説明

液状コンクリート急結剤及びその製造方法、並びにその急結剤を用いて硬化させたコンクリート

【課題】
極めて環境に優しい液状コンクリート急結剤及びその製造方法、並びにその急結剤を用いた、災害発生時においてコンクリートの凝結時間を著しく短縮し、十分な初期強度を有し、かつ十分な長期強度をも併せ持つコンクリートを提供する。
【解決手段】
高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を液状コンクリート急結剤として用い、液状コンクリート急結剤、セメント、骨材及び水を反応させて得られることを特徴とするコンクリートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣より得られた液状コンクリート急結剤及びその製造方法、並びにその急結剤を用いて硬化させたコンクリートを提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に起因すると想定される海面上昇により、いわゆる海抜ゼロメートル地帯が将来的に水没する危険性があることについて指摘がなされている。また、このような地域では、大規模地震発生に伴う津波や台風接近時の高潮のような災害発生時において、海面上昇から沿岸領域を保護するために、緊急避難対策として早急にコンクリート打設による防潮堤を設置することが必要となる。
【0003】
従来、コンクリートの打設工事や吹付け工事に際し、コンクリートに急結剤を混合し、コンクリートを短時間で硬化させる工法が知られている。吹付け工事の場合には、例えばトンネル天井部にコンクリートを吹付ける際、圧縮空気によって施工面に吹付けることとなるので、予め混合されている急結剤が吹付けに際してコンクリートと十分に混ぜ合わされる。一方でコンクリートの打設工事の際には、コンクリートを所定場所まで供給する際に、急結剤とコンクリートとが十分に混合されないという問題点があった。また、十分な混合が得られるように早期に急結剤を添加し混合を始めると、供給中途でコンクリートが硬化してしまうという問題点があった。また、急結剤は一般的に強アルカリ性であり、人体に対して有害であること、またナトリウム等のアルカリ金属がコンクリート中の骨材と反応し、アルカリシリケートゲルを生成して膨潤し、膨張破壊を招く、いわゆる、アルカリ骨材反応を引き起こすという課題があった。
【0004】
そこで、成分中にアルカリ分を含まないアルカリフリー液体急結剤が既に提供されているが(メイコSA161:BASFポゾリス株式会社、AFK-777J:株式会社カテックス)、いずれも吹付け工事に際して使用する急結剤である。
【0005】
コンクリート打設時に使用する急結剤に関連する技術として、特許文献1では、スラリー状の急結剤を低圧で供給し、これを高圧の水噴射で加速して打設コンクリート中に混入させ、コンクリートに対する急結剤の混合を均一なものとする技術を提供する。
【0006】
また、特許文献2では、石灰100重量部に対して、アルミニウムの酸性塩10〜50重量部、アルカリ金属の炭酸塩10〜50重量部よりセメント急結剤を構成する。またこのセメント急結剤をセメントに0.5%以上混入することで、セメントは2〜3時間で脱枠が可能となり、ブリージング現象の発生も防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−10097号公報
【特許文献2】特開2008−37707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、急結剤をコンクリートに混入するには大掛かりな装置が必要となり、また高圧水を必要とするため緊急のコンクリート打設工事の際には対応できないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2の急結剤では、急結剤を添加してから30〜75秒の範囲内で凝結し、且つ、10分後に所定の強度(例えば、貫入抵抗法で20N/mm2以上の強度)を発現することを特徴とするが、上述の災害発生時においては十分な作業を行うための可使時間として数時間を必要とするため、急速な凝結は逆に緊急避難対策としてコンクリートの打設においては好ましくないという問題がある。
【0010】
本発明者らは、従来から災害発生時に使用可能なコンクリート急結剤について種々検討を重ねてきたところ、本発明で使用する有機性廃棄物の改質残渣より得られた抽出液をコンクリート急結剤として使用した場合に、コンクリートの凝結時間を著しく短縮し、かつ初期強度及び長期強度の発現性の高いことを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、前記の問題点を解決することを課題とし、有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣より得られた液状コンクリート急結剤及びその製造方法、並びにその急結剤を用いて硬化させたコンクリートを提供する。有機性廃棄物を、外部からのエネルギーを使用することなく改質を行い、その改質残渣を使用して高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を含むことを特徴とする液状コンクリート急結剤を得る。本発明の液状コンクリート急結剤を使用することで、災害発生時においてコンクリートの凝結時間を著しく短縮し、十分な初期強度を有し、かつ十分な長期強度をも併せ持つコンクリートを提供することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の液状コンクリート急結剤は、高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の液状コンクリート急結剤は、前記抽出液の成分が、カルシウムを含有することを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の液状コンクリート急結剤は、前記抽出液の成分が、更に、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、ホウ素、鉄を含有することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の液状コンクリート急結剤は、前記高湿度条件が、湿度80%以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の液状コンクリート急結剤は、前記有機性廃棄物が、カルシウム化合物を含有する石油燃料から生成したものであることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載のコンクリートは、前記液状コンクリート急結剤、セメント、骨材及び水を反応させて得られることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の液状コンクリート急結剤の製造方法は、
有機性廃棄物を改質する改質工程と、
該改質工程において生成した改質残渣を回収する改質残渣回収工程と、
高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を回収する抽出液回収工程と
を備える。
【0019】
請求項8に記載の液状コンクリート急結剤の製造方法は、
前記改質工程が、
有機性廃棄物を改質容器内に供給し、反応開始剤を用いて有機性廃棄物の一部において改質を開始する反応開始工程と、
気体導入管による改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応を拡大させる反応拡大工程と、
燃焼核の大きさを維持することにより改質を定常的に行う反応定常工程と、
を備え、改質残渣を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生成した改質残渣、つまり灰を利用して液状コンクリート急結剤を得ることが可能であるため、極めて環境に優しい液状コンクリート急結剤を提供することができる。また、外部からのエネルギーを使用せずに有機性廃棄物を改質する方法を用いて改質残渣を生成することからも、従来とは異なる、環境に配慮した液状コンクリート急結剤を提供することが可能である。
【0021】
本発明によれば、液状コンクリート急結剤を得るために大掛かりな装置や多大な手間は要さず、安価に製造することが可能である。
【0022】
本発明によれば、液状コンクリート急結剤を使用して提供されるコンクリートは、海水、海砂を使用しても十分な初期強度を有し、かつ十分な長期強度をも併せ持つコンクリートであり、災害発生時において使用することが可能である。すなわち、地震に伴い発生する大津波や集中豪雨で発生する土石流等の災害発生時に、現場で調達可能な海水、海砂を用いて早急にコンクリート構造物を建設し、例えば人災を未然に防ぐことが可能となることから、人命救助の観点より、非常に有用性の高いコンクリート急結剤である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】液状コンクリート急結剤の製造方法のフローチャートである。
【図2】有機性廃棄物を改質する改質工程のフローチャートである。
【図3】有機性廃棄物改質用装置の概略図である。
【図4】有機性廃棄物改質用装置の外観図である。
【図5】温度センサーおよび燃焼核を説明する改質容器の断面図である。
【図6】気体導入管を説明する改質容器の断面図である。
【図7】排出口を説明する改質容器の断面図である。
【図8】水による燃焼反応の化学反応式の説明図である。
【図9】抽出機の外観図である。
【図10】コンクリートの性能試験における初期強度を示すグラフである。
【図11】コンクリートの性能試験における初期強度を示す回帰直線を1本で示したグラフである。
【図12】コンクリートの性能試験における初期強度を示す回帰直線の傾きを統一したグラフである。
【図13】コンクリートの性能試験における長期強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の液状コンクリート急結剤は次の3段階の工程を経て得られる。すなわち、
(1)有機性廃棄物を改質する改質工程、
(2)該改質工程において生成した改質残渣を回収する改質残渣回収工程、
(3)高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を回収する抽出液回収工程
である。回収された抽出液を液状コンクリート急結剤として用い、セメント、骨材及び水を反応させて得られるコンクリートを提供する。
【0025】
まず、本発明の有機性廃棄物を改質する改質工程について説明する。改質工程については、3段階の工程に分けられる。すなわち、有機性廃棄物を改質容器内に供給し、反応開始剤を用いて有機性廃棄物の一部において改質を開始する反応開始工程、気体導入管による改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応を拡大させる反応拡大工程、燃焼核の大きさを維持することにより改質を定常的に行う反応定常工程である。
【0026】
反応開始工程においては、所定量の有機性廃棄物を改質容器内に供給し、反応開始剤を用いて有機性廃棄物の一部を着火させることで反応を開始させる。反応開始剤としては、少量のカーバイドと水を用いることで、有機性廃棄物を着火させる。反応開始時には改質容器内には酸素を含む空気が充満し、カーバイドと水の反応によりアセチレンガスが発生するため、このアセチレンに着火することにより有機性廃棄物も瞬時に着火する。なお、有機性廃棄物の含水状態にもよるが、有機性廃棄物が初期段階で乾燥状態である場合は反応開始前に所定量の水を加えておく。
【0027】
反応開始後、反応拡大工程においては、投入した有機性廃棄物における反応箇所を気体導入管による改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により拡大させる。気体導入管による改質容器内への通気により改質容器内には外気が絶えず導入されているため、酸素を使用した燃焼反応は継続的に起こっている。酸素を使用した燃焼反応によって、周辺の有機性廃棄物およびそこに含まれる水の温度が上昇し、有機性廃棄物と水との反応、すなわち水による燃焼反応が起こる。さらに、気体導入管による改質容器内への通気は、気体導入管先端部を改質容器中心部から周辺部へ移動させることで、通気状態を変化させることが可能であり、酸素を使用した燃焼反応は、有機性廃棄物中心部から周辺部へ拡大する。この酸素を使用した燃焼反応によって熱がさらに発生し、有機性廃棄物内の水による燃焼反応が拡大する。この一連の反応により、反応拡大工程においては、有機性廃棄物内における反応を拡大させることができる。一方、反応開始時に有機性廃棄物に水を加えておくことで、酸素による燃焼反応は有機性廃棄物全体には広がらない程度に抑制される。また、改質容器内の有機性廃棄物および酸素による燃焼反応で発生した燃焼物の存在により、有機性廃棄物における反応箇所では通気状態が少なからず妨げられているため、これによっても酸素による燃焼反応は有機性廃棄物全体には広がらない程度に抑制されている。
【0028】
ここで、有機性廃棄物内の水による燃焼反応について説明する。通常、狭義の燃焼反応とは、酸素による熱と光を伴う激しい酸化反応のことをいう。例えば、これを化学反応式で表すと、およそ図8(a)(b)のようになる。即ち、バイオマス等の有機性廃棄物を炭水化物(図8(a))又は炭化水素(図8(b))とすると、酸素との反応後、二酸化炭素および水を生成する反応となる。一方、本発明における水による燃焼反応とは、水を酸化剤として使用し、炭水化物または炭化水素から水素を発生させる反応である。これを化学反応式で表すと、およそ図8(c)(d)のようになる。即ち、上記同様にバイオマス等の有機性廃棄物を炭水化物(図8(c))又は炭化水素(図8(d))とすると、二酸化炭素および水素、または一酸化炭素および水素を生成する反応となる。この反応は水蒸気改質と類似する反応であるが、一般的な水蒸気改質において必要な、1000℃もの高温水蒸気および触媒は不要である。以後、燃焼反応とは、水による燃焼反応を表すこととする。
【0029】
燃焼反応が有機性廃棄物内に拡大すると、有機性廃棄物中心部では温度が300〜400℃付近まで上昇する。改質容器に設置された複数本の温度センサー全てが温度上昇を検知した時点で気体導入管を改質容器内周辺部から中心部へ戻すことで、反応定常状態が形成される。この際の有機性廃棄物中心部の高温部を燃焼核と称し、またこの状態を反応定常工程と称する。燃焼核周辺部の温度は約150〜200℃付近であり、また、改質容器内の気相では80℃付近、改質容器外部では40℃付近である。燃焼反応が進行することで、有機性廃棄物の改質が進むと、更に有機性廃棄物を改質容器内に供給する。また、有機性廃棄物には水を連続的に供給することで、水分不足による燃焼反応の停止を防止する。
【0030】
燃焼核が収縮した場合には、上記反応拡大工程と同様、改質容器周壁部に設置された気体導入管の気体導入管先端部を改質容器中心部から周辺部へ移動させることで、酸素による燃焼反応を拡大させ、再度反応拡大工程から改質工程を繰り返すことが可能である。この際にも特に外部からのエネルギーを用いる必要はなく、気体導入管による改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応を拡大させ、反応定常工程へと至らしめることが可能である。また、燃焼核が拡大し過ぎた場合には、気体導入管による通気量を減少させることで酸素による燃焼反応を調節することが可能である。改質容器周壁部に設置された気体導入管の気体導入管先端部を改質容器中心部から周辺部へ移動させることにより酸素による燃焼反応が拡大しない場合は、有機性廃棄物を改質容器内に供給し、改質容器内に設置された複数本の温度センサー全てが温度上昇を検知するまで数時間程度そのまま放置する。温度上昇が検知された場合は、気体導入管を改質容器内周辺部から中心部へ戻すとともに改質容器内に水を供給し、反応定常工程を継続させる。以上の様に3段階の改質工程により、外部からのエネルギー供給を行うことなく有機性廃棄物を改質することが可能となる。
【0031】
なお、有機性廃棄物とは、カルシウム化合物を含有する石油燃料から生成されるクロス紙等の合成有機性廃棄物を含む有機性廃棄物を想定しているが、これらに限定されるものではなく、カルシウム化合物を含有する石油燃料から生成した種々の有機性廃棄物を適宜使用可能である。
【0032】
次に、本発明の有機性廃棄物の改質方法に用いられる有機性廃棄物の改質用装置について説明する。有機性廃棄物の改質用装置は、有機性廃棄物の供給手段と、供給手段から供給された有機性廃棄物の改質を行う改質容器と、有機性廃棄物の燃焼中における温度状態を把握するための温度センサーと、改質容器内への通気を行うための気体導入管と、改質を行うため水を補充する給水手段と、前記改質容器から排出するガスを処理する排出ガス処理手段と、改質が行われた改質残渣を外部に排出する排出手段とを有する。
【0033】
本発明の有機性廃棄物の改質用装置における有機性廃棄物の供給手段は、供給口と供給口蓋体からなる。供給口は、改質容器天井部に開口する形で形成され、有機性廃棄物の供給が行われる。天井部に供給口を設置することで改質容器内に均一に有機性廃棄物を供給することが可能となる。
【0034】
改質容器は、容器壁と、脚部とからなる。
【0035】
容器壁は、平面正六角形状の天井部と、天井部の外周縁部から下方に周設された周壁部と、天井部と同様平面正六角形状の底部からなる。なお、周壁部は、耐火性壁部と、耐火性壁部を被覆する外壁部とから構成する構造が好ましいが、簡易的には通常用いられる鋼板によって形成される。鋼板は約10mm程度の厚みを有することが好ましい。
【0036】
脚部は、周壁部の下端部に複数本取り付けられ、約50cm程度の同一の長さからなることで改質容器を地上から一定の高さに設置できる。また、設置地点に傾斜がある場合には、脚部の長さを調節することで、改質容器を水平に保持することができる。
【0037】
改質容器は、約1000リットルの容量を有する、底部および天井部の1辺が約60cmの正六角形、底部から天井部までの高さ約1mの正六角柱形状の容器であるが、容量、サイズはこれに限定されるものではない。また、形状も正六角柱形状に限定されるものではなく、円筒形状等でもよい。
【0038】
有機性廃棄物の燃焼中における温度状態を把握するための温度センサーは、改質容器内に複数本設置されており、温度検知部位が改質容器の外壁部から改質容器内部に突出され、改質容器内の燃焼中の有機性廃棄物の温度を検知する。温度センサーは、燃焼中の有機性廃棄物中の燃焼核の大きさを測定する役割を果たす。具体的には、温度センサーは、直径約1〜5cm、全長約50cmの円筒形状のもので、温度検知部位、本体、表示部からなり、正六角柱の各側面中央部に穿設された孔から改質容器内に突出しており、温度検知部位が燃焼中の有機性廃棄物の温度を検知できる。穿設孔は、改質容器底部から約50cmの高さに位置しており、改質容器が正六角柱形状を有する場合には、改質容器の6側面部から各々1本ずつ、計6本の温度センサーが改質容器内の温度検知に使用され、各々の温度センサーの温度検知部位は改質容器内で容器中心部から半径15cm程度の大きさの円を描くように配置される。反応定常工程においては、温度センサーのうち少なくとも1本が3分間以上200℃を下回る温度を計測した時点で、気体導入管の気体導入管先端部を改質容器中心部から周辺部へ移動させることで、有機性廃棄物内の燃焼核の大きさを拡大させ、加えて給水手段より改質容器内に給水を行うことで、燃焼反応を継続的に行うことが可能である。温度検知部位が検知する温度は表示部で確認することができる。
【0039】
改質容器内への通気を行うための気体導入管は、直径約3cm、全長約60cm程度の金属製管であり、改質容器周壁部に設置される。常時気体導入管先端部から外気が導入されているため、改質容器内では酸素による燃焼反応が一定の割合で絶えず起こっている。気体導入管は、改質容器の下端部から高さ約20cmに位置し、改質容器周壁部の各側面中央部に穿設された孔を通して、改質容器外部より改質容器内へ外気を導入する。気体導入管は移動させることが可能であり、位置を固定されることなく、改質容器内において通気位置を調節することが可能である。また、改質容器内への通気量を増やすため、気体導入管の管側面に小孔を穿設することもできる。
【0040】
改質を行うため水を補充する給水手段は、給水タンクと改質容器内で燃焼中の有機性廃棄物に給水を行うシャワー部からなる。給水タンクは、前記改質容器天井部の中央部に設けられており、給水タンク内に常時貯水しておくことができる。給水タンクとシャワー部とは給水タンク下部蓋体で仕切られており、必要に応じて水を給水タンク内からシャワー部に送ることができる。シャワー部のシャワーヘッドには多数の孔が開いており、水が噴霧されることで、改質容器内部の燃焼中の有機性廃棄物全体に満遍なく水が行き渡るような構造となっている。シャワーヘッドは球体形状をしているが、これに限定されるものではない。1回の給水量は、有機性廃棄物の含水量と給水量の合計量が、有機性廃棄物の重量を超えないよう調整することが好ましい。また、簡便的に給水を行うにあたっては、有機性廃棄物の供給口を開口して給水することも可能である。
【0041】
改質容器から排出するガスを処理する排出ガス処理手段は、通気筒体、ガス捕集部、タール除去部、吸引ファンからなる。通気筒体は改質容器周壁部に外設されており、改質により発生したガスが吸引ファンによって強制的に吸引されることで通気筒体内に流入し、通気筒体を通過した後、ガス捕集部で有用なガスが捕集される。タール除去部では、おが屑等からなる木質ペレット等や、活性炭を敷設することで、フィルターの役割を担うことができ、最終的に排出するガスを浄化することが可能である。
【0042】
改質容器内には圧力計を設置し、改質工程における改質容器内の圧力を計測することで、容器内の減圧状態を保持できるよう吸引ファンによる吸引を調整することが好ましい。
【0043】
さらに、改質容器内には酸素濃度計を設置し、改質工程における改質容器内の酸素濃度を測定することで、容器内の酸素状態を保持することが好ましい。
【0044】
次に、改質残渣を回収する改質残渣回収工程について説明する。改質が行われた有機性廃棄物の改質残渣を外部に排出する排出手段は、改質容器周壁部に設置された排出口から、内部に蓄積した改質残渣を取り出す。有機性廃棄物は改質され、生成した改質残渣は排出口付近に集積する。排出口は改質容器周壁部に複数設置することが可能である。改質残渣の回収については、有機性廃棄物から改質残渣の生成において減容率が大きいため、およそ2日に1回の割合で改質残渣を取り出す。また、排出口の位置はこれに限定されるものではなく、排出口を改質容器底部に設置することも可能である。なお、排出口付近には改質容器内の過剰な水を取り出すための排水口を設けることが好ましい。改質残渣は、通常の酸素による燃焼反応で生成する燃焼灰とは異なり、改質完了後には白色の微細粉末状となり、改質容器底部に集積する。改質容器に投入した有機性廃棄物から改質残渣が生成されるが、その減容率は約90%程度と極めて高い。つまり、100kgの有機性廃棄物から10kg程度の改質残渣を得ることができる。改質残渣は改質容器底部に集積している状態では含水状態となり、外力によってスラリー状に変化するため、改質残渣を改質容器から取り出す際には、改質残渣に極力外力を加えない様に注意し、迅速に抽出機上に移動させる。なお、改質残渣は改質容器から取り出し、一度乾燥させた後に再度高湿度条件下で使用することもできる。
【0045】
なお、上記の通り、有機性廃棄物の供給、水の補充、改質容器内への通気および改質残渣の排出を連続的に行うことによって、外部からのエネルギーを用いることなく、半永久的に有機性廃棄物改質用装置の運転を継続し、改質残渣を生成することが可能となる。
【0046】
次に、高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を回収する抽出液回収工程について説明する。高湿度条件下に設置された棚型式の抽出機を用いて、抽出処理を行う。抽出機は、複数枚の平面矩形状の板材から形成され板材の表面に改質残渣を載置する載置部、複数本の支柱からなる足部、滲出する抽出液を地上に設置された収容器へと導く集液手段からなる。
【0047】
載置部は、板材を地上から均等間隔に並べた状態で四隅を支柱により固定することからなる。板材は集液手段へ向かって僅かに下方に傾斜構造をとり、改質残渣から滲出する抽出液を効率的に集液手段へと導く。
【0048】
集液手段は、上面が開口する断面略U字状の傾斜樋及び竪樋からなり、板材上の改質残渣から滲出する抽出液が板材の端部に到達し傾斜樋に落下後、傾斜樋内面長手方向に沿って傾斜樋下方端部に設置された竪樋に誘導され、竪樋に流下した抽出液を地上に設置した収容器内へと導く。傾斜樋は緩やかな傾斜構造を有し、改質残渣を載置する載置部を形成する各板材に対応し板材端部に沿って設置されており、抽出液を傾斜樋下方端部に設置された竪樋に効率的に誘導する役割を果たす。竪樋は円筒状で地上に対し垂直に設けられ、各傾斜樋と各傾斜樋下方端部で接続され、各傾斜樋から誘導された抽出液を、地上に設置された収容器へと導く役割を果たす。
【0049】
板材は、波形トタン板であることが好ましく、その波方向を長手方向、波形トタン板断面の波の山や谷の稜線方向を短手方向とし、改質残渣から滲出する抽出液を傾斜に従って長手方向端部に導き、傾斜樋に落下させる。波形トタン板は、アクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの樹脂製のものであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0050】
傾斜樋及び竪樋は、板材同様アクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの樹脂製のものであることが好ましいが、これに限定されるものではなく、金属を芯材として使用し、この芯材の周囲に樹脂を被覆したようなものであっても構わない。
【0051】
抽出機は、湿度80%以上の高湿度条件下に設置され、載置部に載置された改質残渣からは、抽出液が滲出する。改質残渣を載置してから数分で抽出液の滲出を開始が確認でき、抽出液は、傾斜樋、竪樋を通り、地上に設置された収容器に貯留される。改質残渣は、湿度80%以上の高湿度条件下において、空気中の水分を吸収し、抽出液は自然発生的に滲出するが、これに伴い、改質残渣自体の体積も徐々に減少する。例えば、半年間高湿度条件下にて静置後、改質残渣の重量は約1/3程度まで減少し、最終的には全て消滅する。改質残渣約1kgを使用する場合、1時間に約5〜10mL程度、1年間に約60Lの抽出液を得ることができる。得られた抽出液の成分は表1の通りである(茨城県株式会社環境研究センターに分析委託)。なお、表2に示すように、抽出液の密度ρlは抽出後、数週間から2月程度常温で保存したものを再度成分分析してもその密度が変化せず、極めて貯蔵安定性に優れているものである。
【0052】
なお、高湿度条件とは、湿度80%以上の養生室を想定しているが、湿度条件が大幅に変化しない空間であれば問題ない。また、高湿度条件下ではない通常の外気に晒した状態でも抽出液は滲出するが、その滲出速度は遅く、効率的に抽出液を得るためには高湿度条件下での抽出液回収が好ましい。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
得られた抽出液、すなわち液状コンクリート急結剤と、セメントと、骨材と、水とを反応させ、液状コンクリート急結剤を用いて硬化させたコンクリートを得る。
【0056】
液状コンクリート急結剤は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、ホウ素、鉄を含有することを特徴とするが、表1に示す成分比に限定されるものではない。また、液状コンクリート急結剤のpHは強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよい。pH調整に用いるアルカリ性物質に特に限定はないが、通常NaOH、Ca(OH)2などが一般的である。
【0057】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、着色ポルトランドセメント等が挙げられるが、特にコスト、施工性といった点から普通ポルトランドセメントが好ましい。また、コンクリートの流動性を高め、コンクリート強度を得る為、フライアッシュやシリカ、高炉スラグ微粉末などを使用することも可能である。
【0058】
骨材は、周知の材料を使用することができ、川砂利、山砂利、陸砂利といった砂利類、海砂、砕砂、砕石、鉱滓、高炉スラグ、路盤材等を破砕したもの等を使用することができる。また、骨材は、粒径によって細骨材と粗骨材とに分けられるが、細骨材と粗骨材とを、コンクリートの特性及び作業性といった点から適宜混合して用いることが好ましい。細骨材とは、粒径5mm以下のものが重量で85%以上含まれる骨材のことをいう。粗骨材とは、粒径5mm以上のものが重量で85%以上含まれる骨材のことをいう。細骨材は、上述した骨材材料から適宜選択して又は混合して用いることができる。また、粗骨材についても、上述した骨材材料から適宜選択して又は混合して用いることが可能である。
【0059】
前記細骨材は、コンクリートの混練性が良好に確保できることから、粗粒率は2.3以上であることが好ましい。なお、粗粒率とは、標準網ふるい80、40、20、10、5、2.5、1.2、0.6、0.3、0.15mmの1組のふるいを用いて、ふるい分け試験を行い、各ふるいにとどまる試料の質量百分率の和を100で割った値をいう。
【0060】
水は、工業用水、地下水、水道水等いずれも使用可能であり、特に限定されるものではないが、本発明のコンクリートは、災害発生時において、緊急避難対策として早急にコンクリート打設を行う際に使用するものであるため、海水を使用して圧縮強度試験を行った。
【0061】
(供試体の作製)
本発明のコンクリート供試体は、JIS A 1138に基づき十分に混練し、これを打設する。供試体の配合については、災害発生時の状況を想定し、複数種類の配合を行った。
【0062】
(圧縮試験)
本発明に係るコンクリートについて、圧縮試験を実施した。圧縮強度試験はJIS A 1108に基づき、φ50mm×100mmの円柱供試体を作成し、経過時間を初期強度、長期強度に分け実施した。
【0063】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0064】
図1は、本発明に係る液状コンクリート急結剤の製造方法のフローチャートである。液状コンクリート急結剤の製造方法は、有機性廃棄物を改質する改質工程S1と、該改質工程において生成した改質残渣を回収する改質残渣回収工程S2と、高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を回収する抽出液回収工程S3とを備える。
【0065】
図2は、本発明の改質工程S1のフローチャートである。改質工程S1については、3段階の工程に分けられる。すなわち、有機性廃棄物を改質容器内に供給し、反応開始剤を用いて有機性廃棄物の一部において改質を開始する反応開始工程S4、気体導入管による改質容器内の改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応を拡大させる反応拡大工程S5、燃焼核の大きさを維持することにより改質を定常的に行う反応定常工程S6である。有機性廃棄物の種類、含水量等の条件によるが、反応拡大工程S5は約600分程度継続し、その後反応定常工程S6へと至る。反応定常工程S6へ至った後、燃焼核が安定的に存在しない場合は、再度反応拡大工程S5を繰り返し、燃焼核を形成させる。また、図示するように、反応定常工程S6において、温度センサーにより200℃以下の温度低下が認められた場合は、気体導入管を改質容器内周辺部へ移動することにより、酸素を使用した燃焼反応を拡大させ、温度センサー全てが200℃を検知した時点で気体導入管を改質容器内中央部へ戻すことで、反応定常工程S6を維持する。気体導入管を改質容器内周辺部へ移動させても温度上昇が認められない場合は、有機性廃棄物を供給し、温度上昇が認められた場合は、上記と同様に気体導入管を改質容器内中央部へ戻すことで、反応定常工程S6を維持する。有機性廃棄物を供給しても温度上昇が認められない場合は、さらに有機性廃棄物を供給する。なお、気体導入管を改質容器内中央部に戻す際に、水を供給し、燃焼反応を継続させるが、水を供給するタイミングについては、これに限定されるものではない。
【0066】
図3、図4はそれぞれ有機性廃棄物改質用装置10の概略図、外観図である。図において、有機性廃棄物改質用装置10は、供給手段13から供給された有機性廃棄物15の改質を行う改質容器11と、有機性廃棄物15の燃焼中における温度状態を把握するための温度センサー22と、改質容器内18への通気を行うための気体導入管23と、改質を行うため水を補充する給水手段20と、前記改質容器11から排出するガスを処理する排出ガス処理手段21と、改質が行われた改質残渣17を外部に排出する排出口19とを有する。
【0067】
供給手段13は、有機性廃棄物15を受け入れて改質容器11の容器内18へ供給する供給口13aと、供給口13aに嵌合する供給口蓋体13bから構成される。
【0068】
有機性廃棄物15の改質を行う改質容器11は、天井部12a、周壁部12b、底部12cからなる容器壁12、脚部16から構成される。改質容器11は正六角柱形状の容器であり、1辺が約60cmの正六角形、全体の高さが約1mの、1000リットルの容量を有する容器である。
【0069】
脚部16は、底部12cに6本設置され、約50cm程度の同一の長さからなることで、改質容器11を地上から一定の高さに設置できる。また、設置地点に傾斜がある場合には、脚部16の長さを調節することで、改質容器11を水平に保持することができる。
【0070】
本実施例においては、約30kgの有機性廃棄物15として炭酸カルシウムを混入させたクロス紙(トキワ工業株式会社)を用い、有機性廃棄物15が供給手段13から改質容器11に供給された後、少量のカーバイドと水を用いて反応させることで、有機性廃棄物15を着火させる。この際、有機性廃棄物15が乾燥状態である場合は、約20リットルの水を着火前に有機性廃棄物15に加え、よく撹拌しておく。反応開始後は、気体導入管23による改質容器内18への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応箇所を拡大させる。この際には、気体導入管23先端部を改質容器11中心部から周辺部へ移動させることで、酸素を使用した燃焼反応を有機性廃棄物15中心部から周辺部へと拡大させる。酸素を使用した燃焼反応によって有機性廃棄物15中には熱が蓄積しており、供給された水は潜熱によって有機性廃棄物15中の温度を上昇させ、有機性廃棄物15内で水による燃焼反応が起こる。反応拡大工程S5では、有機性廃棄物15中心部の温度上昇を伴うが、中心部の温度が400℃に到達した際に、5リットルの給水を1回行い、反応箇所を拡大させる。
【0071】
燃焼反応が有機性廃棄物15内に拡大すると、有機性廃棄物15中心部では温度が400℃付近まで上昇し、定常状態が形成される。この際には、気体導入管23先端部を改質容器11内周辺部から中心部に戻すことで、反応定常状態が形成される。図5に示すように、この際には有機性廃棄物15中心部の高温部に燃焼核24が形成される。燃焼核24は有機性廃棄物15中心部に約直径30cm程度の球体状に形成され、反応定常工程S6ではほぼ一定の大きさを保持する。燃焼核周辺部25の温度は約180℃付近であり、また、改質容器内18では80℃付近、改質容器11外部では40℃付近である。燃焼反応が進行することにより、有機性廃棄物15の改質が進んだ段階で、有機性廃棄物15を改質容器内18に追加的に5kg程度供給する。また、有機性廃棄物15には給水手段20により水を連続的に供給することで、水分不足による燃焼反応の停止を防止する。この際には1回の給水量が、投入した有機性廃棄物の乾燥重量を超えないように給水量を調整する。
【0072】
温度センサー22は、図5の通り、直径5cm、全長約50cmの円筒形状のもので、温度検知部位22a、本体22b、表示部22cからなり、改質容器周壁部12bの各側面中央部に穿設された穿設孔14から改質容器内18に突出しており、温度検知部位22aが燃焼中の有機性廃棄物15の温度を検知する。温度検知部位22aは温度センサー22の先端から約5cmの範囲であれば温度を検知することが可能である。穿設孔14は、改質容器底部12cから約50cmの高さに位置しており、各々の温度センサー22の温度検知部位22aは、改質容器内18で改質容器11中心部から半径15cmの円を描くように配置されている。温度センサー22のうち少なくとも1本が3分間以上200℃を下回る温度を計測した時点で、改質容器周壁部12bに設置された気体導入管23先端部を再度改質容器11内中心部から周辺部へ移動させ、酸素による燃焼反応を拡大させてから給水を行うことで、水による燃焼反応を改質容器内18で起こし、燃焼核24の大きさを拡大させ、燃焼反応を継続的に行うことが可能である。また、簡便的には、温度センサー22の代わりに温度計を用いて定期的に燃焼中の有機性廃棄物15の温度を計測することもできる。
【0073】
図6は気体導入管23の詳細を示す説明図である。気体導入管23は、直径約3cm、全長約60cm程度の金属製管であり、改質容器周壁部12bに設置される。常時気体導入管23から外気が導入されているため、改質容器内18では酸素による燃焼反応が一定の割合で起こっている。気体導入管23は、排出口19から高さ20cmに位置し、各側面中央部に穿設された孔を通して改質容器11外部より改質容器内18へ外気を導入する。なお、気体導入口23aは図6の通り、直径15mm、8mm、5mmの3種類の空気口を選択することができ、有機性廃棄物の種類、通気条件等により使い分けることが可能である。
【0074】
容器内18から排出するガスを処理する排出ガス処理手段21は、通気筒体21a、ガス捕集部21b、タール除去部21c、吸引ファン21dからなる。通気筒体21aは改質容器周壁部12bに外設されており、改質により発生したガスが吸引ファン21dによって強制的に吸引されることで通気筒体21a内に流入し、通気筒体21aを通過した後、ガス捕集部21bで有用なガスが捕集される。本実施例では、改質工程S1において有用な水素ガスが高濃度で発生するため、ガス捕集部21bにおいて高濃度水素ガスを捕集する。改質によって発生する高濃度水素ガスは、ガス捕集部21bにおいて水素吸蔵合金により捕集される。タール除去部21cは、おが屑等からなる木質ペレットや、活性炭を複数層にわたり敷設することで、フィルターの役割を担うことができ、最終的に排出するガスを浄化する。
【0075】
次に改質残渣17を回収する改質残渣回収工程S2について説明する。図7は排出口19を説明する改質容器11の断面図である。改質が行われた改質残渣17を外部に排出する排出手段は、改質容器周壁部12bの3方向に設置された排出口19から改質容器11の内部に蓄積した改質残渣17を取り出す。改質残渣17の回収については、2日に1回程度、改質残渣17を排出口19から取り出すが、反応定常工程S6においては、反応定常状態の燃焼核24を維持するために改質残渣17を全て取り出さないように注意する。なお、排出口19付近には改質容器11内の過剰な水を取り出すための排水口を設けることが好ましい(図示せず)。改質残渣17は、減容率が約90%程度と極めて高く、30kgのクロス紙から3kg程度の改質残渣17を得ることができる。改質残渣17は改質容器11の内部に蓄積した状態では含水状態となり、外力によってスラリー状に変化するため、改質残渣17を改質容器11から取り出す際には、改質残渣17に極力外力を加えない様に注意し、迅速に抽出機上に移動させる。また、使用しない改質残渣17は、ドラム缶等の適宜な容器に密封保存することが可能である。
【0076】
次に、高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液26を回収する抽出液回収工程S3について説明する。高湿度条件下に設置された棚型式の抽出機27を用いて、抽出処理を行う。抽出機27は、図9に示すように、3枚の平面矩形状の板材から形成され板材の表面に改質残渣17を載置する載置部28、4本の支柱からなる足部29、滲出する抽出液26を地上に設置された収容器30へと導く集液手段31からなる。
【0077】
載置部28は、3枚の波形トタン板からなる板材を地上から均等間隔に並べた状態で四隅を足部29により固定することからなる。板材は集液手段31へ向かって僅かに下方に傾斜構造をとり、改質残渣17から滲出する抽出液26を効率的に集液手段31へと導く。
【0078】
集液手段31は、上面が開口する断面略U字状の傾斜樋32及び竪樋33からなり、板材上の改質残渣17から滲出する抽出液26が板材の端部に到達し傾斜樋32に落下後、傾斜樋32内面長手方向に沿って竪樋33に誘導され、傾斜樋32下方端部に設置された竪樋33に流下した抽出液26を、地上に設置した収容器30内へと導く。傾斜樋32は緩やかな傾斜構造を有し、改質残渣17を載置する載置部28を形成する各板材に対応し板材端部に沿って設置されており、抽出液26を傾斜樋32下方端部に設置された竪樋33に効率的に誘導する役割を果たす。竪樋33は円筒状で地上に対し垂直に設けられ、各傾斜樋32と各傾斜樋32下方端部で接続され、各傾斜樋32から誘導された抽出液26を、地上に設置された収容器30へと導く役割を果たす。板材、傾斜樋32及び竪樋33は、ポリプロピレン樹脂製のものを用いるが、これに限定されるものではない。
【0079】
抽出機27は、湿度80%以上の高湿度条件下に設置され、載置部28に載置された改質残渣17は空気中の水分を吸収し、抽出液26を滲出する。改質残渣17を載置してから数分で抽出液26の滲出を開始が確認でき、抽出液26は、傾斜樋32、竪樋33を通り、地上に設置された収容器30に貯留される。改質残渣17を1kg使用する場合、1時間に約7mL程度、1年間に約60L程度の抽出液26を得ることができる。得られた抽出液26を液状コンクリート急結剤として密封容器に小分けし、常温で保存した。
【0080】
本発明の液体コンクリート急結剤を用いてコンクリートの初期強度及び長期強度の性能試験を行った。使用材料は下記の通りである。
【0081】
(使用材料)
(1) セメント
普通ポルトランドセメント 密度3.16g/cm3 (宇部三菱セメント株式会社)
(2) 細骨材
海砂(除塩前):粗粒率2.32 密度2.55g/cm3(福岡市西区小呂ノ島産)
(3) 水
海水:密度1.02g/cm3(山口県萩市大字須佐沖)
淡水:密度1.00g/cm3(須佐コンクリート株式会社内)
(4) 急結剤:密度1.3g/cm3
【0082】
(想定条件)
想定される災害発生時の状況に鑑み、急結剤の配合割合を変更した9条件(A1〜A9)を設定した。詳細は表3に示す通りである。
(1)土石流が発生し、河口付近で最大の被害が起こることを想定し、現場で調達できる淡水及び海砂を使用した。(A1〜A3)
(2)津波が発生し、海岸付近で最大の被害が起こることを想定し、現場で調達できる海水及び海砂を使用した。(A4〜A6)
(3)緊急時に淡水及び海水が使用不可能な事態を想定し、急結剤原液と海砂を使用した。(A7〜A9)
試料は、水セメント比(W/C)を50%と一定に、砂セメント比(S/C)を約3程度に調整し、液状コンクリート急結剤の添加率である液状コンクリート急結剤セメント比(急結剤/C)を0%、30%、40%と変更したものを使用した。A7〜A9は液状コンクリート急結剤セメント比を60%とした。
【0083】
【表3】

【0084】
(試験方法)
コンクリート強度の測定方法として、所定材齢における圧縮強度をJIS A 1108で定められたコンクリートの圧縮強度試験方法に従い、測定を行った。
【0085】
(初期強度試験結果)
まず、初期強度の測定について説明する。A1、A4は十分に固まらず、またA7〜A9は同一条件のため、その内A7のみ試験を実施した。条件としてA2、A3、A5、A6、A7の5条件を用いた測定結果を下記の表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
各測定データに従って、経過時間及び条件毎の基本統計量を算出したものを下記の表5に、全体の分散分布表を表6に示す。また、各測定データを経過時間と共にグラフに示したものが図10である。
【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
上記表5に示す基本統計量から、条件毎の単回帰分析を説明する。
まず、条件毎に下記5つの方程式を当てはめ、b0(1)乃至b1(5)の10個の係数を推定する。
(A2)Yα=b0(1)+b1(1)α
(A3)Yα=b0(2)+b1(2)α
(A5)Yα=b0(3)+b1(3)α
(A6)Yα=b0(4)+b1(4)α
(A7)Yα=b0(5)+b1(5)α
A2、A3、A5、A6、A7の残差平方和Seは、表5より、それぞれの残差平方和の合計でありSe = 7.528と算出され、その自由度feは下記の式(1)となりそれぞれの自由度の合計となる。
【数1】

これはまた、「データ数−推定した係数の数」としても定義されるため、fe = 32 - 10 = 22 と計算できる。従って、誤差分散Veは、Ve = Se / fe = 7.528 / ( 32 - 10 ) = 0.342を得る。
【0091】
回帰係数bi、誤差分散σ2の不偏推定量Ve、xの残差平方和Sxxより回帰係数biの有意性検定を行う。A2、A3、A5、A6、A7のbiは共通であるという帰無仮説Ho : βi = 0を立て、確率変数をtとすると、下記の式(2)となり、確率変数tは自由度n-2のt分布に従う。
【数2】

また、行列Sii、誤差分散σ2より、V(bi) = Siiσ2 (1≦i≦p、p:独立変数)と表わされるが、本実験においてはp = 1の場合であるため、S11 = 1 /S11となる。よって、上式はV(bi) = Siiσ2 = σ2 / S11となる。以上より、t1からt5の値を求めると、biには明らかな有意差が認められないため、A2、A3、A5、A6、A7に共通の回帰係数を推定する。
【0092】
回帰係数b1を共通とする回帰分析として、条件毎に共通のb1を当てはめた式を下記に示し、6個の係数を推定する。その結果、b1 = 0.018を得た。また、回帰係数b1の有意性は、SR(残差平方和)を自由度fR で除した値であるVR = SR / fR、Ve = Se / feとすると、分散比F = VR / Ve = 298.1を得る。
(A2)Yα=b0(1)+b1α
(A3)Yα=b0(2)+b1α
(A5)Yα=b0(3)+b1α
(A6)Yα=b0(4)+b1α
(A7)Yα=b0(5)+b1α
上式を下記の式(3)〜(7)の様に書き換える。
【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【0093】
回帰係数b1の差の検定として、表6より、分散比F = 3.38を得る。
【0094】
層別因子を無視した回帰分析として、A2、A3、A5、A6、A7に共通の1本の回帰直線を当てはめたものを図11に示す。
【0095】
定数項b0の差の検定として、表6より、分散比F = 7.59を得る。以上より、傾斜は共通であるが、定数項は異なる5本の平行な回帰直線を当てはめるべきであることが示された。
【0096】
上記より得られた推定式を図12に示す。ここから、目標強度4(N/mm2)への到達時間は、A7の場合3.3時間、A2の場合4.4時間、A6の場合4.8時間、A3の場合5.1時間、A5の場合5.5時間であり、従来のコンクリート急結剤より初期強度の発現が著しく早いことが示された。また、海水を用いたA5、A6でも目標強度4(N/mm2)へ早期に達したことから、単位水量として海水が使用可能であることが示された。上記の結果から、例えば災害発生時において、被災者へ避難場所となるコンクリート構造物を短時間で提供することが可能となる。また、緊急時用のヘリポート建設等にも使用可能である。さらに、図12に示す初期強度の経過時間と圧縮強度の回帰直線から、液状コンクリート急結剤の使用割合を推定することができる早見表を作成し、災害発生時にも迅速に対応することが可能である。
【0097】
(長期強度試験結果)
次に、長期強度の測定について説明する。条件は表7の通り、A1〜A9の9条件である。A7、A8、A9は養生の条件を変えて実施した。すなわち、A7は標準養生、A8は現場空中養生、A9は海中養生である。なお、標準養生とは、20℃±2℃の水中、または飽和湿気中に保持した養生、現場空中養生とは、コンクリート打設現場で空気にさらしたまま放置する養生、海中養生とは、海中にコンクリートを没する養生をいう。
【0098】
【表7】

【0099】
上記表7に示す結果をグラフに示したものが図13である。経過時間、すなわち材齢は7日〜28日に限定した。急結剤原液を使用したA7、A8、A9では養生方法を変えて長期強度の発現を比較したが、材齢7日では、現場空中養生(33.8(N/mm2))、海中養生(24.0(N/mm2))、標準養生(23.5(N/mm2))の順で長期強度の発現が見られた。長期強度の目標値である16N/mm2を全9条件とも超えたことから、長期強度を有することを確認することができた。上記の結果により、例えば将来的に沈みゆく領土では海中養生で、災害現場においては現場空中養生で、コンクリートを製造することが可能である。
【0100】
本発明は、上記の通り、初期強度の発現と、可使時間を同時に満足させ、長期強度をも併せ持つコンクリートを提供する。これは、カルシウム化合物により水硬率が上がり、クリンカー中の酸化カルシウム及びエーライトが多く生成するため、初期強度が高いことによる。また、エーライトは中程度の水和速度を有するため、初期及び長期の強度発現性に優れ、通常急結剤に使用されるアルミネートの水和速度より遅い性質がある。アルミネート量を上げれば、初期強度もそれに伴い上昇するが、可使時間は短くなるため、必要な可使時間を確保することが必要な災害発生時には適していない。上記性能試験の結果は、このような課題を解決することが可能であることを示したものである。
【0101】
以上、本発明に係る実施の形態であるが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、上記実施の形態に、多種多様な技術的変更を加えることによる実施の形態もまた、本発明の技術的範囲に属することは当業者に明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、生成した改質残渣、つまり灰を利用して液状コンクリート急結剤を得ることが可能であるため、極めて環境に優しい低コストの液状コンクリート急結剤を提供することができる。また、外部からのエネルギーを使用せずに有機性廃棄物を改質する方法を用いて改質残渣を生成することからも、従来とは異なる、環境に配慮した液状コンクリート急結剤を提供することが可能である。また、液状コンクリート急結剤を使用して提供されるコンクリートは、海水、海砂を使用しても十分な初期強度を有し、かつ十分な長期強度をも併せ持つコンクリートであり、災害発生時において使用することが可能である。すなわち、地震に伴い発生する大津波や集中豪雨で発生する土石流等の災害発生時に、現場で調達可能な海水、海砂を用いて早急にコンクリート構造物を建設し、例えば人災を未然に防ぐことが可能となることから、産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0103】
S1 改質工程
S2 改質残渣回収工程
S3 抽出液回収工程
S4 反応開始工程
S5 反応拡大工程
S6 反応定常工程
10 有機性廃棄物改質用装置
11 改質容器
12 容器壁
12a 天井部
12b 周壁部
12c 底部
13 供給手段
13a 供給口
13b 供給口蓋体
14 穿設孔
15 有機性廃棄物
16 脚部
17 改質残渣
18 改質容器内
19 排出口
20 給水手段
20a 給水タンク
20b シャワー部
21 排出ガス処理手段
21a 通気筒体
21b ガス捕集部
21c タール除去部
21d 吸引ファン
22 温度センサー
22a 温度検知部位
22b 本体
22c 表示部
23 気体導入管
23a 気体導入口
24 燃焼核
25 燃焼核周辺部
26 抽出液
27 抽出機
28 載置部
29 足部
30 収容器
31 集液手段
32 傾斜樋
33 竪樋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を含むことを特徴とする液状コンクリート急結剤。
【請求項2】
前記抽出液の成分は、カルシウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の液状コンクリート急結剤。
【請求項3】
前記抽出液の成分は、更に、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、ホウ素、鉄を含有することを特徴とする請求項2に記載の液状コンクリート急結剤。
【請求項4】
前記高湿度条件は、湿度80%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液状コンクリート急結剤。
【請求項5】
前記有機性廃棄物は、カルシウム化合物を含有する石油燃料から生成したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液状コンクリート急結剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の液状コンクリート急結剤、セメント、骨材及び水を反応させて得られることを特徴とするコンクリート。
【請求項7】
有機性廃棄物を改質する改質工程と、
該改質工程において生成した改質残渣を回収する改質残渣回収工程と、
高湿度条件下にて有機性廃棄物の改質により生成した改質残渣に水分を吸収させ、滲出する抽出液を回収する抽出液回収工程と
を備える液状コンクリート急結剤の製造方法。
【請求項8】
前記改質工程は、
有機性廃棄物を改質容器内に供給し、反応開始剤を用いて有機性廃棄物の一部において改質を開始する反応開始工程と、
気体導入管による改質容器内への通気と、水による燃焼反応を行うための給水により反応を拡大させる反応拡大工程と、
燃焼核の大きさを維持することにより改質を定常的に行う反応定常工程と、
を備え、改質残渣を生成することを特徴とする請求項7に記載の液状コンクリート急結剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−136891(P2011−136891A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299300(P2009−299300)
【出願日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(509308540)株式会社リ・サイエンスシステム研究所 (2)
【Fターム(参考)】