けられている。配向制御膜は、液晶層50中に加えた反応性メソゲンを有する液晶モノマーを、液晶層50に光(例えば紫外線)を照射することにより重合させたものである。配向制御膜の詳細については後述する。
以降、液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させることを「略垂直配向」あるいは「略垂直配向処理」と呼ぶ。
【0032】
図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも表示領域Eにおいて互いに絶縁されて直交する複数の走査線3aおよび複数のデータ線6aと、データ線6aに対して一定の間隔を置いて平行するように配置された容量線3bとを有する。
【0033】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bと、これらの信号線類により区分された領域に、TFT30と、保持容量16とが設けられ、これらが画素Pの画素回路を構成している。
【0034】
TFT30のゲートは走査線3aに電気的に接続され、TFT30のソースはデータ線6aに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素Pに供給する。走査線3aは走査線駆動回路102(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路102から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素Pに供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に列順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路102は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングで、互いに重複しないパルス信号として順次供給する。
【0035】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に供給された所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量16が接続されている。保持容量16は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0036】
なお、図1(a)に示した検査回路103には、データ線6aが接続されており、液晶装置100の製造過程において、上記画像信号を検出することで液晶装置100の動作欠陥などを確認できる構成となっているが、図2の等価回路では省略している。また、検査回路103は、上記画像信号をサンプリングしてデータ線6aに供給するサンプリング回路、データ線6aに所定電圧レベルのプリチャージ信号を画像信号に先行して供給するプリチャージ回路を含むものとしてもよい。
【0037】
このような液晶装置100は透過型であって、画素Pが非駆動時に明表示となるノーマリーホワイトモードや、非駆動時に暗表示となるノーマリーブラックモードの光学設計が採用される。光の入射側と射出側とにそれぞれ偏光素子が光学設計に応じて配置されて用いられる。
【0038】
次に、液晶装置100における液晶分子の配向状態について、図3を参照して説明する。図3は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図である。
図3に示すように、液晶装置100における画素電極15および共通電極23の表面には、酸化シリコンを物理気相成長法の一例である斜方蒸着法により斜め蒸着して得られた配向膜18および配向膜24が形成されている。具体的には、液晶層50に面した基板面に対する蒸着方向の角度θbはおよそ45°である。このような斜め蒸着により基板面には蒸着方向に向って酸化シリコンの結晶体が柱状に成長する。この柱状結晶体をカラム18a,24aと呼ぶ。配向膜18,24はこのようなカラム18a,24aの集合体からなる無機配向膜である。また、基板面に対するカラム18a,24aの成長方向の角度θcは蒸着方向の角度θbと必ずしも一致せず、この場合およそ70°となっている。
【0039】
このような配向膜18,24の表面において略垂直配向する液晶分子LCのプレチルト角θpはおよそ85°である。また、基板面の法線方向から見た液晶分子LCのプレチルトの方向すなわち方位角方向は、配向膜18,24における斜め蒸着の平面的な蒸着方向と同じである。
【0040】
対向配置された素子基板10および対向基板20ならびにこれら一対の基板間に挟持された液晶層50を含めたものを液晶パネル110と呼ぶ。液晶装置100は、液晶パネル110の光の入射側と射出側とにそれぞれ配置された偏光素子41,42を有して用いられる。また、偏光素子41,42は、偏光素子41,42のうちの一方の透過軸または吸収軸がX方向またはY方向に対して平行となるように、且つ互いの透過軸または吸収軸が直交するように液晶パネル110に対してそれぞれ配置されている。
【0041】
本実施形態では、表示領域Eにおいて偏光素子41,42の透過軸または吸収軸に対して液晶分子LCのプレチルトの方位角θaが45°で交差するように略垂直配向処理が施されている。より具体的には、図1(a)に示すように、素子基板10においては、破線で示した矢印の方位角方向(紙面の右上から左下に向かう方向)から斜め蒸着が行われている。一方、対向基板20においては、素子基板10に対して対向配置された状態を想定したときに、実線で示した矢印の方位角方向(紙面の左下から右上に向かう方向)から斜め蒸着が行われている。
【0042】
なお、上記略垂直配向処理の方位角方向は、液晶装置100の光学設計条件に基づいて適宜設定される。したがって、図1(a)に示した方位角方向に限定されない。
また、液晶パネル110に対する光の入射方向は、図3に示すように素子基板10側から入射することに限定されない。さらには、光の入射側または射出側に位相差板などの光学補償素子を備える構成としてもよい。
【0043】
次に、図4を参照して配向制御膜について説明する。図4は素子基板における配向制御膜および液晶分子の配向状態を示す模式図である。
【0044】
図4に示すように、素子基板10の画素電極15上には斜方蒸着法によって酸化シリコンの結晶体からなるカラム18aが形成され、複数のカラム18aの集合体からなる配向膜18が設けられている。配向膜18と液晶層50との界面において反応性メソゲンを有する液晶モノマー19aの重合体である配向制御膜19が形成されている。
【0045】
液晶モノマー19aは、酸化シリコンからなるカラム18aの表面における水酸基(OH基)から水素(H)が離脱することで活性化された酸素との間で結合すると考えられる。そしてカラム18aの集合体である配向膜18に対してほぼ一定の角度を持って互いに結合して配向制御膜19を構成している。
液晶分子LCは、配向制御膜19における液晶モノマー19aの配列に倣うように配向する。つまり、液晶分子LCが単独に配向膜18に対して配向する場合に比べて、液晶分子LCの初期配向における方位角θaとプレチルト角θpとが少なくとも安定するので、安定した電気光学特性が得られる。
【0046】
なお、図4では分かり易く説明するため、画素電極15上に複数のカラム18aが間隔を置いて配置されているが、実際にはカラム18aは密集した状態で形成されている。また、隣り合って配列した液晶モノマー19aの間に液晶分子LCが入り込んで配列した状態となっているが、これに限定されるものではない。
配向制御膜19は、配向膜18と液晶層50との界面において重合した液晶モノマー19aの単分子層からなるものが好ましいが、重合して成長した複数分子層からなるものとしてもよい。
また、液晶モノマー19aはカラム18aに結合することに限らず、カラム18aの間において画素電極15が露出した部分があれば、当該露出部分にも結合することは可能である。
【0047】
このような配向制御膜19は、素子基板10側だけでなく、同様にして対向基板20の液晶層50に面する側にも配向制御膜25が設けられている。いずれの場合にも、液晶層50に面する側においてムラなく形成されていることが好ましいことは言うまでもない。
【0048】
一方、反応性メソゲンを有する液晶モノマー19aを重合させる方法としては、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50に対して、紫外線などの光を照射して光重合させる方法が挙げられる。しかしながら、前述したように素子基板10には画素電極15を駆動制御するための画素回路が設けられている。対向基板20には画素Pを区画する遮光膜21が設けられている。これらの画素回路や遮光膜21などによって照射された光が遮光されるため、液晶モノマー19aを効率よく光重合させ、ムラなく配向制御膜19を形成することが難しいという課題がある。
【0049】
そこで、本実施形態では、素子基板10の画素電極15および対向基板20の共通電極23は、インジウムを主体とする金属酸化物を用いて形成されている。具体的には、例えばITOやIZOなどが挙げられる。
【0050】
インジウムを主体とする金属酸化物は光触媒材料であることが知られている(例えば、特開2008−229476号公報)。光触媒材料は特定の波長の光を吸収して電子を励起させる性質があり、発生した励起電子やホールは光触媒材料表面に到達すると、酸素や水と化合して様々なラジカル種を発生させる。このラジカル種が主として酸化作用を示すことが知られている。
【0051】
このような光触媒材料としてチタン(Ti)の酸化物を挙げることはできるが、チタンの酸化物は導電性を示さない。また、光触媒作用において、液晶分子LCが分解されるなどの悪影響を及ぼすおそれがあるので、画素電極15や共通電極23として採用できない。言い換えれば、光透過性と導電性とを兼ね備え、液晶分子LCに影響を及ぼさない範囲で液晶モノマー19aの光重合を促進させる光触媒材料としてインジウムを主体とする金属酸化物からなる導電膜を採用することが好ましい。
【0052】
このような画素電極15および共通電極23ならびに配向制御膜19,25の詳しい形成方法については、以下の液晶装置の製造方法において説明する。
【0053】
<液晶装置の製造方法>
次に、本実施形態の液晶装置の製造方法について、図5および図6を参照して説明する。図5は液晶装置の製造方法を示すフローチャート、図6は液晶装置の製造方法における配向制御膜形成工程を示す概略図断面である。
【0054】
図5に示すように、液晶装置100の製造方法は、素子基板10側において、画素電極15を形成する画素電極形成工程(ステップS1)と、配向膜18を形成する配向膜形成工程(ステップS2)とを備えている。また、対向基板20側において、共通電極23を形成する共通電極形成工程(ステップS3)と、配向膜24を形成する配向膜形成工程(ステップS4)とを備えている。さらに、配向膜がそれぞれ形成された素子基板10と対向基板20との間に液晶を充填する液晶充填工程(ステップS5)と、配向制御膜形成工程(ステップS6)とを備えている。なお、素子基板10に画素電極15以外のTFT30を含む画素回路を形成する方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0055】
ステップS1の画素電極形成工程では、素子基板10の表面を覆うように例えばITOからなる透明導電膜を蒸着法やスパッタ法などを用いて成膜し、これをフォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、画素Pごとの画素電極15を形成する。透明導電膜の厚みはおよそ10nm〜150nmの範囲が好ましい。これにより光の吸収による透過率の低下を抑えることができる。そして、ステップS2へ進む。
【0056】
ステップS2の配向膜形成工程では、前述したように、光学設計に基づいた素子基板10に対する方位角θaおよび蒸着角度θbの方向から酸化シリコンを斜め蒸着して、酸化シリコンの結晶体からなるカラム18aを素子基板10上に成長させて配向膜18を形成する(図1、図3参照)。配向膜18の膜厚はおよそ50nmである。
【0057】
一方で、ステップS3の共通電極形成工程は、素子基板10における画素電極15の形成方法と基本的に同じである。対向基板20の表面を覆うように例えばITOからなる透明導電膜を蒸着法やスパッタ法などを用いて成膜し、これをフォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、共通電極23を形成する。共通電極23の厚みは画素電極15と同様におよそ10nm〜150nmの範囲が好ましい。ただし、共通電極23は少なくとも表示領域Eに亘って対向基板20の表面を覆うように形成する必要があるので、電気抵抗を考慮する場合には、画素電極15に比べて膜厚を厚くしておくことが好ましい。
【0058】
ステップS4の配向膜形成工程では、前述したように、光学設計に基づいた対向基板20に対する方位角θaおよび蒸着角度θbの方向から酸化シリコンを斜め蒸着して、酸化シリコンの結晶体からなるカラム24aを対向基板20上に成長させて配向膜24を形成する(図1、図3参照)。配向膜24の膜厚はおよそ50nmである。
【0059】
ステップS5の液晶充填工程では、素子基板10と対向基板20のうちいずれか一方にシール材40を例えば印刷法や吐出法を用いて所定の位置に配置する。素子基板10と対向基板20とを所定の間隔をおいて対向配置してシール材40を硬化させる。そして、素子基板10と対向基板20との隙間に負の誘電異方性を有する液晶分子LCと反応性メソゲンを有する液晶モノマー19aとを含む液晶を注入する。液晶の注入方法としては、例えば素子基板10と対向基板20との隙間を減圧してシール材40に設けられた注入口から液晶を該隙間に注入する真空注入法が挙げられる。シール材40に設けられた注入口は液晶注入後に例えば紫外線硬化型の接着剤を用いて封止される。なお、液晶の充填方法としてはこれに限定されず、シール材40を額縁状に配置してこれを土手とし、シール材40で囲まれた内側に減圧下で上記液晶を滴下した後に素子基板10と対向基板20とを貼り合わせる、所謂ODF(One Drop Fill)法を用いてもよい。
【0060】
反応性メソゲンを有する液晶モノマー19aとしては、紫外線などの光の照射により生じたラジカル種によって重合が開始されるラジカル重合性モノマーが用いられる。
【0061】
ラジカル重合性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルなど、下記化1、化2、化3に示すような、反応性メソゲンを有する液晶性骨格を備えたものが好ましい。下記化1〜化3のR1やR2の末端基は、少なくとも一方がアクリレート、メタクリレート、ビニル、ビニロキシ、エポキシなどの重合基である。
【0062】
【化1】

【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
これらのラジカル重合性モノマーすなわち液晶モノマー19aの液晶中における含有率は0.1wt%〜1.0wt%が好ましい。これによれば、ラジカル重合性モノマーが液晶性骨格を有することにより、例えば、ラジカル重合性モノマーの重合物が液晶層50中に残った場合でも、液晶分子LCの配向に悪影響を及ぼすことを抑えることができる。
また、重合開始剤を液晶モノマー19aとほぼ同量の0.1wt%〜1.0wt%添加して、より効率的に光重合が促進されるようにしてもよい。
【0066】
ステップS6の配向制御膜形成工程では、図6に示すように、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50を有する液晶パネル110に対して光を照射する。光の照射により液晶層50中に含まれた液晶モノマー19aが重合して、配向膜18,24と液晶層50との界面にそれぞれ配向制御膜19,25が形成される。
光は、およそ400nm以下の波長の紫外線を含む光である。このような光を発する光源としては、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプなどが挙げられる。
【0067】
なお、光の照射は、図6に示すように液晶パネル110の対向基板20側から液晶層50に入射するように行うことに限定されず、素子基板10側からでもよいし、素子基板10側と対向基板20側の両方から光を入射させてもよい。
【0068】
光の照射条件の1つとしては、液晶層50が物性的に等方性とならず液晶相を示す温度範囲内で光を照射することが好ましい。なぜならば、液晶層50をNi点よりも高い温度にして等方とすると、液晶モノマー19aの光重合時における分子運動が活発過ぎて重合がうまく進まないおそれがある。
【0069】
また、前述したようにムラなく配向制御膜19,25を形成するには、ランプの光量を上げたり、照射時間を長くして十分に光を照射する必要ことが望ましい。だが、液晶層50に含まれた液晶分子LCが紫外線を含む光の照射により変質して、比抵抗が低下するなどの悪影響を及ぼすおそれがある。また、照射時間が長くなれば製造工程における生産性が低下することは言うまでもない。
そこで発明者は、配向制御膜形成工程において、上記のような不具合が生ぜず、効率よく光重合が進む条件を見出した。
【0070】
図7は液晶層の温度と粘度との関係を示すグラフ、図8は実施例の光の照射条件と照射後の残留モノマーの量との関係を示す表である。
【0071】
図7に示すように、液晶は加温されることにより動粘度[mm2/s;センチストークス]が低下し、等方となるNi点付近でほぼ飽和する。ここで用いた液晶は前述したように負の誘電異方性を有するものであって、液晶相を示す温度範囲は、例えば−30℃〜110℃となっている。Ni点は107℃である。常温(20℃)のときの動粘度を1とすると、Ni点付近の100℃では、0.07(7%)程度となっている。
【0072】
液晶モノマー19aの分子運動は、例えば以下の数式(1)に示されたブラウン運動として表すことができる。
<(x−x02>=(2RT/NAf)t・・・・・(1)
数式(1)の左辺は、ブラウン運動する物体の平衡位置x0からのずれの2乗の平均である(系は1次元とする)。Rは気体定数、Tは絶対温度、fは易動度(媒質の粘性に関係し、ブラウン運動する物体の速度をvとすると、fvはその速度に比例する抵抗力となる)、tは十分経過した時間(極限としては、t→∞)である。そして、NAがアボガドロ定数である。
つまり、液晶モノマー19aの挙動は温度に依存するも、温度が高くなって分子運動が活発になると、液晶モノマー19a同士の重合に障害となることを示唆するものである。
【0073】
以下、実施例とその効果について図8を参照して説明する。なお、液晶モノマー19aの重合が進んで配向制御膜19が確実に形成された証として、光照射後の液晶層50中の残留モノマーの含有量を示した。
【0074】
(実施例1)
実施例1の配向制御膜形成工程における光照射条件は、以下の通りである。
・温度は25℃、
・ランプ光量は6mW/cm2
・照射時間は900秒、
・積算光量はおよそ5000mj/cm2、である。
このときの残留モノマーの含有量は0.058wt%であった。
液晶層50における液晶分子LCの初期配向状態は安定しており、表示品質に不具合は無かった。
【0075】
(実施例2)
実施例2の配向制御膜形成工程における光照射条件は、以下の通りである。
・温度は25℃、
・ランプ光量は6mW/cm2
・照射時間は1800秒、
・積算光量はおよそ10000mj/cm2、である。
このときの残留モノマーの含有量は0.039wt%であった。
実施例2は、実施例1に対して光の照射時間を倍にしたものである。実施例1と同様に、表示品質に不具合は無かった。
【0076】
(実施例3)
実施例3の配向制御膜形成工程における光照射条件は、以下の通りである。
・温度は50℃、
・ランプ光量は6mW/cm2
・照射時間は900秒、
・積算光量はおよそ5000mj/cm2、である。
このときの残留モノマーの含有量は0.034wt%であった。
実施例1に対して温度を倍の50℃とすることにより、実施例1と照射時間が同じでも、実施例2とほぼ同等の残留モノマーの含有量となった。すなわち、液晶モノマー19aの重合が促進された。50℃のときの液晶の動粘度は、常温(20℃)に対しておよそ20%である。また、表示品質に不具合は無かった。
【0077】
(実施例4)
実施例4の配向制御膜形成工程における光照射条件は、以下の通りである。
・温度は75℃、
・ランプ光量は6mW/cm2
・照射時間は450秒、
・積算光量はおよそ2500mj/cm2、である。
このときの残留モノマーの含有量は0.030wt%であった。
温度を75℃とすることにより、実施例1に対して照射時間を半分としても、実施例2あるいは実施例3とほぼ同等の残留モノマーの含有量となった。すなわち、液晶モノマー19aの重合がより促進された。75℃のときの液晶の動粘度は、常温(20℃)に対しておよそ10%である。また、表示品質に不具合は無かった。
図7を参照すれば、温度が75℃を超えると液晶の粘度はほぼ飽和状態(Ni点の粘度に近い状態)となる。したがって、液晶モノマーの分子運動が活発化して重合が妨げられる。それゆえに、配向制御膜形成工程における生産性と紫外線を含む光の照射による液晶分子LCの劣化を考慮すれば、液晶層50の動粘度が常温(20℃)の動粘度の10%以上20%以下となるように液晶層50を加温することが好ましい。
液晶層50の加温は、例えば液晶パネル110をホットプレート上で加熱する方法が挙げられる。
【0078】
以上に述べた上記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)画素電極15および共通電極23は、光触媒材料であるインジウムを主体とする金属酸化物、例えばITOやIZOからなる。したがって、配向制御膜形成工程において、紫外線を含む光を液晶パネル110に照射すれば、画素電極15および共通電極23の光触媒作用により励起電子やホールが発生する。発生した励起電子やホールにより配向膜18,24と液晶層50との界面において酸素や水素などと反応してラジカル種が生じ、重合基を有する液晶モノマー19aが効率的に重合してムラが少ない配向制御膜19,25を形成することができる。すなわち、液晶分子LCの初期的な略垂直配向状態(方位角θaとプレチルト角θp)が安定的に確保され、所望の電気光学特性を有する液晶装置100を提供または製造できる。
【0079】
(2)配向制御膜形成工程では、液晶層50が液晶相を示す温度範囲内で常温よりも高い温度に加温された状態で光が照射される。より好ましくは、液晶層50の動粘度が常温(20℃)の動粘度の10%以上20%以下となるように液晶層50が加温される。これにより、液晶モノマー19aの光重合が常温よりも促進される。また、光の照射時間を短縮できるので、配向制御膜形成工程の生産性を向上させることができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の液晶装置について図9を参照して説明する。図9は第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図である。なお、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。第2実施形態の液晶装置は、第1実施形態と同様に画素Pのスイッチング素子としてTFT30を備えたアクティブマトリクス型であるが、第1実施形態が透過型であるのに対して反射型の液晶装置である。
【0081】
図9に示すように、本実施形態の液晶装置150は、対向配置された素子基板10および対向基板20と、両基板間に挟持された液晶層50とを有する。
素子基板10の画素電極15を覆うように配向膜18が設けられている。配向膜18は、酸化シリコンなどの無機材料を物理気相成長法により画素電極15上に結晶化させて形成されたカラム18aの集合体である。
対向基板20の共通電極23を覆うように配向膜24が設けられている。配向膜24は、配向膜18と同様に酸化シリコンなどの無機材料を物理気相成長法により共通電極23上に結晶化させて形成されたカラム24aの集合体である。
配向膜18と液晶層50との界面には、反応性メソゲンを有する液晶モノマー19aが光重合して得られた配向制御膜19が形成されている。
同じく、配向膜24と液晶層50との界面には、反応性メソゲンを有する液晶モノマー25aが光重合して得られた配向制御膜25が形成されている。なお、液晶モノマー19aと液晶モノマー25aは同じものである。
【0082】
本実施形態において画素電極15は、光反射性を有する反射層14の上に形成されている。反射層14は、例えばAlやAgなどの金属膜である。
画素電極15および共通電極23は、第1実施形態と同様に光触媒材料であるインジウムを主体とする金属酸化物からなり、例えばITOやIZOからなる導電膜をパターニングして得られたものである。
【0083】
このような液晶装置150の製造方法は、前述した第1実施形態の液晶装置100の製造方法を適用することができる。第1実施形態と異なる部分としては、素子基板10において画素電極15を形成する前に、反射層14を形成する工程を有する。反射層14は前述したようにAlやAgなどの金属膜を真空蒸着法や真空スパッタ法を用いて形成する。反射層14の厚みはおよそ50nmである。
【0084】
以上に述べた第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)、(2)と同様な効果が得られ、所望の電気光学特性が得られる反射型の液晶装置150を提供または製造することができる。
【0085】
(第3実施形態)
次に、本実施形態の電子機器について図10を参照して説明する。図10は電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図である。
【0086】
図10に示すように、本実施形態の電子機器としての投射型表示装置1000は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、光分離素子としての2つのダイクロイックミラー1104,1105と、3つの反射ミラー1106,1107,1108と、5つのリレーレンズ1201,1202,1203,1204,1205と、3つの光変調手段としての透過型の液晶ライトバルブ1210,1220,1230と、光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0087】
偏光照明装置1100は、超高圧水銀灯やハロゲンランプなどの白色光源からなる光源としてのランプユニット1101と、インテグレーターレンズ1102と、偏光変換素子1103とから概略構成されている。
【0088】
ダイクロイックミラー1104は、偏光照明装置1100から射出された偏光光束のうち、赤色光(R)を反射させ、緑色光(G)と青色光(B)とを透過させる。もう1つのダイクロイックミラー1105は、ダイクロイックミラー1104を透過した緑色光(G)を反射させ、青色光(B)を透過させる。
【0089】
ダイクロイックミラー1104で反射した赤色光(R)は、反射ミラー1106で反射した後にリレーレンズ1205を経由して液晶ライトバルブ1210に入射する。
ダイクロイックミラー1105で反射した緑色光(G)は、リレーレンズ1204を経由して液晶ライトバルブ1220に入射する。
ダイクロイックミラー1105を透過した青色光(B)は、3つのリレーレンズ1201,1202,1203と2つの反射ミラー1107,1108とからなる導光系を経由して液晶ライトバルブ1230に入射する。
【0090】
液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、クロスダイクロイックプリズム1206の色光ごとの入射面に対してそれぞれ対向配置されている。液晶ライトバルブ1210,1220,1230に入射した色光は、映像情報(映像信号)に基づいて変調されクロスダイクロイックプリズム1206に向けて射出される。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が合成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0091】
液晶ライトバルブ1210は、上述した液晶装置100が適用されたものである。液晶装置100は、色光の入射側と射出側とにおいてクロスニコルに配置された一対の偏光素子の間に隙間を置いて配置されている。他の液晶ライトバルブ1220,1230も同様である。
【0092】
このような投射型表示装置1000によれば、液晶層50における液晶分子LCの初期配向状態が安定し所望の電気光学特性が得られる液晶装置100を備えているので、高い表示品位が実現されている。
【0093】
なお、投射型表示装置1000は、第2実施形態の反射型の液晶装置150を液晶ライトバルブとして用いた構成としてもよい。
【0094】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0095】
(変形例1)液晶装置100,150における配向制御膜19,25の構成は、これに限定されない。例えば、素子基板10と対向基板20とのうち一方に配向制御膜を有し、他方には配向制御膜が無い構成としても、配向制御膜を設けた側において効果を奏する。
つまり、一対の基板の一方においてインジウムを主体とする電極と配向膜および配向制御膜を有する構成とすればよい。
【0096】
(変形例2)液晶装置100の製造方法における配向制御膜形成工程は、これに限定されない。液晶パネル110における液晶分子LCの初期的な配向状態(方位角θa、プレチルト角θp)は、光学設計や配向膜18,24の形成方法に依存する。例えば所望のプレチルト角θpを実現するために、画素電極15と共通電極23との間に電圧を印加して電界を発生させた状態で、液晶パネル110に光を照射して配向制御膜19,25を形成してもよい。上記電圧の印加によってプレチルト角θpの調整が可能と考えられる。
【0097】
(変形例3)液晶装置150の構成はこれに限定されない。例えば光反射性を有する反射層14そのものを画素電極15として利用してもよい。画素電極15をAlを用いて形成すると、Alの仕事関数は4.1ev〜4.3evであって、ITOの仕事関数4.7ev〜5.0evよりも低くなるので、光の照射により励起電子やホールを発生し易い。言い換えれば、対向基板20の共通電極23において光触媒材料であるインジウムを主体とする金属酸化物を用い、配向制御膜形成工程では、Ni点未満であって常温よりも高い温度で対向基板20側から光を照射すればよい。
【0098】
(変形例4)上記液晶装置100または液晶装置150が適用される電子機器は、投射型表示装置1000に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
10…基板としての素子基板、14…反射層、15…電極としての画素電極、18…配向膜、19…配向制御膜、19a…液晶モノマー、20…基板としての対向基板、23…電極としての共通電極、24…配向膜、25…配向制御膜、25a…液晶モノマー、50…液晶層、100,150…液晶装置、1000…電子機器としての投射型表示装置、LC…液晶分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層と、
前記一対の基板の少なくとも一方に設けられ、インジウムを主体とする金属酸化物からなる電極と、
前記電極上に設けられ、前記液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜と、
反応性メソゲンを有する液晶モノマーの光重合物からなり、前記無機配向膜と前記液晶層との間に形成された配向制御膜と、
を備えたことを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
一対の基板間に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層と、
前記一対の基板の一方に設けられ、光を反射する反射層と、前記反射層上に設けられインジウムを主体とする金属酸化物からなる画素電極と、
前記一対の基板の他方に設けられたインジウムを主体とする金属酸化物からなる共通電極と、
前記画素電極上および前記共通電極上に設けられ、前記液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜と、
反応性メソゲンを有する液晶モノマーの光重合物からなり、前記無機配向膜と前記液晶層との間に形成された配向制御膜と、
を備えたことを特徴とする液晶装置。
【請求項3】
一対の基板の少なくとも一方にインジウムを主体とする金属酸化物を用いて電極を形成する電極形成工程と、
前記電極上に負の誘電異方性を有する液晶分子にプレチルトを与えて垂直配向させる無機配向膜を形成する配向膜形成工程と、
前記一対の基板間に前記液晶分子と反応性メソゲンを有する液晶モノマーとを含む液晶を充填する液晶充填工程と、
前記一対の基板間に挟持された前記液晶に光を照射して前記液晶モノマーを重合させ、前記無機配向膜と前記液晶との間に配向制御膜を形成する配向制御膜形成工程と、を備えたことを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記配向制御膜形成工程では、前記液晶が等方性となるNi点未満の温度であって常温よりも高い温度に前記液晶を加温した状態で光を照射することを特徴とする請求項3に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項5】
前記液晶の動粘度が、常温における動粘度の10%以上20%以下となるように前記液晶を加温することを特徴とする請求項4に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の液晶装置、あるいは請求項3乃至5のいずれか一項に記載の液晶装置の製造方法を用いて製造された液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−137602(P2012−137602A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289488(P2010−289488)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】