説明

液状複合体の製造方法

【課題】 脱臭性能及び凝集性能を有する新規な液状複合体の製造方法の提供。特に都市下水等の硫黄化合物含有廃水の硫酸塩還元菌により生ずる悪臭を抑制することができる脱臭性能及び凝集性能を持つ新規な液状複合体の製造方法の提供。
【解決手段】 第一鉄イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンの存在下で第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化して、硫酸イオンと硝酸イオンの合計量が酸化後形成された第二鉄イオンの全量を両イオンで正塩を形成するには不足する量であって、その両酸イオン量及び不足量は式で表記すると、Fe2n(NO3m(SO43-(n/2+m/2)(ただしXは一価の陰イオンであり、n及びmについては、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0)の通りである液状複合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、都市下水あるいはパルプ工場廃水等の硫黄化合物を含有する廃水を移送する配管あるいはその途中にある付帯施設等において、嫌気性雰囲気下に置いた際に硫酸塩還元菌の働きにより発生し、悪臭及び腐蝕の原因となる硫化水素の発生を抑制する性質を有する新規な液状複合体、それからなる脱臭剤及び脱臭性凝集剤並びにその液状複合体の製造方法に関するものである。
【0002】
さらに、本発明は、この複合体を硫黄化合物、特に硫酸塩を含有する廃水を処理する廃水処理施設において、脱臭性のある凝集剤として使用することも提供するものであり、その場合には、本来の凝集剤としての機能を発揮することは勿論のこと、それだけでなく該処理施設で問題となる、嫌気性雰囲気下に置いた際に硫酸塩還元菌の働きにより発生し、悪臭及び腐蝕の原因となる硫化水素の発生を抑制することができる。
【背景技術】
【0003】
硫化水素は、悪臭の原因となり、人体にも悪影響を与える強腐食性のガスであり、それは低濃度においても同様で、無視することはできない。そして都市下水には、硫酸塩等の硫黄化合物が含有されており、その管路や貯留槽は硫化水素の発生する好適条件を満たすことから、管路、付帯施設等の腐蝕、悪臭等が問題になる。
【0004】
最近では、下水管路に圧送管も普及してきており、この圧送管及びポンプますでは、特に滞留時間も長く、腐蝕が激しく、その対策が望まれている。硫化水素の多くは、嫌気性雰囲気(水中に酸素分子も硝酸イオンも存在しない状態)において、下水中に溶存している硫酸塩が硫酸塩還元菌により還元され生成する。また生成した硫化水素は水中においてH2S(分子状態)、HS-、S2-(イオン状態)の状態で存在し、気中への放散はすべて分子状態でおこり、その存在比はpHが低くなると高くなる。
【0005】
このような弊害を有する硫化水素に対する対策としては、それを原理的に見ると、硫化水素の発生そのものを抑制する方法、発生した硫化水素を固定する等により他の形態に変化させ、速やかに無臭化及び無害化させ、その弊害を回避する方法あるいは両者を併用する方法の3つの手法がある。
【0006】
第1の手法に属する方法としては、(イ)空気曝気により嫌気性雰囲気を好気性雰囲気(水中に酸素分子が存在する状態)にさせる方法または(ロ)硝酸イオンの添加により無酸素雰囲気(水中に硝酸イオンが存在する状態)させて硫酸塩還元を抑制する方法、(ハ)過酸化水素、過マンガン酸カリ等の酸化剤を添加することにより、水中の硫化物イオンを酸化し、また溶存酸素濃度をあげる方法。(ニ)水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより、分子状態の硫化水素が存在しない状態までpHをあげる方法。第2の手法に属する方法としては、(ホ)例えば鉄、銅、亜鉛等の金属塩を添加することにより、発生した硫化物イオンを溶解しない塩として固定する無臭化及び無害化させる方法。第3の手法に属する方法としては、(ヘ)硫酸第二鉄と硝酸の混合物を添加する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの従来方法においては、いずれも以下のような問題がある。すなわち、(イ)の方法では、大量に添加することが必要で、稼動エネルギーコスト増を招くと同時に、短時間で消費され、持続性がないので、管路の途中で頻繁に注入することが必要となる。(ロ)の方法は、硝酸イオン添加量の制御が難しく、しかも添加量が多すぎると環境を汚染する。すなわち、それを管路に過剰量添加した場合には、後段の水処理工程に余剰の硝酸イオンが流入し、沈殿池における活性汚泥処理の際に脱窒反応を起こし、汚泥浮上の原因となる。また、逆に少ないと十分に硫化水素の発生を抑制することができない。(ハ)のような酸化剤を添加する方法では、持続性がなく充分に硫化水素の発生を抑制できない。(ニ)の方法はpHを中性に戻せば硫化水素が再発生する。
【0008】
第2の手法における(ホ)の方法は、金属塩の添加量が多く、また不溶の塩が形成されるので汚泥の増加につながる。第3の手法における(へ)の方法は、脱臭剤の廃水への添加量は少なくできるが、硫酸第二鉄と硝酸の混合物はpHが低いため、やはりpH低下が大きく(ホ)と同様の理由で望ましくない。以上のとおりであるから、排水(廃水)管路における硫化水素発生の抑制あるいは速やかなる無害化の対策には有効な方法がないのが実状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、このような問題を解消すべく、硫酸塩還元菌の働きによって発生し、悪臭および腐蝕の原因となる硫化水素の発生を抑制する優れた脱臭剤を開発する研究に着手した。その開発に当たっては、下水等の排水に使用した際に脱臭性能が優れていると共に、添加した排水が終末処理場に到達した際に、そこでの終末処理に悪影響を与えないものを目指した。以上のことを狙いとして、この研究・開発に着手したが、本発明者らは、液状の凝集剤として、ポリ硫酸鉄を開発し、これを既に多くの下水終末処理場あるいは企業の廃水処理場で実用化させており、その化合物の安定性と終末処理への悪影響の不存在は、実証済みであると考えた。
【0010】
そのようなことで、ポリ硫酸鉄が排水中に存在しても終末処理に弊害が起こることはないと考えており、またこのポリ硫酸鉄については、その後も研究を継続しており、その結果多くの関連発明も開発している。そこで、本発明者はこの化合物に近似したもので先の課題を達成することのできるものの開発を目指した。その結果開発したのが本発明である。したがって、本発明は、保存安定性に優れ、使用量が少なく、かつ持続性があり、しかも添加量の調整が簡単で、使用した後には、下水等の廃水の終末処理場に悪影響を与えることのない脱臭性を有する液状複合体、それからなる脱臭剤、脱臭性を有する下水等の廃水の処理に適した凝集剤及びその複合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために液状複合体、それからなる脱臭剤及び脱臭性凝集剤、並びに液状複合体の製造方法を提供するものであり、その液状複合体は、第二鉄イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンから形成されるものであって、硝酸イオン及び硫酸イオンの量が第二鉄イオンと正塩を形成するには不足するものであって、その両酸イオン量及び不足量は一般式で表記すると下記のとおりである。
Fe2n(NO3m(SO43-(n/2+m/2)
ただし、Xは一価の陰イオンであり、n及びmについては、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0である。
【0012】
そして、その液状複合体の製造方法は、第一鉄イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンの存在下で、第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化することからなるものであって、その際の硫酸イオンと硝酸イオンの合計量が酸化後形成された第二鉄イオンの全量を両イオンで正塩を形成せしめするには不足する量であって、その両酸イオン量及び不足量は一般式で表記すると下記のとおりである。
Fe2n(NO3m(SO43-(n/2+m/2)
ただし、Xは一価の陰イオンであり、n及びmについては、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液状複合体、脱臭剤および脱臭性凝集剤は、前記したとおり優れた保存安定性を有するものであって、半年あるいはそれ以上の長期間にわたり沈殿あるいは濁り等を発生することなく保存できる性質を有するものである。そして、脱臭剤については、最も重要な特性である脱臭能に関し、この複合体中の硝酸イオン及び鉄イオンがそれぞれ硫化水素の発生抑制作用及び無害化作用を有しており、その結果下水の性状の変化に対し緩衝性があり、硝酸イオンの添加過剰及び添加不足について、厳格にコントロールする必要がなく、添加量の管理が簡便である。
【0014】
また従来技術の金属塩を添加する場合に比較し、添加量を減少させることができることから、汚泥発生量を減少させることができ、かつ鉄濃度を高くすることが可能であり、pHも高かいことからpH低下を抑制することができる。さらに必要使用量が減少することから、運搬量を減少させることができ、運送経費も減少させることもできる。以上のとおりであるから、本発明の脱臭剤を使用することにより管路施設、処理施設の腐蝕の原因となる硫化水素の発生抑制及び無害化を安価に効果的に実施することができる。次に、本発明の脱臭性凝集剤については、それは凝集剤としての本来の機能のほかに前記したすぐれた脱臭性能を有するので、従来苦慮していた下水終末施設等における排水の凝集設備及びその付帯施設における硫化水素による悪臭及び腐蝕を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この脱臭剤および脱臭性凝集剤となる液状複合体(以下単位「本複合体」という)は、第一鉄イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンの存在下で、全ての第一鉄イオンが第二鉄イオンになるまで酸化することが必要であり、重要である。その際には、硫酸イオンと硝酸イオンの合計量は、酸化後形成された第二鉄イオンの全量を両イオンで正塩を形成せしめするには、不十分な量、すなわち正塩を形成する量には、不足分のある量である。そのことは必要不可欠なことあって、かつ重要なことである。
【0016】
その典型的な製造方法は、硫酸第一鉄水溶液に硫酸及び硝酸を添加して、過酸化水素等の酸化剤を使用して、全ての第一鉄イオンが第二鉄イオンになるまで酸化する。その際には硫酸イオンと硝酸イオンの合計量は、酸化後形成された第二鉄イオンの全量を両イオンで正塩を形成せしめするには、不十分な量、すなわち正塩を形成する量には、不足分のある量である。そのことは必要不可欠なことであり、かつ重要なことである。その不足量は、前記した一般式における「Xn」であり、すなわち、第2鉄イオン1モル当たり、n/2モルである。
【0017】
そして、このようにして製造された本複合体は、硫酸第二鉄と硝酸とを水に溶解して調製した両者を含有する水溶液(以下、硫酸硝酸第二鉄と表記する)とは異なる性質を有するものであって、以下の特性を有するものである。
1)溶解度が本複合体>硝酸第二鉄の順で高いこと。
2)pHが本複合体>硫酸硝酸第二鉄>硝酸第二鉄の順で高いこと。
3)保存安定性等の安定性に優れていること。
4)脱臭能力が大きく、添加量の調節を厳格に実施する必要がなく、その結果添加量管理が簡便であること。
5)硫化水素発生抑制能については、硫酸硝酸第二鉄及び硝酸第二鉄と比べ本複合体は高いこと(pHが高いことによる)。
6)本複合体は、凝集剤としても使用可能であること。
7)本複合体は、凝集剤としても使用可能であるから、排水管路中に脱臭剤として使用しても、後に続く終末処理場等の凝集処理に弊害をもたらさないこと。
【0018】
本複合体においては、これら特性を発現するには、先の一般式において、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0であることが必要であり、好ましくは0.2<n<1.0、0.6<m<1.35、1.35<n+m≦1.8の範囲にあるのがよい。特に好ましい範囲においては、脱臭能及び保存安定性能の両者がよく、その結果長期間保存しておいても沈殿の発生がなく、保存施設の付設された配管の詰まり等を心配する必要もない。
【0019】
この本複合体の典型的な製造方法は、前記したとおりであり、第一硫酸鉄溶液からポリ硫酸鉄を製造する場合と類似するものであり、製造された複合体の性質も共通するところがある。この複合体の化学構造について言及するに、現在までのところ、その具体的構造については、確認していない。しかしながら、ポリ硫酸鉄との製法の類似性、及び硝酸イオンと硫酸イオンの合計量が第二鉄イオンと正塩を構成するには不足していること等のポリ硫酸第二鉄との共通性、かつ酸化時に前記した両酸イオン以外には、酸イオンが存在しないこと等からして、本発明者らはポリ硫酸鉄と共通する構造を持っているものと相当高い確度で推認している。
【0020】
したがって、前記した一般式においてはXはOHであると推認しており、この発明で使用する複合体は、下記の一般式で表記できるものと考えている。
Fe2(OH)n(NO3m(SO43-(n/2+m/2)
ただし、n及びmについては、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0である。
【0021】
次に製造方法について、さらに言及するに、使用する硫酸第一鉄原料としては、市販の硫酸第一鉄に限られるものではなく、四三酸化鉄、鉄粉あるいは水酸化鉄等の金属鉄あるいは酸化鉄等の鉄化合物を使用してもよく、その際には硫酸を混合して、硫酸第一鉄を形成した後硝酸を混合し、次いで酸化すればよい。また硫酸と硝酸とを同時に混合して、鉄あるいは鉄化合物を硫酸及び硝酸の両酸により溶解して、それらの塩とした後酸化してもよい。要は、硫酸と硝酸のイオン量が、第2鉄イオンに対して、前記本複合体を形成することを満たす硫酸分及び硝酸分の範囲であればよく、そのことは必要であり、重要なことである。
【0022】
酸化には、酸素、過酸化水素、塩素酸ソーダ、あるいは空気等の各種の一般的な酸化剤が使用でき、酸素による酸化の場合には、窒素酸化物を触媒として使用するのが好ましい。反応については、第一硫酸鉄水溶液を原料として、硫酸と硝酸を混合する場合には、まずこの両者を水容液に溶解し、ついで酸化剤を徐々に添加して、第一鉄を第二鉄に酸化するのがよく、酸化は過酸化水素で温度40〜60℃で行うのがよい。また、この反応は、硫酸第一鉄を酸化してポリ硫酸鉄を製造する場合の反応と同様の条件下で実施するものである。
【0023】
この複合体を脱臭剤として使用するには、下水等の排水に添加後の濃度が10〜200mg/lになるようにして使用するのがよく、好ましくは30〜100mg/lになるように添加するのがよい。また脱臭性凝集剤として使用するには、脱臭剤の場合より、高濃度になるように、添加後の濃度が200〜2000mg/lになるようにして使用するのがよく、より好ましくは300〜500mg/lになるようにして使用するのがよい。
【0024】
脱臭剤として使用する際の対象排水としては、都市下水、製紙(パルプ)工場排水、食品工場排水、屎尿処理場あるいは化学工場排水等が例示できるが、これらに限られるものではなく、要は硫黄化合物を含有する排水を移送する配管あるいはその途中にある付帯施設等において、嫌気性雰囲気なった際に硫酸塩還元菌の働きにより発生し、悪臭及び腐蝕の原因となる硫化水素の発生する排水なら区別なく使用できる。
【0025】
そして、脱臭性凝集剤として使用する際の対象排水も脱臭剤の場合と同様であり、それを凝集処理する必要がある場合に使用できる。脱臭剤として使用する場合の添加位置については、特に限定されることはなく、トイレ洗浄水タンク、各家庭等の敷地内に設置されている汚水ます、下水本管、圧送管、ポンプマス、終末処理場内の配管あるいは付帯施設のいずれでも良い。凝集剤として使用する場合には、定量ポンプで添加するのがよい。
【実施例1】
【0026】
まず本複合体の製造例、比較溶液調製例および比較複合体製造例を示し、次いで、それぞれ製造あるいは調製された本複合体、比較溶液及び比較複合体を使用して、本発明の優れた効果を実証する。
【0027】
(本複合体製造例1)
FeSO4・7H2O(795g)、95%H2SO4(14.7cc)、63%HNO3(90.6cc)、純水100ccを加え、攪拌機により200rpmで攪拌しながら、温度50℃で、35%H22をゆっくりと150cc添加し、液中の2価鉄を3価鉄に酸化した。酸化後得られた液に純水を加え全量を1lとし、本発明の脱臭剤として使用する本複合体1を得た。得られた複合体中の成分は、表1に示すとおりであり、式中のn及びmの値は、それぞれ0.72及び0.90である。
【0028】
【表1】

【0029】
(比較溶液)
一級試薬硫酸第2鉄(950g)と63%HNO3(90.6cc)とを、添加後の容量が1lに満たない純水に添加して、十分に攪拌して混合した後、最後に残りの水を混合し全量を1lにした。得られた混合後の比較溶液の組成は表1に示すとおりである。
【0030】
(本複合体製造例2ないし11)
本複合体製造例1にならい、FeSO4・7H2O、95%H2SO4、63%HNO3を表2記載の量によって調製し、本複合体2ないし11を得た。各複合体の組成(n及びm)は表4に示すとおりである。
【0031】
【表2】

【0032】
(比較複合体製造例1ないし3)
本複合体製造例1にならい、FeSO4・7H2O、95%H2SO4、63%HNO3を表2記載の量によって調製し、比較複合体1ないし3を得た。各比較複合体の組成(n及びm)は表4に示すとおりである。
【0033】
(参考例1)
塩化ビニル製パイプ(内径150mm、長さ40m)とこれに汚水を循環させるポンプ等の付属機器類を配備した循環系列を3系列設置して、試験装置とし、これに下水処理場に流入する廃水を供給した。3系列の内2系列には、本複合体1及び比較溶液をそれぞれ50mg/l添加し、残りの1系列は無添加とした。それぞれの系列について、各時間経過後毎の硫化水素濃度をヘッドスペース法、すなわち300cc三角フラスコに汚水を200cc取り、シーロンフィルムで密栓し、1分間攪拌した後の気相部の硫化水素濃度を検知管にて測定した。その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
この試験結果から、無添加の場合には、時間の経過と共に気相部の硫化水素濃度が増加することが明らかであり、24時間後には気相部の硫化水素濃度は140ppmとなる。それに比し比較溶液及び本複合体1を添加した場合には、添加後24時間経過した後も、いずれも低く抑制されており、本複合体1を添加した場合には、24時間経過後も5ppmと極端に低く抑制されている。しかしながら、比較溶液を添加した場合の24時間経過後の気相部の硫化水素濃度は30ppmであり、その抑制効果は本複合体の場合に比し相当劣っている。以上のとおりであるから、本発明は本発明に最も近い従来技術である比較溶液に比しても優れた効果を奏することがこの試験結果から明らかである。
【0036】
(参考例2)
前記した本複合体1ないし11及び比較複合体1ないし3を使用して保存安定性及び脱臭性能(脱臭効果)の両者の試験を実施した。その試験の安定性に関しては本複合体及び比較複合体の両者を6ヶ月保存した後、肉眼で観察し、濁り、析出物あるいは沈殿物の有無を確認した。安定性については実施例1と同様の試験を行い、24時間経過後の気相部における硫化水素濃度を測定した。
【0037】
その結果は、Fe3+濃度、NO3濃度及びSO4濃度、並びにn、m及びn+mのそれぞれの値とともに表4に示した。なお表4における安定性は及び脱臭性能に関する記号の意味は表5に記載のとおりである。またその結果は保存安定性を図1に、脱臭性能を図2に図示し、それに加えて、先の一般式におけるm及びnに関し、本発明の範囲を太い実線で図示した。さらにこの図中にはm及びnに関し、好ましい範囲を先の太い実線の内側に同様に太い実線で図示した。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
そして、本発明に必要な安定性及び脱臭性能の両者を発現させるには、この試験結果を示す表4における両性質の欄が、○及び△の記号であることが必要であり、その範囲は、先の一般式においては、n及びmに関し0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0であることが必要であることがわかる。また好ましい範囲は、両性質に関し○の記号が付されている範囲であり、そのためにはn及びmに関し0.2<n<1.0、0.6<m<1.35、1.35<n+m≦1.8であることが必要になることがわかる。

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例2で行った安定性に関する試験結果を図示した。また合わせてnおよびmに関し本発明の範囲及びその好ましい範囲を太い実線で図示した。
【図2】実施例2で行った脱臭性能に関する試験結果を図示した。また合わせてnおよびmに関し本発明の範囲及びその好ましい範囲を太い実線で図示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鉄イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンの存在下で、第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化して形成する液状複合体の製造方法であって、その際の硫酸イオンと硝酸イオンの合計量が酸化後形成された第二鉄イオンの全量を両イオンで正塩を形成せしめるには不足する量であって、その両酸イオン量及び不足量は一般式で表記すると下記のとおりである液状複合体の製造方法
Fe2n(NO3m(SO43-(n/2+m/2)
ただし、Xは一価の陰イオンであり、n及びmについては、0.07<n<1.2 、0.45<m<1.6、0.6<n+m≦2.0である。
【請求項2】
一般式におけるn及びmが、0.2<n<1.0、0.6<m<1.35、1.35<n+m≦1.8である請求項1記載の液状複合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−326587(P2006−326587A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184359(P2006−184359)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【分割の表示】特願平10−25155の分割
【原出願日】平成10年1月23日(1998.1.23)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】