説明

液晶配向剤および液晶表示素子

【課題】光照射による電圧保持率の低下が少なく、信頼性に優れる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】上記液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有し、ただし前記ジアミンは、窒素原子に隣接する2つの炭素原子が、それぞれ、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基2個によって置換されている環状アミン構造、または水酸基に対してオルト位の炭素のうちの少なくとも1つが、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基によって置換されているフェノール構造と、2つのアミノ基と、を有する化合物(A)を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶配向剤および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、光による電圧保持率の低下が少なく、信頼性に優れる液晶配向膜を形成することのできる液晶配向剤および光による電圧保持率の低下が少なく、表示品位が劣化することのない優れた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、電極構造および使用する液晶分子の物性によって、以下に示す各モードに分類することができる。
透明導電膜が設けられている基板表面に液晶配向膜を形成して液晶表示素子用基板とし、その2枚を対向配置してその間隙内に正の誘電異方性を有するネマチック液晶の層を形成してサンドイッチ構造のセルとし、液晶分子の長軸が一方の基板から他方の基板に向かって連続的に90°捻れるようにした、いわゆるTN(Twisted Nematic)型液晶セルを有するTN型液晶表示素子(特許文献1)、TN型液晶表示素子に比して高いデューティー比を実現できるSTN(Super Twisted Nematic)型液晶表示素子(特許文献2)などを挙げることができる。
また、TN型液晶表示素子と同様の対向電極配置で、電極間隙内に負の誘電率異方性有するネマチック液晶の層を注入し、液晶を基板に対してほぼ垂直に配向させたVA(Vertical Alignment)型表示素子を挙げることができる。VA型表示素子は、高コントラストで且つ大面積の表示素子とすることが可能である(特許文献3)。
一方、電極対を一枚の基板面内に櫛歯状に配置することにより、電界印加時の液晶の駆動方向が基板面内方向のみとなるIPS(In−Plane Switching)型液晶表示素子(特許文献4および5)、IPS型の電極構造を変更し表示素子部分の開口率を上げて輝度を向上させたFFS(Fringe Field Switching)型液晶表示素子(特許文献6)が開発されており、それぞれ、視野角特性に優れる。
さらに、視角依存性が少ないとともに映像画面の高速応答性に優れたOCB(Optical Compensated Bend=光学補償ベンド)型液晶表示素子(特許文献7)などが開発されている。
これら各種の液晶表示素子における液晶配向膜の材料としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの樹脂材料が知られており、特にポリアミック酸またはポリイミドからなる液晶配向膜は耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などに優れているため、多くの液晶表示素子に使用されている(特許文献8)。
【0003】
このような液晶配向剤において、近年、光照射による機能低下のない性能が、従前にも増して求められるようになってきている。その事情は以下のとおりである。
液晶表示素子の製造工程において、プロセス短縮および歩留まり向上の観点から用いられ始めているのが液晶滴下方式、すなわちODF(One Drop Fill)方式である。ODF方式は、予め熱硬化性のシール剤を用いて組み立てられた空の液晶セルに液晶を注入していく従来法と異なり、液晶配向膜を塗布した片側基板の必要箇所に紫外光硬化性のシール剤を塗布した後、液晶を必要箇所に滴下し、他方の基板を貼り合わせた後に、全面に紫外光を照射してシール剤を硬化させて液晶セルを製造するものである。この際照射される紫外光は通常1平方センチメートルあたり数ジュール以上と強いものである。すなわち液晶表示素子製造工程において、液晶配向膜は液晶とともにこの強い紫外光にさられることになる。
液晶表示素子の用途の変化に目を転じると、従来の液晶表示素子の主用途であったノートパソコン、モニター用ディスプレイなどに比べ、近年普及が著しい液晶テレビは買い替えサイクルが長く、長寿命であることが求められており、長期間にわたってバックライト照射にさらされることになってきた。また、ビジネス用途に加えて近年ホームシアターとしての需要が高まっている液晶プロジェクター用途の液晶表示素子においては、メタルハライドランプなどの非常に照射強度の高い光源を用いている。さらに、携帯電話などのモバイル機器用や車載用カーナビ用の液晶表示素子は強い紫外線を含む太陽光にさらされることになり、視認性を向上するため、バックライトの輝度を上げる必要がある。
このように、液晶表示素子においては、その製造工程の改良、多用途化などに伴って、高強度の光照射、長時間駆動など、従来では考えられなかった苛酷な環境にさらされることとなってきた。
従来知られている液晶配向膜では、かかる苛酷な環境に対する耐性が不足しているとの指摘がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−153622号公報
【特許文献2】特開昭60−107020号公報
【特許文献3】特開平11−258605号公報
【特許文献4】特開昭56−91277号公報
【特許文献5】米国特許第5,928,733号明細書
【特許文献6】特開2002−082357号公報
【特許文献7】特開平9−105957号公報
【特許文献8】特開昭62−165628号公報
【特許文献9】特開平6−222366号公報
【特許文献10】特開平6−281937号公報
【特許文献11】特開平5−107544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は光照射による電圧保持率の低下が少なく、信頼性に優れる液晶配向膜を形成することのできる液晶配向剤を提供することにある。
本発明の別の目的は、光による電圧保持率の低下が少なく、表示品位が劣化することのない優れた液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに別の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第一に、
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤であって、
前記ジアミンが、
窒素原子に隣接する2つの炭素原子が、それぞれ、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基2個によって置換されている環状アミン構造、または
水酸基に対してオルト位の炭素のうちの少なくとも1つが、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基によって置換されているフェノール構造と、
2つのアミノ基と、
を有する化合物(A)を含むものであることを特徴とする、前記液晶配向剤によって達成される。
本発明の上記目的および利点は、第二に、
上記の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する液晶表示素子によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液晶配向剤は、長時間のバックライト照射を行っても電圧保持率の低下することがない液晶配向膜を形成することができる。本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する本発明の液晶表示素子は、高品位の表示が可能であり、長期間駆動をした場合にも表示性能が劣化することがない。従って、本発明の液晶表示素子は種々の装置に有効に適用することができ、例えば時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、携帯情報端末、デジタルカメラ、携帯電話、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物と、上記の如き化合物(A)を含むジアミンと、を反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する。
【0009】
[テトラカルボン酸二無水物]
上記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、
特願2009−66252に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0010】
前記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、これらのうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましく、さらに、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物および1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましく、特に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を含むものであることが好ましい。
上記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物および1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、10モル%以上含むものであることが好ましく、20モル%以上含むものであることがより好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物および1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種のみからなるものであることが、最も好ましい。
【0011】
[ジアミン]
本発明におけるポリアミック酸の合成に用いられるジアミンは、
窒素原子に隣接する2つの炭素原子が、それぞれ、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基2個によって置換されている環状アミン構造、または
水酸基に対してオルト位の炭素のうちの少なくとも1つが、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基によって置換されているフェノール構造と、
2つのアミノ基と、
を有する化合物(A)を含むものである。
上記化合物(A)が環状アミン構造を有するものである場合、該環状アミンの窒素原子に隣接する炭素原子に置換する炭化水素基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基などを挙げることができる。ただしこれらの炭化水素基は、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基またはエステル結合によって中断されていてもよい。
一方、上記化合物(A)がフェノール構造を有するものである場合、水酸基に対してオルト位の炭素に置換する炭化水素基としては、例えば炭素数4〜16のアルキル基を挙げることができる。ただしこのアルキル基は、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基またはエステル結合によって中断されていてもよい。
このような化合物(A)としては、環状アミン構造を有するものとして下記式(A1)で表される化合物を、フェノール構造を有するものとして下記式(A2)で表される化合物を、それぞれ挙げることができる。
【0012】
【化2】

【0013】
(式(A1)中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20の芳香族基、炭素数7〜13のアラルキル基または1,3−ジオキソブチル基であり、
は単結合、カルボニル基または−CONH−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)であり、
II〜Rは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアラルキル基、ただし前記アリール基およびアラルキル基の有するベンゼン環はホルミル基または炭素数1〜4のアルコキシル基に置換されていてもよい、であり、
〜Xは、それぞれ、単結合、カルボニル基、−CH−CO−または−CH−CH(OH)−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)であり、
式(A2)中、RVIは途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基またはエステル結合によって中断されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であり、RVIIは水素原子であるか、または途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であり、
式(A1)および(A2)中のXは、それぞれ、酸素原子、−OCO−、下記式(X−1)
【0014】
【化23】

【0015】
(式(X−1)中、aは1〜12の整数であり、bは0〜5の整数である。)
で表される基(ただし以上において、「*」を付した結合手が、式(A1)においてはピペリジン環と、式(A2)においては水酸基を有するベンゼン環と、それぞれ結合する。)、メチレン基または炭素数2〜6のアルキレン基である。)
上記式(A1)におけるRの炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基などを挙げることができる。
の炭素数6〜20の芳香族基としては、炭素数6〜12のアリール基およびその他の芳香族基を挙げることができ、前記炭素数6〜12のアリール基としては、例えばフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基などを;
前記その他の芳香族基としては、例えば4−ピリジニル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基などを、それぞれ挙げることができる。
の炭素数7〜13のアラルキル基としては、例えばベンジル基などを挙げることができる。
上記式(A1)におけるRとXとの組み合わせとしては、これらをまとめた基R−X−として、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ホルミル基、アセチル基、フェニル基、ベンジル基、1,3−ジオキソブチル基、4−ピリジニルカルボニル基、ベンゾイル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基、式−CONH−Ph(ただし、Phはフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基または3−クロロ−4−メチルフェニル基である。)で表される基などを挙げることができる。
【0016】
上記式(A1)におけるRII〜Rの炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基などを;
炭素数6〜12のアリール基、ただしこのアリール基の有するベンゼン環はホルミル基または炭素数1〜4のアルコキシル基に置換されていてもよい、としては、例えばフェニル基、4−ホルミルフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基などを;
炭素数7〜13のアラルキル基、ただしこのアラルキル基の有するベンゼン環はホルミル基または炭素数1〜4のアルコキシル基に置換されていてもよい、としては、例えばベンジル基などを、それぞれ挙げることができる。
上記式(A1)におけるRIIとX、RIIIとX、RIVとXおよびRとXとの組み合わせとしては、これらをまとめた基RII−X−、RIII−X−、RIV−X−またはR−X−として、それぞれ、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ベンゾイル基、4−ホルミルベンゾイル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エチル基などを挙げることができる。
上記式(A1)におけるXの炭素数2〜6のアルキレン基としては、例えば1,3−プロピレン基、1,6−ヘキシレン基などを挙げることができる。Xとしては、酸素原子または−OCO−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)が好ましい。
上記式(A1)のベンゼン環に結合する2つのアミノ基は、基Xに対して2,4−位または3,5−位にあることが好ましい。
上記式(A1)で表される化合物として特に好ましくは、上記式(A1)におけるRが水素原子またはメチル基であり、RII〜Rがいずれもメチル基であり、X〜Xがいずれも単結合である化合物、すなわち下記式(A1−1)
【0017】
【化31】

【0018】
(式(A1−1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは上記式(A1)におけるのと同義である。)
で表される化合物である。上記式(A1−1)における2つのアミノ基は、基Xに対して2,4−位または3,5−位にあることが好ましい。上記式(A1)で表される化合物として最も好ましくは、下記式(A1−1−1)〜(A1−1−4)
【0019】
【化8】

【0020】
のそれぞれで表される化合物である。
かかる上記式(A1)で表される化合物は、有機化学の定法を組み合わせることにより容易に合成することができる。
例えば、上記式(A1)においてX−OCO−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)である化合物は、下記式(P−1)
【0021】
【化9】

【0022】
(式(P−1)中、R〜RおよびX〜Xは、それぞれ、上記式(A1)におけるのと同義である。)
で表される化合物をジニトロ安息香酸クロリドと反応させた後、適当な還元系、例えばヒドラジンおよびパラジウムカーボン、によりニトロ基をアミノ基に変換することにより、合成することができる。
また、上記式(A1)においてXが酸素原子である化合物は、上記式(P−1)で表される化合物を、カリウムt−ブトキサイドなどの適当な塩基の存在下にジニトロクロロベンゼンと反応させた後、適当な還元系、例えばヒドラジンおよびパラジウムカーボン、によりニトロ基をアミノ基に変換することにより、合成することができる。
上記式(A2)におけるRVIおよびRVIIの途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基またはエステル結合によって中断されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基としては、それぞれ、途中が硫黄原子によって中断されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であることが好ましく、例えばt−ブチル基、1−メチルペンタデシル基、オクチルチオメチル基などを挙げることができ、これらのうちt−ブチル基が特に好ましい。基RVIIのベンゼン環上の位置としては、水酸基を1位、基RVIを2位としたときに、5位または6位にあることが好ましい。
上記式(A2)におけるXとしては、上記式(X−1)で表される基であることが好ましく、特に上記式(X−1)において、aが2であり、bが1である基であることが好ましい。
上記式(A2)で表される化合物として特に好ましくは、上記式(A2)におけるRVIおよびRVIIがいずれもt−ブチル基である化合物、すなわち下記式(A2−1)
【0023】
【化32】

【0024】
(式(A2−1)中、Xは上記式(A2)におけるのと同義である。)
で表される化合物である。上記式(A2−1)における2つのアミノ基は、基Xに対して3,5位にあることが好ましい。上記式(A2)で表される化合物として最も好ましくは、下記式(A2−1−1)
【0025】
【化28】

【0026】
で表される化合物である。
かかる上記式(A2)で表される化合物は、有機化学の定法を組み合わせることにより容易に合成することができる。
例えば上記式(A2)において基Xが上記式(X−1)で表される基(ただしbは1である。)である化合物は、所望の基RVIおよびRVIIを有する置換4−ヒドロキシ安息香酸を、塩化チオニルおよび所望のメチレン連鎖長aを有する(ポリ)メチレンジオールと順次に反応させて中間体であるアルコール化合物を得て、該中間体をジニトロ安息香酸クロリドと反応させた後、適当な還元系、例えばヒドラジンおよびパラジウムカーボン、によりニトロ基をアミノ基に変換することにより、合成することができる。
本発明におけるポリアミック酸の合成に用いられるジアミンとしては、化合物(A)のみを用いてもよく、あるいは化合物(A)と他のジアミンとを併用してもよい。
【0027】
ここで使用することのできる他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン(ただし、上記式(A1)および(A2)のそれぞれで表される化合物を除く。以下同じ。)、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、
【0028】
ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサンおよび下記式(D−1)
【0029】
【化29】

【0030】
(式(D−1)中、Xは炭素数1〜3のアルキル基、−O−、−COO−または−OCO−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であり、xは0または1であり、yは0〜2の整数であり、zは1〜20の整数である。)
で表される化合物などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、
特願2009−66252に記載のジアミンを用いることができる。
上記式(D−1)におけるXは炭素数1〜3のアルキル基、−O−または−COO−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。基C2z+1−の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位または3,5−位にあることが好ましい。
上記式(D−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(D−1−1)〜(D−1−4)
【0031】
【化30】

【0032】
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
上記式(D−1)において、xおよびyは同時には0にならないことが好ましい。
これら他のジアミンは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明におけるポリアミック酸の合成に用いられるジアミンは、化合物(A)を、全ジアミンに対して、0.1モル%以上含むものであることが好ましく、0.1〜80モル%含むものであることがより好ましく、特に1〜50モル%含むものであることが好ましい。
【0033】
[ポリアミック酸の合成]
本発明におけるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物と、上記の如き化合物(A)を含むジアミンと、を反応させることにより得ることができる。
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20℃〜150℃、より好ましくは0〜100℃の温度条件下において、好ましくは0.1〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間行われる。
【0034】
上記ポリアミック酸の合成に際して使用することのできる有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノールおよびその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。上記非プロトン性極性溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを挙げることができる。上記フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを挙げることができる。上記アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。上記ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンを挙げることができる。上記エステルとしては乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルを挙げることができる。上記エーテルとしてはジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランを挙げることができる。上記ハロゲン化炭化水素としては、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンを挙げることができる。上記炭化水素としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルを挙げることができる。
【0035】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒ならびにフェノールおよびその誘導体よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される1種以上、または前記第一群の有機溶媒から選択される1種以上とアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素および炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒および第二群の有機溶媒の合計に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに30重量%以下であることが好ましい。
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。
この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
ポリアミック酸を脱水閉環してイミド化重合体とする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。
ポリアミック酸の単離は、上記反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥する方法、あるいは、反応溶液中の有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する方法により行うことができる。また、このポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、次いで貧溶媒で析出させる方法、またはポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解した溶液を洗浄した後、該溶液中の有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する工程を1回または数回行う方法により、ポリアミック酸を精製することができる。
【0036】
<イミド化重合体>
本発明におけるイミド化重合体は、上記の如きポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
上記イミド化重合体の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、上述したポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物と同じ化合物を挙げることができる。好ましいテトラカルボン酸二無水物の種類およびその好ましい使用割合もポリアミック酸の場合と同様である。
本発明におけるイミド化重合体を合成するために用いられるジアミンとしては、上記のポリアミック酸の合成に用いられるジアミンと同じジアミンを挙げることができる。すなわち、本発明におけるイミド化重合体の合成に用いられるジアミンは、上記の如き化合物(A)を含むものであり、化合物(A)のみを用いてもよく、化合物(A)と他のジアミンとを併用してもよい。好ましい他のジアミンの種類および各ジアミンの好ましい使用割合もポリアミック酸の場合と同様である。
本発明におけるイミド化重合体は、原料であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるイミド化重合体は、イミド化率が20%以上であることが好ましく、30〜90%であることがより好ましく、特に40〜80%であることが好ましい。このイミド化率とは、イミド化重合体のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。このとき、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0037】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくは(i)ポリアミック酸を加熱する方法により、または(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記(i)のポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜170℃である。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下することがある。反応時間は好ましくは1.0〜24時間であり、より好ましくは1.0〜12時間である。
一方、上記(ii)のポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、所望するイミド化率によるが、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとするのが好ましい。また、脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。しかし、これらに限定されるものではない。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとするのが好ましい。イミド化率は上記の脱水剤、脱水閉環剤の使用量が多いほど高くすることができる。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0038】
上記方法(i)において得られるイミド化重合体は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、あるいは得られるイミド化重合体を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。一方、上記方法(ii)においてはイミド化重合体を含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤および脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、イミド化重合体を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したイミド化重合体を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。反応溶液から脱水剤および脱水閉環触媒を除くには、例えば溶媒置換などの方法を適用することができる。イミド化重合体の単離、精製は、ポリアミック酸の単離、精製方法として上記したのと同様の操作を行うことにより行うことができる。
【0039】
−末端修飾型の重合体−
本発明の液晶配向剤におけるポリアミック酸およびそのイミド化重合体は、それぞれ分子量が調節された末端修飾型の重合体であってもよい。末端修飾型の重合体を用いることにより、本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性などをさらに改善することができる。このような末端修飾型の重合体は、ポリアミック酸を合成する際に、分子量調節剤を重合反応系に添加することにより行うことができる。分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。
上記酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを挙げることができる。上記モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−エイコシルアミンなどを挙げることができる。上記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、ポリアミック酸を合成する際に使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計100重量部に対して好ましくは20重量以下であり、より好ましくは10重量部以下である。
【0040】
−溶液粘度−
以上のようにして得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体は、これらをそれぞれ濃度10重量%の溶液としたときに、20〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、30〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。
上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0041】
<その他の添加剤>
本発明の液晶配向膜は、上記の如きポリアミック酸およびこれをそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えばその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物などを挙げることができる。
上記その他の重合体は、溶液特性および電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体は、テトラカルボン酸二無水物と化合物(A)を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体以外の重合体であり、例えばテトラカルボン酸二無水物と化合物(A)を含まないジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸、該ポリアミック酸のイミド化重合体、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0042】
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミンなどを好ましいものとして挙げることができる。
これらエポキシ化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0043】
上記官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
これら官能性シラン化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは2重量部以下、より好ましくは0.02〜0.2重量部である。
【0044】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体ならびに必要に応じて任意的に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
本発明の液晶配向剤に使用できる有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これらは単独で使用することができ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができず、一方固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10℃〜50℃であり、より好ましくは20℃〜30℃である。
【0046】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記の如き本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備するものである。
本発明の液晶表示素子は、例えば以下(1)ないし(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の動作モードによって使用基板、液晶配向剤の好ましい塗布方法および液晶配向剤塗布後の加熱温度が異なる。工程(2)および(3)は各動作モードに共通である。
【0047】
(1)先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
(1−1)TN型、STN型またはVA型液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法またはインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布し、次いで、各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができ、パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
液晶配向剤塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.25〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。この焼成(ポストベーク)温度は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃であるポストベーク時間は好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。このようにして、形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0048】
(1−2)一方、IPS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜が設けられている基板の導電膜形成面と、導電膜が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤を好ましくはオフセット印刷法、スピンナー法またはインクジェット印刷法によってそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。
このとき使用される基板および透明導電膜の材質、透明導電膜のパターニング方法、基板の前処理ならびに液晶配向剤を塗布した後の加熱方法については上記(1−1)と同様である。
形成される塗膜の好ましい膜厚は、上記(1−1)と同様である。
【0049】
(2)本発明の方法により製造される液晶表示素子がVA型の液晶表示素子である場合には、上記のようにして形成された塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、所望に応じて次に述べるラビング処理を行った後に使用に供してもよい。
一方、VA型以外の液晶表示素子を製造する場合には、上記のようにして形成された塗膜にラビング処理を施すことにより液晶配向膜とする。
ラビング処理は、上記のようにして形成された塗膜面に対し、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることにより行うことができる。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。
さらに、上記のようにして形成された液晶配向膜に対し、例えば特許文献9(特開平6−222366号公報)や特許文献10(特開平6−281937号公報)に示されているような液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、特許文献11(特開平5−107544号公報)に示されているような液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成したうえで先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにすることによって得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0050】
(3)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより、液晶セルを製造する。ここで、塗膜に対してラビング処理を行った場合には、2枚の基板は、各塗膜におけるラビング方向が互いに所定の角度、例えば直交または逆平行となるように対向配置される。
液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき、さらに、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0051】
ここに、シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
前記液晶としては、例えばネマティック型液晶、スメクティック型液晶などを用いることができ、これらのうちネマティック型液晶が好ましい。VA型液晶セルの場合、負の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましく、例えばジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶などが用いられる。TN型液晶セルまたはSTN型液晶セルの場合には、正の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましく、例えばビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などが用いられる。これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名C−15、CB−15(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、さらに添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板またはH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例および比較例における重合体の溶液粘度およびイミド化重合体のイミド化率は以下の方法により評価した。
[重合体の溶液粘度]
重合体の溶液粘度(mPa・s)は、各合成例で指摘した重合体溶液についてE型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[イミド化重合体のイミド化率]
イミド化重合体を含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で測定したH−NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率を求めた。

イミド化率(%)=(1−A/A×α)×100 (1)

(上記数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトンに由来するピークの面積であり、Aはその他のプロトンに由来するピークの面積であり、αはイミド化重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0053】
<化合物(A)の合成例>
合成例1
下記スキーム1
【0054】
【化22】

【0055】
従って、化合物(A1−1−1)を合成した。
(1)化合物(A1−1−1a)の合成
滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール16gおよびピリジン250mLを仕込み氷冷した。この溶液に氷冷下で3,5−ジニトロ塩化ベンゾイル23gをテトラヒドロフラン100mLに溶解した溶液を30分かけて滴下し、そのまま室温で3時間撹拌した。その後、反応混合物に酢酸エチル1Lを加えて500mLの水で分液洗浄を行った。続いて、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮、乾固した後、エタノールで再結晶することにより、化合物(A1−1−1a)の淡黄色結晶を28g得た。
(2)化合物(A1−1−1)の合成
還流管、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、上記で得た化合物(A1−1−1a)28g、5重量%パラジウムカーボン0.5g、エタノール290mLおよびヒドラジン1水和物20mLを加え、室温で1時間撹拌した後、さらに70℃で1時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物からパラジウムカーボンを濾過により除去した後、酢酸エチル1.6Lを加えて800mLの水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を除去して乾固したものを酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒から再結晶することにより、化合物(A1−1−1)の白色結晶を16g得た。
合成例2
下記スキーム2
【0056】
【化25】

【0057】
に従って、化合物(A1−1−2)を合成した。
(1)化合物(A1−1−2a)の合成
滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール17gおよびトリエチルアミン16.6mLをテトラヒドロフラン100mLに溶解した溶液を仕込み、氷冷した。氷冷下でこの溶液に、3,5−ジニトロ塩化ベンゾイル23gをテトラヒドロフラン100mLに溶解した溶液を30分かけて滴下し、室温まで昇温した後さらに3時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチル300mLを加えて得た有機層を1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液および水で順次に洗浄した。続いて、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を除去して得た固体をエタノールおよびテトラヒドロフランからなる混合溶媒(エタノール:テトラヒドロフラン=50:50(重量比))から再結晶することにより、化合物(A1−1−2a)の淡黄色結晶を29g得た。
(2)化合物(A1−1−2)の合成
還流管、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、上記で得た化合物(A1−1−2a)28g、5重量%パラジウムカーボン1.9g、エタノール290mLおよびヒドラジン1水和物20mLを仕込み、室温で1時間撹拌した後、さらに70℃で1時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物を濾過してパラジウムカーボンを除去した後、酢酸エチル1.6Lを加えて得た有機層を800mLの水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下にて溶媒を除去して得た固体を酢酸エチルおよびヘキサンからなる混合溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=50:50(重量比))から再結晶することにより、化合物(A1−1−2)の白色結晶を17g得た。
合成例3
下記スキーム3(1)および3(2)
【0058】
【化26】

【0059】
【化27】

【0060】
に従って、化合物(A2−1−1)を合成した。
(1)化合物(A2−1−1b)の合成
滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸13gおよび塩化チオニル20mL、N,N−ジメチルホルムアミド0.6mLを仕込み、80℃で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、減圧下で反応混合物から塩化チオニルを留去した後、残存物にジクロロメタン100mLを加えて有機層を得た。該有機層を蒸留水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下にて溶媒を除去して得た固体をテトラヒドロフラン40mLに溶解して溶液とした。
上記とは別に、滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、エチレングリコール27.7mL、トリエチルアミン7.67mL、テトラヒドロフラン40mLを仕込んで均一に混合して溶液とした。ここに、上記3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸と塩化チオニルとの反応物を含有するテトラヒドロフラン溶液を滴下し、0℃で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチル300mLを加えて得た有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮して得られた結晶状固体を得た、この固体をろ取により回収してヘキサンで洗浄することにより、化合物(A2−1−1a)10gを得た。
滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコ中で、上記で得られた化合物(A2−1−1a)9.2gおよびトリエチルアミン5.23mLをテトラヒドロフラン50mLに溶解し、ここに3,5−ジニトロベンゾイルクロリド7.6gをテトラヒドロフラン50mLに溶解して得た溶液を滴下した後、室温で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチル200mLを加えて得た有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下にて溶媒を除去して得た固体をエタノールから再結晶することにより、化合物(A2−1−1b)の結晶12gを得た。
【0061】
(2)化合物(A2−1−1)の合成
還流管、窒素導入管および温度計を備えた500mLの三口フラスコに、上記で得た化合物(A2−1−1b)12g、5重量%パラジウムカーボン0.6g、エタノール70mLおよびテトラヒドロフラン70mLを仕込んで混合した。ここに、ヒドラジン1水和物6mLを滴下して室温で1時間撹拌した後、さらに70℃で2時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物からパラジウムカーボンを濾過により除去した後、酢酸エチル200mLを加えて得た有機層を200mLの水で洗浄した。この有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、展開溶媒:クロロホルム)により精製して得た留分から減圧下にて溶媒を除去することにより、化合物(A2−1−1)の白色固体を10g得た。
【0062】
<重合体の合成例>
合成例4
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)ならびにジアミンとして上記合成例1で得た化合物(A1−1−1)15g(0.05モル)、p−フェニレンジアミン38g(0.35モル)および3,5−ジアミノ安息香酸−3−コレスタニル52g(0.10モル)をN−メチル−2−ピロリドン800gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン1,800gを追加し、ピリジン39gおよび無水酢酸50gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約50%のイミド化重合体(PI−1)を15重量%含有する溶液を得た。上記イミド化重合体の溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてイミド化重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は87mPa・sであった。
【0063】
合成例5
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)ならびにジアミンとして上記合成例2で得た化合物(A1−1−2)15g(0.05モル)、3,5−ジアミノ安息香酸46g(0.3モル)、3,5−ジアミノ安息香酸−3−コレスタニル39g(0.075モル)およびコレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン37g(0.075モル)をN−メチル−2−ピロリドン800gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は50mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン1,800gを追加し、ピリジン39gおよび無水酢酸50gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約60%のイミド化重合体(PI−2)を15重量%含有する溶液を得た。上記イミド化重合体の溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてイミド化重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は70mPa・sであった。
【0064】
合成例6
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)ならびにジアミンとして上記合成例3で得た化合物(A2−1−1)21g(0.05モル)、3,5−ジアミノ安息香酸46g(0.3モル)、3,5−ジアミノ安息香酸−3−コレスタニル39g(0.075モル)およびコレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン37g(0.075モル)をN−メチル−2−ピロリドン800gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は52mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン1,800gを追加し、ピリジン39gおよび無水酢酸50gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約50%のイミド化重合体(PI−3)を15重量%含有する溶液を得た。上記イミド化重合体の溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてイミド化重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は72mPa・sであった。
【0065】
<重合体の比較合成例>
比較合成例1
ジアミンとしてp−フェニレンジアミン43g(0.40モル)、および3,5−ジアミノ安息香酸−3−コレスタニル52g(0.10モル)を使用したほかは上記合成例2と同様にして、イミド化率約50%のイミド化重合体(PI−4)を15重量%含有する溶液を得た。上記イミド化重合体の溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてイミド化重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は68mPa・sであった。
【0066】
<液晶配向剤の調製および評価>
実施例1
[液晶配向剤の調製]
上記合成例4で得られたイミド化重合体(PI−1)を含有する溶液にN−メチル−2−ピロリドンおよびブチルセロソルブを加えて、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=65:35(重量比)、固形分濃度4重量%の溶液とし、これを孔径1μmのフィルターにより濾過することにより、液晶配向剤を調製した。
[液晶セルの製造]
上記で調製した液晶配向剤を、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いてITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間プレベークした後、200℃のホットプレート上で10分間ポストベークすることにより、平均膜厚800Åの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この操作を繰り返し、透明導電膜上に液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
次に、上記基板一対の液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が対向するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、垂直配向型の液晶セルを製造した。
【0067】
[液晶セルの評価]
(1)電圧保持率の評価
上記液晶セルにつき、70℃において1Vの電圧を30秒印加し、印加解除後の電圧保持率を1V、70℃においてフレーム周期167m秒にて測定したところ、この液晶セルの電圧保持率は98%であった。
(2)耐光性の評価
上記液晶セルにつき、100ワット型白色蛍光灯下5cmの距離に配置し、500時間光を照射してから上記と同様にして再度電圧保持率を測定したところ、500時間光照射後の電圧保持率は94%と良好であった。
(3)液晶配向性の評価
上記と同様にして液晶セルの上下に、2枚の偏光板をその偏光方向が互いに直交するように貼り合わせることにより、液晶表示素子を製造した。この液晶表示素子につき、目視により観察したところ、電圧無印加のときに光漏れがなく、液晶配向性(垂直配向性)は良好であった。
【0068】
実施例2および3ならびに比較例1
上記実施例1において、イミド化重合体(PI−1)を含有する溶液の代わりに表1に示したイミド化重合体を含有する溶液をそれぞれ用いたほかは、上記実施例1と同様にして液晶配向剤を調製し、液晶セルおよび液晶表示素子を製造して評価した。
評価結果を表1に示した。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤であって、
前記ジアミンが、
窒素原子に隣接する2つの炭素原子が、それぞれ、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基2個によって置換されている環状アミン構造、または
水酸基に対してオルト位の炭素のうちの少なくとも1つが、途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭化水素基によって置換されているフェノール構造と、
2つのアミノ基と、
を有する化合物(A)を含むものであることを特徴とする、前記液晶配向剤。
【請求項2】
上記化合物(A)が、下記式(A1)または(A2)で表される化合物である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】

(式(A1)中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20の芳香族基、炭素数7〜13のアラルキル基または1,3−ジオキソブチル基であり、
は単結合、カルボニル基または−CONH−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)であり、
II〜Rは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアラルキル基、ただし前記アリール基およびアラルキル基の有するベンゼン環はホルミル基または炭素数1〜4のアルコキシル基に置換されていてもよい、であり、
〜Xは、それぞれ、単結合、カルボニル基、−CH−CO−または−CH−CH(OH)−(ただし、「*」を付した結合手がピペリジン環と結合する。)であり、
式(A2)中、RVIは途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基またはエステル結合によって中断されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であり、RVIIは水素原子であるか、または途中が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基もしくはエステル結合によって中断されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であり、
式(A1)および(A2)中のXは、それぞれ、酸素原子、−OCO−、下記式(X−1)
【化23】

(式(X−1)中、aは1〜12の整数であり、bは0〜5の整数である。)
で表される基(ただし以上において、「*」を付した結合手が、式(A1)においてはピペリジン環と、式(A2)においては水酸基を有するベンゼン環と、それぞれ結合する。)、メチレン基または炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【請求項3】
上記式(A1)で表される化合物が下記式(A1−1)で表される化合物であり、上記式(A2)で表される化合物が下記式(A2−1)で表される化合物である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【化24】

(式(A1−1)中のRは水素原子またはメチル基であり、
式(A1−1)および(A2−1)中のXは、それぞれ、上記式(A1)または(A2)におけるXと同義である。)
【請求項4】
上記テトラカルボン酸二無水物が、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を含むものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶配向剤から形成されたことを特徴とする、液晶配向膜。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする、液晶表示素子。
【請求項7】
テトラカルボン酸二無水物と上記化合物(A)を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸。
【請求項8】
テトラカルボン酸二無水物と上記化合物(A)を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸を脱水閉環してなるイミド化重合体。
【請求項9】
上記化合物(A)。

【公開番号】特開2010−244015(P2010−244015A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9582(P2010−9582)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】