説明

淡水化装置

【課題】従来の蒸発法による淡水化装置と比べ、高速かつ大量に淡水を生成することができる淡水化装置の提供。
【解決手段】原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を生成する淡水化装置であって、前記原水を貯留する原水タンク、および前記原水を加熱するためのヒータを有し、前記原水を加熱して加圧された水蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記水蒸気を乱流として挿通させる導管部と、前記導管部の出口から噴出した前記水蒸気を冷却して液化し、淡水を得る凝縮部とから構成され、前記水蒸気が前記導管部の出口から噴出するまで、前記水蒸気の前記乱流の状態を保持することを特徴とする淡水化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を淡水化する装置として、海水に熱を加えることで水蒸気を生成し、当該水蒸気を凝縮器によって液化することで蒸留水を得る装置がある。
また、熱を得るために太陽熱および太陽光発電などの太陽エネルギーを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第1997/048646号パンフレット
【特許文献2】特開2008−212881号公報
【特許文献3】特開2001−070929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の蒸発法による淡水化装置では、蒸発器と凝縮器とが単に配管で接続されるのみであり、水蒸気は当該配管内を層流として流れていくため、凝縮器に送られる水蒸気量は限られてしまう。このため、凝縮される水、つまり淡水の生成速度が遅いという問題があった。また、淡水化装置における水蒸気の流れについて、これまでに真空工学に基づいて考察されたことはなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は淡水の生成速度を大幅に増加させるため、凝縮器に送る水蒸気を乱流とすることによって、淡水の生成効率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(6)である。
(1)原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を生成する淡水化装置であって、
前記原水を貯留する原水タンク、および前記原水を加熱するためのヒータを有し、前記原水を加熱して加圧された水蒸気を発生させる蒸気発生部と、
前記水蒸気を乱流として挿通させる導管部と、
前記導管部の出口から噴出した前記水蒸気を冷却して液化し、淡水を得る凝縮部とから構成され、
前記水蒸気が前記導管部の出口から噴出するまで、前記水蒸気の前記乱流の状態を保持することを特徴とする淡水化装置。
(2)下記式(I)が成立するように用いることができる上記(1)に記載の淡水化装置。
【数1】


η:動的粘度(m2/sec)
P:P1とP2との平均圧力(Pa):P=(P1+P2)/2
1:入口圧力(Pa)
2:出口圧力(Pa)
L:管長(m)
d:管の直径(m)
ρ:密度(kg/m3
(3)前記ヒータは、太陽光により加熱するヒータであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の淡水化装置。
(4)前記ヒータは、電熱ヒータであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の淡水化装置。
(5)前記電熱ヒータは太陽電池により発電された電力を用いることを特徴とする上記(4)に記載の淡水化装置。
(6)さらに、前記凝縮部で液化された淡水を貯留する淡水タンクを有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の淡水化装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る淡水化装置によれば、従来の蒸発法による淡水化装置と比べ、高速かつ大量に淡水を生成することができる。また、原水が循環する配管が無く構造を単純化することができるため製造コストを抑制することができ、さらに、塩分の析出によって配管が詰まることもないため、メンテナンス性を向上させることができる。他にも、太陽エネルギーをヒータの動力とすると、電力供給を期待することができない場所でも動作させて淡水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の淡水化装置の好適態様を説明するための概略図である。
【図2】本発明の淡水化装置が備える導管部中の水蒸気の流れを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の淡水化装置について説明する。
本発明の淡水化装置は、原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を生成する淡水化装置であって、前記原水を貯留する原水タンク、および前記原水を加熱するためのヒータを有し、前記原水を加熱して加圧された水蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記水蒸気を乱流として挿通させる導管部と、前記導管部から出口から噴出した前記水蒸気を冷却して液化し、淡水を得る凝縮部とから構成され、前記水蒸気が前記導管部の出口から噴出するまで、前記水蒸気の前記乱流の状態を保持することを特徴とする淡水化装置である。
【0009】
水の浄化の本質とは、エントロピーが高い水におけるエントロピーを捨てながら、エントロピーの低い水を作ることである。
汚水は水分子以外に泥等の物理的不純物や、塩、薬品などの化学的不純物を含み、これらがエントロピーを高くしている。これらを除きながらエントロピーを下げる作業が浄化である。最終的には、水分子と低種類の分子の混合物から水分子を取り出す過程となる。
本発明では、水分子の蒸発と凝縮によって、これを達成する。
【0010】
以下に本発明の淡水化装置における好適実施態様について図を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
図1に、本発明の淡水化装置の好適実施態様である淡水化装置10を示す。
淡水化装置10は、蒸気発生部16、導管部18、凝縮部20、および淡水タンク24から構成される。また、蒸気発生部16は、原水タンク12と、ヒータ14とを有する。さらに、導管部18と凝縮部20との接続部には断熱部22が設けられ、蒸気発生部16および導管部18は断熱材23によって覆われており断熱されている。
【0012】
<蒸気発生部>
原水タンク12は原水30を貯留する。なお、本発明において原水とは、海水や、そのままでは飲用に適さない湖沼等の水を意味する。
また、原水タンク12は、後述するヒータ14によって原水30が加熱されて発生した水蒸気を、所定の圧力を保ちながら、その上部空間32に溜める。
【0013】
ヒータ14は、原水タンク12の下側面部に設けられ、貯留された原水30を加熱する。ヒータ14は、例えば、太陽光の熱線(赤外線)により媒体を加熱し、当該媒体を循環させることで熱を取り出す太陽熱ヒータでもよいし、図示しない太陽電池により発電された電力を用いて加熱する電熱ヒータでもよい。電熱ヒータを用いる場合は、太陽電池により発電される電力が不足する場合には、他の電源を用いてもよい。なお、ヒータを用いずに、原水タンク12の下部に炉を設けて燃料を燃焼させて加熱してもよい。
【0014】
<導管部>
導管部18は、原水タンク12内で生成された水蒸気を乱流の状態を保ちながら、その内部を通過させる。導管部18の内径および長さは、導管部18の入口の圧力(P1)および出口の圧力(P2)ならびに水蒸気の動的粘度(η)および密度(ρ)に基づき、乱流を保つことができる内径(d)および長さ(L)とする。例えば、原水タンク12内の上部空間32内の水蒸気の圧力(単位はPa)が0.5MPaのとき、内径(d)=0.003m、長さ(L)=0.38mとすることで、導管部18内で水蒸気を乱流として保つことができる。
【0015】
本発明では、次の式(I)が成立するように導管部の長さ(L)(単位はm)や断面直径(d)(単位はm)等を調整することで、導管部内の水蒸気を乱流に保つことが好ましい。
【0016】
【数2】

【0017】
式(I)において、ηは導管部内における水蒸気の動的粘度(単位はm2/sec)を意味する。
また、P1およびP2は、導管部の入口および出口における水蒸気の圧力(単位はPa)を意味する。
また、P=(P1+P2)/2を意味する。
また、ρは、導管部内における水蒸気の密度(単位はkg/m3)を意味する。
【0018】
<凝縮部>
凝縮部20は、導管部18から噴出した水蒸気を冷却して液化するもので、導管部18よりも十分に内径の大きい円筒状のものである。また、凝縮部20の導管部18が接続されている側と反対側の端部付近には、生成された淡水を取り出すための配管が接続され、後述する淡水タンク24に淡水34が送出される。凝縮部20の周囲(円筒部(側面))には、凝縮部20の内壁を冷却するために、図示しない冷却部が設けられている。冷却部における冷却方法には、水冷式、空冷式、油冷式等の各種の冷却方式を用いることができる。
【0019】
断熱部22は、導管部18と凝縮部20との接続部に設けられ、導管部18の熱が凝縮部20へと伝導することを防止する。断熱部22は、例えば、ウレタンフォーム等を用いることができる。
断熱材23は、原水タンク12および導管部18を覆い、水蒸気が凝縮部20に到達するまで熱のロスがないように断熱する。断熱材23は、断熱部22と同様に、例えば、ウレタンフォーム等を用いることができる。
【0020】
<淡水タンク>
淡水タンク24は、凝縮部20から送出された淡水を貯留する。
本発明の淡水化装置は、淡水タンクを有するものであることが好ましい。
【0021】
次に、図1を参照しながら本発明に係る淡水化装置の動作を説明する。
まず、原水タンク12に貯留された原水30をヒータ14で加熱する。加熱された原水30は、その一部が蒸発して水蒸気となり、原水タンク12の上部空間32に貯留される。原水タンク12は与圧されており、上部空間32の水蒸気の温度は、例えば、155℃程度となり、水蒸気の圧力は約0.5MPa程度となる。
【0022】
上部空間32の水蒸気の圧力が約0.5MPaに達すると、原水タンク12と導管部18との間に設けられた図示しないバルブが開放され、水蒸気が導管部18へと送出される。このとき、ヒータ14は、上部空間32の圧力等が上述の式(I)の条件を維持できるように出力が調整される。
【0023】
導管部18では、送出される水蒸気が乱流となり、図2に示す模式図の態様であると考える。つまり、水分子の導管部18における軸方向の速度Vzの分布は、内壁に接する僅かな部分(鞘ともいう)を除き、導管部18の径方向において一定と見做すことができる。すなわち、導管部18内を通過する水蒸気は、極めて良い近似で一次元流となると考える。
【0024】
原水タンク12から送出される水蒸気は、導管部18を通過して凝縮部20内に噴出される。凝縮部20内に噴出された水蒸気は、図1中の“A”の領域で圧力が下がり、乱流から層流へと変化し、冷却された凝縮部20の内壁に触れることで凝縮して液化し、淡水が生成される。
【0025】
<淡水タンク>
生成された淡水は、配管を通り淡水タンク24へ淡水34として貯留される。
【0026】
上記の実施形態では海水等の原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を生成する淡水化装置について説明したが、水の代わりに他の液体であっても適用可能である。本発明は、例えば、アルコール、アセトン、およびヘキサン等の有機溶媒等にも用いることができ、不純物を含んだ使用済みの液体(原液)から不純物を取り除いて純度を高めることで、再利用可能な精製液を得る液体再生装置または蒸留装置とすることができる。
その他にも、沸点の異なる混合液を分留すること等にも用いることができる。例えば、アルコール水溶液からのアルコール分留することへも適用可能である。
これらの気体処理においてはクラスター(cluster)状態の分子群を利用して、輸送効率を飛躍的に増加する事が可能となる。
【符号の説明】
【0027】
10 淡水化装置
12 原水タンク
14 ヒータ
16 蒸気発生部
18 導管部
20 凝縮部
22 断熱部
24 淡水タンク
30 原水
32 上部空間
34 淡水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を生成する淡水化装置であって、
前記原水を貯留する原水タンク、および前記原水を加熱するためのヒータを有し、前記原水を加熱して加圧された水蒸気を発生させる蒸気発生部と、
前記水蒸気を乱流として挿通させる導管部と、
前記導管部の出口から噴出した前記水蒸気を冷却して液化し、淡水を得る凝縮部とから構成され、
前記水蒸気が前記導管部の出口から噴出するまで、前記水蒸気の前記乱流の状態を保持することを特徴とする淡水化装置。
【請求項2】
下記式(I)が成立するように用いることができる請求項1に記載の淡水化装置。
【数1】

η:動的粘度(m2/sec)
P:P1とP2との平均圧力(Pa)
1:入口圧力(Pa)
2:出口圧力(Pa)
L:管長(m)
d:管の直径(m)
ρ:密度(kg/m3
【請求項3】
前記ヒータは、太陽光により加熱するヒータであることを特徴とする請求項1または2に記載の淡水化装置。
【請求項4】
前記ヒータは、電熱ヒータであることを特徴とする請求項1または2に記載の淡水化装置。
【請求項5】
前記電熱ヒータは太陽電池により発電された電力を用いることを特徴とする請求項4に記載の淡水化装置。
【請求項6】
さらに、前記凝縮部で液化された淡水を貯留する淡水タンクを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の淡水化装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−228632(P2012−228632A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96791(P2011−96791)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)
【Fターム(参考)】