説明

深孔切削用ドリル

【課題】加工終了時にスピンドルの駆動が急停止し、ドリルチューブの回転が停止してもドリルヘッドがドリルチューブ先端部から抜け落ちない深孔切削用ドリルを提供する。
【解決手段】ドリルチューブ2の先端部に取り付けられるドリルヘッド1の後部に、その後端側から第1嵌合軸部5、雄ねじ部6及び第2嵌合軸部7を前方側へ順次径大に形成し、ドリルチューブ2の先端部には第1嵌合軸部5にインロウ嵌合する第1嵌合孔部8、雄ねじ部6に螺合する雌ねじ部9、及び第2嵌合軸部7にインロウ嵌合する第2嵌合孔部10を形成してなる深孔切削用ドリルにおいて、ドリルヘッド1の第2嵌合軸部7外周面には周方向の少なくとも3箇所に突起部12を突設し、ドリルチューブ2先端部へのドリルヘッド1の取付け時にドリルヘッド1の第2嵌合軸部7がドリルチューブ2の第2嵌合孔部10に対して締まり嵌め状態にインロウ嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深孔切削に使用されるドリルに関するもので、特に、ドリルチューブの先端部に取り付けられるドリルヘッドの後部に、その後端側から第1嵌合軸部、雄ねじ部及び第2嵌合軸部を前方側へ順次径大に形成し、ドリルチューブの先端部には第1嵌合軸部にインロウ嵌合する第1嵌合孔部、雄ねじ部に螺合する雌ねじ部、及び前記第2嵌合軸部にインロウ嵌合する第2嵌合孔部を形成してなる深孔切削用ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
深孔切削装置による深孔の切削加工にあたっては、上記のようにドリルチューブの先端部にドリルヘッドを取り付けた深孔切削用ドリルを、工作機械のスピンドルの駆動軸に連結して回転させるか、又は被削材側を回転させることによって、ドリルヘッドの切削刃で被削材を切削して深孔を形成するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
深孔切削加工では、上記ようにドリル側を回転させるか、又は被削材側を回転させて、被削材に深孔を明けるわけであるが、本発明が解決しようとする課題は、ドリル側を回転させる場合の問題点である。即ち、被削材を固定した状態でドリル側を高速回転させて、深孔加工を行う際に、深孔が貫通して深孔加工が終了したとき、工作機械のスピンドルにブレーキがかかってドリルチューブの回転が急停止すると、それまで高速回転していたドリルヘッドとドリルチューブとの間に相対回転が生じてドリルチューブが逆転する状態となり、それによりドリルヘッドが緩んでドリルチューブの先端部から抜け落ちることがあり、また抜け落ちたドリルヘッドとドリルチューブとの取付部分は摩損していることが多いため、それらを再使用できなくなる、というような問題があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑み、深孔加工終了時にスピンドルの駆動が急停止して、ドリルチューブの回転が停止しても、ドリルヘッドがドリルチューブの先端部から抜け落ちることがないようにした深孔切削用ドリルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明は、ドリルチューブ2の先端部に取り付けられるドリルヘッド1の後部に、その後端側から第1嵌合軸部5、雄ねじ部6及び第2嵌合軸部7を前方側へ順次径大に形成し、ドリルチューブ2の先端部には前記第1嵌合軸部5にインロウ嵌合する第1嵌合孔部8、前記雄ねじ部6に螺合する雌ねじ部9、及び前記第2嵌合軸部7にインロウ嵌合する第2嵌合孔部10を形成してなる深孔切削用ドリルにおいて、
ドリルヘッド1の第2嵌合軸部7外周面には周方向の少なくとも3箇所に突起部12を突設し、ドリルチューブ2先端部へのドリルヘッド1の取付け時にドリルヘッド1の第2嵌合軸部7がドリルチューブ2の第2嵌合孔部10に対して締まり嵌め状態にインロウ嵌合するようにしたことを特徴とする。
【0006】
請求項2は、請求項1に記載の深孔切削用ドリルにおいて、ドリルヘッド1の第1嵌合軸部5外周面には周方向の少なくとも3箇所に突起部11を突設すると共に、第2嵌合軸部7の外周面にも周方向の少なくとも3箇所に突起部12を突設し、ドリルチューブ2先端部へのドリルヘッド1の取付け時にドリルヘッド1の第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7がドリルチューブ2の第1嵌合孔部8及び第2嵌合孔部10に対して夫々締まり嵌め状態にインロウ嵌合するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記解決手段による発明の効果を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明によれば、ドリルヘッド1は、ドリルチューブ2の先端に近い第2嵌合孔部10と嵌合する第2嵌合軸部7が突起部12によって第2嵌合孔部10に対し締まり嵌め状態にインロウ嵌合されて、ドリルチューブ2に強固に一体結合されているから、被削材を固定させた状態でドリル側を高速回転させて深孔加工を行う際には、深孔加工の終了時にスピンドルにブレーキがかかってその駆動が停止し、ドリルチューブ2の回転が停止すると、ドリルヘッド1もドリルチューブ2と一体に停止することができ、従ってドリルヘッド1がドリルチューブ2の先端部から抜け落ちることがなくなり、またドリルヘッド1及びドリルチューブ2は摩損箇所もなく、そのまま使用することができる。
【0008】
請求項2に係る発明によれば、ドリルヘッド1は、第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7の双方が突起部11,12によってドリルチューブ2の第1嵌合孔部8及び第2嵌合孔部10に対し夫々締まり嵌め状態にインロウ嵌合されているから、ドリルチューブ2に対しより強固に一体結合されることになり、従って深孔加工が終了する時のスピンドルの駆動停止時におけるドリルチューブ2先端部からのドリルヘッド1の抜け落ちを一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の好適な一実施形態を図面に基づいて説明すると、図1はドリルヘッド及びこれが取り付けられるドリルチューブの先端側部分を示す一部断面説明図であり、図2はドリルチューブ先端部にドリルヘッドが取り付けられた状態の一部断面説明図である。これらの図において、1はドリルヘッド、2はドリルチューブを示す。このドリルヘッド1とドリルチューブ2とによって深孔切削用ドリルが構成される。
【0010】
ドリルヘッド1の中空状ヘッド本体1aには先端面側に、中心側切削刃3a、外周側切削刃3b及び中間側切削刃3cが夫々取り付けられると共に、ヘッド本体1aの先端部外周には周方向2箇所にガイドパッド4が取り付けられている。そして、ヘッド本体1aの後部には、その後端側から第1嵌合軸部5、雄ねじ部6及び第2嵌合軸部7が前方側へ順次径大に形成されている。
【0011】
ドリルチューブ2の先端部には前記第1嵌合軸部5にインロウ嵌合する第1嵌合孔部8、前記雄ねじ部6に螺合する雌ねじ部9、及び前記第2嵌合軸部7にインロウ嵌合する第2嵌合孔部10が形成されている。またドリルチューブ2の先端部には第2嵌合孔部10より先端側に、第2嵌合孔部10よりも径大の広口孔部13が形成されている。
【0012】
そして、ドリルヘッド1の第1嵌合軸部5外周面には周方向の3箇所に突起部11が突設されていると共に、第2嵌合軸部7の外周面にも周方向の3箇所に突起部12を突設されていて、ドリルチューブ2先端部へのドリルヘッド1の取付け時にドリルヘッド1の第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7がドリルチューブ2の第1嵌合孔部8及び第2嵌合孔部10に対して夫々締まり嵌め状態にインロウ嵌合されるようになっている。
【0013】
上記各突起部11は、第1嵌合軸部5の外周面の略120度間隔おきに形成され、また上記各突起部12は、第2嵌合軸部7の外周面の略120度間隔おきに形成されている。この場合、第1嵌合軸部5側の突起部11と第2嵌合軸部7の突起部12とは、図1に示すように互いに軸方向に重ならず、周方向に互いに離れた位置に設けてあることにより、突起部11と突起部12とが軸方向に重なる場合に比べて、ドリルチューブ2に対するドリルヘッド1のインロウ嵌合操作が容易となる。
【0014】
各突起部11,12は、マーキング用のポンチを使用して第1及び第2嵌合軸部5,7の外周面の所定箇所に打ち込みを入れることにより形成される。図3の(a) は図1の矢印Aで示す部分の拡大図、(b) は(a) のB−B線断面図であって、特に(b) から分かるように、上記ポンチの先端部を第1嵌合軸部5外周面の所定箇所に垂直に当ててハンマーで打つと、その外周面所定箇所に凹部Oが形成されると同時に、凹部Oの周縁部が隆起することになり、この隆起部が突起部11となる。第2嵌合軸部7の突起部12も、突起部11と同様な方法で形成される。
【0015】
各突起部11,12の嵌合軸部5,7外周面からの突出高さは、第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7がドリルチューブ2の第1嵌合孔部8及び第2嵌合孔部10に対して夫々十分に締まり嵌めされ得る程度の高さであって、例えば数十ミクロンとされる。
【0016】
図2は、上記のように第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7に突起部11,12を突設したドリルヘッド1をドリルチューブ2の先端部に取り付けた状態を示したもので、ドリルヘッド1の下部側をドリルチューブ2の先端部に嵌め入れると、先ず、ドリルヘッド1の雄ねじ部6がドリルチューブ2の雌ねじ部9に螺合し、その螺合の途中で第1嵌合軸部5が第1嵌合孔部8にインロウ嵌合しながら前記突起部11により締まり嵌め状態になると共に、第2嵌合軸部7が第2嵌合孔部10にインロウ嵌合しながら前記突起部12により締まり嵌め状態となって、最終的にドリルヘッド1がドリルチューブ2に対し強固に一体結合された状態となる。
【0017】
上記のようにドリルチューブ2の先端部に取り付けられたドリルヘッド1は、第1嵌合軸部5及び第2嵌合軸部7が突起部11,12によってドリルチューブ2の第1嵌合孔部8及び第2嵌合孔部10に対し夫々締まり嵌め状態にインロウ嵌合されて、ドリルチューブ2に対し強固に一体結合されるため、被削材を固定した状態でドリル側を高速回転させて深孔加工を行う際に、深孔加工終了時にスピンドルの駆動が停止してドリルチューブ2の回転が停止すると、ドリルヘッド1もドリルチューブ2と一体に停止することができ、従ってドリルヘッド1がドリルチューブ2の先端部から抜け落ちることがなくなり、またドリルヘッド1及びドリルチューブ2は摩損箇所もないため、そのまま使用することができる。
【0018】
図1及び図2に示す実施形態では、第1嵌合軸部5の外周面及び第2嵌合軸部7の外周面に夫々周方向3箇所の各箇所に1つずつの突起部11,12を突設しているが、図4には、第1嵌合軸部5の外周面及び第2嵌合軸部7の外周面に夫々周方向3箇所の各箇所に2つ以上複数の突起部11,12を突設した実施形態を示している。
【0019】
また、図1〜図4に示す実施形態では、第1嵌合軸部5と第2嵌合軸部7との両方に突起部11,12を突設しているが、ドリルチューブ2の先端側に近い第2嵌合孔部10とインロウ嵌合するドリルヘッド1の第2嵌合軸部7のみに突起部11を突設しても、その突起部11による締まり嵌め効果を十分発揮することができる。
【0020】
また、突起部11,12は、嵌合軸部5,7外周面の全周にわたるように設けてもよいが、本実施形態に示すように、嵌合軸部5,7外周面の3箇所にほぼ均等な間隔で設ければ、十分に効果を発揮することができる。
【0021】
また、図1〜図4に示す実施形態では、突起部11,12は、マーキング用のポンチを使用して嵌合軸部5,7の外周面に打ち込みを入れるポンチ加工により形成しているが、突起の形成については、ポンチ加工の他に、ローレット加工やレーザーマーキング加工によって形成することができる。
【0022】
図5の(a) ,(b) には、ドリルヘッド1の第2嵌合軸部7にローレット加工により突起部12を形成した例を概略的に示す。即ち、これは、第2嵌合軸部7の外周面の所要箇所にギザギザのローラーを押し付けて転造により斜め格子状の凹溝を形成すると同時にその凹溝の形成によって膨らんだ部分を突起部12としたものである。また、図5の(b) は、第2嵌合軸部7の外周面の所要箇所に歯車状のローラーを押し付けてその転造により軸方向の格子状溝を形成すると同時にその格子状溝の形成によって膨らんだ部分を突起部12としたものである。
【0023】
また、レーザーマーキング加工による突起部の形成については、例えば第2嵌合軸部7の外周面所要箇所にレーザーの照射によって小さな凹部を形成すると同時に、その凹部の周囲を隆起させて、その隆起した部分によって突起部を形成する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ドリルヘッド及びこれが取り付けられるドリルチューブの先端側部分を示す一部断面説明図である。
【図2】ドリルチューブ先端部にドリルヘッドが取り付けられた状態の一部断面説明図である。
【図3】ポンチ加工によって嵌合軸部外周面に突起部を形成した実施形態を示すもので、(a) は図1の矢印Aで示す部分の拡大図、(b) は(a) のB−B線断面図である。
【図4】第1及び嵌合軸部の外周面に突起部を形成した他の実施形態を示す正面図である。
【図5】(a) ,(b) は、ローレット加工によって嵌合軸部外周面に突起部を形成した実施形態の正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ドリルヘッド
2 ドリルチューブ
5 第1嵌合軸部
6 雄ねじ部
7 第2嵌合軸部
8 第1嵌合孔部
9 雌ねじ部
10 第2嵌合孔部
11 突起部
12 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリルチューブの先端部に取り付けられるドリルヘッドの後部に、その後端側から第1嵌合軸部、雄ねじ部及び第2嵌合軸部を前方側へ順次径大に形成し、ドリルチューブの先端部には前記第1嵌合軸部にインロウ嵌合する第1嵌合孔部、前記雄ねじ部に螺合する雌ねじ部、及び前記第2嵌合軸部にインロウ嵌合する第2嵌合孔部を形成してなる深孔切削用ドリルにおいて、
ドリルヘッドの第2嵌合軸部外周面には周方向の少なくとも3箇所に突起部を突設し、ドリルチューブ先端部へのドリルヘッドの取付け時にドリルヘッドの第2嵌合軸部がドリルチューブの第2嵌合孔部に対して締まり嵌め状態にインロウ嵌合するようにした深孔切削用ドリル。
【請求項2】
ドリルヘッドの第1嵌合軸部外周面には周方向の少なくとも3箇所に突起部を突設すると共に、第2嵌合軸部の外周面にも周方向の少なくとも3箇所に突起部を突設し、ドリルチューブ先端部へのドリルヘッドの取付け時にドリルヘッドの第1嵌合軸部及び第2嵌合軸部がドリルチューブの第1嵌合孔部及び第2嵌合孔部に対して夫々締まり嵌め状態にインロウ嵌合するようにした請求項1に記載の深孔切削用ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−99773(P2010−99773A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272829(P2008−272829)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(390033330)ユニタック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】