説明

液滴吐出装置およびそのプログラム

【課題】記録媒体に対し画像を形成するために、液滴吐出データに基づいて液体を吐出する液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置において、記録媒体に液体が吐出されることにより発生する記録媒体のカール度合を、より正確に予測する。
【解決手段】液滴吐出データを利用して、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する。そして、記録媒体上における評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、記録媒体に液体が吐出されることにより発生する記録媒体のカール度合を算出する。さらに、算出されたカール度合に基づいて液滴吐出データを変更する。液滴吐出ヘッドはこの変更された液滴吐出データに基づいて液体を吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の液体の液滴を吐出する液滴吐出装置に関し、より詳細には、液体が付着した記録媒体のカールを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の1つとして、紙や布、フィルムなどの各種記録媒体へ向けてインクを吐出して記録媒体上に画像を形成するインクジェットプリンタが知られている。インクジェットプリンタには、水溶性のインクが使用されることがあり、水溶性のインクは溶媒としての水を多く含んでいる。このインクに含まれる水分によって、画像形成後のインクが付着した記録媒体にカールが発生することがある。カールの状態や程度は、記録媒体に付着しているインクの状況により異なる。一般に、記録媒体にインクが付着することによって、記録媒体の表裏で水分量の差が大きくなると、カールが発生し易い。記録媒体にカールが発生すると、排紙された記録媒体は整然と積層されず、記録媒体が折れたり飛散したりするなどの不具合が発生する。このため、記録媒体のカールを的確に予測して、適切にカールを抑制することが望ましい。そこで、特許文献1では、記録媒体上に定められた領域ごとに、液滴吐出装置が前記領域に吐出する液体量を算出し、前記領域の位置と前記領域に吐出される液体量とに基づいて記録媒体のカール状態を予測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−143010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、記録媒体に同量のインクを塗布したとしても、インクが記録媒体の全体に亘って塗布された場合と局所的に塗布された場合とでは記録媒体にカールが発生する仕組みが異なることから、記録媒体に或領域を設定し当該領域の記録媒体上の位置と当該領域に吐出される液体量とに基づいて記録媒体のカール状態を予測することが記載されている。これに対し、本願の発明者らを含むグループは、記録媒体に或領域を設定した場合に、記録媒体のカール度合は、当該領域の記録媒体上の位置および当該領域に吐出される液体量に加えて当該領域に吐出される液滴数に影響を受けるという新たな知見を得た。しかも、或領域に吐出される液滴数は、記録媒体のカール度合に相当に大きな影響を与えることがわかった。これは、液滴の大きさにより階調表現を行う形式の液滴吐出装置においては、記録媒体の単位面積当たりの液滴数と液体量とは必ずしも対応しないためであると想定される。したがって、上記特許文献1に記載された手法では記録媒体のカール度合を必ずしも正確に予測できるとは限らない。予測された記録媒体のカール度合が正確でなければ、これに基づいてカールを矯正したときに、矯正が不十分であったり、矯正に必要以上の時間やエネルギーを要したりするといった事態が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、上記新たな知見に基づいて、液滴吐出装置により画像が形成される記録媒体の画像形成後のカール度合をより正確且つ迅速に予測し、予測されるカール度合に基づいて印刷のスループットの低下を抑制しつつカールを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液滴吐出装置は、記録媒体に向けて液体を吐出する1以上の液滴吐出ヘッドと、前記記録媒体に形成される画像に対応して液滴を吐出させるための液滴吐出データを記憶する液滴吐出データ記憶部と、前記液滴吐出データに基づいて前記1以上の液滴吐出ヘッドの動作を制御する液滴吐出ヘッド制御部と、前記記録媒体上に定められた評価領域と対応する前記液滴吐出データに基づいて前記評価領域へ吐出される液体量および液滴数を算出する液体算出部と、前記評価領域の位置と前記液体算出部により算出された当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液滴が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を算出するカール度合算出部と、前記カール度合算出部により算出された前記記録媒体のカール度合に基づき当該記録媒体のカールを抑制するための処理が必要であるときに前記記録媒体のカールを抑制すべく前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように前記液滴吐出データを変更させるカール抑制部とを備えるものである。
【0007】
また、本発明に係るプログラムは、液滴吐出装置で実行されるプログラムであって、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、前記液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する処理と、前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を算出する処理と、算出された前記記録媒体のカール度合に基づき当該記録媒体のカールを抑制するための処理が必要であるときに前記記録媒体のカールを抑制すべく前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように前記液滴吐出データを変更させるカール抑制処理とを、前記液滴吐出装置に実行させるものである。
【0008】
上記液滴吐出装置およびそのプログラムによれば、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出し、これに基づいて記録媒体に生じると予測されるカール度合を算出するので、予測されるカール度合はより正確なものとなる。このように、より正確に予測されたカール度合に基づいて記録媒体のカールを抑制するための対策を採ることができるので、より効率的に記録媒体のカールを抑制することができる。しかも、液滴吐出データそのものを変更するので、記録媒体を伸ばした状態で一定時間保持したり、記録媒体に付着した液体を乾燥させるために搬送速度を減速したりする場合と比較して、印刷のスループットの低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る液滴吐出装置およびそのプログラムによれば、記録媒体上または液滴吐出データに定められた評価領域ごとに液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出し、これに基づいて記録媒体に生じると予測されるカール度合を算出するので、予測されるカール度合はより正確なものとなる。そして、このように算出された予測されるカール度合に基づいて液滴吐出データが変更されて、印刷のスループットの低下を抑制しつつカールを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンタの全体的な構成を示す概略側面図である。
【図2】演算制御装置の機能ブロック図である。
【図3】或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。
【図4】カール抑制のための処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】用紙に定められたブロックと単位領域との関係を示す図である。
【図6】ブロックの液滴数および液体量のカウント方法の一例を説明する図である。
【図7】用紙に定められた評価領域とブロックとの関係を示す図である。
【図8】第1の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。
【図9】第4の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。
【図10】図3に示すインク吐出データに対応する或領域の処理液吐出データを示す図である。
【図11】演算制御装置の機能ブロック図の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明に係る液滴吐出装置を、液滴吐出装置の一例であるインクジェット式プリンタに適用させて説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るインクジェット式プリンタ101は、略直方体形状の筐体102を備えている。筐体102内には、5つのヘッド1から成るヘッドユニット10、用紙Pをヘッド1の下方において搬送方向99(図1中左から右に向かう方向)へ搬送する搬送ユニット16、用紙Pを給紙する給紙ユニット103、およびインク等を貯留するタンクユニット104の各機能ユニットが上方から下方へ順に設けられている。また、筐体102内の上記機能ユニットと干渉しない位置には、各機能ユニットの動作を司る演算制御装置100が設けられている。さらに、筐体102の上面には、印刷を終えた用紙Pが排出される排紙部15が設けられている。
【0013】
ヘッドユニット10が具備する5つのヘッド1のうち4つは、インクを吐出する記録ヘッド1aである。本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各記録ヘッド1aが設けられている。残りの1つのヘッド1は、処理液を吐出する処理液ヘッド1bである。ここで、顔料インクに対しては顔料色素を凝集させる処理液が使用される。また、染料インクに対しては染料色素を析出させる処理液が使用される。処理液の主材料は、カチオン性化合物、とりわけ、カチオン系高分子、カチオン性界面活性剤、カルシウム塩およびマグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等のなかからインクの性質に応じて適宜選択される。このような処理液が塗布された用紙Pの領域にインクが着弾すると、処理液中の多価金属塩等がインクの成分(すなわち、着色剤である染料又は顔料)に作用して、不溶性又は難溶性の金属複合体等が凝集又は析出する。その結果、付着したインクの用紙P内への浸透度が低下して、インクが用紙Pの表面に近い領域に残存しやすくなる。
【0014】
処理液ヘッド1bは、5つのヘッド1のうち搬送方向99の最も上流側に配置されている。4つの記録ヘッド1aは、処理液ヘッド1bよりも搬送方向99下流側において、吐出するインクの明度が小さい順に、すなわち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順に上流側から下流側へ向けて配置されている。
【0015】
5つのヘッド1はほぼ同様の構成を有しており、いずれも印字幅方向98に長尺な略直方体形状を有するライン型インクジェットヘッドである。ここで「印字幅方向98」とは水平面に沿って搬送方向99と直交する方向である。各ヘッド1は、複数の吐出口(不図示)が開口している吐出面2aを有するヘッド本体2を備えている。吐出面2aは、搬送ユニット16により搬送方向99へ搬送される用紙Pと所定間隔を介して上下に対向している。各ヘッド本体2は、後述するヘッド制御部51により制御される複数のアクチュエータ(不図示)を備えている。これらのアクチュエータは、選択的に複数の吐出口から処理液又はインクが吐出されるように、処理液又はインクに吐出エネルギーを付与する。なお、本実施形態においては、印字幅方向98(主走査方向)及び搬送方向99(副走査方向)の解像度はいずれも600dpiとなるよう構成又は設定されており、用紙Pの表面に印字幅方向98および搬送方向99にそれぞれ1/600インチ間隔の格子状に区画された複数の単位領域(画素領域)が仮想的に定められている。
【0016】
タンクユニット104は、4つのインクタンク17aおよび1つの処理液タンク17bを備えている。インクタンク17aおよび処理液タンク17bは、筐体102に対して着脱可能に装着されている。各インクタンク17aは、ブラック、シアン、マゼンタまたはイエローのインクを貯留している。各インクタンク17aから対応する記録ヘッド1aへチューブ(不図示)を介してインクが供給される。同様に、処理液タンク17bは処理液を貯溜しており、処理液タンク17bから処理液ヘッド1bへチューブを介して処理液が供給される。
【0017】
給紙ユニット103は、筐体102に対して着脱可能に設けられた給紙トレイ11と、給紙ローラ12とを有している。給紙トレイ11は、上面解放の箱形状をなし、複数枚の用紙Pが積層された状態で収容されている。給紙ローラ12は、給紙トレイ11に収容されている最も上の用紙Pと接触している。そして、給紙ローラ12が演算制御装置100の制御を受けて動作する給紙モータ31(図2参照)により回転駆動されると、給紙トレイ11にある用紙Pが後述する搬送経路5へ送り出される。
【0018】
筐体102の内部には、図1に黒矢印で示されるように、給紙トレイ11から排紙部15までの用紙Pの搬送経路5が形成されている。搬送経路5は、複数の搬入ガイド14、搬送ユニット16および複数の搬出ガイド29により、全体として左右が反転したS字形状となるように形成されている。給紙ローラ12により給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、複数の送給ローラ対13により搬入ガイド14を通じて搬送ユニット16へと送られる。搬送ユニット16の搬送経路5上流側には、レジストレーションローラ対4が設けられている。用紙Pは、このレジストレーションローラ対4により姿勢が整えられたのち、搬送ユニット16へ突入する。搬送ユニット16は、用紙Pを画像形成可能な位置へ送り込み、画像形成時には搬送方向99に所定の搬送速度で用紙Pを搬送させる。用紙Pが各ヘッド1の下方を通過する際に、用紙Pへ向けて処理液およびインクが吐出され、用紙Pの印刷面(上面)に所望のカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送ユニット16から更に搬送経路5の下流側へ送り出され、複数の搬出ローラ対28により搬出ガイド29により形成された搬出路60を通じて上方に搬送され、筐体102の上部に設けられた排出口22から排紙部15へ排出される。
【0019】
搬送ユニット16は、用紙Pの搬送方向に沿って配置された複数の搬送ローラ対8を備えている。搬送ローラ対8は、全ヘッド1の搬送方向99の下流側及び上流側と、各ヘッド1の間にそれぞれ配置されている。各搬送ローラ対8は、搬送ローラ8bと歯付ローラ8aとの、上下一対のローラで構成されている。搬送ローラ8bは、その周面と用紙Pの下面とが接触するように配置されている。歯付ローラ8aは、搬送ローラ8bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置されている。歯付ローラ8aは、印字幅方向98に延びる支軸と、支軸上に間隔を開けて設けられた複数の歯付ディスクとを備えている。歯付ディスクは、周面に複数の歯が形成された薄い板状のものであって、この歯の先端で用紙Pと接触することができる。歯付ローラ8aは図示しない付勢手段により搬送ローラ8bへ向けて付勢されており、歯付ローラ8aの周面は搬送ローラ8bの周面に圧接している。そして、搬送ユニット16に含まれる複数の搬送ローラ8bが、搬送モータ33(図2参照)により同期して回転駆動されることにより、用紙Pが歯付ローラ8aと搬送ローラ8bとの間に挟まれて搬送方向99下流側へ搬送される。
【0020】
次に、図2を参照しつつ、プリンタ101の制御に係る構成について説明する。図2は演算制御装置の機能ブロック図であり、同図において矢印はデータの流れを示している。プリンタ101の演算制御装置100は、1又は複数のコンピュータからなり、各コンピュータはCPU(中央処理装置)、CPUが実行するプログラムやプログラムで使用されるデータを書き替え可能に記憶する主記憶装置、CPUがプログラム実行時にデータを一時的に記憶する補助記憶装置、CPUと外部機器を接続するためのインターフェース、並びこれらを接続する内部経路等を備えている(何れも不図示)。CPUが実行するプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、メモリカード等の各種記録媒体に保存されており、これらの記録媒体から主記憶装置にインストールされる。そして、このプログラムがCPUで実行されることにより、図2に示す演算制御装置100の各機能部が実現される。演算制御装置100のCPUは、インターフェースを介して出入力装置である操作パネル73と接続されている。ユーザが操作パネル73に対して入力操作を行った場合には、その操作内容を示す信号がCPUへ入力され、CPUは入力信号に基づいてプリンタ101の各部の動作を制御する。また、プリンタ101の動作上、ユーザに提供する各種の情報は操作パネル73が有する表示画面にて文字や記号により適宜表示させる。さらに、演算制御装置100のCPUは、インターフェースを介して外部コンピュータ50との間でデータ通信可能に接続されている。プリンタ101の演算制御装置100は外部コンピュータ50から送られてきた画像データや入力信号等に基づいてプリンタ101の各部の動作を制御する。
【0021】
演算制御装置100は、画像データ記憶部52およびインク吐出データ生成部53としての機能を備えている。画像データ記憶部52は、用紙P上に記録される画像に係る画像データを記憶する。画像データは、プリンタ101と接続されている外部コンピュータ50やプリンタドライバ等から画像処理装置71へ転送されてくる。インク吐出データ生成部53は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて、インク吐出データを生成する。インク吐出データ生成部53は、さらに詳細には、ラスタイメージ処理部、ガンマ補正処理部および誤差拡散処理部等から構成されている。画像データ記憶部52に格納されている画像データはベクターイメージデータであって、インク吐出データ生成部53はこの画像データをラスタイメージ処理することによりインク吐出データを生成する。インク吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成するドットのドットサイズ(ドットの大きさ)を示すラスタイメージデータである。インク吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、記録ヘッド1aが用紙P上の単位領域へ吐出するインクの液滴サイズ(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。液滴サイズは、すなわち、その単位領域に対応する用紙P上の単位領域へ吐出されるインクの量(液滴量)を表している。なお、用紙P上の単位領域に吐出される液滴サイズを変化させる場合には、液滴サイズに応じた大きさの1滴の液滴を吐出する場合や、液滴サイズに応じて複数の等しい大きさの微小液滴を連続的に吐出する場合などがある。後者の場合に、実際は微小液滴の液滴数は多数であるが、これらを合わせて液滴数は1として数える。上記ように生成されたインク吐出データは、必要に応じてガンマ補正処理と誤差拡散処理とが施される。本実施例において、インク吐出データは誤差拡散処理によって8ビットのデータが2ビットに変換されている。
【0022】
図3は或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。例えば、図3に示すように、インク吐出データ記憶部54は、4つの記録ヘッド1aに関する4つのインク吐出データを記憶している。なお、図3に示す4つのインク吐出データは、用紙P上の同一領域(1〜6までの6行分およびa〜fまでの6列分の計36個分の単位領域)に形成する画像に対応している。また、図3のS,M,Lとの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのドットサイズを示しており、S,M,Lのいずれの記載もない単位領域にはドットを形成しないことを示している。なお、ドットサイズS,M,Lは、記録ヘッド1aから吐出される小滴,中滴,大滴の液滴と対応している。
【0023】
演算制御装置100は、インク吐出データ記憶部54、ブロック別カウント部61、評価領域別カウント部62、カール度合算出部63、およびカール抑制部64としての機能を更に備えている。これらの機能部により、カールを抑制するための処理がおこなわれる。図4はカール抑制のための処理の流れを示すフローチャートである。続いて、上記機能部について、図2および図4を参照しつつ説明する。
【0024】
インク吐出データ記憶部54は、少なくとも1ページ分のインク吐出データを記憶することができる。インク吐出データ生成部53により生成されたインク吐出データは、インク吐出データ生成部53からインク吐出データ記憶部54へ転送される。ここで、インク吐出データ生成部53とインク吐出データ記憶部54とは有線で接続されており、インク吐出データは短距離用のデータ転送規格に則って1クロックに1以上の単位領域(画素領域)のデータが乗せられて転送される。したがって、インク吐出データ生成部53からインク吐出データ記憶部54への1ページ分のインク吐出データの転送には、画素数に応じた時間を要する。
【0025】
ブロック別カウント部61は、インク吐出データ生成部53からインク吐出データ記憶部54へインク吐出データが転送される過程で、転送されてくるインク吐出データを取得し(ステップS1)、後述するブロックの液滴数および液体量を逐次カウントする(ステップS2)。
【0026】
図5は、用紙Pに定められたブロックBと単位領域Dとの関係を示す図である。図5に示すように、1枚(1ページ)の用紙Pおよびこれに相当するインク吐出データを所定の中領域に分割する。この所定の中領域を「ブロックB」と呼ぶ。例えば、1枚の用紙Pを搬送方向99に8行×印字幅方向98に8列に分割すると、1枚の用紙Pは合計64個のブロックBに分かれる。1個のブロックBは、複数の単位領域D(画素領域)が集められた大きさの領域である。
【0027】
ブロックの液滴数は、用紙P上に仮想的に定められた当該ブロックへ吐出される液滴の数である。したがって、或ブロックの液滴数は、当該ブロックに相当するインク吐出データのドット数に等しい。本実施の形態において、或ブロックの液滴数は、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各インク吐出データにおいて当該ブロックのドット数をそれぞれカウントし、これを総計することにより求められる。例えば、図3(a)〜(d)に示す6×6の単位領域が或1つのブロックのインク吐出データであるとすれば、このブロックの液滴数は26滴(=ブラック6滴+シアン3滴+マゼンタ6滴+イエロー11滴)である。
【0028】
ブロックの液体量は、用紙P上に仮想的に定められた当該ブロックへ吐出されるインクの液滴量の総量である。したがって、或ブロックの液体量は、当該ブロックに相当する全色のインク吐出データの、ドットサイズごとのドット数にそのドットサイズに対応する液滴量を乗じたものを総計することにより求められる。例えば、図3(a)〜(d)に示す6×6の単位領域が或1つのブロックのインク吐出データであるとすれば、このブロックのSサイズのドット数は10個であり、Mサイズのドット数は12個であり、Lサイズのドット数は4個である。そして、Sサイズの液滴量を7pl、Mサイズの液滴量を14pl、Lサイズの液滴量を21plとすると、このブロックの液体量は322pl(=10×7pl+12×14pl+4×21pl)である。
【0029】
図6はブロックの液滴数および液体量のカウント方法の一例を説明する図である。図6(a)に示すように、通常、1ページ分のインク吐出データはライン毎のラインデータとして送られてくる。図6(a)ではインク吐出データ生成部53からインク吐出データ記憶部54へ送られてきた1ページ分のインク吐出データの一部分のラインデータL1〜L5が示されている。1行のラインデータは、複数のブロックをまたがっている。そして、複数行のラインデータが順次送られてきて、或ブロックのインク吐出データが総て送られてきた時点で当該或ブロックの液滴数と液体量とが確定する。例えば、図6(b)では1行目のブロックのインク吐出データがラインデータL1〜L5に含まれている場合に、ラインデータL5がインク吐出データ記憶部54に到達した時点で、1行目の各ブロックの液滴数と液体量とが順次確定されていく様子を示している。このように或ブロックのインク吐出データが総て転送された時点で、当該ブロックの液滴数と液体量が確定し(ステップS3でYES)、確定したブロックの液滴数と液体量は当該ブロックのアドレスとともに記録される(ステップS4)。このようにして各ブロックの液滴数と液体量とがカウントされることにより、1ページ分のインク吐出データがインク吐出データ記憶部54へ到達した時点で、1ページ分の全ブロックの液滴数と液体量とが確定する。データの転送と液滴数と液体量のカウントとを同時に行うことにより、処理時間の短縮を図ることができる。
【0030】
評価領域別カウント部62は、記憶された各ブロックの液滴数および液体量を利用して、後述する評価領域の液滴数および液体量を算出する。図7は、用紙Pに定められた評価領域とブロックとの関係を示す図である。ここで「評価領域」は、1枚(1ページ)の用紙Pおよびこれに相当するインク吐出データを、ブロックよりも大きな領域に分割したものである。評価領域の液滴数は当該評価領域に含まれる1以上のブロックの液滴数の総和であり、評価領域の液体量は当該評価領域に含まれる1以上のブロックの液体量の総和である。評価領域の液滴数および液体量は、カール度合の予測に利用される。
【0031】
図7は、第1〜6の複数パターンの評価領域を例示している。図7の表の一列目に示された第1の評価領域は、1枚の用紙Pの全ブロックである。図7の表の二列目に示された第2の評価領域は、1枚の用紙Pの四隅に位置している。第2の評価領域は4つあり、各第2の評価領域は、用紙Pの四隅のいずれかに位置する2行3列の6つのブロックから成る。図7の表の三列目に示された第3の評価領域は、1枚の用紙Pの印字幅方向98両端において搬送方向99に延びる領域である。第3の評価領域は2つあり、各第3の評価領域は、用紙Pの印字幅方向98両端の一方又は他方の2列(すなわち、印字幅方向98の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の四列目に示された第4の評価領域は、1枚の用紙Pの印字幅方向98中央部において搬送方向99に延びる領域である。第4の評価領域は2つあり、各第4の評価領域は、用紙Pの印字幅方向98中央から印字幅方向98一方又は他方へ2列(すなわち、印字幅方向98の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の五列目に示された第5の評価領域は、1枚の用紙Pの搬送方向99両端において印字幅方向98に延びる領域である。第5の評価領域は2つあり、各第5の評価領域は、用紙Pの搬送方向99両端の一方又は他方の2行(すなわち、搬送方向99の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の六列目に示された第6の評価領域は、1枚の用紙Pの搬送方向99中央部において印字幅方向98に延びる領域である。第6の評価領域は2つあり、各第6の評価領域は、用紙Pの搬送方向99中央から搬送方向99一方又は他方へ2行(すなわち、搬送方向99の1/4)に含まれるブロックである。
【0032】
評価領域別カウント部62は、第1〜6の評価領域の全13の評価領域に対し個別のレジスタを備えている。そして、各評価領域のレジスタには演算回路が付属しており、この演算回路でその評価領域に関連づけられた1又は複数のブロックの液滴数と液体量とが確定すると(ステップS11でYES)、その評価領域の液滴数および液体量が算出されるとともに(ステップS12)、算出された液滴数および液体量がレジスタに記憶される(ステップS13)。このような評価領域別カウント部62による各評価領域の液滴数および液体量のカウントは、上記ブロック別カウント部61による各ブロックの液滴数および液体量のカウントと平行して行われる。つまり、或評価領域の液滴数および液体量のカウントに必要な1又は複数のブロック(すなわち、或評価領域に関連づけられた1又は複数のブロック)の液滴数および液体量が確定した時点で、当該或評価領域の液滴数および液体量が確定する。したがって、1ページ分のインク吐出データの転送が完了した時点で、1ページ分の全評価領域の液滴数と液体量とが確定する。このようにインク吐出データの転送と液滴数と液体量のカウントとを同時に行うことにより、処理時間の短縮を図ることができる。
【0033】
1ページ分のインク吐出データがインク吐出データ記憶部54へ到達すると(ステップS5でYES)、カール度合算出部63は、算出された評価領域の液滴数および液体量を取得し(ステップS6)、これらの値を利用して予測されるカール度合を算出する(ステップS7)。ここで、カール度合算出部63は演算制御装置100に予め記憶された液体−カール相関情報67を利用する。液体−カール相関情報67は、評価領域の液体量および液滴数と用紙Pのカール度合との相関関係を示す情報である。この液体−カール相関情報67は、実験的または理論的に作成されたマップ又は式であって、評価領域の位置ごと、すなわち、評価領域ごとに作成されている。本実施形態では、例えば、2つの第3の評価領域は印字幅方向98に対称であるから、2つの第3の評価領域に対して共通の液体−カール相関情報67を利用することができる。同様に第1〜6の評価領域ごとに共通する液体−カール相関情報67を利用することができる。よって、本実施例においては合計6個の液体−カール相関情報67が演算制御装置100に記憶されている。
【0034】
図8は、第1の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。図8に示された液体−カール相関情報67は、図7に示す第1の評価領域の液体量および液滴数に対応付けられた用紙Pの最大カール量(カール度合の一例)を示すマップである。このマップにおいて、縦軸は評価領域の液滴数の割合を表している。評価領域の液滴数の割合(百分率)は、その評価領域の総ドット数を100%としている。図8に示す例では、単位領域を600dpiとし、A4の用紙の全域を塗り潰したときの液滴数を100%としている。また、上記マップにおいて、横軸は評価領域の液体量の割合を表している。評価領域の液体量の割合(百分率)は、その評価領域を最大液滴サイズの一色のインクで塗り潰したときの液体量を100%としている。図8に示す例では、単位領域を600dpiとし、液滴量21plのブラックインクでA4の用紙の全域を塗り潰したときの液体量を100%としている。そして、縦軸と横軸とで規定される座標に示された値が用紙の最大カール量である。
【0035】
図9は、第4の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。図9に示された液体−カール相関情報67は、図7に示す第4の評価領域の液体量および液滴数に対応付けられた用紙Pの最大カール量(カール度合の一例)を示すマップである。このマップの見方は、上記第1の評価領域の液体−カール相関情報のときと同様である。但し、図9に示す例において、縦軸は、単位領域を600dpiとしてA4の用紙の横方向中央部の1/4領域を塗り潰したときの液滴数を100%としている。また、横軸は、単位領域を600dpiとし、液滴量21plのブラックインクでA4の用紙の横方向中央部の1/4領域を塗り潰したときの液体量を100%としている。図8と図9に示された各液体−カール相関情報67を比較すれば、液滴数の割合が同一且つ液体量の割合が同一であっても、評価領域の位置またはパターンによって用紙の予測されるカール度合が異なることがわかる。また、評価領域の位置やパターンによって、用紙の予測されるカール度合に与える影響が異なることがわかる。
【0036】
カール度合算出部63は、上記の通り、評価領域別カウント部62で算出された各評価領域の液滴数および液体量を利用して各評価領域につき予測されるカール度合を算出する。本実施例において、カール度合算出部63は図7に示された合計13個の評価領域について各々予測されるカール度合を算出する。算出された13個の予測されるカール度合は相互に異なることがあるが、カール度合算出部63は全評価領域について算出されたカール度合を比較し、そのうち最大の値を用紙Pの予測されるカール度合とする。
【0037】
続いて、カール抑制部64は、予測されるカール度合に基づいて用紙Pのカールの発生を抑制するための処置をとる。具体的には、まず、カール抑制部64は、予測されるカール度合と閾値とを比較してカール抑制のための処置が必要であるか否か、すなわち、インク吐出データの変更の要・不要を判断する(ステップS8)。カール抑制部64は、予測されるカール度合が予め設定された閾値以下であるときは、インク吐出データの変更が不要であると判断し(ステップS8でNO)、インク吐出データに基づいた印刷を許可する(ステップS10)。一方、カール抑制部64は、予測されるカール度合が閾値より大きいときは、インク吐出データの変更が必要であると判断し(ステップS8でYES)、用紙Pのカールを抑制すべくインク吐出データを変更するための次段の処理を行う(ステップS9)。ここで、インク吐出データに加えられる変更は、少なくとも予測されるカール度合に影響を与えている評価領域へ吐出されるインクの液体量および液滴数のうち少なくとも一方を変化させるものである。このためにインク吐出データ全体に変更が加えられてもよいし、インク吐出データに局所的な変更が加えられてもよい。インク吐出データは、予測されるカール度合に影響を与えている評価領域へ吐出される液滴数および液滴サイズ(液滴量)の少なくとも一方が減少することにより、当該評価領域へ吐出されるインクの液体量が減少するように変更される。或いは、インク吐出データは、予測されるカール度合に影響を与えている評価領域へ吐出される液滴数が減少し且つ液滴サイズが増大するように変更される。いずれにせよ、変更されたインク吐出データに基づいて予測されるカール度合が閾値を越えないように、インク吐出データに変更が加えられる。
【0038】
カール抑制部64は、インク吐出データを変更するために、インク吐出データ生成部53にデータ再生成の指示を出す。データ再生成の指示には、カールが発生しないようなインク吐出データの再生成指示および各評価領域において算出されたカール度合等が含まれている。このデータ再生成の指示を受け取ったインク吐出データ生成部53では、改めて算出される予測されるカール度合が閾値以下となるようなインク吐出データが再生成される。具体的には、インク吐出データ生成部53は画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいてインク吐出データを生成したのち、ガンマ補正処理と誤差拡散処理によって単位面積当たりのドット数を減らして且つ1つのドットサイズを大きくするように補正する。このために、インク吐出データを再生成する際には、最初に生成したときと比較して、ガンマ補正処理においてガンマカーブの傾きを抑えて各ドットの色を薄くしたり、誤差拡散処理において閾値を変化(例えば、液滴サイズが小滴のインク液滴が発生しないように閾値を変更した処理を行う)させたりする。このようにして再生成されたインク吐出データはインク吐出データ記憶部54に転送される。この転送の際にも、前述したように、ブロック別カウント部61および評価領域別カウント部62による液滴数および液体量のカウントが行われ、カール度合算出部63により再生成されたインク吐出データの予測されるカール度合が算出され、カール抑制部64により再生成されたインク吐出データの予測されるカール度合が評価される。単位面積当たりのドット数を減らして且つ1つのドットサイズを大きくするように補正を行うことで、画像の濃度低下を抑えながらカールを抑制することが可能である。
【0039】
演算制御装置100は、処理液吐出データ生成部56、処理液吐出データ記憶部57、ヘッド制御部51および画像データ記憶部52を更に備えている。
【0040】
処理液吐出データ生成部56は、カール抑制部64によりインク吐出データに基づく印刷が許可されれば、インク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、処理液吐出データを生成する。処理液吐出データ記憶部57は、生成された処理液吐出データを記憶する。処理液吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成する処理液のドットサイズを示すデータである。処理液吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、処理液ヘッド1bが用紙P上の単位領域へ吐出する処理液の液滴サイズ(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。
【0041】
図10は、処理液吐出データの一例として、図3に示すインク吐出データに基づいて生成された処理液吐出データを示している。なお、図10においてSの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのドットサイズを示しており、記載のない単位領域にはドットを形成しないことを示している。なお、処理液吐出データのドットの大きさのSは、処理液ヘッド1bから吐出される小滴の液滴と対応している。処理液吐出データは、原則として、インク吐出データのドットが形成される各単位領域に対し選択的にドットサイズSのドットを形成するように生成される。この結果、処理液吐出データに基づいて処理液の吐出を行う処理液ヘッド1bは、用紙Pのインクの着弾位置と処理液の塗布範囲とが一致するように、用紙P上のインクが吐出される各単位領域に対し選択的に小滴の処理液を吐出する。
【0042】
搬送制御部59は、搬送経路5に沿って用紙Pが搬送されるように、給紙ユニット103、各送給ローラ対13、各送りローラ対27、各搬出ローラ対28、レジストレーションローラ対4および搬送ユニット16を制御する。具体的には、搬送制御部59は、給紙ユニット103の給紙ローラ12を駆動する給紙モータ31、各送給ローラ対13およびレジストレーションローラ対4を駆動する送給モータ32、各搬出ローラ対28を駆動する搬出モータ34、ならびに搬送ユニット16の搬送ローラ対8を駆動する搬送モータ33の駆動を制御する。
【0043】
ヘッド制御部51は、記録ヘッド1aのアクチュエータを制御する記録ヘッド制御部51aと、処理液ヘッド1bのアクチュエータを制御する処理液ヘッド制御部51bとを有している。記録ヘッド制御部51aは、インク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、搬送される用紙Pへ向けてインクを吐出するように、ヘッド駆動回路30を介して記録ヘッド1aのインクの吐出動作を制御する。処理液ヘッド制御部51bは、処理液吐出データ記憶部57に記憶された処理液吐出データに基づいて、用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の着弾位置とが対応するように、ヘッド駆動回路30を介して処理液ヘッド1bの処理液の吐出動作を制御する。なお、本実施形態においては、ヘッド1から吐出するインク又は処理液の量をゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階で変化させることができる。
【0044】
そして、前述のように生成されたインク吐出データと処理液吐出データに基づいて、ヘッド制御部51はヘッドユニット10を動作させ、搬送制御部59は搬送ユニット16および給紙ユニット103を動作させる。これにより搬送経路5に沿って搬送される用紙Pへ向けて処理液ヘッド1bから処理液が吐出され、各記録ヘッド1aからインクが吐出されて、用紙Pに付着したインクにより画像が形成される。ここで、インク吐出データは用紙Pのカールが抑制されるように処理されているので、インクが付着した用紙Pにはカールが生じないか、生じても僅かである。
【0045】
以上の通り、本発明に係るプリンタ101では、用紙P上に定められた評価領域と対応するインク吐出データに基づいて、当該評価領域へ吐出されるインクの液滴数および液体量を算出し、液滴数および液体量に基づいて用紙Pに発生すると予測されるカールの度合を算出している。予測されるカール度合を算出するために液滴数および液体量が用いられることで、予測されるカール度合はより正確なものとなる。
【0046】
また、用紙Pの予測されるカール度合を算出するにあたって、複数の評価領域について用紙Pのカール度合を算出し、そのうち最大の値を用紙Pの予測されるカール度合としている。これにより、用紙に局所的なカールが発生するような条件下でも、用紙Pに発生するカール度合をより正確に予測することができる。
【0047】
さらに、用紙Pの予測されるカール度合を算出するにあたって、複数パターンの評価領域を設定し、各評価領域について用紙Pのカール度合を算出し、そのうち最大の値を用紙Pの予測されるカール度合としている。ここにおいても、上記と同様に用紙Pに発生するカールをより確実に予測することができる。
【0048】
そして、上述の通りより正確なに予測された用紙Pのカール度合に基づいてカールを抑制するための処理が行われるので、効率的にカールを抑制することが可能となる。ここで、カールを抑制するためにインク吐出データが変更されるので、用紙Pを伸ばした状態で一定時間保持したり、用紙Pに付着した液体を乾燥させるために搬送速度を低下したりする場合と比較して、印刷のスループットの低下を抑制することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、上述の実施形態において、用紙に定められる評価領域は、6パターン13個の評価領域が設定されているが、他のパターンの評価領域が設定されたり、評価領域の数が増減されたりしてもかまわない。さらに、1枚の用紙に64個のブロックが定められているが、1枚の用紙がより大きな又は小さなブロックに分割されてもかまわない。或いは、ブロックという概念、すなわち、ブロックの液滴数と液体量の算出を省略して、評価領域の液滴数と液体量を直接的に算出してもよい。また、演算の高速化のために比較的影響の大きい複数の評価領域のみについて評価領域の液滴数および液体量ならびに用紙Pのカール度合が算出されるようにしてもよい。
【0051】
また、例えば、上述の実施の形態において、同じ単位領域に異なる色のインクが吐出される場合には、各色インクを1滴としてその単位領域の液滴数を算出している。これに代えて、同じ単位領域に異なる色のインクが吐出される場合に、その単位領域の液滴数を1滴としてもよい。この場合、図3のブロックにおける液滴数は20滴となる。このように液滴数を算出する場合、評価領域における液滴サイズと評価領域の表面における液滴の付着面積に基づいてカール度合が算出されることとなる。カール度合は用紙の表面における液滴の付着面積(特に連続する付着面積)またはその割合に影響を受けることから、このように液滴数を計算することも有意である。
【0052】
また、例えば、上述の実施の形態において、ブロック別カウント部61および評価領域別カウント部62はインク吐出データに基づいて各ブロックまたは評価領域の液体量と液滴数とを算出しているが、画像データから各ブロックまたは評価領域の液体量と液滴数とを算出するように構成されていてもよい。換言すれば、インク吐出データや画像データ等の用紙Pに形成される画像に係るデータに基づいて各評価領域の液体数と液滴数を算出することが可能である。
【0053】
また、例えば、上記実施形態においてカール抑制部64は、カールを抑制するためにインク吐出データを再生成するが、この場合はインク吐出データを再生成するために時間を要し、印刷のスループットが若干低下する懸念がある。そこで、次に示すように、カールを抑制するためにインク吐出データを再生成することに代えて、インク吐出データに含まれる液体量および液滴数をよりも少ない液体量および液滴数がインク吐出ヘッドから吐出されるように記録ヘッド制御部51aの動作を制御することもできる。この場合、図11に示すように、演算制御装置100は疑似多階調処理部66としての機能を更に備える。
【0054】
具体的には、カール抑制部64は、インク吐出データの変更が必要であると判断したときに、インク吐出データ記憶部54から記録ヘッド制御部51aへインク吐出データを転送する際に、疑似多階調処理部66で局所的なインク総量および液滴数の規制を行うような疑似多階調処理を行わせる。結果として、記録ヘッド制御部51aは用紙Pのカールを抑制すべく変更されたインク吐出データに基づいてインクを吐出することとなる。疑似多階調処理部66は、疑似多階調処理を行う演算部と処理に必要な1又は複数のラインデータを一時的に格納するラインバッファとを具備している。疑似多階調処理部66では、インク総量および液適数の規制を行うために、単位領域よりも大きな中領域(例えば、8ドット×8ドットのブロック)の単位でマスクパターンを加えることにより、インク吐出データを加工しながら次段の記録ヘッド制御部51aへ転送する。このようなマスクパターンは、例えば、単位領域よりも大きな中領域を単位とすることによりその中領域を擬似的に多階調化し、この中領域におけるインク総量および液滴数を減少させるようなものとすることができる。そして、このマスクパターンは、1ページ全体に対してではなく、1ページのうち予測されるカール度合に影響を与えている中領域のみに対して局所的に作用させることもできる。マスクパターンは予め演算制御装置100に複数が設定されており、この中から各評価領域で算出されたカール度合に応じて最適なマスクパターンを採用することが望ましい。或いは、上記マスクパターンに代えて空間フィルタを用いることができる。マスクパターンでは、中領域に属する所定の1又は複数の単位領域の液滴数または液滴サイズを元の液滴数または液滴サイズに関わらず減少させるようにインク吐出データを加工するが、空間フィルタでは或単位領域についてその周辺の単位領域も含めた液滴数および液滴サイズを考慮して当該或単位領域の液滴数または液滴サイズを減少させる。例えば、インクが吐出される単位領域に囲まれた単位領域の液滴数をゼロにしてその周囲の単位領域の液滴サイズを増加させたり、1ページのうち予測されるカール度合に強く影響を与えている領域の濃度を減少させて当該領域のインクの液滴数または液滴サイズを減少させたりすることができる。上記のように、カールを抑制するためにインク吐出データ記憶部54から記録ヘッド制御部51aへ転送されるインク吐出データを疑似多階調処理することによれば、インク吐出データの転送が完了した時点でインク吐出データに加工が施されているので、スループット(単位時間あたりの処理能力)を殆ど低下させないでカールが抑制された印刷を行うことが可能となる。
【0055】
なお、本発明は、インク以外の液体を吐出する液滴吐出装置にも適用可能である。さらに、本発明はプリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。また、上述の実施形態では、ヘッド制御部51が処理液ヘッド1bのアクチュエータ(例えば、ピエゾ式アクチュエータ)や各記録ヘッド1aのアクチュエータを駆動しているが、ヘッド1の駆動構成はこれに限定されない。例えば、処理液ヘッド1bおよび各記録ヘッド1aは発熱素子を備え、この発熱素子を駆動することでヘッドから処理液やインクを吐出する構成のヘッドであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の液体を吐出するように構成された液滴吐出装置において、画像形成後の記録媒体のカール度合を予測して、カールを抑制するために有用である。
【符号の説明】
【0057】
P 用紙(記録媒体)
1a 記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
1b 処理液ヘッド
8 搬送ローラ対
10 ヘッドユニット
16 搬送ユニット
51 ヘッド制御部
51a 記録ヘッド制御部(液滴吐出ヘッド制御部)
51b 処理液ヘッド制御部
52 画像データ記憶部
53 インク吐出データ生成部(液滴吐出データ生成部)
54 インク吐出データ記憶部(液滴吐出データ記憶部)
56 処理液吐出データ生成部
57 処理液吐出データ記憶部
59 搬送制御部
61 ブロック別カウント部
62 評価領域別カウント部(液体算出部)
63 カール度合算出部
64 カール抑制部
66 疑似多階調処理部
67 液体−カール相関情報
73 操作パネル
100 演算制御装置
101 インクジェット式プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に向けて液体を吐出する1以上の液滴吐出ヘッドと、
前記記録媒体に形成される画像に対応して液滴を吐出させるための液滴吐出データを記憶する液滴吐出データ記憶部と、
前記液滴吐出データに基づいて前記1以上の液滴吐出ヘッドの動作を制御する液滴吐出ヘッド制御部と、
前記記録媒体上に定められた評価領域と対応する前記液滴吐出データに基づいて前記評価領域へ吐出される液体量および液滴数を算出する液体算出部と、
前記評価領域の位置と前記液体算出部により算出された当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液滴が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を算出するカール度合算出部と、
前記カール度合算出部により算出された前記記録媒体のカール度合に基づき当該記録媒体のカールを抑制するための処理が必要であるときに前記記録媒体のカールを抑制すべく前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように前記液滴吐出データを変更させるカール抑制部と
を備える、液滴吐出装置。
【請求項2】
前記液滴吐出データは、液滴数および液滴サイズの少なくとも一方を減少させることにより前記評価領域へ吐出される液体量が減少するように変更される、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記液滴吐出データは、前記評価領域の液滴数が減少し且つ前記評価領域に含まれる1つ以上の単位領域の液滴サイズが増大するように変更される、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記記録媒体に形成される画像データに基づいて前記液滴吐出データを生成する液滴吐出データ生成部を備え、
前記液体算出部は、前記液滴吐出データ生成部で生成された前記液滴吐出データが前記液滴吐出データ記憶部へ転送されてくるときに液体量および液滴数を算出する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記カール抑制部は、前記液滴吐出データ生成部に前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように液滴吐出データを再生成させる、請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように当該液滴吐出データに対して疑似多段階処理を行う疑似多段階処理部を更に備え、
前記カール抑制部は、前記疑似多段階処理部に、前記液滴吐出データが前記液滴吐出データ記憶部から前記液滴吐出ヘッド制御部へ転送されるときに当該液滴吐出データを疑似多段階処理させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記カール度合算出部は、前記評価領域に吐出される液体量と液滴数と前記記録媒体のカール度合との関係を示す相関情報を利用して前記記録媒体のカール度合を算出する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記液体算出部は、前記記録媒体上に定められた複数の評価領域の各々について該評価領域に吐出される液体量および液滴数を算出し、
前記カール度合算出部は、前記複数の評価領域の各々について前記記録媒体のカール度合を算出し、そのうち最も大きな値を前記記録媒体のカール度合とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記複数の評価領域は、前記記録媒体を複数の異なるパターンで分割することにより得られた複数パターンの評価領域を含む、請求項8に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
液滴吐出装置で実行されるプログラムであって、
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、前記液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する処理と、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を算出する処理と、
算出された前記記録媒体のカール度合に基づき当該記録媒体のカールを抑制するための処理が必要であるときに前記記録媒体のカールを抑制すべく前記評価領域に吐出される液体量および液滴数のうち少なくとも一方が変化するように前記液滴吐出データを変更させるカール抑制処理とを、前記液滴吐出装置に実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−158062(P2012−158062A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18736(P2011−18736)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】