説明

液滴吐出ヘッド

【課題】常温で高粘度液体を高い駆動周波数で吐出可能な液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】梁部材14は液滴吐出方向および逆方向に撓み可能であり、保持部材18の内部に設けたプール24から供給され、梁部材14の反吐出面を伝ってノズル16まで達した液4を慣性によって吐出方向に液滴として吐出する。プール24の反吐出面側には開口部24Aが設けられ、プール24内から液溜まり13まで連通している。液溜まり13は梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面と所定の間隙13Aを空けて設けられた板状部材12とで形成され、液4は開口部24Aから間隙13Aに滲み出し、間隙13Aに溜まった液4は液4に対して親液処理が施された梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面をノズル16まで滲み伝わることでノズル16に液4を補充する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドに関し、特に高粘度のインクを液滴として吐出する液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置として知られている現在市販されている水性インクジェットプリンターは、概ね粘度5cps前後、高々10cpsオーダの染料インクや顔料インクを採用している。媒体に着弾した際のインク滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制/短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、インク粘度を増加することによってプリント性能は向上できることが知られている。
【0003】
反面、高粘度液を吐出するには、高出力な圧力発生機構が必要であり、コストやヘッドサイズ増加等の弊害を招く。従来からイジェクターにヒーターを別途設け、吐出時のインク粘度を強制的に下げる技術は公知である(例えば、特許文献1参照)が、インクを加熱する上記の方法はインク劣化や流路のダメージを早める根本課題があり、また使用できるインクも熱による劣化のないものに制限される。
【0004】
このほか、インク吐出する際の逆方向へのインク流を梁状の弁によって抑制し、より高粘度なインクを吐出する技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0005】
大変形が得られる座屈曲がりを利用し、圧力発生機構自体をパワーアップする方法として、発熱体層との熱膨張差で変形するダイヤフラム状アクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献3参照)、また、同様の構成で片持ち梁状のアクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の従来技術でも、粘度10cpsを大きく上回る50〜100cpsのような高粘度液を、常温において安定吐出することは極めて困難である。
【0007】
本願発明者らは、梁に圧縮と回転運動を与え、座屈曲げ方向が反転する際の急峻な上下運動を利用して、ノズルから高粘度液滴を所望の方向に慣性離脱させる液滴吐出ヘッドを先に出願した(特許文献5〜8参照)。
【0008】
すなわち図8(A)(B)に示すインク吐出ヘッド100のように、インクプール124から補充されるインクは梁部材114と一体的に設けられたインク流路部材112内のインク流路113を通過してノズル116に至り、梁部材114が吐出方向に座屈反転変形する際にノズル116から高粘度のインクを吐出する。
【0009】
本願発明者が上記課題に対する検討を進めた結果、上記方式のヘッドにおいて高粘度な液体を吐出するためには、高粘度液の流路抵抗によって生じるリフィル(ノズルへの液体供給)の遅れを解決することが重要であり、それには閉じた流路を通してノズルに液体を送ることでリフィルする従来方式と異なり、ノズル内壁と梁の裏面を液体の濡れ性が高い状態に形成し、液体に圧力を印加しないオープンな流路を設け、この流路部分を液体が滲み伝わる現象を利用してノズルに液体供給する方法が有効であることがわかった。
【0010】
さらに、ノズル直下の吐出反対側に隙間をあけて液体溜り(液体の自由表面が露出した溜り)を設け、梁が吐出方向反対側に弾性変形した際、ノズル裏面と液体溜りの液体表面とを接触させることでノズル孔に液体を充填する方式もまた有効であることが分かった。
【0011】
本発明は、先願の発展技術であり、高粘度液体のリフィル遅れを改善し、より高速/高周波に液滴吐出できるヘッドを提供することを目的とする。
【特許文献1】特開2003−220702号公報
【特許文献2】特開平9−327918号公報
【特許文献3】特開2003−118114号公報
【特許文献4】特開2003−34710号公報
【特許文献5】特願2004−322341号公報
【特許文献6】特願2004−322342号公報
【特許文献7】特願2004−322343号公報
【特許文献8】特願2004−322344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事実を考慮し、常温で高粘度液体を高い駆動周波数で吐出可能な液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドは、液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、前記液滴吐出面から前記液滴吐出面よりも吐出される液体について濡れ性が高い反液滴吐出面まで貫通するノズルと、前記梁部材の長手方向の少なくとも一端に設けられ前記反液滴吐出面を通じて前記ノズルへ前記液を供給する液溜まりと、を備えたことを特徴とする。
【0014】
上記構成の発明では、液溜まりから梁部材の反吐出面側に伝わった液がノズルから吐出されるので、液をノズルまで加圧給送する流路部材を梁部材に設ける必要が無く、流体抵抗が発生しないのでノズルへの液体供給遅れおよびメニスカスの復帰遅れを防ぐことができる。
【0015】
請求項2に記載の液滴吐出ヘッドは、前記液溜まりは、前記梁部材と前記梁部材から所定の隙間を空けて設けられた板状部材との間に形成される間隙であることを特徴とする。
【0016】
上記構成の発明では、梁部材と板状部材の間に液溜まりを形成するので、簡易な構造で液をノズルまで給送することができる。
【0017】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドは、前記梁部材の吐出面には前記液体に対して撥液性を高める撥液処理を行ったことを特徴とする。
【0018】
上記構成の発明では、梁部材の吐出面に液が広がりにくく、吐出方向に梁部材が座屈反転した際、吐出面から液滴が慣性離脱しやすい。
【0019】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドは、前記梁部材の反吐出面には前記液体に対して親液性を高める親液処理を行ったことを特徴とする。
【0020】
上記構成の発明では、梁部材の反吐出面を伝わる液が広がりやすく、吐出方向に梁部材が座屈反転した際、ノズルに液が集まりやすい。
【0021】
請求項5に記載の液滴吐出ヘッドは、前記親液処理は前記梁部材の反吐出面に微細な凹凸を形成する処理であることを特徴とする。
【0022】
上記構成の発明では、微細ブラスト加工などにより簡易な方法で梁部材の反吐出面の親液性を高めることができる。
【0023】
請求項6に記載の液滴吐出ヘッドは、液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、前記液滴吐出面から前記液滴吐出面よりも吐出される液体について濡れ性が高い反液滴吐出面まで貫通するノズルと、前記梁部材の反吐出面側に設けられ、前記梁部材が液滴吐出方向に凹となるように座屈反転変形する際に、前記梁部材の反吐出面側ノズル近傍部分が接触する液溜まりと、を備えたことを特徴とする。
【0024】
上記構成の発明では、液溜まりから梁部材の反吐出面側ノズル近傍に移り、ノズル内壁へ伝わって充填された液がノズルから吐出されるので、液をノズルまで加圧給送する流路部材を梁部材に設ける必要が無く、流体抵抗が発生しないのでノズルへの液体供給遅れおよびメニスカスの復帰遅れを防ぐことができる。
【0025】
請求項7に記載の液滴吐出ヘッドは、前記液溜まりは前記梁部材のノズル近傍にのみ接触することを特徴とする。
【0026】
上記構成の発明では、梁部材と接触する液溜まりがノズル近傍のみ接触するのでノズル以外の部分が液溜まりと接触することにより座屈反転の際に発生する液体剪断抵抗を抑えることができる。
【0027】
請求項8に記載の液滴吐出ヘッドは、前記ノズル内壁面および前記梁部材の反吐出面の前記ノズル近傍には、前記液体に対して親液性を高める処理を行ったことを特徴とする。
【0028】
上記構成の発明では、親液処理を施した梁部材の反吐出面に、液溜りから液が移りやすく、また吐出方向に梁部材が座屈反転した際、ノズルに液が集まりやすい。
【0029】
請求項9に記載の液滴吐出ヘッドは、前記ノズル近傍を除く前記梁部材の反吐出面と、前記梁部材の吐出面には前記液体に対して撥液性を高める処理を行ったことを特徴とする。
【0030】
上記構成の発明では、梁部材の吐出面、および反吐出面のノズル以外の部分に液が広がりにくく、吐出方向に梁部材が座屈反転した際、吐出面から液滴が慣性離脱しやすい。
【0031】
請求項10に記載の液滴吐出ヘッドは、前記液溜まりは所定の隙間を空けて設けられた2枚の板状部材の間に、前記液体を圧送することで前記板状部材の間から凸状に盛り上がった液面であることを特徴とする。
【0032】
上記構成の発明では、液を圧送するための閉じた流路、チャンバなどを必要とせず、ノズルに液体を供給できる。また梁部材と液溜まりの板部材とを非接触とできるので静音性や耐久性に優れた液滴吐出ヘッドとすることができる。
【0033】
請求項11に記載の液滴吐出ヘッドは、前記液溜まりは多孔質の弾性体に染み込ませた前記液体であることを特徴とする。
【0034】
上記構成の発明では、液体を加圧供給する必要がないので、より簡易な構造とすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は上記構成としたので、常温で高粘度の液滴を高い駆動周波数で吐出可能な液滴吐出ヘッドとすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
<基本構成>
図1には、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドが示されている。
【0037】
図1(A)〜(C)に示すように、液滴吐出ヘッド10は長さ方向略中央にノズル16を備えた梁部材14の長さ方向両端を保持部材18が支持し、保持部材18は回転エンコーダ20に固定され、回転エンコーダ20の回動に伴って長さ方向両端側から押圧され、あるいは曲げ方向に力が加えられ液滴吐出方向(図中上)あるいは逆方向に梁部材14を撓ませる構造となっている。
【0038】
図1(B)に示すように、梁部材14には、薄膜状のピエゾ素子30が接合され、さらにピエゾ素子30には個別電極32が形成され梁部材14、ピエゾ素子30、個別電極32でアクチュエータ36を構成している。梁部材14はピエゾ素子30の共通電極を兼ねており、梁部材14と個別電極32とでピエゾ素子30を挟む構造となっている。
【0039】
個別電極32の一方の端には電極パッド33が設けられ、配線にて図示しないスイッチングICと接続されている。このスイッチングICからの信号によりピエゾ素子30は駆動され、梁部材14を撓ませる/撓ませないの制御が行われる。
【0040】
ノズル16は梁部材14を含むアクチュエータ36を吐出方向(図中上下)に貫通して形成され、梁部材14の吐出面(図中上側)には液4に対して撥液処理が施され、梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面(図中下側)には液4に対して親液処理が施されている。また全面にわたって液による腐食や電極間のショートなどからピエゾ素子30を保護する絶縁保護膜が形成されている。
【0041】
なお、本実施形態において、夫々の梁部材14は厚さ10μm、幅150μm、長さ5mmのSUS材からなり、図1(C)に示すように、複数の梁部材14が170μmピッチで整列した構成となっている。また、梁部材14にレーザ加工で形成されたノズル16は直径30μmとし、アクチュエータ36を貫通する部分では、穴径を60μmに広げ、液4が充填されやすいようにしている。
【0042】
梁部材14は液滴吐出方向(図中上)および逆方向に撓み可能であり、保持部材18の内部に設けたプール24から供給され、梁部材14の反吐出面(図中下側)を伝ってノズル16まで達した液4を慣性によって吐出方向に液滴として吐出する。
【0043】
プール24の反吐出面側には開口部24Aが設けられ、プール24内から液溜まり13まで連通している。液溜まり13は梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面(図中下側)と所定の間隙13A(約100μm)を空けて設けられた板状部材12とで形成され、液4は開口部24Aから間隙13Aに滲み出し、間隙13Aに溜まった液4は液4に対して親液処理が施された梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面(図中下側)をノズル16まで滲み伝わる。本実施形態では、反吐出面側にメッシュ4000の微細砥粒を吹き付けるブラスト加工によって、表面に微細凹凸を形成する方法で親液処理を施した。
【0044】
ここで用いられる吐出液は前述のように、媒体に着弾した際の滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制や短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、液粘度の極めて高い、具体的には粘度20cpsを大きく上回るような、例えば50〜100cpsの高粘度液である。
【0045】
本実施形態においては液4の粘度が上記のように大きくとも、大きな流体抵抗が発生する閉じた流路ではなく、開放され流路抵抗が少なく圧力の印加されない流路として液4に対して親液処理が施された梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面(図中下側)を液4がノズル16まで滲み伝わることで、ノズル16から液滴2として吐出された液4のリフィル(再充填)、メニスカス(液面)の復帰が阻害される虞をなくし、高粘度の液4を用いながら安定して高速・高周波で液滴吐出を行う液滴吐出ヘッドとすることができる。
【0046】
さらに本実施形態においては、高画質化に伴うノズル16の高密度化(ピッチの極小化)による液流路の細径化からくる流路抵抗の増大が発生しない点に加え、従来の流路部材と梁部材の接合、および流路部材中に液を充填することによる梁部材や流路部材の重量増加、座屈反転速度低下による吐出性劣化などの虞もなく、高粘度の液を安定して高密度・高速に吐出させることができる。
【0047】
<吐出原理>
図2、3には、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作が示されている。
【0048】
まずアクチュエータ36を駆動せず、液滴2を吐出しない場合は、図2(A−1)のように例えば梁部材14が予め液滴吐出方向(図中上)に撓みを持たせた状態であり、吐出を指示する信号がスイッチングICより送られないためアクチュエータ36が駆動されない。
【0049】
図2(A−2)のように回転エンコーダ20を矢印方向に回動させると、まず吐出方向(図中上)に撓みが発生し、そのまま図2(A−3〜4)のように梁部材14は液滴吐出方向に撓むのみであって、撓み量が最大となる図2(A−4)に至るまで梁部材14は常に液滴吐出方向に凸であり続ける。
【0050】
すなわち図2(A−1〜4)まで梁部材14が変位するまでの間に梁部材14内部の液4に吐出方向(図中上)への十分な加速度が加わらないため、液滴2としてノズル16から吐出されることはない(図2(A−5))。
【0051】
さらに図2(A−4)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して梁部材14を平坦にすることで梁部材14は初期位置図2(A−1)へ復帰する。
【0052】
一方、アクチュエータ36を駆動し、液滴2を吐出する場合は吐出を指示する信号がスイッチングICより送られ、図2(B−2)に示すようにアクチュエータ36が駆動されることによって梁部材14が液滴2吐出方向に対して凹(図中下)に撓みを持たせるようにされた状態であり、図2(B−2〜4)のように回転エンコーダ20を正転(図中矢印方向)させると梁部材14は回転エンコーダ20に近い方、すなわち両端から次第に吐出方向(図中上)に凸へと撓み方向が変化する。
【0053】
この撓み方向変化が両端から中央に近付くと、梁部材14はある点で急峻な座屈反転を起こし、液滴2吐出方向(図中上)へと急激に変形する(図2(B−3〜4)に中央部の変形を強調して記載)。
【0054】
梁部材14の長さ方向略中央にはノズル16が設けられているため、ノズル16まで達している液4はこの座屈反転による梁部材14の吐出方向への変形に伴い、ノズル16から液滴2として吐出される(拡大図2(B−5))。
【0055】
さらに図2(B−4)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して梁部材14を平坦にすることで梁部材14は初期位置へ復帰し、液滴吐出方向(図中上)に撓みを持った状態に戻る。
【0056】
なお、上記の実施形態では、アクチュエータ36を駆動した時に梁部材14が吐出方向に対して凹(図中下)に撓み、座屈反転が起こって液滴2が吐出する構成としたが、アクチュエータ36を駆動しない時に梁部材14が予め吐出方向に対して凹に撓んだ形状とし、アクチュエータ36を駆動した時には梁部材14が吐出方向に対して凸(図中上)に撓むよう構成しても、同様に信号の有無によって液滴2を吐出/非吐出を制御することができる。
【0057】
上記の座屈反転による変形は通常のアクチュエータなどによる変位と比較すれば非常に大きなものであり、本発明に採用した高粘度インクであっても十分にインク滴2として吐出することが可能である。
【0058】
図3には、ノズル16近傍における液4の吐出動作時の動きが示されている。
【0059】
図3(A)に示す液溜まり13の液4は、図3(B−1)のようにノズル16近傍においては梁部材14がアクチュエータ36により吐出方向に凹となる(あるいは予め形成され)一方、図3(C)に拡大図として示すように板状部材12と梁部材14との間隙にプール24(図示せず)から開口部24A(図示せず)を通じて充填された液4は、親液処理を施された梁部材14の反吐出面を滲み伝わりながらノズル16近傍まで到達する。
【0060】
このときアクチュエータ36による梁部材14の座屈反転で、液4にノズル16の方向に進もうとする遠心力が加わることで液4の動きが加速される。さらに液4は図3(B−3)のようにノズル16に充填され、回転エンコーダ20の動作で梁部材14が座屈反転することで図3(B−4〜5)のようにノズル16内の液4には吐出方向(図中上)に大きな加速度が掛かり、液滴2として吐出される。
【0061】
<第2実施形態>
図4には、本発明の第2実施形態に係る液滴吐出ヘッドが示されている。
【0062】
図4(A)に示すように、液滴吐出ヘッド11は長さ方向略中央にノズル16を備えた梁部材14の長さ方向両端を保持部材18が支持し、保持部材18は回転エンコーダ20に固定され、回転エンコーダ20の回動に伴って長さ方向両端側から押圧され、あるいは曲げ方向に力が加えられ液滴吐出方向(図中上)あるいは逆方向に梁部材14を撓ませる構造となっている点において第1実施形態と同様である。
【0063】
本実施形態において液溜まり13は保持部材18に設けられず、梁部材14の反吐出側(図中下)に設けられ、回転エンコーダ20またはアクチュエータ36によるノズル16近傍の梁部材14の移動により液面と梁部材14とが直接接触することで、親液処理をほどこした梁部材14の反吐出面に液4を供給・補充する。
【0064】
図4(B)に示すように、液溜まり13は複数の板状部材12を所定の間隔を空けて設け、板状部材12の間隙13Aに液圧4Aを印加した液4を加圧供給している。液4は加圧されているので、間隙13Aから表面張力により盛り上がった液面4Bを形成し、梁部材14の反吐出面に液4のみが接触する。これにより梁部材14と板状部材12との干渉音発生や衝撃による故障の発生を防ぐことができる。
【0065】
このとき、間隙13Aを塞ぐ形で多孔質の弾性体(例えばスポンジ)を設けてもよい。これにより梁部材と液溜まり13との接触時に液4の飛び散りを防ぐことができる。また、弾性体の形状により液面4Bの高さを制御することもできる。
【0066】
図5には、本発明の第2実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作が示されている。
【0067】
図5(A−1)はアクチュエータ36が駆動されることによって梁部材14が液滴2吐出方向に対して凹(図中下)に撓みを持たせるようにされた状態であり、図5(B−1)に拡大して示すように液溜まり13からは液圧4Aにより液4が盛り上がった液面4Bを形成しているので、ノズル16近傍の梁部材14は図5(B−2)に示すように液面4Bに接触し、容易に液4をノズル16に取り込むことができる。
【0068】
回転エンコーダ20が作動し、図5(A−2)のように梁部材14が吐出方向に移動し始めると図5(B−4)のようにノズル16は液面4Bから離れ、さらに回転エンコーダ20が作動を続け図5(A−3)のように梁部材14が座屈反転を起こせばノズル16内の液4は液滴2として吐出される。
【0069】
このとき、例えば液溜まり13がノズル16直近のみでなく梁部材14の長さ方向全体に渡って存在した場合、図5(C)に示すように梁部材14は長さ方向の略全体にわたって液4と接触する。このように広範囲で梁部材14と液4とが接触すると、座屈反転動作時に梁部材14には過大な液体剪断抵抗が発生する。これにより梁部材14は反吐出側に引っ張られ、吐出時に必要となる急峻な慣性が得られず吐出性能に悪影響を及ぼす虞がある。
【0070】
このような事態を防ぐため、梁部材14はノズル16の直径以上、直径の10倍の範囲で液面4Bと接触することが好ましい。本実施形態において液溜まり13は、2枚の板状部材12を250μmの隙間で設け、またノズル16の反吐出面側は、直径30μmの孔径に対し直径200μmの範囲に親液処理を施し、ノズル16直近にのみ液面4Bが接触するように構成している。
【0071】
<第3実施形態>
図6には、本発明の第3実施形態に係る液滴吐出ヘッドが示されている。
【0072】
本実施形態に係る液滴吐出ヘッド21は長さ方向略中央にノズル16を備えた梁部材14の長さ方向両端を保持部材が支持し、保持部材は回転エンコーダに固定され、回転エンコーダの回動に伴って長さ方向両端側から押圧され、あるいは曲げ方向に力が加えられ液滴吐出方向あるいは逆方向に梁部材14を撓ませる構造となっている点において第1実施形態と同様である。
【0073】
本実施形態においては、隣り合う梁部材14の形状、および間隙15を図6(A)に示すように構成し、ノズル16千鳥配列とすることでノズル16同士の間隔を縮め(ノズルピッチを小さくし)、ノズル密度を向上させることで更に高密度な吐出を行うことができる。例えば本実施形態では、梁部材14の細い部分の幅を50μm、開放流路14Cが形成された部分の梁部材14の幅は第1実施形態と同様の150μm、間隙15は20μmで形成している。これによって、第1実施形態におけるノズル16のピッチが170μmであったのに対し、本実施形態では120μmピッチで整列することができる。
【0074】
また梁部材14を平滑な表面構成ではなく、親液処理を施した開放流路14Cを設け、液4をノズル16に供給することを特徴とする。
【0075】
本実施形態では、図示しない液溜まり13から開放流路14Cに供給される液4は、親液処理による濡れ性と梁部材14の座屈反転時に発生する遠心力のみによってノズル16に供給・リフィルが行われる。
【0076】
図6(B)(C)は、開放流路14Cを図面の左右方向から見た断面図である。図6(B)に示すように開放流路14Cを、液溜まり13からノズル16まで延びるスリットとして、開放流路14C以外の表面を撥液膜14Aで覆い、スリット内部を親液膜14Bで覆うことで、開放流路14Cのみに液4を通し、液溜まり13からノズル16まで上記のように親液処理による濡れ性と梁部材14の座屈反転時に発生する遠心力によって液4を供給することができる。
【0077】
あるいは図6(C)に示すように開放流路14Cをスリットではなく梁部材14の反吐出面(図中左)に設けた溝としてもよい。この場合は溝内部を親液膜14Bで覆い、それ以外の梁部材14表面を撥液膜14Aで覆うことによって同様の効果を得ることができる。
【0078】
<第4実施形態>
図7には、本発明の第4実施形態に係る液滴吐出ヘッドが示されている。
【0079】
図7(A)に示すように、液滴吐出ヘッド31は長さ方向略中央にノズル16を備えた梁部材14の長さ方向両端を保持部材18が支持している点において第1実施形態と同様であるが、保持部材18を回転させる回転エンコーダを備えず、ピエゾアクチュエータの変形のみで吐出の有無を制御している。
【0080】
図7(A)に示すように、保持部材18に長さ方向端部を保持された梁部材14はピエゾ素子30、個別電極32と共に吐出・非吐出を制御するアクチュエータ36を構成し、共通電極を兼ねた梁部材14にはピエゾ素子30の反対側面に共通電線33が設けられている。個別電極32、共通電線33はそれぞれ図示しない個別電極パッド、共通電極パッドに結線され、図示しないスイッチングICからの信号によりアクチュエータ36は駆動され、梁部材14を撓ませる/撓ませないの制御が行われる。
【0081】
まず図7(B−1)に示すように反吐出方向(図中下)に撓み、あるいは予め反吐出方向に凸となるような形状となっているアクチュエータ36によって梁部材14が反吐出方向(図中下)に撓んでいる(あるいは梁部材14もまた予め反吐出方向に凸となるような形状となっていてもよい)。
【0082】
ここで梁部材14の反吐出面は液溜まり13の液面4Bに接触し、ノズル16に液4を補充する。液4は液圧4A(図中白矢印)で加圧され、吐出方向に盛り上がった液面4Bから容易に液4をノズル16に取り込むことができる。
【0083】
次いでアクチュエータ36が作動し、吐出方向(図中上)に変形が開始されると梁部材14の曲がり、すなわち反吐出方向への撓み変形量は増加するが梁部材14の支持部そのものは吐出方向に移動するため、ノズル16近傍の梁部材14は同じく吐出方向に移動し、液面4Bから離れることでノズル16内に液4が充填されたまま残る。
【0084】
さらに図7(B−3)でアクチュエータ36が吐出方向に変形(撓み増加)すると梁部材14は座屈反転変形を起こし、図7(C−4)に示すようにノズル16内の液4は液滴2となって吐出方向に吐出される。
【0085】
このとき、第2実施形態と同様、広範囲で梁部材14と液4とが接触すると、座屈反転動作時に梁部材14には過大な液体剪断抵抗が発生し吐出時に必要となる急峻な慣性が得られず吐出性能に悪影響を及ぼす事態を防ぐため液溜まり13はノズル16直近にのみ液面4Bを設けている。液4の不要な付着による吐出性能の劣化をさけるため、また液4の表面張力でノズル16に液4を接触補充するのでノズル16の吐出表面側や、梁部材14反吐出面側のノズル16近傍以外の領域は撥液処理を施されている。
【0086】
<その他>
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0087】
例えば、上記実施の形態では、アクチュエータはピエゾ素子30と梁部材14とからなっているが、ピエゾ素子30のかわりに発熱抵抗体を利用し、熱膨張差で撓み変形するアクチュエータであっても良いし、静電力や磁力を利用したものであっても良い。或いは、その他の形態のアクチュエータであっても良い。
【0088】
また、本明細書における液滴吐出ヘッドは必ずしもインク等を用いた記録紙上への文字や画像の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また吐出される液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、液状の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりするなど、工業用的に用いられる液滴噴射装置全般に対して本発明を利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドを示す図である。
【図2】本発明に係る液の吐出動作を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る液滴吐出ヘッドを示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る液滴吐出ヘッドを示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る液滴吐出ヘッドとその動作を示す図である。
【図8】従来の液滴吐出ヘッドを示す図である。
【符号の説明】
【0090】
2 液滴
4 液
10 液滴吐出ヘッド
11 液滴吐出ヘッド
12 板状部材
13 液溜まり
14 梁部材
15 間隙
16 ノズル
18 保持部材
20 回転エンコーダ
21 液滴吐出ヘッド
24 プール
30 ピエゾ素子
31 液滴吐出ヘッド
32 個別電極
36 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、
前記液滴吐出面から前記液滴吐出面よりも吐出される液体について濡れ性が高い反液滴吐出面まで貫通するノズルと、
前記梁部材の長手方向の少なくとも一端に設けられ前記反液滴吐出面を通じて前記ノズルへ前記液を供給する液溜まりと、
を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液溜まりは、前記梁部材と前記梁部材から所定の隙間を空けて設けられた板状部材との間に形成される間隙であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記梁部材の吐出面には前記液体に対して撥液性を高める撥液処理を行ったことを特徴とする請求項1〜2の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記梁部材の反吐出面には前記液体に対して親液性を高める親液処理を行ったことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記親液処理は前記梁部材の反吐出面に微細な凹凸を形成する処理であることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、
前記液滴吐出面から前記液滴吐出面よりも吐出される液体について濡れ性が高い反液滴吐出面まで貫通するノズルと、
前記梁部材の反吐出面側に設けられ、前記梁部材が液滴吐出方向に凹となるように座屈反転変形する際に、前記梁部材の反吐出面側ノズル近傍部分が接触する液溜まりと、を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液溜まりは前記梁部材のノズル近傍にのみ接触することを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記ノズル内壁面および前記梁部材の反吐出面の前記ノズル近傍には、前記液体に対して親液性を高める親液処理を行ったことを特徴とする請求項6〜7の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記ノズル近傍を除く前記梁部材の反吐出面と、前記梁部材の吐出面には前記液体に対して撥液性を高める撥液処理を行ったことを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記液溜まりは所定の隙間を空けて設けられた2枚の板状部材の間に、前記液体を圧送することで前記板状部材の間から凸状に盛り上がった液面であることを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
前記液溜まりは多孔質の弾性体に染み込ませた前記液体であることを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−207336(P2008−207336A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43194(P2007−43194)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】